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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1369827
審判番号 不服2020-1653  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-06 
確定日 2021-01-07 
事件の表示 特願2015-110445「絶縁型電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月28日出願公開,特開2016-226162〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成27年5月29日の出願であって,平成30年9月13日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年11月2日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,平成31年4月22日付けで最後の拒絶理由通知がされ,令和1年6月25日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,令和1年11月29日付けで前記令和1年6月25日付け手続補正を却下する旨の補正の却下の決定がなされるとともに,同日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。これに対し,令和2年2月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2.令和2年2月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
直流電源からの直流電力を交流電力に変換し、又は、交流電力を直流電力に変換する第1電力変換部と、
前記第1電力変換部に接続されたトランスと、
交流電源に接続され、交流電力の周波数を変換する第2電力変換部と、
前記第1電力変換部及び前記第2電力変換部の動作を制御することにより、前記直流電源側から前記交流電源側に対する電力変換、又は、前記交流電源側から前記直流電源側への電力変換を行う制御部と、
を含み、
前記トランスの中間タップが前記直流電源に接続されており、
前記トランスの一方側に前記第1電力変換部が接続されており、前記トランスの他方側に前記第2電力変換部が接続されており、これにより、前記トランスを介して前記第1電力変換部と前記第2電力変換部とが接続されており、
前記制御部は、前記トランスに印加される電圧がゼロとなるゼロ電圧期間を利用し、前記トランスの漏れインダクタンスによって前記直流電源からの電圧が昇圧されるように、前記第1電力変換部の動作を制御し、
前記制御部は、更に、前記トランスの前記ゼロ電圧期間と、前記トランスの電圧がプラス又はマイナスになる期間とを調整することにより、前記昇圧の比を変更し、
前記直流電源に接続されたコンデンサの電圧をVcと定義し、前記直流電源の電圧をVbと定義し、前記トランスの電圧をVtと定義し、1制御周期における、前記トランスのゼロ電圧期間のデューティ比をDと定義した場合、Vt=N×Vc(Nは整数)となり、Vc=1/(1-D)×Vbとなり、
前記第2電力変換部は、双方向特性をもった複数のスイッチング素子によって構成されている、
ことを特徴とする絶縁型電力変換装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年11月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
直流電源からの直流電力を交流電力に変換し、又は、交流電力を直流電力に変換する第1電力変換部と、
前記第1電力変換部に接続されたトランスと、
交流電源に接続され、交流電力の周波数を変換する第2電力変換部と、
前記第1電力変換部及び前記第2電力変換部の動作を制御することにより、前記直流電源側から前記交流電源側に対する電力変換、又は、前記交流電源側から前記直流電源側への電力変換を行う制御部と、
を含み、
前記トランスの中間タップが前記直流電源に接続されており、
前記トランスの一方側に前記第1電力変換部が接続されており、前記トランスの他方側に前記第2電力変換部が接続されており、これにより、前記トランスを介して前記第1電力変換部と前記第2電力変換部とが接続されており、
前記制御部は、前記トランスに印加される電圧がゼロとなるゼロ電圧期間を利用し、前記トランスの漏れインダクタンスによって前記直流電源からの電圧が昇圧されるように、前記第1電力変換部の動作を制御し、
前記制御部は、更に、前記トランスの前記ゼロ電圧期間と、前記トランスの電圧がプラス又はマイナスになる期間とを調整することにより、前記昇圧の比を変更する、
ことを特徴とする絶縁型電力変換装置。」


2.補正の適否
本件補正は,請求項1について,「前記直流電源に接続されたコンデンサの電圧をVcと定義し、前記直流電源の電圧をVbと定義し、前記トランスの電圧をVtと定義し、1制御周期における、前記トランスのゼロ電圧期間のデューティ比をDと定義した場合、Vt=N×Vc(Nは整数)となり、Vc=1/(1-D)×Vbとなり」という構成を付加して限定し,さらに,補正前の請求項1の発明特定事項である「第2電力変換部」について,「双方向特性をもった複数のスイッチング素子によって構成されている」との限定を加えたものである。また,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。したがって,請求項1についての本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か)を検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献,引用発明
ア 引用文献1
(ア) 原査定の理由である平成31年4月22日付けの最後の拒絶理由通知において引用された本願の出願前に既に公知である,特開平11-55950号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審において付加した。以下,同じ。)

a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
・・・中略・・・

【請求項2】直流電源と、半導体スイッチング素子の動作により直流電源の電力を単相交流電力に変換する電圧形インバータと、このインバータの直流入力端子に接続された平滑コンデンサと、前記インバータの交流出力端子に一次側が接続された絶縁トランスと、を備えた電圧形電力変換回路において、
直流電源の一端を絶縁トランスの一次側の中間タップに接続すると共に、直流電源の他端を平滑コンデンサの一端に接続し、
インバータによる零電圧ベクトルの出力時に、このインバータ及び絶縁トランスの漏れインダクタンスを介して直流電源と平滑コンデンサとの間で零相電力を授受することにより、インバータの直流電圧を制御することを特徴とする電圧形電力変換回路。」

b 「【0016】
【発明の実施の形態】以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図2は請求項2に記載した発明の実施形態を示す回路図である。図において、前記同様に101は直流電源であり、その正極は絶縁トランス601の中間タップ601aに接続されている。すなわちこの構成は、図11における昇圧チョッパ301及びリアクトル201を除去し、直流電源101の正極を絶縁トランス601の一次巻線の中間タップ601aに接続したものに相当する。なお、その他の回路構成は図11と同一である。
【0017】本実施形態は、単相電圧形インバータ501の零電圧ベクトルに着目したものである。すなわち、単相電圧形インバータ501において零電圧ベクトルを出力するには2組の上アームをすべて導通させる場合と2組の下アームをすべて導通させる場合との2通りのスイッチングパターンがあり、本実施形態ではこの自由度を利用する。インバータ501から出力される零相電圧は出力電圧には現れないので、絶縁トランス601の二次側の出力電圧には影響せず、負荷901への電力供給には問題がない。従って、正相分の等価回路は図3のようになり、インバータ501は従来と同様に動作して絶縁トランス601の一次側に交流電圧を印加する。なお、電圧形インバータとして三相電圧形インバータを用いる場合には、周知のように3組の上アームをすべて導通させるか、3組の下アームをすべて導通させることにより、零電圧ベクトルが出力される。
【0018】一方、零相分について考えると図4のようになり、図2におけるインバータ501の2組の上下アームはあたかも零電圧ベクトルの比でスイッチング動作する1つのアーム501’とみなすことができる。つまり、インバータ501の上アームのスイッチング素子Tr1及びTr3、あるいは下アームのスイッチング素子Tr2及びTr4をオンさせて零電圧ベクトルを出力させることにより、直流電源101と平滑コンデンサ401との間で後述のリアクトル601’を介してエネルギーを授受し、図11に示した昇圧チョッパ301を代用させてインバータ501の直流電圧を制御することができる。なお、図4におけるリアクトル601’は、絶縁トランス601の漏れインダクタンスの値を持ち、図11や図12におけるリアクトル201を代用するものである。
【0019】すなわち、インバータ501による零電圧ベクトル出力時に、直流電源101と平滑コンデンサ401との間でインバータ501を介して零相電力を授受することにより、従来の昇圧チョッパ301と同様の動作を行わせることができるから、電力変換回路全体から見て半導体スイッチング素子及びその駆動回路等を削減することができる。従って、回路構成の簡略化、小型化、低コスト化が可能になる。ここで、図2の実施形態では直流電源101の正極を中間タップ601aに接続し、負極を平滑コンデンサ401とスイッチング素子Tr2との接続点に接続しているが、直流電源101の負極を中間タップ601aに接続し、正極を平滑コンデンサ401とスイッチング素子Tr1との接続点に接続しても良い。」

c 「【0020】図2におけるインバータ501はPWM制御されるが、そのPWMパルスは例えば図5に示す制御回路によって作成される。すなわち図5において、直流電圧指令値v_(dc)^(*)と直流電圧検出値v_(dc)(図2における平滑コンデンサ401の電圧)との偏差を電圧制御器551に入力し、その出力から零相(入力)電流指令値i_(0)^(*)を得る。そして、零相電流指令値i_(0)^(*)と零相電流検出値i_(0)との偏差を電流制御器552に入力し、零相電圧指令値v_(0)^(*)を得る。この零相電圧指令値v_(0)^(*)を、インバータの出力電圧指令値v_(inv)^(*)と符号反転器553を介した-v_(inv)^(*)とに加算し、その加算結果をコンパレータ554,555にそれぞれ入力する。これらのコンパレータ554,555では各入力を三角波と比較し、その出力を上下アームで反転させることにより、インバータ501のスイッチング素子Tr1?Tr4に対するPWMパターンを得る。
【0021】つまり、インバータ501はスイッチングパターンの変化により単相電圧形インバータと昇圧チョッパとを重ね合わせた動作を行い、前者は正相分電流による制御、後者は零相分電流による制御となる。」


d 「図2



e 「図3



f 「図4



g 「図5



h 上記dから,“単相電圧形インバータ501は,スイッチング素子Tr1とスイッチング素子Tr2からなる上下アームと,スイッチング素子Tr3とスイッチング素子Tr4からなる上下アームの2組の上下アームから構成されている”ことが読み取れる。
また,上記bの段落【0017】には,「単相電圧形インバータ501において零電圧ベクトルを出力するには2組の上アームをすべて導通させる場合と2組の下アームをすべて導通させる場合との2通りのスイッチングパターンがあり」と記載されている。
してみると,引用文献1には,“電圧形インバータは,2組の上下アームからなっており,零電圧ベクトルを出力するには2組の上アームの半導体スイッチング素子をすべて導通させる場合と2組の下アームの半導体スイッチング素子をすべて導通させる場合との2通りのスイッチングパターンがある”ことが記載されているといえる。

(イ)上記aないしhの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「直流電源と,半導体スイッチング素子の動作により直流電源の電力を単相交流電力に変換する電圧形インバータと,この電圧形インバータの直流入力端子に接続された平滑コンデンサと,前記電圧形インバータの交流出力端子に一次側が接続された絶縁トランスと,を備えた電圧形電力変換回路において,
直流電源の一端を絶縁トランスの一次側の中間タップに接続すると共に,直流電源の他端を平滑コンデンサの一端に接続し,
電圧形インバータによる零電圧ベクトルの出力時に,この電圧形インバータ及び絶縁トランスの漏れインダクタンスを介して直流電源と平滑コンデンサとの間で零相電力を授受することにより,電圧形インバータの直流電圧を制御するものであって,
電圧形インバータは,2組の上下アームからなっており,零電圧ベクトルを出力するには2組の上アームの半導体スイッチング素子をすべて導通させる場合と2組の下アームの半導体スイッチング素子をすべて導通させる場合との2通りのスイッチングパターンがあり,出力される零相電圧は出力電圧には現れないものであって,零相分では,上下アームはあたかも零電圧ベクトルの比でスイッチング動作を行い,直流電源と平滑コンデンサとの間で零相電力を授受し,昇圧チョッパと同様の動作を行い,一方,正相分では,電圧形インバータは,絶縁トランスの一次側に交流電圧を印加するものであって,
電圧形インバータは,零相電圧指令値とインバータの出力電圧指令値から,電圧形インバータの半導体スイッチング素子に対するPWMパターンを得て,スイッチングパターンの変化により単相電圧形インバータと昇圧チョッパとを重ね合わせた動作を行い,前者は正相分電流による制御,後者は零相分電流による制御となる,
電圧形電力変換回路。」

イ 引用文献2
(ア) 原査定の理由である平成31年4月22日付けの最後の拒絶理由通知において引用された本願の出願前に既に公知である,米国特許出願公開第2012/0113700号明細書(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審において付加した。以下,同じ。)

a 「[0017] As described in greater detail below,the DC interface 102 is coupled to the first energy conversion module 104 and the AC interface 114 is coupled to the second energy conversion module 108 via the inductive element 110.The isolation module 106 is coupled between the energy conversion modules 104,108 and provides galvanic isolation between the two energy conversion modules 104,108.The control module 116 is coupled to the energy conversion modules 104, 108 and operates the second energy conversion module 108 to convert energy from the AC energy source 120 to high-frequency energy across the isolation module 106 which is then converted to DC energy at the DC interface 102 by the energy conversion module 104.It should be understood that although the subject matter may be described herein in the context of a grid-to-vehicle application (e.g.,the AC energy source 120 delivering energy to the DC energy source 118) for purposes of explanation,in other embodiments,the subject matter described herein may be implemented and/or utilized in vehicle-to-grid applications (e.g.,the DC energy source 118 delivering energy to the AC interface 114 and/or AC energy source 120).For convenience, but without limitation,the AC interface 114 may alternatively be referred to herein as the input interface and the DC interface 102 may alternatively be referred to herein as the output interface.」
(当審訳:[0017]以下に詳述するように,DCインタフェース102は,第1のエネルギー変換モジュール104に接続され,ACインタフェース114は,誘導性素子110を介して第2のエネルギー変換モジュール108に結合されている。分離モジュール106は,エネルギー変換モジュール104,108との間に接続され,エネルギー変換モジュール104,108の間にガルバニック絶縁を提供する。制御モジュール116は,エネルギー変換モジュール104,108に結合され,第1のエネルギー変換モジュール104によってDCインタフェース102においては直流エネルギーに変換される,分離モジュール106を通過する高周波エネルギーに,ACエネルギー源120を変換するように第2のエネルギー変換モジュール108を制御する。本主題は,説明の目的のために,グリッドから車両用途のコンテキスト(例えば,DCエネルギー源118にエネルギーを伝達するACエネルギー源120)で説明することができるが,他の実施形態では,本明細書で説明される主題は,ビークル用途からグリッド(例えば,ACインタフェース114および/またはACエネルギー源120にエネルギーを伝達するDCエネルギー源118)で実施及び/又は利用することができることを理解すべきである。便宜上,限定ではないが,ACインタフェース114は,また,ここで,入力インタフェースと呼ばれることがあり,DCインタフェース102は,また,ここで出力インタフェースと呼ぶことができる。)

b 「[0022] In the illustrated embodiment of FIG.1,a first pair of switches 1,2 and diodes 21, 22 are coupled between node 132 and node 134,with the first pair of switch and antiparallel diode (e.g.,switch 1 and diode 21) being configured with opposite polarity to the second pair of switch and antiparallel diode (e.g.,switch 2 and diode 22).In this manner,switch 1 and diode 22 are configured to provide a path for current flow from node 134 through switch 1 and diode 22 to node 132 when switch 1 is closed,turned on,or otherwise activated and the voltage at node 134 is more positive than the voltage at node 132.Switch 2 and diode 21 are configured to provide a path for current flow from node 132 through switch 2 and diode 21 to node 134 when switch 2 is closed,turned on,or otherwise activated and the voltage at node 132 is more positive than the voltage at node 134.In a similar manner,a second pair of switches 3,4 and diodes 23,24 are coupled between node 136 and node 138,a third pair of switches 5,6 and diodes 25,26 are coupled between node 132 and node 136,and a fourth pair of switches 7,8 and diodes 27,28 are coupled between node 134 and node 138.」
(当審訳:[0022] 図1に示す実施形態では,第1の対のスイッチ1,2とダイオード21,22は,ノード132とノード134の間に結合され,第1の組のスイッチ及び逆並列ダイオード(例えば,スイッチ1及びダイオード21)と,第2の組のスイッチおよび逆並列ダイオード(例えば,スイッチ2及びダイオード22)は,反対の極性をもつように構成される。このようにして,スイッチ1とダイオード22は,スイッチ1が閉じられ,ターンオンされ,または他の方法で活性化されノード134における電圧がノード132における電圧よりも正であるときに,スイッチ1とダイオード22を介してノード132とノード134の間の電流の経路を提供するように構成される。スイッチ2とダイオード21は,スイッチ2が閉じられ,ターンオンされ,または他の方法で活性化されノード132における電圧がノード134における電圧よりも正であるときに,スイッチ2およびダイオード21を介してノード132からの電流が流れるための経路を提供するように構成される。同様に,第2の対のスイッチ3,4及びダイオード23,24は,ノード136とノード138の間に結合される,第3の対のスイッチ5,6及びダイオード25,26は,ノード132及びノード136間に結合され,第4の対のスイッチ7,8,ダイオード27,28ノードは,134とノード138との間に接続される。)

c 「FIG.1


d 上記cから,“ACエネルギー源120を第2のエネルギー変換モジュール108によって,分離モジュール106(トランス)を通過する高周波エネルギーに変換し,分離モジュール106を通過した高周波エネルギーを第1エネルギー変換モジュール104によって直流エネルギーに変換する”ことが読み取れ,また,上記aに「本主題は,説明の目的のために,グリッドから車両用途のコンテキスト(例えば,DCエネルギー源118にエネルギーを伝達するACエネルギー源120)で説明することができるが,他の実施形態では,本明細書で説明される主題は,ビークル用途からグリッド(例えば,ACインタフェース114および/またはACエネルギー源120にエネルギーを伝達するDCエネルギー源118)で実施及び/又は利用することができることを理解すべきである」と記載されていることから,引用文献2には,“直流電源を第1のエネルギ変換モジュールによって変換した交流電力を1次側に接続したトランスの2次側に,交流電源に接続される第2のエネルギー変換モジュールを接続し,トランスの2次側の出力である該高周波の交流電力を交流電源の周波数に変換して交流電源に供給する”ことが記載されているといえる。

e 上記b,cの記載によれば,“第2のエネルギー変換モジュールは双方向素子から構成されている”といえる。

(イ)上記aないしeの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献2には,次の技術事項が記載されている。

「直流電源を第1のエネルギ変換モジュールによって変換した交流電力を1次側に接続したトランスの2次側に,交流電源に接続される双方向素子からなる第2のエネルギー変換モジュールを接続し,トランスの2次側の出力である該高周波の交流電力を交流電源の周波数に変換して交流電源に供給すること。」


(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア) 引用発明の「電圧形インバータ」は,「直流電源と,半導体スイッチング素子の動作により直流電源の電力を単相交流電力に変換する」ものであるから,本件補正発明の「直流電源からの直流電力を交流電力に」「変換する第1電力変換部」に相当する。

(イ) 引用発明の「絶縁トランス」は,「電圧形インバータの交流出力端子に一次側が接続され」るものであるから,本件補正発明の「第1電力変換部に接続されたトランス」に相当する。

(ウ) 引用発明は「電圧形インバータによる零電圧ベクトルの出力時に,・・・,電圧形インバータの直流電圧を制御」し,さらに,「電圧形インバータは,2組の上下アームからなっており,・・・,零相分では,上下アームはあたかも零電圧ベクトルの比でスイッチング動作する1つのアームとみなすことができ,直流電源と平滑コンデンサとの間で電圧形インバータを介して零相電力を授受することにより昇圧チョッパと同様の動作を行い,一方,正相分では,インバータは絶縁トランスの一次側に交流電圧を印加する」制御,また,「電圧形インバータは,零相電圧指令値とインバータの出力電圧指令値から,電圧形インバータの半導体スイッチング素子に対するPWMパターンを得て,スイッチングパターンの変化により単相電圧形インバータと昇圧チョッパとを重ね合わせた動作を行い,前者は正相分電流による制御,後者は零相分電流による制御」を行うものであるから,引用発明が,電圧形インバータの動作を制御し直流電源の電力を交流電力に変換する制御部を備えていることは明らかである。
してみると,引用発明のこの「制御部」と,本件補正発明の「前記第1電力変換部及び前記第2電力変換部の動作を制御することにより、前記直流電源側から前記交流電源側に対する電力変換、又は、前記交流電源側から前記直流電源側への電力変換を行う制御部」とは,後記の点で相違するものの,“前記第1電力変換部の動作を制御することにより,電力変換を行う制御部”である点で共通する。

(エ) 引用発明の「直流電源の一端を絶縁トランスの一次側の中間タップに接続する」ことは,本件補正発明の「トランスの中間タップが」「直流電源に接続され」ることに相当する。

(オ) また,引用発明の「絶縁トランス」が「前記電圧形インバータの交流出力端子に一次側が接続され」ることは,本件補正発明の「トランスの一方側に」「第1電力変換部が接続され」ることに相当する。

(カ) 上記(ウ)で検討したように引用発明の「制御部」が「電圧形インバータによる零電圧ベクトルの出力時に,この電圧形インバータ及び絶縁トランスの漏れインダクタンスを介して直流電源と平滑コンデンサとの間で零相電力を授受することにより,電圧形インバータの直流電圧を制御」するものであって,また,「零電圧ベクトルの出力時」には「零相電圧は出力電圧には現れないものであ」る。さらに,「零電圧ベクトルの出力時」である「零相分で」では「昇圧チョッパと同様の動作を行」うものであり,直流電源からの電圧は昇圧されているものと認められる。
してみると,引用発明の「零電圧ベクトルの出力時」は,本件補正発明の「前記トランスに印加される電圧がゼロとなるゼロ電圧期間」に相当し,さらに,引用発明の「制御部」が「電圧形インバータによる零電圧ベクトルの出力時に,この電圧形インバータ及び絶縁トランスの漏れインダクタンスを介して直流電源と平滑コンデンサとの間で零相電力を授受することにより,電圧形インバータの直流電圧を制御」することは,本件補正発明の「制御部は,」「トランスに印加される電圧がゼロとなるゼロ電圧期間を利用し,前記トランスの漏れインダクタンスによって」「直流電源からの電圧が昇圧されるように,」「第1電力変換部の動作を制御」することに相当する。

(キ) 通常,昇圧チョッパはスイッチング素子のオンデューティ比(オンである期間の割合)で昇圧されるものであり,引用発明の「零相分では,上下アームはあたかも零電圧ベクトルの比でスイッチング動作する1つのアームとみなすことができ,・・・,従来の昇圧チョッパと同様の動作を行」うことは,零相分では,零電圧ベクトルの比,すなわち,2組の上アームをすべて導通させる期間と2組の下アームをすべて導通させる期間を調整することで昇圧の比が変更されるものと認められる。
また,引用発明の「電圧形インバータ」は交流出力を行うものであるから,交流出力における1周期が「スイッチング素子」の制御の単位期間と認められ,そして,引用発明は「電圧形インバータは,・・・,スイッチングパターンの変化により単相電圧形インバータと昇圧チョッパとを重ね合わせた動作を行」うものであり,前記単位期間において,スイッチングパターンの変化により単相形電圧インバータと昇圧チョッパとの重ね合わせた動作を行うものであって,単位期間は,昇圧チョッパ期間である1出力電圧があらわれない「零相分」と,単相電圧形インバータの交流電圧が出力され絶縁トランスの電圧がプラス又はマイナスになる「正相分」の期間からなるものと認められる。
さらに,前記単位期間の長さは所望とする出力の交流周波数によって決定され一定のものと認められ,前述したように,昇圧の比を変更するめに,2組の上アームをすべて導通させる場合と2組の下アームをすべて導通させる場合との2通りのスイッチングの期間を調整すると,正相分の期間も調整されるものと認められる。
してみると,引用発明においても,本件補正発明の「制御部は,更に,」「トランスの」「ゼロ電圧期間と,前記トランスの電圧がプラス又はマイナスになる期間とを調整することにより,」「昇圧の比を変更」する構成に相当する構成を有しているものと認められる。

(ク) 引用発明の「電圧形電力変換回路」は,「絶縁トランス」を介して直流電源を「絶縁トランス」の1次側に交流電圧を変換するものであるから,本件補正発明の「絶縁型電力変換装置」に相当する。

イ したがって,本件補正発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。

<一致点>
「直流電源からの直流電力を交流電力に変換する第1電力変換部と,
前記第1電力変換部に接続されたトランスと,
前記第1電力変換部の動作を制御することにより,電力変換を行う制御部と,
を含み,
前記トランスの中間タップが前記直流電源に接続されており,
前記トランスの一方側に前記第1電力変換部が接続されており,
前記制御部は,前記トランスに印加される電圧がゼロとなるゼロ電圧期間を利用し,前記トランスの漏れインダクタンスによって前記直流電源からの電圧が昇圧されるように,前記第1電力変換部の動作を制御し,
前記制御部は,更に,前記トランスの前記ゼロ電圧期間と,前記トランスの電圧がプラス又はマイナスになる期間とを調整することにより,前記昇圧の比を変更する,
絶縁型電力変換装置。」

<相違点1>
本件補正発明では,「交流電源に接続され、交流電力の周波数を変換する第2電力変換部」を有し,「制御部」は「前記第1電力変換部及び前記第2電力変換部の動作を制御することにより」、前記直流電源側から「前記交流電源側に対する電力変換を行う」ものであって,また,「前記トランスの他方側に前記第2電力変換部が接続されており、これにより、前記トランスを介して前記第1電力変換部と前記第2電力変換部とが接続されており」,さらに,「前記第2電力変換部は、双方向特性をもった複数のスイッチング素子によって構成されている」ものであるのに対して,引用発明では,「絶縁トランス」の二次側にどのようなものが接続されるか特定がされていない点。

<相違点2>
本件補正発明では,「前記直流電源に接続されたコンデンサの電圧をVcと定義し,前記直流電源の電圧をVbと定義し,前記トランスの電圧をVtと定義し,1制御周期における,前記トランスのゼロ電圧期間のデューティ比をDと定義した場合,Vt=N×Vc(Nは整数)となり,Vc=1/(1-D)×Vbとな」るものであるのに対して,引用発明では,その点が明記されていない点。

(4)相違点についての検討
上記相違点1及び相違点2について検討する。

(相違点1について)
引用文献2には,直流電源を第1のエネルギ変換モジュールによって変換した交流電力を1次側に接続したトランスの2次側に,交流電源に接続される双方向素子からなる第2のエネルギー変換モジュールを接続し,トランスの2次側の出力である該高周波の交流電力を交流電源の周波数に変換して交流電源に供給することが記載されている。
そして,引用発明における,絶縁トランスの出力である二次側にどのような装置を接続するかは,引用発明の電圧型電力変換回路の使用用途等に応じて適宜選択なし得た事項と認められる。
また,引用発明と引用文献2に記載の技術とは,いずれも,直流電源をインバータによって交流に変換し,トランスの一次側に接続し,二次側から出力を行う技術である点で共通している。
してみれば,引用発明における,絶縁トランスの二次側として,引用文献2の技術事項を適用して,本件補正発明の相違点1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
上記(3)(キ)で検討したように,引用発明では,交流出力における1周期が制御の単位期間であって,この単位期間には,絶縁トランスの一次側に出力電圧があらわれない「零相分」と,交流電圧が出力される「正相分」の期間があるものと認められ,引用発明のこの「単位期間」が,本件補正発明における「1制御周期」に相当するものと認められる。
また,引用発明は,上記(3)(キ)で検討したように,この単位期間の「零相分」で昇圧チョッパの動作を行うものである。そして,一般に,昇圧チョッパは,スイッチング素子のオンデューティ比をα,直流電源の電圧E1,昇圧される電圧E2とすると,E2=1/(1-α)×E1となるものである。ここで,引用発明における昇圧チョッパ動作について検討すると,2組の下アームをすべて導通させた際に,直流電源と絶縁トランスの間で閉回路が生じるものであり,2組の下アームをすべて導通させることが,昇圧チョッパのスイッチング素子がオンとすることに対応するものと認められる。そうすると,引用発明において,2組の上アームをすべて導通させる期間と2組の下アームをすべて導通させる期間の和に対する2組の下アームをすべて導通させる期間の比(デューティ比)をβ,直流電源を電圧V1,平滑コンデンサの電圧V2とすると,V2=1/(1-β)×V1となるものと認められる。
さらに,「単位期間」の「正相分」の期間では,電圧形インバータは交流電圧を出力し,この交流電圧は絶縁トランスによって昇圧されるものである。ここで,この交流電圧は平滑コンデンサの電圧であって,また,絶縁トランスは巻き線の比で昇圧を行うものであるから,平滑コンデンサの電圧をV2,絶縁トランスの巻き線の比が整数m,トランスの出力電圧をV3とすると,V3=m×V2の関係となる。
してみると,引用発明においても,単位期間において,V2=1/(1-β)×V1,および,V3=m×V2となっており,この点においては,本件補正発明と引用発明は実質的に相違しない。

そして,本件補正発明の作用効果も,引用発明,および引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本件補正発明は,引用発明,および引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)結語
以上検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
令和2年2月6日付けの手続補正(本件補正)は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成30年11月2日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は上記第2の1.に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,
この出願の請求項1ないし2に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献AないしEに基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,
というものである。

A.特開平11- 55950号公報(引用文献1)
B.特開平 4-121067号公報
C.米国特許出願公開第2012/0113700号明細書(引用文献2)
D.特開2014-183687号公報
E.特開2011-254673号公報


3.引用文献,引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献A,および引用文献Cのその記載事項並びに引用発明は,上記第2の2.(2)ア 引用文献1,およびイ 引用発明2で説示したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は,上記第2の2.で検討した本件補正発明の発明特定事項である「第2電力変換部」についての限定,および,「前記直流電源の電圧をVbと定義し、前記トランスの電圧をVtと定義し、1制御周期における、前記トランスのゼロ電圧期間のデューティ比をDと定義した場合、Vt=N×Vc(Nは整数)となり、Vc=1/(1-D)×Vbとなり」という構成を省いたものである。
そうすると,本願発明と引用発明は,上記相違点1で相違し,上記相違点1は,上記第2の2.(4)で相違点について説示したのと同様の理由で当業者が容易になし得たことである。
したがって,本願発明は,引用発明および引用文献Cに記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。


第4.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は引用文献Aに記載された発明,および引用文献Cに記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-10-28 
結審通知日 2020-11-04 
審決日 2020-11-18 
出願番号 特願2015-110445(P2015-110445)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
山澤 宏
発明の名称 絶縁型電力変換装置  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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