• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1369994
異議申立番号 異議2020-700110  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-26 
確定日 2020-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6573487号発明「ポリアミド系フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6573487号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6573487号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6573487号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年6月4日を出願日とする出願であって、令和元年8月23日にその特許権の設定登録がされ、令和元年9月11日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立て以降の経緯は次のとおりである。

令和2年2月26日 特許異議申立人渋谷都(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年5月7日付け 取消理由通知
令和2年6月26日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、当該訂正請求書による訂正の請求がされたので、期間を指定して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたが、当該期間内に申立人からはなんら応答がなかった。

第2 訂正の適否
1. 訂正の内容
特許権者が令和2年6月26日に提出した訂正請求書(以下「本件訂正請求書」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を引いて示すと次のとおりである。
(1) 訂正事項1
訂正前の請求項1に
「前記熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、及びアイオノマー重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性エラストマーであり、」あるのを、
「前記熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、及びポリ塩化ビニル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性エラストマーであり、」
と訂正する。
また、訂正前の請求項1を引用する請求項2?4も同様に訂正する。

2. 一群の請求項
本件訂正前の請求項2?4は、いずれも直接的あるいは間接的に請求項1を引用する請求項であるから、本件訂正後の請求項〔1-4〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に、「熱可塑性エラストマー」について、その種類が選択肢として記載されているところ、その選択肢の一部である「アイオノマー重合体」を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された選択肢の一部を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(2) 本件訂正についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2に示したとおり、本件訂正の請求は認められたから、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくともポリアミド層(A)、ポリアミド層(B)及びバリア層(C)がこの順に積層されているポリアミド系フィルムであって、
前記ポリアミド層(A)は、脂肪族ポリアミドを含有し、
前記ポリアミド層(B)は、ポリアミドを86?98重量%、及び耐屈曲剤を2?14重量%含有し、前記ポリアミドはナイロン-6からなり、前記耐屈曲剤は熱可塑性エラストマーであり、前記熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、及びポリ塩化ビニル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性エラストマーであり、
前記バリア層(C)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含有する、
ポリアミド系フィルム。
【請求項2】
前記ポリアミド層(B)に含まれるポリアミドは、JIS K6920に準拠した測定方法により、96%H_(2)SO_(4)、1.0g/100ml、温度25℃の条件で測定した相対粘度が2.5?4.5のポリアミドである、請求項1に記載のポリアミド系フィルム。
【請求項3】
前記バリア層(C)に含まれるエチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン含量が20?50モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体である、請求項1又は2に記載のポリアミド系フィルム。
【請求項4】
前記ポリアミド系フィルムにおいて、前記ポリアミド層(A)、前記ポリアミド層(B)及び前記バリア層(C)は、A/B/Cの順で直接積層されてなる3層積層体、A/B/C/Bの順で直接積層されてなる4層積層体、又はA/B/C/B/Aの順で直接積層されてなる5層積層体である、請求項1?3のいずれかに記載のポリアミド系フィルム。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?4に係る発明に対して、当審が令和2年5月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
【理由1】(新規性)
本件特許の下記の請求項に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。



本件特許異議申立人が特許異議申立書に添付して提出した甲第1号証等を、以下「甲1」等という。また、甲1等に記載された発明を、「甲1発明」等という。

<引 用 文 献 等 一 覧>
甲1:特開2006-192592号公報

・本件発明1?4について
・備考
本件発明1?4の各々は、甲1に記載された発明である。

第5 当審の判断
1. 本件発明1について
(1) 甲1
甲1には、段落【請求項1】、【請求項6】、【請求項7】、【0026】、【0028】、【0050】、【0054】の記載がある。
それらを総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「滑剤を含むポリアミド層、柔軟剤を含むポリアミド層、及びガスバリア層を含み、該滑剤を含むポリアミド層が最外層であるポリアミド系多層フィルムであって、滑剤を含むポリアミド層、柔軟剤を含むポリアミド層、及びガスバリア層がこの順で積層されており、(a)ASTM D-1894に準拠したポリアミド系多層フィルムの最外層面同士の動摩擦係数(25℃×80%RH)が0.40以下であり、かつ(b)5℃×1,000回のゲルボフレックス試験で発生するピンホールの個数が8個/300cm^(2)以下であるポリアミド系多層フィルムであって、前記ポリアミド層はナイロン-6であり、ガスバリア層は、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)である、ポリアミド系多層フィルム。」

(2) 対比
ア. 甲1発明の「滑剤を含むポリアミド層」は、本件発明1の「ポリアミド層(A)」に相当する。
イ. 甲1発明の「柔軟剤を含むポリアミド層」は、本件発明1の「ポリアミド層(B)」と、「ポリアミド」を含有する層である限りで一致する。
ウ. 甲1発明の「ガスバリア層」は、本件発明1の「バリア層(C)」に相当する。
エ. 甲1発明の「ポリアミド系多層フィルム」は本件発明1の「ポリアミド系フィルム」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下の点で少なくとも一致し、また、相違する。

<一致点>
少なくともポリアミド層(A)、ポリアミド層(B)及びバリア層(C)がこの順に積層されているポリアミド系フィルムであって、
前記ポリアミド層(A)は、脂肪族ポリアミドを含有し、
前記ポリアミド層(B)は、ポリアミドを含有し、
前記バリア層(C)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含有する、ポリアミド系フィルム。

<相違点>
本件発明1の「ポリアミド層(B)」は、「ポリアミドを86?98重量%、及び耐屈曲剤を2?14重量%含有し、前記ポリアミドはナイロン-6からなり、前記耐屈曲剤は熱可塑性エラストマーであり、前記熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、及びポリ塩化ビニル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性エラストマー」であるのに対し、甲1発明の「柔軟剤を含むポリアミド層」は、そのようなものではない点。

(3) 相違点についての検討
ア. 甲1の【請求項4】の「柔軟剤が、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン-メタクリル酸共重合アイオノマーである請求項1、2又は3に記載のポリアミド系多層フィルム」、及び、段落【0051】の「ポリアミド層Bに含まれる柔軟剤としては、多層フィルムの耐ピンホール性を向上させるために用いられるものであれば特に限定はない。柔軟剤の具体例としては、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合アイオノマーなどが例示される。・・・」という記載から、甲1発明の「柔軟剤」には、具体的にエチレンメタクリル酸共重合アイオノマーが採用でき、そして、かかるアイオノマー重合体が熱可塑性エラストマーであることは技術常識である。
しかしながら、本件訂正によって、本件発明1に特定された熱可塑性エラストマーの選択肢から「アイオノマー重合体」は削除された。したがって、甲1発明の「柔軟剤」として採用され得る「アイオノマー重合体」の熱可塑性エラストマーが、本件発明1の熱可塑性エラストマーの選択肢に含まれないものとなったため、上記相違点は形式的な相違点であるとはいえず、実質的な相違点である。
イ. よって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえなから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。

(4) 小括
よって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない発明あるとはいえず、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。

2. 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的あるいは間接的に引用する発明であるから、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものである。そして、本件発明1が、上記1.に示したように、甲1に記載された発明ではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2?4も、甲1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

第6 取消理由通知で通知しなかった申立理由についての検討
1. 取消理由通知で通知しなかった申立理由
(1) 【申立理由1】特許法第29条第2項(甲1発明を主たる引用発明とした進歩性)
・本件発明1?4
・備考
本件発明1?4は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 【申立理由2】特許法第29条第2項(甲1発明を主たる引用発明とした進歩性)
・本件発明1?4
・備考
本件発明1?4は、甲1発明及び甲3?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3) 【申立理由3】特許法第29条第1項第3号、同法同条第2項(甲7発明を主たる引用発明とした新規性及び進歩性)
・本件発明1?4
・備考
本件発明1?4は、甲7発明である。また、仮に甲7発明であるとはいえなくとも、甲7発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4) 【申立理由4】特許法第29条第2項(甲7発明を主たる引用発明とした進歩性)
・本件発明1?4
・備考
本件発明1?4は、甲7発明及び甲3?6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5) 【申立理由5】特許法第29条第2項(甲3発明を主たる引用発明とした進歩性)
・本件発明1?4
・備考
本件発明1?4は、甲3発明、甲1に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(6) 【申立理由6】特許法第29条第2項(甲5発明を主たる引用発明とした進歩性)
・本件発明1?4
・備考
本件発明1?4は、甲5発明、甲1に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(7) 【申立理由7】特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号
ア. 本件発明の特定事項であるポリアミド層(A)において、層を構成するポリアミドは、「脂肪族ポリアミドを含有し」と特定されている。しかし、本件特許明細書の【0052】、【0055】及び実施例の記載から、ポリアミド層(A)は、多量の脂肪族ポリアミドと、少量の芳香族ポリアミドを構成成分として含有しないと、本件発明の効果が奏されない蓋然性が高い。
イ. また、本件特許請求の範囲の記載から、ポリアミドのうち、ほとんどが芳香族ポリアミドである配合割合のものも包含し得るが、芳香族ポリアミドは脂肪族ポリアミドに比べて耐ピンホール性が劣るとの技術常識に鑑みると、ほとんどが芳香族ポリアミドであるものは、本件発明の効果が奏されない蓋然性が高いといえる。
ウ. そうすると、本件発明のようにポリアミド層(A)について、脂肪族ポリアミドの含有のみを特定し、その含有量その他の配合成分を特定しない範囲のものについてまで、本件発明を拡張ないし一般化することはできない。
エ. したがって、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。よって、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではない。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものではない。

2. 当審の判断
(1) 【申立理由1】について
上記第5の1.(3)ア.に示したように、本件訂正後の本件発明1の「熱可塑性エラストマー」についての選択肢から、「アイオノマー重合体」は削除された。そして、甲1には、「変性エチレン-酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン-メタクリル酸共重合アイオノマー」を、柔軟剤として使う旨記載されているけれども、アイオノマーではなく、他の当該選択肢で特定された化合物を柔軟剤として採用することの記載はないし、示唆する記載もない。
そうすると、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(2) 【申立理由2】について
上記(1)に示したように、甲1には、上記「アイオノマー」に代えて、本件訂正後の本件発明1で特定された「選択肢」に含まれる化合物を柔軟剤として採用することの記載はないし、示唆する記載もない。また、甲3?6においても、記載はないし、示唆する記載もない。
そうすると、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲1発明及び甲3?6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 【申立理由3】について
甲7には、「更に、フィルムの耐ピンホール性を向上させるために、フィルムに柔軟性を付与する成分を混合することもできる。例えば、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマーなどが例示される。」(7ページ29行?8ページ3行)という記載がある。
そうすると、本件発明1と甲7発明との間には、上記第5の1.(3)ア.で示したのと同様な実質的な相違点があるといえるから、本件発明1は、甲7発明であるとはいえない。
そして、甲7には、甲7に記載された上記「アイオノマー」を、本件訂正後の本件発明1で特定された「選択肢」に含まれる化合物を柔軟剤として採用することの記載はないし、示唆する記載もない。
そうすると、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(4) 【申立理由4】について
上記(3)に示したように、甲7には、上記「アイオノマー」を、本件訂正後の本件発明1で特定された「選択肢」に含まれる化合物を柔軟剤として採用することの記載はないし、示唆する記載もない。また、甲3?6においても、記載はないし、示唆する記載もない。
そうすると、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲7発明及び甲3?6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5) 【申立理由5】について
【申立理由5】は、甲3に記載された「変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー プリマロイ〇R-AP」(当審注:「〇R」は、登録商標であることを示す「R」を丸で囲んだものを代用表記したものである。)を主たる引用発明としたものであるが、「変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー プリマロイ〇R-AP」は、エラストマーそのものであって、多層フィルムではない。
そうすると、本件発明1のように、「ポリアミド系フィルム」を、「少なくともポリアミド層(A)、ポリアミド層(B)及びバリア層(C)がこの順に積層」したものとし、さらに、「前記ポリアミド層(A)は、脂肪族ポリアミドを含有し」、「前記ポリアミド層(B)は、ポリアミドを86?98重量%、及び耐屈曲剤を2?14重量%含有し、前記ポリアミドはナイロン-6からなり、前記耐屈曲剤は熱可塑性エラストマーであり、前記熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、及びポリ塩化ビニル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性エラストマー」とし、さらに「前記バリア層(C)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含有」したものとすることに、甲3発明には動機付けがあるとはいえない。
そうすると、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲3発明、甲1に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができたものであるとはいえない。

(6) 【申立理由6】について
【申立理由6】は、甲5に記載された「ポリアミドフィルム」を主たる引用発明としたものであるが、甲5に記載された「ポリアミドフィルム」は、本件発明1のように多層フィルムではない。そうすると、甲5に記載された「ポリアミドフィルム」において、上記(5)に示した本件発明1に特定された「ポリアミド層(A)」、「ポリアミド層(B)」及び「バリア層(C)」を採用することの動機付けが、甲5発明にもあるとはいえない。
そうすると、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲5発明、甲1に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(7) 【申立理由7】について
本件特許公報の記載から、本件特許発明が解決しようとする課題は、
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、屈曲によるタイピンオール性及び繰り返し接触によるタイピンホール性に優れ、且つ、耐突刺し性に優れたポリアミド系フィルムを提供すること」である。
そして、本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0016】 ポリアミドとしては特に限定されず、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドを用いることができる。これらの中でも、繰り返し接触による耐ピンホール性及び耐突刺し性により優れる点で、脂肪族ポリアミドが好ましい。」
「【0049】ポリアミド層(A) 本発明のポリアミド系フィルムは、上記ポリアミド層(B)の少なくとも一方面上に、脂肪族ポリアミドを含有するポリアミド層(A)が積層されていることが好ましい。上述の構成とすることにより、本発明のポリアミド系フィルムの繰り返し接触による耐ピンホール性、及び耐突刺し性をより向上させることができる。
【0050】 ポリアミド層(A)が含有する脂肪族ポリアミドとしては、上記ポリアミド層(B)において説明した脂肪族ポリアミドを用いることができる。
【0051】 ポリアミド層(A)中の脂肪族ポリアミドの含有量は、ポリアミド層(A)全体の重量を100重量%として70?100重量%が好ましく、85?100重量%がより好ましい。ポリアミド層(A)中の脂肪族ポリアミドの含有量を上記範囲とすることにより、本発明のポリアミド系フィルムの繰り返し接触による耐ピンホール性をより向上させることができる。
【0052】 ポリアミド層(A)は、更に、芳香族ポリアミドを含有することが好ましい。ポリアミド層(A)が芳香族ポリアミドを含有することにより、本発明のポリアミド系フィルムがより優れた延伸製膜性を示すことができる。」
そうすると、本件発明のポリアミド層(A)には、脂肪族ポリアミドの他に、芳香族ポリアミドを含有させることができるものの、それによって得られるのは「優れた延伸製膜性」であって、上記本件課題の解決に寄与するのは、脂肪族ポリアミドによるものであるといえる。
したがって、本件発明1には、「前記ポリアミド層(A」に含有される脂肪族ポリアミドの具体的な数値は特定されていないけれども、脂肪族ポリアミドが含有されているだけで、されていない場合に比較して上記本件発明の課題を解決するものであるといえるし、また、課題が解決できないほど、脂肪族ポリアミドの含有量が少ないものは、本件発明1のポリアミド系フィルムとして想定されるものであるとはいえない。
さらに、本件特許明細書段落【0103】の【表3】、【0104】の【表4】に記載された実施例8?20は、いずれもポリアミド層(A)として、脂肪族ポリアミドを含むものであるが、その全ての実施例において「突き刺し性(N)」は、、「本発明のポリアミド系フィルムでは、JIS Z-1707(1997)に準拠した測定方法により測定した突刺し強度が好ましくは11.0N以上、より好ましくは12.0N以上で」(本件特許明細書段落【0081】)である。また、「耐屈曲性試験(個)」の「23℃」及び「25℃」は、いずれも、「-25℃の条件下において1000回屈曲の耐ピンホール性の評価で発生するピンホール数が好ましくは40個以下、より好ましくは15個以下、更に好ましくは12個以下、特に好ましくは9個以下である。また、23℃条件下において1000回屈曲の耐ピンホール性の評価で発生するピンホール数が好ましくは0個である」(同【0082】)である。よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題を解決する実施例が記載されている。
以上のとおりであるから、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2?4は、本件特許の特許請求の範囲に記載されたものではないとはいえないので、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとはいえず、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないとはいえないから、【申立理由7】に係る申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアミド層(A)、ポリアミド層(B)及びバリア層(C)がこの順に積層されているポリアミド系フィルムであって、
前記ポリアミド層(A)は、脂肪族ポリアミドを含有し、
前記ポリアミド層(B)は、ポリアミドを86?98重量%、及び耐屈曲剤を2?14重量%含有し、前記ポリアミドはナイロン-6からなり、前記耐屈曲剤は熱可塑性エラストマーであり、前記熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、及びポリ塩化ビニル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性エラストマーであり、
前記バリア層(C)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含有する、
ポリアミド系フィルム。
【請求項2】
前記ポリアミド層(B)に含まれるポリアミドは、JIS K6920に準拠した測定方法により、96%H_(2)SO_(4)、1.0g/100ml、温度25℃の条件で測定した相対粘度が2.5?4.5のポリアミドである、請求項1に記載のポリアミド系フィルム。
【請求項3】
前記バリア層(C)に含まれるエチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン含量が20?50モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体である、請求項1又は2に記載のポリアミド系フィルム。
【請求項4】
前記ポリアミド系フィルムにおいて、前記ポリアミド層(A)、前記ポリアミド層(B)及び前記バリア層(C)は、A/B/Cの順で直接積層されてなる3層積層体、A/B/C/Bの順で直接積層されてなる4層積層体、又はA/B/C/B/Aの順で直接積層されてなる5層積層体である、請求項1?3のいずれかに記載のポリアミド系フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-30 
出願番号 特願2015-114090(P2015-114090)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛赤澤 高之石塚 寛和  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 久保 克彦
横溝 顕範
登録日 2019-08-23 
登録番号 特許第6573487号(P6573487)
権利者 グンゼ株式会社
発明の名称 ポリアミド系フィルム  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ