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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1369498
審判番号 不服2019-3737  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-20 
確定日 2020-12-16 
事件の表示 特願2016-513463「整形外科用インプラントキット」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日国際公開、WO2014/184694、平成28年 6月23日国内公表、特表2016-518214〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)4月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)5月13日 国際事務局)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年12月25日 :翻訳文提出
平成30年 1月30日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 8月 2日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年10月24日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月15日付け:平成30年10月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
平成31年 3月20日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出


第2 平成31年3月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「ヘッド(2)およびねじ付部分(4)を含むロック可能な多軸の整形外科用スクリュ(1)であって;
ヘッド(2)およびねじ付部分(4)は、2つの別個の要素を形成し、互いに固定されるが、特定の方向に沿って独立に方向付けることができ;
該ねじ付部分(4)は、ヘッド(2)の対応する球面と係合する球状の上方部分を有し、
前記スクリュ(1)は、起動されたとき、ねじ付部分(4)とヘッド(2)の間の相対的な動きを抑えるロッキング要素(5)をさらに含み、それによって多軸スクリュを、ヘッド部(2)に対して固定されたねじ付部分(4)の主要軸の方向の向きを有する単軸スクリュに変え、
ここで、ロッキング要素(5)は、ねじ付部分(4)の球状の上方部の周囲を囲む環状溝と;
該環状溝の部分と係合するクリップ
を含み、
ここで、ロック状態において、クリップは、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けがブロックされ、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であるように球状の上方部の環状溝の部分と係合し、
ここで、ロックしていない状態において、クリップは、球状の上方部の環状溝の一部と係合していないので、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けおよびヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であり、
ここで、ロッキング要素(5)は、さらにクリップを適応するためヘッドに開口を含み、該開口は、対応する球状の表面に達し、
ここで、ねじ付部分(4)の環状溝とヘッド(2)の開口が、環状溝の部分にクリップを挿入するため環状溝に対しねじ付部分(4)の方向付けにより整列されるように構成されている、
前記ロック可能な多軸の整形外科用スクリュ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年7月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2の記載は次のとおりである。
「ヘッド(2)およびねじ付部分(4)を含むロック可能な多軸の整形外科用スクリュ(1)であって;
ヘッド(2)およびねじ付部分(4)は、2つの別個の要素を形成し、互いに固定されるが、特定の方向に沿って独立に方向付けることができ;
該ねじ付部分(4)は、ヘッド(2)の対応する球面と係合する球状の上方部分を有し、
前記スクリュ(1)は、起動されたとき、ねじ付部分(4)とヘッド(2)の間の相対的な動きを抑えるロッキング要素(5)をさらに含み、それによって多軸スクリュを、ヘッド部(2)に対して固定されたねじ付部分(4)の主要軸の方向の向きを有する単軸スクリュに変える、
前記ロック可能な多軸の整形外科用スクリュ。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項である「ロッキング要素」について、「ここで、ロッキング要素(5)は、ねじ付部分(4)の球状の上方部の周囲を囲む環状溝と;
該環状溝の部分と係合するクリップ
を含み、
ここで、ロック状態において、クリップは、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けがブロックされ、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であるように球状の上方部の環状溝の部分と係合し、
ここで、ロックしていない状態において、クリップは、球状の上方部の環状溝の一部と係合していないので、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けおよびヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であり、
ここで、ロッキング要素(5)は、さらにクリップを適応するためヘッドに開口を含み、該開口は、対応する球状の表面に達し、
ここで、ねじ付部分(4)の環状溝とヘッド(2)の開口が、環状溝の部分にクリップを挿入するため環状溝に対しねじ付部分(4)の方向付けにより整列されるように構成されている」という限定を付加するものであって、本件補正前の請求項2に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2010/0152785号明細書(2010年(平成22年)7月17日公開、以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(括弧内の日本語訳は当審で作成した。また、下線は当審で付与した。以下同様。)
「[0098]Embodiments of a coaxially lockable poly-axial bone fastener assembly will now be described in detail with reference to FIGS. 14-24. A coaxially lockable poly-axial bone fastener assembly disclosed herein can be used in pedicle screw surgery and can be sized, placed, and locked in an identical manner to a poly-axial bone fastener. A coaxially lockable poly-axial bone fastener assembly disclosed herein has a collar, a bone fastener, and a coaxial locking mechanism. The collar of a coaxially lockable poly-axial bone fastener assembly is free to rotate about the axis of the bone fastener, so rotation of the collar during manipulation or while placing an elongated member into an opening of the collar does not affect the depth of the bone fastener in a pedicle. The coaxial locking mechanism can prevent multi-axial motion of the bone fastener inside the collar, so the collar can only spin about a central axis, making it mono-axial. Combining the functions and advantages of a poly-axial bone fastener assembly and a fixed angle bone screw, a coaxially lockable poly-axial bone fastener assembly disclosed herein can allow angular correction forces to be applied to a pedicle using instrumentation in a similar manner to a fixed angle screw and allow orientation of the collar for receiving an elongated member without affecting the depth of the shank of a bone fastener in the pedicle in a similar manner to a poly-axial bone fastener.」
(同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリの実施形態について、図14-24を参照しつつ詳細に説明する。本明細書に開示された同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリは、椎弓根ネジ手術で使用することができ、かつ、多軸の骨固定具と同様に、大きさが決められ、配置され、ロックされることができる。本明細書に開示された同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリは、カラー、骨固定具、及び同軸的ロッキング機構を有している。同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリのカラーは、骨固定具の軸の周りを自由に回転するので、カラーの回転は、操作中、又はカラーの開口部内に長尺状部材を配置する際に、椎弓根内の骨固定具の深さに影響を与えない。同軸的ロッキング機構は、カラー内での骨固定具の多軸的な運動を防止できるので、カラーは、中心軸を単一軸とすることで、その中心軸の周りしか回転できない。本明細書に開示された同軸的にロック可能な多軸の骨固定アセンブリは、多軸の骨固定具アセンブリと角度の固定された骨ネジの機能と利点を合わせ持つことから、角度の固定されたネジと同じように用いることで、椎弓根に角度矯正力が付与されることを許容するとともに、多軸の骨固定具と同じように用いることで、椎弓根の骨固定具のシャンクの深さから影響を受けることなく、長尺状部材を受け入れることができるようカラーの配向付けを許容することができる。)
「[0100]In some embodiments, components of coaxially lockable poly-axial bone fastener assembly 402 further comprise a coaxial locking mechanism. In the example of FIGS. 14 and 15, the coaxial locking mechanism is realized via a pinned c-clip that can be inserted into a corresponding cavity inside collar 412. More specifically, cavity 462 of collar 412 is particularly structured and dimensioned to accept c-clip 410 with a snug fit. Pine 460 is then inserted through holes 464 and 430 to pin c-clip 420 in place.」
(いくつかの実施形態では、同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリ402の構成要素は、さらに、同軸的ロッキング機構を含む。図14及び図15の例では、この同軸的ロッキング機構は、カラー412内の対応するキャビティに挿入され得るピン留めされるCクリップを介して実現される。より具体的には、カラー412のキャビティ462は、Cクリップ410をぴったりと受け入れるように、特に構造化され、かつ、そのような大きさに設計されている。そして、ピン460は、Cクリップ420を決まった場所にピン留めするよう、孔464及び430に挿通される。)
「[0101]Bone fastener 408 may couple bone fastener assembly 402 to a vertebra. Bone fastener 408 may include shank 416, head 418, and neck 420. Shank 416 may include threading 422. In some embodiments, threading 422 may include self-tapping start 424. Self-tapping start 424 may facilitate insertion of bone fastener 408 into a pedicle. Head 418 of bone fastener 408 may include tool portion 426 for engaging bone fastener 408 with a surgical instrument. In some embodiments, a portion of neck 420 may be structured and sized to accommodate c-clip 410. In some embodiments, c-clip 410 is structured and sized to fit inside cavity 462. In some embodiments, c-clip 410 has a curved surface that, when inserted into cavity 462, matches a curved surface of collar 412. In some embodiments, bone fastener assembly 402 may permit poly-axial movements without c-clip 410 and may permit only mono-axial movements with c-clip 410 inserted into cavity 462.」
(骨固定具408は骨固定具アセンブリ402を椎骨に連結する。骨固定具408は、シャンク416、ヘッド418、およびネック420を含む。シャンク416は、ネジ山422を含む。いくつかの実施形態において、ネジ山422はセルフタッピング開始部424を含む。セルフタッピング開始部424は、骨固定具408の椎弓根の中へ挿入を容易にする。骨固定具408の頭部418は、骨固定具408を外科用器具と係合するための工具部分426を含む。いくつかの実施形態では、ネック420の部分は、クリップ410を収容するように構造化され、かつ大きさが設定される。いくつかの実施形態において、Cクリップ410は、キャビティ462の内部に嵌まるように構成および寸法決めされている。いくつかの実施形態において、Cクリップ410は、キャビティ462内に挿入されたときに、カラー412の曲面と一致する曲面を有している。いくつかの実施形態では、骨固定具組立体402は、Cクリップ410を用いない場合には、多軸運動を許容し、Cクリップ410がキャビティ462内に挿入された場合には、単一軸のみの動きを許容する。)

(イ)上記(ア)の記載から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
[0098]の「同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリは、カラー、骨固定具、及び同軸的ロッキング機構を有している。」という記載、「同軸的ロッキング機構は、カラー内での骨固定具の多軸的な運動を防止できるので、カラーは、中心軸を単一軸とすることで、その中心軸の周りしか回転できない。」という記載からみて、カラー及び骨固定具は、2つの別個の要素を形成し、互いに固定されるが、同軸的ロッキング機構がロックされないときは、多軸的な運動ができるものであり、同軸的ロッキング機構がロックされたときには、骨固定具とカラーの間の相対的な動きを抑え、それによって多軸の骨固定具アセンブリを、カラーに対して固定された骨固定具の中心軸の方向に向きを有する単一軸の骨固定具アセンブリに変えるものであるといえる。そして、骨固定具は、カラー内でカラーと係合する部分を有することは明らかである。
[0098]の「同軸的ロッキング機構は、カラー内での骨固定具の多軸的な運動を防止できるので、カラーは、中心軸を単一軸とすることで、その中心軸の周りしか回転できない」という記載、[0101]の「骨固定具408は、シャンク416、ヘッド418、およびネック420を含む」という記載、「ネック420の部分は、クリップ410を収容するように構造化され、かつ大きさが設定される。」という記載、「骨固定具組立体402は、Cクリップ410を用いない場合には、多軸運動を許容し、Cクリップ410がキャビティ462内に挿入された場合には、単一軸のみの動きを許容する」という記載を踏まえると、Cクリップがキャビティ内に挿入された場合には、Cクリップは、カラーに対し骨固定具の多軸的な運動が防止され、カラーに対し骨固定具の単一軸での回転が可能であるようにネックの部分に収容され、Cクリップがキャビティ内に挿入されない場合には、Cクリップはネックの部分に収容されていないので、カラーに対し骨固定具の多軸的な運動及びカラーに対し骨固定具の回転が可能であるといえる。
[0100]の「カラー412のキャビティ462は、Cクリップ410をぴったりと受け入れるように、特に構造化され、かつ、そのような大きさに設計されている。」という記載、[0101]の「ネック420の部分は、クリップ410を収容するように構造化され、かつ大きさが設定される。いくつかの実施形態において、Cクリップ410は、キャビティ462の内部に嵌まるように構成および寸法決めされている。」という記載、[0101]の「骨固定具408は、シャンク416、ヘッド418、およびネック420を含む。」という記載からみて、Cクリップはカラーのキャビティに嵌められて、骨固定具のネックに収容されることから、カラーのキャビティは対応する骨固定具のネックの部分に達するものであることは明らかであり、さらに、[0101]の「Cクリップ410がキャビティ462内に挿入された場合には、単一軸のみの動きを許容する。」という記載を踏まえると、ネックは骨固定具の周囲を囲むように構成されるものであり、骨固定具のネックとカラーのキャビティが、ネックの部分にCクリップを収容するためネックに対し骨固定具の方向付けにより整列されるように構成されるものであることは明らかである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「カラー及び骨固定具を含む同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリであって、
カラー及び骨固定具は、2つの別個の要素を形成し、互いに固定されるが、多軸的な運動ができ、
骨固定具は、カラーと係合する部分と、ネジ山を含むシャンクを有し、
前記アセンブリは、ロックされたとき、骨固定具とカラーの間の相対的な動きを抑える同軸的ロッキング機構をさらに含み、それによって、多軸の骨固定具アセンブリを、カラーに対して固定された骨固定具の中心軸の方向に向きを有する単一軸の骨固定具アセンブリに変え、
ここで、同軸的ロッキング機構は、骨固定具の周囲を囲むネックの部分と、
該ネックの部分に収容されるCクリップ
を含み、
ここで、Cクリップがキャビティ内に挿入された場合には、Cクリップは、カラーに対し骨固定具の多軸的な運動が防止され、カラーに対し骨固定具の単一軸での回転が可能であるようにネックの部分に収容され、
ここで、Cクリップがキャビティ内に挿入されない場合には、Cクリップは、ネックの部分に収容されていないので、カラーに対し骨固定具の多軸的な運動及びカラーに対し骨固定具の回転が可能であり、
ここで、同軸的ロッキング機構は、さらにCクリップを嵌めるために前記カラーにキャビティを含み、該キャビティは、対応する骨固定具のネックの部分に達し、
ここで、骨固定具のネックとカラーのキャビティが、ネックの部分にCクリップを収容するためネックに対し骨固定具の方向付けにより整列されるように構成されている、
前記ロック可能な多軸の骨固定具アセンブリ。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「カラー」は、その機能及び構造からみて、本件補正発明の「ヘッド(2)」に相当し、以下同様に、「同軸的にロック可能な多軸の骨固定具アセンブリ」は「ロック可能な多軸の整形外科用スクリュ(1)」に、「同軸的ロッキング機構」は「ロッキング要素(5)」に、「中心軸」は「主要軸」に、「単一軸の骨固定具アセンブリ」は「単軸スクリュ」に、「収容される」は「係合する」に、「Cクリップ」は「クリップ」に、「嵌める」は「適応する」に、「キャビティ」は「開口」に、それぞれ相当する。
(イ)引用発明の「骨固定具」は、ネジ山を含むシャンクを有することから、本願発明の「ねじ付き部分」に相当する。
(ウ)引用発明の「多軸的な運動ができ」は、カラー及び固定具のそれぞれ軸方向を多数の様々な向きに方向付けることができるということであるから、「特定の方向に沿って独立に方向付けることができ」に相当する。
(エ)引用発明の「ロックされたとき」は、ロッキング機構が作動したときであることから、本件補正発明の「起動されたとき」に相当する。
(オ)引用発明の「ネックの部分」は、Cクリップを収容する構造であり、かつ、Cクリップを収容しても骨固定具は単一軸の周りを回転することができること、つまり、当該ネックの部分は骨固定具に形成された環状溝の形状を有していることは明らかであることから、本件補正発明の「環状溝」に相当する。
(カ)引用発明の「Cクリップがキャビティ内に挿入された場合」は、その場合には骨固定具の多軸的な運動が防止されることから、本件補正発明の「ロック状態」に相当する。
(キ)引用発明の「Cクリップがキャビティ内に挿入されない場合」は、その場合には骨固定具は多軸的な運動が可能となることから、本件補正発明の「ロックしていない状態」に相当する。
(ク)本件補正発明の「ヘッド(2)の対応する球面と係合する球状の上方部分」と引用発明の「カラーと係合する部分」とは、ヘッドと係合する部分である限りにおいて共通する。
(ケ)上記(イ)及び(オ)のとおり、本件補正発明の「ねじ付部分(4)の球状の上方部の周囲を囲む環状溝」と引用発明の「骨固定具の周囲を囲むネックの部分」とは、ねじ付部分の周囲を囲む環状溝である限りにおいて共通する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「ヘッド(2)およびねじ付部分(4)を含むロック可能な多軸の整形外科用スクリュ(1)であって;
ヘッド(2)およびねじ付部分(4)は、2つの別個の要素を形成し、互いに固定されるが、特定の方向に沿って独立に方向付けることができ;
該ねじ付部分(4)は、ヘッド(2)と係合する部分を有し、
前記スクリュ(1)は、起動されたとき、ねじ付部分(4)とヘッド(2)の間の相対的な動きを抑えるロッキング要素(5)をさらに含み、それによって多軸スクリュを、ヘッド部(2)に対して固定されたねじ付部分(4)の主要軸の方向の向きを有する単軸スクリュに変え、
ここで、ロッキング要素(5)は、ねじ付部分(4)の周囲を囲む環状溝と;
該環状溝の部分と係合するクリップ
を含み、
ここで、ロック状態において、クリップは、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けがブロックされ、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であるように環状溝の部分と係合し、
ここで、ロックしていない状態において、クリップは、環状溝の一部と係合していないので、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けおよびヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であり、
ここで、ロッキング要素(5)は、さらにクリップを適応するためヘッドに開口を含み、
ここで、ねじ付部分(4)の環状溝とヘッド(2)の開口が、環状溝の部分にクリップを挿入するため環状溝に対しねじ付部分(4)の方向付けにより整列されるように構成されている、
前記ロック可能な多軸の整形外科用スクリュ。」

[相違点1]
ねじ付部分がヘッドと係合する部分について、本件補正発明では、ヘッドの対応する球面と係合する球状の上方部であるのに対して、引用発明では、そのような構成を有するか明らかでない点。

[相違点2]
環状溝について、本件補正発明では、ねじ付部分の球状の上方部の周囲を囲むのに対して、引用発明では、骨固定具の周囲を囲む点。

[相違点3]
開口について、本件補正発明では、対応する球状の表面に達するのに対して、引用発明では、対応する骨固定具のネックの部分に達する点。

(4)判断
ア 以下、相違点1?3についてまとめて検討する。
カラー及び骨固定具が多軸的な運動をする整形外科用の多軸スクリュにおいて、カラー及び骨固定具はいわゆるボールジョイント構造を有すること、つまり、カラーに球形凹部を設け、骨固定具の上端部に球形のヘッドを設け、当該球形凹部と当該ヘッドの球形面の一部が回転可能な摺接面を形成するよう構成されることは、周知の技術である(必要であれば、特表2001-503304号公報の20ページ及び図2、米国特許出願公開第2008/0243189号明細書の[0029]、図9A及び図9B等を参照)。
引用発明のカラー及び骨固定具は、互いに固定されるが、多軸的な運動ができるものであることから、引用発明のカラー及び骨固定具において、上記周知の技術、つまり、カラーに球形凹部を設け、骨固定具の上端部に球形のヘッドを設け、当該球形凹部と当該ヘッドの球形面の一部が回転可能な摺接面を形成することは、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)にとって何ら困難性はない。
またその際に、引用発明の同軸的ロッキング機構は、Cクリップをカラーのキャビティに挿入し、さらに骨固定具の環状溝に収容することで、カラーと骨固定具の多軸的な運動が防止され、カラーに対し骨固定具の単一軸での回転が可能としてものであることを踏まえると、環状溝が、カラーの球形凹部と回転可能な摺接面を形成する骨固定具の球形ヘッドの表面の周囲に設けられたものとなることは明らかである。さらに、環状溝(ネック)は、引用発明の球形ヘッドの表面の周囲に設けられたものであることを踏まえると、引用発明の開口が、対応する骨固定具のネックの部分、つまり球形ヘッドの球状の表面に達するものとなることも明らかである。
よって、引用発明において、整形外科用の多軸スクリュの技術分野における上記周知の技術であるボールジョイント構造を採用することで、それにより、環状溝が骨固定具の球形ヘッドの表面の周囲に設けられ、開口が球形ヘッドの球状の表面に達するものとなることは明らかであることから、上記相違点1?3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

イ そして、これらの相違点1?3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年3月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年7月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし31に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項2に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由で示された理由2は、この出願の請求項2に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献に記載された発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由2]で検討した本件補正発明から、「ここで、ロッキング要素(5)は、ねじ付部分(4)の球状の上方部の周囲を囲む環状溝と;
該環状溝の部分と係合するクリップ
を含み、
ここで、ロック状態において、クリップは、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けがブロックされ、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であるように球状の上方部の環状溝の部分と係合し、
ここで、ロックしていない状態において、クリップは、球状の上方部の環状溝の一部と係合していないので、ヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の独立した方向付けおよびヘッド(2)に対しねじ付部分(4)の回転が可能であり、
ここで、ロッキング要素(5)は、さらにクリップを適応するためヘッドに開口を含み、該開口は、対応する球状の表面に達し、
ここで、ねじ付部分(4)の環状溝とヘッド(2)の開口が、環状溝の部分にクリップを挿入するため環状溝に対しねじ付部分(4)の方向付けにより整列されるように構成されている、」なる限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-07-13 
結審通知日 2020-07-14 
審決日 2020-07-28 
出願番号 特願2016-513463(P2016-513463)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮下 浩次  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
芦原 康裕
発明の名称 整形外科用インプラントキット  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  

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