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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1368978
異議申立番号 異議2020-700044  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-29 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6555009号発明「熱伝導シートおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6555009号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6555009号の請求項1、3、5、11に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6555009号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成27年8月24日を出願日とする出願であって、令和1年7月19日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年8月7日に特許掲載公報が発行され、その後、令和2年1月28日に特許異議申立人 中水麻衣(以下、「特許異議申立人」という。)により請求項1、3、5及び11に係る特許について特許異議の申立てがされ、当審は、同年5月15日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、その指定期間内である同年7月14日に訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行うとともに意見書を提出した。
なお、特許異議申立人から意見書の提出を希望しない旨の申出があったため、本件訂正請求における訂正について、特許法第120条の5第5項の通知を行っていない。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし3のとおりである(下線は、訂正箇所について付したものである。)。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「樹脂と、炭素材料とを含み、
少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下であり、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である、熱伝導シート」と記載されているのを、
「樹脂と、炭素材料とを含み、
前記樹脂と、前記炭素材料とを含む条片が並列接合されてなり、
少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下であり、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である、熱伝導シート」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3及び5ないし11も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3) 訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?4の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法であって、」と記載されているのを、
「請求項1?3の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法であって、」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6ないし11も同様に訂正する。

(4) 一群の請求項について
本件訂正請求は、本件訂正前の請求項1ないし11について、請求項2ないし11は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1?11に対応する本件訂正後の請求項1?11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の適否についての検討
(1) 請求項1に係る訂正について
請求項1に係る本件訂正は、熱伝導シートの構成について、本件訂正前に「樹脂と、炭素材料とを含」むものとしていたものを、「前記樹脂と、前記炭素材料とを含む条片が並列接合」されてなることを特定し、更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項1に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本件訂正前の請求項4に記載される事項であるから、いわゆる新規事項の追加ではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2) 請求項2及び3に係る訂正について
請求項2は、請求項1記載の熱伝導シートの「炭素材料が膨張化黒鉛を含む」ことを特定し、また、請求項3は、請求項1又は2記載の熱伝導シートの「炭素材料が繊維状炭素ナノ構造体を含む」ことを特定する請求項であり、本件訂正によって、それぞれ記載が変更されていない。
したがって、請求項1について上記(1)で述べた理由と同様に、請求項2及び3に係る訂正は、熱伝導シートの構成について、訂正前の請求項4の特定事項である「前記樹脂と、前記炭素材料とを含む条片が並列接合」されてなることをもって、特許請求の範囲の減縮することを目的とするものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項2に係る本件訂正は、上述のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項2に対して特許異議の申立てがされていないため、本件訂正後の請求項2に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを検討すると、後述のとおり、訂正後の請求項1に係る発明は、取り消すべき理由がないから、本件訂正後の請求項1を引用する請求項2に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、訂正後の請求項2は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件を充足する。

(3) 請求項4に係る訂正について
請求項4に係る本件訂正は、請求項4を削除するものである。
したがって、請求項4に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 請求項5に係る訂正について
請求項5に係る本件訂正は、訂正後の請求項1に記載された「前記樹脂と、前記炭素材料とを含む条片が並列接合されてなり、」との記載を引用することにより、訂正後の請求項5に係る発明における熱伝導シートを特定し、更に限定するものであるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 請求項6ないし10に係る訂正について
本件訂正後の請求項5に直接又は間接的に従属する請求項6ないし10に係る本件訂正は、請求項5に係る訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
一方、請求項6ないし10に対して特許異議の申立てがされていないため、本件訂正後の請求項6ないし10に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを検討すると、後述のとおり、訂正後の請求項1に係る発明は、取り消すべき理由がないから、直接又は間接的に引用する請求項6ないし10に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、訂正後の請求項6ないし10は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件を充足する。

(6) 請求項11に係る訂正について
本件訂正後の請求項5に直接又は間接的に従属する請求項11に係る本件訂正は、請求項5に係る訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項1ないし11について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」・・・のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、特許異議が申し立てられた請求項が引用する請求項の全てについても、便宜上、記載している。)。

【請求項1】
樹脂と、炭素材料とを含み、
前記樹脂と、前記炭素材料とを含む条片が並列接合されてなり、
少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下であり、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である、熱伝導シート(ただし、70℃におけるアスカーC硬度が60以下の熱伝導シートを除く。なお、70℃におけるアスカーC硬度とは、厚み5mm以上の熱伝導シートを、ホットプレート上で表面温度計で測定される温度が70℃になるように加熱し、アスカー硬度計C型で測定した値である。)。
【請求項2】
前記炭素材料が膨張化黒鉛を含む、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記炭素材料が繊維状炭素ナノ構造体を含む、請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
請求項1?3の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法であって、 樹脂と、炭素材料とを含むシートを準備する工程(A)と、
前記シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下にする工程(B)と、を含む、熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)が、前記主面に有機溶剤を接触させる工程を含む、請求項5に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
前記工程(B)が、前記有機溶剤を接触させた前記シートの前記主面に圧力を負荷する工程を更に含む、請求項6に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
前記工程(B)が、前記主面を研磨する工程を含む、請求項5?7の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)が、
前記樹脂と、前記炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る工程と、
前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程と、
前記積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、前記シートを得る工程と、を含む、請求項5?8の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
前記炭素材料が膨張化黒鉛を含む、請求項5?9の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
前記炭素材料が繊維状炭素ナノ構造体を含む、請求項5?10の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。

第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

1 申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性)
本件特許の訂正前の請求項1及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性)
本件特許の訂正前の請求項3及び11に係る特許は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 証拠方法
甲1:国際公開第2011/158942号
甲2:特開2014-234407号公報
甲3:特開2013-28753号公報

第5 取消理由の概要
本件特許の訂正前の請求項1、3,5及び11に係る特許に対して、当審が令和2年5月15日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の要旨は、次のとおりである。

請求項1、3、5及び11に係る発明は、甲2を主引用文献としたとき、進歩性を欠如しており、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由についての検討
(1) 甲2の記載事項
甲2には、「放熱樹脂成形体」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様。)。

ア 「【請求項1】
有機合成樹脂と、熱伝導性フィラーと、無機短繊維を含有した樹脂組成物を成形した成形体であって、
前記成形体の表面粗さが十点平均粗さRzで6μm未満であることを特徴とする放熱樹脂成形体。」

イ 「【0005】
ところが、特許文献1や特許文献2に記載の樹脂成形品は、熱伝導率の高い充填材料を樹脂に充填して熱伝導率を高めた熱伝導樹脂についての発明であり、当該熱伝導樹脂から成形した成形体自体の熱伝導率は高いが、放熱設計としては熱伝導率以外の他の特性を満足しないと使用できない場合がある。そこで、熱伝導率以外の他の特性を満足させるために、放熱させたい成形体(以下放熱対象物と呼ぶ)に熱伝導率を高めた熱伝導樹脂の成形体を接触させて放熱性を向上させる方策が考えられる。この際、放熱対象物に接する熱伝導樹脂の成形体の表面が粗いと、放熱対象物と熱伝導樹脂の成形体との接触面積が少なく、また放熱対象物と熱伝導樹脂の成形体との間隙が断熱層として働き、熱の伝導が阻害される。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、放熱対象物と接触させて放熱性向上を可能とする放熱樹脂成形体の提供を課題とするものである。」

ウ 「【0030】
また、導電性の熱伝導フィラーとしては、黒鉛、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維(特に石炭ピッチ系(Pitch)、PAN系が好ましい)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物や、銀、銅、ニッケル、アルミ、ステンレス、チタン、SUS等の金属繊維または金属粉末、酸化すず、酸化亜鉛等の金属酸化物、フェライト類等の金属系化合物が使用できる。
これらの中でも、安価で、かつ、熱伝導性や導電性を効果的に向上できる点から、炭素繊維等の炭素化合物が好ましい。」

エ 「【0037】
また、成形加工法としては、樹脂組成物について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、圧縮成形、ガスアシスト等の中空成形、真空成形、カレンダー成形、異型成形、回転成形、トランスファー成形、フィルム成形、発泡成形(超臨界流体も含む)、シート成形、熱成形、積層成形等が利用できるが、特に、射出成形等の溶融成形が好ましい。高圧で金型内へ流し込む射出成形法によると、無機短繊維や強化繊維等の繊維状の配合成分ものは射出方向に平行に配向する傾向にあり、成形体表面にフィラーが浮き出るのが防止され、表面が滑らかな成形体が得られ易い。なお、成形加工時に磁場、電場、超音波などを印加することにより配合成分の配向を制御することも可能である。
【0038】
更に、放熱樹脂成形体の成形形態としては、放熱対象物と接触させて放熱性向上を可能とするために放熱対象物に合わせて、樹脂成形品、樹脂フィルム、樹脂シート等の様々な形態を例示することができる。表面粗さが向上して表面平滑性が優れた放熱樹脂成形体をこれらの成形形態に形成することよって放熱対象物への密着性を向上させることができ、熱を効率よく伝達して放散できる。」

オ 「【0043】
…(略)…
次いで、この樹脂組成物のペレット10を射出成形して放熱樹脂成形体40(図2)を形成した。なお、放熱樹脂成形体40の形状は、以下に説明する放熱性評価のための幅80mm、長さ80mm、厚み5mmの平板形状とした。
【0044】
そして、上記平板形状の放熱樹脂成形体40を使用して表面粗さの測定及び放熱性の測定を行った。・・・(略)・・・
【0045】
放熱性の測定は、図2に示したように、ヒータ31上に放熱樹脂成形体40と同じ形状の幅80mm、長さ80mm、厚み5mmのアルミ板32を載せ、かかるアルミ板32をヒータ31によって120℃に加熱して安定させる。この120℃に加熱したアルミ板32の上に放熱樹脂成形体40を載せ、更に放熱樹脂成形体40の上に放熱樹脂成形体40と同じ形状の幅80mm、長さ80mm、厚み5mmのアルミ板33をすばやく載せ、ヒータ31の電源をOFFにして加熱を停止し、その後、放熱樹脂成形体40の上に載せたアルミ板33の放熱樹脂成形体40との接触面に対し反対面となる上面側の温度を経時的に測定した。その経時的な温度変化についての特性を図3に示す。これによって、放熱樹脂成形体40を放熱対象物であるアルミ板32に接合させたときの放熱樹脂成形体40による放熱効果を知ることができる。」

カ 「【図2】



(2) 甲2に記載された発明
ア 甲2発明
甲2には、特に請求項1及び段落【0030】の記載から、以下の発明が記載されていると認める。

「有機合成樹脂と、熱伝導性フィラーと、無機短繊維を含有した樹脂組成物を成形した成形体であって、
熱伝導フィラーは、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物であり、
前記成形体の表面粗さが十点平均粗さRzで6μm未満である、放熱樹脂成形体。」(以下、「甲2発明」という。)

イ 甲2方法発明
甲2には、特に請求項1及び段落【0030】並びに成形加工法に関する段落【0037】の記載から、以下の発明が記載されていると認める。

「有機合成樹脂と、熱伝導性フィラーと、無機短繊維を含有した樹脂組成物の成形体の製造方法であって、
熱伝導フィラーは、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物であり、
前記成形体の表面粗さが十点平均粗さRzで6μm未満である、放熱樹脂成形体の製造方法。」(以下、「甲2方法発明」という。)

(3) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 甲2発明との対比
甲2発明の「カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物」としての「熱伝導フィラー」は、本件特許発明1における「炭素材料」に相当する。
甲2発明の「放熱樹脂成形体」は、熱伝導フィラーを含有したものであるから、本件特許発明1の「熱伝導シート」と、熱伝導体という限りにおいて相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、
「樹脂と、炭素材料とを含み、
少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下である熱伝導体。」
の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点1>
熱伝導体に関し、本件特許発明1は、「シート」形状であるのに対し、甲2発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点2>
本件特許発明1の熱伝導シートは、「厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である」のに対し、甲2発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点3>
本件特許発明1の熱伝導シートは、「70℃におけるアスカーC硬度が60以下の熱伝導シートを除く」のに対して、甲2発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点4>
本件特許発明1の熱伝導シートは、樹脂と炭素材料とを含む「条片」が、「並列接合」されてなるものであるのに対して、甲2発明は、そのような特定を有しない点。

(イ) 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点4から検討する。
相違点4に係る構成は、甲2を含む証拠のいずれにも記載や示唆もなく、また、熱伝導シートの技術分野において、一般的な技術でもないから、甲2に接した当業者が採用することが容易なものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含み、「炭素材料」が「繊維状炭素ナノ構造体を含む」ことを更に特定するものである。
そうすると、本件特許発明3は、本件特許発明1について上記ア(イ)で述べた理由と同様に、甲2発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明5について
(ア) 甲2方法発明との対比
甲2方法発明の「カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物」としての「熱伝導フィラー」は、本件特許発明5における「炭素材料」に相当する。
甲2方法発明の「放熱樹脂成形体」は、熱伝導フィラーを含有したものであるから、本件特許発明5の「熱伝導シート」と、熱伝導体という限りにおいて相当する。
また、甲2方法発明において、成形体の表面粗さが十点平均粗さRzで6μm未満になっていることから、甲2方法発明においても、「樹脂と、炭素材料とを含むシートを準備する工程(A)と、前記シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下にする工程(B)」は、当然含まれている。

そうすると、本件特許発明5と甲2方法発明とは、
「樹脂と、炭素材料とを含み、
少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下である熱伝導体の製造方法であって、
樹脂と、炭素材料とを含む熱伝導体を準備する工程(A)と、前記熱伝導体の少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下にする工程(B)を含む、熱伝導体の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点5>
熱伝導体に関し、本件特許発明5は、「シート」形状であるのに対し、甲2方法発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点6>
本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法における熱伝導シートは、「厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である」のに対し、甲2方法発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点7>
本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法における熱伝導シートは、「70℃におけるアスカーC硬度が60以下の熱伝導シートを除く」のに対して、甲2方法発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点8>
本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法における熱伝導シートは、樹脂と炭素材料とを含む「条片」が「並列接合」されてなるものであるのに対して、甲2方法発明は、そのような特定を有しない点。

(イ) 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点8から検討する。
相違点8に係る構成は、甲2を含む証拠のいずれにも記載や示唆もなく、また、熱伝導シートの技術分野において、一般的な技術でもない。
そして、本件特許発明5は、係る構成を有することによって、本件特許明細書の段落【0016】に記載される「熱伝導シートを容易に製造することができる」という格別顕著な効果を奏するものである。更に、「樹脂と炭素材料とを含む条片が並列接合されてなる構成を有するシートに対して溶剤接触法による平滑化を行った場合には、有機溶剤の接触により主面を構成する樹脂が溶解することで、シート形成時に接着剤を使用しなくても、条片間の接合を更に強化することができる。」(段落【0075】)という効果も有する。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲2方法発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明5の発明特定事項をすべて含み、「炭素材料」が「繊維状炭素ナノ構造体を含む」ことを更に特定するものである。
そうすると、本件特許発明11は、本件特許発明5について上記ウ(イ)で述べた理由と同様に、甲2方法発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 取消理由についてのまとめ
したがって、本件特許発明1、3、5及び11は、甲2に記載された発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、取消理由は理由がない。

2 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
・ 申立理由1(甲1を根拠とする新規性)及び申立理由2(甲1を主引用例とする進歩性)について

(1) 甲1の記載事項および甲1に記載された発明について
ア 甲1の記載事項
甲1には、「熱伝導性シート及びその製造方法」に関し、次の事項が記載されている。

(ア) 「請求の範囲
[請求項1] ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する切断工程と、を少なくとも含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
・・・
[請求項4] 上記異方性熱伝導性フィラーが、炭素繊維である請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性シートの製造方法。
・・・
[請求項9] 請求項1から8のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法により製造されたことを特徴とする熱伝導性シート。
・・・
[請求項11] 熱伝導性シートの切断面の表面粗さRaが9.9μm以下である請求項9又は請求項10に記載の熱伝導性シート。」

(イ) 「発明が解決しようとする課題
[0010] 本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高いので、各種熱源と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられる熱導電性シート及び熱伝導性シートの製造方法を提供することを目的とする。
[0011] 前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、異方性熱伝導性フィラー及び充填剤を含有してなる熱伝導性組成物を、複数のスリットを通過させることで熱伝導性組成物内に配合された異方性熱伝導性フィラーを熱伝導性シートの厚み方向に配向させ、異方性熱伝導性フィラーの配向状態を乱すことなく成形させた後、型出口よりブロック体として押出し成形する。そして、得られた成形体を硬化させた後、硬化物を押出し方向に対し垂直方向に超音波カッターで所定の厚みに切断することにより、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高くなり、各種熱源(例えばCPU、トランジスタ、LED等の各種デバイス)と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられる熱伝導性シートが得られることを知見した。」

(ウ) 「[0026] (熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法)
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、押出成形工程と、硬化工程と、切断工程とを少なくとも含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
[0027] 本発明の熱伝導性シートは、本発明の前記熱伝導性シートの製造方法により製造される。
[0028] 以下、本発明の熱伝導性シートの製造方法の説明を通じて、本発明の熱伝導性シートの詳細についても明らかにする。
[0029] ここで、本発明の熱伝導性シートの製造方法は、図1に示すように、押出し、成形、硬化、切断(スライス)などの一連の工程を経て製造される。
[0030] 図1に示すように、まず、ポリマー、異方性熱伝導性フィラー及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を調製する。次に、調製した熱伝導性組成物を押し出し成形する際に、複数のスリットを通過させることで熱伝導性組成物中に配合された異方性熱伝導性フィラーを熱伝導性シートの厚み方向に配向させる。次に、得られた成形体を硬化させた後、硬化物11を前記押出し方向に対し垂直方向に超音波カッターで所定の厚みに切断することにより、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、シートの厚み方向の熱伝導性が高い熱伝導性シートが作製できる。」

(エ) 「[0081] 本発明の熱伝導性シートの製造方法により製造された熱伝導性シートは、切断後の切断面の表面粗さRaは9.9μm以下が好ましく、9.5μm以下がより好ましい。前記表面粗さRaが、9.9μmを超えると、表面粗さが増して熱抵抗が大きくなることがある。
[0082] 前記表面粗さRaは、例えばレーザー顕微鏡により測定することができる。」

(オ) 「[0164] そして、図13に示すように、熱伝導性シート10は、第1のシリコーン樹脂と第2のシリコーン樹脂との配合比を55:45?50:50とする。これにより、熱伝導性シート10は、初期厚みが0.5mmと薄くスライスした場合にも3%以上(3.82%)の圧縮率を有する。さらに熱伝導性シート10は、52:48では初期厚み1.0mmで10.49%の圧縮率を有し、さらにまた55:45?52:48の間では初期厚み1.0mmで13.21%と、いずれも10%以上の圧縮率を有する。」

(カ) 「[図13]



イ 甲1に記載された発明
(ア) 甲1発明
甲1の、特に請求項1、4、9及び11の記載から、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する切断工程と、を少なくとも含む熱伝導性シートの製造方法により製造された熱伝導性シートであって、
上記異方性熱伝導性フィラーが、炭素繊維であって、
熱伝導性シートの切断面の表面粗さRaが9.9μm以下であるもの。」

(イ) 甲1方法発明
更に、甲1には、特に請求項1、4、9及び11の記載から、甲1には以下の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する切断工程と、を少なくとも含む熱伝導性シートの製造方法であって、
上記異方性熱伝導性フィラーが、炭素繊維であって、
熱伝導性シートの切断面の表面粗さRaが9.9μm以下であるもの。」

(2) 本件特許発明1について
ア 対比
甲1発明の「ポリマー」及び「炭素繊維」は、本件特許発明1の樹脂」及び「炭素材料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「樹脂と、炭素材料とを含む、熱伝導シート。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点9>
本件特許発明1の熱伝導シートは、樹脂と、炭素材料とを含む「条片」が「並列接合」されてなるものであるのに対して、甲1発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点10>
本件特許発明1の熱伝導シートは、「少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下である」ものであるのに対して、甲1発明の熱伝導性シートの切断面は、「算術平均粗さ」で評価した「表面粗さRaが9.9μm以下である」点。

<相違点11>
本件特許発明1の熱伝導シートは、「厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である」のに対し、甲1発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点12>
本件特許発明1の熱伝導シートは、「70℃におけるアスカーC硬度が60以下の熱伝導シートを除く」のに対して、甲1発明は、そのような特定を有しない点。

イ 相違点についての検討
(ア) 相違点9について
相違点9に係る構成は、甲1を含む証拠のいずれにも記載や示唆もなく、また、熱伝導シートの技術分野において、一般的な技術でもないから、本件発明1に対する実質的な相違点であって、かつ、甲1に接した当業者が採用することが容易なものであるとはいえない。

(イ) 相違点10について
本件特許発明1の熱伝導シートの表面状態の評価手段である「十点平均表面粗さ」は、甲1発明で採用される「算術平均粗さ」とは、表面の粗さの分布や微細な凹凸の形状によってその値が大きく異なり、単純に換算できないことは、当業者にとって明らかであるから、算術平均粗さの上限が9.9μmであるものが必ず、十点平均表面粗さが40μm以下を充足するとは限らないし、また、目的に応じて使い分けられている評価指標である。
そして、甲1に接した当業者が「算術平均粗さ」に代えて、「十点平均表面粗さ」を採用し、さらに表面粗さの評価における境界値を、改めて設定する動機付けもなく、また、本件特許発明1は、係る表面性状の設定によって、熱伝導に加えて、熱伝導シート自体からの効率的な熱放射性を得るという、甲1から予想し得ない効果の観点で、平滑さの上限値を規定するものである。

(ウ) 小括
よって、相違点9及び10以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明と実質的に相違すると共に、甲1発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含み、更に「炭素材料」が「繊維状炭素ナノ構造体を含む」ことを更に特定するものである。
そうすると、本件特許発明3は、本件特許発明1について上記(2)イで述べた理由と同様に、甲1発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件特許発明5について
ア 対比
甲1方法発明の「カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素化合物」としての「熱伝導フィラー」は、本件特許発明5における「炭素材料」に相当する。
甲1方法発明の「放熱樹脂成形体」は、熱伝導フィラーを含有したものであるから、本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法における「熱伝導シート」と、熱伝導体という限りにおいて相当する。

そうすると、本件特許発明5と甲1方法発明とは、
「樹脂と、炭素材料とを含む、熱伝導シートの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点13>
本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法は、樹脂と、炭素材料とを含む「条片」を「並列接合」させるのに対して、甲1方法発明は、そのような工程の特定を有しない点。

<相違点14>
本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法は、「シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下にする工程(B)」を含むのに対して、甲1方法発明は、超音波カッターを用いて、その切断面が「算術平均粗さ」で評価して「表面粗さRaが9.9μm以下である」ようにする点。

<相違点15>
本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法における熱伝導シートは、「厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である」のに対し、甲1方法発明は、そのような特定を有しない点。

<相違点16>
本件特許発明5の熱伝導シートの製造方法における熱伝導シートは、「70℃におけるアスカーC硬度が60以下の熱伝導シートを除く」のに対して、甲1方法発明は、そのような特定を有しない点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点14から検討する。
上記(2)イにおいて、相違点10についての検討と同様に、算術平均粗さの上限が9.9μmであるものが必ず、十点平均表面粗さが40μm以下を充足するとは限らないし、甲1方法発明において、表面粗さの評価に「算術平均粗さ」に代えて、「十点平均表面粗さ」を採用し、さらに熱伝導シート自体からの効率的な熱放射性に観点から、その境界値を設定し、相違点14に係る特定事項をなすことは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1方法発明と実質的に相違すると共に、甲1方法発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明5の発明特定事項をすべて含み、更に「炭素材料」が「繊維状炭素ナノ構造体を含む」ことを更に特定するものである。
そうすると、本件特許発明11は、本件特許発明5について上記(4)イで述べた理由と同様に、甲1方法発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6) 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲1記載の熱伝導シートは、「切断面の表面粗さが小さいので(切断面の表面粗さRaは9.9μm以下が好ましい(段落[0081]等参照))、界面での熱抵抗が低くなり、シートの厚み方向の熱伝導性が高い(具体的には、表13の「熱伝導率(W/mK)」の欄に「23.02」、「22.24」であることが記載されている。)(段落[0030]等参照)。」(特許異議申立書の第4ページ第7ないし12行)として、本件特許発明1の「少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下であり、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上」という特定事項を甲1に記載された発明が有している旨主張している。
しかしながら、甲1の図13に、熱伝導率(W/mK)として「23.02」、「22.24」と記載される熱伝導性シートが、その表面の十点平均表面粗さが40μm以下を充たすことを示す記載や示唆もないし、上記(2)イにおいて、相違点10について述べた理由と同様に、表面粗さの評価手法及びその境界値は、本件特許発明1と甲1発明との実質的な相違点であって、当業者が容易に採用できるものではない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(7) 申立理由1及び2についてのまとめ
したがって、本件特許発明1及び5は、甲1に記載された発明ではなく、本件特許発明3及び11は、甲1に記載された発明を主たる発明として当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、申立理由1及び2は、理由がない。

第7 結語
以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由及び特許異議申立人が主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1、3、5及び11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3、5及び11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、炭素材料とを含み、
前記樹脂と、前記炭素材料とを含む条片が並列接合されてなり、
少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さが40μm以下であり、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である、熱伝導シート(ただし、70℃におけるアスカーC硬度が60以下の熱伝導シートを除く。なお、70℃におけるアスカーC硬度とは、厚み5mm以上の熱伝導シートを、ホットプレート上で表面温度計で測定される温度が70℃になるように加熱し、アスカー硬度計C型で測定した値である。)。
【請求項2】
前記炭素材料が膨張化黒鉛を含む、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記炭素材料が繊維状炭素ナノ構造体を含む、請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1?3の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法であって、
樹脂と、炭素材料とを含むシートを準備する工程(A)と、
前記シートの少なくとも一方の主面の十点平均表面粗さを40μm以下にする工程(B)と、
を含む、熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)が、前記主面に有機溶剤を接触させる工程を含む、請求項5に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
前記工程(B)が、前記有機溶剤を接触させた前記シートの前記主面に圧力を負荷する工程を更に含む、請求項6に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
前記工程(B)が、前記主面を研磨する工程を含む、請求項5?7の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)が、
前記樹脂と、前記炭素材料とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る工程と、
前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程と、
前記積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、前記シートを得る工程と、
を含む、請求項5?8の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
前記炭素材料が膨張化黒鉛を含む、請求項5?9の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
前記炭素材料が繊維状炭素ナノ構造体を含む、請求項5?10の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2015-164898(P2015-164898)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (C08J)
P 1 652・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大島 祥吾
大畑 通隆
登録日 2019-07-19 
登録番号 特許第6555009号(P6555009)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 熱伝導シートおよびその製造方法  
代理人 田中 睦美  
代理人 寺嶋 勇太  
代理人 水間 章子  
代理人 杉村 憲司  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 田中 睦美  
代理人 寺嶋 勇太  
代理人 杉村 憲司  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 水間 章子  
代理人 杉村 光嗣  

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