• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24H
管理番号 1369394
審判番号 不服2019-11258  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-28 
確定日 2020-12-10 
事件の表示 特願2016- 39730「貯湯式給湯機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月 7日出願公開、特開2017-156016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月2日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月23日:手続補正書
平成30年11月27日:拒絶理由通知書
平成31年 1月16日:意見書および手続補正書
令和 1年 6月 4日:拒絶査定
令和 1年 8月28日:審判請求書および手続補正書
令和 2年 6月11日:拒絶理由通知書
令和 2年 8月17日:意見書及び手続補正書

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明」という。)は、令和2年8月17日提出の手続補正書に記載された事項による特定される、以下のとおりのものである。
「電力を使用して水の沸き上げを行ない、前記沸き上げた水を貯えるタンクを有する貯湯式給湯機であって、
1日を前記タンク内の水を沸き上げる時間帯である複数の第1時間帯に分割し、前記分割された第1時間帯に対して前記タンク内の水を沸き上げる優先順位を設定し、
前記第1時間帯とは独立して、沸き上げを禁止する複数の第2時間帯を任意の時間帯に設定する制御装置を備えること、
を特徴とする貯湯式給湯機。」

第3 拒絶の理由
令和2年6月11日付けで当審が通知した拒絶理由は概略次のとおりである。

本件出願の請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2014-240703号公報
引用文献2.特開2014-92288号公報
引用文献3.特開2006-164100号公報
引用文献4.特開2008-168019号公報
引用文献5.特開2010-145072号公報

第4 引用文献
1.引用文献の記載
令和2年6月11日付けで当審より通知した拒絶理由において引用した引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。

1a)「【0020】
次に本実施の形態に係る貯湯式給湯機の動作について説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る貯湯式給湯機の沸き上げ運転時の回路構成図である。尚、ここでいう沸き上げ運転とは、HPユニット7を利用して沸き上げた湯を貯湯タンク8内に貯える運転のことである。・・・(以下、省略)」

1b)「【0022】
本発明の実施の形態に係る貯湯式給湯機は、ピーク時間帯での沸き上げ運転を禁止するピークカットを設定する節約モードと、ピークカットの設定をしない通常モードとの2つの運転モードを備え、当日の環境条件に応じてこれらの運転モードを切り替える機能を備えるものである。なお、ここでいうピーク時間帯とは、電力消費量(電力需要)が社会全体としてピークとなる時間帯であり、電力使用量を抑制することが社会的に求められている時間帯である。したがって、ピーク時間帯は他の時間帯に比して電力料金単価が割高に設定されている時間帯でもある。ピーク時間帯を設定する方法としては、例えば、電力会社等から発せられるピーク時間帯に関する情報をインターネットやスマートグリットを経由して取得し、取得した情報を用いて制御部36がピーク時間帯を自動的に設定する。また、使用者がリモコン44に直接入力するなどしてピーク時間帯の設定を行うこととしてもよい。以下、通常モードと節約モードについて詳細に説明する。
【0023】
通常モードでは、制御部36は記憶されている履歴情報から1日の給湯使用量を学習し、電気料金の安い深夜電力時間帯(例えば23時から翌朝7時)に、学習により予測した翌日分の給湯負荷を賄えるだけの量を貯湯タンク8に貯える沸き上げ運転を行う。また、通常モードでは、深夜電力時間帯以外の時間帯(昼間時間帯)に、貯湯タンク8内の貯湯量が所定の基準貯湯量以下となったら、制御部36は所定量または所定時間だけ追加沸き上げ運転を行う。ここで、基準貯湯量は、沸き上げ運転を行ったとしても給湯使用負荷に追いつかずに湯切れを起こす量であり、例えば過去の給湯使用量の履歴に基づいてその値が設定される。
【0024】
一方、節約モードでは、上述した通常モードと同様に、制御部36は記憶されている履歴情報から1日の給湯使用量を学習し、電気料金の安い深夜電力時間帯(例えば23時から翌朝7時)に、学習により予測した翌日分の給湯負荷を賄えるだけの量を貯湯タンク8に貯える沸き上げ運転を行う。また、節約モードでは、深夜電力時間帯以外の時間帯(昼間時間帯)に、貯湯タンク8内の貯湯量が所定の基準貯湯量以下となったら、制御部36は所定量または所定時間だけ追加沸き上げ運転を行う。但し、節約モードでは、制御部36はピーク時間帯において上述したピークカットが行われる。」

2.引用発明
上記1.引用文献の記載を総合すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「HPユニット7を利用して沸き上げた湯を貯湯タンク8内に貯える沸き上げ運転を行う貯湯式給湯機であって、
電気料金の安い深夜電力時間帯に、学習により予測した翌日分の給湯負荷を賄えるだけの量を貯湯タンク8に貯える沸き上げ運転を行うとともに、深夜電力時間帯以外の時間帯に、貯湯タンク8内の貯湯量が所定の基準貯湯量以下となったら、制御部36は所定量または所定時間だけ追加沸き上げ運転を行い、
ピークカットを設定する節約モードでは、制御部36は、使用者がリモコン44に直接入力するなどして設定したピーク時間帯での沸き上げ運転を禁止する
貯湯式給湯機。」

第5 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明は、HPユニット7により湯の沸き上げを行っており、電気料金に応じて運転制御を変更していることから、当該HPユニット7が電力を利用して湯の沸き上げを行っていることは明らかである。よって、引用発明の「HPユニット7を利用して沸き上げた湯を貯湯タンク8内に貯える沸き上げ運転を行う貯湯式給湯機」は、本願発明の「電力を使用して水の沸き上げを行ない、前記沸き上げた水を貯えるタンクを有する貯湯式給湯機」に相当する。
引用発明は、「電気料金の安い深夜電力時間帯に、学習により予測した翌日分の給湯負荷を賄えるだけの量を貯湯タンク8に貯える沸き上げ運転を行うとともに、深夜電力時間帯以外の時間帯に、貯湯タンク8内の貯湯量が所定の基準貯湯量以下となったら、制御部36は所定量または所定時間だけ追加沸き上げ運転を行」っている。これは、一日を「深夜電力時間帯」と「深夜電力時間帯以外の時間帯」の二つの時間帯に分けており、これら二つの時間帯は、本願発明の「複数の第1時間帯」に相当する。また、深夜電力時間帯に沸き上げ運転、深夜電力時間帯以外の時間帯に追加沸き上げ運転を行うことは、深夜電力時間帯により多くの沸き上げを行わせていることから、深夜電力時間帯を優先して沸き上げ運転を行わせていると認められる。よって、引用発明の「電気料金の安い深夜電力時間帯に、学習により予測した翌日分の給湯負荷を賄えるだけの量を貯湯タンク8に貯える沸き上げ運転を行うとともに、深夜電力時間帯以外の時間帯に、貯湯タンク8内の貯湯量が所定の基準貯湯量以下となったら、制御部36は所定量または所定時間だけ追加沸き上げ運転を行」うことは、本願発明の「1日を前記タンク内の水を沸き上げる時間帯である複数の第1時間帯に分割し、前記分割された第1時間帯に対して前記タンク内の水を沸き上げる優先順位を設定」することに相当する。
引用発明の「ピーク時間帯」は、沸き上げ運転を禁止する時間帯であるから、本願発明の「第2時間帯」に相当し、引用発明の「ピーク時間帯」は使用者がリモコン44で入力するものであるから、本願発明の「第2時間帯」を「設定する」ことに相当する。また、引用発明の「制御部36」は、本願発明の「制御装置」に相当する。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
「電力を使用して水の沸き上げを行ない、前記沸き上げた水を貯えるタンクを有する貯湯式給湯機であって、
1日を前記タンク内の水を沸き上げる時間帯である複数の第1時間帯に分割し、前記分割された第1時間帯に対して前記タンク内の水を沸き上げる優先順位を設定し、
沸き上げを禁止する第2時間帯を設定する制御装置を備えること、
を特徴とする貯湯式給湯機。」

[相違点]
本願発明は、「第2時間帯」を「第1時間帯とは独立して」、「複数」「任意の時間帯」に設定するのに対し、引用発明の「ピーク時間帯」はそのように設定できるか明らかでない点。

2.判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「ピーク時間帯」は、使用者がリモコン44を使って入力し、当該「ピーク時間帯」には給湯機の沸き上げ運転が禁止される。これにより、「ピーク時間帯」に電力使用量が抑制されるのは明らかである。
一方、使用者の立場からすると、社会的に電力使用を抑制すべき時間はもちろんのこと、自らの生活様式に応じて、1日のうちで自由に(任意に)電力使用を抑制する設定ができる方が利便性が高いのは言うまでもない。
そうすると、引用発明において、使用者による入力を受け付ける構成に基づき、「ピーク時間帯」を、深夜電力時間帯か否かにかかわらず1日の任意の時間に設定できるようにすることで、使用者の利便性を向上させようとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。また、引用発明をそのように変更することを妨げる特段の事情も見あたらない。
また、引用発明において「ピーク時間帯」を「複数」設定可能にすることも、何ら困難性は認められない。
よって、相違点にかかる本願発明の構成は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

なお、審判請求人は、令和2年8月17日提出の意見書において、「引用文献1の段落0024には、“節約モードでは、深夜電力時間帯以外の時間帯(昼間時間帯)”との記載があります。このことから、まず、1日を深夜時間帯と昼間時間帯とに分割したうえで、ピーク時間帯を設定するものと理解されます。
“ピーク時間帯”は、“電力消費量(電力需要)が社会全体としてピークとなる時間帯であり、電力使用量を抑制することが社会的に求められている時間帯である”と定義されていることから、昼間時間帯の定義された時間帯のみに、“ピーク時間帯”が設定されることになります。このことは、本願発明の“複数の第2時間帯を任意の時間帯に設定する”とは異なります。
審判合議体は、おそらく第2の解釈をされていると思われます。しかしながら、“ピーク時間帯”を本願発明の“第2時間帯”に当てはめても、引用文献1の“ピーク時間帯”は、“昼間時間帯”にしか設定することができません。一方、本願発明の“第2時間帯”は、“深夜電力時間帯”も含めて“任意の時間帯に設定”することができます。この点で、本願発明は、引用文献1とは異なります。このことにより、本願発明は、宅内の電力需要が高まる例えば朝夕に、“第2時間帯”を設定することで、契約電力量を上回る運転を回避することができます。」と述べている。

しかしながら、先に述べたとおり、引用発明において、「ピーク時間帯」は、使用者がリモコン44を用いて設定できるものであり、使用者が自らの意思で、電力使用量を抑えたいと考える任意の時間帯に「ピーク時間帯」を設定可能とすることに何ら困難性はなく、使用者が社会的要請のみに基づいて昼間時間帯のみにしか「ピーク時間帯」を設定できないとする合理的理由は認められない。
また、仮に、審判請求人の主張するとおり、引用発明が「ピーク時間帯」を深夜電力時間帯以外の時間帯(昼間時間帯)に設定することしか意図していないとしても、リモコン44でのピーク時間帯の入力を昼間時間帯の設定のみしか受け付けないようにすることは、使用者の利便性を損なうものであり、引用発明において、使用者の生活様式に応じて利便性を向上すべく、1日のうち任意の時間帯に設定できるようにしておくことは、当業者が適宜なしえることに過ぎない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-09-17 
結審通知日 2020-09-29 
審決日 2020-10-15 
出願番号 特願2016-39730(P2016-39730)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 ひろみ  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 槙原 進
川上 佳
発明の名称 貯湯式給湯機  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ