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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  F16C
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16C
管理番号 1368995
異議申立番号 異議2019-700887  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-08 
確定日 2020-10-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6507393号発明「すべり軸受及びポンプ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6507393号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?9、19、20〕、〔10?15〕、〔16?18、21、22〕について訂正することを認める。 特許第6507393号の請求項1?5、7?14及び16?22に係る特許を維持する。 特許6507393号の請求項6及び15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6507393号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は、2015年12月22日(優先権主張:2014年12月22日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月8日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月8日にその特許について、特許異議申立人玉田尚志(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和2年2月19日付けで取消理由が通知され、同年4月24日に特許権者により意見書及び訂正請求書が提出され、同年6月10日に異議申立人により意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否の判断
1 訂正の内容
令和2年4月24日の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。(下線は当審で付した。以下同様。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されている、すべり軸受。」と記載されているのを、
「前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成されている、すべり軸受。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に
「前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されている請求項4に記載のすべり軸受。」と記載されているのを、
「ハウジングと、前記ハウジング内に設けられた軸と、前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、を備えるポンプに設けられ、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受であって、
前記ハウジングに対して固定された環状の規制部材によって、軸方向の移動が規制されたすべり軸受において、
前記規制部材側の端面に、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され、
前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されているすべり軸受。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項7に記載のすべり軸受。」と記載されているのを、
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項7、19、20のいずれか1項に記載のすべり軸受。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝と、前記端面における溝が形成されていない部分とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項7に記載のすべり軸受。」と記載されているのを、
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝と、前記端面における溝が形成されていない部分とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項7、19、20のいずれか1項に記載のすべり軸受。」に訂正する。

(6)訂正事項6
以下の従属請求項を新たに追加し、請求項19とする。
「前記軸は、前記ハウジングに対して固定され、
前記規制部材は、前記ハウジングに対して前記軸を介して固定され、
前記インペラは、前記軸が挿通される軸孔を有して、前記軸に対して回転し、
前記すべり軸受は、前記インペラの軸孔に固定されて、前記インペラを軸に対して回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項7に記載のすべり軸受。」

(7)訂正事項7
以下の従属請求項を新たに追加し、請求項20とする。
「前記軸は、前記ハウジングに対して回転し、
前記インペラは、前記軸に対して固定されて、前記軸と共に前記ハウジングに対して回転し、
前記すべり軸受は、前記軸を回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項7に記載のすべり軸受。」

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に
「当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されている、ポンプ。」と記載されているのを、
「当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記すべり軸受における前記規制部材側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成され、
前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記規制部材における前記すべり軸受側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向と同じ向きの周方向に向かって延びて形成されている、ポンプ。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項15を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項16に
「前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されている請求項13に記載のポンプ。」と記載されているのを、
「流体を圧送するポンプであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた軸と、
前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、
前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受と、
前記ハウジングに対して固定された、前記すべり軸受の軸方向の移動を規制する環状の規制部材と、
を備え、
前記すべり軸受における前記規制部材側の端面、及び、前記規制部材における前記すべり軸受側の端面の何れかには、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され
前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されているポンプ。」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項17に
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項16に記載のポンプ。」と記載されているのを、
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項16、21、22のいずれか1項に記載のポンプ。」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項18に
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝と、前記端面における溝が形成されていない部分とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項16に記載のポンプ。」と記載されているのを、
「前記潤滑溝と、前記動圧発生溝と、前記端面における溝が形成されていない部分とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項16、21,22のいずれか1項に記載のポンプ。」に訂正する。

(13)訂正事項13
以下の従属請求項を新たに追加し、請求項21とする。
「前記軸は、前記ハウジングに対して固定され、
前記規制部材は、前記ハウジングに対して前記軸を介して固定され、
前記インペラは、前記軸が挿通される軸孔を有して、前記軸に対して回転し、
前記すべり軸受は、前記インペラの軸孔に固定されて、前記インペラを軸に対して回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項16に記載のポンプ。」

(14)訂正事項14
以下の従属請求項を新たに追加し、請求項22とする。
「前記軸は、前記ハウジングに対して回転し、
前記インペラは、前記軸に対して固定されて、前記軸と共に前記ハウジングに対して回転し、
前記すべり軸受は、前記軸を回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項16に記載のポンプ。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の有無及び一群の請求項
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の動圧発生溝に関して「前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成されている」ことをさらに特定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、この訂正は、明細書の段落【0028】及び【図2】の記載に基づいており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項1は、請求項1の特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合し、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項4の記載をさらに引用する請求項7を、独立請求項の形式で記載するためのものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(4)訂正事項4?7
訂正事項6は、訂正事項3による訂正前の、請求項1、2及び4の記載を引用する請求項7を、訂正事項3による訂正後の請求項7を引用する記載に改め、請求項19とするものであり、同様に、訂正事項7は、訂正事項3による訂正前の、請求項1、3及び4の記載を引用する請求項7を、訂正事項3による訂正後の請求項7を引用する記載に改め、請求項20とするものである。
また、訂正事項4及び5は、訂正事項3、6及び7による訂正前の、請求項7の記載を引用する請求項8及び9を、訂正事項3、6及び7による訂正に伴い、引用する請求項を改め、訂正後の請求項7、19及び20のいずれかを引用する請求項8及び9とするための訂正である。
そうすると、訂正事項4?7は、訂正事項3による訂正に伴い、請求項2、3、7?9の間の引用関係を整合させるためのものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項4?7は、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合し、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(5)訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項10の動圧発生溝に関して「前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記すべり軸受における前記規制部材側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成され、前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記規制部材における前記すべり軸受側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向と同じ向きの周方向に向かって延びて形成されている」ことをさらに特定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、この訂正は、明細書の段落【0028】及び【図2】の記載に基づいており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項8は、請求項10の特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(6)訂正事項9
訂正事項9は、請求項15を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合し、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(7)訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項10の記載を引用する請求項13の記載をさらに引用する請求項16を、独立請求項の形式で記載するためのものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項10は、訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項10は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(8)訂正事項11?14
訂正事項13は、訂正事項10による訂正前の、請求項10、11及び13の記載を引用する請求項16を、訂正事項10による訂正後の請求項16を引用する記載に改め、請求項21とするものであり、同様に、訂正事項14は、訂正事項10による訂正前の、請求項10、12及び14の記載を引用する請求項16を、訂正事項10による訂正後の請求項16を引用する記載に改め、請求項22とするものである。
また、訂正事項11及び12は、訂正事項10、13及び14による訂正前の、請求項16を引用する請求項17及び18を、訂正事項10、13及び14による訂正後の、請求項16、21及び22のいずれかを引用する請求項17及び18とするものである。
そうすると、訂正事項11?14は、訂正事項10による訂正に伴い、請求項11、12及び16?18の間の引用関係を整合させるためのものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項11?14は、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合し、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(9)一群の請求項
訂正前の請求項1?9について、訂正前の請求項2?9は訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して記載が訂正されるものである。したがって、訂正事項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
また、訂正前の請求項10?18について、訂正前の請求項11?18は訂正前の請求項10の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項8によって記載が訂正される請求項10に連動して記載が訂正されるものである。したがって、訂正事項8?14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
そして、特許権者は、本件訂正請求において、訂正後の請求項7?9、19、20及び訂正後の請求項16?18、21、22については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。
そして、全請求項が特許異議の申立ての対象となっているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?9、19、20〕、〔10?15〕、〔16?18、21、22〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1?5、7?14及び16?22に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」、「本件発明7」?「本件発明14」及び「本件発明16」?「本件発明22」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5、7?14及び16?22に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特に本件発明1、7、10及び16は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に設けられた軸と、前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、を備えるポンプに設けられ、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受であって、
前記ハウジングに対して固定された環状の規制部材によって、軸方向の移動が規制されたすべり軸受において、
前記規制部材側の端面に、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成されている、すべり軸受。

【請求項7】
ハウジングと、前記ハウジング内に設けられた軸と、前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、を備えるポンプに設けられ、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受であって、
前記ハウジングに対して固定された環状の規制部材によって、軸方向の移動が規制されたすべり軸受において、
前記規制部材側の端面に、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され、
前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されているすべり軸受。

【請求項10】
流体を圧送するポンプであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた軸と、
前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、
前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受と、
前記ハウジングに対して固定された、前記すべり軸受の軸方向の移動を規制する環状の規制部材と、
を備え、
前記すべり軸受における前記規制部材側の端面、及び、前記規制部材における前記すべり軸受側の端面の何れかには、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記すべり軸受における前記規制部材側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成され、
前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記規制部材における前記すべり軸受側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向と同じ向きの周方向に向かって延びて形成されている、ポンプ。

【請求項16】
流体を圧送するポンプであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた軸と、
前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、
前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受と、
前記ハウジングに対して固定された、前記すべり軸受の軸方向の移動を規制する環状の規制部材と、
を備え、
前記すべり軸受における前記規制部材側の端面、及び、前記規制部材における前記すべり軸受側の端面の何れかには、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され
前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されているポンプ。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由等について
1 取消理由の概要
本件訂正請求による訂正前の請求項1?6及び請求項10?15に係る発明についての特許に対して当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項10、11及び13に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項1?6及び10?15に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1?4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。

引用文献1:特開2004-245303号公報(特許異議申立人の甲第1号証。)
引用文献2:特開2013-100891号公報(異議申立人の甲第2号証。)
引用文献3:特開2012-241774号公報(異議申立人の甲第4号証。)
引用文献4:特開2001-32904号公報(異議申立人の甲第5号証。)

2 引用文献の記載等
(1)引用文献1・引用発明
取消理由通知において引用した引用文献1(特開2004-245303号公報、甲第1号証)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア「【0002】
【従来の技術】
一般に、遠心方式の人工心臓ポンプは、図8に示すように、大きくは、ハウジング1と、このハウジング1内に固定された軸受2と、この軸受2に対しハウジング1内で回転可能に支持された羽根車3と、を備えており、羽根車3の回転により、軸方向前方から血液を取り込んで径方向外方へ圧送するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、ハウジング1は、前側ハウジング10と後側ハウジング11とを組み合わせてなり、溶接や接着剤やボルト等による接合により一体化されて、内部空間が形成されたものである。前側ハウジング10の前端には、外部からハウジング1内に血液を取り込むための吸入側接続口12が、詳細は後述する軸受2の軸線上に設けられ、他方、前側ハウジング10又は後側ハウジング11(図8では前側ハウジング10)の一側には、ハウジング1内から外部に血液を送り出すための吐出側接続口13が設けられている。つまり、羽根車3の回転により、吸入側接続口12から血液が吸引されてハウジング1内に取り込まれ、その血液が詳細は後述する羽根車3の前側シュラウド32と後側シュラウド31との間隙P(以下、「羽根車内流路」と記すことがある)を経て昇圧され、吐出側接続口13から送り出されるという主たる血液流路が形成される。
【0004】
軸受2は、詳細は後述する羽根車3のラジアル移動を規制するための管状の軸部20と、この軸部20の前後端からそれぞれ径方向外方に突出するよう配設され、羽根車3のスラスト移動を規制するための円盤状の前側プレート部21、後側プレート部22と、前側プレート部21の外面すなわち前面を覆い、吸入側接続口12から取り込まれた軸方向後方に向けて流れる血液を詳細は後述する羽根車内流路Pの入口P1に送り込むために中心部が隆起した曲面を有する先端部23と、この先端部23から前側プレート部21、軸部20、後側プレート部22、及び後側ハウジング11の後端を貫通する軸支部24と、よりなり、これらは溶接や接着剤やボルト等によってハウジング1内でこれと一体的に固定されている。
【0005】
羽根車3は、軸部20の外周面に微小間隙を隔てて対向する貫通孔である内周面とともに前側プレート部21、後側プレート部22の各内面に微小間隙を隔てて対向する前面、後面を有するセラミック焼結体のスリーブ30と、このスリーブが同軸状に挿嵌された後側シュラウド31と、この後側シュラウド31の前方でこれと同軸状で所定の間隙を隔てた前側シュラウド32と、この前側シュラウド32と後側シュラウド31との間隙に設けられ、血液を吸入するとともに昇圧するための複数の羽根33と、よりなり、これらは一体成型、焼嵌めやロウ付けや接着剤等による接合により一体的になっている。つまり、羽根車3(スリーブ30)は、ハウジング1と一体の軸受2(軸部20、前側プレート部21及び後側プレート部22)に対して回転可能になり、この羽根車3の回転に伴って、軸方向前方から血液を取り込み、羽根車内流路Pとなる前側シュラウド32と後側シュラウド31との間隙で羽根33により昇圧しながら、径方向外方へ圧送するという人工心臓ポンプに望まれる機能が得られる。
【0006】
なお、羽根車3の回転駆動は、例えば磁力を活用してなされる。具体的には、図8に示すように、後側シュラウド31の後部には、形成された環状溝31cに永久磁石34が収容されてこれが蓋体35で密閉されて固定され、他方、後側ハウジング11の後部には、永久磁石34の周囲を覆う同軸状の位置に、外部又は内蔵の電源に接続された回転磁界発生器14が配設されている。これにより、電源から電力供給を受けた回転磁界発生器14が回転磁界を発生し、この磁力を受けて永久磁石34が同期してその軸線周りに回転しようとすることで、羽根車3が軸受2に対して回転するわけである。
【0007】
ここで、軸受2に対して羽根車3を円滑に回転させる潤滑機構について、図9?図14を参照しながら述べる。図9に示すように、羽根車3の回転に伴って、羽根車内流路Pには径方向内方にある入口P1から径方向外方にある出口P2に向けて血液が流れるが、その血液は羽根33により遠心力の作用とあいまって昇圧される。従って、血液に作用する圧力は、入口P1よりも出口P2の方が高くなり、入口P1と出口P2の間で圧力差が生じる。
【0008】
このため、羽根車内流路Pにおける出口P2から噴き出された血液の一部は、後側ハウジング11の内壁と後側シュラウド31の外壁との間隙に導き入れられ、続いて後側プレート部22の内面とスリーブ30の後面との微小間隙Q1、軸部20の外周面とスリーブ30の内周面との微小間隙Q2、及び前側プレート部21の内面とスリーブ30の前面との微小間隙Q3を経由して、羽根車内流路Pにおける入口P1に送り出され、結局、吸入側接続口12からハウジング1内に取り込まれた血液に合流するようになる(図9中の点線矢印参照)。つまり、羽根車3の回転中は、羽根車3(スリーブ30)と軸受2(軸部20、前側プレート部21及び後側プレート部22)との微小間隙Q1?Q3に血液が流動することになり、この血液を潤滑流体として活用するわけである。」

イ「【0016】
このような溶血及び血栓の問題を解決する手法としては、微小間隙Q1?Q3の間隙寸法を単に拡大することが考えられる。しかし、拡大しすぎると今度は、回転中の羽根車3のラジアル荷重及びスラスト荷重を支持するためのラジアル動圧及びスラスト動圧の効力が著しく低減し、これにより、人工心臓ポンプとしての血液供給の安定性と耐久性につながる軸受2に対する歯車3の円滑な回転が阻害されるため、その間隙寸法は30μm?40μm程度が限界であり、実際にこれでは溶血及び血栓の問題を十分に解決できなかった。」

ウ「【0026】
本第1実施形態では、先ず、図1?図3に示すように、軸受2を構成する軸部20の外周面には、羽根車3(スリーブ30)のラジアル荷重を支持するためのラジアル動圧発生溝40が部分的に複数(図2では6本図示)設けられている。これらラジアル動圧発生溝40は、スパイラルグルーブと呼ばれる螺旋状をなしており、個々において深さがほぼ一定に加工されたものである。」

エ「【0029】
ここで、前側スラスト動圧発生溝41は、対称位置に配置された一対の第1の前側スラスト動圧発生溝41a(図4中のダブルハッチング部参照)と、これらの間に配置された第2の前側スラスト動圧発生溝41b(図4中のシングルハッチング部参照)とからなり、第1の前側スラスト動圧発生溝41aの深さtaは、第2の前側スラスト動圧発生溝41bの深さtbよりも深く形成されている。例えば、第1の前側スラスト動圧発生溝41aの深さtaは、第1のラジアル動圧発生溝40aの深さsaと同様、500μm?600μm程度であり、他方、第2の前側スラスト動圧発生溝41bの深さsbは、第2のラジアル動圧発生溝40bの深さsbと同様、数十μm程度である。」

オ「【0031】
このように各種動圧発生溝を構成することにより、深さの深い動圧発生溝である第1のラジアル動圧発生溝40a、第1の前側スラスト動圧発生溝41a及び第1の後側スラスト動圧発生溝42aで血液を多く許容できるため、圧送された血液の一部が潤滑流体として流動する、羽根車3をなすスリーブ30と、軸受2をなす軸部20、前側プレート部21及び後側プレート部22と、で形成される微小間隙Q1?Q3においては、その血液そのものの流動量が増し、溶血及び血栓の発生が抑制されることになる。しかも、深さの浅い動圧発生溝である第2のラジアル動圧発生溝40b、第2の前側スラスト動圧発生溝41b及び第2の後側スラスト動圧発生溝42bでは、流動する血液にラジアル動圧及びスラスト動圧が有効に生じるため、軸受2に対する羽根車3の円滑な回転が可能となり、人工心臓ポンプとしての血液供給の安定性と耐久性が維持されることになる。」

オ「【0035】
つまり、第1のラジアル動圧発生溝40aは、図6に示すように、軸部20における前後端、すなわち後側プレート部22の内面から前側プレート部21の内面に至る間に連続するよう形成されている。また、第1の前側スラスト動圧発生溝41aは、図7に示すように、前側プレート部21における外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するよう形成されている。更に、第1の後側スラスト動圧発生溝42aも、これと同様の態様で、後側プレート部22における外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するよう形成されている。従って、血液そのものは、これら第1のラジアル動圧発生溝40a、第1の前側スラスト動圧発生溝41a及び第1の後側スラスト動圧発生溝42aに沿って、連続的に容易に流動することが可能となり、より効果的に溶血及び血栓を抑止できる。
【0036】
ちなみに、第2のラジアル動圧発生溝40bは、軸部20における前後端まで至っておらず、第2の前側スラスト動圧発生溝41b及び第2の後側スラスト動圧発生溝42bは、前側プレート部21及び後側プレート部22それぞれにおける外縁まで至っていないが、有効なラジアル動圧及びスラスト動圧の発生には支障はない。」

上記記載事項を総合し、本件発明1及び10の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明1]
「ハウジング1と、前記ハウジング1内に設けられた軸部20と、前記ハウジング1に対して回転して前記ハウジング1内の血液を圧送する後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33と、を備える人工心臓ポンプに設けられ、前記後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33を前記ハウジング1に対して回転可能に支持する環状のスリーブ30であって、
前記ハウジング1に対して固定された円盤状の前側プレート部21によってスラスト移動を規制されたスリーブ30において、
スリーブ30と対向する前側プレート部21の内面に、当該内面における外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するように形成された、血液を連続的に流動させて潤滑流体とする第1の前側スラスト動圧発生溝41aと、前記圧送された血液の一部が潤滑流体として流動し、スラスト動圧を発生させる第2の前側スラスト動圧発生溝41bとが形成されており、
前記第1の前側スラスト動圧発生溝41aの深さtaが、前記第2の前側スラスト動圧発生溝41bの深さtbよりも深く形成されいる、スリーブ30。」

[引用発明2]
「血液を圧送する人工心臓ポンプであって、
ハウジング1と、
前記ハウジング1内に設けられた軸部20と、
前記ハウジング1に対して回転して前記ハウジング1内の血液を圧送する後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33と、
前記後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33を前記ハウジング1に対して回転可能に支持する環状のスリーブ30と、
前記ハウジング1に対して固定された、前記スリーブ30のスラスト移動を規制する円盤状の前側プレート部21と、
を備え、
前記前側プレート部21における前記スリーブ30側の内面には、当該内面における外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するように形成された、血液を連続的に流動させて潤滑流体とする第1の前側スラスト動圧発生溝41aと、前記圧送された血液の一部が潤滑流体として流動し、スラスト動圧を発生させる第2の前側スラスト動圧発生溝41bとが形成されており、
前記第1の前側スラスト動圧発生溝41aの深さtaが、前記第2の前側スラスト動圧発生溝41bの深さtbよりも深く形成されている、人工心臓ポンプ。」

(2)引用文献2
取消理由通知において引用した引用文献2(特開2013-100891号公報、甲第2号証)には、図面(特に【図1】、【図4】、【図6】及び【図7】参照。)と共に以下の事項が記載されている。
ア「【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る軸流ファン1の断面図である。以下、軸流ファン1を単に「ファン1」という。ファン1は、サーバ等の電子機器の冷却ファンとして利用される。ファン1は、モータ11と、インペラ12と、ハウジング13と、複数の支持リブ14と、ベース部15と、を備える。ハウジング13は、インペラ12の外周を囲む。ハウジング13は、支持リブ14を介してベース部15に接続される。複数の支持リブ14は、周方向に配列される。ベース部15は、支持リブ14と一繋がりの部材である樹脂製の部材である。ベース部15上には、モータ11が固定される。」

イ「【0015】
モータ11は、アウタロータ型の3相モータである。モータ11は、回転部2と、静止部3と、潤滑油40の流体動圧を発生する軸受装置である軸受機構4と、を有する。回転部2は、略円筒状の金属製のヨーク21と、ロータマグネット22と、カップ121と、を有する。ヨーク21は、カップ121の内側に固定される。ロータマグネット22は、ヨーク21の内周面に固定される。なお、磁性体であるヨーク21と樹脂製のカップ121とは、インサート成型により一体的に形成されてもよい。回転部2は、軸受機構4を介して中心軸J1を中心に、静止部3に対して回転可能に支持される。」

ウ「【0019】
軸受機構4は、ホルダ31と、シャフト41と、環状のスラストプレート42と、キャップ部材であるスラストキャップ43と、軸受部441と、ブッシング25と、潤滑油40と、を有する。なお、シャフト41、スラストプレート42およびブッシング25は、回転部2の一部と捉えてもよい。ホルダ31、軸受部441およびスラストキャップ43は、静止部3の一部と捉えてもよい。以下の他の形態においても同様である。」

エ「【0021】
図1に示すブッシング25は、中心軸J1を中心とする略環状であり、金属にて形成される。軸受部441の上側にてシャフト41の上部が、ブッシング25に固定される。ブッシング25の外周面には、インペラ12の天面部123が取り付けられる。ブッシング25の外径は、ステータ固定部312の内径よりも小さい。スラストプレート42は、シャフト41の下端部から径方向外方に広がる。図2に示すように、スラストプレート42とシャフト41との間には、軸方向に延びる連通孔421aが構成される。スラストキャップ43は、スラストプレート42の下側にて軸受部441の下部を閉塞する。
【0022】
図1に示すように、軸受部441は、筒形状のスリーブ45と、スリーブ45の外周面を覆う略円筒状の軸受ハウジング46と、を有する。スリーブ45は金属の焼結体であり、スリーブ45には潤滑油40が含浸されている。シャフト41は、スリーブ45の内側に挿入される。スリーブ45の下面は、中心軸J1に垂直な環状の面であり、スラストプレート42の上面と軸方向に対向する。スリーブ45の下部451は径方向外方に突出し、下部451の外径は、スリーブ45の下部451よりも上側の部位452の外径よりも大きい。以下、下部451を「スリーブ下部451」という。部位452を「スリーブ上部452」という。スラストプレート42の外径は、スリーブ上部452の外径よりも大きい。」

オ「【0033】
図6はスリーブ45の底面図である。スリーブ45の下面には、ヘリングボーン形状の第1スラスト動圧溝列493が設けられる。図7は、スラストキャップ43の平面図である。スラストキャップ43の上面には、ヘリングボーン形状の第2スラスト動圧溝列494が設けられる。図4に示す第1スラスト間隙52において、第1スラスト動圧溝列493により潤滑油40に対してアキシャル方向の流体動圧を発生する第1スラスト動圧軸受部691が構成される。また、第2スラスト間隙54において、第2スラスト動圧溝列494により第2スラスト動圧軸受部692が構成される。
【0034】
モータ11の駆動時には、ラジアル動圧軸受部68によりシャフト41がラジアル方向に支持される。第1スラスト動圧軸受部691および第2スラスト動圧軸受部692により、袋構造5の底部の上方に存在するスラストプレート42がスラスト方向に支持される。その結果、図1の回転部2およびインペラ12が静止部3に対して回転可能に支持される。」

(3)引用文献3
取消理由通知において引用した引用文献3(特開2012-241774号公報、甲第4号証)には、図面(特に【図7】)と共に以下の事項が記載されている。
「【0042】
図7は、回転体7のすべり軸受部12の変形例を説明する側面図である。このすべり軸受部12では、その軸方向両側の側周面14,14それぞれに、前記誘導溝31の他に、スラスト動圧発生溝32が形成されている。なお、この図7のすべり軸受部12は、側周面14の溝形態が異なる他は、前記実施形態に係るすべり軸受12と同じであり、その説明を省略する。
【0043】
スラスト動圧発生溝32は、周方向に間隔をあけて形成された複数のV字状の溝(へリングボーン溝)33からなるV溝列によって構成され、これら溝33は、同心円に沿って形成されている。そして、誘導溝31とV字状の溝33とが、周方向で交互に形成されている。
このスラスト動圧発生溝32は、回転体7が回転した際に、図2に示した壁5(6)の内側面5a(6a)との間の隙間で、潤滑油による動圧(スラスト動圧)を生じさせる機能を有している。
【0044】
つまり、各V字状の溝33のポンピング作用によって、潤滑油(の一部)が、すべり軸受部12の側周面14と前記壁5(6)との隙間に保持され、これらの間において、潤滑油の動圧によって油膜圧力(スラスト動圧)が効率良く生じて、回転体7は支持される。このため、ロッカーアーム本体2に対する回転体7の回転抵抗(回転摩擦抵抗)を低減することが可能となる。」

(4)引用文献4
取消理由通知において引用した引用文献4(特開2001-32904号公報、甲第5号証)には、図面(特に【図4】参照。)と共に以下の事項が記載されている。
「【0017】図4は、この発明の第3の実施の形態のステ-タ3の側面図である。この実施の形態では、ステ-タ3のフランジ部3b側面に動圧溝3c,3c,・・を形成すると共に、周方向4箇所(90度間隔)に動圧溝3c,3c,・・を中断させる溝であって、周方向所定角度間隔に放射状に動圧溝のない逃げ溝としての放射溝3f,3f,・・が形成されている。ステ-タ3の相対回転によって生じた自動変速機油の動圧は、これらの放射溝3f,3f,・・から外部へ逃がすことができる。尚、この動圧溝3cを中断させる放射溝3f,3f,・・は幅を小さくして放射状に増減して形成してもよい。」

(5)甲第3号証
特許異議申立書において引用された甲第3号証である特開平5-322050号公報には、図面(特に【図2】参照。)と共に以下の事項が記載されている。
「【0018】図1および図2において、回転密封環2Aのシール面2aには、円周方向に等間隔を隔てて配置されて外端がシール面2aの径外側(高圧側Y)に開口し、内端がシール面2a内に存在して径内方向にのびる流体導入溝5が3本以上、例えば8本形成されている。この流体導入溝5の幅は0.5?5mmで、深さは5?100μmに設定されている。
【0019】上記流体導入溝5の途中に連通する動圧発生グルーブ6は円周方向の両方へ延びている。この動圧発生グルーブ6の円周方向の長さxと、動圧発生グルーブ6の各先端同士の間隔yは、流体導入溝5間の距離lの1/3程度に設定されている。この動圧発生グルーブ6の幅は1?5mmで、深さは3?15μmに設定されている。
【0020】上記シール面2aには、動圧発生グルーブ6よりも内径側に位置して流体導入溝5の内端に連通する静圧発生グルーブ7が形成されている。この静圧発生グルーブ7は円周方向に連続しており、その幅は1?5mmで、深さは上記動圧発生グルーブ6よりも深く、5?100μmに設定されている。」

(6)甲第6号証
特許異議申立書において引用された甲第6号証である国際公開第2014/148317号には、図面(特に[図1]、[図2]及び[図6]参照)と共に以下の事項が記載されている。
ア「[請求項1]一対の摺動部品の互いに相対摺動する一方側の摺動面には、高圧流体側から入る入口部、高圧流体側に抜ける出口部、及び、前記入口部及び前記出口部とを連通する連通部から構成される流体循環溝が設けられ、前記流体循環溝は低圧流体側とはランド部により隔離されており、前記流体循環溝を流れる流体の前記連通部における圧力が低下されるように、少なくとも、前記入口部または前記出口部における溝の断面積が前記連通部における溝の断面積と異なるように設定されることを特徴とする摺動部品。」

イ「[0025] 図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定環5とが設けられ、固定環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環5との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
なお、図1では、回転環3の摺動面の幅が固定環5の摺動面の幅より広い場合を示しているが、これに限定されることなく、逆の場合においても本発明を適用出来ることはもちろんである。」

ウ「[0027] 図2(a)において、固定環5の摺動面の外周側が高圧流体側であり、また、内周側が低圧流体側、例えば大気側であり、相手摺動面は反時計方向に回転するものとする。
固定環5の摺動面には、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面の平滑部R(本発明においては、「ランド部」ということがある。)により隔離された流体循環溝10が周方向に複数設けられている。」

エ「[0047] 図6(a)に示す固定環5において、流体循環溝10が設けられた摺動面には、流体循環溝10と高圧流体側とで囲まれる部分に流体循環溝10より浅い正圧発生溝11aを備える正圧発生機構11が設けられている。
正圧発生溝11aは流体循環溝10の入口部に連通し、出口部10b及び高圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、正圧発生機構11は、流体循環溝10の入口部10aに連通するグルーブ11a及びレイリーステップ11bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、例えば、ダム付きフェムト溝で構成してもよく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
なお、レイリーステップ機構については、後に、詳しく説明する。 」

オ「[0064] また、例えば、前記実施例では、摺動部品を構成するメカニカルシールの固定環に流体循環溝、正圧発生機構及び負圧発生機構を設ける場合について説明したが、これとは逆に、回転環に流体循環溝、正圧発生機構及び負圧発生機構を設けてもよい。その場合、流体循環溝は回転環の外周側まで設けられる必要はなく、被密封流体側と連通すればよい。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「ハウジング1」は、本件発明1の「ハウジング」に相当し、以下同様に、
「軸部20」は「軸」に、
「血液」は「流体」に、
「後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33」は「インペラ」に、
「人工心臓ポンプ」は「ポンプ」に、
「スリーブ30」は「すべり軸受」に、
「円盤状の前側プレート部21」は「環状の規制部材」に、それぞれ相当する。

また、引用発明1の「スリーブ30と対向する前側プレート部21の内面」と、本件発明1の「すべり軸受」の「規制部材側の端面」とは、「すべり軸受と規制部材の間の摺動面」という限りで共通する。

そして、引用発明1の「外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するように形成された」ことは本件発明1の「径方向の内側と外側とに連通した」ことに相当し、引用発明1の「血液を連続的に流動させて潤滑流体とする」ことは本件発明1の「流体を供給して潤滑する」ことに相当するから、引用発明1の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」は本件発明1の「潤滑溝」に相当する。

さらにまた、引用発明1の「前記圧送された血液の一部が潤滑流体として流動」することは本件発明1の「前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入」することに相当し、引用発明1の「スラスト動圧を発生させる」ことは本件発明1の「動圧を発生させる」ことに相当するから、引用発明1の「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」は本件発明1の「動圧発生溝」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明1とは
「ハウジングと、前記ハウジング内に設けられた軸と、前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、を備えるポンプに設けられ、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受であって、
前記ハウジングに対して固定された環状の規制部材によって、軸方向の移動が規制されたすべり軸受において、
すべり軸受と規制部材の間の摺動面に、当該摺動面における径方向の内側と外側とに連通した、当該摺動面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されている、すべり軸受。」
の点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。

[相違点1]
本件発明1は「すべり軸受と規制部材の間の摺動面」のうち「すべり軸受」の「規制部材側の端面」に「当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されている」のに対し、引用発明1は、「スリーブ30」(「すべり軸受」に相当)と対向する「前側プレート部21」(「規制部材」に相当)の内面に「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」及び「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」が形成される点。

[相違点2]
動圧発生溝が、本件発明1は「前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成されている」構成であるのに対し、引用発明1は、このような構成を有しない点。

(2)相違点の検討
ア 相違点1について
相対的に摺動する面のいずれに動圧発生溝を形成するかは、当業者が適宜選択すべき設計的事項であり、引用発明1において「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」及び「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」を、「前側プレート部21」と相対的に摺動する「スリーブ30」に移すことに、特段の困難性は認められないし、このように移すことによる格別顕著な効果も認められない。
そうであれば、引用発明1において「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」及び「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」を「スリーブ30」に移すことで、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。

イ 相違点2について
引用文献1(甲第1号証、特に段落【0035】?【0036】及び【図7】参照。)には、引用発明1の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」と「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」とを一体的に形成し、深さが深い第1の前側スラスト動圧発生溝41aから、深さが浅い第2の前側スラスト動圧発生溝41bに供給した流体により、第2の前側スラスト動圧発生溝41bにて動圧を発生させることは、記載も示唆もされていない。

また、引用文献4(甲第5号証)には、動圧溝3cを放射溝3fと一体的に形成した形状のもの(【図4】参照。)が開示されているものの、この引用文献4のものは、動圧を発生すると共にその動圧の一部を逃がすものであり、動圧の発生を動圧溝3cが担い、動圧を逃がすことを動圧溝3cを中断する放射溝3fが担っている(引用文献4の段落【0017】参照。)。
一方で、引用発明1は、動圧の発生と血液流動量の確保とを両立させることを目的としており、動圧の発生を第2の前側スラスト動圧発生溝41bが担い、血液流動量の確保を第1の前側スラスト動圧発生溝41aが担っている。
そうすると、引用発明1の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」と、引用文献4の「放射溝3f」とは、それぞれの有する技術的意義が全く異なっており、引用発明1の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」を引用文献4の「放射溝3f」と置き換えることはできない。

さらに、甲第3号証には、「動圧発生グルーブ6」を「流体導入溝5」と一体的に形成した構成が開示され、甲第6号証には、「正圧発生溝10a」を「流体循環溝10」と一体的に形成した構成が開示されているものの、甲第3号証の「流体導入溝5」も、甲第6号証の「流体循環溝10」も、いずれも「摺動面(端面)における径方向の内側と外側とに連通した」構成ではないから、甲第3号証及び甲第6号証に開示された前述の構成を、引用発明1の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」及び「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」と置き換える動機付けはないし、仮に置き換えたとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。

さらにまた、引用文献2及び3には、潤滑溝と動圧発生溝とを一体的に形成することは開示されていないない。

そして、上記相違点2に係る本件発明1の構成により、本件発明1は「すべり軸受410の端面411と規制部材310の端面311との間の隙間が微小であったとしても、潤滑溝412から供給される冷却水によって、両端面間は安定的に潤滑される。」という作用・効果(本件明細書の段落【0030】参照。)及び「インペラ400の回転時には、潤滑溝412を通って動圧発生溝413に流入する冷却水によって動圧が発生する。この動圧によって、規制部材310から離れる方向の力がすべり軸受410の端面411に作用するため、規制部材310に対するすべり軸受410の摺動抵抗が更に低減される。」(同段落【0031】参照。)という作用・効果を奏すると認められるが、このような効果は、引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項から当業者が予想できたものとはいえない。

(3)小括
上記のとおりであるから、本件発明1は、引用発明1並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

2 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の全ての構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、引用発明1並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

3 本件発明7について
(1)対比
本件発明1と引用発明7とを対比すると、引用発明1の「ハウジング1」は、本件発明7の「ハウジング」に相当し、以下同様に、
「軸部20」は「軸」に、
「血液」は「流体」に、
「後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33」は「インペラ」に、
「人工心臓ポンプ」は「ポンプ」に、
「スリーブ30」は「すべり軸受」に、
「円盤状の前側プレート部21」は「環状の規制部材」に、それぞれ相当する。

また、引用発明1の「スリーブ30と対向する前側プレート部21の内面」と、本件発明7の「すべり軸受」の「規制部材側の端面」とは、「すべり軸受と規制部材の間の摺動面」という限りで共通する。

さらに、引用発明1の「外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するように形成された」ことは本件発明7の「径方向の内側と外側とに連通した」ことに相当し、引用発明1の「血液を連続的に流動させて潤滑流体とする」ことは本件発明7の「流体を供給して潤滑する」ことに相当するから、引用発明1の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」は本件発明7の「潤滑溝」に相当する。

さらにまた、引用発明1の「前記圧送された血液の一部が潤滑流体として流動」することは本件発明7の「前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入」することに相当し、引用発明1の「スラスト動圧を発生させる」ことは本件発明7の「動圧を発生させる」ことに相当するから、引用発明1の「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」は本件発明7の「動圧発生溝」に相当する。

そして、引用発明1の「前記第1の前側スラスト動圧発生溝41aの深さtaが、前記第2の前側スラスト動圧発生溝41bの深さtbよりも深く形成され」ることは、本件発明7の「前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され」ることに相当する。

したがって、本件発明1と引用発明7とは
「ハウジングと、前記ハウジング内に設けられた軸と、前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、を備えるポンプに設けられ、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受であって、
前記ハウジングに対して固定された環状の規制部材によって、軸方向の移動が規制されたすべり軸受において、
すべり軸受と規制部材の間の摺動面に、当該摺動面における径方向の内側と外側とに連通した、当該摺動面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されており、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成されているすべり軸受。」 の点で一致し、以下の相違点3及び4で相違する。

[相違点3]
本件発明7は「すべり軸受と規制部材の間の摺動面」のうち「すべり軸受」の「規制部材側の端面」に「当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されている」のに対し、引用発明1は、「スリーブ30」(「すべり軸受」に相当)と対向する「前側プレート部21」(「規制部材」に相当)の内面に「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」及び「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」が形成される点。

[相違点4]
本件発明7は「前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されている」構成であるのに対し、引用発明1は、このような構成を有しない点。

(2)相違点の検討
ア 相違点3について
上記(1)アで検討したとおりであるから、引用発明1において「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」及び「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」を「「スリーブ30」に移すことで、上記相違点3に係る本件発明7の構成とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。

イ 相違点4について
引用文献1(甲第1号証、特に段落【0035】?【0036】及び【図7】参照。)には、引用発明1の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」と「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」とをV字型に形成すること及び互いに周方向に隣接して形成することは、記載も示唆もされていない。

また、引用文献2?4には、動圧発生溝をV字型に形成することは記載されているものの、V字型に形成した動圧発生溝を、V字型に形成した、動圧発生溝より深い溝と隣接させることは記載も示唆もされておらず、上記相違点4に係る本件発明7の構成は、周知技術とは認められない。

さらに、甲第3号証及び甲第6号証には、動圧発生溝をV字型に形成した動圧発生溝は記載も示唆もされていない。

そして、上記相違点4に係る本件発明7の構成により、本件発明7は「冷却水を端面411(または端面311)の径方向の両側から好適に導入させることができる」という作用・効果(本件明細書の段落【0049】参照。)及び「潤滑溝442に流れ込んだ冷却水は、更に隣接する動圧発生溝443に流れ込むことができる」ので「特に動圧発生溝443の先端において、効果的に動圧が発生する」(同段落【0050】参照。)という作用・効果を奏すると認められるが、このような効果は、引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項ないし周知技術から当業者が予想できたものとはいえない。

(3)小括
上記のとおりであるから、本件発明7は、引用発明1並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

4 本件発明8、9、19及び20について
本件発明8、9、19及び20は、本件発明7の全ての構成を備えるものであるから、本件発明7と同様の理由により、引用発明1並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項ないし周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

5 本件発明10について
(1)対比
本件発明10と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「血液」は、本件発明10の「流体」に相当し、以下同様に、
「人工心臓ポンプ」は「ポンプ」に、
「ハウジング1」は「ハウジング」に、
「軸部20」は「軸」に、
「後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33」は「インペラ」に、
「スリーブ30」は「すべり軸受」に、
「円盤状の前側プレート部21」は「環状の規制部材」に、それぞれ相当する。

また、引用発明2の「前側プレート部21におけるスリーブ30側の内面」は、本件発明10の「規制部材におけるすべり軸受側の端面」に相当する。

さらに、引用発明2の「外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するように形成された」ことは本件発明10の「径方向の内側と外側とに連通した」ことに相当し、引用発明2の「血液を連続的に流動させて潤滑流体とする」ことは本件発明10の「流体を供給して潤滑する」ことに相当するから、引用発明2の「第1の前側スラスト動圧発生溝41b」は本件発明10の「潤滑溝」に相当する。

さらにまた、引用発明2の「前記圧送された血液の一部が潤滑流体として流動」することは本件発明10の「前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入」することに相当し、引用発明2の「スラスト動圧を発生させる」ことは本件発明10の「動圧を発生させる」ことに相当するから、引用発明2の「第2の前側スラスト動圧発生溝41a」は本件発明10の「動圧発生溝」に相当する。

したがって、本件発明10と引用発明2とは
「流体を圧送するポンプであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた軸と、
前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、 前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受と、 前記ハウジングに対して固定された、前記すべり軸受の軸方向の移動を規制する環状の規制部材と、
を備え、
前記規制部材における前記すべり軸受側の端面には、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されている、ポンプ。」
の点で一致し、以下の相違点5で相違する。

[相違点5]
本件発明10は「前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記すべり軸受における前記規制部材側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成され、前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記すべり軸受側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向と同じ向きの周方向に向かって延びて形成されている」構成であるのに対し、引用発明2は、このような構成を有しない点。

(2)相違点5の検討
以下、相違点5について検討する。
引用文献1(甲第1号証、特に段落【0035】?【0036】及び【図7】参照。)には、引用発明2の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」と「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」とを一体的に形成し、深さが深い第1の前側スラスト動圧発生溝41aから、深さが浅い第2の前側スラスト動圧発生溝41bに供給した流体により、第2の前側スラスト動圧発生溝41bにて動圧を発生させることは、記載も示唆もされていない。

また、引用文献4(甲第5号証)には、動圧溝3cを放射溝3fと一体的に形成した形状のもの(【図4】参照。)が開示されているものの、この引用文献4のものは、動圧を発生すると共にその動圧の一部を逃がすものであり、動圧の発生を動圧溝3cが担い、動圧を逃がすことを動圧溝3cを中断する放射溝3fが担っている(引用文献4の段落【0017】参照。)。
一方で、引用発明2は、動圧の発生と血液流動量の確保とを両立させることを目的としており、動圧の発生を第2の前側スラスト動圧発生溝41bが担い、血液流動量の確保を第1の前側スラスト動圧発生溝41aが担っている。
そうすると、引用発明2の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」と、引用文献4の「放射溝3f」とは、それぞれの有する技術的意義が全く異なっており、引用発明2の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」を引用文献4の「放射溝3f」と置き換えることはできない。

さらに、甲第3号証には、「動圧発生グルーブ6」を「流体導入溝5」と一体的に形成した構成が開示され、甲第6号証には、「正圧発生溝10a」を「流体循環溝10」と一体的に形成した構成が開示されているものの、甲第3号証の「流体導入溝5」も、甲第6号証の「流体循環溝10」も、いずれも「摺動面(端面)における径方向の内側と外側とに連通した」構成ではないから、甲第3号証及び甲第6号証に開示された前述の構成を、引用発明2の「第1の前側スラスト動圧発生溝41a」及び「第2の前側スラスト動圧発生溝41b」と置き換える動機付けはないし、仮に置き換えたとしても、上記相違点5に係る本件発明10の構成に至らない。

さらにまた、引用文献2及び3には、潤滑溝と動圧発生溝とを一体的に形成することは記載も示唆もされていないない。

そして、上記相違点5に係る本件発明10の構成により、本件発明10は「すべり軸受410の端面411と規制部材310の端面311との間の隙間が微小であったとしても、潤滑溝412から供給される冷却水によって、両端面間は安定的に潤滑される。」という作用・効果(本件明細書の段落【0030】参照。)及び「インペラ400の回転時には、潤滑溝412を通って動圧発生溝413に流入する冷却水によって動圧が発生する。この動圧によって、規制部材310から離れる方向の力がすべり軸受410の端面411に作用するため、規制部材310に対するすべり軸受410の摺動抵抗が更に低減される。」(同段落【0031】参照。)という作用・効果を奏すると認められるが、このような作用・効果は、引用発明2並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項から当業者が予想できたものとはいえない。

(3)小括
上記のとおりであるから、本件発明10は、引用発明2と同一の発明でなく、また、引用発明2並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

6 本件発明11?14について
本件発明11?14は、本件発明10の全ての構成を備えるものであるから、本件発明10と同様の理由により、引用発明2と同一の発明でなく、引用発明2並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

7 本件発明16について
(1)対比
本件発明16と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「血液」は、本件発明16の「流体」に相当し、以下同様に、
「人工心臓ポンプ」は「ポンプ」に、
「ハウジング1」は「ハウジング」に、
「軸部20」は「軸」に、
「後側シュラウド31、前側シュラウド32及び複数の羽根33」は「インペラ」に、
「スリーブ30」は「すべり軸受」に、
「円盤状の前側プレート部21」は「環状の規制部材」に、それぞれ相当する。

また、引用発明2の「前側プレート部21におけるスリーブ30側の内面」は、本件発明16の「規制部材におけるすべり軸受側の端面」に相当する。

さらに、引用発明2の「外縁から軸部20の外周面に至る間に連続するように形成された」ことは本件発明16の「径方向の内側と外側とに連通した」ことに相当し、引用発明2の「血液を連続的に流動させて潤滑流体とする」ことは本件発明16の「流体を供給して潤滑する」ことに相当するから、引用発明2の「第1の前側スラスト動圧発生溝41b」は本件発明16の「潤滑溝」に相当する。

さらにまた、引用発明2の「前記圧送された血液の一部が潤滑流体として流動」することは本件発明16の「前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入」することに相当し、引用発明2の「スラスト動圧を発生させる」ことは本件発明16の「動圧を発生させる」ことに相当するから、引用発明2の「第2の前側スラスト動圧発生溝41a」は本件発明16の「動圧発生溝」に相当する。

そして、引用発明2の「前記第1の前側スラスト動圧発生溝41aの深さtaが、前記第2の前側スラスト動圧発生溝41bの深さtbよりも深く形成され」ることは、本件発明16の「前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され」ることに相当する。

したがって、本件発明16と引用発明2とは
「流体を圧送するポンプであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた軸と、
前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、 前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受と、
前記ハウジングに対して固定された、前記すべり軸受の軸方向の移動を規制する環状の規制部材と、
を備え、
前記規制部材における前記すべり軸受側の端面には、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成されており、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成されている、ポンプ。」 の点で一致し、以下の相違点6で相違する。

[相違点6]
本件発明16は「前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されている」構成であるのに対し、引用発明2は、このような構成を有しない点。

(2)相違点6の検討
相違点6は、上記相違点4と同じ内容であるから、上記3(2)イで検討したと同様の理由により、本件発明16は、引用発明2並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項ないし周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

8 本件発明17、18、21及び22について
本件発明17、18、21及び22は、本件発明16の全ての構成を備えるものであるから、本件発明16と同様の理由により、引用発明2並びに引用文献1?4、甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項ないし周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?5、7?14及び16?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項6及び15は、上記第2のとおり、訂正によって削除された。これにより、本件特許異議の申立てについて、請求項6及び15に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に設けられた軸と、前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、を備えるポンプに設けられ、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受であって、
前記ハウジングに対して固定された環状の規制部材によって、軸方向の移動が規制されたすべり軸受において、
前記規制部材側の端面に、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成されている、すべり軸受。
【請求項2】
前記軸は、前記ハウジングに対して固定され、
前記規制部材は、前記ハウジングに対して前記軸を介して固定され、
前記インペラは、前記軸が挿通される軸孔を有して、前記軸に対して回転し、
前記すべり軸受は、前記インペラの軸孔に固定されて、前記インペラを軸に対して回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記軸は、前記ハウジングに対して回転し、
前記インペラは、前記軸に対して固定されて、前記軸と共に前記ハウジングに対して回転し、
前記すべり軸受は、前記軸を回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項4】
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成されている請求項1から3の何れか1項に記載のすべり軸受。
【請求項5】
前記潤滑溝が、径方向に直線的に形成されており、前記動圧発生溝が、前記潤滑溝から周方向に延びるように形成されている請求項1から4の何れか1項に記載のすべり軸受。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
ハウジングと、前記ハウジング内に設けられた軸と、前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、を備えるポンプに設けられ、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受であって、
前記ハウジングに対して固定された環状の規制部材によって、軸方向の移動が規制されたすべり軸受において、
前記規制部材側の端面に、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され、
前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されているすべり軸受。
【請求項8】
前記潤滑溝と、前記動圧発生溝とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項7、19、20のいずれか1項に記載のすべり軸受。
【請求項9】
前記潤滑溝と、前記動圧発生溝と、前記端面における溝が形成されていない部分とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項7、19、20のいずれか1項に記載のすべり軸受。
【請求項10】
流体を圧送するポンプであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた軸と、
前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、
前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受と、
前記ハウジングに対して固定された、前記すべり軸受の軸方向の移動を規制する環状の規制部材と、
を備え、
前記すべり軸受における前記規制部材側の端面、及び、前記規制部材における前記すべり軸受側の端面の何れかには、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記すべり軸受における前記規制部材側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向とは逆向きの周方向に向かって延びて形成され、
前記潤滑溝及び前記動圧発生溝が前記規制部材における前記すべり軸受側の端面に形成されている場合、前記動圧発生溝は、前記潤滑溝と一体的に形成された形状であって、前記潤滑溝から前記すべり軸受の回転方向と同じ向きの周方向に向かって延びて形成されている、ポンプ。
【請求項11】
前記軸は、前記ハウジングに対して固定され、
前記規制部材は、前記ハウジングに対して前記軸を介して固定され、
前記インペラは、前記軸が挿通される軸孔を有して、前記軸に対して回転し、
前記すべり軸受は、前記インペラの軸孔に固定されて、前記インペラを軸に対して回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項10に記載のポンプ。
【請求項12】
前記軸は、前記ハウジングに対して回転し、
前記インペラは、前記軸に対して固定されて、前記軸と共に前記ハウジングに対して回転し、
前記すべり軸受は、前記軸を回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項10に記載のポンプ。
【請求項13】
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成されている請求項10から12の何れか1項に記載のポンプ。
【請求項14】
前記潤滑溝が、径方向に直線的に形成されており、前記動圧発生溝が、前記潤滑溝から周方向に延びるように形成されている請求項10から13の何れか1項に記載のポンプ。
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
流体を圧送するポンプであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた軸と、
前記ハウジングに対して回転して前記ハウジング内の流体を圧送するインペラと、
前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する環状のすべり軸受と、
前記ハウジングに対して固定された、前記すべり軸受の軸方向の移動を規制する環状の規制部材と、
を備え、
前記すべり軸受における前記規制部材側の端面、及び、前記規制部材における前記すべり軸受側の端面の何れかには、当該端面における径方向の内側と外側とに連通した、当該端面上に前記流体を供給して潤滑する潤滑溝と、前記インペラの回転によって生じる流体の流れを導入して動圧を発生させる動圧発生溝とが形成され、
前記潤滑溝が、前記動圧発生溝よりも深く形成され
前記潤滑溝と前記動圧発生溝のそれぞれは、頂点が同一の周方向を向くV字型に形成されると共に前記端面における径方向の内側と外側とに連通しており、更に、互いに周方向に隣接して形成されているポンプ。
【請求項17】
前記潤滑溝と、前記動圧発生溝とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項16、21、22のいずれか1項に記載のポンプ。
【請求項18】
前記潤滑溝と、前記動圧発生溝と、前記端面における溝が形成されていない部分とが、前記V字型の頂点が向く周方向において、この順序で隣接して設けられている請求項16、21、22のいずれか1項に記載のポンプ。
【請求項19】
前記軸は、前記ハウジングに対して固定され、
前記規制部材は、前記ハウジングに対して前記軸を介して固定され、
前記インペラは、前記軸が挿通される軸孔を有して、前記軸に対して回転し、
前記すべり軸受は、前記インペラの軸孔に固定されて、前記インペラを軸に対して回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項7に記載のすべり軸受。
【請求項20】
前記軸は、前記ハウジングに対して回転し、
前記インペラは、前記軸に対して固定されて、前記軸と共に前記ハウジングに対して回転し、
前記すべり軸受は、前記軸を回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項7に記載のすべり軸受。
【請求項21】
前記軸は、前記ハウジングに対して固定され、
前記規制部材は、前記ハウジングに対して前記軸を介して固定され、
前記インペラは、前記軸が挿通される軸孔を有して、前記軸に対して回転し、
前記すべり軸受は、前記インペラの軸孔に固定されて、前記インペラを軸に対して回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項16に記載のポンプ。
【請求項22】
前記軸は、前記ハウジングに対して回転し、
前記インペラは、前記軸に対して固定されて、前記軸と共に前記ハウジングに対して回転し、
前記すべり軸受は、前記軸を回転自在に支持することで、前記インペラを前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項16に記載のポンプ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-16 
出願番号 特願2016-566408(P2016-566408)
審決分類 P 1 651・ 857- YAA (F16C)
P 1 651・ 121- YAA (F16C)
P 1 651・ 113- YAA (F16C)
P 1 651・ 851- YAA (F16C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 日下部 由泰  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 内田 博之
尾崎 和寛
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6507393号(P6507393)
権利者 イーグル工業株式会社
発明の名称 すべり軸受及びポンプ  
代理人 森廣 亮太  
代理人 世良 和信  
代理人 金井 廣泰  
代理人 特許業務法人秀和特許事務所  
代理人 世良 和信  
代理人 森廣 亮太  
代理人 特許業務法人秀和特許事務所  
代理人 坂井 浩一郎  
代理人 坂井 浩一郎  
代理人 金井 廣泰  

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