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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G05D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G05D
管理番号 1369650
審判番号 不服2020-2616  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-27 
確定日 2021-01-13 
事件の表示 特願2014-176428「自律走行体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月11日出願公開、特開2016- 51343、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月29日の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月27日付け:拒絶理由通知
同 年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同 年 8月22日付け:最後の拒絶理由通知
同 年11月20日 :面接
同 年12月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月10日付け:拒絶理由通知
令和 元年 6月24日 :面接
同 年 7月 4日 :意見書、手続補正書の提出
同 年11月22日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 2年 2月27日 :審判請求と同時に手続補正書の提出
同 年 9月 3日付け:拒絶理由通知
同 年10月26日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年10月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
本体ケースと、
この本体ケースに設けられた撮像可能な撮像手段と、
前記本体ケースを走行可能とする駆動輪と、
前記本体ケースに設けられ、前記本体ケースの周囲の障害物との距離を検出する測距手段と、
前記測距手段により検出した距離が予め設定された一の所定距離以下である障害物を前記駆動輪の駆動を制御することで回避しつつ前記本体ケースを自律走行させる走行モードと、前記駆動輪の駆動を制御することで前記本体ケースを旋回させつつ前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施することで、前記他の所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モードと、を少なくとも有する制御手段と
を具備したことを特徴とした自律走行体。」

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2013-235351号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下の2.?5.についても同じ。)。

「【0001】
本発明は、撮影部を備えた自走式電子機器に関するものである。」
「【0026】
(自走式掃除機の外観的構成)
図2?4に、ぞれぞれ、本実施形態の自走式掃除機(自走式電子機器)1の斜視図、側面断面図、底面図を示す。自走式掃除機1は、図2に示すように、外枠が平面視円形の本体筐体2で形成された自走式掃除機1本体と、図3に示すように、バッテリー(二次電池)14を電力供給源として駆動される駆動輪29とを有し、自走しながら集塵(掃除)する装置である。なお、本実施形態では本体筐体2は、その上面及び底面が円形を成す形状とするが、この形状に限定されることはない。」
「【0028】
・・・掃除中、本体筐体2が掃除領域の周縁に到達した場合や進路上の障害物に衝突すると、駆動輪29が停止される。そして、駆動輪29の両輪を互いに逆方向に回転し、本体筐体2の中心線Cを中心に自走式掃除機1本体を回転して向きを変え、旋回する。これにより、所望の掃除領域全体に自走式掃除機1を自走させるとともに、障害物を避けて自走させることができる。・・・」
「【0032】
また、本体筐体2には、周囲の画像を撮影する撮影部63が設けられている。撮影部63は、光学レンズ、カラーフィルタ、受光素子であるCCD(Charge Coupled Device)等により構成されている。撮影部63が撮影する画像は、動画であっても静止画であってもよい。本実施形態では、撮影部63は、本体筐体2の周面の前面に設けられているが、設けられる位置は限定されない。本体筐体2の周面に設けられていると、自機が回転動作を行うことにより、水平方向で最大360°の範囲を撮影できるため、好ましい。また、複数の撮影部が設けられていてもよい。」
「【0058】
さらに、自走式掃除機1の制御部52は、障害物への接近あるいは接触の検知を判定する障害物検知部520と、走行駆動部58の走行動作を制御する走行駆動制御部521と、撮影部63を制御する撮影制御部522と、を備えている。そして、自走式掃除機1は、図5に示すように、撮影部63で撮影を行う際、障害物検知部520が障害物への接近あるいは接触の検知があるかを判定し(S1)、検知があると判定すると(S1にてYES)、走行駆動制御部521は、走行駆動部58を制御して、障害物から離れる方向に自機を移動させ(S2)、移動後、回転しながら撮影を行う(S3)。」
「【0075】
・・・
(c)障害物検知部520は、距離センサ64により得られた壁面までの距離の情報に基づき、障害物への接近あるいは接触を検知する。ここでは、障害物とは壁面とういことになる。(審決注:「壁面ということになる」の誤記と認める。)よって、上記(a)や(b)と同様に、壁面への接近あるいは接触を避けて、「観察」を行うことが可能となる。
【0076】
さらに、この場合、走行駆動制御部521は、距離センサ64により得られた壁面までの距離の情報に基づき、移動の所定量を決定する。所定量が壁面までの距離の情報に基づき決定されるため、適切な量(所定量)、障害物である壁面から離れて撮影を行うことができる。この決定は、例えば、壁面までの距離と移動量とを対応づけた移動量テーブル570を記憶部57記憶させておき、この移動量テーブル570を用いて行ってもよい。」

(2)引用発明1
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「本体筐体2と、
この本体筐体2に設けられた撮影を行う撮影部63と、
前記本体筐体2を走行可能とする駆動輪29と、
前記本体筐体2に設けられ、前記本体筐体2の周囲の障害物との距離を検出する距離センサ64と、
障害物に衝突すると、駆動輪29の駆動を制御し、本体筐体2の向きを変えることで、障害物を回避しつつ本体筐体2を自走させ、距離センサ64により得られた障害物までの距離の情報に基づき、障害物への接近あるいは接触を検知し、検知があると判定すると、移動の所定量、障害物から離れる方向に本体筐体2を移動させ、適切な量(所定量)、障害物から離れて最大360°の範囲の静止画の撮影を行わせる制御部58と
を具備した自走式掃除機1。」

2.引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2006-139525号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、自律移動型ロボットに内蔵されたカメラからの映像を用いて、外部操作端末による遠隔監視を行なうシステムに関する。」
「【0012】
本発明の自律移動型ロボットの構造を図2に示す。図2は、本発明の自律移動型ロボットの構造の一実施例を示す、上面図および側面図である。
自律移動型ロボット1は、本体2と、本体2を床面の上で移動させる移動手段である右および左の車輪3a、3bおよびそれらを駆動するモータ4a、4bと、本体2の移動を制御する制御手段である制御装置5と、システムに電力を供給する電力供給部6と、本体2の前方周囲を撮影するカメラ7を備えている。・・・
【0013】
また、本体2には、方位角検出手段であるジャイロ8が搭載されている。ジャイロ8は、圧電振動ジャイロ等の角速度センサであり、本体2の床面上における旋回の速度を検出する。検出された角速度を制御装置5の内部で積分することにより、方位角が得られる。また、本体2には、前方の障害物を検出する前方近接センサ9と、側方の障害物を検出する側方近接センサ10が設けられている。前方近接センサ9および側方近接センサ10は、対向する物体までの距離を検出する近接距離センサであり、赤外線ビームを発光し、対象物からの反射光の方向を検出することにより、距離を検出する。」
「【0018】
前記ロボット制御信号とは、本体2を移動させるのに必要なパラメータである、車輪の回転速度、回転方向、回転角度のことである。制御装置5は、前記ロボット制御信号に基づいてモータ4a、4bの制御を行ない、本体2の移動を実現することができる。・・・ここで、カメラ7が水平方向に360度回転可能であり、このカメラ7の360度回転のみで、360度の周辺画像を取得できる場合は、カメラ制御信号のみで、監視対象物をカメラ7の画面の中央に映すことができる。
・・・」
「【0019】
・・・
図3は、外部操作端末100から自律移動型ロボット1を操作し、監視対象物の映像を取得する処理における、自律移動型ロボット1側のフローチャートである。自律移動型ロボット1は、外部操作端末100から監視開始要求信号を受信すると、ステップ400に示すように、制御装置5によって本体2を360度その場旋回をしながらカメラ7によって複数の画像300を撮影することで、360度周囲画像を取得する。」
「【0028】
・・・
また、上記のステップ400の説明では、自律移動型ロボット1の現在位置にて、360度周囲画像を撮影するように記したが、自律移動型ロボット1の制御装置5に部屋の地図情報を記憶している場合は、360度周囲画像を取得するのに適した位置を探索し、該位置まで自律移動型ロボット1を移動させた後に、ステップ400を実行することが可能である。前記360度周囲画像を取得するのに適した位置とは、例えば、自律移動型ロボット1と、該周囲に存在する障害物との距離のうち、最近距離が所定値より長い、もしくは最大となる位置であり、部屋全体の概観を撮影しやすい位置のことである。」

(2)引用発明2
したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「本体2と、
この本体2に設けられた前方周囲を撮影するカメラ7と、
前記本体2を走行可能とする車輪3a、3bと、
前記本体2に設けられ、前記本体2の周囲の障害物との距離を検出する前方近接センサ9および側方近接センサ10と、
部屋の地図情報を記憶している場合は、自律移動型ロボット1と、該周囲に存在する障害物との距離のうち、最近距離が所定値より長い、もしくは最大となる位置まで自律移動型ロボット1を移動させた後に、本体2を360度その場旋回をさせながらカメラ7によって複数の画像300を撮影させる制御装置5と
を具備した自律移動型ロボット1。」

3.引用文献3-4について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2014-071845号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0039】
超音波センサ41は、自走式電子機器20の周囲に向けて超音波を出力するとともに、障害物で反射された超音波を受信することにより、自走式電子機器20の周囲に存在する障害物の位置を検出する。」
「【0042】
なお、各駆動輪32は個別に回転駆動されるようになっており、これら各駆動輪32が同方向に回転駆動された場合には自走式電子機器20は各駆動輪32の回転方向に応じて前進または後進する。また、これら各駆動輪32が互いに逆方向に回転駆動された場合には自走式電子機器20は各駆動輪32の回転方向に応じてその場で底面に平行な方向に回転(旋回)する。これにより、自走式電子機器20の進行方向を転換させることができる。なお、自走式電子機器20にバンパー39が壁等に衝突した場合にそれを検知するセンサ(図示せず)を設け、自走式電子機器20が移動中に壁等に衝突したときに進行方向を変更して移動を継続するようにしてもよい。また、超音波センサ41の検知結果や撮像部40の撮像結果などに応じて壁や家具等の障害物を検知し、自走式電子機器20が障害物を自動的に避けて移動するようにしてもよい。」
(2)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2014-071691号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0020】
前記前方センサ18及び側方センサ20は、例えば、よく知られた光学センサであり、好適には、前記掃除装置10と、その掃除装置10の前方乃至側方に存在する障害物との距離をそれぞれ検出するものであるが、少なくともその距離が予め定められた規定値d以下であることを検出する。前記掃除装置10は、好適には、前記前方センサ18による検出結果に応じて前方に存在する壁等の障害物との距離が予め定められた規定値d未満とならないように移動を行う。また、好適には、前記側方センサ20による検出結果に応じて側方における壁等の障害物との距離を予め定められた規定値dに保ちつつ、その障害物に沿って前記移動を行う。前記車輪30は、好適には、前記移動機構22によりそれぞれの回転方向が変更させられるように構成されており、各車輪30の回転方向が適宜変更させられると共にそれらの車輪30が駆動されることで、前記掃除装置10が前記床面50上をその床面50に平行を成す平面方向に360°何れの方向にも移動させられるようになっている。」
(3)上記引用文献3及び4の記載事項から、自走式掃除機の分野において、障害物までの距離が所定距離以下である場合に(障害物に接触する前に)障害物を回避するよう構成することは、本願出願前から周知技術(以下、「周知技術A」という。)であったと認められる。

4.引用文献5について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2000-202790号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0040】(実施例12)次に、固定タイプのアーム型ロボットではなく、車輪を備える自律走行型移動ロボットに本発明を適用した場合の実施例について説明する。図7以下は、自律走行型移動ロボットの一例である掃除ロボットを示している。図7は、掃除ロボットの断面図、図8はその主要制御ブロック図である。
【0041】掃除ロボットの本体1aの底部には、図示していない走行モータで駆動される走行輪2aと回転自在に取り付けられた従輪3aが配置され、走行手段兼操舵手段を構成している。制御部1aにはあらかじめ部屋のマップが記録されており、本体1aの周囲に設置した超音波センサ5aによって壁面等の障害物の有無や距離を測定し、走行輪3aを走行モータにより駆動して(左右の回転数を制御することにより方向転換を行う)、障害物回避を行いながら自律走行を行う。バッテリ6aは、自律走行および掃除動作を行うために全体に電力を供給する。表示・操作部7aは、使用者との間でインターフェイスをとる部分であって、使用者が動作指示を設定したり、使用者に対して動作状況を表示して確認できるようにする。8aは電動送風機、9aは集塵室、10aは本体1aの底部に設けた吸い込み口で、回転ブラシ11aを備え、接続パイプ12aを介して集塵室9aと接続している。以上、8a?12aの各部材で掃除手段を構成している。
【0042】図8において、制御部4a内部には超音波センサ5aの検知状況から一定距離以内の移動物体を検出する移動物体検出手段41aが設けられている。また、制御部4aには、走行モータ、超音波センサ5a、表示・操作部7a、電動送風機8a、回転ブラシ11aの駆動モータと電気的に接続されており、表示、走行、掃除動作の制御が行われる。」
(2)上記引用文献5の記載事項から、自律式掃除機の分野において、障害物との距離を計測する測距センサを本体の全周囲に設けることは、本願出願前から周知技術(以下、「周知技術B」という。)であったと認められる。

5.引用文献6-7について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(特開2005-211366号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0040】
まず、地図情報作成部45は、掃除開始位置での機器本体2の360°旋回動作(上記の掃除動作における初期動作)時に、前方センサ12a,12b,12c及び天井センサ15からの出力を基に、機器本体2の周囲の所定距離(例えば5cm)内に障害物を検出した否かを判断する(#1でYES)。そして、障害物を検出すると(#1でYES)、障害物を検出した方向の機器本体2の隣接する領域を「障害物の存在する領域」として、地図情報メモリ41に記憶させる(#2)。」
(2)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7(特開2009-104444号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0029】
なお、装置本体1の左側面にも光測距センサを配置し、装置本体1の起動後、左側に存在する壁の有無も検知し、左側に障害物や壁が存在していればそれに対して装置本体1を平行になるようにしても構わないし、または最初に装置本体1を360度回転させ、回転中、装置本体1の右側面の光測距センサ2f、2gで障害物や壁を検知した場合に、その障害物や壁に装置本体1を平行になるようにしても構わない。」
(3)上記引用文献6及び7の記載事項から、本体を360度回転させて距離センサで周囲との距離を計測することにより周囲の障害物を検知することは、本願出願前から周知技術(以下、「周知技術C」という。)であったと認められる。

第4 対比・判断
1.引用発明1を主引例とする場合
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア.引用発明1における「本体筐体2」は、本願発明における「本体ケース」に相当し、以下同様に、「撮影部63」は「撮像手段」に、「駆動輪29」は「駆動輪」に、「距離センサ64」は「測距手段」に、「制御部58」は「制御手段」に、「自走式掃除機1」は「自律走行体」に、それぞれ相当する。
イ.そうすると、引用発明1における「本体筐体2に設けられた撮影を行う撮影部63」は、本願発明における「本体ケースに設けられた撮像可能な撮像手段」に相当する。
ウ.引用発明1の「障害物に衝突すると、駆動輪29の駆動を制御し、本体筐体2の向きを変えることで、障害物を回避しつつ本体筐体2を自走させ」と本願発明の「前記測距手段により検出した距離が予め設定された一の所定距離以下である障害物を前記駆動輪の駆動を制御することで回避しつつ前記本体ケースを自律走行させる走行モード」とは、「障害物を前記駆動輪の駆動を制御することで回避しつつ前記本体ケースを自律走行させる走行モード」という限りにおいて共通する。
エ.引用発明1の「距離センサ64により得られた障害物までの距離の情報に基づき、障害物への接近あるいは接触を検知し、検知があると判定すると、移動の所定量、障害物から離れる方向に本体筐体2を移動させ、適切な量(所定量)、障害物から離れて最大360°の範囲の静止画の撮影を行わせる」と本願発明の「前記駆動輪の駆動を制御することで前記本体ケースを旋回させつつ前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施することで、前記他の所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モード」とは、「360°の範囲の静止画の撮影」が「複数の方向の静止画の撮像」を意味することから、「前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が予め設定された所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させることで、前記所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モード」という限りにおいて共通する。

したがって、本願発明と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点A)
「本体ケースと、
この本体ケースに設けられた撮像可能な撮像手段と、
前記本体ケースを走行可能とする駆動輪と、
前記本体ケースに設けられ、前記本体ケースの周囲の障害物との距離を検出する測距手段と、
障害物を前記駆動輪の駆動を制御することで回避しつつ前記本体ケースを自律走行させる走行モードと、前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が予め設定された所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させることで、前記所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モードと、を少なくとも有する制御手段と
を具備した自律走行体。」

(相違点A)
本願発明は、走行モードの際、「前記測距手段により検出した距離が予め設定された一の所定距離以下である障害物」を回避させ、撮像モードの際、「前記駆動輪の駆動を制御することで前記本体ケースを旋回させつつ前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ」「障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施」させているのに対し、引用発明1は、走行モードの際、障害物に衝突した後に本体筐体の向きを変えることで障害物を回避させ、撮像モードの際、距離センサ64により得られた障害物までの距離の情報に基づき、障害物への接近あるいは接触を検知し、検知があると判定すると、移動の所定量、障害物から離れる方向に本体筐体2を移動させ、適切な量(所定量)、障害物から離れさせている点。

(2)相違点についての判断
ア.上記第3の3.(3)に記載のとおり、自走式掃除機の分野において、障害物までの距離が所定距離以下である場合に(障害物に接触する前に)障害物を回避するよう構成することは、本願出願前から周知技術であったと認められる。
イ.また、上記第3の5.(3)に記載のとおり、周囲の障害物との距離を検出する際、本体を360度回転させて距離センサで周囲との距離を計測することは、本願出願前から周知技術であったと認められる。
ウ.しかし、いずれの文献にも、走行モードの際、測距手段により検出した距離が予め設定された一の所定距離以下である障害物を回避し、撮像モードの際、検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ、障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施すること、すなわち、障害物回避の際の一の所定距離より、撮像モードの際の他の所定距離を大きくすることについては記載されていない。
そもそも、引用発明1は走行モードの際、障害物に衝突した後に本体筐体の向きを変えることで障害物を回避するものであって、一の所定距離を有さないものであるところ、上記アの周知技術が存在するとしても、当該周知技術Aを採用し、さらに所定距離の大小関係を特定しようとする動機も見当たらない。
エ.したがって、本願発明は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項並びに前記周知技術A?Cに基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.引用発明2を主引例とする場合
(1)対比
本願発明と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。
ア.引用発明2における「本体2」は、本願発明における「本体ケース」に相当し、以下同様に、「カメラ7」は「撮像手段」に、「車輪3a、3b」は「駆動輪」に、「前方近接センサ9および側方近接センサ10」は「測距手段」に、「画像300」は「静止画」に、「制御装置5」は「制御手段」に、「自律移動型ロボット1」は「自律走行体」に、それぞれ相当する。
イ.そうすると、引用発明2における「本体2に設けられた前方周囲を撮影するカメラ7」は、本願発明における「本体ケースに設けられた撮像可能な撮像手段」に相当する。
ウ.引用発明2の「部屋の地図情報を記憶している場合は、自律移動型ロボット1と、該周囲に存在する障害物との距離のうち、最近距離が所定値より長い、もしくは最大となる位置まで自律移動型ロボット1を移動させた後に、本体2を360度その場旋回をさせながらカメラ7によって複数の画像300を撮影させる制御装置5」と本願発明の「前記駆動輪の駆動を制御することで前記本体ケースを旋回させつつ前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施することで、前記他の所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モードと、を少なくとも有する制御手段」とは、「周囲に存在する障害物との距離のうち、最近距離が所定値より長い・・・位置まで自律移動型ロボット1を移動させ」ることが、最近距離が所定値より短い位置にいる場合には、所定値より長い位置まで移動させることを意味しており、このことは結果的に障害物から離れることになるから、「周囲の障害物との距離が予め設定された所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する位置に前記本体ケースを自律走行させ、前記所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モードを少なくとも有する制御手段」という限りにおいて共通する。

したがって、本願発明と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点B)
「本体ケースと、
この本体ケースに設けられた撮像可能な撮像手段と、
前記本体ケースを走行可能とする駆動輪と、
前記本体ケースに設けられ、前記本体ケースの周囲の障害物との距離を検出する測距手段と、
周囲の障害物との距離が予め設定された所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する位置に前記本体ケースを自律走行させ、前記所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モードを少なくとも有する制御手段と
を具備した自律走行体。」

(相違点B)
本願発明は、走行モードの際、「前記測距手段により検出した距離が予め設定された一の所定距離以下である障害物を前記駆動輪の駆動を制御することで回避しつつ前記本体ケースを自律走行させ」、撮像モードの際、「前記駆動輪の駆動を制御することで前記本体ケースを旋回させつつ前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施」させているのに対し、引用発明2は、走行モードを有するか不明であり、撮像モードの際には、部屋の地図情報に基づいて、自律移動型ロボット1と、該周囲に存在する障害物との距離のうち、最近距離が所定値より長い、もしくは最大となる位置まで自律移動型ロボット1を移動させている点。

(2)相違点についての判断
ア.上記第3の3.(3)に記載のとおり、自走式掃除機の分野において、障害物までの距離が所定距離以下である場合に(障害物に接触する前に)障害物を回避するよう構成することは、本願出願前から周知技術であったと認められる。
イ.上記第3の5.(3)に記載のとおり、周囲の障害物との距離を検出する際、本体を360度回転させて距離センサで周囲との距離を計測することは、本願出願前から周知技術であったと認められる。
ウ.しかし、いずれの文献にも、走行モードの際、測距手段により検出した距離が予め設定された一の所定距離以下である障害物を回避し、撮像モードの際、検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ、障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施すること、すなわち、障害物回避の際の一の所定距離より、撮像モードの際の他の所定距離を大きくすることについては記載されていない。
そもそも、引用発明2は撮像モードの際、部屋の地図情報に基づいて自律移動型ロボット1を移動させるものであって、周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施しないものであるから、上記アの周知技術が存在するとしても、当該周知技術Aを採用し、さらに所定距離の大小関係を特定しようとする動機も見当たらない。
エ.したがって、本願発明は、当業者であっても、引用発明2及び引用文献1に記載された技術的事項並びに周知技術A?Cに基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1に係る発明について上記引用文献1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、令和2年2月27日付け手続補正により補正された請求項1は、「前記駆動輪の駆動を制御することで前記本体ケースを旋回させつつ前記測距手段により周囲の障害物との距離を検出する検出動作を実施し、この検出動作により検出した距離が前記予め設定された所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施することで、前記所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モード」という事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明は、上記引用発明1及び上記引用文献2に記載された技術的事項並びに周知技術A?C、または、上記引用発明2及び上記引用文献1に記載された技術的事項並びに周知技術A?Cに基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由(特許法第36条第6項第1号)について
当審では、「明細書の段落【0047】には、・・・と記載され、『撮像モード』での『障害物との距離を判断する際の距離』が、『掃除モード』(走行モード)での距離と異なり、より大きく設定されることが記載されている。
一方、請求項1には、・・・と記載されている。このことから、『撮像モード』での『予め設定された所定距離』が、『走行モード』での『予め設定された所定距離』と同じであると理解できる。
しかし、前述のとおり、明細書には、『撮像モード』での『予め設定された所定距離』が、『走行モード』での『予め設定された所定距離』と同じであることは記載されていない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」との拒絶の理由を通知している。
しかしながら、令和2年10月26日付けの補正において、「前記測距手段により検出した距離が予め設定された一の所定距離以下である障害物を前記駆動輪の駆動を制御することで回避しつつ前記本体ケースを自律走行させる走行モード」及び「この検出動作により検出した距離が前記一の所定距離よりも大きい予め設定された他の所定距離以上でなければ前記駆動輪の駆動を制御することで前記障害物から離間する方向に前記本体ケースを自律走行させた後に前記検出動作を再度実施することで、前記他の所定距離よりも大きい一定距離以上の撮像位置に前記本体ケースを位置させて、前記撮像位置で複数の方向の静止画を前記撮像手段により撮像させる撮像モード」(下線は補正された箇所。)と補正された結果、請求項1における撮像モードでの予め設定された所定距離と走行モードでの予め設定された所定距離との関係が、発明の詳細な説明の記載と対応するものとなった。
よって、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項並びに周知技術A?C、または、引用発明2及び引用文献1に記載された技術的事項並びに周知技術A?Cに基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-12-23 
出願番号 特願2014-176428(P2014-176428)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G05D)
P 1 8・ 537- WY (G05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大野 明良牧 初  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 田々井 正吾
青木 良憲
発明の名称 自律走行体  
代理人 樺澤 襄  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 聡  

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