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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特29条の2  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 原文新規事項追加の補正  C09K
管理番号 1369981
異議申立番号 異議2018-700995  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-06 
確定日 2020-11-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6336532号発明「1,1,1,2-テトラフルオロプロペンと1,1,1,2-テトラフルオロエタンの共沸混合物様組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6336532号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6336532号の請求項1、2、4?6に係る特許を維持する。 特許第6336532号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6336532号の請求項1?6に係る特許についての出願は、2009年(平成21年)8月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年(平成20年)8月19日、2009年(平成21年)8月17日、いずれも米国(US))を国際出願日とする特願2011-523919号の一部を分割して、平成27年2月2日に新たな特許出願とした特願2015-18432号の一部をさらに分割して、平成28年8月22日に新たな特許出願とした外国語書面出願であって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、上記請求項1?6を対象として、同年12月6日に特許異議申立人であるダイキン工業株式会社により特許異議の申立てがなされた。
本件特許異議申立事件における以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成31年 3月20日付け:(当審)取消理由通知
令和 元年 6月25日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
同年 8月 7日 :(特許異議申立人)意見書の提出
同年10月18日付け:(当審)取消理由通知(決定の予告)
令和 2年 1月22日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月27日 :(特許異議申立人)意見書の提出
同年 5月18日 :(特許権者)上申書の提出
同年 6月23日付け:(当審)訂正拒絶理由通知
同年 8月20日 :(特許権者)意見書の提出

第2 本件訂正の適否についての判断

1 本件訂正の内容(訂正事項)
令和2年1月22日にされた訂正の請求(以下、当該訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?6を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。
なお、それに先立ち令和元年6月25日にされた訂正の請求は、同条第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「共沸混合物様組成物を含んでなる冷媒」と記載されているのを、「共沸混合物様組成物からなる冷媒」に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4?6も同様に訂正する)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「-0.2?2.6℃の蒸発温度を有するシステム」と記載されているのを、「SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下、-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力を有する自動車空調システムであるシステム」に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4?6も同様に訂正する)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれかに記載のシステム」と記載されているのを、「請求項1又は2に記載のシステム」に訂正する(請求項4を引用する請求項5、6も同様に訂正する)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1、2について
訂正事項1は、訂正前の請求項3の記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載されていた「共沸混合物様組成物を含んでなる冷媒」を、「共沸混合物様組成物からなる冷媒」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また、訂正事項2は、明細書の【0030】及び【0031】【表2】の記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載された「-0.2?2.6℃の蒸発温度を有するシステム」を、所定の条件の下、所定の蒸発温度、排出温度及び吸気圧力を有する自動車空調システムであるシステムに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
さらに、当該請求項1を引用する請求項2、4?6の訂正についても同様である。
したがって、訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであると認められる。
(2) 訂正事項3、4について
訂正事項3は、単に訂正前の請求項3を削除するものであり、訂正事項4は、当該訂正事項3に係る請求項3の削除に伴い、請求項4における引用請求項の一部を削除するものであるから(請求項5、6の訂正についても同様)、これらの訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもないことは明らかである。
したがって、訂正事項3、4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであると認められる。

3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?6を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その訂正事項はいずれも、同条第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、請求項1、2、4?6に係る各発明を項番号に合わせて「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」という。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる共沸混合物様組成物からなる冷媒を含む熱伝達システムであって、SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下、-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力を有する自動車空調システムであるシステム。
【請求項2】
前記共沸混合物様組成物が55?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?45重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記熱伝達システムがさらに潤滑剤を含んでなる、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項5】
前記潤滑剤が、鉱油、アルキルベンゼン(AB)、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリオールエステル(POE)、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリビニルエーテル(PVE)、合成ナフタレン、フルオロ潤滑剤またはこれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記潤滑剤がポリオールエステル(POE)である、請求項4に記載のシステム。」

第4 取消理由の概要

令和元年10月18日付けの取消理由通知(決定の予告)において指摘した取消理由の概要は、以下のとおりである。

1 (明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、後記第5の1に説示した点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号)。

2 (原文新規事項)外国語書面出願に係る本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項が、後記第6の1に説示した点で、外国語書面に記載した事項の範囲内にない(特許法第113条第5号)。

3 (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、後記第7の1に説示した点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号)。

4 (実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、後記第8の1に説示した点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号)。

5 (拡大先願)本件特許発明は、本件特許の最先の優先日前にパリ条約による優先権の主張がなされた外国語特許出願であって、上記最先の優先日後に国際公開がされた、後記第9の1に示した外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明(パリ条約による優先権の主張の効果が認められる部分)と同一であり、しかも、この出願の発明者が上記外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、本件特許は、特許法第29条の2の規定(同法第184条の13参照)に違反してされたものである(特許法第113条第2号)。

6 (進歩性)本件特許発明は、本件特許の最先の優先日前に日本国内又は外国において頒布された、後記第10の1に示した刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号)。

第5 取消理由1(明確性要件)についての当審の判断

1 具体的な指摘事項
当該取消理由1は、要するに、本件訂正前(令和元年6月25日付けの訂正後。以下同じ。)の請求項1の「-0.2?2.6℃の蒸発温度を有するシステム」という記載について、当該記載が、「熱伝達システム」における、どのような点(構成・性能)を特定したものであるのかが明確でない点を指摘したものである。

2 取消理由1についての検討
本件訂正により、訂正後の請求項1には、「SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下、-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力を有する自動車空調システムであるシステム」と記載され、請求項1に記載された「熱伝達システム」とは、「自動車空調システム」としての構成を有し、当該「自動車空調システム」は、「SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下」で検査された場合、蒸発温度、排出温度及び吸気圧力がそれぞれ、「-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力」という性能を発現するものであることが理解できるものとなった。
したがって、当該「熱伝達システム」の構成及び性能に係る特定事項が明確でないとはいえないから、上記取消理由1は理由がない。

第6 取消理由2(原文新規事項)についての当審の判断

1 具体的な指摘事項
当該取消理由2は、要するに、本件訂正前の請求項1の「-0.2?2.6℃の蒸発温度を有するシステム」という記載について、当該記載は、平成29年6月5日付けないし平成30年3月2日付けの手続補正により追加された技術的事項であるところ、当該技術的事項は、外国語書面の「EXAMPLE2」(実施例2)以外のシステムについても包含するものであり、外国語書面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるということはできないから、外国語書面に記載した事項の範囲内にない、というものである。

2 取消理由2についての検討
本件特許に係る出願は、特許法第36の2第2項の外国語書面出願であるから、本件特許が、特許法第113条第5号に該当するものであるか否か、すなわち、当該外国語書面出願に係る本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項が、外国語書面(外国語明細書又は外国語特許請求の範囲)に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて検討する。
上記1の指摘事項に係る記載は、本件訂正後の請求項1では、「SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下、-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力を有する自動車空調システムであるシステム」と記載されているところ、これら蒸発温度、排出温度及び吸気圧力に関する性能は、外国語明細書の17?19頁の「EXAMPLE2」(その内容は、本件明細書の【0030】、【0031】に記載されたものと同じ。)から導出できたものと認められる(上記第2の2(1)における訂正事項2についての新規事項の有無の判断と同じ。)。
したがって、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2、4?6に記載した事項は、外国語書面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるということができるから、上記取消理由2には理由がない。

第7 取消理由3(サポート要件)についての当審の判断

1 具体的な指摘事項
当該取消理由3は、要するに、本件特許発明の課題は、混合物(組成物)についていうと、産業界が継続して探求している、環境をより破壊しないと考えられ、CFC類およびHCFC類の代用品であるところの、新規なフルオロカーボンベースの混合物、特に、オゾン層破壊係数がゼロで、かつ地球温暖化係数が低い、ヒドロフルオロカーボン類、ヒドロフルオロオレフィン類(HFOs)および他のフッ素化化合物を含有する混合物を提供することにあって、さらに、冷媒を含む熱伝達システムについていうと、特にHFC-134aを代替する冷媒を用いたシステムの提供(自動車の空調システムなど、既にHFC-134aを利用しているシステムにおいて使用することができる代替冷媒・新規冷媒の提供)にあるということができるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて当業者において当該課題が解決できると認識できる範囲は、実施例2に係るシステムそのものに限られると解するのが相当であるから、特許請求の範囲の記載(本件特許発明)はこれを超える、というものである。

2 取消理由3についての検討
本件訂正により、本件特許発明に係るシステムは、自動車空調システムに限定され、その性能についても上記実施例2に即したものとされたため、結局、本件特許発明に係るシステムは、当該実施例2に係るシステムと同等の範囲に限定されるものとなったと解するのが相当であるから、本件特許発明は、発明の詳細の説明の記載及び技術常識に基づいて当業者において上記課題が解決できると認識できる範囲内のものとなったということができる。
したがって、上記取消理由3には理由がない。

第8 取消理由4(実施可能要件)についての当審の判断

1 具体的な指摘事項
当該取消理由4は、要するに、上記第5の1の明確性要件違反ないし上記7の1のサポート要件違反に起因して、当業者といえども、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、本件特許発明を実施することはできない、というものである。

2 取消理由4についての検討
上記第5の2及び上記第7の2のとおり、本件訂正後の特許請求の記載に明確性要件違反及びサポート要件違反の不備は見当たらないから、これらの違反を前提とする取消理由4には理由がない。

第9 取消理由5(拡大先願)についての当審の判断

1 外国語特許出願(甲第1号証に係る出願)
・外国語特許出願:PCT/JP2009/062249(国際公開第2010/002020号参照)、パテントファミリー:特願2011-514283号(特表2011-525205号公報参照)
・以下、当該外国語特許出願を「甲1出願」といい、その国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面を「甲1明細書等」(優先権主張が認められる部分)といい、当該「甲1明細書等」に記載された発明を「甲1発明」という。

2 甲1明細書等の記載
甲1明細書等には、次の記載がある。
なお、甲1明細書等の摘記にあたっては、便宜上、パテントファミリーである特表2011-525205号公報の記載を日本語訳として使用し、当該公報における段落番号などもそのまま援用して記載した。
(1) 「【請求項1】
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)を36?50質量%及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を50?64質量%含む冷媒組成物。」
(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍および空調に用いる1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)と2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)からなる混合冷媒組成物に関する。」
(3) 「【発明の効果】
【0017】
本発明の冷媒組成物によれば、以下のような効果が達成される。
(1)新たに提案されているHFO1234yfを冷媒として使用したヒートポンプと同等またはそれ以上のサイクル性能が得られる。
(2)不燃性の冷媒ゆえ、・・・特別な機器の仕様変更は必要ない
(3)オゾン破壊係数(ODP)がゼロのため、使用後の冷媒が完全に回収されなかった場合も、オゾン層の破壊には寄与しない。」
(4) 「【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、燃焼範囲を有するHFO1234yfと燃焼範囲を有しないHFC134aとの混合割合と燃焼性の関係を鋭意研究した。燃焼性は試験例2に記載の方法で評価する。
【0020】
評価の結果、HFC134aを36?50質量%及びHFO1234yfを50?64質量%を含む冷媒組成物(即ち、HFC134aとHFO1234yfの質量比率が36/64?50/50の冷媒組成物)が、冷凍性能を損なうことなしに不燃性を示す事が判明した。また、HFC134aを36?42質量%及びHFO1234yfを58?64質量%含む冷媒組成物(HFC134aとHFO1234yfの質量比率が36/64?42/58の冷媒組成物)の場合にはより優れた効果が発揮される。」
(5) 「【0029】
本発明の冷媒組成物を使用できる冷凍機としては、例えば、カーエアコン、自動販売機用冷凍機、業務用・家庭用エアコン及びガスヒートポンプ(GHP)・エレクトリカルヒートポンプ(EHP)等があるが、これらに限定されない。」
(6) 「【実施例】
【0030】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、これに限定されるものではない。
【0031】
試験例1
冷媒にHFC134a/HFO1234yf(40/60mass%)(実施例1)、HFC134a/HFO1234yf(50/50mass%)(実施例2)を使用し、冷房定格能力4kWのヒートポンプに、蒸発器における冷媒の蒸発温度を10℃、凝縮器における冷媒の凝縮温度を45℃、過熱度および過冷却度を0℃として、運転を行った。
【0032】
また、比較例として、HFO1234yf(比較例1)を用い、過熱度を2.4℃にした以外は上記と同1条件でヒートポンプの運転を行った。
【0033】
これらの結果から、成績係数(COP)および冷凍効果を次式により求めた。
【0034】
COP = 冷凍能力/消費電力量
冷凍効果 = 冷凍能力/冷媒循環量
実施例1及び2の冷媒におけるCOPおよび冷凍効果を、比較例1の冷媒におけるそれらを基準(=100)とした相対値として、表1に示す。
【0035】
【表1】



3 甲1発明
甲1明細書等の【請求項1】、【0029】の記載を総合すると、甲1発明として、次の発明を認定することができる。
「1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)を36?50質量%及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を50?64質量%含む冷媒組成物を含むカーエアコン。」

4 本件特許発明1について
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、特定の冷媒を含む自動車空調システム(カーエアコン)である点で共通するものの、少なくとも次の点で相違するものと認められる。
・相違点1:冷媒に関し、本件特許発明1は、「50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる共沸混合物様組成物からなる冷媒」と特定しているのに対して、甲1発明は、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)を36?50質量%及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を50?64質量%含む冷媒組成物」と特定している点
・相違点2:自動車空調システム(カーエアコン)に関し、本件特許発明1は、「SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下、-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力を有する自動車空調システム」と特定しているのに対して、甲1発明には、このような特定はない点
(2) 相違点の検討
上記相違点1、2について併せて検討すると、確かに、両者の冷媒の成分組成には重複する範囲が存在し、さらに、甲1明細書等には、【実施例】として、HFC134a/HFO1234yfが「40/60mass%」及び「50/50mass%」である、本件特許発明1が規定する成分組成に含まれる冷媒が、具体例として記載されているものの、甲1明細書等の【0029】には、カーエアコン以外の用途についても記載され、また、当該実施例に係る具体例が、カーエアコンを用途とするものであると認めるに足りる証拠はないから、甲1発明の冷媒組成物のうちの本件特許発明1の冷媒に属するものを、カーエアコンの用途に使用することが、実質的に甲1明細書等に記載されているとただちにいうことはできない。
加えて、本件特許発明1における自動車空調システム(カーエアコン)は、特定の蒸発温度を有するなど特定の性能を発現するものに限定されていることから、なおのこと、甲1発明の冷媒組成物の中から、本件特許発明1と重複する部分を選択し、これを本件特許発明1に係る特定の自動車空調システムに適用することが、甲1明細書等に記載されているとはいえない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点1、2に係る発明特定事項を具備することにより、本件明細書の表2から見て取れる排出温度の低下など、甲1明細書等には記載のない新たな作用効果をもたらすものであるから、当該相違点1、2が、甲1発明を具体化する際の微差程度の相違点であるということもできない。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とが同一であるということはできない。

5 本件特許発明2、4?6について
本件特許発明2、4?6は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2、4?6と甲1発明とが同一であるとはいえない。

6 小括
以上のとおりであるから、上記取消理由5には理由がない。

第10 取消理由6(進歩性)についての当審の判断

1 刊行物(甲第2号証)
・刊行物:特表2008-531836号公報
・以下、当該刊行物を「甲2」といい、甲2に記載された発明を「甲2発明」という。

2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
(1) 「【請求項3】
HFC-1234yfと
HFC-1234ye、HFC-1243zf、HFC-32、HFC-125、HFC-134、HFC-134a、HFC-143a、HFC-152a、HFC-161、HFC-227ea、HFC-236ea、HFC-236fa、HFC-245fa、HFC-365mfc、プロパン、n-ブタン、イソブタン、2-メチルブタン、n-ペンタン、シクロペンタン、ジメチルエーテル、CF_(3)SCF_(3)、CO_(2)およびCF_(3)Iからなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含むことを特徴とする組成物。
・・・
【請求項15】
請求項3に記載の組成物であって、
約1重量パーセント?約99重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a;・・・からなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
・・・
【請求項31】
ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された潤滑油をさらに含むことを特徴とする請求項1?30のいずれか一項に記載の組成物。
・・・
【請求項59】
請求項1?30、40、41、または42のいずれか一項に記載の組成物を含有することを特徴とする冷凍、エアコン、またはヒートポンプ装置。」
(2) 「【0045】
特定の温度での本発明の擬共沸組成物が表5にリストされる。
【0046】
【表12】


(3) 「【0130】
本明細書で用いるところでは、移動式冷凍装置または移動式エアコン装置は、道路、鉄道、海または空用の輸送ユニットへ組み入れられた任意の冷凍またはエアコン装置を意味する。加えて、「共同一貫輸送」システムとして知られる、任意の移動キャリヤーから独立したシステムに冷凍またはエアコンを提供することを意図される装置も本発明に包含される。かかる共同一貫輸送システムには、「スワップボディ」(組み合わせられた道路/鉄道輸送)だけでなく「コンテナ」(組み合わせられた海/陸輸送)も含まれる。本発明は、自動車エアコン装置または冷凍道路輸送機器などの、道路輸送冷凍またはエアコン装置向けに特に有用である。」
(4) 「【0149】
(実施例1)
(蒸気漏洩の影響)
容器に-25℃か、明記される場合には25℃でかのどちらかの温度で初期組成物を装入し、組成物の初期蒸気圧を測定する。初期組成物の50重量パーセントが除去されるまで、温度を一定に保持しながら、組成物を容器から漏洩させ、その時点で容器に残っている組成物の蒸気圧を測定する。結果を表9に示す。
【0150】
【表26】

【0151】
【表27】


(5) 「【0168】
(実施例2)
(冷却性能データ)
表10は、HFC-134aと比べて本発明の様々な冷媒組成物の性能を示す。表10において、Evap Presはエバポレーター圧力であり、Cond Presは凝縮器圧力であり、Comp Disch Tは圧縮機吐出温度であり、COPはエネルギー効率であり、CAPはキャパシティである。データは次の条件に基づいている。
エバポレーター温度 40.0°F(4.4℃)
凝縮器温度 130.0°F(54.4℃)
サブクール温度 10.0°F(5.5℃)
リターンガス温度 60.0°F(15.6℃)
圧縮機効率は 100%である。
過熱は冷却能力計算に含められていることに留意されたい。
【0169】
【表43】

【0170】
【表44】

【0171】
幾つかの組成物は、より低い吐出圧力および温度を維持しながらHFC-134aよりさらに高いエネルギー効率(COP)を有する。本発明組成物についてのキャパシティはまたR134aに似ており、これらが冷凍およびエアコンにおいて、ならびに特に移動式エアコン用途においてR134aの代替冷媒であり得るだろうことを示唆する。炭化水素を含有するそれらの組成物はまた、従来の鉱油およびアルキルベンゼン潤滑油で油溶解度を向上させるかもしれない。」

3 甲2発明
甲2の【請求項3】、【請求項15】、【請求項31】、【請求項59】の記載を総合すると、甲2には、次の発明が記載されているといえる。
「約1重量パーセント?約99重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a、並びに、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された潤滑油を含む組成物を含有する冷凍、エアコンまたはヒートポンプ装置。」
そして、甲2の【0045】、【0046】【表12】には、上記「約1重量パーセント?約99重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a」は、擬共沸組成物であることが記載され、同【0130】には、予定される装置として、自動車用エアコン装置が記載されているから、これらをまとめると、甲2発明として、次の発明を認定することができる。
「約1重量パーセント?約99重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134aからなる擬共沸組成物、並びに、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された潤滑油を含む組成物を含有する自動車エアコン装置。」

4 本件特許発明1について
(1) 対比
甲2発明における「約1重量パーセント?約99重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134aからなる擬共沸組成物」は、甲2発明に係る自動車エアコン装置において、冷媒として機能するものと解することができるから、本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、特定の冷媒を含む自動車空調システム(自動車エアコン装置)である点で共通するものの、少なくとも次の点で相違するものと認められる。
・相違点3:冷媒に関し、本件特許発明1は、「50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる共沸混合物様組成物からなる冷媒」と特定しているのに対して、甲2発明は、「約1重量パーセント?約99重量パーセントのHFC-1234yfおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134aからなる擬共沸組成物」と特定している点
・相違点4:自動車空調システム(自動車エアコン装置)に関し、本件特許発明1は、「SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下、-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力を有する自動車空調システム」と特定しているのに対して、甲2発明には、このような特定はない点
(2) 相違点についての検討
上記相違点3、4について併せて検討すると、両者の冷媒の成分組成には重複範囲が存在するものの、甲2発明の擬共沸組成物(冷媒)の広範な成分組成の中から、当該重複範囲を選択し、これを自動車空調システムに適用することまでを、甲2の記載から読み取ることはできない。
ましてや、本件特許発明1における自動車空調システムは、特定の蒸発温度を有するなど特定の性能を発現するものに限定されているのであるから、上記相違点3、4に係る本件特許発明1の発明特定事項が、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点3、4に係る発明特定事項を具備することにより、本件明細書の表2から見て取れる排出温度の低下など、甲2には記載のない顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

5 本件特許発明2、4?6について
本件特許発明2、4?6は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

6 小括
以上のとおりであるから、上記取消理由6には理由がない。

第11 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由についての判断

特許異議申立人は、種々の特許異議申立理由を主張しているが、上記取消理由と同旨のものを除くと、残りの特許異議申立理由は、要するに、(i)本件明細書の発明の詳細な説明に記載された自動車空調システムの冷媒は、実施例2に記載されたHFO-1234yfとHFC-134aの重量比が50/50のもののみであり、本件特許発明に係る冷媒の極一部にすぎないことに起因する実施可能要件違反及びサポート要件違反(特許異議申立書47?49頁)、(ii)設定登録時の請求項1に記載された「50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる共沸混合物様組成物を含んでなる冷媒」が不明確であることを理由とする明確性要件違反(特許異議申立書第49頁)である。
そこで検討するに、前者の(i)についてみると、本件特許発明1が規定する冷媒の範疇は、「50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる共沸混合物様組成物からなる冷媒」であるところ、この範疇の組成物が共沸混合物様組成物の特性を示すことは、本件明細書記載の実施例1において検証され、また、上記実施例2に供されたHFO-1234yfとHFC-134aの重量比が50/50の冷媒は、上記本件特許発明1の範疇を代表する具体例と解するのが相当であり、その効用を当該範疇全体に類推して考えることができないというに足りる具体的な根拠は見当たらない。したがって、当該(i)に係る実施可能要件違反及びサポート要件違反は認められない。
また、後者の(ii)についてみても、本件特許発明1の冷媒、すなわち、「50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる共沸混合物様組成物からなる冷媒」は、「1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」と「1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)」とから構成される二成分系の組成物であることは明らかであるし、「共沸混合物様」という特性に関しても、この特性は、当該二成分系の組成物が、「50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)」という成分組成をとる場合に必然的に発現する特性であり、その内容に、第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確なところは見当たらない。したがって、当該(ii)に係る明確性要件違反は認められない。
以上のとおりであるから、上記取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、いずれも理由がない。

第12 結び

以上の検討のとおり、本件特許の請求項1、2、4?6に係る特許は、上記取消理由及び特許異議申立理由によって取り消すことはできない。また他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項3は削除され、当該請求項3に係る特許についての特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?50重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる共沸混合物様組成物からなる冷媒を含む熱伝達システムであって、SAEの規格J2765のM45、H45、M35及びH35のいずれか一つの条件の下、-0.2?2.6℃の蒸発温度、87.9?103.4℃の排出温度、及び272?316kPaの吸気圧力を有する自動車空調システムであるシステム。
【請求項2】
前記共沸混合物様組成物が55?56.27重量%の1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)および43.73?45重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)からなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記熱伝達システムがさらに潤滑剤を含んでなる、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項5】
前記潤滑剤が、鉱油、アルキルベンゼン(AB)、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリオールエステル(POE)、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリビニルエーテル(PVE)、合成ナフタレン、フルオロ潤滑剤またはこれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記潤滑剤がポリオールエステル(POE)である、請求項4に記載のシステム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-27 
出願番号 特願2016-161729(P2016-161729)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 16- YAA (C09K)
P 1 651・ 562- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
最終処分 維持  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 瀬下 浩一
日比野 隆治
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6336532号(P6336532)
権利者 ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
発明の名称 1,1,1,2-テトラフルオロプロペンと1,1,1,2-テトラフルオロエタンの共沸混合物様組成物  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 鈴木 雄太  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小野 新次郎  
代理人 松田 豊治  
代理人 鈴木 雄太  
代理人 松田 豊治  

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