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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1369534
審判番号 不服2020-5731  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-27 
確定日 2021-01-05 
事件の表示 特願2016- 80811「蓄電デバイス及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日出願公開、特開2017-191864、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年4月14日の出願であって、令和1年9月10日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年11月6日に手続補正がなされたが、令和2年2月25日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して、同年4月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(令和2年2月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2,3に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2012/053553号
2.特開2013-20786号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2016-42504号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明

本願請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和1年11月6日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
正極活物質として比表面積が1000m^(2)/g以上である炭素材料を含む正極と、
金属イオンを吸蔵放出し単極の充電曲線と単極の放電曲線との差が残容量SOCの50%以上の範囲に比してより大きくなる高抵抗領域を残容量SOCの50%未満の範囲に有し芳香族環構造を有する層状構造体からなり残容量SOCが72%以上90%以下の範囲で前記金属イオンがプレドープされている負極活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し前記金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項2】
前記負極活物質は、残容量SOCが80%以上の範囲で前記金属イオンがプレドープされている、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極活物質は、1又は2以上の芳香族環構造が接続した有機骨格層と、前記有機骨格層に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体からなる、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記負極活物質は、次式(1)で示される芳香族環構造により構成される前記有機骨格層を有する、請求項3に記載の蓄電デバイス。
【化1】

【請求項5】
金属イオンを吸蔵放出し充電曲線と放電曲線との差が残容量SOCの50%以上の範囲 に比してより大きくなる高抵抗領域を残容量SOCの50%未満の範囲に有し芳香族環構 造を有する層状構造体の負極活物質に対して残容量SOCが72%以上90%以下の範囲 で前記金属イオンをプレドープするプレドープ工程と、
正極活物質として比表面積が1000m^(2)/g以上である炭素材料を含む正極と前記プ レドープした負極活物質を有する負極と前記金属イオンを伝導するイオン伝導媒体とを用 いて蓄電デバイスを構成するセル作製工程と、
を含む蓄電デバイスの製造方法。 」

第4 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、「非水系二次電池用電極、それを備えた非水系二次電池」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「[請求項1] 2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を電極活物質として備えた、非水系二次電池用電極。
・・・・・(中 略)・・・・・
[請求項14] 請求項1?13のいずれか1項に記載の非水系二次電池用電極と、
アルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた非水系二次電池。」

(2)「[0018] 本発明の非水系二次電池は、アルカリ金属を吸蔵・放出する正極活物質を有する正極と、アルカリ金属を吸蔵・放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。本発明の非水系二次電池は、負極及び正極の少なくとも一方に、本発明の層状構造体を電極活物質として備えている。本発明の層状構造体は、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有している。この本発明の層状構造体は、負極活物質とするのが好ましい。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。また、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属は、アルカリ金属元素層のアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。ここでは、説明の便宜のため、層状構造体を負極活物質とし、アルカリ金属元素層にLiを含み、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属をLiとした非水系二次電池を以下主として説明する。
[0019] 本発明の負極は、層状構造体を負極活物質として備えている。図1は、本発明の層状構造体の構造の一例を示す説明図である。この層状構造体は、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを備えている。・・・(以下、略)」

(3)「[0027] 本発明の非水系二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。・・・(以下、略)」

(4)「[0047][実施例1]
層状構造体としての2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウム(式(7)参照)を合成した。2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウムは、出発原料として2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H 2 O)を用いた。まず、水酸化リチウム1水和物0.556gにメタノール100mLを加え、撹拌した。水酸化リチウム1水和物を溶解したのち、2,6-ナフタレンジカルボン酸1.0gを加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより白色の粉末試料を得た。得られた白色粉末試料を実施例1の活物質粉体とした。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0051][実施例2]
実施例1の2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウムの代わりに4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウム(式(8)参照)とした以外は実施例1と同様の工程を経て得られた白色粉末試料を実施例2の活物質粉体とした。また、実施例2の活物質粉体を用い、実施例1と同様の工程を経て、実施例2の非水系二次電池用電極を作製すると共に、この実施例2の非水系二次電池用電極を用いて二極式評価セルを作製した。
[0052][化6]



・上記引用文献1に記載の「非水系二次電池」は、上記(1)、(2)の記載事項によれば、アルカリ金属を吸蔵・放出する正極活物質を有する正極と、アルカリ金属を吸蔵・放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えるものであり、負極活物質が、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体からなるものである。
・上記(2)の段落[0018]の記載事項によれば、層状構造体におけるアルカリ金属元素層にはLiを含み、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属がLiである。そして、上記(4)の記載事項によれば、より具体的には層状構造体として2,6-ナフタレンジカルボン酸リチウム(実施例1)の代わりに4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウム(実施例2)とされてなるものである。
・上記(3)の記載事項によれば、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などが用いられてなるものである。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「アルカリ金属(リチウム)を吸蔵・放出する正極活物質を有し、当該正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などが用いられる正極と、
アルカリ金属(リチウム)を吸蔵・放出する負極活物質を有し、当該負極活物質は、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素(リチウム)が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウムの層状構造体からなる負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しアルカリ金属(リチウム)イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた非水系二次電池。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、「蓄電デバイス」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【0018】
以下、リチウム二次電池を例に挙げて、本発明の電極およびそれを用いた蓄電デバイスを説明する。しかし、本発明は、リチウム二次電池やリチウム二次電池用電極に限らず、化学反応を利用したキャパシタなどの電気化学素子にも好適に用いられる。」

(2)「【0156】
ここで、上記負極は、以下のようにして作製した。まず、厚さ20μmの銅箔を負極集電体として用い、この上に、負極活物質層として、厚さ40μmの黒鉛からなる層を塗布により形成した。これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜くことにより黒鉛電極を得た。得られた黒鉛電極に対して、Li金属を対極として用い、0V?1.5V(リチウム基準電位)の間で、0.4mA/cm2の電流値で3サイクル、予備充放電を行った。これにより、黒鉛電極が単位面積当たり1.6mAh/cm2の可逆容量を有し、可逆的に充放電できることが確認された。可逆容量の70%まで充電、すなわち、リチウムのプレドープが行われた状態の黒鉛電極を、負極として用いた。黒鉛電極に対する充放電およびリチウムのプレドープには、上記コイン型蓄電デバイスに用いたのと同じ電解液およびセパレータを用いた。」

上記(1)及び(2)の記載事項を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術事項が記載されている。
「リチウム二次電池などの蓄電デバイスにおいて、
黒鉛からなる負極活物質層を含む黒鉛電極を負極とし、リチウムのプレドープを可逆容量の70%まで行ったこと。」

3.引用文献3について
原査定時に提示した上記引用文献3には、「非水系リチウム型蓄電素子」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
正極、負極、及びセパレータから成る電極積層体と
リチウムイオン含有電解質を含む非水電解液と
を外装体に収納して成る非水系リチウム型蓄電素子であって、;
前記負極は、
負極集電体と、
該負極集電体の片面又は両面に形成されたリチウムイオンを吸蔵放出できる負極活物質を含む負極活物質層と
を有し、
前記負極活物質は、活性炭の表面に炭素質材料が被着した複合多孔性炭素材料を含有し、
前記負極活物質層はリチウムイオンを吸蔵しており、そして
前記負極のリチウムを基準とする電位が、0.400V以下0.001V以上であることを特徴とする、前記非水系リチウム型蓄電素子。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項6】
前記正極が、
正極集電体と、
該正極集電体の片面又は両面に形成された正極活物質を含む正極活物質層とを有し、
前記正極活物質が、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV_(1)(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV_(2)(cc/g)とするとき、0.3<V_(1)≦0.8、及び0.5≦V_(2)≦1.0を満たし、かつBET法により測定される比表面積が1,500m^(2)/g以上3,000m^(2)/g以下の活性炭である、請求項1?5のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。」

(2)「【0035】
[負極活物質]
負極活物質は、活性炭の表面に炭素質材料を被着した複合多孔性炭素材料を含有する。・・・(以下、略)」

(3)「【0059】
[リチウムイオンのプリドープ]
負極には、リチウムイオンをプリドープすることが好ましい。特に好ましい態様では、負極活物質層内の複合多孔性材料にリチウムイオンをプリドープする。このプリドープ量は該複合多孔性材料の単位質量当たり、好ましくは、1,050mAh/g以上2,050mAh/g以下であり、より好ましくは1,100mAh/g以上2,000mAh/g以下であり、更に好ましくは1,200mAh/g以上1,700mAh/g以下であり、更に好ましくは1,300mAh/g以上1,600mAh/g以下である。
【0060】
リチウムイオンをプリドープすることにより、負極電位が低くなり、正極と組み合わせたときにセル電圧が高くなるとともに、正極の利用容量が大きくなるため高容量となり、高いエネルギー密度が得られる。該プリドープ量が1,050mAh/gを以上であれば、負極材料におけるリチウムイオンを一旦挿入したら脱離し得ない不可逆なサイトにもリチウムイオンが良好にプリドープされる。更に、所望のリチウム量に対応する負極活物質量を低減することができるため、負極膜厚を薄くすることが可能となる。従って、負極単位質量あたりの耐久性、出力特性、及びエネルギー密度を高度のものとすることができる。このプリドープ量が多いほど負極電位が下がり、耐久性及びエネルギー密度は向上するが、プリドープ量が2,050mAh/g以下であれば、リチウム金属の析出等の副作用が発生するおそれがない。」

(4)「【0062】
<正極>
正極は、正極集電体と、該正極集電体の片面上又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有する。
【0063】
[正極活物質]
本実施形態における正極活物質は、活性炭を含むことが好ましい。また、正極活物質としては、活性炭に加えて、後述するような他の材料を併用してもよい。正極活物質の総量基準での活性炭の含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。活性炭の含有率は100質量%であることができるが、他の材料の併用による効果を良好に得る観点から、例えば、90質量%以下、又は80質量%以下であってもよい。 活性炭の種類及びその原料には特に制限はない。しかし、高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV_(1)(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV_(2)(cc/g)とするとき、
(1)高い入出力特性のためには、0.3<V_(1)≦0.8、及び0.5≦V_(2)≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m^(2)/g以上3,000m^(2)/g以下である活性炭(以下、活性炭1ともいう。)が好ましく、また、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V_(1)≦2.5、及び0.8<V_(2)≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が3,000m^(2)/g以上4,000m^(2)/g以下である活性炭(以下、活性炭2ともいう。)が好ましい。 」

上記(1)ないし(4)の記載事項を総合勘案すると、引用文献3には、次の技術事項がそれぞれ記載されている。
「非水系リチウム型蓄電素子において、
正極における正極活物質を、比表面積が1,500m^(2)/g以上3,000m^(2)/g以下である活性炭とすること。」

「非水系リチウム型蓄電素子において、
負極は、負極活物質として活性炭の表面に炭素質材料を被着した複合多孔性炭素材料を含有し、リチウムイオンのプレドープ量を1,050mAh/g以上2,050mAh/g以下(最も好ましくは1,300mAh/g以上1,600mAh/g以下)とすること。」

第5 対比・判断

1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア.正極について
引用発明における「正極活物質」、「正極」は、それぞれ本願発明1でいう「正極活物質」、「正極」に相当し、本願発明1と引用発明とは、「正極活物質を含む正極と」を備えるものである点で共通する。
ただし、正極活物質について、本願発明1では「比表面積が1000m^(2)/g以上である炭素材料」である旨特定するのに対し、引用発明では遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などである点で相違する。

イ.負極について
引用発明における「負極活物質」、「負極」は、それぞれ本願発明1でいう「負極活物質」、「負極」に相当する。
そして、引用発明における負極活物質にあっても、金属イオン(具体的にはリチウムイオン)を吸蔵・放出するものである。
さらに、「2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素(リチウム)が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウムの層状構造体」からなるものであるところ、かかる4,4’-ビフェニルジカルボン酸リチウムの層状構造体は、本願明細書において式(7)として示され、単極での充放電において高抵抗領域を有するものとされ(段落【0020】?【0021】を参照)、さらに実施例としても用いられている(段落【0033】を参照)ものであることからして、本願発明1と同様に「単極の充電曲線と単極の放電曲線との差が残容量SOCの50%以上の範囲に比してより大きくなる高抵抗領域を残容量SOCの50%未満の範囲に有し芳香族環構造を有する層状構造体」からなるものであると認められる。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「金属イオンを吸蔵放出し単極の充電曲線と単極の放電曲線との差が残容量SOCの50%以上の範囲に比してより大きくなる高抵抗領域を残容量SOCの50%未満の範囲に有し芳香族環構造を有する層状構造体からなる負極活物質を含む負極と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、負極活物質について、本願発明1では「残容量SOCが72%以上90%以下の範囲で前記金属イオンがプレドープされている」旨特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有してない点で相違する。

ウ.イオン伝導媒体について
引用発明における「イオン伝導媒体」は、本願発明1でいう「イオン伝導媒体」に相当し、本願発明1と引用発明とは、「前記正極と前記負極との間に介在し前記金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と」を備えるものである点で一致する。

エ.そして、引用発明における「非水系二次電池」は、本願発明1でいう「蓄電デバイス」に相当するものであることは明らかである。

よって上記ア.ないしエ.によれば、本願発明1と引用発明とは、
「正極活物質を含む正極と、
金属イオンを吸蔵放出し単極の充電曲線と単極の放電曲線との差が残容量SOCの50%以上の範囲に比してより大きくなる高抵抗領域を残容量SOCの50%未満の範囲に有し芳香族環構造を有する層状構造体からなる負極活物質を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し前記金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
正極活物質について、本願発明1では「比表面積が1000m^(2)/g以上である炭素材料」である旨特定するのに対し、引用発明では遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などである点。

[相違点2]
負極活物質について、本願発明1では「残容量SOCが72%以上90%以下の範囲で前記金属イオンがプレドープされている」旨特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有してない点。

(2)相違点についての判断
まず、上記[相違点2]について検討する。
引用文献2には「リチウム二次電池などの蓄電デバイスにおいて、黒鉛からなる負極活物質層を含む黒鉛電極を負極とし、リチウムのプレドープを可逆容量の70%まで行ったこと」が記載(上記「第4(2)」を参照)されているが、本願発明1で特定する範囲を満たしていない。また、引用文献3には「非水系リチウム型蓄電素子において、負極は、負極活物質として活性炭の表面に炭素質材料を被着した複合多孔性炭素材料を含有し、リチウムイオンのプレドープ量を、好ましくは1,050mAh/g以上2,050mAh/g以下(最も好ましくは1,300mAh/g以上1,600mAh/g以下)とすること」が記載(上記「第4(3)」を参照)されているが、残容量SOC換算で何%の範囲であるのかは明らかでない。
加えて、本願発明1は、負極活物質が「金属イオンを吸蔵放出し単極の充電曲線と単極の放電曲線との差が残容量SOCの50%以上の範囲に比してより大きくなる高抵抗領域を残容量SOCの50%未満の範囲に有し芳香族環構造を有する層状構造体」からなる(「前者の技術事項」という。)ことを前提としたうえで、金属イオンのプレドープ(量)を「残容量SOCが72%以上90%以下の範囲」とする(「後者の技術事項」という。)ものであり、前者の技術事項と後者の技術事項とは密接な技術的関係があるところ、そもそも負極活物質が、引用文献2は黒鉛、引用文献3は複合多孔性炭素材料からなるものであって、本願発明1や引用発明における上記高抵抗領域を残容量SOCの50%未満の範囲に有し芳香族環構造を有する層状構造体とは異なるものであることから、引用発明に対して引用文献2や引用文献3に記載のプレドープ量を適用すべき動機付けも見出し難い。
よって、引用文献1ないし3からは、上記相違点2にかかる構成を導き出すことはできない。

したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.本願発明2ないし4について
請求項2ないし4は、請求項1に従属する請求項であり、相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3.本願発明5について
本願発明5は、本願発明1に対応する方法の発明であり、相違点2に係る発明特定事項に対応する発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-12-15 
出願番号 特願2016-80811(P2016-80811)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
井上 信一
発明の名称 蓄電デバイス及びその製造方法  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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