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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63B
管理番号 1369416
審判番号 不服2020-1782  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-10 
確定日 2020-12-10 
事件の表示 特願2017- 15473号「燃料油移送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日出願公開、特開2018-122682〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 特願2017-15473号「燃料油移送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月9日出願公開、特開2018-122682号〕について、次のとおり審決する。

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年 1月31日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 8月 3日付け :拒絶理由通知書
平成30年10月 2日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月22日付け :拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 1年 6月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年11月15日付け :令和 1年 6月 3日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 2月10日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和 2年 2月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 2年 2月10日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
喫水線上位に配置された燃料油貯蔵タンクと、該燃料油貯蔵タンクから吸入された燃料油を加熱して該燃料油貯蔵タンク内の燃料油の加熱に用いることが可能な燃料油澄タンクと、を備えて前記燃料油を循環させることができる燃料油移送装置において、
前記燃料油貯蔵タンクは、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ、該トップサイドタンク内に設けられていて、ベルマウスから出た加熱済み燃料油の上昇を防ぐために前記トップサイドタンクの上部壁とは別に設けられている天井を備えた小区画における最も深い位置において開口するベルマウスを有する吸入管と、該ベルマウスの開口に対向する底部に設けられてベルマウスが進入可能な凹部と、を備え、該凹部は前記ベルマウスの設置数に応じて前記底部に形成されていることを特徴とする燃料油移送装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前になされた令和1年6月3日付けの手続補正は、同年11月15日付けの補正の却下の決定により却下されたため、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、平成30年10月2日付けの手続補正により補正された次のとおりのものである。
「【請求項1】
喫水線上位に配置された燃料油貯蔵タンクと、該燃料油貯蔵タンクから吸入された燃料油を加熱して該燃料油貯蔵タンク内の燃料油の加熱に用いることが可能な燃料油澄タンクと、を備えて前記燃料油を循環させることができる燃料油移送装置において、
前記燃料油貯蔵タンクは、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ、該トップサイドタンク内に設けられた小区画における最も深い位置において開口するベルマウスを有する吸入管と、該ベルマウスの開口に対向する底部に設けられてベルマウスが進入可能な凹部と、を備え、該凹部は前記ベルマウスの設置数に応じて前記底部に形成されていることを特徴とする燃料油移送装置。」

2 補正の適否
2-1 補正の目的について
上記1のとおり、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「トップサイドタンク内に設けられた小区画」について、「ベルマウスから出た加熱済み燃料油の上昇を防ぐために前記トップサイドタンクの上部壁とは別に設けられている天井を備えた」との事項を、追加して限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件について
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。

2-2-1 引用文献の記載事項等
(1)引用文献7
(1-1)記載事項
令和 1年11月15日付け補正の却下の決定において主引用文献として引用された、本願の出願前に頒布された特開2002-308399号(以下「引用文献7」という。)には、以下事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は船舶、発電機のボイラ等(以下、「船舶等」という)、燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクの改良に係り、特に、熱効率の良好な燃料油貯蔵タンクに関する。
・・・
【0003】
この種の加温設備を有する燃料油移送装置として、従来、図2における装置、すなわち、燃料油貯蔵タンク1と、これと移送管2を介して連通された図示しない加熱装置を備えた燃料油澄タンク3と、燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を燃料油澄タンク3に移送するための移送ポンプ4と、燃料油澄タンク3に連通された燃料油サービスタンク5と、燃料油澄タンク3および燃料油サービスタンク5のいずれか一方、または両方を燃料油貯蔵タンク1に連通する吸入管6と、吸入管6に設けられ、燃料油澄タンク3および燃料油サービスタンク5のいずれか一方、または両方中の加熱された燃料油を燃料油貯蔵タンク1に流下せしめる流下ポンプ7とを備えた装置が知られている。図2において、8はヒータ、9は温度センサ、10、11、12、13はバルブである。
【0004】
上述の図2装置では、燃料油澄タンク3中の燃料油は図示しない加熱装置により加熱され、次いで、図示しない燃料油清浄機で清浄されて燃料油サービスタンク5に送り込まれ、ここから図示しない主機、補機、ボイラ等に分配供給される。同時にこの加熱された燃料油の一部は流下ポンプ7の作動により燃料油貯蔵タンク1に該タンク1中の吸入主管14を通して流下され、該タンク1中の燃料油を加温する。
・・・
【0011】
図1において、1は燃料油貯蔵タンクであって、この中には燃料油が貯蔵されるとともに、吸入主管14が設置される。そして、加熱された燃料油はこの吸入主管14の先端のベルマウス15を通して燃料油貯蔵タンク1中に吸入されるとともに、吸入主管14から図2に示される移送管2の方向に排出される。
【0012】
吸入主管14は図1に示されるように、ボックス状小区画16で覆われる。このボックス状小区画16は任意の一側が貯蔵タンク1の底面17から上方に切り込まれて穴18を形成している。なお、22はエア抜きである。
【0013】
さらに、このボックス状小区画16の内側であって、穴18と対面し、かつ、穴18から離れた位置の貯蔵タンク1の小区画の底面17からつい立て19を直立して、吸入主管14を小区画16とともに覆う。
【0014】
加熱された燃料油は温度が高いため、比重が軽く、すぐに上方に上昇するが、小区画16の天板21に突き当たり、さらに、つい立て19の先端水平板20(T字板)にも突き当たって乱流を起こし、混合される。この現象は燃料油を排出するときも、燃料油は穴18から小区画16内に導入され、同様に乱流を起こして混合される。このため、燃料油の熱効率は極めて良好となり、吸入主管14付近に加熱油が良好に停滞し、冷温油が排出されることがない。
【0015】
なお、つい立て19は乱流を促進して混合を充分に行うために、図1に示すようにT字形状であることが好ましい。また、小区画16の容量はおおよそ2.8×2.8×1.8=14.1m^(3)の大きさであることが好ましい。なお、一回の汲上げ量はおおよそ、4.7m^(3)ほどである。
【0016】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明は燃料油貯蔵タンク1中にボックス状小区画16を吸入主管14を覆うように設け、さらに小区画16内にはつい立て19を設けたから、加熱された燃料油は吸入主管14のベルマウス15から、天板21や、つい立て19の水平板20に突き当たって乱流を起こして混合される。さらに、排出の際には、穴18からつい立て19上を流れて小区画16に導入され、このときに乱流によって充分に混合され、加熱された燃料油を排出し得る。したがって、本発明燃料油貯蔵タンク1は熱効率が著しく良好である。」

イ 引用文献7には、以下の図が示されている。
【図1】


【図2】

(1-2)認定事項
上記(1-1)ア、イの記載事項から、引用文献7には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 段落【0001】の「本発明は・・・船舶等・・・燃料油移送装置・・・に関する」、及び段落【0003】の「燃料油移送装置として・・・燃料油貯蔵タンク1と、これと移送管2を介して連通された図示しない加熱装置を備えた燃料油澄タンク3・・・とを備えた装置」との記載から、引用文献7には「燃料油貯蔵タンク1及び燃料油澄タンク3を備えた船舶の燃料油移送装置」に関する技術について開示されていること。

イ 段落【0003】の「燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を燃料油澄タンク3に移送する」、及び「燃料油澄タンク3・・・中の加熱された燃料油を燃料油貯蔵タンク1に流下せしめる」との記載、段落【0004】の「燃料油澄タンク3中の燃料油は図示しない加熱装置により加熱され、・・・加熱された燃料油の一部は・・・燃料油貯蔵タンク1に該タンク1中の吸入主管14を通して流下され、該タンク1中の燃料油を加温する」、並びに段落【0011】の「1は燃料油貯蔵タンクであって、この中には燃料油が貯蔵されるとともに、吸入主管14が設置される。そして、加熱された燃料油はこの吸入主管14の先端のベルマウス15を通して燃料油貯蔵タンク1中に吸入されるとともに、吸入主管14から図2に示される移送管2の方向に排出される」との記載から、上記燃料油澄タンク3は、上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14の先端のベルマウス15を通して上記燃料油貯蔵タンク1に吸入されることにより、上記燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温すること。

ウ 図1から、吸入主管14のベルマウス15は、底面17に対向して開口することが明らかであるところ、段落【0013】の「ボックス状小区画16の内側であって、・・・吸入主管14を小区画16とともに覆う。」との記載から、燃料油貯蔵タンク1は、燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画16において開口するベルマウス15を有する吸入主管14と、ベルマウス15の開口に対向する底部を備えること。

エ 段落【0014】の「加熱された燃料油は・・・上方に上昇するが、小区画16の天板21に突き当たり」、及び段落【0016】の「燃料油貯蔵タンク1中にボックス状小区画16を吸入主管14を覆うように設け、・・・加熱された燃料油は吸入主管14のベルマウス15から、天板21・・・に突き当たって」との記載から、吸入主管14のベルマウス15からの加熱された燃料油は、ボックス状小区画16の天板21に突き当たること。

(1-3)引用発明
上記(1-1)、(1-2)から、引用文献7には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「燃料油貯蔵タンク1及び燃料油澄タンク3を備えた船舶の燃料油移送装置であって、
上記燃料油澄タンク3は、上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、
上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14の先端のベルマウス15を通して上記燃料油貯蔵タンク1に吸入されることにより、上記燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温するものであり、
上記燃料油貯蔵タンク1は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画16において開口するベルマウス15を有する吸入主管14と、
上記ベルマウス15の開口に対向する底部を備え、
上記吸入主管14の上記ベルマウス15からの加熱された燃料油は、上記ボックス状小区画16の天板21に突き当たる
燃料油移送装置。」

(2)引用文献3
(2-1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献3として示され、本願の出願前に頒布された特開2009-119903号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0020】
[実施の形態2:船舶]
図2?図4は、本発明の実施の形態2に係る船舶を説明するものであって、図2はその一部を模式的に示した側面視の断面図、図3はその一部を断面にして模式的に示した平面図、図4は模式的に示した正面視の断面図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。図2および図3において、船舶200の船尾部に機関室202が配置され、第2燃料タンク2が機関室202の甲板寄りの範囲で、側舷に沿って配置されている。また、機関室202の船首側に貨物室203が配置され、貨物室203を挟むように側舷に沿ってバラストタンク201が配置されている。そして、バラストタンク201内に、第1燃料タンク1が配置されている。また、機関室202の上方には船楼205が設置されている。なお、第1燃料タンク1の天板および第2燃料タンク2の天板は、船舶200の甲板204によって形成されているが、甲板204とは別個に、天板を設けてもよい。」

イ 引用文献3には、以下の図が示されている。
【図4】


(2-2)引用文献3に記載された技術的事項
上記(2-1)のア、イから、【図4】は正面視の断面図であり、船首側から見た断面形状と同様であると認められる。段落【0020】の「第1燃料タンク1の天板・・・は、船舶200の甲板204によって形成されているが、甲板204とは別個に、天板を設けてもよい」との記載、及び【図4】から、船舶の第1燃料タンク1は、L.W.L.(満載喫水線)上位であって、船舶の上甲板とは別個に天板を設けて、上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクであると認められる。
したがって、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「船舶の燃料タンクにおいて、喫水線上位であって、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクを用いること。」

(3)引用文献4
(3-1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として示され、本願の出願前に頒布された実願昭50-56771号(実開昭51-136293号)のマイクロフィルム(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「第4図および第5図は、それぞれ第2図および第3図に対応させて本考案の第2実施例を示すもので、この実施例では各舷側タンク1,1および中央タンク2が、それぞれの底部の傾斜最低部分としての船底外板部分に、下方へ凸出したウエル11,11,12を別々にそなえている。
そして各ウエル11,11,12内に開口する液体吸引口をもつたベルマウス13,13,14が、液体排出管としてのストリツピングライン13a,13a,14aの端末に設けられている。
なお第4,5図中、第2,3図と同じ符号は、ほぼ同様の部分を示す。
この第2実施例の場合も、船内各タンク1,2の底部における傾斜最低部分としての船底外板部分にウエル11,12をそなえて、各ウエルの内部に開口するベルマウス13,14の液体吸引口からストリツピングライン13a,14aを通じて洗滌水等の吸引排出が行われるので、残液は各ウエル11,12内に僅かに生じるだけとなり、高純度を要求されるメタノールのごとき荷液を各タンク1,2内へ積込んでも支障をきたすことがない。」(明細書第5ページ第12行?第6ページ第15行)

イ 「第4図および第5図は本考案の第2実施例としての船体構造を示すもので、第4図はその船体横断面図、第5図はその一部水平断面図である。」(明細書第7ページ第10?13行)

ウ 引用文献4には、以下の図が示されている。


(3-2)引用文献4に記載された技術的事項
上記(3-1)のア?ウから、【第4図】は船体横断面図であり、「船内各タンク1,2の底部における傾斜最低部分としての船底外板部分にウエル11,12をそなえて、各ウエルの内部に開口するベルマウス13,14の液体吸引口からストリツピングライン13a,14aを通じて洗滌水等の吸引排出が行われるので、残液は各ウエル11,12内に僅かに生じるだけとなり」、及び「各舷側タンク1,1および中央タンク2が、それぞれの底部の傾斜最低部分としての船底外板部分に、下方へ凸出したウエル11,11,12を別々にそなえている。そして各ウエル11,11,12内に開口する液体吸引口をもつたベルマウス13,13,14が、液体排出管としてのストリツピングライン13a,13a,14aの端末に設けられている。」(明細書第5ページ第12行?第6ページ第15行)との記載、並びに【第4図】から、船舶の液体を貯蔵するタンクである各舷側タンク1,1および中央タンク2は、液体排出管としてのストリツピングライン13a,13a,14aによる吸引排出による残液を僅かとするために、上記各タンク1,1,2の底部の傾斜最低部分に開口する上記ストリツピングライン13a,13a,14aと、開口に対向する底部に設けられて上記ストリツピングライン13a,13a,14aの開口部が侵入可能なウエル11,11,12を備え、当該ウエル11,11,12を上記ストリツピングライン13a,13a,14aの開口部の設置数に応じて底部に形成することが認められる。

したがって、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「船舶の液体を貯蔵するタンクにおいて、吸入管による液体吸入時に、貯蔵タンク内に残る液体を少なくするために、タンクの底部における最も深い位置に開口する吸入管と、開口に対向する底部に設けられて吸入管の開口部が侵入可能な凹部を備え、当該凹部を開口部の設置数に応じて底部に形成すること。」

(4)引用文献5
(4-1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献5として示され、本願の出願前に頒布された実願昭53-57493(実開昭54-160788号)のマイクロフィルム(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「中央タンクにおいては、固形物(13)は、センターガーダ(17)により左右に分けられ、左右の固形物(13)の上面はともに船首側の縦隔壁(8)に接する部分が最も高く、船尾側のセンターガーダ(17)に接する中央部が最も低い傾斜面となされており、船尾側中央部の最も低い部分に凹部(15)が設けられている。また、センターガーダ(17)の船尾側およびボトムトランス(11)の中央部の固形物(13)上面に接する部分には残油などを通過させるためのドレンホール(14)があけられている。側タンクにおいては、船首側の内側板(7)側が最も高く、船尾側の縦通隔壁88)側が最も低い傾斜面となされており、船尾側の縦通隔壁(8)側の最も低い部分に凹部(15)が設けられている。また、ボトムトランスの縦通隔壁(8)側の固形物(13)上面に接する部分には残油などを通過させるためのドレンホールがあけられている。上記いずれのタンクにおいても傾斜面は、油の揚荷役あるいはタンクの洗浄に際して、残油あるいは洗浄液が凹部(15)に集まる程度とし、油吸引管、洗浄液吸引管などの吸引口(16)が凹部(15)内に開口している。油の揚荷役に際しては、残油がドレンホール(14)を通過し、上記傾斜面に沿つて流れて凹部(15)に集まるため簡単に吸引することができる。タンクの洗浄の場合も同様である。」(明細書第4ページ第4行?第5ページ12行)

イ 引用文献5には、以下の図が示されている。






(4-2)引用文献5に記載された技術的事項
上記(4-1)のア、イの「中央タンクにおいては・・・中央部が最も低い傾斜面となされており、船尾側中央部の最も低い部分に凹部(15)が設けられている・・・側タンクにおいては、船首側の内側板(7)側が最も高く、船尾側の縦通隔壁88)側が最も低い傾斜面となされており、船尾側の縦通隔壁(8)側の最も低い部分に凹部(15)が設けられている。・・・上記いずれのタンクにおいても傾斜面は、油の揚荷役あるいはタンクの洗浄に際して、残油あるいは洗浄液が凹部(15)に集まる程度とし、油吸引管、洗浄液吸引管などの吸引口(16)が凹部(15)内に開口している。・・・上記傾斜面に沿つて流れて凹部(15)に集まるため簡単に吸引することができる。」(明細書第4ページ第4行?第5ページ12行)との記載、並びに【第1図】?【第3図】から、船舶の液体を貯蔵するタンクである中央タンクおよび側タンクは、タンク内の残油あるいは洗浄液を集めるために、上記中央タンクおよび側タンクの最も低い部分に開口する上記油吸引管、洗浄液吸引管などと、開口に対向する底部に設けられて上記油吸引管、洗浄液吸引管などの開口が侵入可能な凹部(15)を備え、当該凹部(15)を上記油吸引管、洗浄液吸引管などの開口部の設置数に応じて底部に形成することが認められる。

したがって、引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「船舶の液体を貯蔵するタンクにおいて、吸入管による液体吸入時に、タンク内に残る液体を少なくするために、タンクの底部における最も深い位置に開口する吸入管と、開口に対向する底部に設けられて吸入管の開口部が侵入可能な凹部を備え、当該凹部を開口部の設置数に応じて底部に形成すること。」

2-2-2 対比・判断
(1)引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア その意味、機能または構造からみて、後者の「燃料油貯蔵タンク1」は、「船舶の燃料油移送装置」を構成するものであり、「船舶」に配置されることは明らかであるから、後者の「燃料油貯蔵タンク1」は、前者の「喫水線上位に配置された燃料油貯蔵タンク」であり、「前記燃料油貯蔵タンクは、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ」たものと、「船舶に配置された燃料油貯蔵タンク」である点で共通する。

イ 後者の「燃料油澄タンク3」は、「上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14の先端のベルマウス15を通して上記燃料油貯蔵タンク1に吸入されることにより、上記燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温するものであ」るから、後者の「上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14の先端のベルマウス15を通して上記燃料油貯蔵タンク1に吸入されることにより、上記燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温する」「上記燃料油澄タンク3」は、前者の「該燃料油貯蔵タンクから吸入された燃料油を加熱して該燃料油貯蔵タンク内の燃料油の加熱に用いることが可能な燃料油澄タンク」に相当する。

ウ 後者「燃料油貯蔵タンク1及び燃料油澄タンク3を備えた船舶の燃料油移送装置」は「上記燃料油澄タンク3は、上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14の先端のベルマウス15を通して上記燃料油貯蔵タンク1に吸入される」ことから、燃料油を循環させることができるものと認められ、後者の「燃料油貯蔵タンク1及び燃料油澄タンク3を備えた船舶の燃料油移送装置」は、前者の「前記燃料油を循環させることができる燃料油移送装置」に相当する。

エ 後者の「吸入主管14」、「ベルマウス15」、及び「ベルマウス15を有する吸入主管14」は前者の「吸入管」、「ベルマウス」、及び「ベルマウスを有する吸入管」に相当し、後者の「ボックス状小区画16」は、「燃料油貯蔵タンク1中に」「設け」られ、「上記ボックス状小区画16の天板21」は「上記吸入主管14の上記ベルマウス15から」の「加熱された燃料油」が「突き当た」るものであるから、上記アを踏まえると、後者の「上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画16」であって「上記ボックス状小区画16の天板21に」「上記吸入主管14の上記ベルマウス15からの加熱された燃料油」が「突き当たる」ものは、前者の「該トップサイドタンク内に設けられていて、ベルマウスから出た加熱済み燃料油の上昇を防ぐために前記トップサイドタンクの上部壁とは別に設けられている天井を備えた小区画」と、「燃料油貯蔵タンク内に設けられていて、ベルマウスから出た加熱済み燃料油の上昇を防ぐために設けられている天井を備えた小区画」である点で共通する。

オ 後者の「吸入主管14」は、「ボックス状小区画16において開口するベルマウス15を有する」から、後者の「上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画16において開口するベルマウス15を有する吸入主管14」は、前者の「小区画における最も深い位置において開口するベルマウスを有する吸入管」と、「小区画において開口するベルマウスを有する吸入管」である点で共通する。

カ 後者の「燃料油貯蔵タンク1」は「ボックス状小区画16において開口するベルマウス15を有する吸入主管14と、上記ベルマウス15の開口に対向する底部を備え」るから、上記ア、エ、オを踏まえると、後者の「燃料油貯蔵タンク1は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画16において開口するベルマウス15を有する吸入主管14と、上記ベルマウス15の開口に対向する底部を備え上記吸入主管14の上記ベルマウス15からの加熱された燃料油は、上記ボックス状小区画16の天板21に突き当たる」ことは、前者の「前記燃料油貯蔵タンクは、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ、該トップサイドタンク内に設けられていて、ベルマウスから出た加熱済み燃料油の上昇を防ぐために前記トップサイドタンクの上部壁とは別に設けられている天井を備えた小区画における最も深い位置において開口するベルマウスを有する吸入管と、該ベルマウスの開口に対向する底部に設けられてベルマウスが進入可能な凹部と、を備え、該凹部は前記ベルマウスの設置数に応じて前記底部に形成されている」ことと、「前記燃料油貯蔵タンクは、船舶に配置されて、前記燃料油貯蔵タンク内に設けられていて、ベルマウスから出た加熱済み燃料油の上昇を防ぐために設けられている天井を備えた小区画において開口するベルマウスを有する吸入管と、該ベルマウスの開口に対向する底部とを備え」る点で共通する。

(2)一致点・相違点
以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「船舶に配置された燃料油貯蔵タンクと、
該燃料油貯蔵タンクから吸入された燃料油を加熱して該燃料油貯蔵タンク内の燃料油の加熱に用いることが可能な燃料油澄タンクと、
を備えて前記燃料油を循環させることができる燃料油移送装置において、
前記燃料油貯蔵タンクは、
前記燃料油貯蔵タンク内に設けられていて、
ベルマウスから出た加熱済み燃料油の上昇を防ぐために設けられている天井を備えた小区画において開口するベルマウスを有する吸入管と、該ベルマウスの開口に対向する底部とを備えている、
燃料油移送装置。」

〔相違点1〕
本願補正発明は、「船舶に配置された燃料油貯蔵タンク」に関し、「喫水線上位に配置され」て、「船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ」、「小区画」に関し、「前記トップサイドタンクの上部壁とは別に設けられている天井を備え」るのに対し、引用発明は、「船舶に配置された燃料油貯蔵タンク」に関し、そのような特定がなされておらず、「小区画」に関し、「天井」がタンクの上部壁とは別に設けられているとの特定がなされていない点。

〔相違点2〕
本願補正発明は、「ベルマウスを有する吸入管」に関し、「小区画における最も深い位置において開口」するものであり、「燃料油貯蔵タンク」に関し、「該ベルマウスの開口に対向する底部に設けられてベルマウスが進入可能な凹部」を「前記ベルマウスの設置数に応じて前記底部に形成されている」のに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

(3)判断
以下、相違点について検討する。
(3-1)相違点1について
ア 引用発明の「ボックス状小区画16」は、「燃料油貯蔵タンク1中に」「設け」られ、「加熱された燃料油は、上記吸入主管14の上記ベルマウス15から上記ボックス状小区画16の天板21に突き当た」るものであるところ、段落【0013】の「貯蔵タンク1の小区画の底面17」との記載、及び段落【0012】の「貯蔵タンク1の底面17」との記載から、小区画の底面17は貯蔵タンク1の底面17であり、段落【0015】の「小区画16の容量はおおよそ2.8×2.8×1.8=14.1m^(3)の大きさ」との記載から、「ボックス状小区画16」の大きさは、船舶の燃料油貯蔵タンクの大きさに比べて小さいものであり、「上記ボックス状小区画16の天板21」が「燃料油貯蔵タンク1」の上部壁とは別に設けられていることは当業者であれば明らかである。

イ 引用文献3に記載された技術的事項に例示されるように、船舶の燃料タンクの技術分野において、喫水線上位であって、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクを用いる技術は、周知の技術ということができる。

ウ 引用発明の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクと上記周知の技術とは、船舶の燃料タンクの技術分野で共通する。そして、引用発明の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクに、上記周知技術を適用することにより、喫水線上位に配置されて、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクを用い、小区画の天井(ボックス状小区画16の天板21)をトップサイドタンクの上部壁とは別に設けることにより、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

エ 仮に、「上記ボックス状小区画16の天板21」が「燃料油貯蔵タンク1」の上部壁とは別に設けられていないとしても、引用発明において、「吸入主管14付近に加熱油が良好に停滞」(段落【0014】)するために、「上記ボックス状小区画16の天板21」を燃料油貯蔵タンク1の上部壁とは別に設けることは、上記周知の技術の適用に際し、当業者であれば所望により適宜なし得た設計変更にすぎない。

(3-2)相違点2について
ア 引用文献4に記載された技術的事項、及び引用文献5に記載された技術的事項に示されるように、船舶の液体を貯蔵するタンクにおいて、吸入管による液体吸入時に、貯蔵タンク内に残る液体を少なくするために、タンクの底部における最も深い位置に開口する吸入管と、開口に対向する底部に設けられて吸入管の開口部が侵入可能な凹部を備え、当該凹部を開口部の設置数に応じて底部に形成する技術は、周知の技術ということができる。

イ 引用発明の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクと上記周知の技術とは、舶の液体を貯蔵するタンクの技術分野で共通し、引用発明の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクが、貯蔵タンク内に残る液体を少なくするという課題を内包していることは、当業者であれば十分に認識可能なことである。

ウ そして、引用発明の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクにおいて、タンクの大きさ及び形状に応じて吸入管を複数設置することは、当業者であれば適宜行うべき事項であることから、引用発明の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクに上記周知の技術を適用することにより、船舶の液体を貯蔵するタンクとして、タンクの底部における最も深い位置に開口する吸入管と、開口に対向する底部に設けられて吸入管の開口部が侵入可能な凹部を備え、当該凹部を開口部の設置数に応じて底部に形成することにより、相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(3-4)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、及び、上記周知の技術(引用文献3、4、5に記載された技術事項)に基いて当業者が容易になし得たものであり、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成30年10月 2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)本件補正前の特許請求の範囲」に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に記載された技術事項(周知の技術)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2005-297951号公報
引用文献2.特開昭60-80987号公報
引用文献3.特開2009-119903号公報
引用文献4.実願昭50-56771号(実開昭51-136293号)のマイクロフィルム
引用文献5.実願昭53-57493(実開昭54-160788号)のマイクロフィルム
引用文献6.特開2008-239097号公報

3 当審の判断
3-1 引用文献の記載事項等
(1)引用文献1
(1-1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願前に頒布された特開2005-297951号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は船舶等における燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱方法に係り、詳細には、澄タンクで加熱された燃料油を澄タンクやサービスタンクから貯蔵タンクに流下混合して該タンク中の燃料油を所望温度に加温する加熱方法に係り、特にタンク中の燃料油の加温効率を部分的に向上させる燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱方法に関する。
・・・
【0014】
以下、本発明を添付図面を用いて詳述する。図1は船舶の燃料油貯蔵タンク内を示した斜視図である。図2は図1の横断面図である。図3は本発明にかかる燃料油貯蔵タンクの一具体例の斜視図である。図4、図5、図6および図7はそれぞれ発明にかかる燃料油貯蔵タンクの他の具体例の斜視図である。図8は燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システムを表したフローシートである。
【0015】
図8に示されるように、燃料油貯蔵タンク1中の燃料油は燃料油澄タンク3で加熱された燃料油をタンク1中に設置された吸入主管14を通して燃料湯貯蔵タンク1中の燃料油に流下混合して加温される。(なお、「燃料湯貯蔵タンク1」は「燃料油貯蔵タンク1」の誤記と認める。)
【0016】
この種の加温設備は図8において、燃料油貯蔵タンク1と、これと移送管2を介して連通された図示しない加熱装置を備えた燃料油澄タンク3と、燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を燃料油澄タンク3に移送するための移送ポンプ4と、燃料油澄タンク3に連通された燃料油サービスタンク5と、燃料油澄タンク3および燃料油サービスタンク5のいずれか一方、または両方を燃料油貯蔵タンク1に連通する吸入管6と、吸入管6に設けられ、燃料油澄タンク3および燃料油サービスタンク5のいずれか一方、または両方の加熱された燃料油を燃料油貯蔵タンク1に流下せしめる流下ポンプ7とを備えて構成される。図8において、8はヒータ、9は温度センサ、10、11、12、13はそれぞれバルブである。
・・・
【0018】
本発明の特徴は図3に示されるように、タンク1内に設置された吸入主管14の先端18周辺を1枚の区切り板19で燃料油貯蔵タンク1を横切る方向に配置して囲み、燃料油貯蔵タンク1内にボックス状小区画20を形成したことに存する。これにより、先端18はボックス状小区画20内に配置される。図3中、区切り板19の上側には、エア抜き用孔21が好ましくは複数個穿設され、下側には油通過用孔22が好ましくは複数個穿設される。なお、孔23は比較的大きな孔であって、油通過用ないしは人通行用の孔である。
・・・
【0023】
すなわち、吸入主管14は図3、図4、図5および図6に示されるように、先端がベルマウスで形成され、全体が燃料油貯蔵タンク1内に配置されてもよい。また、吸入主管14は図7に示されるように、吸入主管14の本体が燃料油貯蔵タンク1の外側に配置され、先端18のみが燃料油貯蔵タンク1内に開孔されてもよい。
【0024】
上述図3、図4、図5、図6および図7にかかる本発明燃料油貯蔵タンク1は吸 入主管14の先端18が燃油貯蔵タンク1内に形成されたボックス状小区画20に位置するため、先端18を通じて燃料油澄タンク3ないしは燃料油サービスタンク5から流入された加熱燃料油はボックス状小区画20によって拡散、放熱が防止され、燃料油の加温効率がボックス状小区画20内で部分的に向上する。」

イ 引用文献1には、以下の図が示されている。
【図3】


【図8】


(1-2)認定事項
上記(1-1)ア、イの記載事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 段落【0001】の「本発明は船舶等における燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱方法に係り」、【0014】の「図8は燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システムを表した」、及び段落【0016】の「この種の加温設備は図8において、燃料油貯蔵タンク1と、これと移送管2を介して連通された図示しない加熱装置を備えた燃料油澄タンク3と、燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を燃料油澄タンク3に移送するための移送ポンプ4と、・・・燃料油澄タンク3・・・を燃料油貯蔵タンク1に連通する吸入管6と、吸入管6に設けられ、燃料油澄タンク3・・・の加熱された燃料油を燃料油貯蔵タンク1に流下せしめる流下ポンプ7とを備え」との記載から、引用文献1には「燃料油貯蔵タンク1と、燃料油澄タンク3とを備えた船舶の燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システム」に関する技術について開示されていること。

イ 段落【0015】の「燃料油貯蔵タンク1中の燃料油は燃料油澄タンク3で加熱された燃料油をタンク1中に設置された吸入主管14を通して燃料油貯蔵タンク1中の燃料油に流下混合して加温される」、及び段落【0016】の「燃料油貯蔵タンク1と、これと移送管2を介して連通された図示しない加熱装置を備えた燃料油澄タンク3と、燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を燃料油澄タンク3に移送するための移送ポンプ4と、・・・燃料油澄タンク3・・・を燃料油貯蔵タンク1に連通する吸入管6と、吸入管6に設けられ、燃料油澄タンク3・・・の加熱された燃料油を燃料油貯蔵タンク1に流下せしめる流下ポンプ7とを備え」との記載から、上記燃料油澄タンク3は、上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14を通して燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温すること。

ウ 図3から、吸入主管14の先端18の開口は、ボックス状小区画20において、燃料油貯蔵タンク1の底部に対向することが明らかであるところ、段落【0018】の「タンク1内に設置された吸入主管14の先端18周辺を1枚の区切り板19で燃料油貯蔵タンク1を横切る方向に配置して囲み、燃料油貯蔵タンク1内にボックス状小区画20を形成したことに存する。これにより、先端18はボックス状小区画20内に配置される。」、段落【0023】の「吸入主管14は・・・先端がベルマウスで形成され、」、及び段落【0024】の「本発明燃料油貯蔵タンク1は吸入主管14の先端18が燃油貯蔵タンク1内に形成されたボックス状小区画20に位置するため、先端18を通じて燃料油澄タンク3ないしは燃料油サービスタンク5から流入された加熱燃料油はボックス状小区画20によって拡散、放熱が防止され、燃料油の加温効率がボックス状小区画20内で部分的に向上する。」との記載から、燃料油貯蔵タンク1は、燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画20において開口するベルマウス18を有する吸入主管14と、ベルマウス18の開口に対向する底部を備えること。

(1-3)引用発明1
上記(1-1)、(1-2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「燃料油貯蔵タンク1と、燃料油澄タンク3とを備えた船舶の燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システムであって、
上記燃料油澄タンク3は、上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14を通して上記燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温し、
上記燃料油貯蔵タンク1は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画20において開口するベルマウス18を有する吸入主管14と、上記ベルマウス18の開口に対向する底部を備える
燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システム。」

(2-2)引用文献3、4、5
原査定の拒絶の理由に引用文献3、4、5として示された引用文献3、4、5の記載事項等は、前記「第2 2-2-1 (2)」?「第2 2-2-1 (4))」に記載したとおりである。

3-2 対比・判断
(1)引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 本願発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、後者の「燃料油貯蔵タンク1」は、「船舶の燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システム」を構成するものであり、「船舶」に配置されることは明らかであるから、後者の「燃料油貯蔵タンク1」は、前者の「喫水線上位に配置された燃料油貯蔵タンク」であり、「前記燃料油貯蔵タンクは、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ」たものと、「船舶に配置された燃料油貯蔵タンク」である点で共通する。

イ 後者の「燃料油澄タンク3」は、「上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14を通して燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温」することから、後者の「上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14を通して上記燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温する」「燃料油澄タンク3」は、前者の「該燃料油貯蔵タンクから吸入された燃料油を加熱して該燃料油貯蔵タンク内の燃料油の加熱に用いることが可能な燃料油澄タンク」に相当する。

ウ 後者の「燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システム」は、「上記燃料油澄タンク3は、上記燃料油貯蔵タンク1から移送された燃料油を加熱し、上記加熱された燃料油は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設置された吸入主管14を通して上記燃料油貯蔵タンク1中の燃料油を加温」することから、燃料油を移送し、循環させることができるものと認められ、後者の「燃料油貯蔵タンク1と、燃料油澄タンク3とを備えた船舶の燃料油貯蔵タンク中の燃料油の加熱システム」は、前者の「燃料油貯蔵タンクと燃料油澄タンクと、を備えて、燃料油を循環させることができる燃料油移送装置」に相当する。

エ 後者の「ボックス状小区画20」は、「上記燃料油貯蔵タンク1中に」「設けられ」るから、上記アを踏まえると、後者の「上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画20」と、前者の「該トップサイドタンク内に設けられた小区画」とは、「船舶に配置された燃料油貯蔵タンク内に設けられる小区画」である点で共通する。

オ 後者の「吸入主管14」、「ベルマウス18」、及び「ベルマウス18を有する吸入主管14」は前者の「吸入管」、「ベルマウス」、及び「ベルマウスを有する吸入管」に相当するものであり、 上記アを踏まえると、後者の「上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画20において開口するベルマウス18を有する吸入主管14」は、前者の「該トップサイドタンク内に設けられた小区画における最も深い位置において開口するベルマウスを有する吸入管」と、「船舶に配置された燃料油貯蔵タンク内に設けられた小区画において開口するベルマウスを有する吸入管」である点で共通する。

カ 後者の「燃料油貯蔵タンク1」は、「上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画20において開口するベルマウス18を有する吸入主管14と、ベルマウス18の開口に対向する底部を備える」ものであるから、上記ア、エ?カを踏まえると、後者の「上記燃料油貯蔵タンク1は、上記燃料油貯蔵タンク1中に設けられたボックス状小区画20において開口するベルマウス18を有する吸入主管14と、ベルマウス18の開口に対向する底部を備える」ことは、前者の「前記燃料油貯蔵タンクは、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ、該トップサイドタンク内に設けられた小区画における最も深い位置において開口するベルマウスを有する吸入管と、該ベルマウスの開口に対向する底部に設けられてベルマウスが進入可能な凹部と、を備え、該凹部は前記ベルマウスの設置数に応じて前記底部に形成されている」ことと、「船舶に配置された前記燃料油貯蔵タンクは、前記燃料油貯蔵タンク内に設けられた小区画において開口するベルマウスを有する吸入管と、該ベルマウスの開口に対向する底部とを備え」る点で共通する。

(2)一致点・相違点
以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「船舶に配置された燃料油貯蔵タンクと、
該燃料油貯蔵タンクから吸入された燃料油を加熱して該燃料油貯蔵タンク内の燃料油の加熱に用いることが可能な燃料油澄タンクと、
を備えて前記燃料油を循環させることができる燃料油移送装置において、
前記燃料油貯蔵タンクは、
前記燃料油貯蔵タンク内に設けられた小区画において開口するベルマウスを有する吸入管と、
該ベルマウスの開口に対向する底部とを備えている
燃料油移送装置。」

〔相違点1〕
「船舶に配置された燃料油貯蔵タンク」に関し、本願発明は「喫水線上位に配置され」て、「船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクが用いられ」るのに対し、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。

〔相違点2〕
本願発明は、「ベルマウスを有する吸入管」に関し、「小区画における最も深い位置において開口」するものであり、「燃料油貯蔵タンク」に関し、「該ベルマウスの開口に対向する底部に設けられてベルマウスが進入可能な凹部」を「前記ベルマウスの設置数に応じて前記底部に形成されている」のに対し、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。

(3)判断
以下、相違点について検討する。
(3-1)相違点1について
ア 引用文献3に記載された技術的事項に例示されるように、船舶の燃料タンクの技術分野において、喫水線上位であって、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクを用いる技術は、周知の技術ということができる。

イ 引用発明1の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクと上記周知の技術とは、船舶の燃料タンクの技術分野で共通する。そして、引用発明1の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクに、上記周知の技術を適用することにより、喫水線上位に配置されて、船舶の上甲板近傍の隅部に配置されて船首側から見た断面形状が三角形状のトップサイドタンクを用いることにより、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(3-2)相違点2について
ア 引用文献4に記載された技術的事項、及び引用文献5に記載された技術的事項に示されるように、船舶の液体を貯蔵するタンクにおいて、吸入管による液体吸入時に、貯蔵タンク内に残る液体を少なくするために、タンクの底部における最も深い位置に開口する吸入管と、開口に対向する底部に設けられて吸入管の開口部が侵入可能な凹部を備え、当該凹部を開口部の設置数に応じて底部に形成する技術は、周知の技術ということができる。

イ 引用発明1の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクと上記周知の技術とは、舶の液体を貯蔵するタンクの技術分野で共通し、引用発明1の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクが、貯蔵タンク内に残る液体を少なくするという課題を内包していることは、当業者であれば十分に認識可能なことである。

ウ そして、引用発明1の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクにおいて、タンクの大きさ及び形状に応じて吸入管を複数設置することは、当業者であれば適宜行うべき事項であることから、引用発明1の燃料油移送装置に設けられた燃料油貯蔵タンクに上記周知の技術を適用することにより、船舶の液体を貯蔵するタンクとして、タンクの底部における最も深い位置に開口する吸入管と、開口に対向する底部に設けられて吸入管の開口部が侵入可能な凹部を備え、当該凹部を開口部の設置数に応じて底部に形成することにより、相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(3-3)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、及び、上記周知の技術(引用文献3、4、5に記載された技術事項)に基いて当業者が容易になし得たものであり、本願発明の作用効果も、引用発明1及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、及び、上記周知の技術(引用文献3、4、5に記載された技術事項)に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-09-29 
結審通知日 2020-10-06 
審決日 2020-10-22 
出願番号 特願2017-15473(P2017-15473)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B63B)
P 1 8・ 121- Z (B63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉田 隼一結城 健太郎  
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 須賀 仁美
藤井 昇
発明の名称 燃料油移送装置  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  

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