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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A61L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61L 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A61L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61L |
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管理番号 | 1369990 |
異議申立番号 | 異議2020-700139 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-02 |
確定日 | 2020-11-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6571564号発明「エアフィルター濾材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6571564号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6571564号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許6571564号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成28年3月11日に出願され、令和1年8月16日にその特許権の設定登録がされ、同年9月4日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年 3月 2日 : 特許異議申立人 岡林茂による請求項1及び 2に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 6月 9日付け: 取消理由通知 同年 8月 5日 : 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 同年 9月18日 : 意見書の提出(特許異議申立人) 第2 訂正の適否についての判断 令和2年8月5日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)は、以下のとおり、適法になされたものと判断する。 1 訂正の内容 本件訂正は、一群の請求項を構成する請求項〔1、2〕を訂正の単位として請求されたものであり、特許法第120条の5第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記吸着剤が平均粒子径1?50μmの多孔質粒子」と記載されているのを、「前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する(当審注:下線を付した部分が訂正箇所である。以下、同じ。)。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に記載の「多孔質粒子」について、「前記多孔質粒子が、活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物であり、」との限定を挿入し、その結果として、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に記載の「バインダー」について、「その平均粒子径が50nm以上、200nm未満であり、」と記載されているのを、「その平均粒子径が100nm以上、200nm未満であり、」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 明細書の段落【0010】に「前記吸着剤が平均粒子径1?50μmの多孔質粒子」と記載されているのを、「前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子」に訂正する。 (5) 訂正事項5 明細書の段落【0010】に記載の「多孔質粒子」について、「前記多孔質粒子が、活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物であり、」との限定を挿入する。 (6) 訂正事項6 明細書の段落【0010】に記載の「バインダー」について、「その平均粒子径が50nm以上、200nm未満であり、」と記載されているのを、「その平均粒子径が100nm以上、200nm未満であり、」に訂正する。 (7) 訂正事項7 明細書の段落【0014】の末尾に「本発明では、多孔質粒子の平均粒子径は、1?20μmである。」を挿入する。 (8) 訂正事項8 明細書の段落【0016】に「本発明では、エマルジョンバインダーの平均粒子径は、50nm以上、200nm未満である。」と記載されているのを、「本発明では、エマルジョンバインダーの平均粒子径は、100nm以上、200nm未満である。」に訂正する。 (9) 訂正事項9 明細書の段落【0026】に「なお、実施例4、6、7、9?12及び15は参考例である。」と記載されているのを、「なお、実施例3、4、6、7、8、9?12及び15は参考例である。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変 更の存否 (1) 訂正事項1について 本件訂正前の請求項1に係る発明において、「前記吸着剤が平均粒子径1?50μmの多孔質粒子」と記載されていたところ、訂正事項1は、「前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子」とするものであり、吸着剤の平均粒子径の上限を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0014】には、「多孔質粒子の平均粒子径は、1?50μmであり、3?20μmであることがより好ましい。」との記載がなされており、多孔質粒子の平均粒子径の好ましい上限が「20μm」であることが記載されているので、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2) 訂正事項2について 本件訂正前の請求項1に係る発明において、「多孔質粒子」の材質についての特定がなかったところ、訂正事項2は、「前記多孔質粒子が、活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物」であるとの特定事項を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0013】には、「吸着剤である多孔質粒子としては、活性炭、天然及び合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄などの鉄系化合物、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。」と記載されているので、訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 なお、当該段落【0013】の上記「天然及び合成ゼオライト」について、「天然」かつ「合成」はあり得ないのだから、当該記載は「天然もしくは合成ゼオライト」の意味であることは明らかであるといえる。 (3) 訂正事項3について 本件訂正前の請求項1に係る発明における「バインダー」について、「その平均粒子径が50nm以上、200nm未満であり、」と記載されていたところ、訂正事項3は、「その平均粒子径が100nm以上、200nm未満であり、」とするものであり、バインダーの平均粒子径の下限を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】には、「エマルジョンバインダーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、50?500nmであることが好ましく、100?200nmであることがより好ましい。」との記載がなされており、バインダーの平均粒子径の好ましい下限が「100μm」であることが記載されているので、訂正事項3は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4) 訂正事項4?9について 訂正事項4?9は、訂正事項1?3に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための、明細書の訂正であるから、訂正事項4?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の本件発明 上記「第2」のとおり本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 通気性基材と吸着剤とバインダーとを含むエアフィルター濾材において、 前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子であり、前記多孔質粒子が、活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物であり、 前記バインダーが、スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダーであり、前記バインダーが、エマルジョンバインダーであり、その平均粒子径が100nm以上、200nm未満であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が5?60質量%であることを特徴とするエアフィルター濾材。 【請求項2】 バインダーがスチレン-アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルター濾材。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1及び2に係る発明に対して、当審が令和2年6月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1) (新規性欠如)本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、以下に示す引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1」という。)。 (2) (進歩性欠如)本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、以下に示す引用文献1に記載された発明及び引用文献1?7に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由2」という。)。 2 引用文献一覧 引用文献1:特開2000-126592号公報(甲第1号証) 引用文献2:特開2000-060946号公報(甲第3号証) 引用文献3:特開2005-298802号公報(甲第5号証) 引用文献4:特開2000-044310号公報(甲第6号証) 引用文献5:特開2003-292851号公報(甲第7号証) 引用文献6:特開平10-296713号公報(甲第8号証) 引用文献7:特開2010-075434号公報(甲第9号証) 3 引用文献1?7の記載事項 (1) 引用文献1の記載事項 引用文献1には、次の事項が記載されている。 ア 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】・・・本発明の課題は、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類を初め、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、硫化水素等の含硫黄ガスも効果的に除去・分解・無害化し、しかも、取扱が容易な環境汚染ガス除去部材(例えば、除去フィルタ)を提供することである。」(当審注:「・・・」は省略を表し、下線は当審が付与した。以下、同じ。) イ 「【0005】 【課題を解決するための手段】本発明は、下記(1)?(5)の環境汚染ガス除去部材、及び下記(6)?(7)のホルムアルデヒド除去部材に関する。 (1)支持体に活性二酸化マンガン粒子を固着させてなる、環境汚染ガス除去部材。 (2)活性二酸化マンガン粒子は、比表面積が70平方メートル/g以上の粒子である、上記(1)の環境汚染ガス除去部材。 (3)支持体はアルミニウムハニカムである、上記(1)?(2)のいずれかの環境汚染ガス除去部材。 (4)支持体はガラス不織布である、上記(1)?(2)のいずれかの環境汚染ガス除去部材。 【0006】(5)支持体にマンガン酸化物粒子を固着させてなる、ホルムアルデヒド除去部材。 【0007】ここで、活性二酸化マンガン粒子又はマンガン酸化物粒子の作用は、ホルムアルデヒド、硫化水素等の種々の環境汚染ガスを酸化する触媒作用が主(これらの汚染ガスを吸着する作用も少しある)である。 【0008】本発明は、下記(6)?(9)の環境汚染ガス除去部材用液状組成物にも関する。 (6)活性二酸化マンガン粒子(a)と、分散媒体(b)と、分散・結合樹脂(c)と、を含む環境汚染ガス除去部材用液状組成物。 (7)活性二酸化マンガン粒子(a)は、比表面積が70平方メ-トル/g以上の粒子である、上記(6)の環境汚染ガス除去部材用液状組成物。 (8)組成物の組成は、活性二酸化マンガン粒子(a):5?40重量%、分散媒体(b):35?80重量%、及び分散・結合樹脂(c):3?35重量%(ただし、固形分換算)、である、上記(6)又は(7)の環境汚染ガス除去部材用液状組成物。 (9)分散・結合樹脂(c)はアクリル樹脂である、上記(6)?(8)のいずれかの環境汚染ガス除去部材用液状組成物。」 ウ 「【0009】 【発明の実施の形態】本発明の環境汚染ガス除去部材において、用いられる活性二酸化マンガン粒子は、一般式MnO_(x)(ただし、xは多くの場合1.8?2.0)で表される比表面積の大きな多孔性二酸化マンガン粒子で、マンガン塩を湿式酸化分解して得られる。」 エ 「【0012】・・・使用できる支持体には種々のものがあり、好ましいものは空気を自由に通す支持体(その支持体材料自体の通気性は問わない)である。そのような支持体としては、例えば、多数の中空セルを有するハニカム構造体がある。・・・他に用いることのできる支持体はシート状支持体で、織布、不織布、紙、発泡体等があり、更に具体的には、・・・ガラス繊維布やガラス不織布・・・である。」 オ 「【0022】本発明で用いる分散・結合樹脂(c)は、・・・樹脂の型としては、エマルジョン型、水溶性型、親水性有機溶剤溶解型等がある。 【0023】エマルジョン型としては、アクリル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル-スチレン共重合体エマルジョン、スチレン-ブタジエン共重合体エマルジョン、アクリル変性ウレタン樹脂エマルジョン、シリコーン樹脂エマルジョン等があり・・・。」 カ 「【0036】実施例1 ハニカム構造体に触媒を固着した環境汚染ガス除去部材 支持体となるハニカム構造体として300mm×300mm×(厚み)25mmで、セル数500個/平方インチのアルミハニカム(AL-C500、新日本コア製)を予め用意した。容器に水を秤取し、活性二酸化マンガン(比表面積100平方メートル/g、平均粒径1.3μm)20重量部を撹拌しながら少しずつ加え、十分な撹拌の後、撹拌しながら水分散バインダ(ポリゾ-ルAP-6740、昭和高分子製)2重量部を少しずつ添加して混合した。これを目開き300μmのフィルタでろ過し、通過液を塗工液(固形分濃度は約25重量%)とした。」 キ 「【0039】実施例2 不織布に触媒を固着した環境汚染ガス除去部材 支持体となる不織布として幅500mm×厚み0.3mm、坪量90g/平方メートルのガラス不織布(GTC-3000、三菱製紙製)を用意した。また、活性二酸化マンガンを支持体に塗布するための塗工液は、実施例1と同様に調製した。ダイヘッドコータ法(横型塗工機)で、ガラス不織布に塗工液を塗工し、加熱・乾燥した。塗工速度は2m/分で、加熱・乾燥は150℃で行った。得られたシート状物は、単位面積当たり50重量%がガラス不織布、他の50重量%が活性二酸化マンガン及びバインダ樹脂であった。得られたシート状物を300mmに切断し、シート状の環境汚染ガス除去部材を得た。」 (2) 引用文献2の記載事項 引用文献2には、次の事項が記載されている。 「【0030】・・・バインダーとしてスチレン-アクリル酸エステル共重合体(ポリゾールAP-6740、昭和高分子株式会社製、商品名)」 (3)引用文献3の記載事項 引用文献3には、次の事項が記載されている。 「【0046】 ・・・スチレン-アクリル樹脂エマルション(昭和高分子(株)製ポリゾールAP-6730、最低造膜温度78℃、固形分45重量%、平均粒径108nm)」 (4)引用文献4の記載事項 引用文献4には、次の事項が記載されている。 「【0021】実施例1 アクリル酸エステル・スチレン共重合エマルジョン(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP-4710,固形分50%、pH9、平均粒径0.1?0.2μm)」 (5)引用文献5の記載事項 引用文献5には、次の事項が記載されている。 「【0010】・・・ポリゾールAP-2851(スチレン-アクリル樹脂、MFT:0℃以下、Tg:-10℃、平均粒径0.1μm)、ポリゾールAP1900(スチレン-アクリル樹脂、MFT:3℃以下、Tg:-1℃、平均粒径0.1μm)(以上、昭和高分子)」 (6)引用文献6の記載事項 引用文献6には、次の事項が記載されている。 「【0021】実施例1 まず、アクリル酸エステル・スチレン共重合エマルジョン(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP-3750,固形分50%、pH8?10、平均粒径0.14μm)」 (7)引用文献7の記載事項 引用文献7には、次の事項が記載されている。 「【0059】 ・・・平均粒子径が0.13μmであるスチレン-メタ(アクリル)酸エステル共重合樹脂粒子の水性分散液であるポリゾールAP-691T(昭和高分子製、不揮発分:55重量%)」 4 引用文献1に記載された発明(引用1発明) (1)上記3(1)カ及びキの記載事項によれば、引用文献1の実施例2には、ガラス不織布の支持体と、活性二酸化マンガン粒子20重量部と、水分散バインダ(ポリゾ-ルAP-6740、昭和高分子製)2重量部とを含むシート状の環境汚染ガス除去部材であって、前記活性二酸化マンガンが平均粒子径1.3μmの多孔性粒子であることが記載されているといえる。 (2)また、上記3(1)アの記載事項によれば、上記環境汚染ガス除去部材は、例えば、除去フィルタであることが記載されているといえる。 (3)上記(1)及び(2)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。 「ガラス不織布の支持体と、活性二酸化マンガン粒子20重量部と、水分散バインダ(ポリゾ-ルAP-6740、昭和高分子製)2重量部とを含むシート状の環境汚染ガス除去部材(例えば、除去フィルタ)であって、 前記活性二酸化マンガンが平均粒子径1.3μmの多孔性粒子である、環境汚染ガス除去部材(例えば、除去フィルタ)。」 5 取消理由1(新規性欠如)及び2(進歩性欠如)についての当審の判断 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用1発明とを対比する。 (ア) 上記3(1)エに記載のとおり、引用1発明における「ガラス不織布」は「空気を自由に通す支持体」であり、また、同イの段落【0007】のとおり、引用1発明における「活性二酸化マンガン粒子」はホルムアルデヒド等の「汚染ガスを吸着する作用」があるので、引用1発明における「ガラス不織布の支持体」、「活性二酸化マンガン20重量部」、「水分散バインダ(ポリゾ-ルAP-6740、昭和高分子製)」、「シート状の環境汚染ガス除去部材(例えば、除去フィルタ)」は、それぞれ本件発明1における「通気性基材」、「吸着剤」、「バインダー」、「エアフィルター濾材」に相当するといえる。 (イ) また、引用1発明における「前記活性二酸化マンガンが平均粒子径1.3μmの多孔性粒子」は、本件発明1における「前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子」に相当するといえる。 (ウ) 更に、引用1発明における「活性二酸化マンガン粒子20重量部と、水分散バインダ(ポリゾ-ルAP-6740、昭和高分子製)2重量部」は、「活性二酸化マンガン粒子」に対する「水分散バインダ」の含有量が、2重量部/20重量部=10重量%であるので、本件発明1における「吸着剤に対するバインダーの含有量が5?60質量%」に相当するといえる。 (エ) 上記(ア)?(ウ)によれば、本件発明1と引用1発明とは、以下の一致点並びに相違点1及び2を有するものと認められる。 <一致点> 「通気性基材と吸着剤とバインダーとを含むエアフィルター濾材において、前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が5?60質量%であることを特徴とするエアフィルター濾材。」 <相違点1> 吸着剤に関し、本件発明1は、「活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物」である「多孔質粒子」であるのに対し、引用1発明は、「活性二酸化マンガン粒子」である点。 <相違点2> バインダーに関し、本件発明1において、「前記バインダーが、スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダーであり、前記バインダーが、エマルジョンバインダーであり、その平均粒子径が100nm以上、200nm未満」であるのに対し、引用1発明において「水分散バインダ(ポリゾ-ルAP-6740、昭和高分子製)」の樹脂がスチレン-アクリル系樹脂等であるかどうか、また、エマルジョンバインダーであるかどうかが明示されておらず、さらに、その平均粒子径も明示されていない点。 イ 相違点1について 相違点1について検討する。 上記3(1)アの記載事項によれば、引用文献1に記載された発明の課題は、「ホルムアルデヒド等のアルデヒド類を初め、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、硫化水素等の含硫黄ガスも効果的に除去・分解・無害化し、しかも、取扱が容易な環境汚染ガス除去部材(例えば、除去フィルタ)を提供すること」であり、また、同イによれば、当該課題を解決するためには、「支持体に活性二酸化マンガン粒子を固着」させることが必須の手段であることが理解できる。 そうすると、引用1発明において、「活性二酸化マンガン粒子」は、その主体となるものであるから、それに代えて、相違点1に係る「活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物」を採用すると、引用1発明自体が成立しない。 また、上記のとおり、引用文献1に記載された発明の課題は、「ホルムアルデヒド等のアルデヒド類を初め、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、硫化水素等の含硫黄ガスも効果的に除去・分解・無害化」する「環境汚染ガス除去部材」であり、それら「環境汚染ガス」を「吸着」することのみを課題とするものではないから、引用1発明に、相違点1に係る吸着剤としての「活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物」を採用することの動機は存しない。 更に、引用文献2?7の記載をみても、当該相違点1に係る本件発明1の構成を容易想到とするに足りる記載は見当たらない。 ウ 以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(1)の本件発明1についての検討と同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、令和2年9月17日提出の意見書の3イにおいて、特許法第29条第2項の要件違背の根拠として、要するに、本件発明1の「エマルジョンバインダーの平均粒子径」及び「多孔質粒子の平均粒子径」の数値限定による顕著な効果ないし臨界的意義の欠如を主張をしているが、当該主張は、引用1発明において、上記相違点1に係る「活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物」を採用することの構成容易想到性を何ら示すものではないから、上記(1)及び(2)の判断に影響しない。 6 小括 以上の検討のとおり、本件発明1及び2は、引用文献1に記載された発明に対して、新規性及び進歩性が欠如するということできないから、本件特許1及び2は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、取消理由1(新規性欠如)及び取消理由2(進歩性欠如)を理由に、取り消すことはできない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 採用しなかった特許異議申立理由の概要 異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 (1) (進歩性欠如)本件発明1及び2は、甲第2号証、甲第3号証、甲第10号証又は甲第11号証に記載された発明及び甲第4?9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。 (2) (サポート要件違反)本件請求項1及び2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)。 2 申立理由1(進歩性欠如)についての当審の判断 特許異議申立人は、申立理由1を立証するための証拠として、甲第2?11号証(以下、単に「甲2」などという。)を提出し、本件発明1及び2について、甲2、3、10及び11に記載された発明を主たる引用発明とする進歩性欠如を主張する。 しかしながら、当該主張は、以下の理由により、採用することはできない。 (1)証拠一覧 甲2:特開2004-129759号公報 甲3:特開2000-060946号公報 甲4:特開2005-230929号公報 甲5:特開2005-298802号公報 甲6:特開2000-044310号公報 甲7:特開2003-292851号公報 甲8:特開平10-296713号公報 甲9:特開2010-075434号公報 甲10:特開2002-028415号公報 甲11:国際公開第96/008303号公報 なお、甲4?9は、高分子エマルジョンである商品名「ヒタロイド」及び各種「ポリゾール」の粒径ついて主張するための証拠であり、エアフィルター濾材に関して記載されたものではない。 (2)甲2、3、10及び11の記載事項 ア 甲2の記載事項 甲2には、次の事項が記載されている。 (ア) 「【請求項1】 無機多孔質体粒子を少なくとも1種と、ガラス転移温度が0℃未満の有機物のエマルジョンとを含む混合物の乾燥物の層が、可とう性を有する基材表面に被覆されているシートであって、前記混合物中の無機多孔質体粒子の含有量が、有機物のエマルジョンの乾燥物100体積部に対して300体積部以上1000体積部未満であることを特徴とする、脱臭シート。 【請求項2】 前記無機多孔質体粒子は、平均直径2?12nmの細孔径を有し、細孔容積が0.3ml/g以上であることを特徴とする、請求項1に記載の脱臭シート。 【請求項3】 前記無機多孔質体粒子の平均粒子径が60μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の脱臭シート。 【請求項4】 前記エマルジョンの平均粒子径は、前記無機多孔質体粒子の平均粒子径よりも小さく、かつ、0.2μm以上であることを特徴とする、請求項1?3いずれか一項に記載の脱臭シート。」 (イ) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は脱臭シートに関する。より具体的には、建築物や乗り物等の内装材、壁材およびその化粧材として、さらには空気清浄機やトイレの脱臭用フィルターとして、広範に利用が可能な脱臭シートに関する。」 (ウ) 「【0009】 【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、本発明では、平均直径2?12nmの細孔径を有し、細孔容積が0.3ml/g以上の無機多孔質体粒子を少なくとも1種と、ガラス転移温度が0℃未満の有機物のエマルジョンとを含む混合物の乾燥物が、可とう性を有する基材表面に被覆されているシートにおいて、前記混合物中の無機多孔質体粒子の含有量が、有機物のエマルジョンの乾燥物100体積部に対して300体積部以上、1000体積部未満であることを特徴とする脱臭シートを提供する。・・・ 【0010】 ・・・無機多孔質粒子間の空隙により、表面層以外の内部の無機多孔質体への透湿経路をエマルジョンが塞ぐことも無く、塗膜内部の無機多孔質体まで臭気成分の吸着効果を発揮できる。・・・ 【0014】 本発明の好ましい態様においては、前記無機多孔質体の平均粒径が60μm以下であるようにする。好ましくは、基材の吸水性や空隙率、塗膜の厚さによって無機多孔質体の粒径を使い分ける。例えば、基材を空隙率の大きな不織布基材にする際には、平均粒径30μm以下の無機多孔質体が望ましく、一方、空隙率が低い基材に塗工する場合には、平均粒径30μm?60μmの無機多孔質体を使用すると、凸凹が少なく、申し分ない外観の塗膜が得られる。 ここで、無機多孔質体の平均粒径は体積平均値であって、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(セイシン企業製レーザーマイクロンサイザーLMS-30)により計測される。 【0015】 本発明の好ましい態様においては、前記エマルジョン中の粒子の粒径は前記無機多孔質体の粒径よりも小さく、かつ、平均粒径0.2μm以上であるようにする。エマルジョンの粒子の粒径が0.2μm未満であると、無機多孔質体の周囲をエマルジョンが密に取り囲む形になり、無機多孔体への透湿経路を塞ぐことになる。従って、この場合、脱臭性能を低下させることになる。エマルジョンの粒子の平均粒径は、好ましくは1μm未満である。エマルジョン中の粒子の粒径が大きすぎると、無機多孔質体の充填率が下がり、そのために脱臭性能を低下させることもあるからである。ここでエマルジョン中の粒子の平均粒径は体積平均値であって、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(セイシン企業製レーザーマイクロンサイザーLMS-30)により計測される。」 (エ) 「【0017】 【発明の実施の形態】 本発明において、無機多孔質体は、例えば、アルミナ-シリカ系共沈キセロゲル多孔体、シリカゲル、γ-アルミナ多孔体、メソポーラスゼオライト、多孔質ガラス、アパタイト、珪藻土、セピオライト、アロフェン、イモゴライト、活性白土、多孔質シリカ、シラスバルーンから選ばれた少なくとも一種が利用できる。・・・ 【0022】 有機物のエマルジョンは、例えば、アクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、アクリルシリコーンエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、シリコーンエマルジョン、酢酸ビニルアクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニルベオバエマルジョン、ウレタンアクリル複合エマルジョン、シリカ変性アクリル共重合エマルジョン、スチレンアクリルウレタン複合エマルジョン、エチレン酢酸ビニルアクリル複合エマルジョン、酢酸ビニルマレート共重合エマルジョン、エチレン-ビニルエステル系共重合体水性エマルジョン、フッ素エマルジョンなどが挙げられ、このうち少なくとも一種が利用できる。これらのエマルジョンのうち、シリコーンエマルジョン、フッ素エマルジョン等を用いると、表面エネルギーが低い為、撥水性能を高める効果がある。・・・ 【0024】 可とう性を有する基材としては、例えば、紙、合成樹脂、織布、不織布、ガラス繊維、金属繊維、金属箔、難燃裏打紙等、各種の金属、無機質、プラスチック、木質系のシート状基材が挙げられる。ここで、可とう性を有するとは180度折り曲げても割れないことを言う。」 (オ) 「【0037】 (実施例1) 基材として、坪量65g/m^(2)の壁紙原紙をA5サイズにカットして用いた。無機多孔質体は、活性アルミナ[水沢化学工業(株)製の商品名NEOBEAD-GB、比表面積200m^(2)/g,平均細孔半径;5nm、細孔容積;0.48ml/g、かさ密度0.68g/cm^(3)、平均粒子径;50μm]を用いた。有機物のエマルジョンとして、アクリルエマルジョン[大日本インキ化学工業(株)製の商品名ボンコート3625、エマルジョン中の粒子の粒径;0.25μm,有効成分59.5wt%、かさ密度1.2g/cm^(3)]を用いた。 【0038】 【表1】 【0039】 表1に示した材料をそれぞれの配合比に沿って、混錬機に入れて、混錬し、コート剤Aを得た。 コーティングはフィルムアプリケータで、乾燥後の被覆層の厚みが400μmとなるように製膜した後、150℃で5分間乾燥して、実施例1の脱臭シートを作製した。」 イ 甲3の記載事項 甲3には、次の事項が記載されている。 (ア) 「【0019】吸着剤粒子には、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ等の粒子、又は前記の粒子に硫酸アルミニウム、よう素、硫酸第1鉄、りん酸カルシウム、炭酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、アスコルビン酸、酒石酸、硼酸、蓚酸、タンニン酸、没食子酸等を添着させた粒子が、1種類又は1種類以上を混ぜて用いられる。又、前記吸着剤には、好ましくは10?1,000μm、より好ましくは10?300μmの大きさの粒子が用いられる。前記粒子の大きさが10μm未満であると粒子が凝集してしまい分散性が低下するおそれがあり、又1,000μmを超えると比表面積が小さくなって、吸着能力が低下するおそれがある。 【0020】上記のアルデヒド類除去剤は、不織布、織布又はハニカムコア等の基材に担持させて、且つ通気性を持たせてアルデヒド類除去フィルタ12に加工して用いられる。なお、該アルデヒド類除去フィルタ12には、除去性能の点から比表面積の大きい形状に加工されたものを用いることが好ましい。 【0021】そして、アルデヒド類除去剤のフィルタ基材への担持(又は固定)は、バインダーを介して行うことができる。バインダーには、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン等からなるエマルジョンが用いられる。」 (イ) 「【0025】 【実施例】・・・ 【0029】アルデヒド類除去剤のうち、分解除去剤の粒子には、二酸化マンガン(粒子径平均約2μm)と酸化第二銅(粒子径平均約1.9μm)を用い、吸着剤粒子には、活性炭(粒子径約50?100μm)を用いた。アルデヒド類除去フィルタ12には、アルミニウム製のハニカムコア(新日本コア株式会社製、77セル/cm^(2))縦及び横300mm、厚み25mmを用いた。 【0030】そして、アルデヒド類除去フィルタ12には、前記の分解除去剤及び吸着剤の粒子を次の方法により担持させた。水1リットルに前記二酸化マンガン20g、酸化第二銅25g、活性炭55gを均一に分散させ、この分散液にバインダーとしてスチレン-アクリル酸エステル共重合体(ポリゾールAP-6740、昭和高分子株式会社製、商品名)20gをさらに均一に分散させ、この分散液に前記ハニカムコアを浸漬して付着させた後、乾燥して固定させた。図3には、上記の方法によって製作したアルデヒド類除去フィルタ12を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のB-B面における断面図を示す。そしてこのアルデヒド類除去フィルタ12を光酸化触媒フィルタ11及び紫外線光源8より下流側に配置させた。」 ウ 甲10の記載事項 甲10には、次の事項が記載されている。 (ア) 「【請求項1】 白炭を通気性基材に担持してなるフィルターと除塵フィルターとを一体化してなる空気清浄化フィルター。」 (イ) 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、空気清浄に関して様々な優れた機能を有し、且つ古来から用いられている素材であって日常生活における馴染みが深く、すなわち安全性に関する信頼性が高い白炭を用い、且つ除塵性を備えた空気清浄化フィルターを提供することである。」 (ウ) 「【0016】粒状または粉末状の白炭の粒度は特に限定されるものではないが、後述する担持法に適したものとして100メッシュ以上を通過する粒度であることが好ましく、更にレーザー回折式粒度分布計(日機装社製、商品名マイクロトラックなど)を用いて測定される体積中位径が1?20μmであることが好ましく、1?5μmであることが特に好ましい。・・・ 【0018】<吸着機能>本発明に係わる白炭は、空気中においてホルムアルデヒドなどの有害物質およびアンモニアや硫化水素などの臭気物質を吸着する能力があり、また、水中においてはクロロホルムに代表されるトリハロメタンなどの含ハロゲン有機化合物や色素などを吸着する能力がある。」 (エ) 「【0028】本発明に係わる通気性基材は、特に限定されるものではなく、各種の紙、不織布、織布、編布、ネット、フェルト、ウレタンフォームなどの発泡体、網、簀および樹脂フィルムや金属箔などが挙げられ、シートの通気性が乏しい場合には穴開け加工などを施して通気性を向上させることができる。中でも、適度な通気性を有し、且つ白炭の担持に適した基材として不織布が好ましい。」 (オ) 「【0033】・・・白炭または所望により併用する脱臭剤などの表面を覆うことなく十分な接着性が得られるバインダーとして熱可塑性高分子エマルジョンが好ましい。 【0034】熱可塑性高分子エマルジョンとして、ポリアクリロニトリルやポリアクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、スチレン-アクリル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体などの各種共重合樹脂、ポリプロピレン、ポリエステル、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂などが挙げられる。」 エ 甲11の記載事項 甲11には、次の事項が記載されている。 第6頁第1行-第8頁第9行 「(実施形態1) 図1?図6は本発明の実施形態1にかかる脱臭フィルターを示すもので、本例の脱臭フィルタ一10は、図1、図2に示すように、脱臭機能を有する多孔質材料2を用いて構成されており、この多孔質材料2は、多孔質基材20と、これにバインダを介して担持した吸着剤よりなる。・・・ また、吸着剤は気体中の悪臭成分を吸着するもので、本例では、粒径5?30μm、比表面積1200m^(2)/gの粉末活性炭を用いた。・・・ なお、多孔質材料2の多孔質基材20として用いる発泡プラスチックとしては、ポリエーテル型ポリウレタンフォーム、ポリエステル型ポリウレタンフォーム、ラバーフォーム、ビニールフォーム、ポリスチレンフォーム、アクリルフォーム、ポリアセタールフォーム、ナイロンフォーム等を使用できる。・・・ 吸着剤スラリーAを調合するに際しては、粉末活性炭100部(重量部、以下同じ)に対して、スラリー乾燥後の活性炭結合剤(バインダー)としてのエチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョンは5?40部、水は200?500部が好ましい。・・・ なお、上記結合剤(バインダー)としては、エチレン/醉酸ビ二ル共重合体エマルジョンの他に、アクリルエマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、塩化ビニル、アクリルエチレン共重合体、アクリル-スチレン共重合体、エーテルポリウレタン樹脂、エーテル-エステル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル一ウレタン、ウレタン系レジン、メチルセルロース、 ヒドロキシプロピルメチルセルロース(NH_(4)塩、Na塩) 、ホットメルトポリエステル、あるいは酢酸ビニルエマルジョン等を使用でき、これらの結合剤(バインダー)はいずれも粉末活性炭を多孔質基材20に結合(担持)する点において必要特性を満足するものであった。」 (3) 甲2、3、10及び11に記載された発明 ア 甲2に記載された発明(甲2発明) 上記(2)ア(オ)の記載事項によれば、甲2の実施例1には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「坪量65g/m^(2)の壁紙原紙からなる基材に、 平均粒子径が50μmである活性アルミナ無機多孔質体116重量部と、 エマルジョン中の粒子の粒径が0.25μmであるアクリルエマルジョン51重量部を含むコート剤をコートしてなる、 脱臭シート。」 イ 甲3に記載された発明(甲3発明) 上記(2)イ(イ)の記載事項によれば、甲3の実施例には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「アルミニウム製のハニカムコアに、 アルデヒド類の吸着剤粒子としての活性炭(粒子径約50?100μm)と、 バインダーとしてのスチレン-アクリル酸エステル共重合体(ポリゾールAP-6740、昭和高分子株式会社製、商品名)を担持させた、 アルデヒド類除去フィルタ。」 ウ 甲10に記載された発明(甲10発明) 上記(2)ウ(ア)の記載事項によれば、甲10の請求項1には、次の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されているといえる。 「白炭を通気性基材に担持してなるフィルターと除塵フィルターとを一体化してなる空気清浄化フィルター。」 エ 甲11に記載された発明(甲11発明) 上記(2)エ(ア)の記載事項によれば、甲11の実施形態1には、次の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されているといえる。 「多孔質基材にバインダーを介して担持した吸着剤よりなる脱臭フィルターであって、 吸着剤は、粒径5?30μm、比表面積1200m^(2)/gの粉末活性炭であり、 粉末活性炭100部(重量部、以下同じ)に対して、スラリー乾燥後の活性炭結合剤(バインダー)としてのエチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョンは5?40部である、 脱臭フィルター。」 (4) 甲2発明に基づく本件発明1の進歩性について ア 対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、両発明は少なくとも以下の点で相違するものと認められる。 <相違点3> 本件発明1は、「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」であり、「平均粒子径が100nm以上、200nm未満」である「エマルジョンバインダー」を有するのに対し、甲2発明は、「エマルジョン中の粒子の粒径が0.25μmであるアクリルエマルジョン」を有する点。 イ 相違点3について 相違点3について検討する。 (ア) バインダーの材質について 本件発明1は、「アルデヒド吸着性能に優れ、かつ、圧力損失の低いエアフィルター濾材を提供する」という課題を解決するために、「バインダーの種類によりアルデヒド吸着性能をコントロールする」ことを見いだし、「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」(同段落参照。)を採用したものであり(本件明細書の段落【0008】?【0010】参照。)、本件明細書の実施例と比較例の結果(同【表1】及び【表2】参照。)からも、「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」を用いた実施例が、当該バインダーを用いない又はほかのバインダーを用いた比較例に対して、優れたアセトアルデヒド吸着性能を有するという有利な効果を奏することが理解できる。 一方、甲2には、上記(2)ア(エ)の段落【0022】の記載事項のとおり、「有機エマルジョン」として多数列挙されたものの中に、「アクリルスチレンエマルジョン」及び「シリコーンエマルジョン」なる記載があるものの、それらが優れたアセトアルデヒド吸着性能を有するなどの特段有利である旨の記載や、それらを使用した実施例の記載はない。 また、「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」を採用することで、優れたアセトアルデヒド吸着性能を有する等の有利な効果を奏するエアフィルター濾材が得られることが、本件特許の出願当時に公知であったことを示す証拠も見当たらない。 そうすると、甲2発明において、「アクリルエマルジョン」に代えて「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」を採用することの動機はないというほかない。 (イ) バインダーの平均粒子径について 本件明細書の段落【0016】の記載によれば、上記課題を解決するために、「エマルジョンバインダーの平均粒子径」として、より好ましい「100?200nm」の範囲とし、塗工における固形分付着量を安定させるものと解され、また、本件明細書の【表2】に開示された、上記課題に関連する4つの評価項目において「◎」が3つ以上という良好な結果を有する実施例は、いずれも「100?200nm」の範囲内のものであり、当該課題解決に有意な数値範囲であることが理解できる。 ここで、本件発明1において「エマルジョンバインダーの平均粒子径」の上限が「200nm未満」であることは、甲2の上記(2)ア(ウ)の段落【0015】の記載事項である「前記エマルジョン中の粒子の粒径は前記無機多孔質体の粒径よりも小さく、かつ、平均粒径0.2μm以上であるようにする」なる事項との区別を明確にすべく、令和1年5月10日付けの手続補正により上記好ましい「100?200nm」の範囲から「200nm」を除く補正がなされたことによるものであり、「エマルジョンバインダーの平均粒子径」の上限が「200nm」である場合に、上記課題を解決できないというものでないことは、当該手続補正と同日付けの意見書、本件明細書の参考例4の評価結果(「◎」が3つ以上である。)及び令和2年8月5日に特許権者が提出した意見書の5(5)の記載から理解できる。 そして、甲2の当該段落【0015】には更に「エマルジョンの粒子の粒径が0.2μm未満であると、無機多孔質体の周囲をエマルジョンが密に取り囲む形になり、無機多孔体への透湿経路を塞ぐことになる。従って、この場合、脱臭性能を低下させることになる。」と記載されており、エマルジョンの粒子の平均粒子径を0.2μm未満とすることには阻害要因があるといえる。 そうすると、甲2発明において、「粒径が0.25μm」である「エマルジョン中の粒子」の平均粒径を「100nm以上、200nm未満」とすることの動機はないといえる。 (ウ) また、上記のとおり、甲4?9は、高分子エマルジョンである商品名「ヒタロイド」及び「ポリゾール」の粒径ついて単に記載されているのみであり、エアフィルター濾材に関して記載されたものではない。 更に、特許異議申立人は、令和2年9月17日提出の意見書の3イにおいて特許法第29条第2項の要件違背の根拠として、本件発明1の「エマルジョンバインダーの平均粒子径」の数値限定による顕著な効果ないし臨界的意義を見出すことができない旨の主張をしているが、上記のとおり、「100nm以上、200nm未満」という「エマルジョンバインダーの平均粒子径」の数値範囲は上記課題解決に有意なものであり、そもそも、甲2発明はエマルジョンの粒子の平均粒子径を0.2μm未満とすることに阻害要因を有するものであるから、当該主張を採用し、本件発明1が甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (5) 甲2発明に基づく本件発明2の進歩性について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(4)の本件発明1についての検討と同様の理由により、甲2発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (6) 甲3発明に基づく本件発明1の進歩性について ア 対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、両発明は少なくとも以下の点で相違するものと認められる。 <相違点4> 本件発明1は、「吸着剤が平均粒子径1?20μm」であるのに対し、甲3発明は、「吸着剤粒子としての活性炭(粒子径約50?100μm)」である点。 イ 相違点4について 相違点4について検討する。 (ア) 本件明細書の段落【0014】の記載によれば、上記課題を解決するために、吸着剤の多孔質粒子の平均粒子径を1?20μmとし、吸着剤付着量のばらつき低減、脱落防止、バインダー量の抑制をするものと解され、また、本件明細書の【表2】に開示された、当該課題に関連する4つの評価項目において「◎」が3つ以上という良好な結果を有する実施例は、いずれも「平均粒子径1?20μm」の範囲内のものであり、当該課題解決に有意な数値範囲であることが理解できる。 一方、甲3には、上記(2)イ(ア)の段落【0019】の記載事項のとおり、吸着剤の大きさに関し、「前記吸着剤には、好ましくは10?1,000μm、より好ましくは10?300μmの大きさの粒子が用いられる。前記粒子の大きさが10μm未満であると粒子が凝集してしまい分散性が低下するおそれがあり、又1,000μmを超えると比表面積が小さくなって、吸着能力が低下するおそれがある」なる記載があるものの、「平均粒子径1?20μm」とすることの記載やそれにより得られる効果の開示はなされていない。 また、吸着剤の多孔質粒子の平均粒子径を1?20μmとすることで、アルデヒド吸着性能に優れ、かつ、圧力損失が低いなどといった有利な効果を奏するエアフィルター濾材が得られることが、本件特許の出願当時に公知であったことを示すほかの証拠もない。 したがって、甲3発明の吸着剤粒子である活性炭の大きさを「平均粒子径1?20μm」とすることの動機はないというべきである。 (イ) また、甲4?9は、高分子エマルジョンである商品名「ヒタロイド」及び「ポリゾール」の粒径ついて単に記載されているのみであり、エアフィルター濾材に関して記載されたものではない。 更に、特許異議申立人は、令和2年9月17日提出の意見書の3イにおいて特許法第29条第2項の要件違背の根拠として、本件発明1の「多孔質粒子の平均粒子径」の数値限定による顕著な効果ないし臨界的意義を見出すことができない旨の主張をしているが、上記のとおり、「1?20μm」という「多孔質粒子の平均粒子径」の数値範囲は上記課題解決に有意なものであり、また、甲3発明の吸着剤粒子である活性炭の大きさを「平均粒子径1?20μm」とすることの動機はないというべきであるから、当該主張を採用し、本件発明1が甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (7) 甲3発明に基づく本件発明2の進歩性について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(6)の本件発明1についての検討と同様の理由により、甲3発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (8) 甲10発明に基づく本件発明1の進歩性について ア 対比 本件発明1と甲10発明とを対比すると、両発明は少なくとも以下の点で相違するものと認められる。 <相違点5> 吸着剤に関し、本件発明1は、「活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物」である「多孔質粒子」であるのに対し、甲10発明は、「白炭」である点。 イ 相違点5について 相違点5について検討する。 (ア) 上記(2)ウ(イ)の記載事項のとおり、甲10に記載された発明は、白炭を用いた空気清浄化フィルターを提供することを課題とするものであり、したがって、甲10発明において、「白炭」に代えて、相違点5に係る「活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物」を採用することの動機はないものといえる。 (イ) また、甲4?9は、高分子エマルジョンである商品名「ヒタロイド」及び「ポリゾール」の粒径ついて単に記載されているのみであり、エアフィルター濾材に関して記載されたものではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲10発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (9) 甲10発明に基づく本件発明2の進歩性について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(8)の本件発明1についての検討と同様の理由により、甲10発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (10) 甲11発明に基づく本件発明1の進歩性について ア 対比 本件発明1と甲11発明とを対比すると、両発明は少なくとも以下の点で相違するものと認められる。 <相違点6> 本件発明1は、「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」であり、「平均粒子径が100nm以上、200nm未満」である「エマルジョンバインダー」を有するのに対し、甲11発明は、バインダーとして「エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョン」を有する点。 イ 相違点6について 相違点6について検討する。 (ア) 上記(4)イ(ア)のとおり、本件発明1は、「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」を用いることで、上記課題を解決し、本件明細書の実施例においてもその有利な効果が示されているものである。 一方、甲11には、上記(2)エの記載事項のとおり、「結合剤(バインダー)」として多数列挙されたものの中に、「アクリル-スチレン共重合体」なる記載があるのみであり、それが優れたアセトアルデヒド吸着性能を有するなどの特段有利である旨の記載や、それを使用した実施例の記載はない。 また、「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」を採用することで、優れたアセトアルデヒド吸着性能を有する等の有利な効果を奏するエアフィルター濾材が得られることが、本件特許の出願当時に公知であったことを示すほかの証拠もない。 そうすると、甲11発明において、「エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョン」に代えて「スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダー」を採用することの動機はないというほかない。 (イ) また、甲4?9は、高分子エマルジョンである商品名「ヒタロイド」及び「ポリゾール」の粒径ついて単に記載されているのみであり、エアフィルター濾材に関して記載されたものではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲11発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (11) 甲11発明に基づく本件発明2の進歩性について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(10)の本件発明1についての検討と同様の理由により、甲11発明に対して進歩性が欠如するということはできない。 (12) まとめ 以上の検討のとおり、本件発明1及び2は、甲2、3、10又は11に記載された発明に対して進歩性が欠如するということはできないから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、特許異議申立理由(進歩性欠如)を理由に、取り消すことはできない。 3 申立理由2(サポート要件)についての当審の判断 (1) 申立理由2(サポート要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、本件明細書の【表1】及び【表2】に示される実施例及び比較例の「塗工における固形分付着量のばらつき」、「吸着剤の脱落」、「アセトアルデヒド吸着性能」及び「圧力損失」について評価結果において、本件発明の数値範囲の内と外とで、有意な差異を見いだすことができず、本件発明の課題解決手段が理解できないから、本件発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、サポート要件に適合しない、というものである。 そこで検討するに、本件発明は、「アルデヒド吸着性能に優れ、かつ、圧力損失の低いエアフィルター濾材を提供する」(本件明細書の段落【0008】参照。)ことを課題としているところ、本件明細書の【表1】及び【表2】をみると、本件発明に相当する実施例1、2、5、13及び14は、いずれも、本件発明の課題に関連する当該「塗工における固形分付着量のばらつき」、「吸着剤の脱落」、「アセトアルデヒド吸着性能」、「圧力損失」の評価項目において全て「◎」又は「○」であり、かつ、「◎」が3つ以上という優れた結果を有することが看取できる。 また、本件発明の範囲外であるほかの実施例及び比較例については、実施例4を除いて全て「◎」は2つ以下であることも看取できる。 ここで、評価結果「◎」を3つ有する実施例4については、上記2(4)イ(イ)のとおり、甲2との区別を明確にする目的で「エマルジョンバインダーの平均粒子径」の好ましい数値範囲である「100?200nm」から「200nm」を除き、その上限を「200nm未満」と補正した結果、本件発明の範囲外となったものであり、上記課題を解決できないというものではなく、むしろ実施例4の評価結果は、「エマルジョンバインダーの平均粒子径」が「200nm未満」のものは、上記課題解決に至ることを支持するものとも解される。 そうすると、これら評価結果から、本件発明の範囲内のものは、上記課題を解決することを当業者は理解することができ、更に、当該範囲外のものと比して有利な効果を奏することも理解できるといえるので、特許異議申立人の主張を採用して、本件の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないということはできない。 したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないため、申立理由2(サポート要件違反)を理由に、取り消すことはできない。 (2) なお、特許異議申立人は、令和2年9月17日提出の意見書の3ウにおいて、特許法第36条第6項第1号の要件違背として、実施例において多孔質粒子として「アミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウム」しか使用されていない発明の詳細な説明の記載から、それ以外の多孔質粒子を使用する場合も含む本件発明の範囲にまで拡張できるとはいえないので、本件発明は、サポート要件に適合しない旨の主張をしている。 しかしながら、上記2(6)イのとおり、本件発明は、上記課題を解決するために、吸着剤の多孔質粒子の平均粒子径を1?20μmとし、吸着剤付着量のばらつき低減、脱落防止、バインダー量の抑制をするものであり、当該数値範囲は当該課題解決に有意なものであることが理解できる。 そして、当該吸着剤付着量のばらつき低減、脱落防止、バインダー量の抑制の観点から、「アミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウム」以外の多孔質粒子を使用した場合に、実施例と異なる特性又は傾向となることを示す証拠は示されていない。 そうすると、特許異議申立人の主張を採用して、本件の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないということはできない。 (3) 更に、特許異議申立人は、同意見書の3エにおいて特許法第36条第4項第1号の要件違背として、上記「アミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウム」について、発明の詳細な説明にはアミノ化合物がどのような化合物であるのか、一切の説明や例示の記載がなく、当業者であっても追試することができないので、実施可能要件に適合しない旨の主張をしている。 しかしながら、例えば、本件発明の詳細な説明の段落【0007】に先行技術文献として挙げられている、特開2015-157250号公報において、「【0009】本発明でいう吸着剤はアルデヒド系化合物などのVOCを吸着できるものであればよく、その種類や組成などは適宜調整するが、例えば、酸化チタンや酸化亜鉛、あるいは、二酸化ケイ素にアミノ基を有する化合物が担持されてなる吸着剤を採用することができる。ここでいうアミノ基を有する化合物として、例えばアニリン等のアミノ基を有する芳香族系化合物や、下記化学構造式で表されるアミノ基を有する脂肪族系化合物などを挙げることができる。【0010】H_(2)N-(CH_(2)CH_(2)-NH)_(n)-CH_(2)CH_(2)NH_(2) (nは0以上3以下の整数)【0011】また、アミノ基を有する化合物が第1級アミノ基を有する化合物であると、アルデヒド系化合物などのVOCを吸着する能力に優れるため好ましい。」と記載されているように、アルデヒド吸着剤を修飾するアミノ化合物は、本件特許の出願当時において当業者に周知である。 また、本件発明の詳細な説明の記載に触れた当業者であれば、上記公報の当該記載から上記アミノ化合物を認識することは明らかであるといえる。 以上からすると、特許異議申立人の主張を採用して、本件の発明の詳細な説明が実施可能要件に適合しないということはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 エアフィルター濾材 【技術分野】 【0001】 本発明は、アルデヒド吸着性能を有するエアフィルター濾材に関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年、東アジア内陸部の砂漠、乾燥地域からの砂塵(黄砂)や、PM2.5、スギ、ヒノキなどの花粉の飛散、また、インフルエンザ等のウィルスによる感染症の流行が健康へ及ぼす影響から、窓を開けた室内空気の換気に代わり、空気清浄機やエアコンを用いて室内空気を浄化、調温、調湿する生活環境が多く見られる。特に、家庭や職場、自動車などの空間の快適性向上の機能に対する市場要望は強く、空気浄化装置の普及が進んでいるとともに、空気浄化装置に取り付けて使用するエアフィルター濾材には様々な高機能化を要望されている。 【0003】 室内の家具、自動車の内装、たばこの煙等から発生するホルムアルデヒドやアセトアルデヒドをはじめとする低級アルデヒド類は、いずれも刺激臭を伴う有害なガスである。ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドは、発癌性が疑われている他、シックハウス症候群の原因物質とされ、厚生労働省が濃度指針値を定める13種類の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、VOC)に分類されている。 【0004】 これらの背景から、室内や車内のアルデヒドガス濃度を速やかに低減させ、人やペットの健康を守るため、アルデヒド吸着性能を有するエアフィルター濾材に対するニーズが高まってきた。 【0005】 さらに、ユーザーの省エネに対する意識は以前に増して高まってきており、エアフィルター濾材の圧力損失の低減化は常に求められている。 【0006】 例えば、VOC吸着性能を高めるために、平均粒子径1μm以下の粒子を特定のバインダー比率で不織布に担持させた濾材(例えば、特許文献1)が開示されているが、その効果は未だ充分とは言えない。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】特開2015-157250号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明の課題は、アルデヒド吸着性能に優れ、かつ、圧力損失の低いエアフィルター濾材を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者が研究した結果、通気性基材と吸着剤とバインダーとを含むエアフィルター濾材において、バインダーの種類によりアルデヒド吸着性能をコントロールすることができ、吸着剤がマイクロメートルオーダーの平均粒子径を持つ多孔質粒子であることによって、より優れたアルデヒド吸着性能を発現することを見出した。 【0010】 すなわち、本発明は、 (1)通気性基材と吸着剤とバインダーとを含むエアフィルター濾材において、 前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子であり、前記多孔質粒子が、活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩、あるいはこれらの混合物であり、 前記バインダーが、スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダーであり、前記バインダーが、エマルジョンバインダーであり、その平均粒子径が100nm以上、200nm未満であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が5?60質量%であることを特徴とするエアフィルター濾材、 (2)バインダーがスチレン-アクリル系樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載のエアフィルター濾材、 である。 【発明の効果】 【0011】 本発明により、アルデヒド吸着性能に優れ、かつ、圧力損失の低いエアフィルター濾材を提供することができる。 【発明を実施するための形態】 【0012】 以下、本発明のエアフィルター濾材について詳細に説明する。本発明のエアフィルター濾材は、通気性基材と吸着剤とバインダーとを含み、吸着剤が平均粒子径1?50μmの多孔質粒子であり、バインダーが、スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダーであることを特徴とする。 【0013】 本発明において、吸着剤である多孔質粒子としては、活性炭、天然及び合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄などの鉄系化合物、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩など、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。これらの多孔質粒子がアミノ化合物で修飾されていることがより好ましい。 【0014】 本発明における多孔質粒子の平均粒子径について説明する。多孔質粒子の平均粒子径は、1?50μmであり、3?20μmであることがより好ましい。多孔質粒子の平均粒子径が1μm未満の場合、塗工液中の多孔質粒子が凝集しやすくなるため、塗工における固形分付着量がばらつくとともに、多孔質粒子が濾材から脱落しやすくなり、アルデヒド吸着性能が充分に発現されなくなる。バインダーの含有量を増やすことで、多孔質粒子の濾材からの脱落を抑制することはできるが、濾材を構成する繊維間の空隙が少なくなり、濾材の通気性が悪くなるとともに、多孔質粒子の表面がバインダーで過剰に被覆され、アルデヒド吸着性能が充分に発現されなくなる。多孔質粒子の平均粒子径が50μmより大きい場合、濾材を構成する繊維との接着面積が減少するため、多孔質粒子が濾材から脱落しやすくなり、アルデヒド吸着性能が充分に発現されなくなる。本発明では、多孔質粒子の平均粒子径は、1?20μmである。 【0015】 本発明において、バインダーは、スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダーであり、これらのバインダーの中から、1種、又は複数種の混合物を使用することができる。より高いアルデヒド吸着性能と、より低い圧力損失を両立させるには、スチレン-アクリル系樹脂であることが好ましい。 【0016】 バインダーはエマルジョンバインダーであることが好ましい。エマルジョンバインダーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、50?500nmであることが好ましく、100?200nmであることがより好ましい。エマルジョンバインダーの平均粒子径が50?500nmである場合の方が、塗工における固形分付着量が安定するためである。本発明では、エマルジョンバインダーの平均粒子径は、100nm以上、200nm未満である。 【0017】 本発明において、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定されるメジアン径(d50)を指す。 【0018】 バインダーの含有量は、特に限定されるものではないが、吸着剤に対し、固形分質量基準で、5?60質量%であることが好ましい。バインダーの含有量が5?60質量%である場合の方が、塗工における固形分付着量が安定するとともに、より高いアルデヒド吸着性能と、より低い圧力損失を両立できるためである。 【0019】 本発明の濾材に使用する通気性基材の材料としては、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、フェノール系繊維等の合成繊維、ガラス繊維、金属繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、活性炭素繊維等の無機繊維、木材パルプ、竹パルプ、麻パルプ、ケナフパルプ、藁パルプ、バガスパルプ、コットンリンターパルプ、木綿、羊毛、絹等の天然繊維、古紙再生パルプ、レーヨン等の再生セルロース繊維やコラーゲン等のタンパク質、アルギン酸、キチン、キトサン、澱粉等の多糖類等を原料とした再生繊維等、あるいは、これらの繊維に親水性や難燃性等の機能を付与した繊維等を単独又は組み合わせて使用することができる。 【0020】 本発明の濾材に使用する通気性基材の製造方法については特に制限はなく、目的・用途に応じて、乾式法、湿式抄造法、メルトブローン法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、エアレイド法、静電紡糸法等で得られたウェブを水流交絡法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法等の物理的方法、サーマルボンド法等の熱による接着方法、レジンボンド等の接着剤による接着方法で強度を発現させる方法を適宜組み合わせて製造することができる。 【0021】 本発明の濾材に使用する通気性基材の坪量は、特に限定されるものではないが、30?150g/m^(2)であることが好ましい。通気性基材の坪量が30g/m^(2)未満の場合は、吸着剤を十分に担持させられず、アルデヒド吸着性能が小さくなり過ぎる場合がある。通気性基材の坪量が150g/m^(2)を超えた場合は、圧力損失が高くなり過ぎる場合がある。 【0022】 本発明のエアフィルター濾材は、通気性基材に吸着剤をバインダーで担持させる方法によって製造される。吸着剤を担持させる方法としては、吸着剤を通気性基材にできるだけ均一に付着できる方法であれば、特に制限はない。吸着剤及びバインダーを含む分散液を塗工液として、通気性基材に、スクリーン印刷法、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、カーテンコート法、バーコート法、エアナイフ法、ホットメルト法、グラビアコート法、刷毛塗り法、オフセット印刷法等の塗工方法によって通気性基材に付与し、溶媒や分散媒を乾燥等により除去して担持させる方法が例示される。 【0023】 本発明において、吸着剤の固形分付着量は、基材に対して、3?25g/m^(2)であることが好ましい。吸着剤の固形分付着量が3g/m^(2)を下回る場合は、アルデヒド吸着性能が小さくなり過ぎる場合がある。25g/m^(2)を超えると、アルデヒド吸着性能は十分であるが、経済的に見合わない場合がある。より好ましい固形分付着量は、5?20g/m^(2)である。 【0024】 なお、必要に応じて、本発明の趣旨を逸脱せず、他の性能を付加する目的において、脱臭、抗菌、防カビ、抗ウィルス、防虫、殺虫、消臭、芳香、感温、保温、蓄温、蓄熱、発熱、吸熱、防水、耐水、撥水、疎水、親水、除湿、調湿、吸湿、撥油、親油、油等の吸着、及び水や揮発性薬剤等の蒸散又は徐放等の各種機能をエアフィルター濾材に付加することもできる。 【0025】 本発明のエアフィルター濾材は、空調機、空気清浄機、掃除機、除湿機、乾燥機、加湿機、換気扇、扇風機、熱交換装置等の機械による強制給排気による空気処理装置に装着使用することにより、空間内のアルデヒドガスの吸着に好ましい効果が得られる。あるいは、自然給排気のための外気流入口(通気口や窓等)に本発明のエアフィルター濾材を用いてもよい。 【実施例】 【0026】 以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を示す。なお、実施例3、4、6、7、8、9?12及び15は参考例である。 【0027】 (平均粒子径) 多孔質粒子の平均粒子径及びエマルジョンバインダーの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置(日機装社製、商品名:マイクロトラック(登録商標)MT3300型)を用いて、メジアン径(d50)を測定した。多孔質粒子の平均粒子径の単位はμm、エマルジョンバインダーの平均粒子径の単位はnmである。 【0028】 (実施例1) 通気性基材としてポリエステルスパンボンド不織布(坪量50g/m^(2))を用い、吸着剤である多孔質粒子として平均粒子径1μmのアミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウムと、バインダーとして平均粒子径150nmのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンバインダーとを水に分散し、混合撹拌してなる塗工液を、サイズプレス処理で通気性基材に塗工し、120℃で乾燥することにより、実施例1のエアフィルター濾材を作成した。塗工において、吸着剤の固形分付着量(目標値)は10g/m^(2)であり、バインダーの固形分付着量(目標値)は3g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量は30%であった。 【0029】 (実施例2) 多孔質粒子として平均粒子径10μmのアミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウムを用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例2のエアフィルター濾材を作製した。 【0030】 (実施例3) 多孔質粒子として平均粒子径50μmのアミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウムを用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例3のエアフィルター濾材を作製した。 【0031】 (実施例4) バインダーとして平均粒子径200nmのシリコーン系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、実施例4のエアフィルター濾材を作製した。 【0032】 (実施例5) バインダーとして平均粒子径170nmの塩化ビニル-アクリル系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、実施例5のエアフィルター濾材を作製した。 【0033】 (実施例6) バインダーとして平均粒子径30nmのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、実施例6のエアフィルター濾材を作製した。 【0034】 (実施例7) バインダーの固形分付着量が6g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が60%である以外は、実施例6と同様にして、実施例7のエアフィルター濾材を作製した。 【0035】 (実施例8) バインダーとして平均粒子径50nmの塩化ビニル-アクリル系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、実施例8のエアフィルター濾材を作製した。 【0036】 (実施例9) バインダーとして平均粒子径500nmの塩化ビニル-アクリル系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、実施例9のエアフィルター濾材を作製した。 【0037】 (実施例10) バインダーとして平均粒子径600nmの塩化ビニル-アクリル系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、実施例10のエアフィルター濾材を作製した。 【0038】 (実施例11) バインダーの固形分付着量が6g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が60%である以外は、実施例10と同様にして、実施例11のエアフィルター濾材を作製した。 【0039】 (実施例12) バインダーの固形分付着量が0.3g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が3%である以外は、実施例2と同様にして、実施例12のエアフィルター濾材を作製した。 【0040】 (実施例13) バインダーの固形分付着量が0.5g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が5%である以外は、実施例2と同様にして、実施例13のエアフィルター濾材を作製した。 【0041】 (実施例14) バインダーの固形分付着量が6g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が60%である以外は、実施例2と同様にして、実施例14のエアフィルター濾材を作製した。 【0042】 (実施例15) バインダーの固形分付着量が7g/m^(2)であり、吸着剤に対するエマルジョンバインダーの含有量が70%である以外は、実施例2と同様にして、実施例15のエアフィルター濾材を作製した。 【0043】 (比較例1) 多孔質粒子として平均粒子径0.1μmのアミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウムを用いる以外は、実施例2と同様にして、比較例1のエアフィルター濾材を作製した。 【0044】 (比較例2) バインダーの固形分付着量が6g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が60%である以外は、比較例1と同様にして、比較例2のエアフィルター濾材を作製した。 【0045】 (比較例3) バインダーの固形分付着量が0.5g/m^(2)であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が5%である以外は、比較例1と同様にして、比較例3のエアフィルター濾材を作製した。 【0046】 (比較例4) 多孔質粒子として平均粒子径80.0μmのアミノ化合物で修飾されたケイ酸アルミニウムを用いる以外は、実施例2と同様にして、比較例4のエアフィルター濾材を作製した。 【0047】 (比較例5) バインダーとして平均粒子径200nmのウレタン系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、比較例5のエアフィルター濾材を作製した。 【0048】 (比較例6) バインダーとして平均粒子径600nmのエチレン-酢酸ビニル系樹脂エマルジョンバインダーを用いる以外は、実施例2と同様にして、比較例6のエアフィルター濾材を作製した。 【0049】 (比較例7) 吸着剤を含有させない以外は、実施例2と同様にして、比較例7のエアフィルター濾材を作製した。バインダーの固形分付着量は3g/m^(2)、つまり、実施例2と同量である。 【0050】 (比較例8) バインダーを含有させない以外は、実施例2と同様にして、比較例8のエアフィルター濾材を作製した。 【0051】 上記により作製した実施例1?15及び比較例1?8のエアフィルター濾材について、以下に示す評価方法により評価を行った。なお、各評価について、温度、湿度の記載がない場合はすべて25℃、50%RH(相対湿度)の環境で行った。 【0052】 (塗工における固形分付着量のばらつき) 実施例1?15、比較例1?8のエアフィルター濾材を作製する工程をそれぞれ30回実施し、それぞれの濾材について、塗工における固形分付着量を算出し、標準偏差σを求めることで、固形分付着量のばらつきを評価した。固形分付着量の単位はg/m^(2)である。標準偏差σが「◎:1未満」、「○:1以上2未満」、「×:2以上」として、本発明においては、◎及び○を発明の対象とする。好ましくは◎であることが、塗工の処理ムラが少ないため、良好な脱臭性能を発現できると言える。 【0053】 (吸着剤の脱落) 実施例1?15、比較例1?6及び8で得た濾材を、それぞれ10cm×10cmの大きさに裁断して検体とし、個々に評価した。実験台上で、A4サイズの黒色画用紙の上に検体を置き、検体の上方5cmの高さから200gの分銅を3回鉛直落下させ、黒色画用紙上に脱落した吸着剤の量を目視評価した。吸着剤が「◎:脱落していない」、「○:少し脱落する」、「×:多く脱落する」として、本発明においては、◎及び○を発明の対象とする。好ましくは◎であることが、吸着剤が濾材から脱落しないため、より良好なアルデヒド吸着性能を有すると言える。 【0054】 (アセトアルデヒド吸着性能試験) 実施例1?15及び比較例1?8で得た濾材を、それぞれ10cm×10cmの大きさに裁断して検体とし、個々に試験した。検体を5リットルの臭気袋に入れて密閉し、アセトアルデヒドガスを10ppm注入して30分後の臭気袋中のアセトアルデヒド濃度をガス検知管で測定した。30分後の臭気袋中のアセトアルデヒド濃度が「◎:1ppm未満」、「○:1ppm以上2ppm未満」、「×:2ppm以上」として3段階で評価した。本発明においては、◎及び○を発明の対象とする。好ましくは◎であることが、より多くのアセトアルデヒドガスを吸着するため、濾材の寿命が長いと言える。 【0055】 (圧力損失の評価) JIS B 9908に準じて、実施例1?15及び比較例1?8で得た濾材の圧力損失を、風速5.3cm/秒にて測定した。圧力損失が「◎:6Pa未満」、「○:6Pa以上12Pa未満」、「×:12Pa以上」として3段階で評価した。本発明においては、◎及び○を発明の対象とする。好ましくは◎であることが、より良好な通気性を有すると言える。 【0056】 実施例1?15及び比較例1?8の構成を表1に示す。 【0057】 【表1】 【0058】 実施例1?15及び比較例1?8の評価結果を表2に示す。 【0059】 【表2】 【0060】 表2の結果から明らかなように、吸着剤が平均粒子径1?50μmの多孔質粒子であり、前記バインダーが、スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダーである、実施例1?15のエアフィルター濾材では、塗工における固形分付着量のばらつきが小さく、吸着剤の脱落を抑えられ、良好なアルデヒド吸着性能を発現しながら、圧力損失が低いことがわかる。 【0061】 これに対し、吸着剤である多孔質粒子の平均粒子径が1μm未満である比較例1?3のエアフィルター濾材では、塗工における固形分付着量のばらつきが大きく、アセトアルデヒド吸着性能が低いことがわかる。吸着剤である多孔質粒子の平均粒子径が50μm超である比較例4のエアフィルター濾材では、吸着剤が脱落し、アセトアルデヒド吸着性能が低いことがわかる。バインダーがウレタン系樹脂である比較例5のエアフィルター濾材では、アセトアルデヒド吸着性能が低いことがわかる。バインダーがエチレン-酢酸ビニル系樹脂である比較例6のエアフィルター濾材では、塗工における固形分付着量のばらつきが大きく、吸着剤が脱落し、アセトアルデヒド吸着性能が低いことがわかる。吸着剤が含有されていない比較例7のエアフィルター濾材では、アセトアルデヒド吸着性能が低く、バインダーが含有されていない比較例8のエアフィルター濾材では、塗工における固形分付着量のばらつきが大きく、吸着剤が脱落し、アセトアルデヒド吸着性能が低いことがわかる。 【0062】 実施例2、4及び5の結果から、バインダーが塩化ビニル-アクリル系樹脂である実施例5のエアフィルター濾材よりも、バインダーがスチレン-アクリル系樹脂である実施例2のエアフィルター濾材の方が、圧力損失が低いことがわかる。また、バインダーがシリコーン系樹脂である実施例4のエアフィルター濾材よりも、バインダーがスチレン-アクリル系樹脂である実施例2のエアフィルター濾材の方が、良好なアセトアルデヒド吸着性能を発現することがわかる。 【0063】 実施例5、8?10の結果から、エマルジョンバインダーの平均粒子径が500nmを超えている実施例10のエアフィルター濾材と比較して、エマルジョンバインダーの平均粒子径が50?500nmである実施例5、8及び9のエアフィルター濾材の方が、吸着剤が脱落しにくく、良好なアセトアルデヒド吸着性能を発現することがわかる。 【0064】 実施例2及び6の結果から、エマルジョンバインダーの平均粒子径が50nm未満である実施例6のエアフィルター濾材と比較して、エマルジョンバインダーの平均粒子径が50?500nmである実施例2のエアフィルター濾材の方が、塗工における固形分付着量のばらつきが小さく、良好なアセトアルデヒド吸着性能を発現することがわかる。 【0065】 実施例12?15の結果から、吸着剤に対するバインダーの含有量が5質量%未満である実施例12のエアフィルター濾材と比較して、吸着剤に対するバインダーの含有量が5質量%である実施例13のエアフィルター濾材の方が、塗工における固形分付着量のばらつきが小さいことがわかる。また、吸着剤に対するバインダーの含有量が60質量%超である実施例15のエアフィルター濾材と比較して、吸着剤に対するバインダーの含有量が60質量%である実施例14のエアフィルター濾材の方が、塗工における固形分付着量のばらつきが小さく、良好なアルデヒド吸着性能を発現することがわかる。 【産業上の利用可能性】 【0066】 本発明のエアフィルター用濾材はビル、工場、自動車、一般家庭などで使用される空調機や空気清浄機などに使用されるエアフィルターに利用できる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 通気性基材と吸着剤とバインダーとを含むエアフィルター濾材において、 前記吸着剤が平均粒子径1?20μmの多孔質粒子であり、前記多孔質粒子が、活性炭、天然もしくは合成ゼオライト、活性アルミナ、活性白土、セピオライト、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、シリカ-酸化亜鉛複合物、シリカ-アルミナ-酸化亜鉛複合物、複合フィロケイ酸塩、あるいはこれらの混合物であり、 前記バインダーが、スチレン-アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のバインダーであり、前記バインダーが、エマルジョンバインダーであり、その平均粒子径が100nm以上、200nm未満であり、吸着剤に対するバインダーの含有量が5?60質量%であることを特徴とするエアフィルター濾材。 【請求項2】 バインダーがスチレン-アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルター濾材。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-10-20 |
出願番号 | 特願2016-47827(P2016-47827) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A61L)
P 1 651・ 536- YAA (A61L) P 1 651・ 121- YAA (A61L) P 1 651・ 537- YAA (A61L) P 1 651・ 851- YAA (A61L) P 1 651・ 853- YAA (A61L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松井 一泰 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 村岡 一磨 |
登録日 | 2019-08-16 |
登録番号 | 特許第6571564号(P6571564) |
権利者 | 三菱製紙株式会社 |
発明の名称 | エアフィルター濾材 |
代理人 | 奥貫 佐知子 |
代理人 | 鹿角 剛二 |
代理人 | 奥貫 佐知子 |
代理人 | 白石 泰三 |
代理人 | 小野 尚純 |
代理人 | 鹿角 剛二 |
代理人 | 小野 尚純 |
代理人 | 大島 正孝 |
代理人 | 大島 正孝 |
代理人 | 白石 泰三 |