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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1368760
審判番号 不服2019-9551  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-18 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2016-534485「薄型基板およびその製造方法、並びに基板の搬送方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月21日国際公開、WO2016/010106、請求項の数(26)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月16日(優先権主張 平成26年7月16日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月 5日付け 拒絶理由通知書
平成31年 3月 8日 意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月18日付け 拒絶査定(以下、「原査定」とい
う。)
令和 元年 7月18日 審判請求書の提出
令和 2年 5月 7日付け 拒絶理由(以下、「当審拒絶理由
」という。)通知書
令和 2年 7月13日 意見書、手続補正(以下、「本件補
正」という。)書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし26に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明26」という。)は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
表面に電子素子が形成される基板の製造方法であって、
表面に電子素子が形成される基板の搬送用基板が接合される接合予定面と該基板を搬送するための搬送用基板の接合予定面の少なくとも一方に、無機材料層を形成する形成工程と、
基板と搬送用基板とを互いに押し付けて、無機材料層を介して基板と搬送用基板とを接合する接合工程と、
基板と搬送用基板とを剥離する剥離工程と、を備え、
無機材料層を形成する形成工程が、真空中で行われること、
基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒すこと、
基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、バックグラウンド圧力が1×10^(-8)Pa以上大気圧未満である、真空ないしは減圧雰囲気中で行われること、
を特徴とする製造方法。
【請求項2】
接合工程の前または後、かつ剥離工程の前に、基板上に電子素子を形成する電子素子形成工程、並びに、電子素子を他の基板で封止する封止工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
接合工程の前に、基板か搬送用基板の少なくとも一方の接合面を、所定の運動エネルギーを備える粒子を照射することで活性化させる表面活性化工程をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
接合工程の前に、無機材料層の表面を、所定の運動エネルギーを備える粒子を照射することで活性化させる表面活性化工程をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
接合工程の前に、基板の一部を選択的に表面活性化することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
接合工程の前に、無機材料層の一部を選択的に表面活性化することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
異なる種類の複数の無機材料層が形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
基板がガラスであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
基板が有機材料からなるフィルムであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
基板がシリコンまたは化合物半導体からなるウェハーであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
基板が複数の層で構成され、ガラスからなる層を含み、有機材料からなる層を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
基板が、ガラスからなる層と、有機材料からなる層で構成され、有機材料からなる層の側が搬送用基板に接合されることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
基板が複数の層で構成され、シリコンまたは化合物半導体からなる層を含み、有機材料からなる層を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
基板が、シリコンまたは化合物半導体からなる層と、有機材料からなる層で構成され、有機材料からなる層の側が搬送用基板に接合されることを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
無機材料層を形成する形成工程の前に、基板の接合予定面に樹脂材料層と基材層とを含むフィルムが設けられることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
基板の厚みが0.5μm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
搬送用基板が、厚みが0.1mm以上1.1mm以下であることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
基板平面側からの平面視において、基板上に形成される電子素子を囲むように無機材料層が形成されることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
無機材料層が離散的に形成されることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
表面に電子素子が形成される基板の製造方法であって、
表面に電子素子が形成される基板のフィルムが接合される接合予定面と該基板を搬送するためのフィルムの接合予定面の少なくとも一方に、無機材料層を形成する形成工程と、
基板とフィルムとを互いに押し付けて、無機材料層を介して基板とフィルムとを接合する接合工程と、を備え、
無機材料層を形成する形成工程が、真空中で行われること、
基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板とフィルムの接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒すこと、
基板とフィルムとを接合する接合工程が、バックグラウンド圧力が1×10^(-8)Pa以上大気圧未満である、真空ないしは減圧雰囲気中で行われること、
該基板と該フィルムとを含むデバイス基板を製造すること、を特徴とする製造方法。
【請求項21】
接合工程がロール・ツー・ロール方式で行われることを特徴とする請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
接合工程の前または後に、基板上に電子素子を形成する電子素子形成工程、並びに、電子素子を他の基板で封止する封止工程をさらに備えることを特徴とする請求項20または21に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の製造方法によって製造される薄型基板。
【請求項24】
請求項23に記載の薄型基板の表面に電子素子を形成した電子素子形成基板。
【請求項25】
表面に電子素子が形成される基板の搬送用基板が接合される接合予定面と該基板を搬送するための搬送用基板の接合予定面の少なくとも一方に、無機材料層を形成する形成工程と、
基板と搬送用基板とを互いに押し付けて、無機材料層を介して基板と搬送用基板とを接合する接合工程と、
接合工程で接合した基板と搬送用基板の基板接合体を、基板接合体の基板上に電子素子を形成するために搬送することを含む電子素子形成工程と、
基板と搬送用基板とを剥離する剥離工程と、を備え、
無機材料層を形成する形成工程が、真空中で行われること、
基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒すこと、
基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、バックグラウンド圧力が1×10^(-8)Pa以上大気圧未満である、真空ないしは減圧雰囲気中で行われること、
を特徴とする基板の搬送方法。
【請求項26】
表面に電子素子が形成される基板のフィルムが接合される接合予定面と該基板を搬送するためのフィルムの接合予定面の少なくとも一方に、無機材料層を形成する形成工程と、
基板とフィルムとを互いに押し付けて、無機材料層を介して基板とフィルムとを接合する接合工程と、
接合工程で接合した基板とフィルムの基板接合体を、基板接合体の基板上に電子素子を形成するために搬送することを含む電子素子形成工程と、を備え、
無機材料層を形成する形成工程が、真空中で行われること、
基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板とフィルムの接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒すこと、
基板とフィルムとを接合する接合工程が、バックグラウンド圧力が1×10^(-8)Pa以上大気圧未満である、真空ないしは減圧雰囲気中で行われること、
該基板と該フィルムとを含むデバイス基板を製造すること、を特徴とする基板の搬送方法。」

第3 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された、国際公開2013/179881号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「技術分野」
「[0001] 本発明は、ガラス基板を用いて液晶表示体、有機EL表示体などの電子デバイスを製造する際に使用されるガラス基板と支持基板との積層体であるガラス積層体、およびそれを用いた電子デバイスの製造方法に関する。
[0002] 近年、太陽電池(PV)、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)などの電子デバイス(電子機器)の薄型化、軽量化が進行しており、これらの電子デバイスに用いるガラス基板の薄板化が進行している。一方、薄板化によりガラス基板の強度が不足すると、電子デバイスの製造工程において、ガラス基板のハンドリング性が低下する。
[0003] そこで、最近では、上記の課題に対応するため、無機薄膜付き支持ガラスの無機薄膜上にガラス基板を積層した積層体を用意し、積層体のガラス基板上に素子の製造処理を施した後、積層体からガラス基板を分離する方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、ガラス基板の取扱い性を向上させ、適切な位置決めを可能とすると共に、所定の処理後に素子が配置されたガラス基板を積層体から容易に剥離することができる旨が開示されている。」

「[0013] 本発明のガラス積層体においては、支持基板とガラス基板との間にメタルシリサイド、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む無機層を介在させることを特徴の一つとする。所定の成分の無機層を介在させることにより、高温条件下におけるガラス基板の支持基板への接着を抑制することができ、所定の処理後において容易にガラス基板を剥離することができる。特に、これらの無機層ではその表面上に水酸基などの量が少なく、加熱処理時においても無機層とその上に積層されるガラス基板との間で化学結合が形成されにくくなるため、結果として高温処理後においても両者を容易に剥離できるようになったと推測される。一方、特許文献1で具体的に記載される金属酸化物の層表面上には多くの水酸基が存在し、加熱処理時にガラス基板との間で数多くの化学結合が形成されてしまい、ガラス基板の剥離性が低下したものと推測される。
以下においては、まず、ガラス積層体の好適態様について詳述し、その後、このガラス積層体を使用した電子デバイスの製造方法の好適態様について詳述する。
[0014]<ガラス積層体>
図1は、本発明に係るガラス積層体の一実施形態の模式的断面図である。
図1に示すように、ガラス積層体10は、支持基板12および無機層14からなる無機層付き支持基板16と、ガラス基板18とを有する。ガラス積層体10中において、無機層付き支持基板16の無機層14の第1主面14a(支持基板12側とは反対側の表面)と、ガラス基板18の第1主面18aとを積層面として、無機層付き支持基板16とガラス基板18とが剥離可能に積層している。つまり、無機層14は、その一方の面が支持基板12の層に固定されると共に、その他方の面がガラス基板18の第1主面18aに接し、無機層14とガラス基板18との界面は剥離可能に密着されている。言い換えると、無機層14は、ガラス基板18の第1主面18aに対して易剥離性を具備している。
[0015] また、このガラス積層体10は、後述する部材形成工程まで使用される。即ち、このガラス積層体10は、そのガラス基板18の第2主面18b表面上に液晶表示装置などの電子デバイス用部材が形成されるまで使用される。その後、無機層付き支持基板16の層は、ガラス基板18の層との界面で剥離され、無機層付き支持基板16の層は電子デバイスを構成する部材とはならない。分離された無機層付き支持基板16は新たなガラス基板18と積層され、新たなガラス積層体10として再利用することができる。」

「[0018][無機層付き支持基板]
無機層付き支持基板16は、支持基板12と、その表面上に配置(固定)される無機層14とを備える。無機層14は、後述するガラス基板18と剥離可能に密着するように、無機層付き支持基板16中の最外側に配置される。
以下に、支持基板12、および、無機層14の態様について詳述する。
[0019](支持基板)
支持基板12は、第1主面と第2主面とを有し、第1主面上に配置された無機層14と協働して、ガラス基板18を支持して補強し、後述する部材形成工程(電子デバイス用部材を製造する工程)において電子デバイス用部材の製造の際にガラス基板18の変形、傷付き、破損などを防止する基板である。
支持基板12としては、例えば、ガラス板、プラスチック板、SUS板などの金属板などが用いられる。支持基板12は、部材形成工程が熱処理を伴う場合、ガラス基板18との線膨張係数の差の小さい材料で形成されることが好ましく、ガラス基板18と同一材料で形成されることがより好ましく、支持基板12はガラス板であることが好ましい。特に、支持基板12は、ガラス基板18と同じガラス材料からなるガラス板であることが好ましい。
[0020] 支持基板12の厚さは、後述するガラス基板18よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。好ましくは、ガラス基板18の厚さ、無機層14の厚さ、および後述するガラス積層体10の厚さに基づいて、支持基板12の厚さが選択される。例えば、現行の部材形成工程が厚さ0.5mmの基板を処理するように設計されたものであって、ガラス基板18の厚さおよび無機層14の厚さの和が0.1mmの場合、支持基板12の厚さを0.4mmとする。支持基板12の厚さは、通常の場合、0.2?5.0mmであることが好ましい。
[0021] 支持基板12がガラス板の場合、ガラス板の厚さは、扱いやすく、割れにくいなどの理由から、0.08mm以上であることが好ましい。また、ガラス板の厚さは、電子デバイス用部材形成後に剥離する際に、割れずに適度に撓むような剛性が望まれる理由から、1.0mm以下であることが好ましい。
[0022] 支持基板12とガラス基板18との25?300℃における平均線膨張係数(以下、単に「平均線膨張係数」という)の差は、好ましくは500×10^(-7)/℃以下であり、より好ましくは300×10^(-7)/℃以下であり、さらに好ましくは200×10^(-7)/℃以下である。差が大き過ぎると、部材形成工程における加熱冷却時に、ガラス積層体10が激しく反るおそれがある。ガラス基板18の材料と支持基板12の材料が同じ場合、このような問題が生じるのを抑制することができる。
[0023](無機層)
無機層14は、支持基板12の主面上に配置(固定)され、ガラス基板18の第1主面18aと接触する層である。無機層14を支持基板12上に設けることにより、高温条件下の長時間処理後においても、ガラス基板18の接着を抑制することができる。
[0024] 無機層14は、メタルシリサイド、窒化物、炭化物、および炭窒化物からなる群から選択される少なくとも1種を含有する。なかでも、ガラス基板18の無機層14に対する剥離性がより優れる点で、タングステンシリサイド、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素、および炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なかでも、窒化ケイ素および/または炭化ケイ素を含むことがより好ましい。上記の成分が好ましい理由としては、メタルシリサイド、窒化物、炭化物、および炭窒化物中に含まれる、Si、NまたはCと、それら元素と組み合わされる元素との間の電気陰性度の差の大きさが起因していると推測される。電気陰性度の差が小さいと、分極が小さく、水との反応で水酸基を生成し難いため、ガラス基板の無機層14に対する剥離性がより良好となる。より具体的には、SiNにおいてはSi元素とN元素との電気陰性度の差が1.14で、AlNにおいてはAl元素とN元素との電気陰性度の差が1.43であり、TiNにおいてはTi元素とN元素との電気陰性度の差が1.50である。3つを比較すると、SiNが電気陰性度の差が最も小さく、ガラス基板18の無機層14に対する剥離性もより優れる。
なお、無機層14には、上記成分が2種以上含まれていてもよい。
[0025] メタルシリサイドの組成は特に制限されないが、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、W、Fe、Mn、Mg、Mo、Cr、Ru、Re、Co、Ni、Ta、Ti、Zr、およびBaからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。さらに、上記金属/シリコン元素比を変化させることによって、無機層14表面のOH基数や表面平坦度を調整し、無機層14とガラス基板18との間の密着力の制御もできる。
また、窒化物の組成は特に制限されないが、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、Si、Hf、Zr、Ta、Ti、Nb、Na、Co、Al、Zn、Pb、Mg、Sn、In、B、Cr、MoおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。さらに、上記金属/窒素元素比を変化させることによって、無機層14表面のOH基数や表面平坦度を調整し、無機層14とガラス基板18との間の密着力の制御もできる。
また、炭化物および炭窒化物の組成は特に制限されないが、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、Ti、W、Si、Zr、およびNbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。さらに、上記金属/炭素元素比を変化させることによって、無機層14表面のOH基数や表面平坦度を調整し、無機層14とガラス基板18との間の密着力の制御もできる。」

「[0034](無機層付き支持基板の製造方法)
無機層付き支持基板16の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、または、CVD法により、支持基板12上に所定の成分からなる無機層14を設ける方法が挙げられる。
製造条件は、使用される材料に応じて、適宜最適な条件が選択される。
なお、必要に応じて、支持基板12上に形成された無機層14の表面性状(例えば、表面粗さRa)を制御するために、無機層14の表面を削る処理を施してもよい。該処理としては、例えば、イオンスパッタリング法などが挙げられる。
[0035][ガラス基板]
ガラス基板18は、第1主面18aが無機層14と密着し、無機層14側とは反対側の第2主面18bに後述する電子デバイス用部材が設けられる。
ガラス基板18の種類は、一般的なものであってよく、例えば、LCD、OLEDといった表示装置用のガラス基板などが挙げられる。ガラス基板18は耐薬品性、耐透湿性に優れ、且つ、熱収縮率が低い。熱収縮率の指標としては、JIS R 3102(1995年改正)に規定されている線膨張係数が用いられる。」

「[0039] ガラス基板18の厚さは、特に限定されないが、ガラス基板18の薄型化および/または軽量化の観点から、通常0.8mm以下であり、好ましくは0.3mm以下であり、さらに好ましくは0.15mm以下である。0.8mm超の場合、ガラス基板18の薄型化および/または軽量化の要求を満たせない。0.3mm以下の場合、ガラス基板18に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、ガラス基板18をロール状に巻き取ることが可能である。また、ガラス基板18の厚さは、ガラス基板18の製造が容易であること、ガラス基板18の取り扱いが容易であることなどの理由から、0.03mm以上であることが好ましい。
[0040] なお、ガラス基板18は2層以上からなっていてもよく、この場合、各々の層を形成する材料は同種材料であってもよいし、異種材料であってもよい。また、この場合、「ガラス基板の厚さ」は全ての層の合計の厚さを意味するものとする。
[0041] ガラス基板18の第1主面18a上には、さらに無機薄膜層が積層されていてもよい。
無機薄膜層がガラス基板18上に配置(固定)される場合、ガラス積層体中においては、無機層付き支持基板16の無機層14と無機薄膜層とが接触する。無機薄膜層をガラス基板18上に設けることにより、高温条件下の長時間処理後においても、ガラス基板18と無機層付き支持基板16との接着をより抑制することができる。
無機薄膜層の態様は特に限定されないが、好ましくは、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、金属珪化物および金属弗化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。なかでも、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、金属酸化物を含むことが好ましい。なかでも、酸化インジウムスズがより好ましい。」

「[0044]<ガラス積層体およびその製造方法>
本発明のガラス積層体10は、上述した無機層付き支持基板16において無機層14の第1主面14aとガラス基板18の第1主面18aとを積層面として、無機層付き支持基板16とガラス基板18とを剥離可能に積層してなる積層体である。言い換えると、支持基板12とガラス基板18との間に、無機層14が介在する積層体である。
本発明のガラス積層体10の製造方法は特に制限されないが、具体的には、常圧環境下で無機層付き支持基板16とガラス基板18とを重ねた後、ロールやプレスを用いて圧着させる方法が挙げられる。ロールやプレスで圧着することにより無機層付き支持基板16とガラス基板18とがより密着するので好ましい。また、ロールまたはプレスによる圧着により、無機層付き支持基板16とガラス基板18との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。
[0045] 真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると、気泡の混入の抑制や良好な密着の確保が好ましく行われるのでより好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱により気泡が成長することがなく、ゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。
[0046] 無機層付き支持基板16とガラス基板18とを剥離可能に密着させる際には、無機層14およびガラス基板18の互いに接触する側の面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。クリーン度が高いほどその平坦性は良好となるので好ましい。
洗浄の方法は特に制限されないが、例えば、無機層14またはガラス基板18の表面をアルカリ水溶液で洗浄した後、さらに水を用いて洗浄する方法が挙げられる。
[0047] 本発明のガラス積層体10は、種々の用途に使用することができ、例えば、後述する表示装置用パネル、PV、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品を製造する用途などが挙げられる。なお、該用途では、ガラス積層体10が高温条件(例えば、350℃以上)で曝される(例えば、1時間以上)場合が多い。 ここで、表示装置用パネルとは、LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル、量子ドットLEDパネル、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)シャッターパネル等が含まれる。
[0048]<電子デバイスおよびその製造方法>
次に、電子デバイスおよびその製造方法の好適実施態様について詳述する。
図2は、本発明の電子デバイスの製造方法の好適実施態様における各製造工程を順に示す模式的断面図である。本発明の電子デバイスの好適実施態様は、部材形成工程および分離工程を備える。
以下に、図2を参照しながら、各工程で使用される材料およびその手順について詳述する。まず、部材形成工程について詳述する。
[0049][部材形成工程]
部材形成工程は、ガラス積層体中のガラス基板上に電子デバイス用部材を形成する工程である。
より具体的には、図2(A)に示すように、本工程において、ガラス基板18の第2主面18b上に電子デバイス用部材20が形成され、電子デバイス用部材付き積層体22が製造される。
まず、本工程で使用される電子デバイス用部材20について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
[0050](電子デバイス用部材(機能性素子))
電子デバイス用部材20は、ガラス積層体10中のガラス基板18の第2主面18b上に形成され電子デバイスの少なくとも一部を構成する部材である。より具体的には、電子デバイス用部材20としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品などに用いられる部材が挙げられる。表示装置用パネルとしては、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル等が含まれる。
[0051] 例えば、太陽電池用部材としては、シリコン型では、正極の酸化スズなど透明電極、p層/i層/n層で表されるシリコン層、および負極の金属等が挙げられ、その他に、化合物型、色素増感型、量子ドット型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、薄膜2次電池用部材としては、リチウムイオン型では、正極および負極の金属または金属酸化物等の透明電極、電解質層のリチウム化合物、集電層の金属、封止層としての樹脂等が挙げられ、その他に、ニッケル水素型、ポリマー型、セラミックス電解質型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、電子部品用部材としては、CCDやCMOSでは、導電部の金属、絶縁部の酸化ケイ素や窒化珪素等が挙げられ、その他に圧力センサ・加速度センサなど各種センサやリジッドプリント基板、フレキシブルプリント基板、リジッドフレキシブルプリント基板などに対応する各種部材等を挙げることができる。」

「[0057][分離工程]
分離工程は、上記部材形成工程で得られた電子デバイス用部材付き積層体22から無機層付き支持基板16を剥離して、電子デバイス用部材20およびガラス基板18を含む電子デバイス24(電子デバイス用部材付きガラス基板)を得る工程である。つまり、電子デバイス用部材付き積層体22を、無機層付き支持基板16と電子デバイス用部材付きガラス基板24とに分離する工程である。
剥離時のガラス基板18上の電子デバイス用部材20が必要な全構成部材の形成の一部である場合には、分離後、残りの構成部材をガラス基板18上に形成することもできる。」

上記記載から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ガラス基板18の第2主面18b表面上に液晶表示装置などの電子デバイス用部材が形成されたガラス基板18の製造方法であって、
ガラス基板18の取扱い性を向上させるために、支持基板12上に、表面のOH基数や表面平坦度を調整した窒化珪素からなり、ガラス基板18の第1主面18aと接触する層である無機層14を蒸着法、スパッタリング法、または、CVD法により設け、
無機層付き支持基板16とガラス基板18を、気泡の混入の抑制を目的として、真空ラミネート法や真空プレス法により圧着しガラス積層体10を製造し、
ガラス積層体10のガラス基板18の第2主面18b上に電子デバイス用部材を形成し、
電子デバイス用部材付き積層体10から無機層付き支持基板16を剥離する、
電子デバイス用部材が形成されたガラス基板18の製造方法。」

2 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開2014/084217号(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「技術分野
[0001] 本発明は、常温接合デバイス、常温接合デバイスを有するウェハおよび常温接合方法に関する。」

「[0019] 図3Aは、本実施の形態に係る第1の常温接合方法の概要を示す模式図である。第1の常温接合方法では、図3A(a)に示すように、真空中に配置した接合対象の材料Aおよび材料Bの表面に、イオンビームや原子ビームに代表される不活性元素の高速粒子ビームを照射する。その高速粒子ビームの粒子の衝突に応じて、材料Aおよび材料Bの表面から酸化膜層や不純物層がスパッタされて除去される。これにより材料Aおよび材料Bの表面は活性化し、それら表面にダングリングボンドと呼ばれる表面原子の結合手が現れる。その後、図3A(b)に示すように、この状態となった材料Aの表面と材料Bの表面とを接触させることにより、結合手同士が結ばれエネルギー的に安定な状態になる。それにより、接合対象の材料Aと材料Bとの接合が行われ、常温接合が完了する。」

3 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された、特開2013-89922号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、重合基板を被処理基板と支持基板に剥離する剥離装置、当該剥離装置を備えた剥離システム、当該剥離装置を用いた剥離方法、プログラム及びコンピュータ記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば半導体デバイスの製造プロセスにおいて、半導体ウェハ(以下、「ウェハ」とする)の大口径化が進んでいる。また、実装などの特定の工程において、ウェハの薄型化が求められている。例えば大口径で薄いウェハを、そのまま搬送したり、研磨処理すると、ウェハに反りや割れが生じる恐れがある。このため、例えばウェハを補強するために、例えば支持基板であるウェハやガラス基板にウェハを貼り付けることが行われている。そして、このようにウェハと支持基板が接合された状態でウェハの研磨処理等の所定の処理が行われた後、ウェハと支持基板が剥離される。」

「【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる剥離システム1の構成の概略を示す平面図である。
【0029】
剥離システム1では、図2に示すように被処理基板としての被処理ウェハWと支持基板としての支持ウェハSとが接着剤Gで接合された重合基板としての重合ウェハTを、被処理ウェハWと支持ウェハSに剥離する。以下、被処理ウェハWにおいて、接着剤Gを介して支持ウェハSと接合される面を「接合面WJ」といい、当該接合面WJと反対側の面を「非接合面WN」という。同様に、支持ウェハSにおいて、接着剤Gを介して被処理ウェハWと接合される面を「接合面SJ」といい、当該接合面SJと反対側の面を「非接合面SN」という。なお、被処理ウェハWは、製品となるウェハであって、例えば接合面WJに複数の電子回路が形成されている。また被処理ウェハWは、例えば非接合面WNが研磨処理され、薄型化(例えば厚みが50μm)されている。支持ウェハSは、被処理ウェハWの径と同じ径を有し、当該被処理ウェハWを支持するウェハである。なお、本実施の形態では、支持基板としてウェハを用いた場合について説明するが、例えばガラス基板等の他の基板を用いてもよい。」

「【0100】
この重合ウェハTは、被処理ウェハWと支持ウェハSの外周部のみを接着して接合させたものであってもよい。この場合、例えば支持ウェハSの表面の外周部が被処理ウェハW上の接着剤Gと接着して接合されるように形成されており、支持ウェハSの表面の中心部が接着剤Gと接着されないように形成されている。或いは、重合ウェハTは、被処理ウェハWと支持ウェハSの外周部の接着力が中心部の接着力よりも大きくなるように接着して接合されたものであってもよい。この場合、例えば被処理ウェハWと支持ウェハSの外周部には接着力の強い接着剤が用いられ、中心部には接着力の弱い接着剤が用いられる。」

4 引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された、特開2013-135181号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルデバイスの製造方法に関する。
【0002】
最近では、耐衝撃性や柔軟性にも優れるディスプレイの需要が高まりつつある。そこで、ディスプレイを構成している現行のガラス基板に代えて、フレキシブルフィルムを用いることが検討されている。
しかしながら、フレキシブルフィルム上に電子素子を形成する際には、基材であるフレキシブルフィルムには平坦性が要求されるところ、フレキシブルフィルムはその撓みや反りによって平坦性を確保することが難しい。そのため、フレキシブルフィルム上に電子素子を形成する場合には、支持基板上にフレキシブルフィルムを固定することにより、フレキシブルフィルムの平坦性を確保するという方法が採られている(例えば、特許文献1?3)。」

「【0016】
≪実施の態様≫
[フレキシブルデバイス]
図1はフレキシブルデバイス10の構造を示す模式断面図である。
フレキシブルデバイス10は、フレキシブルフィルム11、当該フレキシブルフィルム11の上に形成された電子素子12を備える。
【0017】
フレキシブルフィルム11は、可撓性を有する材料からなるフィルムである。フレキシブルフィルム11に用いることが可能な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリイミドベンゾオキサゾール、ポリイミドベンゾイミダゾールのほかにポリイミドを単位構造として含む共重合体、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレン、エチレン-プロピレン共重合体,エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリル-スチレン共重合体、ブタジエン-スチレン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、変形ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。また、これらの材料のうち1種または2種以上を組み合わせた多層構造であってもよい。」

5 引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された、特開2014-113687号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、薄ガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、搬送性、収納性およびデザイン性等の観点から、表示装置、照明装置および太陽電池の軽量、薄型化が進んでいる。また、これらの装置に用いられるフィルム状の部材を、ロール・ツー・ロールプロセスにより、連続生産することも行われている。例えば、ロール・ツー・ロールプロセスにより加工または処理することが可能な可撓性材料として、薄ガラスが多用される(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
薄ガラスは非常に脆いため、加工または処理する際に破損しやすく、破損により生じたガラス片が装置を汚染するという問題がある。薄ガラスの破損を防止するため、また、破損した場合にも装置が汚染されることを防止するため、薄ガラスの表面に保護フィルムを貼着する方法が知られている(例えば、特許文献3)。当該方法では、通常、薄ガラスの全面を覆うべく、薄ガラスの幅と同等以上の幅を有する保護フィルムが用いられる。しかし、このような保護フィルムが貼着された薄ガラスは、エッジ検出器を通過した後に巻き取られるとしても、該エッジ検出器は薄ガラス自体ではなく保護フィルムの最端部を検出する。そのため、薄ガラス自体を斜行および蛇行なく巻き取ることが困難となり、斜行または蛇行により薄ガラスが破損するという問題が生じる。」

「【発明を実施するための形態】
【0009】
<薄ガラス積層体の全体構成>
図1は、本発明の好ましい実施形態による薄ガラス積層体の概略断面図である。この薄ガラス積層体100は、長尺状の薄ガラス10と、薄ガラス10の片面に貼着された保護フィルム20とを備える。保護フィルム20の幅は、薄ガラス10の幅よりも狭い。また、薄ガラス10は、幅方向の両端部において、保護フィルム20の幅方向両端部から外側に延びる露出部11、11’を有する。すなわち、保護フィルム20の幅方向の両端は、薄ガラス10の幅方向の両端よりも内側にある。好ましくは、保護フィルム20は、任意の適切な基材21と粘着層22とを有し、該粘着層22を介して薄ガラス10に貼着されている。保護フィルム20は、薄ガラス10の片面にのみ貼着されていてもよく、両面に貼着されていてもよい(図示例では片面)。
【0010】
実用的には、薄ガラス積層体はロール状に巻き取られた状態で提供され得る。ロール状の薄ガラス積層体は、ロール・ツー・ロールプロセスによる加工または処理に供され得る。加工または処理の後、上記保護フィルムは、必要に応じて剥離される。したがって、上記保護フィルムは剥離可能に薄ガラスに貼着されることが好ましい。なお、本明細書において、巻回された薄ガラス積層体を、加工・処理装置に備えられる加工ロール(例えば、搬送ロール、加熱ロール)と区別して、単にロールと称する。
【0011】
上記のように、保護フィルムの幅方向の最端部が薄ガラスの内側にあるようにして、薄ガラスと保護フィルムとを貼着することにより、ロール・ツー・ロールプロセスにおいて、薄ガラス自体を斜行および蛇行なく搬送し巻き取ることができる。より詳細には、本発明の薄ガラス積層体は、幅方向の端部が薄ガラスのみから構成されているため、エッジ検出器を用いて薄ガラス積層体の斜行および蛇行を矯正する場合に、該エッジ検出器は、薄ガラス自体の最端部を検出することができる。その結果、薄ガラス自体の最端部を基準として斜行および蛇行を矯正することができ、薄ガラスと保護フィルムとが厳密に平行でなくとも、薄ガラス自体は巻きずれが生じず精度よく巻き取られ得る。このような薄ガラス積層体は、巻き取り時において、薄ガラスの破損が防止される。また、薄ガラス自体の斜行および蛇行を矯正することができるため、薄ガラス積層体の薄ガラスに他の部材(例えば、樹脂フィルム)をロール・ツー・ロールプロセスにより積層する場合にも、精度よく積層体を得ることができる。さらに、本発明の薄ガラス積層体は、保護フィルムが薄ガラスからはみ出すことがないため、粘着性の保護フィルムを片面にのみ貼着させたとしても、保護フィルムが加工ロールに付着することがなく、加工または処理中の薄ガラスの破損が防止される。さらに、本発明の薄ガラス積層体は、このように片面を露出させ得るので、両面を保護した薄ガラスよりも多様な加工または処理(例えば、樹脂の塗工、樹脂フィルムの積層、スパッタリング、フォトレジスト)に供され得る。
【0012】
上記保護フィルムの幅方向の両端が上記薄ガラスの幅方向の両端よりも内側にある限りにおいて、薄ガラスの露出部の幅(図1における幅a、a’)は、長さ方向に一定であってもよく、一定でなくてもよい。本発明によれば、該露出部の幅が一定ではない場合(例えば、保護フィルムと薄ガラスとが厳密に平行ではない場合)であっても、エッジ検出器を用いて薄ガラス自体を斜行および蛇行させることなく巻き取り得る薄ガラス積層体を提供することができる。また、該露出部の幅は、幅方向で同じであってもよく、異なっていてもよい。上記薄ガラスの露出部の幅は、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは3mm以上であり、さらに好ましくは5mm以上である。薄ガラスがこのような範囲の幅を有していることにより、加工または処理が終了して保護フィルムを剥離する際に、薄ガラス端部にかかる負荷を低減して、薄ガラスの破損を防止することができる。
【0013】
ロール状に巻き取られた薄ガラス積層体は、好ましくはロール側面、すなわち幅方向に露出した薄ガラスが保護材により保護される。さらに好ましくは、上記保護材は、ロールの表面の幅方向端部をさらに保護する。保護材としては、幅方向に露出した薄ガラスを保護し得る限り、任意の適切な保護材が用いられ得る。保護材としては、例えば、樹脂製板、木製板、金属製板、紙製板等から構成される円盤状または円周縁壁を有する円盤状の保護材が用いられ得る。」

「【0026】
<薄ガラス積層体の製造方法>
本発明の薄ガラス積層体は、上記薄ガラスと上記保護フィルムとを任意の適切な方法により積層して製造することができる。例えば、ラミネートロール等を用いてロール・ツー・ロールプロセスにより積層することができる。」

6 引用文献6の記載
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された、国際公開2013/154107号(以下、「引用文献6」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「技術分野
[0001] 本願発明は、有機系接着剤を用いることなく、高分子フィルムを接合する技術に関する。」

「[0067] 真空チャンバ内のプロセス開始前の真空度を、1×10^(-5)パスカル(Pa)以下とした。上記の無機材料層の形成から、表面活性化処理を経て、接合までの工程を、真空を破らずに行った。」

「[0084]<2. 第二の実施形態>
図9は、第一の実施形態に係る高分子フィルム同士の接合をより効率的に行うための、所謂ロールトゥロール方式の装置構成の一例を示す概略正面図である。」

7 引用文献7の記載
当審拒絶理由に引用された、国際公開2014/080874号(以下、「引用文献7」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている

「技術分野
[0001] 本発明は、絶縁膜を介した支持基板と半導体基板との貼り合わせ法を用いた複合基板の製造方法及び該製造方法により得られる複合基板に関する。」

「[0028] 次に、塗膜4aを600℃以上1200℃以下で加熱する焼成処理を行い、塗膜4aのポリシラザンをSiO_(2) 又はSiNに転化させて絶縁膜4とする(図1(c))。」

「[0030] ポリシラザンをSiNに転化する場合は、窒素を含む不活性雰囲気又は減圧真空下で600℃以上1200℃以下の加熱温度、好ましくは減圧真空下800℃以上1000℃以下の加熱温度で焼成処理を行う。加熱温度600℃未満では、SiNへの転化は進行しない。また、加熱温度が高いほど、絶縁膜4の表面粗さが改善される傾向にあるが、1200℃超ではSiNが分解してしまう。」

「[0036](工程3:半導体基板及び/又は支持基板の表面活性化処理工程)
貼り合わせの前に、半導体基板1のイオン注入された表面と、支持基板3上の絶縁膜4表面との双方もしくは片方に表面活性化処理を施す。
[0037] 表面活性化処理は、基板表面に反応性の高い未結合手(ダングリングボンド)を露出させること、又はその未結合手にOH基が付与されることで活性化を図るものであり、例えばプラズマ処理又はイオンビーム照射による処理により行われる。
[0038] プラズマで処理をする場合、例えば、真空チャンバ中に半導体基板1及び/又は支持基板3を載置し、プラズマ用ガスを導入した後、100W程度の高周波プラズマに5?10秒程度さらし、表面をプラズマ処理する。プラズマ用ガスとしては、半導体基板1を処理する場合、表面を酸化する場合には酸素ガスのプラズマ、酸化しない場合には水素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガス等を挙げることができる。支持基板3上の絶縁膜4を処理する場合は、水素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガス等を用いる。この処理により、半導体基板1の表面の有機物が酸化して除去され、更に表面のOH基が増加し、活性化する。また、支持基板3(絶縁膜4)の表面の不純物が除去され、活性化する。」

第4 対比
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明の「電子デバイス用部材」、「電子デバイス用部材が形成されたガラス基板18」、「支持基板16」、「無機層14」は、それぞれ本願発明1の「電子素子」、「表面に電子素子が形成される基板」、「搬送用基板」、「無機材料層」に相当する。

イ 引用発明は、ガラス基板18の取扱い性を向上させるために、支持基板12上に、表面のOH基数や表面平坦度を調整した窒化珪素からなり、ガラス基板18の第1主面18aと接触する層である無機層14を蒸着法、スパッタリング法、または、CVD法により設けており、この無機層14を設けることは、本願発明1の「表面に電子素子が形成される基板の搬送用基板が接合される接合予定面と該基板を搬送するための搬送用基板の接合予定面の少なくとも一方に、無機材料層を形成する形成工程」に相当する。

ウ 引用発明の「無機層付き支持基板16とガラス基板18を、気泡の混入の抑制を目的として、真空ラミネート法や真空プレス法により圧着しガラス積層体10を製造」することは、本願発明1の「基板と搬送用基板とを互いに押し付けて、無機材料層を介して基板と搬送用基板とを接合する接合工程」に相当する。また、本願発明1の「基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、バックグラウンド圧力が1×10^(-8)Pa以上大気圧未満である、真空ないしは減圧雰囲気中で行われること」から、引用発明と本願発明1とは、「基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、真空中で行われる」点で一致する。

エ 引用発明の「電子デバイス用部材付き積層体10から無機層付き支持基板16を剥離する」ことは、本願発明1の「基板と搬送用基板とを剥離する剥離工程」に相当する。

オ そうすると、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「表面に電子素子が形成される基板の製造方法であって、
表面に電子素子が形成される基板の搬送用基板が接合される接合予定面と該基板を搬送するための搬送用基板の接合予定面の少なくとも一方に、無機材料層を形成する形成工程と、
基板と搬送用基板とを互いに押し付けて、無機材料層を介して基板と搬送用基板とを接合する接合工程と、
基板と搬送用基板とを剥離する剥離工程と、を備え、
基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、真空中で行われること、
を特徴とする製造方法。」

[相違点1]
本願発明1は、「無機材料層を形成する形成工程が、真空中で行われ」ているのに対して、引用発明は、真空中で行うとの明記がない点。

[相違点2]
本願発明1が「基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒」しているのに対して、引用発明は対応する工程の明記がない点。

[相違点3]
基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、真空中で行われる点について、本願発明1が「基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、バックグラウンド圧力が1×10^(-8)Pa以上大気圧未満である、真空ないしは減圧雰囲気中で行われ」ているのに対して、引用発明の真空ラミネート法や真空プレス法がどのようなバックグラウンド圧力で行われているのか明記がない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
相違点2に係る「基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒」すことは、上記引用文献2ないし7には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2ないし19及び20ないし22について
本願発明2ないし19及び20ないし22も、本願発明1の「基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒」すことと同様の工程を備える製造方法であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明23及び24について
本願発明23及び24は、それぞれ請求項1ないし22に記載された製造方法により製造された薄型基板及びその薄型基板の表面に電子素子を形成した電子素子形成基板であるから、本願発明1の「基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒」すことにより、接合強度をコントロールし、および、接合強度の変化を生じ難くしているから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明25及び26について
本願発明25及び26は、それぞれ本願発明1の「基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒」すこと同様の工程を備える基板の搬送方法であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献25及び26に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定の判断
原査定は、請求項1ないし30について上記引用文献1ないし6に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、本件補正により請求項1ないし26は、それぞれ「基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒」すこと、または、「基板接合工程の前に、接合強度をコントロールするため、および、接合強度の変化を生じ難くするために、基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒」すことにより生じる、接合強度をコントロールし、および、接合強度の変化を生じ難くしているから、上記第4のとおり、本願発明1ないし26は、原査定で引用した引用文献1ないし6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第2号について
(1)当審では、請求項24の「不活性ガス」が、請求項1及び20に記載された「不活性ガス」と同じ「不活性ガス」を意味するのか、異なる「不活性ガス」を意味するのか、不明であるとの拒絶の理由を通知しているが、本件補正により請求項24を削除すると共に、請求項1及び20に「基板と搬送用基板の接合面の少なくとも一方を窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスを含むガス雰囲気中に晒すこと、基板と搬送用基板とを接合する接合工程が、バックグラウンド圧力が1×10^(-8)Pa以上大気圧未満である、真空ないしは減圧雰囲気中で行われること」との限定を加えた結果、この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では、請求項25の「不活性ガス」が、請求項24に記載された「不活性ガス」を意味するのか、請求項1及び20に記載された「不活性ガス」を意味するのか、不明であるとの拒絶の理由を通知しているが、本件補正により請求項25を削除した結果、この拒絶の理由は解消した。

(3)当審では、請求項29及び30に記載された「基板の搬送方法」が、基板の搬送工程を特定していないために、請求項29及び30に記載された発明が「基板の搬送方法」であることが明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、本件補正により対応する請求項25及び26に、それぞれ「接合工程で接合した基板と搬送用基板の基板接合体を、基板接合体の基板上に電子素子を形成するために搬送することを含む電子素子形成工程」及び「接合工程で接合した基板とフィルムの基板接合体を、基板接合体の基板上に電子素子を形成するために搬送することを含む電子素子形成工程」を付加した結果、これらの拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし26は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-24 
出願番号 特願2016-534485(P2016-534485)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 土谷 慎吾  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小田 浩
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 薄型基板およびその製造方法、並びに基板の搬送方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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