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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21D
管理番号 1369581
審判番号 不服2020-5970  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-01 
確定日 2021-01-12 
事件の表示 特願2018-84987「垂直型ボディメーカ用のツールパック」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月2日出願公開、特開2018-118320、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)3月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月12日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2016-501369号の一部を平成30年4月26日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月 9日 :上申書、手続補正書の提出
令和 元年 5月13日付け:拒絶理由通知
同 年10月16日 :意見書、手続補正書の提出
同 年12月25日付け:拒絶査定
令和 2年 5月 1日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年12月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-4、8-12に係る発明は、以下の引用文献1-2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項5-6に係る発明は、以下の引用文献1-2、4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項7に係る発明は、以下の引用文献1-3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平9-103834号公報
2.特開平8-39159号公報
3.米国特許第4852377号明細書
4.米国特許第3735629号明細書

第3 本願発明
本願請求項1-12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明12」という。)は、令和元年10月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1の記載は以下のとおりである。

「【請求項1】
垂直に向いたボディメーカ用ツールパック(16)であって、
通路(320)を規定しており、内面(322)、上壁(302)、下壁(304)、第1側壁(306)、第2側壁(308)、後壁(310)、及びドア(312)を含んでいるツールパックハウジングアセンブリ(300)であって、ツールパックハウジングアセンブリの通路(320)は略垂直に延びている、ツールパックハウジングアセンブリ(300)と、
各ダイスペーサ(400)がダイ(450)を支持するように構成されており、中央通路(454)を規定している、幾つかのダイスペーサ(400)と、
各ダイ(450)が中央通路(454)を規定する本体(452)を含んでいる、幾つかのダイ(450)と、
ツールパックハウジングアセンブリの下壁(304)に配置されており、幾つかのダイスペーサ(400)を軸方向に付勢するように構成されている圧縮デバイス(470)と、
を備えており、
幾つかのダイスペーサ(400)と幾つかのダイ(450)とは、ツールパックハウジングアセンブリ(300)に配置されており、
幾つかのダイスペーサ(400)と幾つかのダイ(450)とは、上向きに付勢されている、ボディメーカ用ツールパック(16)。」

なお、本願発明2-12は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は、理解を容易にするために当審で付したものである。以下同じ。)

「【0001】
【発明の背景】本発明は、一般的には、機械的ボディメーカー機械に関し、そして詳細には、カップを缶ボディに加工するため、パンチ又はラムを利用する金属缶製造ボディメーカーのツールパックに関する。」
「【0015】図1を参照すると、側壁13を有するハウジング12を具備するブランク又はカップアイロニング・ボディメーカーのツールパック10が示されており、その中にそれぞれスペーサリング15、17、19及び21を間に挟み込まれた複数のアイロニングリング14、16、18、20及び22が配置されている。
【0016】各アイロニングリングは、同軸に整合した孔24を含み、一方各スペーサリングは、孔26を形成している側壁を含み、孔26はアイロニングリング孔24と同軸に整合されている。パンチ又はラム28は、孔24及び26を通り往復運動するようにツールパック10と関連づけられていて、図1の半製品(workpiece)6-6をカップ形状に(図示せず)再引抜きする。アイロニングリング14?22の内部寸法は、カップ又は半製品を薄く延ばし、そして当技術において公知である飲料缶のような、実質的に標準的金属缶の形状に成形する。
【0017】図1に示したように、パンチに接続された再引抜き圧力パッド30及びカップシーター32並びにツールパック・ハウジング12の頂部部分36に配置されたドーマー34のような追加の機構がツールパック10に含まれてもよい。」
「【0020】スコッチヨーク機構の使用は、パンチの特に長いストロークによって生ずる第2の調和振動を除去する。更に、反対方向に回転するクランクシャフトが、ボディメーカードライブの回転慣性をバランスするのに利用されてもよい。垂直に往復運動するパンチ28によって、従来技術の水平取付けに比べて、パンチに作用するすべての側方の力のバランスが、高速往復運動中に得られる。
【0021】本発明は、カップとパンチ28の中心を合わせるため、ツールパック・ハウジング12内に流体静力学的圧力パッドの使用を含んでいる。更に追加の流体静力学的圧力パッドが形成されていて、ツールパック・ハウジング12とアイロニングリング(14、16、18、20、22)及びスペーサリング(15、17、19、21)との中心を合わせるのに利用される。
【0022】パンチ28の最初のガイドは、ハウジング12の底部46における再引抜きパッド30の周囲の周りに形成される流体静力学的圧力パッド44によって達成される。・・・(後略)・・・」
「【0025】本発明の1形式の更に他の特徴は、アイロニングリング(14、16、18、20、22)及びスペーサリング(15、17、19、21)の双方が、それぞれ流体静力学的パッド60及び62によってツールパック・ハウジング12内に、それ等自身流体力学的に中心を合わされることである。
【0026】図5に示したように、例えば、アイロニングリング16は、側壁13とアイロニングリング16の外周との間に配置された流体静力学的パッド16(当審注:「60」の誤記)によってツールパック・ハウジング12内に支持される。これ等の圧力パッド60は、ツールパック・ハウジング12内の流体通路を経て流体口金48に接続される。図5に示したように、アイロニングリングをハウジング12内に正しく中心を合わせるため、少くとも3つのパッド60が120度間隔をへだてて利用される。パッド60の他の数及び方向が利用されてもよい。
【0027】スペーサリングを心合せするのに利用される流体静力学的パッド62の実施例が図6に示されている。例えば、スペーサリング19は、側壁13と、スペーサリング19の外周との間に配置された流体静力学的圧力パッド62によってツールパック・ハウジング12内に支持される。これ等の圧力パッド62は、圧力パッド60と同じように、ツールパック・ハウジング12内の流体通路を経て流体口金48に接続される。図6に示したように、スペーサリング19をハウジング12内に正しく中心を合わせるため、少くとも3つのパッド62が120度間隔をへだてて利用される、しかしパッド62の他のサイズ及び方向が利用されてもよい。」

図1


図5


図6


(2)引用文献1の認定事項
ア.上記段落【0015】、【0017】、【0022】の記載及び図1、5、6から、「ハウジング12」は筒状で、内部に内側の側壁13で囲まれた空間を規定しており、ハウジング12の内面である内側の側壁13、上壁である頂部部分36及び下壁である再引抜きパッド30を含んでいると認められる。
イ.上記段落【0020】の「垂直に往復運動するパンチ28によって、従来技術の水平取付けに比べて、パンチに作用するすべての側方の力のバランスが、高速往復運動中に得られる。」の記載及び図1から、「ボディメーカー」及び「ハウジング12」の「内側の側壁13で囲まれた空間」は垂直に向いていると認められる。
ウ.図1から、各「アイロニングリング14、16、18、20及び22」は、内部に「孔24」を規定する「本体」を有すると認められる。

(3)引用発明
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「垂直に向いたボディメーカーのツールパック10であって、
内側の側壁13で囲まれた空間を規定しており、側壁13、頂部部分36、及び再引抜きパッド30を含んでいる筒状のハウジング12であって、ハウジング12の内側の側壁13で囲まれた空間は略垂直に延びている、筒状のハウジング12と、
各スペーサリング15、17、19及び21がアイロニングリング14、16、18、20及び22を支持するように構成されており、孔26を規定している、幾つかのスペーサリング15、17、19及び21と、
各アイロニングリング14、16、18、20及び22が孔24を規定する本体を含んでいる、幾つかのアイロニングリング14、16、18、20及び22と、
アイロニングリング14、16、18、20及び22とスペーサリング15、17、19及び21とを筒状のハウジング12内に中心を合わせるために利用される流体静力学的パッド60及び62と、
を備えており、
幾つかのスペーサリング15、17、19及び21と幾つかのアイロニングリング14、16、18、20及び22とは、筒状のハウジング12に配置され、筒状のハウジング12内に流体静力学的に中心を合わされている、ボディメーカーのツールパック10。」

2.引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、有底筒状に形成された成形体を、絞りダイスおよび複数のしごきダイス内にラムによって通過させる間に、絞り加工およびしごき加工を行って前記成形体より薄肉かつ小径の缶胴を形成する絞りしごき成形装置に関するものである。」
「【0012】
【実施例】以下、本発明に係る絞りしごき成形装置の一実施例について、図1から図4を参照して説明する。本実施例の絞りしごき成形装置1は、図1に示すように、絞りダイス2と複数のしごきダイス3とを同芯に配置してなる柱状のダイスパック4と、該ダイスパック4内に挿通させられる直円柱状のラム5とを具備している。そして、カップ状に形成された成形体6をラム5によって軸線5a方向に押し込んで各ダイス2・3内に挿通させる1ストロークの間に、成形体6に対して絞り加工と複数回のしごき加工とを実施して、有底円筒状の缶胴7を形成することができるようになっている。
【0013】前記ダイスパック4は、図1および2に示すように、架台8に固定されるハウジング9に搭載状態に支持されている。ハウジング9には、ダイスパック4の側面を支持する2本の平行なレール10と、該レール10の方向にダイスパック4を押し付ける蓋11と、ダイスパック4の端面4bに対向するように配置される押当て面12と、ダイスパック4を押当て面12の方向に付勢する押圧手段13とが設けられている。
【0014】前記レール10は、相互に交差するV字状の平面を形成するように配設され、ダイスパック4を安定して支持することができるようになっている。前記押当て面12は、前記レール10に直交するようにハウジング9に固定されるストリッパーハウジング14に設けられている。このストリッパーハウジング14は、成形された缶胴7をラム5から離脱させるためのものであって、ダイスパック4の最後端に設けられている。」
「【0019】前記押圧手段13は、例えば、前記ダイスパック4の他の端面4bに配置されるシリンダープレート22に設けられた環状のシリンダ23と、その内部に配される環状のピストン24とから構成されている。そして、前記シリンダ23内に加圧エア等の作動流体を供給することによって、ダイスパック4を前記押当て面12の方向に付勢するようになっている。」
「【0022】このように構成された本実施例の絞りしごき成形装置1によって、缶胴7の成形加工を実施する場合について、以下に説明する。缶胴7の成形加工に際して、まず、ダイスパック4の軸線4aとラム5の軸線5aとの心合わせ作業を実施する。この心合わせ作業は、概略位置調整されたダイスパック4によって試験的に製造される缶胴7の肉厚分布を調査することにより、あるいは、最新の製造品の肉厚分布を調査することにより、ダイスパック4の軸線4aとラム5の軸線5aとの傾斜角度およびオフセット量、およびそれらの方向を計測することにより行われる。」
「【0025】したがって、本実施例の絞りしごき成形装置1によれば、ダイスパック4の軸線4aの傾きをテーパ板よりなるバッキングプレート17によって調整することとし、両軸線4a・5a間のオフセット量を位置調整手段25によって調整することとしたので、軸線4a・5aのずれを傾斜角度とオフセット量とに分離してそれぞれ別々に調整することができる。すなわち、同一の調整手段によって2以上の調整を実施しないので、調整作業が複雑にならず、正確な調整を実施することができる。」

図1


図2


図1の図示内容から、複数の「しごきダイス3」の間には「スペーサ」が配置され、さらに、段落【0013】及び【0019】の記載とあわせてみると、該「スペーサ」は「しごきダイス3」とともに押圧手段13によりストリッパーハウジング14の押当て面12向きに軸方向に付勢されるように構成されていると認められる。

(2)引用文献2の技術的事項
したがって、上記引用文献2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。
ア.小径の缶胴を形成する絞りしごき成形装置において、ハウジング9の一方の壁であるシリンダープレート22に配置されており、幾つかのスペーサを軸方向に付勢するように構成されている押圧手段13を備えており、幾つかのスペーサと幾つかのしごきダイス3とは、他方の壁であるストリッパーハウジング14の押当て面12向きに付勢されていること。
イ.ダイスパック4の軸線4aとラム5の軸線5aとの心合わせ作業を実施する際、ダイスパック4の軸線4aの傾きをテーパ板よりなるバッキングプレート17によって調整し、両軸線4a・5a間のオフセット量を位置調整手段25によって調整すること。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア.引用発明における「ボディメーカー」は、本願発明1における「ボディメーカ」に相当し、以下同様に、「ツールパック10」は「ツールパック」に、「内側の側壁13で囲まれた空間」は「通路」に、「側壁13」は「内面」に、「頂部部分36」は「上壁」に、「再引抜きパッド30」は「下壁」に、「スペーサリング15、17、19及び21」は「ダイスペーサ」に、「アイロニングリング14、16、18、20及び22」は「ダイ」に、「孔26」は「(ダイスペーサの)中央通路」に、「孔24」は「(ダイの)中央通路」に、それぞれ相当する。
イ.引用発明の「内側の側壁13で囲まれた空間を規定しており、側壁13、頂部部分36、及び再引抜きパッド30を含んでいる筒状のハウジング12であって、ハウジング12の内側の側壁13で囲まれた空間は略垂直に延びている、筒状のハウジング12」と本願発明1の「通路を規定しており、内面、上壁、下壁、第1側壁、第2側壁、後壁、及びドアを含んでいるツールパックハウジングアセンブリであって、ツールパックハウジングアセンブリの通路は略垂直に延びている、ツールパックハウジングアセンブリ」とは、「通路を規定しており、内面、上壁及び下壁を含んでいるツールパックハウジングアセンブリであって、ツールパックハウジングアセンブリの通路は略垂直に延びている、ツールパックハウジングアセンブリ」という限りにおいて共通する。
ウ.引用発明の「幾つかのスペーサリング15、17、19及び21と幾つかのアイロニングリング14、16、18、20及び22とは、筒状のハウジング12に配置され、筒状のハウジング12内に流体静力学的に中心を合わされている」と本願発明1の「幾つかのダイスペーサと幾つかのダイとは、ツールパックハウジングアセンブリに配置されている」とは、「幾つかのダイスペーサと幾つかのダイとは、ツールパックハウジングアセンブリに配置されている」という限りにおいて共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「垂直に向いたボディメーカ用ツールパックであって、
通路を規定しており、内面、上壁及び下壁を含んでいるツールパックハウジングアセンブリであって、ツールパックハウジングアセンブリの通路は略垂直に延びている、ツールパックハウジングアセンブリと、
各ダイスペーサがダイを支持するように構成されており、中央通路を規定している、幾つかのダイスペーサと、
各ダイが中央通路を規定する本体を含んでいる、幾つかのダイと、
を備えており、
幾つかのダイスペーサと幾つかのダイとは、ツールパックハウジングアセンブリに配置されている、ボディメーカ用ツールパック。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は、ツールパックハウジングアセンブリが「第1側壁、第2側壁、後壁、及びドアを含んでいる」のに対し、引用発明は、ハウジング12の形状が筒状であり、本願発明1のような構成を備えていない点。
(相違点2)本願発明1は、「ツールパックハウジングアセンブリの下壁に配置されており、幾つかのダイスペーサを軸方向に付勢するように構成されている圧縮デバイス」を備えており、「幾つかのダイスペーサと幾つかのダイとは、上向きに付勢されている」のに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
ア.上記第4の2.(2)ア.に記載のとおり、引用文献2には、小径の缶胴を形成する絞りしごき成形装置において、ハウジング9の一方の壁であるシリンダープレート22に配置されており、幾つかのスペーサを軸方向に付勢するように構成されている押圧手段13を備えており、幾つかのスペーサと幾つかのしごきダイス3とは、他方の壁であるストリッパーハウジング14の押当て面12向きに付勢されているという技術的事項が記載されている。
イ.引用発明に上記ア.の技術的事項を適用できるか検討するに際し、まずは、引用発明において、流体静力学的パッド60及び62を残したまま上記ア.の「押圧手段13」を採用する動機があるかについて検討する。
引用発明は、従来の垂直型パンチによるプレスは、慣性荷重や熱応力を考慮していないことから製品の精度に問題が生じることを発明の背景としており(引用文献1の段落【0003】)、「流体静力学的パッド」を採用することで、スペーサリングとアイロニングリングとを、ハウジング内で流体静力学的に中心を合わせて摩擦熱を減少させ、パンチを真直ぐに、より制御された往復運動をさせようとする(引用文献1の段落【0009】)ものである。
そのような引用発明に対して引用文献2の「押圧手段13」を適用して、引用発明のアイロニングリングとスペーサリングとを上向きに付勢した場合、流体静力学的に浮動するように構成されているアイロニングリングとスペーサリングの動きが阻害されてしまい、流体静力学的パッドによるアイロニングリング及びスペーサリングの支持が好適に行えなくなることは当業者にとって明らかであるから、当業者が、引用発明に引用文献2の「押圧手段13」を付加しようとする動機があるとはいえず、むしろ、当該付加を阻害する要因があるというべきである。
ウ.次に、引用発明において、流体静力学的パッド60及び62に代えて上記ア.の「押圧手段13」を採用する動機があるかについて検討する。
上記イ.に記載したとおり、引用発明の「流体静力学的パッド」は、スペーサリングとアイロニングリングとを、ハウジング内で流体静力学的に中心を合わせる機能を有するものである。
それに対し、上記第4の2.(2)イ.に記載のとおり、引用文献2において、心合わせ作業は、バッキングプレート17及び位置調整手段25によって行われており、「押圧手段13」は心合わせの機能を有さない。
つまり、引用発明の「流体静力学的パッド」と引用文献2の「押圧手段13」とは、その機能が全く異なっている。また、引用発明の「流体静力学的パッド」を引用文献2の「押圧手段13」に置換すると、引用発明において、スペーサリングとアイロニングリングとを、ハウジング内で流体静力学的に中心を合わるという引用発明の効果が損なわれることは明らかであるから、当業者が当該置換を行おうとする動機があるとはいえず、むしろ、当該置換を阻害する要因があるというべきである。
エ.したがって、本願発明1の相違点2に係る発明特定事項について、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用する動機がないのであるから、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-12について
本願発明2-12は、本願発明1の発明特定事項の全てを引用した発明であって、本願発明1の相違点2に係る事項と同一の事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-12は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-12-15 
出願番号 特願2018-84987(P2018-84987)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 永井 友子豊島 唯  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 青木 良憲
河端 賢
発明の名称 垂直型ボディメーカ用のツールパック  
代理人 特許業務法人 丸山国際特許事務所  

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