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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
管理番号 1368974
異議申立番号 異議2019-700882  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-08 
確定日 2020-10-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6510402号発明「複合化合物、リチウム含有複合酸化物、及びそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6510402号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6510402号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6510402号の請求項1?12に係る発明についての出願は、2014年(平成26年)4月18日(優先権主張 平成25年4月25日)を国際出願日とする出願であって、平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月8日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 1年11月 8日付け:特許異議申立人 金澤毅(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1?12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 1月29日付け:特許権者に対する審尋
令和 2年 2月17日付け:特許権者による上記審尋に対する回答書の提出
令和 2年 3月27日付け:取消理由通知
令和 2年 5月27日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 8月 3日付け:特許異議申立人による意見書の提出

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

令和2年5月27日付け訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、この請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1からなる(下線部は訂正箇所)。

訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1における「レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)が2.00以下であり、」との記載を、「レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)が1.98以下であり、」に訂正する。(請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2?12も同様に訂正される。)

一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を訂正前の請求項2?12が直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?12に係る発明は一群の請求項である。
したがって、請求項1に係る訂正事項からなる本件訂正請求は、一群の請求項1?12について請求したものと認められる。

2.訂正の判断

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、請求項1に記載された「複合化合物」の発明において、「レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)」の上限を「2.00」から「1.98」に限定して、複合化合物をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)の上限が1.98であることは、本件明細書の段落0019に、「本複合化合物の(D_(90)/D_(10))は、2.00以下であり、1.70?1.98が好ましく、1.80?1.95がより好ましい。」と記載されていることから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)独立特許要件について

特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1?12についてされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.まとめ

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?12について訂正することを認める。

第3.本件発明について

本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明12」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるものとおりのものであると認める(下線部は訂正箇所)。

「【請求項1】
ニッケル及びマンガンを含有し、レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)が1.98以下であり、タップ密度が1.9g/cm^(3)以上であり、平均円形度が0.960以上であり、水酸化物であることを特徴とする複合化合物。
【請求項2】
体積基準累積50%径(D50)が5.0?13.0μmである請求項1に記載の複合化合物。
【請求項3】
更にコバルトを含有する請求項1又は2に記載の複合化合物。
【請求項4】
複合化合物におけるニッケルの含有量が、ニッケル、マンガン及びコバルトの合計に対して、44?68mol%であり、マンガンの含有量が22?44mol%であり、コバルトの含有量が4?28mol%である請求項3に記載の複合化合物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の複合化合物の製造方法であって、
ニッケル及びマンガンを含有する水溶液とアルカリとを第1の反応容器に連続的に添加して核粒子を析出して、前記核粒子を含有する核粒子含有液を得る核粒子含有液作製工程と、
前記第1の反応容器内の前記核粒子含有液の一部を、前記第1の反応容器から第2の反応容器へ連続的に移す移動工程と、
前記核粒子含有液が入った前記第2の反応容器に、ニッケル及びマンガンを含有する水溶液とアルカリとを連続的に添加して核粒子を成長させつつ、得られた反応液から一部の上澄み液を除去する粒子成長工程とを含み、前記第2の反応容器内を、室温30℃を基準とした場合のpHを9.5?10.5に保持して行うことを特徴とする複合化合物の製造方法。
【請求項6】
前記移動工程が、前記第1の反応容器からオーバーフローした前記核粒子含有液を、前記第2の反応容器へ移す工程である請求項5に記載の複合化合物の製造方法。
【請求項7】
リチウム化合物と、請求項1から4のいずれか1項に記載の複合化合物とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とするリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
リチウム含有複合酸化物が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項7に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
LiaNixMnyCozMebOcFd ・・・一般式(1)
ただし、前記一般式(1)において、1.02≦a≦1.12、0<x≦1.0、0<y≦1.0、0≦z≦1.0、0≦b≦0.3、0.90≦x+y+z+b≦1.05、1.9≦c≦2.1、及び0≦d≦0.03であり、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、及びZrからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【請求項9】
請求項7または8に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法により得られるリチウム含有複合酸化物と、バインダーと、導電材と、溶媒とを含有する塗布液を、正極集電体上に塗布して、リチウム含有複合酸化物と、バインダーと、導電材とを含有する正極活物質含有層を形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム含有複合酸化物のタップ密度が1.9g/cm^(3)?3.0g/cm^(3)であり、平均円形度が0.950以上である請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
前記正極活物質含有層に1t/cm以下の圧力を加える加圧工程を含む請求項9又は10に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
正極を作製する正極作製工程と、
前記正極と、セパレータと、負極とを積層して積層物を作製する積層物作製工程と、
前記積層物に非水電解質を含有させる非水電解質付与工程とを含み、
前記正極作製工程が、請求項9?11のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。」

第4.取消理由について

取消理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3、7?12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

1.本件発明

本件発明1?12は、上記第3.で示したとおりである。

2.引用文献

文献1:特開2008-147068号公報(特許異議申立人が甲第2号証として提示した文献)
文献2:特開平10-310433号公報(特許異議申立人が甲第3号証として提示した文献)
文献3:特開2010-15959号公報(特許異議申立人が甲第4号証として提示した文献)
文献4:特開2003-217582号公報
文献5:特開2005-255225号公報
文献6:特開2011-256058号公報

3.引用文献の記載事項

(1)文献1
文献1には、以下の記載がある。

(1a)
「【0001】
本発明は、特定の組成と平均粒径および粒度分布を有する出力特性に優れた非水電解液二次電池用リチウム複合酸化物に関するものである。」

(1b)
「【発明の効果】
【0008】
本発明によって得られるリチウム複合酸化物は、高い充填性を有し、充放電容量特性及び高出力特性に優れ、充放電負荷の大きい条件下であっても劣化しにくいので、これを用いることにより、優れた出力特性を持ち、かつサイクル特性の劣化の少ないリチウムイオン非水電解液二次電池を得ることが出来る。」

(1c)
「【0014】
また、上述のようなリチウム複合酸化物としては、その粒径、即ち当該リチウム複合酸化物の粒度分布曲線において、その累積頻度が50%の粒径を意味する平均粒径D50が3?15μmであることが好ましい。かかる粒径が3μm未満では、比表面積が大きくなって電解液との反応が起こり易くなり、正極活物質表面への分解物形成などにより、充放電時のリチウム可逆性が損なわれる可能性が高くなり、15μmを超えると、正極活物質と電解液との反応面積が小さくなり、リチウムの出入りの速度が高速充放電に追いつかず、出力特性が悪化することがある。また、粒子の不均一性により、充放電負荷が粒子によって異なり、高い出力特性の場合には粒子の耐久性にばらつきが生じ、結果として全体の劣化を引き起こす。このような点から、粒度分布曲線において、粒子の大きさがより均一性の高いことが望まれる。具体的な均一性の尺度としては、粒度分布曲線において、その累積頻度が50%の粒径を意味する平均粒径50Dが3?15μmで、最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下の粒度分布を有する粒子であり、かつその累積頻度が10%のD10と、90%のD90との関係において、D10/D50が0.60?0.90、D10/D90が0.30?0.70の範囲内にあることが好ましい。」

(1d)
「【0022】
以下、本発明を具体的な実施例及び比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例における物性等は各々次のようにして測定した。
結晶相 :粉末X線回折パターンにより同定した。
比表面積 :BET法により求めた。
粒径分析 :マイクロトラックX-100を用いて測定を行った。
タップ密度:20mlシリンダーに充填し500回タッピングした後、測定した。
【実施例1】
【0023】
反応槽に硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンを含有する硫酸塩アンモニア水溶液を攪拌機にて攪拌しながら、それぞれ連続的に滴下し、反応槽内のpHが11となるように水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。その時の反応温度は、50℃で制御した。得られたスラリーを濾過、水洗し、乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粉体を得た。
【0024】
また、反応時間を制御することにより、粒径及び粒度分布の均一度の異なるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得ることが出来た。得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の平均粒径は、3?15μmであった。また、その時のD10/D50は0.45?0.90であり、D10/D90は0.20?0.80であった。
【0025】
平均粒径3μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.72、D10/D90が0.47であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=4:2:4)に、Li2CO9を(Ni+Co+Mn)に対してLiが1.05のモル比となるように添加し、十分に混合した。この混合物100gをアルミナ製るつぼに仕込み1L/minの空気流通下、900℃で10時間焼成(昇降温速度3℃/min)した後、解砕して、組成式Li1.05Ni0.40Co0.20Mn0.40O2の層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は3.5μm、BET比表面積は2.8m^(2)/gであった。
【実施例2】
【0026】
平均粒径5μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.75、D10/D90が0.45であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=4:2:4)を原料として用いた以外は、(実施例1)と同様にしてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は7.8μm、BET比表面積は1.8m^(2)/gであった。
【実施例3】
【0027】
平均粒径10μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.70、D10/D90が0.50であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=4:2:4)を原料として用いた以外は、(実施例1)と同様にしてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は9.3μm、BET比表面積は0.75m^(2)/gであった。
【実施例4】
【0028】
反応槽に硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガン及び硫酸チタンを含有する硫酸塩アンモニア水溶液を使用した以外は、(実施例1)と同様にしてニッケルコバルトマンガンチタン複合水酸化物(Ni:Co:Mn:Ti=3.96:1.98:3.96:0.1)を得た。
【0029】
このようにして得られた平均粒径10μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.73、D10/D90が0.45であるニッケルコバルトマンガンチタン複合水酸化物(Ni:Co:Mn:Ti=3.96:1.98:3.96:0.1)に、Li2CO3を(Ni+Co+Mn+Ti)に対してLiが1.05のモル比となるように添加し、十分に混合した。この混合物100gをアルミナ製るつぼに仕込み1L/minの空気流通下、900℃で10時間焼成(昇降温速度3℃/min)した後、解砕して、組成式Li1.05Ni0.396Co0.198Mn0.396Ti0.01O2の層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は9.4μm、BET比表面積は0.80m^(2)/gであった。
【実施例5】
【0030】
平均粒径3μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.71、D10/D90が0.45であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=5:2:3)に、Li2CO3を(Ni+Co+Mn)に対してLiが1.05のモル比となるように添加し、十分に混合した。この混合物100gをアルミナ製るつぼに仕込み1L/minの空気流通下、900℃で10時間焼成(昇降温速度3℃/min)した後、解砕して、組成式Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30O2の層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は3.3μm、BET比表面積は1.5m^(2)/gであった。
【実施例6】
【0031】
平均粒径5μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.67、D10/D90が0.50であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=5:2:3)を原料として用いた以外は、(実施例5)と同様にしてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は7.2μm、BET比表面積は0.71m^(2)/gであった。
【実施例7】
【0032】
平均粒径10μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.69、D10/D90が0.43であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=5:2:3)を原料として用いた以外は、(実施例5)と同様にしてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は11.3μm、BET比表面積は0.35m^(2)/gであった。
[比較例1]
【0033】
平均粒径10μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.65、D10/D90が0.78であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=4:2:4)を原料として用いた以外は、(実施例1)と同様にしてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は9.3μm、BET比表面積は1.9m^(2)/gであった。
[比較例2]
【0034】
平均粒径10μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.85、D10/D90が0.73であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=4:2:4)を原料として用いた以外は、(実施例1)と同様にしてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は9.4μm、BET比表面積は2.2m^(2)/gであった。
[比較例3]
【0035】
平均粒径15μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.71、D10/D90が0.47であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=4:2:4)に、Li2CO3を(Ni+Co+Mn)に対してLiが1.05のモル比となるように添加し、十分に混合した。この混合物100gをアルミナ製るつぼに仕込み1L/minの空気流通下、900℃で10時間焼成(昇降温速度3℃/min)した後、解砕して、組成式Li1.05Ni0.40Co0.20Mn0.40O2の層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は15.8μm、BET比表面積は0.16m^(2)/gであった。
[比較例4]
【0036】
平均粒径2μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.65、D10/D90が0.38であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(Ni:Co:Mn=4:2:4)に、Li2CO3を(Ni+Co+Mn)に対してLiが1.05のモル比となるように添加し、十分に混合した。この混合物100gをアルミナ製るつぼに仕込み1L/minの空気流通下、900℃で10時間焼成(昇降温速度3℃/min)した後、解砕して、組成式Li1.05Ni0.40Co0.20Mn0.40O2の層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は2.5μm、BET比表面積は3.5m^(2)/gであった。
[比較例5]
【0037】
硫酸チタンの添加量を変えた以外は、(実施例4)と同様にしてニッケルコバルトマンガンチタン複合水酸化物(Ni:Co:Mn:Ti=3.88:1.94:3.88:0.3)を得た。
【0038】
このようにして得られた平均粒径10μmであり、粒度分布の均一度D10/D50が0.80、D10/D90が0.52であるニッケルコバルトマンガンチタン複合水酸化物(Ni:Co:Mn:Ti=3.88:1.94:3.88:0.3)に、Li2CO3を(Ni+Co+Mn+Ti)に対してLiが1.05のモル比となるように添加し、十分に混合した。この混合物100gをアルミナ製るつぼに仕込み1L/minの空気流通下、900℃で10時間焼成(昇降温速度3℃/min)した後、解砕して、組成式Li1.05Ni0.383Co0.194Mn0.388Ti0.03O2の層状構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。この二次粒子の平均粒径は9.0μm、BET比表面積は0.87m^(2)/gであった。」

(1e)
「(電池作製及び評価)
【0039】
実施例1乃至7及び比較例1乃至5で製造した層状リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粉体を用いて、以下の方法で電池の作製及び評価を行った。
(正極の作製)
【0040】
活物質粉末として上記粉体90重量部にアセチレンブラック6重量部及びPVDF(ポリ弗化ビニリデン)4重量部、NMP(N-メチルピロリドン)を加え混練しペースト化した。このペーストを20μm厚のアルミニウム箔に片面に塗布し、130℃で真空乾燥を行い、2cm^(2)の円盤状に打ち抜いて正極とした。
(負極の作製)
【0041】
負極活物質として平均粒径15?20μmの黒鉛粉末(d=3.36Å)90重量部及びPVDF(ポリ弗化ビニリデン)10重量部、NMP(N-メチルピロリドン)を加え混練しペースト化した。このペーストを20μm厚の銅箔の片面に塗布し、130℃で真空乾燥を行い、2cm^(2)の円盤状に打ち抜いて負極とした。
(電池の組立)
【0042】
2032型コインセルを使用して電池性能を評価した。コインセルの正極缶の上に、上記各実施例及び比較例の層状リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いて作製した上述の正極を置き、その上に多孔性ポリエチレン製セパレーターを置き、ポリプロピレン製ガスケットで押さえた後、非水電解液として、EC(エチレンカーボネート):DMC(ジメチレンカーボネート)=1:2(容量比)の溶媒にLiPF6を1mol/lで溶解した電解液を加え、負極及び負極缶を載せて封口し、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。」

(1f)
「【0049】
上記各実施例及び比較例の物性値及び電池特性値を下記表1にまとめる。
尚、本発明者は、コイン電池での出力特性評価で1cm^(2)当たりの初期出力値が70mW以上あれば、実用上問題ないことを確認している。
【表1】




上記(1d)で摘示した段落0027には、実施例3として、平均粒径が10μmであり、Ni:Co:Mn=4:2:4であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の、D10/D90が0.50であることが記載されており、当該ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物のD90/D10は2.00である。
したがって、文献1には、
「平均粒径が10μmであり、D90/D10は2.00であり、Ni:Co:Mn=4:2:4であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物。」(以下、「引用発明1」という。)の発明が記載されている。

(2)文献2

文献2には、以下の記載がある。

(2a)
「【0010】本発明のNiを含む水酸化物または酸化物は粉末状であり、粉の形状は球状もしくは球に類する形状に凝集した外観を呈することが好ましい。球状もしくは球に類する形状以外の不定な形状の粉末では、リチウム複合酸化物に焼成した場合での充填密度が低下する等の不具合が生じる。本発明の水酸化物または酸化物はそのタップ密度が1.9g/ml以上であることが好ましい。」

(3)文献3

文献3には、以下の記載がある。

(3a)
「【0053】
以上のような条件で、共沈殿工程を行うことにより得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は、タップ密度が2.0g/cm^(3)以上である。ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子のタップ密度が2.0g/cm^(3)未満では、後工程で得られるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子のタップ密度も2.0g/cm^(3)未満となり、最終的に得られる非水系電解質二次電池用正極活物質の高密度化が困難となる。ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子のタップ密度の上限は、特に限定されるものではないが、通常の製造条件での上限は、3g/cm^(3)程度である。」

(3b)




(4)文献4

文献4には、以下の記載がある。

(4a)
「【0020】次に本実施例で得られた正極活物質を用いて正極板を作製した。合成した正極活物質と導電材としてアセチレンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを重量比で100:3:4の割合で混合しN-2メチルピロリドンを加えてペースト状にして厚さ15μmのアルミ箔の両面に塗布し、乾燥後、圧延して幅40mm、長さ400mm、厚み125μmの正極板を得た。正極板にはリード取り付け部分などの合剤無塗工部分が設けてあり、合剤塗工部分の長さは片面塗工に換算して630mmとした。塗工後極板の圧延はロールプレス機を用いて線圧1t/cmの条件で活物質密度が3.5g/ccになるように3から5回プレスした。活物質密度とは(合剤中に含まれる活物質重量)/(極板合剤部分の幾何体積)の値である。」

(5)文献5

文献5には、以下の記載がある。

(5a)
「【実施例1】
【0038】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳述する。
(正極電極板ロールの梱包体)正極塗工液の材料としては、1?100μmの粒径を持つ平均粒径10μmのLiCoO_(2)粉末を90質量部、導電材としてグラファイト粉末を5.0質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン樹脂(ネオフロンVDF、VP-850ダイキン工業(株)製)を5質量部、N-メチルピロリドン50質量部の配合比で用いた。これらの材料のうち、ポリフッ化ビニリデンをN-メチルピロリドンにて溶解して、予めワニスを作製し、得られたワニスに他の粉末材料を入れた後、プラネタリーミキサー((株)小平製作所製)にて30分間撹拌混合することにより、スラリー状の正極活物質を含む正極塗工液を得た。
上記で得られた正極塗工液を用い、厚さ15μm及び幅600mmのアルミ箔からなる集電体上にダイコーターにて、図1に示すようなパターンになるように、正極活物質塗工液の塗工を行い、140℃で乾燥してアルミ箔上に塗工膜を形成し、更にロールプレス機にて線圧1t/cmでプレスを行い、長さが800mmで肉厚が7mmのアルミニウム製の巻芯に巻き取って、複数列の正極電極板テープからなる正極電極板ロールを得た。」

(6)文献6

文献6には、以下の記載がある。

(6a)
「【0035】
その際、六方晶Baフェライトの素原料となる粉末は、平均粒子径が0.1?5μm、より好ましくは0.1?1μmであることが仮焼時の焼結性を高める点で望ましい。なお、「平均粒子径」とは、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径d50を意味する。粉体の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱法によるマイクロトラック粒度分布測定装置X-100(日機装株式会社製)を用いて測定できる。」

4.対比・判断

(1)本件発明1について

本件発明1と引用発明1を対比する。
上記3.(1)の(1d)で摘示した文献1の段落0022には、粒径分析をマイクロトラックX-100で行うことが記載されている。一方、上記3.(6a)で摘示した文献6の段落0035には、マイクロトラック粒度分布測定装置X-100がレーザ回折・散乱法により測定することが記載されており、マイクロトラック粒度分布測定装置は一般的に体積基準粒度分布を測定するものであることから、引用発明1のD90/D10は、本件発明1における「レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)」に相当する。また、引用発明1のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物は、ニッケル及びマンガンを含有する水酸化物からなる複合化合物であることから、本件発明1における「ニッケル及びマンガンを含有」する「水酸化物」である「複合化合物」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、「ニッケル及びマンガンを含有し、水酸化物であることを特徴とする複合化合物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1
本件発明1に係る発明が、「レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)が1.98以下」であるのに対して、引用発明1はD90/D10が2.00である点。

相違点1-2
本件発明1に係る発明が、「タップ密度が1.9g/cm^(3)以上であり、平均円形度が0.960以上」であるのに対して、引用発明1はタップ密度及び平均円形度が明示されていない点。

始めに、上記相違点1-1について検討する。
上記3.(1)の(1d)で摘示した段落0024には、反応時間を制御することにより、D10/D90が0.20?0.80の範囲のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が得られたことが記載されており、本件発明1におけるD90/D10に換算すると、得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の範囲は1.25?5である。
しかしながら、文献1において引用した実施例3においては、D90/D10の値は0.50であり、上記段落0024にも、D10/D90が0.20?0.80の範囲内で、どのように設定するかについては記載も示唆もされていない。
してみると、引用発明1において、D90/D10を2.00から変更する動機を見いだせず、引用発明1において、D90/D10を1.98以下とすることは、当業者であっても容易に想到することができたものとは認められない。
したがって、上記相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、文献1に記載された発明に基いて、当業者であっても容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2?12について

本件発明2?12は、本件発明1に係る記載を直接又は間接的に引用し、上記相違点1-1に係る発明特定事項である「レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)が1.98以下」であることを、発明特定事項として有するものである。
そして、上記発明特定事項が、文献1に記載された発明に基いて、当業者であっても容易に想到することができたものではないことは、上記(1)で検討したとおりである。
したがって、本件発明1?12も、文献1に記載された発明に基づいて、当業者であっても容易に発明をすることができたものではない。

5.令和2年8月3日付け意見書における特許異議申立人の主張について

(1)特許異議申立人の主張の概要

令和2年8月3日付け意見書における特許異議申立人による、文献1(甲第2号証)を主引例とした場合についての主張は、要するに、以下のとおりである。

(i)文献1の段落0024には、D90/D10が1.25?5であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が得られたことが記載されており、本件発明1のD90/D10の範囲を充足する具体的な例が開示されている。
(ii)文献1の段落0014には、D90/D10等のパラメータが大きく、粒子のサイズが不均一な場合、全体の劣化が生じることとなり、サイクル特性が低下することが示されており、本件発明と技術思想が異なる旨の特許権者の主張は妥当性を欠いている。

(2)当審の判断

取消理由における引用発明は、上記3.(1)のとおり、実施例3を認定したものである。そして、実施例3に記載されているD10/D90が0.5であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物において、D10/D90を0.5以上とする、即ちD90/D10を2.00未満とする動機は、文献1に見いだせない。
さらに、文献1の段落0023?0025に記載されている実施例1においては、D10/D90が0.47のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物であるし、段落0024における特許異議申立人が提示する記載は、D10/D90を0.20?0.80の範囲で制御することができることを示すものであって、D10/D90を上記範囲内で制御した結果が実施例1?5におけるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物であると解される。そして、D10/D90が例えば0.80(D90/D10が1.25)のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が実際にどのような性状のものであるかは不明であるから、D10/D90が0.20?0.80の範囲内全てのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が、文献1に実際に記載されているとは認められない。
したがって、上記(i)の主張は採用しない。
また、文献1の段落0014の記載は、複合酸化物に関する記載であって、複合水酸化物に関する記載ではなく、複合水酸化物のD10/D90と複合酸化物のD10/D90の関係や、複合水酸化物のD10/D90として好ましい範囲については、文献1には記載も示唆もされていない。
してみると、文献1の実施例3において複合水酸化物のD10/D90を変更する動機を見出すことができないことには変わりがないから、上記(ii)の主張は、上記4.の判断に影響を与えるものではない。

6.まとめ
本件発明1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第5.特許異議申立書における申立理由及び令和2年8月3日付け意見書において主張する取消理由について

1.特許異議申立書における申立理由について

(1)申立理由の概要

特許異議申立書における申立理由は、要するに、以下のとおりである。

・申立理由1
本件訂正前の請求項1?5、7?12に係る発明は、甲第1号証として提示する国際公開第2012/169083号に記載された発明である。

・申立理由2
本件訂正前の請求項1?12に係る発明は、甲第1号証及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・申立理由3
本件訂正前の請求項1?4、7?10、12に係る発明は、甲第2号証として提示する上記文献1に記載された発明である。

・申立理由4
本件訂正前の請求項1?4、7?12に係る発明は、甲第2号証及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・申立理由5
本件明細書には、平均円形度の測定条件が記載されていないため、どのような特性を有する数値であるかを当業者が理解できないから、平均円形度についての規定を有する本件発明1?12は不明確である。

・申立理由6
本件訂正前の請求項5、6に係る発明は、「室温30℃を基準とした場合のpHを9.5?10.5に保持して行う」との規定を有するが、「室温」からは、pHに影響を与える「液温」が一義的に決まらないから、本件訂正前の請求項5、6に係る発明は不明確である。

・申立理由7
本件訂正前の請求項11、12に係る発明は、「前記正極活物質含有層に1t/cm以下の圧力を加える加圧工程を含む」との規定を有するが、圧力の単位として「t/cm」は一般的に用いられるものではないため、本件訂正前の請求項11、12に係る発明は不明確である。

(2)当審の判断

ア.申立理由1、2について

甲第1号証には、核生成工程と、粒子成長工程を有するニッケル、コバルト及びマンガンを含有する複合水酸化物が記載されている(段落0081?0127)が、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する複合水酸化物のD90/D10、タップ密度及び平均円形度については記載されていない。また、段落0056には、「本発明の複合水酸化物粒子は、図5に例示されるように、略球状の粒子である。具体的には、図6に例示されているように、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子となっており、さらに詳細には、粒子内部は微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子からなる外殻部を有する構造を備えている。」と記載されており、その粒子の形状は下記に摘示する図6に記載されているものである。





ここで、特許異議申立書第46頁?第47頁の「・構成要件(C)について」において、特許異議申立人は、「本件特許発明1?4で規定する化合物は、本件特許発明5で規定する複合化合物の製造方法により得られるものと認められる。そして、「(3-1-5)特許発明5と甲第1号証記載の発明との対比」で後述するように、特許発明5は甲第1号証に開示されている。そうすると、甲第1号証においても、特許発明5で規定する製造方法により得られる特許発明1の構成要件(C)を充足する複合化合物が得られるものといえ、相違点とはならない。」と述べている。なお、構成要件(C)とは、同第17頁より「タップ密度が1.9g/cm^(3)以上」であることである。
一方、本件明細書においては、段落0024?0047に核粒子含有液作成工程と粒子成長工程とを有する複合化合物の製造方法が記載されているが、複合化合物の粒子の構造については記載されていない。そして、段落0011に記載されている本件発明が解決しようとする課題は、プレス圧力が低くても密度の高い電極を得ることでき、単位体積あたりの放電容量、及びレート特性に優れ、さらにサイクル特性が非常に優れるリチウム含有複合酸化物の前駆体として有用な複合化物を得ることであり、さらに、段落0118の表1には、比較例1?4としてタップ密度が1.2?1.8であることが記載されていることから、本件発明はタップ密度を高めることにより、プレス圧力が低くても密度の高い電極を得ることを実現するものであって、本件発明1の構成要件(C)であるタップ密度が1.9g/cm^(3)以上であることは、従来技術よりも高いタップ密度であるものと認められる。
それに対し、上記で摘示した図6に見られる複合水酸化物は、一次粒子からなる中心部の周りに、板状または針状の粒子からなる外殻部を有する二次粒子であり、外殻部を構成する板状または針状の粒子が、他の二次粒子の外殻部を構成する板状または針状の粒子と絡まり合うことにより、外殻部が板状または針状の粒子から構成されない粒子よりもタップ密度が低下するものと推認される。
してみると、従来技術よりも高いタップ密度である1.9g/cm^(3)以上であるタップ密度を、甲第1号証に記載されている複合水酸化物の粒子が満足できるとはいえない。
また、甲第1号証に記載されている複合水酸化物の製造方法は、本件発明5に記載されている複合化合物の製造方法と同一であるとはいえない。
したがって、申立理由1、2は理由がない。

イ.申立理由3、4について

本件発明1?12と甲第2号証である文献1に記載された発明とには、実質的な相違点があり、当該相違点が当業者であっても容易に想到することができたものではないことは、上記第4.4の(1)及び(2)で検討したとおりである。
したがって、申立理由3、4は理由がない。

ウ.申立理由5について

申立理由5について、令和2年2月17日付け回答書において、特許権者は、本件明細書の段落0022に「フロー式粒子像分析装置(Malvern社製、FPIA-3000)」を用いて平均円形度を測定することが記載されており、「フロー式粒子像分析装置(Malvern社製、FPIA-3000)は、当業界においてしばしば用いられるよく知られた装置であり、この装置は通常の取り扱い方法により、粒子画像の画像解析及び平均円形度の測定で、自動でなされる。」と主張している。
そして、例えば‘粒子形状測定技術’(日本画像学会誌、第46巻第6号、465?471頁、2007年)の第469頁右欄?470頁の「3.フロー式画像解析法について」に記載されているように、FPIA-3000は、約2分で最大36万個の粒子を画像処理して解析することができるものであるため、測定する粒子の数は測定数に影響が生じない程度の数を当業者が適宜選択し、測定することが可能であると認められる。また、当業者においてしばしば用いられる装置においては、その測定条件も当業者によく知られたものであるため、通常の取り扱い方法である当業者によく知られた条件を用いることが、当業者には可能であると認められる。
したがって、上記申立理由5には理由がない。

エ.申立理由6について

申立理由6について、上記回答書において、特許権者は、「室温30℃を基準としたpHは、室温30℃に反応液を放置すれば、液温も30℃となることは当然のことであり、当業者にとって十分理解可能な記載である。」と主張している。
そして、pH等の温度により変化する値を測定する際には、通常、測定対象を一定の温度に維持して行われるものであるから、本件発明5、6における「室温30℃を基準とした場合のpH」は、測定対象であるpHを測定する溶液の温度が室温と同じ30℃であることを当業者は理解するものである。
したがって、申立理由6は理由がない。

オ.申立理由7について

申立理由7について、上記回答書において、特許権者は、「本件発明における加圧工程は、ロールプレスによって行われるため、加圧部分の定義が線(一次元)となる。したがって、規格化する場合単位長さあたりの圧力となり、その結果t/cmという単位となる。一般に「線圧」と呼ばれるものであり、普通に用いられている単位である。」と主張している。
そして、線圧の単位であるt/cmはロールプレスにおいて一般的に用いられる単位であるため、申立理由7は理由がない。

2.令和2年8月3日付け意見書にて主張する取消理由について

(1)取消理由の概要

令和2年8月3日付け意見書にて、特許異議申立人が主張する取消理由は、要するに、以下のとおりである。

・取消理由(1)
特許異議申立書における申立理由1?4と同じ理由により、特許法第29条第1項の規定により、また特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

・取消理由(2)
本件明細書には、平均円形度の測定条件が記載されていないため、どのような特性を有する数値であるかを当業者が理解できず、特許権者が回答書において主張する「通常の取り扱い方法」や、自動でなされるとする条件については言及されていないから、平均円形度についての規定を有する本件発明1?12は不明確である。

・取消理由(3)
本件発明5、6は、「室温30℃を基準とした場合のpHを9.5?10.5に保持して行う」との規定を有するが、「室温」からは、pHに影響を与える「液温」が一義的に決まらないから、本件発明5、6は不明確である。また、回答書において特許権者は、室温で放置することを主張しているが、室温30℃に反応液を保持することは本件発明5では規定されていない。

・取消理由(4)
本件発明5、6は、「前記第1の反応容器内の前記核粒子含有液の一部を、前記第1の反応容器から第2の反応容器へ連続的に移す移動工程」との規定を有するが、「連続的に移す」との操作が具体的にどのような操作を意味しているのかが不明確であり、本件発明5、6は不明確である。

(2)当審の判断

ア.取消理由(1)について

特許異議申立書における申立理由1?4については、上記1.(2)のア.及びイ.で検討したとおり理由がないため、取消理由(1)は理由がない。

イ.取消理由(2)について

平均円形度の測定条件等については、上記1.(2)のウ.で検討したとおりである。
また、「通常の取り扱い方法」は、当業者によく知られた方法であると認められることも、上記1.(2)のウ.で検討したとおりである。
したがって、取消理由(2)は理由がない。

ウ.取消理由(3)について

室温とpHを測定する液温の関係については、上記1.(2)のエ.で検討したとおりであるため、取消理由(3)は理由がない。

エ.取消理由(4)について

連続とは、「つらなりつづくこと。つらねつづけること[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」の意であることから、本件発明5、6における移動工程は、第1の応答容器から第2の応答容器へ、核粒子含有液がつらなりつづくように移す工程であるとみとめられ、「連続的に移す」との操作の意味は明確である。
ここで、上記意見書において、特許異議申立人は、特許権者の主張によれば「「連続的」とは、「核粒子含有液作成工程の間、オーバーフローにより、1つの第1の反応容器から、1つの第2の反応容器へ継続して移動する」ことを意味するとも解される」が、核粒子含有液作製工程との関係は明らかでないと主張している。しかし、本件明細書の段落0038には、「第1の反応容器からオーバーフローした核粒子含有液を第2の反応容器へ移す方法」の他に、「第1の反応容器上部に配管を設け、前記配管を介して、核粒子含有液を第2の反応容器へ移す方法」も記載されており、「連続的」との意味が、「核粒子含有液作成工程の間、オーバーフローにより、1つの第1の反応容器から、1つの第2の反応容器へ継続して移動する」ことに限定されるとは認められないから、特許異議申立人の上記主張は採用しない。
したがって、取消理由(4)は理由がない。

第6.むすび

以上のとおり、請求項1?12に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
さらに、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル及びマンガンを含有し、レーザー散乱粒度分布測定における体積基準累積90%径(D90)と体積基準累積10%径(D10)との比(D90/D10)が1.98以下であり、タップ密度が1.9g/cm^(3)以上であり、平均円形度が0.960以上であり、水酸化物であることを特徴とする複合化合物。
【請求項2】
体積基準累積50%径(D50)が5.0?13.0μmである請求項1に記載の複合化合物。
【請求項3】
更にコバルトを含有する請求項1又は2に記載の複合化合物。
【請求項4】
複合化合物におけるニッケルの含有量が、ニッケル、マンガン及びコバルトの合計に対して、44?68mol%であり、マンガンの含有量が22?44mol%であり、コバルトの含有量が4?28mol%である請求項3に記載の複合化合物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の複合化合物の製造方法であって、
ニッケル及びマンガンを含有する水溶液とアルカリとを第1の反応容器に連続的に添加して核粒子を析出して、前記核粒子を含有する核粒子含有液を得る核粒子含有液作製工程と、
前記第1の反応容器内の前記核粒子含有液の一部を、前記第1の反応容器から第2の反応容器へ連続的に移す移動工程と、
前記核粒子含有液が入った前記第2の反応容器に、ニッケル及びマンガンを含有する水溶液とアルカリとを連続的に添加して核粒子を成長させつつ、得られた反応液から一部の上澄み液を除去する粒子成長工程とを含み、前記第2の反応容器内を、室温30℃を基準とした場合のpHを9.5?10.5に保持して行うことを特徴とする複合化合物の製造方法。
【請求項6】
前記移動工程が、前記第1の反応容器からオーバーフローした前記核粒子含有液を、前記第2の反応容器へ移す工程である請求項5に記載の複合化合物の製造方法。
【請求項7】
リチウム化合物と、請求項1から4のいずれか1項に記載の複合化合物とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とするリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
リチウム含有複合酸化物が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項7に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
LiaNixMnyCozMebOcFd ・・・一般式(1)
ただし、前記一般式(1)において、1.02≦a≦1.12、0<x≦1.0、0<y≦1.0、0≦z≦1.0、0≦b≦0.3、0.90≦x+y+z+b≦1.05、1.9≦c≦2.1、及び0≦d≦0.03であり、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、及びZrからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【請求項9】
請求項7または8に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法により得られるリチウム含有複合酸化物と、バインダーと、導電材と、溶媒とを含有する塗布液を、正極集電体上に塗布して、リチウム含有複合酸化物と、バインダーと、導電材とを含有する正極活物質含有層を形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム含有複合酸化物のタップ密度が1.9g/cm^(3)?3.0g/cm^(3)であり、平均円形度が0.950以上である請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
前記正極活物質含有層に1t/cm以下の圧力を加える加圧工程を含む請求項9又は10に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
正極を作製する正極作製工程と、
前記正極と、セパレータと、負極とを積層して積層物を作製する積層物作製工程と、
前記積層物に非水電解質を含有させる非水電解質付与工程とを含み、
前記正極作製工程が、請求項9?11のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-29 
出願番号 特願2015-513733(P2015-513733)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C01G)
P 1 651・ 537- YAA (C01G)
P 1 651・ 113- YAA (C01G)
P 1 651・ 121- YAA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
川村 裕二
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6510402号(P6510402)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 複合化合物、リチウム含有複合酸化物、及びそれらの製造方法  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 加藤 広之  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 加藤 広之  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 棚井 澄雄  
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