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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1368734
審判番号 不服2019-16515  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-06 
確定日 2020-11-27 
事件の表示 特願2016-545280号「リソグラフィ装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月27日国際公開、WO2015/124457号、平成29年3月 2日国内公表、特表2017-506358号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)2月10日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2014年(平成26年)2月24日 欧州特許庁)を国際出願日とする特願2016-545280号であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 9月 2日 :翻訳文提出
平成28年 9月 8日 :手続補正書、上申書提出
平成31年 1月 7日付け:拒絶理由通知
平成31年 4月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年 8月 2日付け:拒絶査定(謄本送達日 同年同月8日 以下「原査定」という。)
令和元年12月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年12月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年12月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1(補正前の請求項2)の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるパターン付きエリアを備えるマスクと、
前記マスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、
基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブルと、
前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影し、前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムであって、前記第2方向における前記縮小率は4×を超える、投影システムと、
を備え、
前記マスクの前記パターン付きエリアは、前記マスクの丸みをつけたコーナーを有する品質エリア上に配置され、
前記マスクには、ダイを形成するパターンと、スクライブラインを形成するパターンとが設けられている、
リソグラフィ装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成31年4月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである
「【請求項1】
放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるパターン付きエリアを備えるマスクと、
前記マスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、
基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブルと、
前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影し、前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムであって、前記第2方向における前記縮小率は4×を超える、投影システムと、
を備え、
前記マスクの前記パターン付きエリアは、前記マスクの丸みをつけたコーナーを有する品質エリア上に配置される、
リソグラフィ装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「マスク」に関して、「前記マスクには、ダイを形成するパターンと、スクライブラインを形成するパターンとが設けられている」との限定を付加する補正をするものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1」「(1)」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特表2013-541729号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、投影露光系のための結像光学系、投影露光系のための照明光学系、及びこの種の結像光学系を有する光学系に関する。本発明は、この種の光学系を有する投影露光系、投影露光系のためのレチクル、この投影露光系を用いて微細構造化構成要素を生成する方法、本方法によって生成される構成要素にも関する。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明により、物体側開口数の増大に伴って物体側主ビーム角度を拡大しなければならず、それによって吸収体構造に起因する遮蔽効果、及び層透過に関連付けられた問題、特に、レチクルコーティングに起因する強いアポディゼーション効果がもたらされる場合があることが分かった。本発明により、アナモフィック結像光学系、特に、アナモフィック結像投影レンズ系を用いて、所定のサイズのレチクルを物体視野から所定の照明視野上に所定の結像スケールで結像することができ、この照明視野は、第1の結像スケールの方向に完全に照明され、一方、第2の方向の減ぜられた像結像スケールは、投影露光系のスループットに対して悪影響を持たず、適切な解決法によって補償することができることが更に分かった。
【0006】
従って、アナモフィックレンズ系は、結像されるレチクルの大きさを第1の方向に大きくする必要なく、更に投影露光系のスループットの低下が発生することなく、この第1の方向に大きい物体側開口数を有する像面の完全な照明と、照明光の傾斜入射によってもたらされる結像品質の損失の最小化の両方を可能にする。」

(ウ)「【0019】
請求項10に記載の光学系及び請求項11に記載の投影露光系の利点は、結像光学系に関連して上述したものに対応する。結像光学系の走査方向の結像スケールが走査方向に対して垂直な結像スケールよりも小さい請求項12に記載の投影露光系を使用すると、走査方向のスループット損失を高い走査速度によって完全に補償することができる。結像光学系9の走査方向の結像スケールは、特に、この方向に対して垂直な結像スケールの最大で半分の大きさである。走査方向とそれに対する垂直方向とにおける結像スケール比は、特に、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、2:3、2:5、又は3:4である。放射線源は、EUV(極紫外)光源、例えば、LPP(レーザ生成プラズマ)光源又はGDP(ガス放電生成プラズマ)光源とすることができる。
【0020】
走査方向の臨界寸法が、この方向に対して垂直な臨界寸法と異なるレチクルは、アナモフィック結像投影光学系における使用に特に適切である。レチクル上の結像される構造とその合計サイズの両方が、好ましくは、走査方向又はそれに対する垂直方向において異なる結像スケールに従って構成される。より大きい縮小を考慮するために、レチクルは、特に走査方向に相応により大きく構成される。」

(エ)「【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、マイクロリソグラフィのための投影露光系1の構成要素を子午断面内に略示している。投影露光系1の照明系2は、放射線源3以外に、物体視野5を物体平面6内に露光するための照明光学系を含む。物体視野5に配置され、抜粋的にしか示していないレチクルホルダ8によって保持されるレチクル7が、この物体視野内で露光される。
【0025】
図1には概略的にしか示していない投影光学系9は、物体視野5を像平面11の像視野10に結像するのに使用される。従って、投影光学系9を結像光学系とも呼ぶ。像平面11の像視野10の領域に配置され、同じく概略的にしか示していないウェーハホルダ13によって保持されるウェーハ12の感光層上に、レチクル7上の構造が結像される。
【0026】
放射線源3は、EUV放射線14を放出するEUV放射線源である。EUV放射線源3の放出される有利放射線の波長は、5nmから30nmの範囲にある。リソグラフィに使用され、適切な光源に対して利用可能な他の波長も可能である。放射線源3は、プラズマ光源、例えば、DPP光源又はLPP光源とすることができる。シンクロトロンに基づく放射線源を放射線源3として使用することができる。当業者は、この種の放射線源に関する情報を例えばUS 6 859 515 2に見出すことができるであろう。EUV放射線源3からのEUV放射線14を光束にするために、コレクター15が設けられる。・・・
【0035】
レチクルホルダ8は、投影露光系においてレチクル7を物体平面6内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができる。それに応じてウェーハホルダ13は、ウェーハ12を像平面11内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができる。その結果、レチクル7及びウェーハ12を一方で物体視野5を通じて、他方で像視野10を通じて走査することができる。図内の変位方向は、y方向と平行である。下記ではこの変位方向を走査方向とも呼ぶ。レチクル7及びウェーハ12の走査方向の変位は、好ましくは、互いに対して同期して発生させることができる。」

(オ)「【0059】
投影光学系9は、y方向、すなわち、走査方向に1:8の結像スケールを有し、すなわち、物体視野5内のレチクル7は、走査方向に像視野10内のその像の8倍大きい。投影光学系9は、x方向、すなわち、走査方向と垂直に1:4の結像スケールを有する。従って、投影光学系9は縮小系である。投影光学系9の像側開口数は0.5である。投影光学系9の像側開口数は、特に、少なくとも0.4である。像視野10は、2mm×26mmのサイズを有し、2mmは走査方向におけるものであり、26mmは、走査方向に対して垂直なものである。特に、走査方向には、像視野10は、異なるサイズを有することができる。像視野10のサイズは、少なくとも1mm×10mmである。走査方向と垂直に像視野10は、特に13mmよりも大きい幅を有する。像視野10は、特に矩形である。投影光学系9は、特に少なくとも13mm、特に13mmよりも大きい、特に少なくとも26mmの像側走査スロット幅を有する。投影光学系9は、視野中心点において6°の物体側主ビーム角度を有する。視野中心点における物体側主ビーム角度は、特に最大で7°である。投影光学系9は、2000mmの光学全長を有する。」

(カ)「【0094】
微細構造化構成要素及びナノ構造化構成要素を生成するために、投影露光系1は、以下の通りに使用される。最初に、レチクル7及びウェーハ12が準備される。次に、投影露光系1を用いて、レチクル7上の構造がウェーハ12の感光層上に投影される。次に、感光層を現像することにより、ウェーハ12上に微細構造又はナノ構造が生成され、従って、微細構造化構成要素、例えば、高集積回路の形態にある半導体構成要素が生成される。」

(キ)図1は次のものである。
【図1】


イ 上記アによれば、引用文献には下記各事項が記載れていると認められる。
(ア)「投影露光系1の照明系2は、放射線源3以外に、物体視野5を物体平面6内に露光するための照明光学系を含」み、「物体視野5に配置され、」「レチクルホルダ8によって保持されるレチクル7が、この物体視野内で露光され」(【0024】)、「像平面11の像視野10の領域に配置され、同じく概略的にしか示していないウェーハホルダ13によって保持されるウェーハ12の感光層上に、レチクル7上の構造が結像され」(【0025】)、「放射線源3は、EUV放射線14を放出するEUV放射線源である」(【0026】)から、EUV放射線を放出するEUV放射線源により、物体視野内でレチクルを露光して、ウェーハの感光層上に、レチクル上の構造が結像されるといえる。

(イ)「レチクルホルダ8によって保持されるレチクル7が、この物体視野内で露光され」(【0024】)、「レチクルホルダ8は、投影露光系においてレチクル7を物体平面6内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができ」、「その結果、レチクル7及びウェーハ12を一方で物体視野5を通じて、他方で像視野10を通じて走査することができ」、「変位方向は、y方向と平行であ」り、「この変位方向を走査方向とも呼ぶ」(【0035】)から、レチクルホルダはレチクルを保持するとともに、走査方向に変位することができるといえる。

(ウ)「像平面11の像視野10の領域に配置され、同じく概略的にしか示していないウェーハホルダ13によって保持されるウェーハ12の感光層上に、レチクル7上の構造が結像され」(【0025】)、「ウェーハホルダ13は、ウェーハ12を像平面11内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができ」、「その結果、レチクル7及びウェーハ12を一方で物体視野5を通じて、他方で像視野10を通じて走査することができ」「変位方向は、y方向と平行であ」り、「この変位方向を走査方向とも呼ぶ」(【0035】)から、ウェーハホルダはウェーハを保持するとともに、走査方向に変位することができるといえる。

(エ)「レチクルホルダ8は、投影露光系においてレチクル7を物体平面6内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができ」、「それに応じてウェーハホルダ13は、ウェーハ12を像平面11内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができ」、「その結果、レチクル7及びウェーハ12を一方で物体視野5を通じて、他方で像視野10を通じて走査することができ」、「変位方向は、y方向と平行であ」り、「この変位方向を走査方向とも呼ぶ」(【0035】)ものであって、「結像光学系の走査方向の結像スケールが走査方向に対して垂直な結像スケールよりも小さい」「投影露光系を使用すると、走査方向のスループット損失を高い走査速度によって完全に補償することができ」、「走査方向とそれに対する垂直方向とにおける結像スケール比は、」「1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、2:3、2:5、又は3:4であ」(【0019】)って、「走査方向の臨界寸法が、この方向に対して垂直な臨界寸法と異なるレチクルは、アナモフィック結像投影光学系における使用に」「適切であ」り、「より大きい縮小を考慮するために、レチクルは、」「走査方向に相応により大きく構成される」(【0020】)から、走査方向とそれに対する垂直方向とにおける結像スケール比は、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、2:3、2:5、又は3:4であって、走査方向の臨界寸法が、この方向に対して垂直な臨界寸法と異なるレチクルは、アナモフィック結像投影光学系における使用に適切であり、より大きい縮小を考慮するために、レチクルは、走査方向に相応により大きく構成されるといえる。

(オ)「投影露光系のための結像光学系、投影露光系のための照明光学系、及びこの種の結像光学系を有する光学系に関する」(【0001】)ものであって、「マイクロリソグラフィのための投影露光系1」(【0024】)であるから、マイクロリソグラフィ装置であるといえる。

ウ 上記ア及びイから、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「EUV放射線を放出するEUV放射線源により、物体視野内でレチクルを露光して、ウェーハの感光層上に、レチクル上の構造が結像されるレチクルと(上記「イ」「(ア)」)、
前記レチクルを保持するとともに、走査方向に変位することができるレチクルホルダと(上記「イ」「(イ)」)、
ウェーハを保持するとともに、走査方向に変位することができるウェーハホルダと(上記「イ」「(イ)」)、
光学系が、前記走査方向とそれに対する垂直方向とにおける結像スケール比は、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、2:3、2:5、又は3:4であって、走査方向の臨界寸法がこの方向に対して垂直な臨界寸法と異なるレチクルを使用するアナモフィック結像投影光学系であり、より大きい縮小を考慮するために、レチクルは、走査方向に相応により大きく構成され(上記「イ」「(エ)」)、
前記ウェーハ上に高集積回路の形態にある半導体構成要素が生成される(【0094】)、
マイクロリソグラフィ装置(上記「イ」「(オ)」)。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「EUV放射線を放出するEUV放射線源により、物体視野内でレチクルを露光して、ウェーハの感光層上に、レチクル上の構造が結像されるレチクル」は、本件補正発明の「放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるパターン付きエリアを備えるマスク」と「放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるマスク」の点で一致する。

(イ)引用発明の「前記レチクルを保持するとともに、走査方向に変位することができるレチクルホルダ」は、本件補正発明の「前記マスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造」に相当する。

(ウ)引用発明の「ウェーハを保持するとともに、走査方向に変位することができるウェーハホルダ」は、本件補正発明の「基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブル」に相当する。

(エ)引用発明の「EUV放射線を放出するEUV放射線源により、物体視野内でレチクルを露光して、ウェーハの感光層上に、レチクル上の構造が結像される」ことは、本件補正発明の「前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影」することに相当する。
また、引用発明においては、「光学系が、前記走査方向とそれに対する垂直方向とにおける結像スケール比は、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、2:3、2:5、又は3:4であって、走査方向の臨界寸法がこの方向に対して垂直な臨界寸法と異なるレチクルを使用するアナモフィック結像投影光学系であり、より大きい縮小を考慮するために、レチクルは、走査方向に相応により大きく構成される」のであるから、引用発明の光学系は、走査方向(より大きい縮小)において、前記走査方向に垂直方向(縮小)における縮小率を超える縮小率(より大きい縮小)を有する「アナモフィック結像投影光学系であ」るといえ、本件補正発明の「前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムであ」ることに相当する。

(オ)引用発明の「マイクロリソグラフィ装置」は、本件補正発明の「リソグラフィ装置」に相当する。

イ 以上アでの検討を踏まえると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるマスクと、
前記マスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、
基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブルと、
前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影し、前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムと、
を備える、
リソグラフィ装置。」

【相違点1】
マスクが、本件補正発明は、「パターン付きエリアを備える」と特定されるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

【相違点2】
投影システムが、本件補正発明は、「第2方向における縮小率は4×を超える」と特定されるのに対して、引用発明は、走査方向に対する垂直方向の具体的な縮小率が特定されない点。

【相違点3】
本件補正発明は、「マスクの前記パターン付きエリアは、前記マスクの丸みをつけたコーナーを有する品質エリア上に配置される」と特定されるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

【相違点4】
本件補正発明は、「マスクには、ダイを形成するパターンと、スクライブラインを形成するパターンとが設けられている」と特定されるのに対して、引用発明は、このように特定されない点。

(4)判断
ア 相違点1、3について検討する。
引用発明の「レチクル」は、「レチクル上の構造」を有しているところ、当該「レチクル上の構造」有しているエリアは、本件補正発明の「パターン付きエリア」に相当する。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
また、当該「パターン付きエリア」を「レチクル」上の品質エリア(レチクルの品質が保証できる範囲)上に配置することは後記周知文献1?3に見られるとおり周知の技術的事項である。
さらに、「レチクル」上の品質エリアのコーナーをどのような形状とするかは、品質を保証する際に適宜定める事項にすぎず、「レチクル」上の品質エリアのコーナーを丸みをつけたものとすることに格別の技術的困難性は認められない。
(なお、本願の発明の詳細な説明を見ても、本願補正発明において「品質エリア」が「マスクの丸みをつけたコーナーを有する」ことの技術的意義や効果について記載がなく、格別の効果を有するものとも認められない。)

イ 相違点2について検討する。
投影光学系において縮小率を1/4(4×)を超えるものとなすことは後記周知文献4?6に見られるとおり周知の技術的事項である。また、縮小率を1/4(4×)を超えるものとなすことに格別の技術的困難性はなく、具体的な縮小率は発明を実施するに際して適宜定める選択的事項にすぎない。
そうすると、「走査方向とそれに対する垂直方向とにおける結像スケール比が、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、2:3、2:5、又は3:4であるアナモフィック結像投影光学系」である引用発明において、たとえ走査方向における縮小率が第2方向における縮小率を超えるものであるとしても、(縮小率が相対的に小さい)第2方向における縮小率を1/4(4×)を超えるものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点4について検討する。
引用発明の「レチクル」において、「レチクル上の構造」は、「ウェーハ上に高集積回路の形態にある半導体構成要素が生成される」ために設けられるパターンであるところ、1回の露光で、当該「高集積回路の形態にある半導体構成要素」(ダイ)を複数生成するために、レチクル上に複数の「高集積回路の形態にある半導体構成要素」(ダイ)を形成するパターンを設けることは後記周知文献7?9に見られるとおり周知の技術的事項である。
また、「ウェーハ上に高集積回路の形態にある半導体構成要素が生成され」た後に、ダイシングにより分離することは技術常識であるから、レチクル上に複数の「高集積回路の形態にある半導体構成要素」(ダイ)を形成するパターンを設ける際にあわせて、当該レチクル上にダイシングのためのスクライブラインを形成するパターンを設けておくことは当然に行うべき技術常識にすぎない。
したがって、引用発明において、「レチクル上の構造」として複数の「高集積回路の形態にある半導体構成要素」(ダイ)を形成するパターンとスクライブラインを形成するパターンを設けて、上記相違点4に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 周知文献
(ア)周知文献1(特開2011-181810号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスクブランクス(以下、本明細書において、「EUVマスクブランクス」という。)の製造方法に関する。」
「【0025】
EUVマスクブランクス用のガラス基板では、該ガラス基板の成膜面全体がマスクパターンの形成に用いられるわけではない。例えば、152mm角のガラス基板の場合、該ガラス基板を用いて製造されるEUVマスクにおける光学特性の品質保証領域は132mm角の領域である。このため、EUVマスクブランクスをパターニングしてEUVマスクを作成する際に、レジスト膜が形成される領域は142mm角の領域である。」

(イ)周知文献2(特開2012-89837号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板保持手段に関する。本発明のガラス基板保持手段は、半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスクブランクス(以下、本明細書において、『EUVマスクブランクス』という。)の製造時や、EUVマスクブランクスから反射型マスクを作製する際のマスクパターニングプロセスの際、あるいはEUVリソグラフィでの露光時の反射型マスクのハンドリングの際に、ガラス基板を保持するのに好適である。」
「【0049】
EUVマスクブランクス用のガラス基板では、該ガラス基板の成膜面全体がマスクパターンの形成に用いられるわけではない。例えば、152.4mm角のガラス基板の場合、該ガラス基板を用いて製造されるEUVマスクにおける光学特性の品質保証領域は132mm角の領域である。このため、EUVマスクブランクスをパターニングしてEUVマスクを作成する際に、レジスト膜が形成される領域は142mm角の領域である。」

(ウ)周知文献3(特開2012-212082号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に高さが数十nm程度の凸状欠陥の発生を抑制するのに有効なマスクブランクス用ガラス基板の製造方法、マスクブランクスの製造方法、転写マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法等に関する。」
「【0020】
本発明において、研磨前の基板の濡れ性(接触角または表面エネルギー)の測定箇所は、基板の有効エリア外も含めることが好ましい。ここで有効エリアとは、この基板にパターン形成用の薄膜を形成してマスクブランクを製造し、そのマスクブランクを用いて転写用マスクを作製する際、薄膜に転写パターンを形成する領域のことをいう。通常、基板のサイズが152mm角の場合では、基板の中心から132mm角内の領域が有効エリアになる。
高さ数十nm程度の凸状欠陥は、有効エリア内よりもその外側の方がその発生率が高い傾向があるためである。また、研磨前の基板の濡れ性(接触角または表面エネルギー)が有効エリア内で上記本願範囲内であっても、高さ数十nm程度の凸状欠陥が有効エリア内で発生することがあるからである。
本発明において、研磨前の基板の濡れ性(接触角また表面エネルギー)は、基板の有効エリア外で測定することが好ましい。
高さ数十nm程度の凸状欠陥は、有効エリア外で、多発する傾向があるからである。有効エリア外で高さ数十nm程度の凸状欠陥が少ないかゼロの場合は、有効エリア内に関しても高さ数十nm程度の凸状欠陥がより発生確率が低いと推定される。つまり、高さ数十nm程度の凸状欠陥が有効エリア内にはなく有効エリア外にある場合と、高さ数十nm程度の凸状欠陥が有効エリア内になく有効エリア外にもない場合とでは、後者の方がより高品質であると推定される。
本発明においては、例えば、152mm角の基板で、149mmの領域を検査する。」

(エ)周知文献4(特開2008-176326号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文による結像光学系に関する。さらに、本発明は、このタイプの結像光学系を備える投影露光装置、このタイプの投影露光装置を備える微細構造構成要素を生産するための方法、この方法により生産される微細構造構成要素、及び結像光学系の使用に関する。」
「【0028】
レンズ系5は、物体平面4内の物体視野に照明光3を導くために使用される。物体視野は、所定の縮尺により像平面8の像視野7(図3を参照)内で投影光学系6により結像される。投影光学系6は、サイズを1/8に縮小する。他の結像倍率レベルも、可能であり、例えば、4×、5×、6×、又は8×を超える結像倍率レベルでさえ可能である。8×の結像倍率レベルは、EUV波長の照明光に特に適しているが、それは、反射マスク上の物体側入射角がこれにより小さいままでよいからである。NA=0.5の投影光学系の像側アパーチャでは、物体側に6°未満の照明角が形成される。8×の像倍率レベルでは、それに加えて、いたずらに大きなマスクを使用する必要がない。図2による投影光学系6では、像平面8は、物体平面4に平行に配列される。物体視野と一致する、レチクルとも呼ばれる反射マスク9の一部は、これにより結像される。結像は、基板押さえ11により支えられているウェハの形態の基板10の表面で行われる。図1では、投影光学系6に入る照明光3の光線12は、レチクル9と投影光学系との間に入るように概略として示されており、投影光学系6から出る照明光3の光線13は、投影光学系6と基板10との間に入るように概略として示されている。図2による投影光学系6の像視野側開口数は、0.50である。投影光学系6は、像側でテレセントリックである。」

(オ)周知文献5(特開2004-31808号公報)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基板上にマスクパターンの縮小像を形成する露光装置の投影光学系、該投影光学系を備えた露光装置及び露光方法に関するものである。」
「【0050】
レチクルRにて反射されたEUV光は、投影光学系PLを通過して、感光基板W上の円弧形状の露光領域内に、所定の縮小倍率β(例えば|β|=1/4,1/5、1/6)のもとでレチクルRのパターンの縮小像を形成する。」

(カ)周知文献6(特開2004-214242号公報)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般には、露光装置に係り、特に、紫外線や極端紫外線(EUV:Extreme ultraviolet)光を利用して半導体ウェハ用の単結晶基板、液晶ディスプレイ(LCD)用のガラス基板などの被処理体を投影露光する反射型投影光学系、露光装置及びデバイス製造方法に関する。」
「【0064】
ここで、本発明の反射型投影光学系100、100A及び100Bを用いて照明実験した結果について説明する。図1乃至図3において、MSは物体面位置に置かれた反射型マスク、Wは像面位置に置かれたウェハを示している。反射型投影光学系100、100A及び100Bにおいて、波長13.4nm付近のEUV光を放射する図示しない照明系によりマスクMSが照明され、マスクMSからの反射EUV光が、第1の反射鏡110、第2の反射鏡120(凹面鏡)、第3の反射鏡130(凸面鏡)、第4の反射鏡140(凹面鏡)、第5の反射鏡150(凹面鏡)、第6の反射鏡160、第7の反射鏡170(凸面鏡)、第8の反射鏡(凹面鏡)の順に反射し、像面位置に置かれたウェハW上に、マスクパターンの縮小像を形成している。なお、図1に示す反射型投影光学系100において、NA=0.50、全長=1330mm、縮小倍率=1/5倍、物高=285mm乃至290mm、像高=57mm乃至58mmの1.0mm幅の円弧状像面である。」

(キ)周知文献7(特開2013-58761号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を保持する保持装置、基板を露光する露光装置、露光方法、及びデバイス製造方法に関する。
「【0076】
図6は、露光光ELが照射されることによってパターンが形成される基板P上のショット領域Sと、保持部材20との関係を示す模式図である。なお、図6においては、支持部材41A、41B、41C等の図示は省略してある。図6に示すように、基板P上には、露光対象領域であるショット領域Sが設定される。マスクMは、ショット領域Sに投影されるパターンが配置されたパターン形成領域MR(図1参照)を有する。本実施形態においては、1つのショット領域Sに、マスクMのパターン形成領域MRに配置されているパターンの像が投影される。すなわち、1つのショット領域Sには、マスクMのパターン形成領域MRに配置されているパターンに応じたパターンが形成される。例えばマスクMのパターン形成領域MRに1チップ分のパターン(デバイスパターン)が形成される場合、1つのショット領域Sには、1チップ分のパターンが形成される。なお、マスクMのパターン形成領域MRに複数チップ分(例えば2つ分)のパターン(デバイスパターン)が形成される場合、1つのショット領域Sには、複数チップ分のパターンが形成される。」

(ク)周知文献8(特開2011-66079号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、フレア補正方法及び半導体デバイスの製造方法に関するものである。」
【0036】
(第3の実施形態)本実施形態は、図7に示すような多チップ取りのマスクパターンについてのフレア補正を行う。このマスクには、同一の半導体デバイス(チップ)を形成するためのパターンが、4つ含まれている。すなわち、このマスクパターンを一度露光すると4個のデバイスのパターンを転写でき、このマスクは4チップ取りのマスクとなる。」
・図7は次のものである。
【図7】


(ケ)周知文献9(特開2009-252818号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、EUV(極端紫外: ExtremeUltra Violet)リソグラフィなどに好適であり、特に、露光光がマスク表面に対して斜め入射する方式、いわゆるオフテレセン露光に適した反射型マスクおよびその検査方法ならびに半導体装置の製造方法に関する。」
「【0034】
図2は、本発明に係る反射型マスクのチップレイアウトの他の例を示す平面図である。反射型マスクのマスク露光エリア10の中に、同一のレイアウトパターンを含む複数(図2の例では6個)の矩形状のチップ領域11a?11fが配置されている。6個のチップ領域11a?11fは、矩形の長手方向がスキャン方向12に対して平行な向きで、それぞれスキャン方向12に沿って並ぶようにマトリクス状に配置されている。各チップ領域11a?11fの内部で同じ場所13a?13fには、レイアウト設計上は同じマスクパターンが形成されている。」
「【0038】
なお、同一のレイアウトパターンを含む複数のチップ領域を配置を設計する場合、図1のチップ配置または図2のチップ配置を採用するかは、チップの大きさとマスク露光エリアの大きさを考慮して、その配置効率を基準に決定すればよい。すなわち、マスク露光エリアに納められるチップ数、あるいは同じチップ数を収めるためのマスク露光エリアの大きさを考慮して決めればよい。」
・図2は次のものである。
【図2】


カ したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年 4月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]「1」「(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(理由2)この出願の請求項1?15に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。

引用文献1.特表2013-541729号公報
引用文献2.特開2008-176326号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2004-31808号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2004-214242号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.国際公開第2013/045597号(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、前記第2[理由]「2」「(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記「第2」[理由]「2」で検討した本件補正発明から、「マスク」に関して、「前記マスクには、ダイを形成するパターンと、スクライブラインを形成するパターンとが設けられている」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2」[理由]「2」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-07-01 
結審通知日 2020-07-02 
審決日 2020-07-15 
出願番号 特願2016-545280(P2016-545280)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 彰  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
松川 直樹
発明の名称 リソグラフィ装置および方法  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  

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