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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1368652
審判番号 不服2019-13690  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-11 
確定日 2020-11-26 
事件の表示 特願2016- 1855「繊維強化熱可塑性樹脂部材の接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月13日出願公開,特開2017-121750〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年 1月 7日に出願された特願2016-1855号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成31年 4月12日付け:拒絶理由通知
令和 1年 7月 2日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 1年 7月 9日付け:拒絶査定
令和 1年10月11日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
令和 1年 7月 2日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「 熱可塑性樹脂と前記熱可塑性樹脂中にランダムに配向された繊維とを含む繊維強化熱可塑性樹脂部材である,第一部材及び第二部材について,前記第一部材の端部を前記第二部材の表面の一部につき合わせて形成された前記第一部材の端部と前記第二部材との接触面の長手方向に沿って,前記第一部材及び前記第二部材の少なくとも一方を振動させ,前記第一部材と前記第二部材とを振動溶着により接合し,前記熱可塑性樹脂はポリプロピレン樹脂であり,前記繊維はガラス繊維である繊維強化熱可塑性樹脂部材の接合方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2013/084963号
2.米国特許出願公開第2005/0230025号明細書

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項(訳文は当審で付加。)



「[0025] One of the more common polymer welding techniques is vibration welding Most vibration welding is carried out using the standard linear vibration welding technique, illustrated schematically in FIGS. 1A and 1B. FIG.1A shows two parts 110a and 120a prior to welding, and the same parts 110b and 120b after welding. The two parts are brought together under a clamping force; this force divided by the common surface area between the parts is referred to as the weld pressure. As shown in FIG. 1A, one part 110a is then vibrated parallel to the common interface of the two parts; that is, in the x or y plane of the weld joint, at a frequency of about 100 to 250 Hz at an amplitude of about 1 to 2 mm, while the second part 120a is prevented from moving in the direction of vibration. In the example of FIG. 1A, the vibration direction is shown by the arrow 130 and is in the y plane or direction of the weld joint (see the x,y,z coordinate system depicted in FIG. 1A). Friction and viscous dissipation at the interface melts the polymer and creates a film of molten material 140 between the two parts. The weld pressure forces molten polymer from the film, referred to as flash 150, and the two parts come together.」(より一般的なポリマーの溶着技術のうちの1つは振動溶着である。振動溶着は,FIG.1A及び1Bに概略的に示されるように,標準的な線形振動技術を用いて行われる。FIG.1Aに示すように,第一部材110aは,2つの部材の共通界面; すなわち,溶着部のxまたはy平面内, に平行に100-250Hzの周波数,1-2mmの振幅で振動し,一方,第二部材120aは振動方向に動くことが防止される。FIG.1Aの例では,振動方向は矢印130で示され,溶着接合部のy方向(FIG.1Aに示すx,y,z座標系を参照)である。界面での摩擦及び粘性消散はポリマーを溶融し,2つの部材の間に溶融材料のフィルム140を生成する。溶着圧力は,フィルムから,フラッシュ150aと呼ぶ溶融ポリマーを引き出し,二つの部品を一つにする。)
「[0034] The addition of particulate reinforcing material to neat polymer is a common means of modifying polymer properties such as strength. Glass fibers are commonly used in various forms such as continuous bundles of fibers, woven fabrics, and chopped fibers.」(ニートポリマーに粒子強化材を添加することは,強度のようなポリマーの性質を変更する一般的な手段である。ガラス繊維は,連続繊維束,織布,及び短繊維などの様々な形態で広く使用されている。)
「[0053] The invention is applicable to welding of any reinforced thermoplastic material. Such materials can be generally classified as amorphous polymers, semi-crystalline polymers, and blends of amorphous and semi-crystalline polymers. Examples of amorphous polymers include, but are not limited to,polystyrene, polyvinylchloride, acrylonitrile-butadienne-styrene, acrylonitrile-styrene-acrylic, polycarbonate (PC), modified polyphenylene oxide(M-PPO), and polyetherimide. Examples of semi-crystalline polymers include, but are not limited to, polyolefins such as polypropylene and polyethylene, poly(butylene terephthalate), and polyamides (PA) such as nylon 6 (PA 6) and nylon 66 (PA 66).」(本発明はどんな強化熱可塑性材料の溶着にも適用可能である。このような材料は、一般に、非晶質ポリマー、半結晶性ポリマー、ならびに非晶質および半結晶質ポリマーのブレンドとして分類することができる。非晶質ポリマーの例としては、限定されないが、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-スチレン、アクリロニトリル-スチレン-アクリル、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンオキサイド(M-PPO)、およびポリエーテルイミドが挙げられる。半結晶性ポリマーの例は、限定されるものではないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(ブチレンテレフタラート)およびポリアミド(PA)などのナイロン6(PA 6)及びナイロン66(PA 66)のようなポリオレフィン。)を含む。)
「[0054] As used herein, the terms "reinforcing particle(s)" and "reinforcing fiber(s)" refer to any particulate reinforcing material added to a polymer to improve its strength.」(ここで使用される場合,用語“強化粒子”及び“強化繊維”は,ポリマーの強度を向上させるために加えられるあらゆる粒子強化材を意図する。)
「[0055] Reinforced polymer parts to be welded according to the invention maybe produced by any process known in the art, such as, for example, injection moulding, extrusion, compression moulding, thermoforming, and machining (e.g.,from a blank).」(本発明によって溶着される強化ポリマー部品は任意の公知の方法で製造することができ,例えば,射出成形,押出成形,圧縮成形,熱成形,及び機械加工(例えば,ブランクより)である。)
「2. A method for increasing the strength of a particle-reinforced polymer weld joint, comprising:
providing a molten film of polymer at a weld plane of the joint; and
increasing randomness of orientation of all or a portion of the reinforcing particles in the molten film;
wherein said increased randomness of particle orientation increases the strength of the welded joint.」(2. 粒子強化ポリマー溶着接合部の強度を上昇させる方法であって,
接合部の溶着面に溶融フィルムを供給し:
溶融フィルム内の全て又は一部の強化粒子の配向のランダムさを上昇させ;
前記粒子配向のランダムさの上昇によって,溶着接合部の強度を上昇する)
「28. The method of claim 2, wherein the molten film is provided by vibration welding.」(溶融フィルムは振動溶着により得られる,請求項2に記載の方法。)
「36. The method of claim 2, wherein the reinforcing particles are reoriented by providing an oscillation to the molten film, the oscillation being substantially perpendicular to the weld plane.」(強化粒子は溶融フィルムへの溶着面への実質的垂直な振動の供給により再配向される,請求項2の方法。)
「44. The method of claim 2, wherein the reinforcing particle is glass fiber」(強化粒子はガラス繊維である,請求項2の方法。)

(2)引用文献2に記載の発明
引用文献2には,上記記載から,請求項2を引用する請求項44に係る発明の一態様として以下の発明が記載されていると認める(以下,「引用発明」という。)。
「ガラス繊維が強化粒子として加えられた強化熱可塑性樹脂材料よりなる,第一部材及び第二部材について,2つの部材の共通界面の長手方向に沿って,前記第一部材を振動させて溶融フィルムを生成し,溶融フィルムの溶着面へ垂直に振動を供給して強化粒子の配向のランダムさを上昇させることにより,溶着接合部の強度を上昇させる方法。」

2 引用文献1の記載事項(下線は当審で付与した。)
「[0018] 不連続の炭素繊維の場合,炭素繊維は複合材料中で炭素繊維束の状態で存在していてもよく,また炭素繊維束と単糸の状態が混在していることも好ましい。不連続の炭素繊維は複合材料中で面内方向において2次元ランダム的に配置されていることも好ましい。不連続の炭素繊維が2次元ランダムに配置されていることにより,炭素繊維複合材料及びそれからなる接合部材は面内方向において力学的に等方性を有するので,面内方向では機械的強度及びそのバランスに優れる(以下,「ランダム材」と称することがある)。
[0019] このような炭素繊維複合材料は主に炭素繊維が平面方向に広がっており,厚み方向へ向いている炭素繊維は比較的少ない。したがって後述のように端面で溶着すると炭素繊維が差し込まれる状態になり,さらに溶融させて振動させることにより炭素繊維が絡み合い高い強度が発現されると考えられる。
本発明においては,接合するために用いる上記炭素繊維複合材料の少なくとも一方が,上記ランダム材を1枚または複数枚重ねたものが好ましい。ランダム材は,接合時に他方のランダム材中の炭素繊維と絡みやすいので接合強度に優れる。他方の炭素繊維複合材料は,炭素繊維が織物または編物または一方向材といった連続繊維であってもよく,二次元ランダムでない不連続繊維を含むものであってもよい。より好ましくは,一方および他方ともランダム材を用いるのがよい。また,上記ランダム材の片面または両面に,1層以上の前記連続繊維からなる編物や織物を含む繊維シートや一方向材を積層したものを用いてもよい。」
「[0026] [接合部材]
本発明における接合部材は,上記炭素繊維複合材料が2以上組み合わされてなるものであって,上述した平板状の接合部材1に限られるものではない。
また,用いられる炭素繊維複合材料の形状はその用途,接合部位に合わせたものとなる。例えば平板など,炭素繊維複合材料からなる2枚の平板の厚み面同士を接合したものや,平板を組み合わせた箱形状などであってもよい。図2に示すように,1枚の平板状の炭素繊維複合材料の平面に1枚以上の炭素繊維複合材料の厚み側面を接合してリブ立て補強した形状の接合部材が挙げられる。あるいは1枚の平板の平面に接合させる複合材料として,接合面が平面である円柱状等の材料であってもよい。振動溶着を行う際には,均一に炭素繊維複合材料同士が当たるように接合面が振動することが重要であり,接合面は曲面であってもよい。接合面は平面であることが好ましく,接合面が平面であると,接合面をあらかじめ軟化するまで加熱しているため接合面を当てて振動を与える際には接合面は塑性変形して均一に当たるため好ましい。」




第5 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「ガラス繊維が強化粒子として加えられた強化熱可塑性樹脂材料よりなる,第一部材及び第二部材」は,本願発明の「熱可塑性樹脂と前記熱可塑性樹脂中」の「繊維とを含む繊維強化熱可塑性樹脂部材である,第一部材及び第二部材」に相当し,さらに本願発明の「前記繊維はガラス繊維」」を満たす。
引用発明の「2つの部材の共通界面」は,本願発明における「第一部材」と「第二部材」との「接触面」に相当する。
引用発明の「溶着接合部の強度を上昇させる方法」は,第一部材を第二部材に対して振動させて溶着接合部を形成するものであるから,本願発明の「振動溶着」による「強化熱可塑性樹脂部材の接合方法」に相当する。

したがって,本願発明と引用発明は以下の点で一致する。
「熱可塑性樹脂と前記熱可塑性樹脂部材中の繊維とを含む繊維強化熱可塑性樹脂部材である,第一部材及び第二部材について,前記第一部材と第二部材との接触面の長手方向に沿って,前記第一部材を振動させ,前記第一部材と前記第二部材とを振動溶着により接合し,前記繊維はガラス繊維である繊維強化熱可塑性樹脂部材の接合方法。」

他方,本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
<相違点1>
第一部材と第二部材との接触面について,本願発明は「前記第一部材の端部を前記第二部材の表面の一部につき合わせて形成された」ものと特定するのに対し,引用発明はこのような特定を有しない点。

<相違点2>
熱可塑性樹脂について,本願発明は「ポリプロピレン樹脂」であることを特定するのに対し,引用発明はこのような特定を有しない点。

<相違点3>
強化熱可塑性樹脂中のガラス繊維について,本願発明は「ランダムに配向された」ことを特定するのに対し,引用発明はこのような特定を有しない点。

上記相違点について検討する。
<相違点1について>
引用発明の一実施態様である引用文献2のFIG.1Aで示される110aと120aの接触の態様は,直方体110aの一つの端面を直方体120aの表面の一面につき合わせて接触させるものである。
さらに,引用文献1には,上記第4の2のとおり,繊維複合材料を接合する際に,一方の部材の端部を他方の部材の表面の一部へとつき合わせることが記載されている([0026],[図2])。
このように,相違点1に係る構成は,引用文献1や引用文献2に記載されるように従来から普通に知られている。
そうすると,引用発明の2つの部材の共通界面を,「前記第一部材の端部を前記第二部材の表面の一部につき合わせて形成された」面とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

<相違点2について>
上記第4の1(1)のとおり,引用発明の強化熱可塑性樹脂材料について,引用文献2の[0053]にはプロピレンを用いることが例示されており,引用発明の強化熱可塑性樹脂材料の熱可塑性樹脂にプロピレンを選択することは当業者が容易に想到し得ることである。

<相違点3について>
引用文献1の[0018]ないし[0019]に記載されるように,振動溶着を行う炭素繊維複合材料は,ランダム材を用いた場合に機械的強度及びそのバランスが優れること,また,接合時に接合強度が優れることは公知の技術である。そして,ランダム材を用いることによるこれらの効果は,炭素繊維複合材料に限ることなく,他の繊維複合材料においても成り立つことが技術的に明らかである。
してみると,上記効果の発揮を目的として,引用発明のガラス繊維が加えられた強化熱可塑性樹脂材料をランダム材とすること,すなわち,ガラス繊維をランダムに配向することは当業者が容易に想到し得ることである。

したがって,本願発明は,引用発明及び引用文献1に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである。

審判請求人は審判請求書において,下記1及び2を旨とする主張をする。
1.引用文献2には,熱可塑性樹脂中にランダムに配向された繊維を含む第一部材及び第二部材について,第一部材の端部と第二部材との接触面の長手方向に沿って,前記第一部材及び第二部材の少なくとも一方を振動させることで(溶接面に垂直な振動は必須とせずに)接合強度を高める方法,が記載も示唆もされていない。
2.本願発明は,熱可塑性樹脂がポリプロピレンであることにより耐熱性が高く,繊維がガラス繊維であることにより流動性が高く溶着品質が確保しやすいという有利な効果がある。

上記主張について検討する。
まず,上記1の主張について検討するに,本願発明は,請求項1に記載されたとおりのものであって,溶接面に垂直な振動を必須としない旨を特定するものではない。すなわち,本願発明は,溶接面に垂直な振動を付加するような構成を排除するものではなく,したがって,本願発明と引用発明とを対比する際に,この点の有無が相違点とはならない。
次に,上記2の主張について検討するに,審判請求人が主張する有利な効果は本願明細書に記載されておらず,また当業者に自明なものともいえない。
したがって,審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-25 
結審通知日 2020-09-29 
審決日 2020-10-12 
出願番号 特願2016-1855(P2016-1855)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲来▼田 優来  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 神田 和輝
加藤 友也
発明の名称 繊維強化熱可塑性樹脂部材の接合方法  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  

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