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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01N
管理番号 1368709
審判番号 不服2020-5629  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-24 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2018-686「消音装置」拒絶査定不服審判事件〔令和1年7月22日出願公開、特開2019-120198、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成30年1月5日に出願され、令和元年12月5日付け(発送日:同年12月10日)で拒絶理由が通知され、令和2年2月4日に意見書の提出及び手続補正がされ、令和2年2月17日付け(発送日:同年2月25日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年4月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和2年2月4日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願発明1ないし5という。」)は、次のとおりである。

「【請求項1】
車両のエンジンからの排気流路に設けられ、マフラを有する消音装置であって、
前記マフラの内部の消音空間を覆うよう構成された外壁であって、前記消音空間の第1端部から第2端部にわたって延びる筒状に構成されたシェルと、前記第1端部を覆うよう構成された板状の部材である第1エンドプレートと、前記第2端部を覆うよう構成された板状の部材である第2エンドプレートと、を備える外壁と、
前記第1エンドプレートに対面した状態で配置され、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第1セパレータと、
前記第2エンドプレートと前記第1セパレータとの間で、前記第2エンドプレートに対面した状態で配置され、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第2セパレータと、
前記消音空間における前記第1及び第2セパレータの間の部分を中間空間とし、前記シェルにおける前記中間空間を覆う部分に設けられた外壁穴部に挿入された状態で設けられ、前記中間空間と前記マフラの外部空間とを繋ぐよう構成されたマフラパイプと、
貼付部材穴部を有する板状の部材であって、前記シェルの外面に沿って配置されると共に、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部に挿入され、且つ、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部を囲む接続部に固定されるよう構成された貼付部材と、を備え、
前記シェルの外面において、前記第1セパレータの接続部に対面する領域よりも前記第1端部側に位置する領域を第1領域とすると共に、前記第2セパレータの接続部に対面する領域よりも前記第2端部側に位置する領域を第2領域とし、
前記貼付部材は、少なくとも、前記シェルの外面における前記第1領域と前記第2領域とに、溶接により接合され、
前記貼付部材における前記第1領域にはみ出した部分は、前記第1セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合され、
前記貼付部材における前記第2領域にはみ出した部分は、前記第2セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合される
消音装置。
【請求項2】
請求項1に記載された消音装置において、
前記外壁は、前記第1端部から前記第2端部にわたって延び、当該外壁の伸長方向に直交する断面が楕円形状である柱状に構成されている
消音装置。
【請求項3】
請求項2に記載された消音装置において、
前記外壁の外面において、前記断面の短径方向に沿って広がる部分を短径領域とし、
前記外壁穴部は、当該外壁穴部の少なくとも一部が前記短径領域に位置するように設けられる
消音装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載された消音装置において、
支持部材穴部を有する板状の部材であって、前記マフラパイプが前記支持部材穴部に挿入された状態で前記中間空間に配置される支持部材をさらに備え、
前記支持部材は、前記外壁の内側に接合され、
前記支持部材穴部を囲む接続部は、前記マフラパイプの側面を支持するよう構成される
消音装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載された消音装置において、
前記貼付部材は、四角形状の部材であり、
少なくとも前記貼付部材における4つの角部のうちの2つが前記第1領域に溶接により接合され、残りの2つが前記第2領域に溶接により接合される
消音装置。」

第3.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。

本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1ないし5
・引用文献等 1ないし3
1.国際公開第2014/109389号
2.特開2008-115799号公報
3.米国特許第3703938号明細書

第4.引用文献、引用発明
1.原査定の拒絶の理由に引用した国際公開第2014/109389号(以下、「引用文献1」という。)には、「インレットパイプの配設方法、及び支持方法」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)「技術分野
[0002] 本発明は、車両用のマフラーにおけるインレットパイプの配設方法、及び支持方法に関する。」
(2)「[0033] [第1実施形態]
図1に示されるマフラー10は、車両に搭載される内燃機関(図示省略)からの排気ガスをその車両の外部に排出する排気系の一部を構成し、排気音を低減する機能を有する。
[0034] マフラー10は、アウタシェル11と、エンドプレート12,13と、セパレートプレート14,15,16と、インレットパイプ17と、インナーパイプ18と、アウトレットパイプ19と、バルブアッセンブリ22とを備える。
[0035] アウタシェル11は、マフラー10の本体を構成する部材であり、扁平断面(図2A参照)を有する筒状に形成されている。アウタシェル11自体は、その両端が開口している。
[0036] エンドプレート12,13は、アウタシェル11の両端の開口を閉塞する部材である。エンドプレート13には、アウトレットパイプ19が挿通するための開口が形成されている。
[0037] セパレートプレート14,15,16は、アウタシェル11の内部空間を複数の空間(以下、消音室と称する)に分割するためのプレートである。本第1実施形態では、セパレートプレート14,15,16によって、アウタシェル11の内部空間が4つの消音室R1,R2,R3,R4に分割されている。セパレートプレート14,15,16のうち、セパレートプレート14にはバルブアッセンブリ22が取り付けられている。バルブアッセンブリ22については後述する。
[0038] セパレートプレート14,15,16のうち、セパレートプレート15には複数の孔15aが形成されている(図2A参照)。このため、インレットパイプ17を介して消音室R2,R3に流入した排気ガスは、セパレートプレート15の孔15aを介して消音室R2,R3内を流動し得る。
[0039] インレットパイプ17は、車両の内燃機関からの排気ガスをアウタシェル11の内部に流入させるためのパイプである。本第1実施形態では、インレットパイプ17は略L字状をなしており、両端はともに開口している。インレットパイプ17の両端のうち、アウタシェル11の外側に突出した一端17aは、排気系を構成するエキゾーストパイプ(図示省略)と接続される。
[0040] インレットパイプ17の他端17bはアウタシェル11の内部に連通している。具体的には、インレットパイプ17の他端17bは、セパレートプレート15により支持されつつ消音室R2に連通している。インレットパイプ17の管壁には複数の孔17cが設けられており、排気ガスは孔17cからもアウタシェル11の内部(具体的には消音室R3内)に拡散し得る。
[0041] 本第1実施形態では、インレットパイプ17には後述のブラケット50(図4参照)が溶接により取り付けられているが、図1ではブラケット50の図示を省略している。
[0042] インナーパイプ18は、インレットパイプ17を介してアウタシェル11の内部に流入する排気ガスを複数の消音室に拡散するためのパイプである。インナーパイプ18の両端は開口しており、インナーパイプ18の一端18aは消音室R2に連通しており、インナーパイプ18の他端18bは消音室R1に連通している。インナーパイプ18は、セパレートプレート16に形成された開口を挿通してそのセパレートプレート16において支持されている。」
(3)「[0046] インレットパイプ17の配設状態について、図2A,2Bを用いてさらに説明する。
アウタシェル11は、図2Aに示されるように扁平断面を有している。なお、扁平断面における2箇所の湾曲部の曲率は同一ではなく、インレットパイプ17が配設される側の曲率は相対的に大きくなっており、アウトレットパイプが配設される側の曲率は相対的に小さくなっている。
[0047] インレットパイプ17は、一端17aが扁平断面における湾曲した部分から挿通するように配設され、また、アウタシェル11に対して斜めに配設される。そして、インレットパイプ17は、溶接に必要な肉厚を確保するための部材であるパッチ23を介してアウタシェル11に溶接される。パッチ23は、図2Bに示されるように、インレットパイプ17の一端17aを囲むように配設される。」
(4)「[図1]


(5)「[図2A-2B]



(6)前記(1)ないし(3)に摘記した事項及び前記(4)及び(5)の図示内容を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

《引用発明》
「車両に搭載される内燃機関からの排気ガスをその車両の外部に排出する排気系の一部を構成し、排気音を低減する機能を有するマフラー10であって、
前記マフラー10は、アウタシェル11と、エンドプレート12,13と、セパレートプレート14,15,16と、インレットパイプ17と、インナーパイプ18と、アウトレットパイプ19と、バルブアッセンブリ22とを備え、
前記アウタシェル11は、前記マフラー10の本体を構成する部材であり、扁平断面を有する筒状に形成されており、その両端が開口しており、
前記エンドプレート12,13は、前記アウタシェル11の両端の開口を閉塞する部材であり、
前記セパレートプレート14,15,16は、前記アウタシェル11の内部空間を複数の空間(以下、消音室と称する)に分割するためのプレートであり、前記セパレートプレート14,15,16によって、前記アウタシェル11の内部空間が4つの消音室R1,R2,R3,R4に分割されており、
前記インレットパイプ17は、車両の内燃機関からの排気ガスを前記アウタシェル11の内部に流入させるためのパイプであって、略L字状をなしており、前記アウタシェル11の外側に突出した一端17aは、排気系を構成するエキゾーストパイプと接続され、他端17bは、前記セパレートプレート15により支持されつつ消音室R2に連通しているとともに、前記インレットパイプ17の管壁には複数の孔17cが設けられており、排気ガスは孔17cからもアウタシェル11の消音室R3内に拡散し得るようになっており、
前記インレットパイプ17は、一端17aが前記アウタシェル11の扁平断面における湾曲した部分から挿通するように配設され、溶接に必要な肉厚を確保するための部材であって、前記インレットパイプ17の一端17aを囲むように配設されるパッチ23を介して前記アウタシェル11に溶接される、
マフラー10。」

2.原査定の拒絶の理由に引用した特開2008-115799号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「車両用マフラ」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用マフラに関する。」
(2)「【0009】
先ず、全体構成を説明する。
図1?3に示すように、本実施例1の車両用マフラでは、マフラ本体1と、インレットパイプ2(請求項の排気管に相当)と、補強兼隙間閉塞部材3と、ステイ4と、アウトレットパイプ5が備えられている。
【0010】
マフラ本体1は、それぞれ対向配置された一対の小R部11a、11bとこれら小R部11a、11bよりも大きな曲率を有する大R部11c、11dとから構成される偏平断面を有して筒状に形成されたシェル11と、このシェル11の両端開口部を閉塞するエンドプレート12,13と、シェル11内の仕切部材と補強部材を兼ねるバッフルプレート14?17とから構成され、これにより、マフラ本体1内は、4枚のバッフルプレート14?17により、5つの消音室1a?1eに仕切られている。
また、各バッフルプレート14?17には、それぞれ隣接する消音室1a?1e同士を連通状態とする多数の小孔(図示せず)が設けられる他、バッフルプレート15には、排気圧感応型のバルブ15aが設けられている。
【0011】
図2、3に示すように、インレットパイプ2は、シェル11の小R部11aに下方へ傾斜した状態でマフラ本体1内に挿入配置されている。
小R部11aには、マフラ本体1内の消音室1bに連通した状態で、インレットパイプ2の外径よりも大きな貫通穴11eが開けられると共に、この貫通穴11eを貫通した状態でインレットパイプ2が後述する補強兼隙間閉塞部材3を介して挿通されている。
【0012】
補強兼隙間閉塞部材3は、インレットパイプ2と小R部11aに開けられた貫通穴11cとの間の隙間を閉塞してシェル11とインレットパイプ2との間を連結固定する役目をなすものであり、シェル11の外側におけるインレットパイプ2の外周面に対し密に接する円筒部31と、この円筒部31に連続して外向きに突出し、シェル11の外面に沿った断面円弧状のフランジ部32とから構成されている。
【0013】
そして、補強兼隙間閉塞部材3のフランジ部32は、シェル11の外面に対しその周縁が図示を省略する溶接で固定される他、円筒部31はインレットパイプ2の外周面に対しその全周に亘って図示を省略する溶接で固定されている。」
(3)「【図1】


(4)「【図2】


(5)「【図3】



(6)前記(1)及び(2)に摘記した事項及び前記(3)ないし(5)の図示内容を踏まえると、引用文献2には、次の二つの事項(以下、「引用文献2事項1」及び「引用文献2事項2」という。)が記載されているといえる。
《引用文献2事項1》
偏平断面を有して筒状に形成されたシェル11の両端開口部を閉塞するエンドプレート12,13と、シェル11内の仕切部材と補強部材を兼ねるバッフルプレート14?17により、5つの消音室1a?1eに仕切られているマフラ本体1内の消音室1bに連通した状態で、インレットパイプ2が補強兼隙間閉塞部材3を介して挿通されていること。

《引用文献2事項2》
前記補強兼隙間閉塞部材3のフランジ部32は、シェル11の外面に対しその周縁が溶接で固定される他、円筒部31はインレットパイプ2の外周面に対しその全周に亘って図示を省略する溶接で固定されていること。

3.原査定の拒絶の理由に引用した米国特許第3703938号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、「EXHAUST MUFFLER」(当審訳:排気マフラ)の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)「In FIGS. 5 to 7, inclusive, a muffler 10a is shown which is functionally and structurally quite similar to the previously described muffler 10. The muffler 10a includes a housing 12a of oval cross sectional shape having end closure members 14a and 16a. Exhaust gases from an internal combustion engine (not shown) are received by an inlet conduit 18a and directed against the upper, outer peripheral surface of a tube-like section 20a of substantially cylindrical cross sectional shape. The hollow cylindrical section 20a is supported within the housing 12a by suitable baffle plates 22a and 26a. The supporting baffle 22a, like the previously described member 22, terminates short of the bottom surface of the housing 12a.」(3欄15ないし29行)
(当審訳:図5から図7を含めて、先に説明したマフラー10と機能的にも構造的にも極めて類似しているマフラー10aが示されている。マフラー10aは、端部閉鎖部材14a、16aを有する楕円形断面形状のハウジング12aを含む。内燃機関(図示せず)からの排気ガスは、入口導管18aによって受け取られ、実質的に円筒形の断面形状の中空円筒形セクション20aの上部、外周面に対して向けられる。中空円筒状セクション20aは、適当なバッフルプレート22a、26aによってハウジング12a内に支持されている。支持バッフル22aは、先に説明した部材22と同様に、ハウジング12aの底面の短辺で終端する。)
(2)「Exhaust gases from the inlet 18a, as indicated by the directional arrows in FIG. 5, are deflected laterally in opposed directions by the upper curved or arcuate outer surface of the section 20a, and are then received by a circuitous expansion area 28a which progressively increases in size as it extends downwardly on opposite sides of the section 20a. It has been found in certain applications, that the aforesaid housing 12a of oval transverse cross section, provides a particularly desirable expansion type chamber. The wall or baffle member 26a provides an impervious surface defining one side of the circuitous area 28a and the open bottom baffle member 22a defines the opposite side of said area.」(3欄30ないし43行)
(当審訳:図5の方向矢印によって示されるように、入口18aからの排気ガスは、セクション20aの上側の湾曲したまたは円弧状の外表面によって対向する方向に横方向に偏向され、その後、セクション20aの対向する側で下向きに延びるにつれて漸次サイズが増大する回路状の膨張領域28aによって受け止められる。楕円形の横断面断面の前記ハウジング12aが、特に好ましい膨張型チャンバを提供することが、特定の用途で見出されている。壁またはバッフル部材26aは、回路状領域28aの一方の側を定義する不浸透性表面を提供し、開放底バッフル部材22aは、前記領域の反対側を定義する。)
(3)「FIG.5ないしFIG.7



(4)前記(1)及び(2)に摘記した事項及び前記(3)の図示内容から、マフラー10aは、楕円形断面形状のハウジング12aと、前記ハウジング12aの両端開口部を閉塞する端部閉鎖部材14a、16aと、前記ハウジング12a内のバッフルプレート22a、26aとを備え、その入口18aとなるパイプが、前記バッフルプレート22aとバッフルプレート26aとの間の空間である膨張領域28aに向け開口するように配置されていることが、看取される。

(5)前記(1)及び(2)に摘記した事項、前記(3)の図示内容及び前記(4)を踏まえると、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3事項」という。)が記載されているといえる。
《引用文献3事項》
楕円形断面形状のハウジング12aと、前記ハウジング12aの両端開口部を閉塞する端部閉鎖部材14a、16aと、前記ハウジング12a内のバッフルプレート22a、26aとを備えたマフラー10において、その入口18aとなるパイプが、前記バッフルプレート22aとバッフルプレート26aとの間の空間である膨張領域28aに向け開口するように配置されていること。

第5.対比、判断
1.本願発明1について
(1)対比
引用発明の「内燃機関」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明1の「エンジン」に相当し、同様に、「マフラー10」は「マフラを有する消音装置」に、「アウタシェル11」は「シェル」に、「エンドプレート12,13」は「第1エンドプレート」及び「第2エンドプレート」に、相当するところ、引用発明において、「アウタシェル11」及び「エンドプレート12,13」は、「マフラー10」の外壁を構成することが明らかである。

引用発明の「セパレートプレート14,15,16」は、その機能及び技術的意義からみて、本願発明1の「第1セパレータ」及び「第2セパレータ」に対応するものであるところ、
引用発明の「前記セパレートプレート14,15,16は、前記アウタシェル11の内部空間を複数の空間(以下、消音室と称する)に分割するためのプレートであり、前記セパレートプレート14,15,16によって、前記アウタシェル11の内部空間が4つの消音室R1,R2,R3,R4に分割されており」と、
本願発明1の「前記第1エンドプレートに対面した状態で配置され、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第1セパレータと、前記第2エンドプレートと前記第1セパレータとの間で、前記第2エンドプレートに対面した状態で配置され、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第2セパレータと」とは、
「前記第1エンドプレートに対面した状態で配置され、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第1セパレータと、前記第2エンドプレートと前記第1セパレータとの間で、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第2セパレータと」という限りにおいて一致する。

引用発明の「インレットパイプ17」は、その機能及び技術的意義からみて、本願発明1の「マフラパイプ」に対応するものであるところ、
引用発明の「前記インレットパイプ17は、車両の内燃機関からの排気ガスを前記アウタシェル11の内部に流入させるためのパイプであって、略L字状をなしており、前記アウタシェル11の外側に突出した一端17aは、排気系を構成するエキゾーストパイプと接続され、他端17bは、前記セパレートプレート15により支持されつつ消音室R2に連通しているとともに、前記インレットパイプ17の管壁には複数の孔17cが設けられており、排気ガスは孔17cからもアウタシェル11の消音室R3内に拡散し得るようになっており」と、
本願発明1の「前記消音空間における前記第1及び第2セパレータの間の部分を中間空間とし、前記シェルにおける前記中間空間を覆う部分に設けられた外壁穴部に挿入された状態で設けられ、前記中間空間と前記マフラの外部空間とを繋ぐよう構成されたマフラパイプと」とは、
「前記外壁に設けられた穴部に挿入された状態で設けられ、前記マフラの内部の消音空間と前記マフラの外部空間とを繋ぐよう構成されたマフラパイプと」という限りにおいて一致する。

引用発明の「パッチ23」は、その機能及び技術的意義からみて、本願発明1の「貼付部材」に対応するものであるところ、
引用発明の「前記インレットパイプ17は、一端17aが前記アウタシェル11の扁平断面における湾曲した部分から挿通するように配設され、溶接に必要な肉厚を確保するための部材であって、前記インレットパイプ17の一端17aを囲むように配設されるパッチ23を介して前記アウタシェル11に溶接される」と、
本願発明1の「貼付部材穴部を有する板状の部材であって、前記シェルの外面に沿って配置されると共に、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部に挿入され、且つ、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部を囲む接続部に固定されるよう構成された貼付部材と、を備え、前記シェルの外面において、前記第1セパレータの接続部に対面する領域よりも前記第1端部側に位置する領域を第1領域とすると共に、前記第2セパレータの接続部に対面する領域よりも前記第2端部側に位置する領域を第2領域とし、前記貼付部材は、少なくとも、前記シェルの外面における前記第1領域と前記第2領域とに、溶接により接合され、前記貼付部材における前記第1領域にはみ出した部分は、前記第1セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合され、前記貼付部材における前記第2領域にはみ出した部分は、前記第2セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合される」とは、
「貼付部材穴部を有する板状の部材であって、前記シェルの外面に沿って配置されると共に、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部に挿入され、且つ、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部を囲む接続部に固定されるよう構成された貼付部材と、を備え、前記貼付部材は、前記シェルの外面に、溶接により接合される」という限りにおいて一致する。

以上を踏まえると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
《一致点》
車両のエンジンからの排気流路に設けられ、マフラを有する消音装置であって、
前記マフラの内部の消音空間を覆うよう構成された外壁であって、前記消音空間の第1端部から第2端部にわたって延びる筒状に構成されたシェルと、前記第1端部を覆うよう構成された板状の部材である第1エンドプレートと、前記第2端部を覆うよう構成された板状の部材である第2エンドプレートと、を備える外壁と、
前記第1エンドプレートに対面した状態で配置され、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第1セパレータと、
前記第2エンドプレートと前記第1セパレータとの間で、前記消音空間を仕切る板状の部材であって、その縁に設けられた接続部が前記シェルの内側に接合されるよう構成された第2セパレータと、
前記外壁に設けられた穴部に挿入された状態で設けられ、前記マフラの内部の消音空間と前記マフラの外部空間とを繋ぐよう構成されたマフラパイプと、
貼付部材穴部を有する板状の部材であって、前記シェルの外面に沿って配置されると共に、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部に挿入され、且つ、前記マフラパイプが前記貼付部材穴部を囲む接続部に固定されるよう構成された貼付部材と、を備え、
前記貼付部材は、前記シェルの外面に、溶接により接合される、
消音装置。

《相違点1》
セパレータ及びマフラパイプの構造に関し、本願発明1のセパレータは2つであり、本願発明1の「第2セパレータ」は「第2エンドプレートに対面した状態で配置され」るものであり、「マフラパイプ」は「第1及び第2セパレータの間の部分を中間空間とし、前記シェルにおける前記中間空間を覆う部分に設けられた外壁穴部に挿入された状態で設けられ、前記中間空間と前記マフラの外部空間とを繋ぐよう構成された」ものであるのに対し、引用発明のセパレータは3つあり、「セパレートプレート15」は「セパレートプレート16」に対面した状態で配置され、前記「セパレートプレート16」が「エンドプレート13」に対面した状態で配置されており、「インレットパイプ17」は、「一端17a」が、マフラー10の外部空間にある「排気系を構成するエキゾーストパイプと接続され」るものの、「他端17bは、前記セパレートプレート15により支持されつつ消音室R2(セパレートプレート15及び16により形成される空間)に連通しているとともに、前記インレットパイプ17の管壁には複数の孔17cが設けられており、排気ガスは孔17cからもアウタシェル11の消音室R3(セパレートプレート14及び15により形成される空間)内に拡散し得るようになって」いる点。

《相違点2》
貼付部材の構造に関し、本願発明1の「貼付部材」は、「前記シェルの外面において、前記第1セパレータの接続部に対面する領域よりも前記第1端部側に位置する領域を第1領域とすると共に、前記第2セパレータの接続部に対面する領域よりも前記第2端部側に位置する領域を第2領域とし、前記貼付部材は、少なくとも、前記シェルの外面における前記第1領域と前記第2領域とに、溶接により接合され、前記貼付部材における前記第1領域にはみ出した部分は、前記第1セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合され、前記貼付部材における前記第2領域にはみ出した部分は、前記第2セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合される」ものであるのに対し、引用発明の「パッチ23」は、「溶接に必要な肉厚を確保するための部材であって、前記インレットパイプ17の一端17aを囲むように配設されるパッチ23を介して前記アウタシェル11に溶接される」ものであるものの、前記「パッチ23」と前記「「セパレートプレート15」及び「セパレートプレート16」との位置関係が規定されておらず、前記「アウタシェル11」の外面に、本願発明1における前記「第1領域」及び「第2領域」に対応する領域や「貼付部材における前記第1領域にはみ出した部分」及び「貼付部材における前記第2領域にはみ出した部分」が存在するのか否かが不明である点。

(2)判断
まず、上記《相違点1》について検討する。
上記第4.2.及び3.で示したように、引用文献2には、《引用文献2事項1》、すなわち、「偏平断面を有して筒状に形成されたシェル11の両端開口部を閉塞するエンドプレート12,13と、シェル11内の仕切部材と補強部材を兼ねるバッフルプレート14?17により、5つの消音室1a?1eに仕切られているマフラ本体1内の消音室1bに連通した状態で、インレットパイプ2が補強兼隙間閉塞部材3を介して挿通されていること。」が記載され、引用文献3には、《引用文献3事項》、すなわち、「楕円形断面形状のハウジング12aと、前記ハウジング12aの両端開口部を閉塞する端部閉鎖部材14a、16aと、前記ハウジング12a内のバッフルプレート22a、26aとを備えたマフラー10において、その入口18aとなるパイプが、前記バッフルプレート22aとバッフルプレート26aとの間の空間である膨張領域28aに向け開口するように配置されていること。」が記載されており、《引用文献2事項1》の「シェル11」及び《引用文献3事項》の「ハウジング12a」、《引用文献2事項1》の「エンドプレート12,13」及び《引用文献3事項》の「端部閉鎖部材14a、16a」、《引用文献2事項1》の「バッフルプレート14,15」及び《引用文献3事項》の「バッフルプレート22a、26a」、《引用文献2事項1》の「消音室1b」及び《引用文献3事項》の「膨張領域28a」、《引用文献2事項1》の「インレットパイプ2」及び《引用文献3事項》の「入口18aとなるパイプ」は、おのおの、本願発明1の「シェル」、「第1エンドプレート」及び「第2エンドプレート」、「第1セパレータ」及び「第2セパレータ」、「中間空間」、「マフラパイプ」に対応するものである。
そして、上記《引用文献2事項1》及び《引用文献3事項》から、「マフラパイプが、当該パイプ用の穴部が設けられた中間空間と外部空間とを繋ぐように配置されたマフラ構造」が、本願出願前の周知技術であったことが把握されるとしても、当該周知技術に接した当業者や、セパレータの数が2つである上記《引用文献3事項》に接した当業者が、「セパレートプレート14,15,16」という3つのセパレータを有する引用発明のセパレータの数を2つに変更し、さらに、その2つのセパレータ間の空間に「インレットパイプ17」の「他端17b」を連通させることで、上記《相違点1》に係る本願発明1の発明特定事項となるように、その構造を変更する動機付けとなる事項が、引用文献1ないし引用文献3には記載されていないし、これを示唆する記載もない。
ゆえに、上記変更は、当業者が容易になし得たこととはいえない。

次に、上記《相違点2》について検討する。
上記《相違点2》に係る本願発明1の発明特定事項、すなわち、マフラパイプ用の「貼付部材」が、「シェルの外面において、第1セパレータの接続部に対面する領域よりも第1端部側に位置する領域を第1領域とすると共に、第2セパレータの接続部に対面する領域よりも第2端部側に位置する領域を第2領域とし、前記貼付部材は、少なくとも、前記シェルの外面における前記第1領域と前記第2領域とに、溶接により接合され、前記貼付部材における前記第1領域にはみ出した部分は、前記第1セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合され、前記貼付部材における前記第2領域にはみ出した部分は、前記第2セパレータに沿って延びると共に、該部分の両端が前記シェルに接合される」ものであることは、引用文献1ないし引用文献3には記載されておらず、これを示唆する記載もないし、このことが、本願出願前の周知技術であることを示す証拠や、マフラパイプ用の貼付部材をシェルに接合する際の設計的な事項であるとすべき理由もない。
なお、上記第4.2.で示したように、引用文献2には、《引用文献2事項2》、すなわち、「補強兼隙間閉塞部材3のフランジ部32は、シェル11の外面に対しその周縁が溶接で固定される他、円筒部31はインレットパイプ2の外周面に対しその全周に亘って図示を省略する溶接で固定されていること。」が記載されているが、補強兼隙間閉塞部材3のフランジ部32を、シェル11の外面において、バッフルプレート15に対面する領域よりもエンドプレート13側に位置する領域、及び、バッフルプレート14に対面する領域よりもエンドプレート12側に位置する領域にまで延長することを示唆する記載はない。
したがって、引用発明及び《引用文献2事項2》に接した当業者であっても、引用発明における「パッチ23」に係る構造を、上記《相違点2》に係る本願発明1の発明特定事項のように変更することは、容易になし得たこととはいえない。

そして、本願発明1は、特に、上記《相違点2》に係る発明特定事項を備えることにより、本願明細書の段落【0057】ないし【0059】に記載された「・・・内部に第1及び第2セパレータ24,25が設けられているため、シェル21の第1及び第2領域21d,21eの剛性が、シェル21の中間領域21hの剛性よりも高い。・・・第1及び第2領域21d,21eは剛性が高いため、マフラパイプ3に外力が加えられても変形が抑制される。・・・貼付部材4は、シェル21の第1及び第2領域21d,21eの双方に溶接されている。そして、第1及び第2領域21dは、剛性が高いため、マフラパイプ3に外力が加えられても変形し難い。このため、貼付部材4のシェル21の外面からの剥離が抑制される。したがって、マフラパイプ3とマフラ2とをより強固に接続することが可能となる。」という格別な作用効果を奏するものである。

(3)小括
したがって、本願発明1は、引用発明、引用文献2事項1、引用文献2事項2、引用文献3事項、及び、引用文献2事項1や引用文献3事項から把握される周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は、本願発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本願発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、引用文献2事項1、引用文献2事項2、引用文献3事項、及び、引用文献2事項1や引用文献3事項から把握される周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、引用発明、引用文献2事項1、引用文献2事項2、引用文献3事項、及び、引用文献2事項1や引用文献3事項から把握される周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-11-30 
出願番号 特願2018-686(P2018-686)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 楠永 吉孝  
特許庁審判長 北村 英隆
特許庁審判官 渡邊 豊英
西中村 健一
発明の名称 消音装置  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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