ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K |
---|---|
管理番号 | 1369868 |
審判番号 | 不服2020-8358 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-16 |
確定日 | 2021-01-26 |
事件の表示 | 特願2017- 61070「無線タグ読取装置及び無線タグ読取方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月18日出願公開,特開2018-163565,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成29年3月27の出願であって,令和1年8月21日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年10月17日に意見書と補正書が提出され,令和2年3月19日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年3月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1-4に係る発明は,以下の引用文献1-2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2011-113496号公報 2.特開2016-170046号公報 第3 本願発明 本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,令和2年6月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。 「【請求項1】 無線タグの取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別の無線タグに記憶されたタグIDを含むタグ応答を無線受信する第一通信部と、 無線受信された前記タグ応答の受信強度を測定して前記受信強度の測定値を得る測定部と、 前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて前記測定値を補正することにより前記受信強度の実効値を算出し、前記実効値と前記受信強度の所定の閾値との比較結果に基づいて、無線受信された前記タグ応答に含まれる前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外する除外部と、 前記除外部によって除外された後の残りの前記タグIDを上位機器へ送信する第二通信部と、 を具備する無線タグ読取装置。 【請求項2】 無線タグの取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別の無線タグに記憶されたタグIDを含むタグ応答を無線受信する第一通信部と、 無線受信された前記タグ応答の受信強度を測定して前記受信強度の測定値を得る測定部と、 前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて所定の閾値を補正することにより前記閾値の実効値を算出し、前記測定値と前記実効値との比較結果に基づいて、無線受信された前記タグ応答に含まれる前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外する除外部と、 前記除外部によって除外された後の残りの前記タグIDを上位機器へ送信する第二通信部と、 を具備する無線タグ読取装置。 【請求項3】 無線タグの取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別の無線タグに記憶されたタグIDを無線受信し、 無線受信した前記タグIDの受信強度を測定して前記受信強度の測定値を得て、 前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて前記測定値を補正することにより前記受信強度の実効値を算出し、前記実効値と前記受信強度の所定の閾値との比較結果に基づいて、無線受信された前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外し、 除外した後の残りの前記タグIDを上位機器へ送信する、 無線タグ読取方法。 【請求項4】 無線タグの取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別の無線タグに記憶されたタグIDを無線受信し、 無線受信した前記タグIDの受信強度を測定して前記受信強度の測定値を得て、 前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて所定の閾値を補正することにより前記閾値の実効値を算出し、前記測定値と前記実効値との比較結果に基づいて、無線受信された前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外し、 除外した後の残りの前記タグIDを上位機器へ送信する、 無線タグ読取方法。」 第4 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について ア 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2011-113496号公報(以下,これを「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。) a 「【0012】 実施の形態1. アンテナ数が1でタグ集団が停止の場合の実施の形態を図1?図5、図13を用いて説明する。 【0013】 図1は、本実施の形態に係るRFIDシステム全体を示す構成図である。 図1において、ホストコンピュータ1は、RFIDリーダ装置2(以下、リーダ装置2ともいう)にタグの読み出し命令を出す。 ネットワーク3は、ホストコンピュータ1とリーダ装置2を接続する。 アンテナ4は、アンテナケーブル5でリーダ装置2と接続される。 アンテナ4とタグ集団6は電波で通信(リーダ装置はコマンドを一括で送り、それぞれのタグがレスポンスを返す)する。 リーダ装置2は、ネットワークインタフェース部21、通信制御部22、無線通信部23、センサ28から構成される。 【0014】 タグ集団6は台車7の上のに荷物に貼付されたRFIDタグ等の無線タグ(以下、単にタグという)の集団である。 タグは、601a、601b、601c、602a、602b、....、610a、610b、610cと10行×3列=30個存在する。 タグ集団6は、台車7に乗せられ、アンテナ4の前で停止するものとする。 台車7がセンサ28により規定位置に来たことが検出されると、タグ読み込みの処理が開始される。 以上のような環境において、アンテナ4から少し離れたところに対象外タグ8が放置してある。 対象外タグ8は、リーダ装置2によるタグデータの読み込みの対象外のタグである。対象外タグ8のタグデータが誤って読み込まれると、誤読タグとなる。誤読タグは、前述のように、誤動作の原因になる。 【0015】 図2は、通信制御部22と無線通信部23をさらに詳しく説明した図である。 【0016】 図において、通信制御部22は、命令解析部221、コマンド生成部222、ラウンド制御部223、メモリ224、応答生成部225、判定基準値記憶部226から構成される。 無線通信部23は、送信信号変換部231、サーキュレータ232、受信フィルタ233、HandleNumber検出部234、コリージョン検出部235、ID検出部236、RSSI計測部237から構成される。 RSSIとは、受信信号強度(Receive Signal Strength Indicator)のことである。 また、これらのブロック間をコマンド信号、HandleNumber信号、コリージョン検出信号、ID信号、RSSI信号が連結している。 」 b 「【0025】 次に、図13を参照して、図1において、ホストコンピュータ1がタグIDを受け取るまでの動作を説明する。 【0026】 先ず、ホストコンピュータ1が、ネットワーク3を経由して、ID読み取りの命令をRFIDリーダ装置2に送信する。 RFIDリーダ装置2は、前記のID読み取り命令がネットワークインタフェース部21でネットワークにより伝達された信号を解釈して、ID読み取り命令が通信制御部22に伝わる。 そして、図2の命令解析部221にて、ホストコンピュータからのID読み取り命令を解析し、コマンド生成部222にて、IDを読むための通信コマンド列を作成し、センサ28がタグ集団6の存在を検出したら、無線通信部23に伝える。コマンド列は、セレクト処理の1個のコマンド(Selectコマンド)とラウンド処理のコマンド列(Query、QueryRepeat、Ackなど)から構成される。 コマンド列を受けた無線通信部23は、図2の送信信号変換部231にて通信コマンドを無線に乗せる信号に変換する。この信号は、サーキュレータ232を経由して、リーダ装置2から出力され、アンテナケーブル5を経由してアンテナ4に送られる。 以上が、図13の初期処理(S1301)にあたる。 【0027】 アンテナ4から送られた通信コマンドがタグ集団6に届くと、タグ集団6はレスポンスを返し、レスポンス(IDを含む無線信号)はアンテナ4で受信され、ケーブル5を経由して無線通信部23に戻ってくる(S1302)。 図2の無線通信部23の内部では、タグからのレスポンスは、サーキュレータ232を経由して受信フィルタ233に入力される。 サーキュレータ232は、信号の伝搬方向を規定する装置であり、送信信号変換部231からの信号は、アンテナケーブル5に出力され、受信フィルタ233には行かない。アンテナケーブル5からの入力信号は、受信フィルタ233に行き、送信信号変換部231には行かないような機能になっている。 受信フィルタ233では、タグからのレスポンス信号に無関係な信号成分を著しく減衰させ、受信フィルタ233の出力は、タグからのレスポンス信号が顕著に観測できる。 この信号より、HandleNumber検出部234ではHandleNumberを検出し、コリージョン検出部235ではタグ応答波のコリージョン(衝突)を検出し、ID検出部236ではタグのIDを検出し(S1304)(ID検出ステップ)、RSSI計測部237ではIDが検出されたときの信号成分の電力の大きさ(RSSI)を計測する(S1303)(受信信号強度計測ステップ)。 これらのタグに関する情報(HandleNumber、コリージョン検出、ID、RSSI)は、通信制御部22に送られる。 【0028】 ラウンド処理の最中、通信制御部22は、無線通信部23から読みだされたタグの情報(HandleNumber、コリージョン検出、ID、RSSI)により、タグIDの全数読み取り処理(代表的には、InventoryTags処理)をすすめる。 タグIDの全数読み取り処理をすすめる中心は、ラウンド制御部223である。 またIDとRSSIはメモリ224に蓄積され、IDとRSSIが対応付けられて記憶される(S1305)(ID強度対応付けステップ)。 なお、メモリ224のIDとRSSIはラウンド制御部223が必要なときに読みだされる。 タグIDの全数読み取り処理を進めながら、応答生成部225がホストコンピュータに返すべきIDのリストを生成する。 【0029】 タグ集団6のすべてのタグを読みきったときに、そのすべてのIDが通信制御部22に格納されているが、ここで、ラウンド制御部223が各タグのRSSIのレベルを解析して誤読タグのIDである誤読IDを判別する(S1306)(誤読ID判別ステップ)。 そして、誤読IDを検出し、取り除いたものが正規のIDである。 これら正規のID番号は、ネットワークインタフェース部21で、ネットワークを伝搬する信号に変換され、ネットワーク3を経由してホストコンピュータ1に伝わる。」 c 「【0035】 また、図5に示すように、(2)タグ集団6のタグ個数が予め分かっていない場合は、タグ集団6の最低RSSI値を予め決めておく。その値をRSSIthとする。このRSSIthは、判定基準値記憶部226に格納されている。また、“正規のタグのRSSI”≧RSSIth>“誤読タグのRSSI”の関係が成り立つようにRSSIthを選ばなければならない。 この条件下で、ラウンド制御部223は、(ID,RSSI)の組のうち、RSSI値がRSSIthより小さいものを「誤読ID」と見做す。誤読IDを読みとられたT個のIDから取り除いたID集合が、InventoryTagsで求められたIDの集合である。」 d 「図1 」 e 「図2 」 f 「図13 」 g 上記bの段落【0029】には,「タグ集団6のすべてのタグを読みきったときに、そのすべてのIDが通信制御部22に格納されているが、ここで、ラウンド制御部223が各タグのRSSIのレベルを解析して誤読タグのIDである誤読IDを判別する(S1306)(誤読ID判別ステップ)。」と記載され,また,上記cにはラウンド制御部223の誤読IDを判別に関して,「タグ集団6の最低RSSI値を予め決めておく。その値をRSSIthとする。このRSSIthは、判定基準値記憶部226に格納されている。また、“正規のタグのRSSI”≧RSSIth>“誤読タグのRSSI”の関係が成り立つようにRSSIthを選ばなければならない。この条件下で、ラウンド制御部223は、(ID,RSSI)の組のうち、RSSI値がRSSIthより小さいものを「誤読ID」と見做す。」と記載されている。 してみると,引用文献1には,“ラウンド制御部223が各タグのRSSIのレベルを解析して,RSSI値がRSSIthより小さいものを誤読IDと見做し,誤読タグのIDである誤読IDを判別する”ことが記載されているといえる。 イ 上記aないしgの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 「ネットワーク3を介してホストコンピュータ1に接続され, ネットワークインタフェース部21,通信制御部22,無線通信部23,センサ28から構成され,タグ集団6と電波で通信するリーダ装置2であって, タグ集団6は,荷物に添付されたRFIDのタグの集団であって, 通信制御部22は,命令解析部221,コマンド生成部222,ラウンド制御部223,メモリ224,応答生成部225,判定基準値記憶部226から構成され, 無線通信部23は,送信信号変換部231,サーキュレータ232,受信フィルタ233,HandleNumber検出部234,コリージョン検出部235,ID検出部236,RSSI計測部237から構成されるものであって, ホストコンピュータ1が,ネットワーク3を経由して,タグのID読み取りの命令をRFIDリーダ装置2に送信すると,RFIDリーダ装置2はコマンド生成部222にて,IDを読むための通信コマンド列を作成し,コマンド列を受けた無線通信部23が通信コマンドをタグ集団6に送信し,タグ集団6からレスポンス(IDを含む無線信号)が返されると,ID検出部236ではレスポンスからタグのIDを検出し,RSSI計測部237ではIDが検出されたときの信号成分の電力の大きさ(RSSI)を計測し,通信制御部22ではタグIDの全数の読み取り処理を進めることで,応答生成部225がホストコンピュータに返すべきIDのリストを生成し,タグ集団6のすべてのタグを読みきったときに,そのすべてのIDが通信制御部22には格納されるが,ラウンド制御部223が各タグのRSSI値のレベルを解析して,RSSI値がRSSIthより小さいものを誤読IDと見做し,誤読タグのIDである誤読IDを判別し,誤読IDを取り除いた正規のID番号を,ネットワークインタフェース部21で,ネットワークを伝搬する信号に変換し,ネットワーク3を経由してホストコンピュータ1に伝える, リーダ装置2。」 2 引用文献2について ア 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開2016-170046号公報(以下,これを「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 a 「【0025】 <第1の実施の形態> 以下、実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、無線タグの種別を考慮した物品探索について説明する。図1は物品などに付される無線タグ10(例えば、RFIDタグ)の機能ブロック構成の一例を示す図である。図1に示す無線タグ10と本発明のタグリーダとの間で無線通信を行うことによって、RFIDタグが付された物品などの探索対象と、本発明のタグリーダとの間の距離を測定することができる。 ・・・中略・・・ 【0033】 ここでのタグ種別テーブル32は、タグの種別ごとに、複数の電波強度と距離の対応関係を示している。しかし、後述する距離の算出の際、検出時の電波強度に対応する電波強度データがタグ種別テーブル32に存在しない場合もある。そのときは、図3Dに示すような電波強度と距離の関係を示した対応グラフのデータがタグの種別ごとにあらかじめ用意されているため、この対応グラフを用いて検出時の電波強度に対応する距離を算出する。図3Dに示す対応グラフは、タグの種別がA社製文書タグのタイプAの無線タグに対するグラフである。なお、A社製文書タグのタイプAの対応グラフは線形のグラフであるが、非線形のグラフとなる無線タグがあってもよい。 【0034】 制御部23は、無線部21により出力された電波を受信した探索対象の物品に付された無線タグ10からの応答信号を、アンテナ27を介してRFID無線部22が受信(検出)すると、検出された無線タグ10のタグ情報に対応するタグ種別IDを物品情報テーブル31から取得する。制御部23は、取得されたタグ種別IDに対応するタグの種別がタグ種別テーブル32に存在するか否かを判断する。制御部23は、判断した結果、存在する場合、検出された際の電波強度(限界電波強度)に対応する距離を、タグ種別テーブル32を参照して算出し、算出された距離を表示部25に表示する。これにより、無線タグ10の種別に応じた正確な距離の測定ができる。一方、制御部23は、上記判断した結果、存在しない場合、検出された際の電波強度に対応する距離を、基本テーブル30を参照して算出し、算出された距離を表示部25に表示する。なお、ここでのタグ種別テーブル32には、図3Bの物品情報テーブル31に示されるタグ種別IDのすべてが示されているため、上記の存在しない場合に該当することはない。」 b 「【0060】 エリア情報テーブル34は、図3Fに示すように、物品探索の対象エリアの情報と、対象エリアに対応する補正係数とを関連付けて構成されたテーブルである。エリア情報テーブル34は、エリア対応情報とも言う。対象エリアとは、物品を探索する際に対象となるエリアであって、この例では、棚1(倉庫エリア)、棚2(倉庫エリア)、キャビネット1(倉庫エリア)、キャビネット2(倉庫エリア)、棚1(事務所エリア)、棚2(事務所エリア)などとなっている。補正係数は、物品探索の対象エリアに示される物によって決定される係数であり、例えば、対象エリアに示される棚1(倉庫エリア)の材質が金属製の場合、金属特有の数値とし、木製や樹脂製の場合とは異なる数値とする。物品探索の対象となる場所や物品が置かれている物の材質によっては、タグリーダ20から出力される電波が反射などを起こし、無線タグ10からの応答信号を読み取る上で異なる反応があるため、このような反応を考慮して補正係数を設けている。 【0061】 入力部26は、タグリーダ20のオペレータによって入力される情報を受け付けるものであって、探索物品の情報以外に、対象エリアの情報を受け付けるものである。上述した探索画面60の対象エリア62への入力にあたるものである。 【0062】 制御部23は、エリア情報テーブル34を参照して、入力部26を介してオペレータによって入力された対象エリアに該当する補正係数を決定する。また、制御部23は、無線部21により出力された電波を受信した探索対象の物品に付された無線タグ10からの応答信号を、アンテナ27を介してRFID無線部22が受信(検出)すると、受信された(検出された)際の電波強度に対して、決定された補正係数を掛けて電波強度を補正する。制御部23は、基本テーブル30を参照して、補正された電波強度に対応する距離を算出し、算出された距離を表示部25に表示する。上記では、制御部23は、受信された電波強度に対して補正係数を掛けて電波強度を補正してから距離を算出している。しかし、制御部23は、応答信号を受信した際、基本テーブル30を参照して、検出された際の電波強度に対応する距離を算出し、算出された距離に対して決定された補正係数を掛けて距離を求めるようにしてもよい。」 イ 上記aないしbの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献2には次の技術(以下,「引用文献2に記載の技術事項」という。)が記載されている。 「無線タグの種別に応じて,受信される電波強度と距離の関係が異なり,種別に応じた受信強度と距離の関係から距離を求めること,及び,無線タグの受信された電波強度の測定値を,無線タグが添付されている物品の探索の対象となる場所や物品が置かれている物の材質によって補正すること。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「タグ」と,本願発明1の「無線タグの取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別の無線タグ」とは,後記の点で相違するものの,“無線タグ”の点で共通する。 また,引用発明の「タグのID」,「レスポンス(IDを含む無線信号)」は,本願発明1の「タグID」,「タグ応答」に相当する。 そして,引用発明の「無線通信部23」は,「タグ集団6からレスポンス(IDを含む無線信号)が返されると,ID検出部236ではレスポンスからタグのIDを検出」するものであるから,本願発明1の「無線タグに記憶されたタグIDを含むタグ応答を無線受信する第一通信部」に相当する。 イ 引用発明の「RSSI計測部237」は,「タグ集団6からレスポンス(IDを含む無線信号)が返されると」,「IDが検出されたときの信号成分の電力の大きさ(RSSI)を計測」するものであって,また,「ラウンド制御部223が各タグのRSSI値のレベルを解析」するものであるから,「RSSI計測部237」は,計測した測定値である「RSSI値」を得ているものと認められる。 してみると,引用発明の「RSSI値」は,本願発明1の「測定値」に相当し,引用発明の「RSSI計測部237」は,本願発明1の「無線受信された前記タグ応答の受信強度を測定して前記受信強度の測定値を得る測定部」に相当する。 ウ 引用発明では「ラウンド制御部223」が,「各タグのRSSI値のレベルを解析して,RSSI値がRSSIthより小さいものを誤読IDと見做し,誤読タグのIDである誤読IDを判別し」,また,「誤読IDを取り除いた正規のID番号」を,「ネットワーク3を経由してホストコンピュータ1に伝え」られるものである。 してみると,引用発明の「RSSIth」は,本願発明1の「受信強度の所定の閾値」に相当する。 また,引用発明の「RSSI値」,及び本願発明1の「測定値を補正」したものである「実効値」は,いずれも“測定値に関する値”といえる。 してみると,引用発明の「ラウンド制御部223」と,本願発明1の「前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて前記測定値を補正することにより前記受信強度の実効値を算出し、前記実効値と前記受信強度の所定の閾値との比較結果に基づいて、無線受信された前記タグ応答に含まれる前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外する除外部」とは,後記の点で相違するものの,“測定値に関する値と前記受信強度の所定の閾値との比較結果に基づいて,無線受信された前記タグ応答に含まれる前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外する除外部”の点で共通する。 エ 引用発明の「ネットワークインタフェース部21」は,「誤読IDを取り除いた正規のID番号を」「ネットワークを伝搬する信号に変換し,ネットワーク3を経由してホストコンピュータ1に伝える」ものであるから,本願発明1の「除外部によって除外された後の残りの前記タグIDを上位機器へ送信する第二通信部」に相当する。 オ 引用発明の「リーダ装置2」は,「無線通信部23」,「RSSI計測部237」,「ラウンド制御部223」,「ネットワークインタフェース部21」を具備するものであって,「タグ」の読み取りを行うものであるから,本願発明1の「無線タグ読取装置」に相当する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。 〈一致点〉 「無線タグに記憶されたタグIDを含むタグ応答を無線受信する第一通信部と, 無線受信された前記タグ応答の受信強度を測定して前記受信強度の測定値を得る測定部と, 前記測定値に関する値と前記受信強度の所定の閾値との比較結果に基づいて,無線受信された前記タグ応答に含まれる前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外する除外部と, 前記除外部によって除外された後の残りの前記タグIDを上位機器へ送信する第二通信部と, を具備する無線タグ読取装置。」 〈相違点1〉 「無線タグ」が,本願発明1では「無線タグの取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別の無線タグ」であるのに対して,引用発明では,「タグ」に関してその旨の特定がされていない点。 〈相違点2〉 「除外部」が,本願発明1では「前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて前記測定値を補正することにより前記受信強度の実効値を算出」するものであって,「前記実効値と前記受信強度の所定の閾値との比較」を行うものであるのに対して,引用発明では「ラウンド制御部223」は測定したRSSI値に関してそのような実効値の算出は行っておらず,測定したRSSI値とRSSIthの比較を行っている点。 (2)相違点についての判断 相違点1,2について検討する。 引用文献2には,無線タグの種別に応じて,受信される電波強度と距離の関係が異なり,種別に応じた受信強度と距離の関係から距離を求めること,及び,無線タグの受信された電波強度の測定値を,無線タグが添付されている物品の探索の対象となる場所や物品が置かれている物の材質によって補正することが記載されている。ここで,引用文献2における「種別」は,「受信される電波強度と距離の関係が異な」ることを示すものであって,本願発明1における「無線タグが有するICチップの性能」に相当するものと認められ,引用文献2から,タグの性能,物品の探索の対象となる場所や物品が置かれている物の材質によって無線タグの受信強度が異なることが理解できる。 しかしながら,引用文献2には,無線タグとして取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別のものを用い,その種別と,さらに,無線タグの取付対象物の素材とに基づいて測定値を補正することは記載されておらず,また,そのことが本願出願時の当該技術分野における周知技術であったとも認められない。 したがって,本願発明1の相違点1及び相違点2に係る構成が,引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づき,当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。 以上のとおりであるから,本願発明1が,引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づき,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は,本願発明1の「前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて前記測定値を補正することにより前記受信強度の実効値を算出し、前記実効値と前記受信強度の所定の閾値との比較結果に基づいて、無線受信された前記タグ応答に含まれる前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外する除外部」に代えて,「前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて所定の閾値を補正することにより前記閾値の実効値を算出し、前記測定値と前記実効値との比較結果に基づいて、無線受信された前記タグ応答に含まれる前記タグIDの中から送信対象以外のタグIDを除外する除外部」としたものであるから,上記相違点1に加え,以下の相違点3で相違する。 〈相違点3〉 「除外部」が,本願発明2では「前記無線タグが有するICチップの性能と、前記種別と、前記取付対象物の素材とに基づいて所定の閾値を補正することにより前記閾値の実効値を算出」するものであって,「前記測定値と前記実効値との比較」を行うものであるのに対して,引用発明では「ラウンド制御部223」がRSSIthに関してそのような実効値の算出は行っておらず,測定したRSSI値とRSSIthの比較を行っている点。 上記相違点1,3について検討すると,上記「1(2)相違点についての判断」と同様に,引用文献2には,無線タグとして取付対象物に応じて予めチューニングされた複数種別の無線タグのうちの何れかの種別のものを用い,その種別と,さらに,無線タグの取付対象物の素材とに基づいて所定の閾値を補正することは記載されておらず,また,そのことが本願出願時の当該技術分野における周知の技術であったとも認められない。 したがって,本願発明2の相違点1及び相違点3に係る構成が,引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づき,当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。 以上のとおりであるから,本願発明2が,引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づき,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 3 本願発明3,4について 本願発明3及び4は,それぞれ本願発明1及び2に対応する方法の発明であり,本願発明1及び本願発明2とカテゴリ表現が異なるだけの発明であるから,本願発明1及び本願発明2と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について <特許法29条2項について> 審判請求時の補正により,本願発明1ないし4は,上記第3に示したとおりのものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1,2(上記第4の引用文献1,2)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-01-06 |
出願番号 | 特願2017-61070(P2017-61070) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06K)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 梅沢 俊 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
小林 秀和 山澤 宏 |
発明の名称 | 無線タグ読取装置及び無線タグ読取方法 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |