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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1369010
異議申立番号 異議2019-700929  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-21 
確定日 2020-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6516553号発明「六方晶窒化硼素粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6516553号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6516553号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年5月14日に出願され、平成31年4月26日に特許権の設定登録がされ、令和1年5月22日に特許掲載公報が発行された。その後、そのうちの請求項1?6に係る特許(以下、項番号に合わせて「本件特許1」などという。)について、令和1年11月21日に、特許異議申立人小松一枝及び前田知子により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 2月19日付け:取消理由通知
令和 2年 4月17日 :特許権者による意見書の提出
令和 2年 6月 9日付け:特許異議申立人に対する審尋
令和 2年 6月29日 :特許異議申立人による回答書の提出
令和 2年 8月 4日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 2年 9月30日 :特許権者による意見書の提出

第2 本件発明
本件特許異議の申立ての対象とされた本件特許1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化硼素粒子を20容量%以上含むことを特徴とする六方晶窒化硼素粉末。
【請求項2】
前記六方晶窒化硼素粒子のアスペクト比が3?10である請求項1記載の六方晶窒化硼素粉末。
【請求項3】
前記六方晶窒化硼素粒子の屈曲部の角度が139±2度である請求項1に記載の六方晶窒化硼素粉末。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の六方晶窒化硼素粉末よりなる樹脂用フィラー。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂用フィラーを充填した樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂組成物よりなる電子部品の放熱材。」

第3 取消理由の概要
1 令和2年8月4日付けの取消理由通知(決定の予告)について
令和2年8月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

(実施可能要件違反)
本件明細書は、本件発明1?6を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められないものであって、本件特許1?6は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 令和2年2月19日付けの取消理由通知について
上記1の取消理由の他に、令和2年2月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

(新規性欠如)
本件発明1?6は、甲第1号証:特開2011-98882号公報に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許1?6は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

第4 取消理由(実施可能要件違反)についての当審の判断
標記取消理由は、要するに、本件発明は、「板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化硼素粒子を20容量%以上含むこと」を発明特定事項とするところ、当該容量%の求め方が判然としないことに依拠するものである。
そこで検討するに、まず、本件特許に係る出願日当時の技術常識についてみると、例えば、特表2000-502025号公報には、コロイド状の非球状MFIゼオライトに含まれる双晶結晶の含有割合をSEM分析により測定可能であること、及び当該MFIゼオライトは50%未満、好ましくは25%未満が双晶であることが記載され(8頁14?18行参照)、特開2007-106614号公報には、アルミナ粉末における板状結晶と双晶の有無に関し、SEMを用いて形態評価を行ったことが記載されている(【0038】参照)。
これらの記載によれば、SEM分析により、無機化合物粉末に含まれる双晶粒子のような特定の結晶構造を有する粒子の有無を判別し、その含有割合を算出することは、本件特許に係る出願日当時、既に普通に行われていたことと認められる。
また、特開平07-258785号公報には、生成率が低い双晶炭化タングステン粉末から双晶炭化タングステン粒子を分離抽出して、当該双晶炭化タングステン粒子を出発原料として用いることが記載され(【0018】参照)、特開平07-206538号公報には、双晶状粒子とともに単晶粒子が含まれる原料粉体から双晶状粒子を分離してこれをおよそ30%以上含有する原料粉末として使用することが記載され(2頁左欄42行目?同頁右欄28行)、特開平07-207888号公報には、双晶粒子とともに単晶粒子(板状等)が含まれる混合物から双晶粒子を分離して原料粉末として使用することが記載されている(【0013】)。
これらの記載によれば、無機化合物粉末に含まれる双晶粒子のような特定の結晶構造を有する粒子を分離して、これを所定割合含有する原料粉末を使用することも、本件特許に係る出願日当時の常套手段であったと認められる。
他方、本件明細書の発明の詳細な説明の【0054】には、双晶粒子含有割合(容量%)の測定方法として、SEMを用いた求め方が記載されているところ、上述の技術常識に照らしてみると、この求め方が、当業者が理解し得ない特殊な測定手法であるとは認められず、この記載だけでは双晶粒子の含有割合の測定手法の開示が十分でないということもできない。
さらにいうと、当該発明の詳細な説明には、双晶六方晶窒化硼素粒子の含有率を高めるための手段として、【0028】において、「勿論、篩工程での粗粒業凝集粒子の除去、乾式分級による微粉除去などにより、得られる六方晶窒化硼素粉末から、双晶h-BN粒子以外の粒子を除去して分離して含有率を上げることも可能である。」ことも記載されているところ、かかる手段に従って、双晶粒子を、所望の効果が発揮できる程度に十分に多く含む六方晶窒化硼素粉末を作ることは、上述の技術常識に照らすと、当業者にとってさほど困難なこととは言い難い。
以上の点を併せ考えると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び上記技術常識からみて、本件発明に係る双晶粒子含有割合(容量%)の求め方が判然としないとまでいうことはできず、また、「双晶構造を有する六方晶窒化硼素粒子を20容量%以上含む」という条件を満たすように調整することにもさして困難なところは見当たらないから、標記取消理由に理由はない。

第5 取消理由(新規性欠如)についての当審の判断
1 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、以下の記載がある。
(1a)「【0001】
本発明は、六方晶窒化ホウ素粉末およびその製造方法に関し、特に熱伝導性および絶縁性の一層の向上を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(h-BN)粉末は、固体潤滑材やガラス離型材、絶縁放熱材、さらには化粧品の材料等の分野に幅広く用いられている。従来、このような六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば特許文献1に記載されているように、ホウ酸やホウ酸塩などのホウ素化合物と尿素やアミンなどの窒素化合物とを比較的低温で反応させて、結晶性の低い粗製h-BN粉末を製造し、ついで得られた粗製h-BN粉末を、高温で加熱して結晶を成長させる方法で製造するのが一般的であった。
【0003】
h-BN粉末は、黒鉛と類似した層状構造をしており、(1)熱伝導性が高く放熱性に優れる、(2)電気絶縁性が大きく、絶縁耐力に優れる、(3)誘電率がセラミックスの中で最も小さい等、電気材料として優れた特性を有している。例えば、h-BNをエポキシ樹脂やシリコンゴム等の樹脂材料に添加してなる熱伝導性(放熱性)および絶縁性に優れたシートやテープが注目されている。」
(1b)「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の開発により、充填性が向上し、熱伝導性が改善された。本発明は、上掲した特許文献2に記載された六方晶窒化ホウ素粉末の改良に係り、凝集体の形状を一層球状化して充填性を高めると共に、粉末強度の向上を図り、さらには高純度化により、当該粉末を充填した伝熱シート等の絶縁性の向上および耐電圧の安定化を達成した六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする。また、本発明は、六方晶窒化ホウ素粉末中に、不純物として残留するFeの形状を制御する、具体的には球状形とすることにより、残留するFeの許容量を従来よりも緩和させた六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする。
・・・
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末において、形状等を前記の範囲に限定した理由について説明する。
【0022】
一次粒子の長径と厚みの比(平均):5?10
一次粒子の長径Dと厚みdの比D/dが平均で5未満というのは製造が困難であり、一方10を超えると配向性が出て、凝集体の密度が低下する(空隙率が増加する)ので、D/dは5?10の範囲に限定した。好ましくは6?9の範囲である。 なお、一次粒子の長径Lについては2?8μm程度、また一次粒子の厚みdについては0.1?1.6μm 程度とするのが好ましい。」
(1c)「【0026】
本発明において「一次粒子」とは、鱗片状を形成する単一粒子と定義する。
また、「一次粒子の凝集体」とは、一次粒子が2個以上化学結合した状態で存在する粒子と定義する。
そして、本発明のBN粉末では、粉末全体の60%以上が凝集体の形態で存在する。ここに、剥離などにより発生する微粉は少ないほど好ましく、かかる微粉が20%を超えるとフィラー特性が若干低下するため、粉末全体に対する凝集体の割合は80%以上とするのが好ましい。なお、粉砕による粒度調整により凝集体は幾分かの破壊を余儀なくされるため、凝集体の比率の上限は97%程度である。」
(1d)「【0029】
ついで、得られたB4C粉末を窒素雰囲気中で焼成(窒化処理)して、次式(1)の反応によりBN粉末とする。
(1/2)B_(4)C+N_(2) → 2BN+(1/2)C ・・・(1)
上記の反応をスムーズに進行させるためには、十分な窒素分圧と温度を与える必要がある。窒素分圧は5kPa以上、また焼成温度は1800?2200℃、好ましくは1900?2100℃とする必要がある。というのは、窒素分圧が5kPaに満たないと、窒化反応の進行が遅くなり反応に長時間を要するからであり、高窒素分圧雰囲気は窒化反応を促進させるので有効である。ここに、窒素分圧の上限は、高圧ガス保安上の観点から1000kPa程度とする。また、焼成温度が1800℃に満たないと反応時間が長くなり、一方2200℃を超えると逆反応が生じ反応が進行しないからである。
なお、原料であるB_(4)C粉末の粒径は、とくに制限されることはないが、反応性の観点からは1000μm以下(好ましくは2μm以上)とすることが望ましい。」
(1e)「【0037】
図3?5に、上記した窒化処理後のBN粒子の顕微鏡写真を示す。
図3,4は、B_(4)C中のFeに由来するもので、図中において白く見えるものが、BN粒子間に存在するFeであり、球状化していることが分かる。また、図5は、破砕装置(ハンマー)に由来するFe(白色のもの)で、全体に分散している。」
(1f)「【0045】
得られたh-BN粉末を分級して、凝集体の大きさや嵩密度が種々に異なる粉末を作製し、一次粒子の平均長径Dおよび平均厚みd、凝集体の平均粒径D50および空隙率ならびにBN粉末の強度および嵩密度について調べた結果を、表1に示す。
また、樹脂に対するh-BN粉末の充填比率が増すと粘度が高くなりボイドの巻き込みが多くなり、熱伝導率が向上しないのみならず、電気絶縁性が低下して耐電圧特性が低下する傾向がある。
そこで、得られたBN粉末を用いて成形可能な粘度まで添加量を増やして、樹脂との複合シートを作製した。樹脂としては、エポキシ樹脂『エピコート807』(ジャパンエポキシレジン社製)を、また硬化剤としては、変性脂環族アミングレード『エピキュア807』(ジャパンエポキシレジン社製)を用い、添加可能なところまでBN粉末を増加させて均一に分散してシート状に成形して、該シートから測定用の試験片を作製した。
この複合シートの熱伝導率および耐電圧特性について調べた結果を、BN粉末の不純物濃度および球状化Feの直径についての調査結果と、併せて表2に示す。」
(1g)「【0047】
【表1】


(1h)「【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明では、h-BN粉末の凝集体を緻密化し、かつその形状を一層球状化し、強度を高めることで、樹脂への充填性を向上させ、放熱シートあるいはフィルムの熱伝導性を高めることができる。さらに、h-BN粉末中に残留するFeを効果的に除去して絶縁性の向上を図ることができる。また、たとえ粉末中にFeが残留していてもその形状を球状にして無害化でき、さらにh-BN粉末製造後に後処理工程を必要としないので、処理時間の短縮、ひいては製造コストの低減が図れる。
なお、樹脂の種類については、特に制限はなく、一般の電気電子部品に使用されているものを用いることができる。」
(1i)「【図3】

【図4】



2 甲1発明
上記(1e)及び(1i)で摘示した図4の顕微鏡写真には、1つの屈曲部を有する鱗片状結晶の六方晶窒化ホウ素粒子が認められる。
そして、当該図4中に認められる粒子は、鱗片状結晶が当該1つの屈曲部において連続した双晶構造を有していると解するのが合理的である。
したがって、甲1には、
「鱗片状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

3 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「鱗片状結晶」は上記(1i)で摘示した図4より板状であることは明らかであるから、本件発明1における「板状結晶」に相当し、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素粒子」及び「六方晶窒化ホウ素粉末」は、本件発明1における「六方晶窒化硼素粒子」及び「六方晶窒化硼素粉末」にそれぞれ相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、「板状結晶が1つの屈曲部を有する六方晶窒化硼素粒子を含む六方晶窒化硼素粉末」である点で一致するものの、以下の相違点を有するものと認められる。

相違点
本件発明1の六方晶窒化硼素粉末が「板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化硼素粒子を20容量%以上含む」のに対して、甲1発明は、六方晶窒化硼素粉末における「板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化硼素粒子」の体積基準の含有量が不明である点。

そして、当該相違点に係る容量%は、甲1の図4から概算できるものではなく、この相違点は実質的なものというほかないから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、新規性を欠如するものということはできない。

4 本件発明2?6について
本件発明2?6は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明により新規性を否定することはできない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、標記取消理由に理由はない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 標記特許異議申立理由の概要
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、次のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1?6は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
本件発明1は、屈曲部の角度については何ら特定するものではないが、本件明細書の【0021】には、「本発明の六方晶窒化硼素粉末に含まれる双晶h-BN粒子において、前記屈曲部の角度(θ)は、殆どが139±2度を示し、このことから、該屈曲部は、<10-10>面の対象傾角粒界により形成されているものと推定される」ことが記載されており、実施例においても、屈曲部の角度が139度(実施例1)、137.3度(実施例2)、139.8度(実施例3)である双晶粒子が得られているのみであるから、本件発明1、2、4?6は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

2 申立理由1(進歩性欠如)について
上記「第5」の「3」において認定した上記相違点に関連して、特許異議申立人は、甲1の図4には、総粒子が45個あるのに対して屈曲部を有する粒子は25個であり、屈曲部を有する粒子の割合は粒子数基準で略56%であることが記載されており、また、本件発明1における「20容量%」という下限値に臨界的意義があるともいえないから、甲1発明において、双晶粒子の割合を20容量%以上とすることは適宜なし得ることであり、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものである旨主張している。
当該主張について検討すると、まず、甲1の【0008】には、「凝集体の形状を一層球状化して充填性を高めると共に、粉末強度の向上を図り、さらには高純度化により、当該粉末を充填した伝熱シート等の絶縁性の向上および耐電圧の安定化を達成した六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする」との記載があるから、甲1発明は、六方晶窒化ホウ素粉末において、「凝集体」の形状を球状化することをねらった発明であるということができる。
そして、甲1における双晶粒子に関する記載は、上記図4以外には認められず、さらに、甲1の【0026】には、「本発明のBN粉末では、粉末全体の60%以上が凝集体の形態で存在する。ここに、剥離などにより発生する微粉は少ないほど好ましく、かかる微粉が20%を超えるとフィラー特性が若干低下するため、粉末全体に対する凝集体の割合は80%以上とするのが好ましい。なお、粉砕による粒度調整により凝集体は幾分かの破壊を余儀なくされるため、凝集体の比率の上限は97%程度である。」と記載されていることから、甲1発明は、六方晶窒化ホウ素粉末全体に対する60%以上が凝集体の形態で存在するものであり、好ましくは、粉末全体に対する凝集体の割合は80%以上であると認められ、独立して存在する双晶粒子のような微粉は20%を超えるとフィラー特性が若干低下するため、少ないほど好ましいものであるから、甲1発明において双晶粒子の含有割合を20容量%以上とすることが当業者にとって容易なことであるとは到底認められない。
また、甲1には、本件発明1の効果、すなわち、「樹脂に充填して成形する際、平板状の結晶に見られる配向が起こり難く、多方向を向いた状態で樹脂中に存在し易いため、六方晶窒化硼素結晶が元来有する熱的異方性を緩和でき、該成形体の熱伝導性を効果的に解消することができる」(本件明細書【0016】)という効果については、記載も示唆もされておらず、さらに、甲1発明は、凝集体の形状を一層球状化して充填性を高めると共に、粉末強度の向上を図り、さらには高純度化により、当該粉末を充填した伝熱シート等の絶縁性の向上および耐電圧の安定化を達成した六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とするものであって、本件発明1の目的である「凝集粒子を構成しなくとも、樹脂に充填した際、六方晶窒化硼素の板状結晶に由来する熱的異方性が低減され、且つ、凝集粒子に見られる気泡の巻き込みが抑制されて高い絶縁耐力を発揮することが可能な六方晶窒化硼素粒子を含む六方晶窒化硼素粉末、更には、前記六方晶窒化硼素粒子を含む六方晶窒化硼素粉末の製造方法を提供する」(本件明細書【0010】)ことと齟齬する
ものである。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2?6についても同様である。
よって、申立理由1は、理由がない。

3 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か(以下では、両範囲をまとめて「当業者において課題解決できると認識できる範囲」という。)を検討して判断すべきものであると解される。
以下、この観点に立って、改めてサポート要件について検討をする。

(2)本件発明の課題について
本件発明の課題は、発明の詳細な説明の【0010】によれば、「凝集粒子を構成しなくとも、樹脂に充填した際、六方晶窒化硼素の板状結晶に由来する熱的異方性が低減され、且つ、凝集粒子に見られる気泡の巻き込みが抑制されて高い絶縁耐力を発揮することが可能な六方晶窒化硼素粒子を含む六方晶窒化硼素粉末、更には、前記六方晶窒化硼素粒子を含む六方晶窒化硼素粉末の製造方法を提供すること」であると認められる。

(3)本件発明の課題に関連する記載について
ア 本件発明の課題に係る特性、すなわち、熱的異方性の低減及び高絶縁耐力の発揮に着目しながら、発明の詳細な説明を子細にみると、まず、実施例以外の記載の中から、次の記載を認めることができる。
・「【0011】・・・かかる双晶構造を有する六方晶窒化硼素粒子は、樹脂に充填して成形した際、屈曲部を有するため一方向に配向し難く、これにより熱的異方性が抑制され、しかも、前記凝集体を構成することなく上記効果を発揮できるため、凝集体の問題点であった、樹脂に充填した際の気泡の巻き込みによる絶縁耐性の低下が無く、更には、小粒化が可能であり、前記課題を全て解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」
・「【0016】本発明の双晶h-BN粒子は、公知の六方晶窒化硼素粒子の代表的な構造である、板状結晶が単なる平板状を成した構造に対して、六方晶の結晶形態を有する板状結晶が1つの屈曲部において連続して構成された構造を有するため、樹脂に充填して成形する際、平板状の結晶に見られる配向が起こり難く、多方向を向いた状態で樹脂中に存在し易い。それ故、六方晶窒化硼素結晶が元来有する熱的異方性を緩和でき、該成形体の熱伝導性を効果的に解消することができる。 」
・「【0017】また、上記したとおり、前記凝集粒子を構成しなくても熱的異方性が解消できるため、樹脂に充填した際の空気の巻き込みが低減でき、その結果、高い絶縁耐力を発現することが可能である。 」
イ これらの記載から、本件発明が課題としている、熱的異方性が低減され、かつ、高い絶縁耐力を発揮するような双晶h-BN粒子を含む六方晶窒化硼素粉末を得るためには、六方晶の結晶形態を有する板状結晶が1つの屈曲部において連続して構成された構造を有することが重要であることを理解することができる。
ウ 実際、発明の詳細な説明の実施例をみると、実施例4?6(表2)には、屈曲部の角度が139度(実施例1)、137.3度(実施例2)、139.8度(実施例3)である双晶粒子を所定割合で含む窒化硼素粉末を、シリコーン樹脂及びエポキシ樹脂に充填して作製した樹脂組成物のシートにつき、熱伝導率及び絶縁耐力がいずれも8.0W/m・K以上、35kV/mm以上であり、高熱伝導率及び高絶縁耐力を示すことが示されているから、当該実施例4?6により、当業者において、上記実施例1?3に係る窒化硼素粉末、すなわち、上記所定構造の双晶粒子を有するものは、上記課題を解決できるものと認識することができる。

(4)「当業者において課題解決できると認識できる範囲」の認定
上記(3)ウのとおり、発明の詳細な説明の実施例の記載から、屈曲部の角度が139度(実施例1)、137.3度(実施例2)、139.8度(実施例3)である双晶粒子を所定割合で含む窒化硼素粉末について、当業者は、本件発明の課題を解決することができるものと認識できるといえる。
そして、上記(3)イに照らすと、各実施例1?3における屈曲部の角度以外の角度を有する双晶粒子を所定割合で含む窒化硼素粉末であっても同様に、本件発明の課題を解決することができると解するのが相当であるとともに、当該角度も、結晶構造が六方晶であり、かつ双晶構造であることを前提とする以上、その範囲はおのずと定まるものであって、その値が上記各実施例の値から遠くかけ離れた値となるとは言い難い。
そうすると、上記実施例の記載や技術常識などに照らすと、上記実施例に記載された特定の屈曲部の角度を有する双晶粒子と同等の特性を発現し、もって、当業者が本件発明の課題が解決できると認識できる範囲として、本件発明1が規定するような、「板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有する六方晶窒化硼素粒子」を認めることができるから、結局、「当業者において課題解決できると認識できる範囲」は、本件発明1の範囲を包含するものと解するのが合理的である。

(5)サポート要件適合性について
上記(1)の判断手法に照らして、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、上記(4)の「当業者において課題解決できると認識できる範囲」のものであるか否かを検討すると、上記(4)のとおり、本件発明1は、「当業者において課題解決できると認識できる範囲」のものであるし、本件発明2、4?6についても同様であるから、本件の特許請求の範囲の請求項1、2、4?6の記載は、サポート要件に適合するものである。

(6)小活
以上のとおりであるから、申立理由2は、理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-11-27 
出願番号 特願2015-99368(P2015-99368)
審決分類 P 1 652・ 536- Y (C01B)
P 1 652・ 537- Y (C01B)
P 1 652・ 113- Y (C01B)
P 1 652・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 壷内 信吾  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 後藤 政博
末松 佳記
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6516553号(P6516553)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 六方晶窒化硼素粉末  

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