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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1369370
審判番号 不服2018-16448  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-10 
確定日 2020-12-09 
事件の表示 特願2015-550133「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日国際公開、WO2014/102479、平成28年 2月25日国内公表、特表2016-505685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年12月26日 (FR)フランス)を国際出願日とする出願であって、平成30年1月10日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年6月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月10日に拒絶査定不服審判が請求され、令和元年9月27日付けで当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である令和2年2月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
なお、本願には、平成29年9月4日及び平成31年4月25日に刊行物等提出書が提出されている。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和2年2月28になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1及び4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明4」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
化合物HFO-1234yf、HCC-40、並びにHFO-1234ze、HFC-134a、HCFC-115、HFC-152a及びHFO-1243zfから選択される少なくとも一種の化合物を更に含むことを特徴とする、組成物。」
「 【請求項4】
化合物HFO-1234yf、HFO-1243zf、並びにHFC-245cb、HCFC-115及びHFC-152aから選択される少なくとも一種の化合物を更に含むことを特徴とする、組成物。」

第3 拒絶理由の内容
1 平成30年1月10日付けの拒絶理由の内容
特許法第158条は、「審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においても、その効力を有する。」と規定するところ、本願における審査において、平成30年1月10日付けで通知された拒絶理由の1つは、要するに、出願時の請求項9に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1:特表2011-520017号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。
ここで、その後の手続についても確認しておくと、標記拒絶理由(特許法第29条第1項第3号所定の規定違反)に対して、審判請求人(出願人)は、当該拒絶理由の対象とされていなかった請求項6記載の技術的事項を、請求項1に組み込み、上記請求項9については、当該請求項1に従属させ、新たに請求項4とする補正を、平成30年6月22日付けで行った。そのため、当該請求項4に係る発明に対し、標記拒絶理由は妥当しないものとなったが、令和元年9月27日付けで当審が通知した拒絶理由に対して、審判請求人は、令和2年2月28日にした手続補正により、当該請求項4を独立形式請求項とし、結果として、当該請求項4に係る発明は、標記拒絶理由が対象としていた出願時の請求項9に係る発明と実質的に同じものとなった。
そうすると、出願時の請求項9に係る発明と実質的に同じ発明である本願発明4については、既に審査において拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えていたものと解するのが相当であり、このような審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においても、その効力を有するものであるから、上記のような本願の手続の経緯に照らし、改めて、当審において標記拒絶理由を通知することはしない。

2 令和元年9月27日付けの当審拒絶理由の内容
当審において通知した拒絶理由2、3は次のとおりである。
拒絶理由2:(実施可能要件)本願は、発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
拒絶理由3:(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 平成30年1月10日付けの拒絶理由の理由(新規性)について
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、次の記載がある。
「【0104】
実施例1?6
HFO-1243zfのクロロフッ素化
上記したとおりに調製した98%クロム/2%コバルト触媒(21.4グラム、15mL、-12?+20メッシュ(1.68?0.84mm))を、流動床サンドバスで加熱した直径5/8”(1.58cm)のInconel(登録商標)(Special Metals Corp.(New Hartford,New York))ニッケル合金リアクタ管に入れた。触媒を、次のとおり、HFによる処理で予備フッ素化した。触媒を45℃?175℃まで、約1.5時間にわたって、窒素フロー(50cc/分)で加熱した。HFをリアクタに、50cc/分の流量で、1.3時間にわたって、175℃の温度で入れた。リアクタ窒素フローを20cc/分まで減じ、HFフローを80cc/分まで増やし、このフローを0.3時間維持した。リアクタ温度を、400℃まで1時間にわたって徐々に上げた。この期間後、HFおよび窒素フローを停止し、リアクタを所望の操作温度とした。HF蒸気、HFO-1243zfおよびCl2のリアクタへのフローを開始した。リアクタ流出物の一部をオンラインGC/MSにより分析した。
【0105】
様々な操作温度ならびにHF、HFO-1243zfおよびCl2の示したモル比での98/2Cr/Co触媒でのHFO-1243zfのクロロフッ素化の結果を表2に示す。分析データは、GC面積%の単位で示されている。名目触媒床容積は15cc、接触時間(CT)は15秒であった。実施例1および2は、触媒なしで行った。
【0106】


(2)刊行物1に記載された発明(引用発明)
刊行物1の【0106】【表2】には、実施例3として、「1243zf、1234yf、245cbを含む組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
本願発明4と引用発明を対比する。
引用発明の「1243zf」、「1234yf」は、本願発明4の「HFO-1243zf」、「HFO-1234yf」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「245cb」は、本願発明4の「HFC-245cb、HCFC-115及びHFC-152aから選択される少なくとも一種の化合物」のうちの、「HFC-245cb」に相当するものである。
そうすると、本願発明4と引用発明は、「化合物HFO-1234yf、HFO-1243zf、並びにHFC-245cb、HCFC-115及びHFC-152aから選択される少なくとも一種の化合物を更に含むことを特徴とする、組成物。」である点で一致し、相違する点は存しない。

(4)小括
以上検討のとおり、本願発明4は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

2 令和元年9月27日付けの当審拒絶理由2(実施可能要件)について
(1)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は、「前項第3号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
そして、特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

(2)特許請求の範囲の記載について
令和2年2月28日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1、4の記載は、上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
令和2年2月28日になされた手続補正後の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵、空調、及び冷暖房装置等の多くの利用分野において有用な2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物に関する。
【0002】
冷蔵、空調、及び冷暖房装置の分野で有用な組成物の選択における一つの非常に重要なパラメーターは、環境への影響である。
【0003】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の製造は、HFO-1234yfに近い沸点を有する多数の副生成物を伴い、非常に複雑で費用のかかる精製工程をもたらす。HFO-1234yfの精製中に直面する困難は、一般に、結果として生じる所望の生成物の損失を含む。更に、これらの副生成物は、単純な蒸留による分離を不可能にし、HFO-1234yfとの二成分又は三成分共沸組成物を生成し得る。
【発明の概要】
【0004】
本発明の一つの主題は、化合物HFO-1234yfと、HCFC-240db、HCFO-1233xf、HCFC-243db、HCFO-1233zd、HCC-40、HCFC-114a、HCFC-115、HCFC-122、HCFC-123、HCFC-124、HCFC-124a、HFC-125、HCFC-133a、HCFC-142、HCFC-143、HFC-152a、HCFC-243ab、HCFC-244eb、HFC-281ea、HCO-1110、HCFO-1111、HCFO-1113、HCFO-1223xd及びHCFO-1224xeから選択される少なくとも一種の他の追加の化合物とを含む組成物である。
【0005】
好ましくは、すべての追加の化合物は、HFO-1234yfを含む組成物の多くとも1重量%、有利には多くとも0.5重量%である。
【0006】
HCFC-115、HFC-152a及びHCC-40等の化合物は、特にHFO-1234yfの沸点に近い沸点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一実施態様によれば、組成物は、HFO-1234yfと、HCFC-115、HFC-152a及びHCC-40から選択される少なくとも一種の他の追加の化合物、好ましくは、化合物HFO-1234yfと、HFC-152a及び/又はHCC-4
0とを含む。
【0008】
HCFC-115及び/又はHFC-152a及び/又はHCC-40は、それ(ら)が組成物中に存在する場合、有利には、多くとも500ppm、また特に好ましくは、多くとも50ppmである。
【0009】
本実施態様によれば、組成物は、HCFC-240db、HCFO-1233xf、HCFC-243db、HCFO-1233zd、HCFC-114a、HCFC-122、HCFC-123、HCFC-124、HCFC-124a、HFC-125、HCFC-133a、HCFC-142、HCFC-143、HCFC-243ab、HCFC-244eb、HFC-281ea、HCO-1110、HCFO-1111、HCFO-1113、HCFO-1223xd及びHCFO-1224xeから選択される少なくとも一の化合物を更に含み得る。
【0010】
一実施態様において、本発明による組成物は、HFO-1234ze、HFC-245cb、HFC-245eb、HFC-245fa、HFC-23、HFC-134a、HFC-143a、HFC-236fa、HCFC-244bb、HCFC-244db、HFO-1132a、HFO-1223、HFO-1225zc、HFO-1225ye、HCFO-1232xf及びHFO-1243zfから選択される少なくとも一種の化合物も含み得る。
【0011】
前記実施態様に関係なく、すべての追加の化合物は、HFO-1234yfを含む組成物の多くとも1重量%、有利には多くとも0.5重量%である。
【0012】
例として、特に以下の化合物に言及がなされ得、それらの頭字語は下記を表す:
- HCFC-240db: 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン、又はCCl_(3)-CHCl-CH_(2)Cl
- HCFO-1233xf: 3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、又はCF_(3)-CCl=CH_(2)
- HCFC-243db: 1,1,1-トリフルオロ-2,3-ジクロロプロパン、又はCF_(3)-CHCl-CH_(2)Cl
- HCFO-1233zd: E/Z-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、又はCF_(3)-CH=CHCl
- HCC-40: クロロメタン、又はCH_(3)Cl
- HCFC-114a: 1,1,1,2-テトラフルオロ-2,2-ジクロロエタン、又はCF_(3)-CCl_(2)F
- HCFC-115: 1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-2-クロロエタン、又はCF_(3)-CClF_(2)
- HCFC-122: 1,1,2-トリクロロ-2,2-ジフルオロエタン、又はCHCl_(2)-CClF_(2)
- HCFC-123: 1,1,1-トリフルオロ-2,2-ジクロロエタン、又はCF_(3)-CHCl_(2)
- HCFC-124: 1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロエタン、又はCF_(3)-CHClF
- HCFC-124a: 1,1,2,2,-テトラフルオロ-2-クロロエタン、又はCHF_(2)-CClF_(2)
- HFC-125: 1,1,1,2,2,-ペンタフルオロエタン、又はCF_(3)-CHF_(2)
- HCFC-133a: 1,1,1-トリフルオロ-2-クロロエタン、又はCF_(3)-CH_(2)Cl
- HCFC-142: 1,1-ジフルオロ-2-クロロエタン、又はCHF_(2)-CH_(2)Cl
- HCFC-143: 1,1,2-トリフルオロエタン、又はCHF_(2)-CH_(2)F
- HFC-152a: 1,1-ジフルオロエタン、又はCHF_(2)-CH_(3)
- HCFC-243ab: 1,1,1-トリフルオロ-2,2-ジクロロプロパン、又はCF_(3)-CCl_(2)-CH_(3)
- HCFC-244eb: 1,1,1,2-テトラフルオロ-3-クロロプロパン、又はCF_(3)-CHF-CH_(2)Cl
- HFC-281ea: 2-フルオロプロパン、又はCH_(3)-CFH-CH_(3)
- HCO-1110: 1,1,2,2-テトラクロロエチレン、又はCCl_(2)=CCl_(2)
- HCFO-1111: 1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエチレン、又はCCl_(2)=CClF
- HCFO-1113: 1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエチレン、又はCF_(2)=CClF
- HCFO-1223xd: E/Z-3,3,3-トリフルオロ-1,2-ジクロロプロペン、又はCF_(3)-CCl=CHCl
- HCFO-1224xe: E/Z-1,3,3,3-テトラフルオロ-2-クロロプロペン、又はCF_(3)-CCl=CHF
- HFO-1234ze: E/Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、又はCF_(3)-CH=CHF
- HFC-245cb: 1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、又はCF_(3)-CF_(2)-CH_(3)
- HFC-245eb: 1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン、又はCF_(3)-CHF-CH_(2)F
- HFC-245fa: 1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、又はCF_(3)-CH_(2)-CHF_(2)
- HFC-23: トリフルオロメタン、又はCHF_(3)
- HFC-134a: 1,1,1,2-テトラフルオロエタン、又はCF_(3)-CH_(2)F
- HFC-143a: 1,1,1-トリフルオロエタン、又はCF_(3)-CH_(3)
- HFC-236fa: 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、又はCF_(3)-CH_(2)-CF_(3)
- HCFC-244bb: 1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロプロパン、又はCF_(3)-CFCl-CH_(3)
- HCFC-244db: 1,1,1,3-テトラフルオロ-2-クロロプロパン又はCF_(3)-CHCl-CH_(2)F
- HFO-1132a: 1,2-ジフルオロエチレン、又はCHF=CHF
- HFO-1223: 3,3,3-トリフルオロプロピン、又はCF_(3)-C≡CH
- HFO-1225zc: E/Z-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、又はCF_(3)-CH=CF_(2)
- HFO-1225ye: E/Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、又はCF_(3)-CF=CHF
- HCFO-1232xf: 3,3-ジフルオロ-1,3-ジクロロプロペン、又はCClF_(2)-CCl=CH_(2)
- HFO-1243zf: 3,3,3-トリフルオロプロペン、又はCF_(3)-CH=CH_(2)
【0013】
もう一つの特定に実施態様によれば、本発明による組成物は、三成分混合物、例えば、以下から選択される混合物を含み得る:
- HFO-1234yf、HFC-152a、HFC-245cb
- HFO-1234yf、HCC-40、HFC-245cb
- HFO-1234yf、HCFC-115、HFC-245cb
- HFO-1234yf、HFC-152a、HFC-134a
- HFO-1234yf、HCC-40、HFC-134a
- HFO-1234yf、HCFC-115、HFC-134a
- HFO-1234yf、HFC-152a、HFO-1234ze
- HFO-1234yf、HCC-40、HFO-1234ze
- HFO-1234yf、HCFC-115、HFO-1234ze
- HFO-1234yf、HCC-40、HFC-152a
- HFO-1234yf、HCC-40、HCFC-115
- HFO-1234yf、HFC-134a、HFO-1234ze
- HFO-1234yf、HFC-134a、HFO-1243zf
- HFO-1234yf、HFO-1234ze、HFC-134a
- HFO-1234yf、HFO-1234ze、HFC-245cb
- HFO-1234yf、HFO-1243zf、HFC-245cb
- HFO-1234yf、HFO-1243zf、HFC-152a
- HFO-1234yf、HFO-1243zf、HCFC-115
【0014】
もう一つの特定に実施態様によれば、本発明による組成物は、四成分混合物、例えば、以下から選択される混合物を含み得る:
- HFO-1234yf、HFC-152a、HCC-40、HFC-245cb
- HFO-1234yf、HFC-152a、HCC-40、HFC-1234ze
【0015】
組成物が四種よりも多い化合物の混合物を含む場合であっても、本発明の範囲外ではない。
【0016】
本発明のもう一つの主題は、化合物HFO-1234yfと、HFO-1234ze、HFC-245cb、HFC-134a、HCFC-115、HFC-152a、HCC-40及びHFO-1243zfから選択される少なくとも二種の化合物とを含む組成物である。
【0017】
好ましくは、組成物は、HFO-1234yf、HCC-40、並びにHFO-1234ze、HFC-134a、HCFC-115、HFC-152a及びHFO-1243zfから選択される少なくとも一種の化合物を含む。
【0018】
好ましくは、組成物は、化合物HFO-1234yf、HFC-134a、並びにHFO-1234ze、HCFC-115、HFC-152a及びHFO-1243zfから選択される少なくとも一種の化合物を含む。
【0019】
好ましくは、組成物は、化合物HFO-1234yf、HFO-1234ze、並びにHFC-245cb、HCFC-115、HFC-152a及びHFO-1243zfから選択される少なくとも一種の化合物を含む。
【0020】
好ましくは、組成物は、化合物HFO-1234yf、HFO-1243zf、並びにHFC-245cb、HCFC-115及びHFC-152aから選択される少なくとも一種の化合物を含む。
【0021】
好ましい、及び/又は前述の組成物は、HCFC-240db、HCFO-1233xf、HCFC-243db、HCFO-1233zd、HCFC-114a、HCFC-
122、HCFC-123、HCFC-124、HCFC-124a、HFC-125、HCFC-133a、HCFC-142、HCFC-143、HCFC-243ab、HCFC-244eb、HFC-281ea、HCO-1110、HCFO-1111、HCFO-1113、HCFO-1223xd、HFC-245eb、HFC-245fa、HFC-23、HFC-143a、HFC-236fa、HCFC-244bb、HCFC-244db、HFO-1132a、HFO-1223、HFO-1225zc、HFO-1225ye、HCFO-1232xf並びにHCFO-1224xeから選択される少なくとも一種の他の追加の化合物を更に含み得る。
【0022】
前記実施態様に関係なく、化合物HFO-1234yfは、組成物中、好ましくは少なくとも99重量%、有利には少なくとも99.5重量%である。
【0023】
本発明による組成物はHCC-240dbから、一又は複数の反応工程を用いることにより得られうる。
【0024】
従って、HCC-240dbは、直接HFO-1234yfを得るために、HCFO-1233xf、HCFC-243db及びHCFO-1233zdから選択される中間生成物を任意選択的に伴い、フッ素化剤、好ましくは無水HFとの気相反応工程に供され得る。前記フッ素化反応は、触媒の存在下、好ましくは100℃から500℃、より好ましくは200℃から450℃の温度で実施され得る。HFO-1234yfの分離後、特に、沈殿とそれに続く蒸留後、中間生成物と、必要に応じて未反応のHCC-240dbは、反応工程でリサイクルされ得る。
【0025】
本発明による組成物は、少なくとも二つの反応工程によりHCC-240dbから得られうる。第一の工程は、一般に、HCFO-1233xf等の少なくとも一種の中間生成物を得るために、HCC-240dbをフッ素化剤、好ましくは無水HFを用いた気相反応に供することである。第二の工程において、HFO-1234yf及び上記の追加の化合物の少なくとも一種を含む組成物を得るために、中間生成物はフッ素化剤、好ましくは無水HFと反応する。第二の工程の最後で、HFO-1234yf及び追加の化合物の少なくとも一種を含む組成物が分離及び/又は精製工程に供される。
【0026】
この二つの工程は、触媒の存在下で実施され得、触媒は同一でも異なるものであってもよい。これらの工程は、反応が気相中で実施される場合、一つの同じ反応器内で実施され得る。この場合、反応器は下部触媒床とは異なる上部触媒床を含み得る。
【0027】
調製が二つの反応工程を用いて実施される場合、第一の工程の反応温度は、通常、第二の工程の反応温度より低く、好ましくは100℃から500℃、より好ましくは200℃から450℃である。
【0028】
前述の分離及び/又は精製工程の後、必要であれば、HFO-1234yfを含む流れが、共沸蒸留工程、並びに/又は活性炭及び/若しくはモレキュラーシーブによる吸着工程、或いは光塩素化工程に供され得る。
【0029】
本発明の一実施態様によれば、組成物は一連の反応(図1)により得られる。図1は、HFO-1234yfの生成のための一連の反応を示す。この一連の反応は、HCFO-1233xfを生ずる、HCC-240dbのフッ化水素とのヒドロフッ素化反応で始まる。次に、化合物HCFO-1233xfは、HFO-1234yfを生ずるヒドロフッ素化反応に供され得る。次に、化合物HFO-1234yfは、HFC-245cbを生ずるヒドロフッ素化反応に供され得る。多くの生成物が、この一連の反応に平行する反応、例えば、異性化反応、HClの付加反応及び塩素化反応等により得られうる。
【0030】
好ましくはフッ化水素及び/又は空気存在下で活性化され、クロム酸化物及び任意選択的に、例えばニッケル、亜鉛、チタン、マグネシウム及びスズに基づく共触媒を含む、担持されているか或いは担持されていないフッ素化触媒の存在下で、上記の反応は、実施される。
【0031】
ヒドロフッ素化反応は気相で、任意選択的に十分量の酸素の存在下で実施され得る。
【0032】
HFO-1234yfの生成は、一又は複数の反応器内で順次実施され得る。HCC-240dbは、一つの反応器の入口、又は直列の反応器の第一の反応器の入口、或いは直列の各反応器の各入口に供給され得る。
【0033】
ヒドロフッ素化反応は、連続的又は半連続的に実施され得る。
【0034】
HFO-1234yfの生成は、好ましくは0.1から50bar、より好ましくは0.3から15barの絶対圧力で実施され得る。
【0035】
反応器中の接触時間は、1から100秒、好ましくは5から50秒である。
【0036】
フッ化水素と有機化合物とのモル比は、4:1から100:1、好ましくは5:1から50:1である。
【0037】
本発明による組成物はHF、HCl及び不活性ガス(窒素、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素等)を含有し得る。
【0038】
HF及びHClの中和/除去工程も実施され得る。本発明による組成物は、HF及び/又はHClも微量含有し得るか、或いは全く含有し得ない。
【0039】
反応工程で使用される大過剰のHFの存在下において、HFO-1234yfの製造は、反応工程にリサイクルされ得るHFの一部を回収するために、少なくとも一つの蒸留工程を含み得る。
【0040】
本発明による組成物は、多くの利用分野において、特に伝熱流体、噴射剤、発泡剤、膨張剤、ガス誘電体、モノマー又は重合媒質、支持流体、研磨剤、乾燥剤、及びエネルギー生成装置用流体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】HFO-1234yf(F1234yf)の生成のための一連の反応を示す。
【図1】


(4)実施可能要件適合性についての判断
本願発明1に係る組成物は、請求項1の記載にあるように、化合物HFO-1234yf、HCC-40、並びにHFO-1234ze、HFC-134a、HCFC-115、HFC-152a及びHFO-1243zfから選択される少なくとも一種の化合物を更に含むことのみが特定されており、これらの化合物の配合量(成分組成)は特定されていない。
そ して、本願発明1は、【0001】の記載などからみて、冷蔵、空調、及び冷暖房装置等の多くの利用分野において有用な組成物として使用することを予定したものと解される。
ここで、発明の詳細な説明の【0004】?【0022】には、本願発明1の組成物に含まれる化合物について記載され、さらに、【0023】?【0039】には、本願発明1の組成物の大まかな製造方法について記載されているものの、本願発明1を、その成分組成によらず、その全ての組成範囲で冷蔵、空調、及び冷暖房装置等に使用することができることを裏付ける具体的な記載はない。
すなわち、本願発明1の「組成物」という物を「冷蔵、空調、及び冷暖房装置等に使用」するためには、HFO-1234yfやHCC-40等の各成分の配合量を、その使用目的に応じて、設定する必要があるが、本願明細書の発明の詳細な説明には実施例の記載やそれに代わる教示がないので、過度の試行錯誤をすることなく、その物を使用できるとはいえない。
そして、本願発明1を、その成分組成によらず、その全ての組成範囲で冷蔵、空調、及び冷暖房装置等に使用できるという出願時の技術常識もなく、本願発明1の組成物に含まれる化合物についての記載及び本願発明1の組成物の大まかな製造方法についての記載から本願発明1が冷蔵、空調、及び冷暖房装置等に使用できるとはいえないから、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を使用することができる程度にその発明が記載されているとはいえない。
さらに、本願発明1は、HCFC-115やHFC152aを含まない組成物を包含するものであるが、【0006】の記載からみて、当該HCFC-115やHFC152aなどの化合物は分離が困難であると認められるところ、発明の詳細な説明には、このような分離困難な化合物の一部を含まない、本願発明1のような組成物を製造するための方法が記載されておらず、そのような組成物を得ることができるという出願時の技術常識もないから、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作ることができる程度にその発明が記載されているとはいえない。

(5)審判請求人の主張について
ア 請求人は、令和2年2月28日提出の意見書において、次にように主張する。
「審判官殿は、「・・・本願発明が冷蔵等に使用できるという出願時の技術常識もなく、・・・」と述べておられます。しかしながら、本願の出願前における公表特許公報、特表2010-529111の段落[0002]には、「2,3,3,3-テトラフルオ
ロプロペン(以下「HFC-1234yf」とも表記する)は、代替フロンとして使用可能な混合冷媒の構成成分として注目されている。」との記載がございます。(WO2009/035130の1ページ、8?11行目には”2, 3, 3,3-tetrafluoropropene (hereinafter occasionally- referred to as"HFC-1234yf") is attracting attention as a constituent of a mixedrefrigerant that serves as a substitute for CFC.”との記載がございます)
さらに審判官殿は、「本願発明の「組成物」という物を「冷蔵等に使用」するためには、HFO-1234yfやHCC-40等の各成分の配合量を、その使用目的に応じて、設定する必要があるが、本願明細書には実施例の記載がないので、過度の試行錯誤をすることなく、その物を使用できるとはいえない。」と述べておられます。しかしながら本願明細書の段落[0022]には、「化合物HFO-1234yfは、組成物中、好ましくは少なくとも99重量%、有利には少なくとも99.5重量%である。」との記載がございます。化合物HFO-1234yfは、組成物中、好ましくは少なくとも99重量%、有利には少なくとも99.5重量%である。
また審判官殿は、「・・・発明の詳細な説明には、このような分離困難な化合物の一部を含まない組成物を製造するための方法が記載されておらず、そのような組成物を得ることができるという出願時の技術常識もないから、・・・」と述べておられます。しかしながら本願明細書の段落[0024]、[0025]に製造方法についての記載がございますし、上記で挙げた特表2010-529111に「そのような組成物を得ることができるという出願時の技術常識」がございます。
従いまして理由2は解消するものと思料致します。」
イ そこで、検討するに、確かに、HFC-1234yfは、代替フロンとして使用可能な混合冷媒の構成成分として注目されているが、本願発明1はHFC-1234yf等の化合物の配合量は特定していないし、上記(4)のとおり、本願明細書の【0024】、【0025】には、分離困難な化合物の一部を含まない組成物を製造するための方法は記載されていない。
また、【0022】に「化合物HFO-1234yf」を「少なくとも99重量%」の量で「好ましく」は用いられることが記載されているとしても、本願発明1は、当該「化合物HFO-1234yf」の量を99重量%未満の量で用いる場合を除外するものとして特定されておらず、その下限値をどの程度まで低減できるのかについては、過度の試行錯誤をすることなく決定できるとはいえない。
このため、上記意見書の主張は採用できない。
ウ さらに、請求人は、同意見書において、「図1の方法により得られた組成物の組成は、本願請求項1?6のいずれかの組成となっております。」と釈明する。
しかしながら、本願発明1は「HCC-40」を必須とする組成なのに対して、独立形式で記載された本願発明4は「HCC-40」を必須としない組成なので、図1の方法により得られた組成物が、本願発明4の組成となっているとすると、本願発明1の組成を得るための方法は具体的に記載されているとはいえない。このため、上記意見書の釈明を参酌したとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を満たす程度の記載になっているとは認められない。

(6)実施可能要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 令和元年9月27日付けの当審拒絶理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法について
特許法第36条第6項は、「第2項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下、この観点に立って、判断する。

(2)特許請求の範囲の記載
令和2年2月28日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1、4の記載は、上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
令和2年2月28日になされた手続補正後の発明の詳細な説明の記載は、前記2(3)のとおりである。

(4)サポート要件適合性についての判断
ア 本願発明1の課題
発明の詳細な説明の【0001】、【0002】及びその全体の記載からみて、本願発明1の課題は、冷蔵、空調、及び冷暖房装置等の多くの利用分野において有用な、環境への影響が少ない、組成物を提供することにあるものと解するのが相当である。

イ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の対比・検討
(ア)前提
上記アで述べたとおり、本願発明1の課題は、冷蔵、空調、及び冷暖房装置等の多くの利用分野において有用な、環境への影響が少ない、組成物を提供することにあるから、本願発明1に係る記載がサポート要件に適合するには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本願発明1に記載された範囲のもの全てが、上記冷蔵、空調、及び冷暖房装置等の多くの利用分野において有用な、環境への影響の少ない、組成物を提供するという課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあることが必要である。
以下、この点について検討する。

(イ)対比・検討
本願発明1は、請求項1の記載からみて、化合物HFO-1234yf、HCC-40、並びにHFO-1234ze、HFC-134a、HCFC-115、HFC-152a及びHFO-1243zfから選択される少なくとも一種の化合物を更に含むことのみが特定されており、これらの化合物の配合量(成分組成)は特定されていない。他方、前記2(4)において指摘したとおり、発明の詳細な説明には、本願発明1に係る組成物全般にわたり、環境への影響が少なく、冷蔵、空調、及び冷暖房装置等に使用することができること(これらの利用分野において有用であること)が示されているとは認められない。また、それを認めるに足りる技術常識も見当たらない。
そうすると、特許請求の範囲の記載(本願発明1)と発明の詳細な説明の記載を対比してみると、本願発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められる。

(5)審判請求人の主張について
ア 請求人は、令和2年2月28日提出の意見書において、次のように主張する。
「さらに審判官殿は、「前記2.(4)において指摘したとおり、発明の詳細な説明には、本願発明1に係る組成物全般にわたり、環境への影響が少なく、冷蔵に使用することができること(これらの利用分野において有用であること)が示されているとは認められない。また、それを認めるに足りる技術常識も見当たらない。」と述べておられます。
前述した通り、本願明細書の段落[0022]には、「化合物HFO-1234yfは、組成物中、好ましくは少なくとも99重量%、有利には少なくとも99.5重量%である。」との記載がございます。また、化合物HFO-1234yfに関し、「http://www.mihama.com/products/refri/r1234yf.html」には、「R-1234yfはHFC-134a代替冷媒として開発され、HFC-134aに比べオゾン破壊係数および地球温暖化係数が低く、地球環境に極めて優しい冷媒です。」との記載がございます。このページには、化合物HFO-1234yfのオゾン破壊係数が0であること、地球温暖化係数が1未満であることが示されております。なお、これらの数値は2007年に発表されたデータに基づくものであることが脚注に記載されております。
従いまして理由3もまた解消するものと思料致します。」
イ しかしながら、本願発明1の化合物の成分組成は特定されていないのであるから、当該主張は当を得たものとはいえず、採用できない。

(6)サポート要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上の検討のとおり、本願発明4は、特許法第29条第1項の規定により特許をすることができないものであり、また、本願は、同法36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、その他の請求項など、その余の点について検討するまでもなく、同法第49条の規定により、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-30 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-21 
出願番号 特願2015-550133(P2015-550133)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09K)
P 1 8・ 536- WZ (C09K)
P 1 8・ 113- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 瀬下 浩一
木村 敏康
発明の名称 2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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