• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01F
管理番号 1369996
異議申立番号 異議2019-700491  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-19 
確定日 2020-11-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6440880号発明「低Bの希土類磁石」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6440880号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-12〕について訂正することを認める。 特許第6440880号の請求項1、2、4ないし12に係る特許を維持する。 特許第6440880号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6440880号の請求項1ないし12に係る発明についての出願は、2014年11月26日(優先権主張2013年11月27日、中国)を国際出願日とする出願である特願2016-535145号の一部を平成30年3月23日に新たな特許出願としたものであって、平成30年11月30日にその特許権が設定登録され、平成30年12月19日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 1年 6月19日 :特許異議申立人宇佐川ゆり子により請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 1年 9月25日付け:取消理由通知
令和 1年12月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 2月13日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 2年 5月19日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 2年 8月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、令和2年8月17日に訂正の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和1年12月26日になされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年8月17日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6440880号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-12〕について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:R:13.5at%?14.5at%、B:5.2at%?5.6at%、Cu:0.3at%?0.8at%、Co:0.3at%?3at%、及び残量のTと不可避の不純物とを含有し、」と記載されているのを、「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:R:13.5at%?14.5at%、B:5.2at%?5.6at%、Cu:0.6at%?0.8at%、Co:0.3at%?3at%、及び残量のTと不可避の不純物とを含有し、前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され、」に訂正し、特許請求の範囲の請求項1に「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、前記Tは主にFeを含む元素であることを特徴とする低Bの希土類磁石。」と記載されているのを、「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、前記Tは主にFeを含む元素であり、前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下であり、前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であることを特徴とする低Bの希土類磁石。」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び4ないし8も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%?1.0at%であり、前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下、Cの含有量が1at%以下、及びNの含有量が0.5at%以下に制御される」と記載されているのを、「前記不可避の不純物において、Cの含有量が1at%以下、及びNの含有量が0.5at%以下に制御される」と訂正する。
請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4ないし8も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であり、前記高Cu相結晶と前記中Cu相結晶の合計含有量は粒界組成の65体積%以上を占めることを特徴とする請求項3に記載の低Bの希土類磁石。」と記載されているのを、「前記高Cu相結晶と前記中Cu相結晶の合計含有量は粒界組成の65体積%以上を占めることを特徴とする請求項1又は2に記載の低Bの希土類磁石。」と訂正する。
請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5ないし7も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:R:13.5at%?14.5at%、B:5.2at%?5.8at%、Cu:0.3at%?0.8at%、Co:0.3at%?3at%、及び残量のTと不可避の不純物を含有し、前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、」と記載されているのを、「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:R:13.5at%?14.5at%、B:5.2at%?5.8at%、Cu:0.6at%?0.8at%、Co:0.3at%?3at%、及び残量のTと不可避の不純物を含有し、前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され、」に訂正し、特許請求の範囲の請求項9に「前記Tは主にFeを含む元素であり、且つ、前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散したことを特徴とする低Bの希土類磁石。」と記載されているのを、「前記Tは主にFeを含む元素であり、前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下であり、前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であり、前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散したことを特徴とする低Bの希土類磁石。」と訂正する。
請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10ないし12も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「前記RHはDy、Ho又はTbから選ばれる少なくとも一種であり、前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%?1.0 at%であり、前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下、Cの含有量が1at%以下及びNの含有量が0.5at%以下に制御される」と記載されているのを、「前記RHはDy、Ho又はTbから選ばれる少なくとも一種であり、前記不可避の不純物において、Cの含有量が1at%以下及びNの含有量が0.5at%以下に制御される」と訂正する。

(7)一群の請求項
上記訂正事項1ないし4に係る本件訂正前の請求項1ないし8について、請求項2ないし8は請求項1を直接又は間接的に引用しており、上記訂正事項5ないし6に係る本件訂正前の請求項9ないし12について、請求項10ないし12は請求項9を直接又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし8に対応する本件訂正の請求項〔1-8〕と、本件訂正前の請求項9ないし12に対応する本件訂正の請求項〔9-12〕はそれぞれ、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた原料成分「Cu」について、「Cu:0.3at%?0.8at%」とあったのを「Cu:0.6at%?0.8at%」に限定し、訂正前の請求項1に記載されていた「不可避の不純物」について、「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され、」と限定し、訂正前の請求項1に記載されていた原料成分「T」について、「前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下であり」と限定するものである。
また、訂正前の請求項1に記載されていた「希土類磁石」について、「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」と限定するものである。
よって、訂正事項1は、請求項1について、特許請求の範囲を減縮するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び4ないし8も同様に、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
「Cu:0.6」であることは、明細書の段落【0021】の表5の実施例3、段落【0026】の表7、段落【0041】の表13の実施例3に記載されている。
「前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%?1.0at%であり、前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下、Cの含有量が1at%以下、及びNの含有量が0.5at%以下に制御される」ことは、訂正前の請求項2および明細書の段落【0008】に記載されている。
また、「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ」ることは、訂正前の請求項3および明細書の段落【0006】に、「前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であ」ることは、訂正前の請求項4および明細書の段落【0007】に記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正により請求項1が訂正されたことにともない、請求項2の重複する記載を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項2は、重複する記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9条で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、上記訂正事項1に係る訂正により請求項1が訂正されたことにともない請求項4の重複する記載を削除するとともに、訂正事項3に係る訂正により請求項3が削除されたことにともない「請求項3に記載の低Bの希土類磁石」と記載されているのを「請求項1又は2に記載の低Bの希土類磁石」と訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項4は、重複する記載を削除するとともに、従属先の請求項を整理するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項9に記載されていた原料成分「Cu」について、「Cu:0.3at%?0.8at%」とあったのを「Cu:0.6at%?0.8at%」に限定し、訂正前の請求項9に記載されていた「不可避の不純物」について、「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され、」と限定し、訂正前の請求項9に記載されていた原料成分「T」について「前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下であり」と限定するものである。
また、訂正前の請求項9に記載されていた「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶」について、「前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であり」と限定するものである。
よって、訂正事項5は、請求項9について、特許請求の範囲を減縮するものである。
また、請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10ないし12も同様に、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
(ア)「Cu」に関する訂正について
「Cu:0.6」であることは、明細書の段落【0041】の表13の実施例3に記載されている。

(イ)「X」および「Oの含有量」に関する訂正について
「前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0at%?1.0at%であり、前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下、Cの含有量が1at%以下及びNの含有量が0.5at%以下に制御される」ことは、訂正前の請求項10および明細書の段落【0008】に記載されている。

(ウ)「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶」に関する訂正について
明細書の段落【0042】に「比較例1-3、実施例1-4の焼結体で作った磁石を洗浄し、表面がきれいになった後、真空熱処理炉の中で、磁石の表面に厚さが5μmのDyF_(3)粉末を塗り、塗った後の真空乾燥された磁石を850℃の温度でAr雰囲気中で24時間Dyの粒界拡散処理を実施した。蒸発したDy金属原子の焼結磁石表面への供給量を調節し、焼結磁石表面に金属蒸発材料からなる薄膜を形成する前に、付着した金属原子を焼結磁石の結晶粒界相に拡散させた。」、段落【0044】に「同様に、実施例1から実施例4に対してFE-EPMA測定を行い、計算した結果により、高Cu相結晶と中Cu相結晶が粒界組成の65体積%以上を占めることが分かった。」と記載されるように、願書に添付した明細書には、Dyを結晶粒界相に拡散させた磁石において、高Cu相結晶と中Cu相結晶が粒界組成の65体積%以上を占めることが記載されている。
そして、段落【0007】に「好ましい実施形態において、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相、前記高Cu相結晶と前記中Cu相結晶の総含有量は粒界組成の65体積%以上を占める。」と記載されていることを考慮すると、Dyを結晶粒界相に拡散させた磁石において形成される「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶」も「前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相」であるものと認められる。
また、訂正前の請求項10に「前記RHはDy、Ho又はTbから選ばれる少なくとも一種」と記載されおり、RHはDyを含むものである。
してみると、粒界にRHが拡散した磁石においても「高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相」であることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項であると言える。
以上のことより、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、上記訂正事項5に係る訂正により請求項9が訂正されたことにともない、請求項10の重複する記載を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項6は、重複する記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 小括
以上とおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-12〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本件発明1ないし12」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるものである。なお、訂正部分について、当審で下線を付与した。
「【請求項1】
R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.6at%、
Cu:0.6at%?0.8at%、
Co:0.3at%?3at%、及び
残量のTと不可避の不純物とを含有し、
前記不可避の不純物において、Oの含有量が1 at%以下に制御され、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0 at%よりも多く1.0 at%以下であり、
前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、
前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であることを特徴とする低Bの希土類磁石。
【請求項2】
前記不可避の不純物において、Cの含有量が1 at%以下、及びNの含有量が0.5at%以下に制御されることを特徴とする請求項1に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記高Cu相結晶と前記中Cu相結晶の合計含有量は粒界組成の65体積%以上を占めることを特徴とする請求項1又は2に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項5】
前記の希土類磁石は最大磁気エネルギー積が43MGOeを超えるNd-Fe-B系磁石であることを特徴とする請求項4に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項6】
XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、前記元素の総組成は0.3at%?1.0at%であることを特徴とする請求項5に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項7】
前記R中、Dy、Ho、Gd又はTbの含有量は1at%以下であることを特徴とする請求項6に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項8】
希土類磁石成分の溶融液を希土類磁石用合金に製造する工程と、
前記希土類磁石用合金を粗粉砕してから微粉砕し、微粉に調製する工程と、
前記微粉を磁場成形法で成形体に製造し、且つ真空又は不活性ガス中、900℃?1100℃の温度で前記成形体を焼結し、粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させる工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の低Bの希土類磁石を製造するための方法。
【請求項9】
R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.8at%、
Cu:0.6at%?0.8at%、
Co:0.3at%?3at%、
及び残量のTと不可避の不純物を含有し、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記不可避の不純物において、Oの含有量が1 at%以下に制御され、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0 at%よりも多く1.0 at%以下であり、
前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、
前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であり、
前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散したことを特徴とする低Bの希土類磁石。
【請求項10】
前記RHはDy、Ho又はTbから選ばれる少なくとも一種であり、前記不可避の不純物において、Cの含有量が1at%以下及びNの含有量が0.5at%以下に制御されることを特徴とする請求項9に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項11】
前記希土類磁石成分の溶融液を希土類磁石用合金に製造する工程と、
前記希土類磁石用合金を粗粉砕してから微粉砕し、微粉に調製する工程と、
前記微粉を磁場成形法で成形体に製造し、且つ真空又は不活性ガス中、900℃?1100℃の温度で前記成形体を焼結し、粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させる工程と、
700℃?1050℃の温度でRH粒界拡散処理する工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の低Bの希土類磁石を製造するための方法。
【請求項12】
更に時効処理の工程、即ち、前記RH粒界拡散処理後の磁石を400℃?650℃の温度で時効処理する工程を含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和2年5月19日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

請求項1ないし2、4ないし8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明に引用文献3及び引用文献4に記載された発明を適用して、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、請求項9ないし12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献5に記載された発明に引用文献3及び引用文献4に記載された発明を適用して、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

〈引用文献等〉
引用文献1:特開2012-15169号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開平1-219143号公報(甲第5号証)
引用文献4:特開2013-236071号公報(甲第7号証)
引用文献5:特開2011-211069号公報(甲第3号証)

2 引用文献の記載事項・引用発明
(1)引用文献1(甲第2号証)
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。以下、同様。)。
ア 「【請求項1】
R_(2)Fe_(14)Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、
RはNdを必須元素として含む希土類元素であり、前記焼結体はGaを必須元素として含み、
前記粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、
前記第3粒界相は、前記第1粒界相および前記第2粒界相より前記希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高いことを特徴とするR-T-B系希土類永久磁石。」

イ 「【0028】
R-T-B系磁石に含まれるTは、Feを必須とする金属であり、Fe以外にCo、Niなどの他の遷移金属を含むものとすることができる。Fe以外にCoを含む場合、Tc(キュリー温度)を改善することができ好ましい。」

ウ 「【0031】
さらに、R-T-B系磁石の酸素濃度は低いほど好ましく、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。酸素の含有量が0.5質量%以下である場合、モーター用として十分な磁気特性を達成できる。酸素の含有量が0.5質量%を超える場合、磁気特性が著しく低下するおそれがある。
また、R-T-B系磁石の炭素濃度は低いほど好ましく、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。炭素の含有量が0.5質量%以下である場合、モーター用として十分な磁気特性を達成できる。なお、炭素の含有量が0.5質量%を超える場合、磁気特性が著しく低下するおそれがある。」

エ 「【0036】
また、永久磁石用合金材料に含まれる金属粉末としては、Al、Si、Ti、Ni、W、Zr、TiAl合金、Cu、Mo、Co、Fe、Taなどの粉末を用いることができ、特に限定されないが、Al、Si、Ti、Ni、W、Zr、TiAl合金、Co、Fe、Taのうちのいずれかを含むことが好ましく、Fe、Ta、Wのうちのいずれかの粉末であることがより好ましい。
【0037】
金属粉末は、永久磁石用合金材料中に0.002質量%?9質量%含まれていることが好ましく、0.02質量%?6質量%含まれていることがより好ましく、さらに0.6質量%?4質量%含まれていることが好ましい。金属粉末の含有量が0.002質量%未満であると、R-T-B系磁石の粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、第3粒界相が、第1粒界相および第2粒界相より希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ第1粒界相および第2粒界相よりFeの原子濃度が高いものとならず、R-T-B系磁石の保磁力(Hcj)を十分に向上させることができない恐れがある。また、金属粉末の含有量が9質量%を超えると、R-T-B系磁石の磁化(Br)や最大エネルギー積(BHmax)などの磁気特性の低下が顕著となるため好ましくない。」

オ 「【0047】
「実験例1」
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、Alメタル(純度99wt%以上)、Coメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、鉄塊(純度99%wt以上)を表1に示す合金A?Dの成分組成になるように秤量し、アルミナるつぼに装填した。
【0048】
【表1】

【0049】
その後、アルミナるつぼの入れられた高周波真空誘導炉の炉内をArで置換し、1450℃まで加熱して溶融させて水冷銅ロールに溶湯を注ぎ、ロール周速度1.0m/秒、平均厚み0.3mm程度となるようにSC(ストリップキャスト)法により、鋳造合金薄片を得た。
【0050】
次に、鋳造合金薄片を以下に示す水素解砕法により解砕した。まず、鋳造合金薄片を直径5mm程度になるように粗粉砕し、室温の水素中に挿入して水素を吸蔵させた。続いて、粗粉砕して水素を吸蔵させた鋳造合金薄片を300℃まで加熱する熱処理を行った。その後、減圧して水素を脱気し、さらに500℃まで加熱する熱処理を行って鋳造合金薄片中の水素を放出除去し、室温まで冷却する方法により解砕した。
次に、水素解砕された鋳造合金薄片に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛0.025wt%を添加し、ジェットミル(ホソカワミクロン100AFG)により、0.6MPaの高圧窒素を用いて、水素解砕された鋳造合金薄片を平均粒度(d50)4.5μmに微粉砕して粉末とした。
【0051】
このようにして得られた表1に示す平均粒度のR-T-B系合金からなる粉末(合金A?D)に、表2に示す粒度の金属粉末を、表3に示す割合(永久磁石用合金材料中に含まれる金属粉末の濃度(質量%))で添加して混合することにより永久磁石用合金材料を製造した。なお、金属粉末の粒度は、レーザ回析計によって測定した。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
次に、このようにして得られた永久磁石用合金材料を、横磁場中成型機を用いて成計圧力0.8t/cm^(2)でプレス成型して圧粉体とした。その後、得られた圧粉体を真空中で焼結した。焼結温度は1080℃で焼結した。その後500℃で熱処理して冷却することにより、実験例1?実験例45のR-T-B系磁石を作製した。」

カ 表1及び表3の記載によれば、実験例3には、組成がNd:9.2at%、Pr:2.9at%、Dy:1.8at%、B:5.5at%、Al:0.3at%、Ga:0.1at%、Co:2.3at%、Cu:0.1at%、Tb:0.0at%、Fe:77.4at%、C:0.07at%、O:0.05at%、N:0.01at%のR-T-B系合金からなる粉末にFe金属粉末を1.0wt%(永久磁石用合金材料に含まれるFe金属粉末の濃度)で添加して混合した永久磁石用合金材料より製造されたR-T-B系磁石が記載されている。
当該永久磁石用合金材料は、上記組成のR-T-B軽合金からなる粉末にFe金属粉末を1.0wt%添加したものであるから、以下の組成を有するものと認められる。
Nd:9.16at%、Pr:2.86at%、Dy:1.76at%、B:5.42at%、Al:0.24at%、Ga:0.09at%、Co:2.35at%、Cu:0.1at%、Tb:0.0at%、Fe:77.9at%、C:0.05at%、O:0.04at%、N:0.01at%

上記摘記事項「ア」及び「カ」より、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「R_(2)Fe_(14)Bを主として含む主相を備えた焼結体からなるR-T-B系希土類永久磁石であって、
組成がNd:9.16at%、Pr:2.86at%、Dy:1.76at%、B:5.42at%、Al:0.24at%、Ga:0.09at%、Co:2.35at%、Cu:0.1at%、Tb:0.0at%、Fe:77.9at%、C:0.05at%、O:0.04at%、N:0.01at%からなる永久磁石用合金材料により製造されたR-T-B系磁石。」

(2)引用文献3(甲第5号証)
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「原子比でNdとPrの合計が12?17at%、
B5?14at%、Co20at%以下、
Cu0.02?0.5at%、
残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする焼結永久磁石材料。」(特許請求の範囲の請求項1、第1頁左下欄第5-10行)

イ 「この発明は、Fe-B-Rを基本系としCoを含有する希土類焼結永久磁石とその製造方法に係り、Cuを含有して磁石特性を著しく改良した永久磁石、並びに熱処理条件の最適範囲が広く、製造性が極めてよい焼結永久磁石材料とその製造方法に関する。」(第1頁右下欄第2-7行)

ウ 「発明の目的
この発明は、Coを含んだFe-Co-B-R系永久磁石材料において、40MGOe級の高い磁気特性を発揮し、高い保磁力と優れた角型性を有する永久磁石材料の提供と、前記永久磁石を製造性よく得るための製造方法を目的としている。
発明の概要
この発明は、かかる目的を達成するため、永久磁石材料の組成について種々検討したところ、Fe-Co-B-R系をベースとし、ごく少量のCuを含むFe-Co-B-R-Cu系の一定の組成範囲の合金粉末を成形し、これを焼結し、さらに特定の温度で熱処理することにより、磁石特性、特に残留磁束密度の低下がなく、保磁力と減磁曲線の角型性が著しく向上した永久磁石材料が得られることを知見し、この発明を完成したものである。
原子比でNdとPrの合計が12?17at%、
B5?14at%、Co20at%以下、
Cu0.02?0.5at%、
残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする焼結永久磁石材料であり、
また、
前記組成からなる平均粒度0.5μm?10μmの合金粉末を成形し、
非酸化性または還元性雰囲気中で、
900?1200℃で焼結し、
焼結後、430?600℃の温度で熱処理することを特徴とする焼結永久磁石材料の製造方法である。
発明の効果
Fe-Co-B-R-Cu系永久磁石は、Fe-B-R系をベースとする化合物磁石として、従来のアモルファス薄膜や超急冷リボンとは全く異なる結晶性のX線解析パターンを示し、正方晶系結晶構造を主相とする。
この発明の特徴である極少量のCuの含有は、Coを含有するFe-Co-B-R系永久磁石材料の熱処理条件を緩和し、残留磁束密度を低下させることなく、13kOe以上の高い保磁力と優れた減磁曲線の角型性を得ることができ、その結果とじて25MGOe以上の高い最大エネルギー積が得ることができる。
この発明においてCuは、Coを含有する従来のFe-B-R系において要求される厳しい熱処理条件、すなわち、狭い最適温度範囲と早い冷却速度条件を緩和し、広い最適温度と自由な冷却速度を選ぶことが可能となる。これらは大型の磁石の熱処理や、熱処理後の冷却時の磁石のヒビ割れに対しても極めて有効である。」(第2頁右上欄第1行-同頁右下欄第9行)

エ 「永久磁石組成の限定理由

・・・中略・・・

また、Nd、Prの一部を、Dy、Tbなどの重希土類元素で0.2at%?3.0at%置換することにより、さらに高い保磁力を得ることができる。
さらに、希土類元素中に含まれる不純物の内、La、Ceなどは少量、例えば全希土類元素中の5at%以下、の範囲で含有してもよい。
本系永久磁石材料において、Coは、例えばlat%程度の少量でも耐酸化性向上に効果があり、また、Tc増大に有効であり、Coの置換量により約310?750℃の任意のTcをもつ合金が得られる。
Co量は、永久磁石のiHcを12kOe以上とするため添加するが、Tcの改善効果とコストの点を考慮して、20at%以下の含有とする。Co成分としては、R-Co合金等を添加することもできる。Co量の好ましい範囲は1?8at%である。

・・・中略・・・

この発明においてCuは、Fe-Co-B-R系永久磁石において、他の磁気特性、すなわち残留磁束密度Bや最大エネルギー積(BH)maxを全く低下させることなく、熱処理条件の緩和が可能であり、その結果として保磁力を上げ、かつ減磁曲線の角型性を改善し、(BH)maxの向上を図ることが可能となるため添加する。
第1図にCu量と得られた磁気特性の変化を示す如く、Cuは極僅かの添加でもCoを含有するFe-B-R系磁石の磁気特性を大幅に改善する。
この発明において、Cu量は、磁気特性の改善のため少なくとも0.01at%の添加が必要であるが、0.5at%を超えると焼結密度が低下するため、上限は0.5at%とする。」(第2頁右下欄第10行-第3頁右上欄第18行)

オ 「さらに、使用原料中に含まれ、あるいは製造工程中に混入する少量のC、S、P、Ca、Mg、O、Al、Siの存在はこの発明の効果を損ねるものではない。」(第3頁左下欄第3-6行)

カ 「また、保磁力をさらに高めたり、磁石や粉末の耐酸化性を向上させるために、1at%以下のTi、V、Nb、Cr、Mo、W、Al、Zr、Hf、Zn、Ca、Siを含有してもよい。」(第4頁右上欄第17-20行)

上記摘記事項「ウ」、「エ」の記載より、引用文献3には以下の技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「Cu0.02?0.5at%、Co20at%以下を含むFe-Co-B-R-Cu系永久磁石材料であり、
Cuは、Fe-Co-B-R系永久磁石において、他の磁気特性、すなわち残留磁束密度Bや最大エネルギー積(BH)maxを全く低下させることなく、熱処理条件の緩和が可能であり、その結果として保磁力を上げ、かつ減磁曲線の角型性を改善し、(BH)maxの向上を図ることが可能となるために添加する」技術

(3)引用文献4(甲第7号証)
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
Nd_(2)Fe_(14)B型結晶相を主相とし、R^(1)_(a)T_(b)M_(c)Si_(d)B_(e)組成(R^(1)はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種以上で、TはFe及びCoから選ばれる1種又は2種、MはAl,Cu,Zn,In,P,S,Ti,V,Cr,Mn,Ni,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Pd,Ag,Cd,Sn,Sb,Hf,Ta,Wの中から選ばれる1種又は2種以上、Siはケイ素、Bはホウ素、a?eは合金の原子%で、12≦a≦17、0≦c≦10、0.3≦d≦7、5≦e≦10、残部がb)からなる異方性焼結体の表面からR^(2)(R^(2)はDy及びTbから選ばれる1種又は2種)を拡散させてなることを特徴とする希土類焼結磁石。」

イ 「【0020】
本発明において、異方性焼結体はSiを含有していることが必須であり、このときSiは異方性焼結体乃至前記合金中に0.3?7原子%のSiを含有していることで磁石内へのDy/Tbの供給と磁石の結晶粒界における拡散を著しく高める。Si量が0.3原子%より低いと、保磁力増大効果に有意な差が見られない。一方、Si量が7原子%を超えると、原因は明らかではないが保磁力増大効果に有意な差が見られなくなる。更に、そのような多量の添加は残留磁束密度の低下を招くため実用材料としての価値を著しく損ねる。Si添加量としては0.3?7原子%が保磁力増大に効果的であるが、残留磁束密度を高めるという観点からは添加量は少ないほうが望ましい。最終的に求められる磁気特性に依存するが、Si添加量として好ましくは0.5?3原子%、より好ましくは0.6?2原子%である。
なお、残部はC,N,O等の不可避的な不純物である。」

上記摘記事項「ア」、「イ」の記載より、引用文献4には以下の技術事項(以下、「引用文献4記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「Nd_(2)Fe_(14)B型結晶相を主相とした希土類焼結磁石において、C,N,O等は不可避的な不純物である」こと。

(4)引用文献5(甲第3号証)
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献5には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
コアと、前記コアを被覆するシェルと、を有するR-T-B系希土類磁石の結晶粒子群を備え、
前記シェルにおける重希土類元素の質量の比率が、前記コアにおける重希土類元素の質量の比率よりも高く、
前記結晶粒子において前記シェルが最も厚い部分が、粒界三重点に面している、
焼結磁石。」

イ 「【0023】
(焼結磁石)
本実施形態の焼結磁石が備える結晶粒子は、R-T-B系磁石(例えば、R_(2)T_(14)B)から構成される。図1に示すように、結晶粒子2は、コア4と、コア4を被覆するシェル6と、を有する。本実施形態の焼結磁石では、複数の結晶粒子2が互いに焼結している。シェル6における重希土類元素の質量の比率(質量濃度)は、コア4における重希土類元素の質量濃度よりも高い。つまり、焼結磁石において結晶粒子2の粒界近傍の重希土類元素の質量濃度が最も高くなる。なお、コア4又はシェル6が複数種の重希土類元素が含む場合、重希土類元素の質量濃度とは、各重希土類元素の質量濃度の合計値を意味する。」

ウ 「【0025】
希土類元素Rは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。遷移金属元素Tは、Fe又はCoの少なくもいずれかであればよい。軽希土類元素は、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm及びEuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。重希土類元素は、Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。なお、焼結磁石は、必要に応じて、Co、Ni、Mn、Al、Cu、Nb、Zr、Ti、W、Mo、V、Ga、Zn、Si、Bi等の他の元素を更に含んでもよい。」

エ 「【0049】
焼結体における酸素の含有量は3000質量ppm以下であることが好ましく、2500質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることが最も好ましい。酸素量が少ないほど、得られる焼結磁石中の不純物が少なくなり、焼結磁石の磁気特性が向上する。酸素量が多い場合、第3工程又は第4工程において、焼結体中の酸化物が、重希土類元素の拡散の妨げ、シェル6が形成され難く、粒界三重点1に重希土類元素が偏析し難い傾向がある。焼結体における酸素の含有量を低減する方法のとしては、水素吸蔵粉砕から焼結までの間、原料合金を酸素濃度が低い雰囲気下に維持することが挙げられる。ただし、焼結体における酸素の含有量が上記の範囲外であっても、本実施形態の焼結磁石の作成は可能である。」

オ 「【0073】
(実施例1)
<第1工程>
31wt%Nd-0.2wt%Al-0.5wt%Co-0.07wt%Cu-0.15wt%Zr-0.9wt%Ga-0.9wt%B-bal.Feの組成を有する原料合金をストリップキャストで作製した。水素吸蔵粉砕によって原料合金の粉末を調製した。水素吸蔵粉砕では、原料合金に、水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気下、600℃で1時間の脱水素を行った。
【0074】
原料合金の粉末及び粉砕助剤であるオレイン酸アミドを、ナウターミキサーを用いて10分間混合した後、ジェットミルで微粉砕して、平均粒径が4μmである微粉を得た。オレイン酸アミドの添加量は、原料合金を基準として0.1質量%に調整した。
【0075】
微粉を、電磁石中に配置された金型内に充填し、磁場中で成形して成形体を作製した。成形では、微粉に1200kA/mの磁場を印加しながら、微粉を120MPaで加圧した。
【0076】
成形体を、真空中、1050℃で4時間焼結した後、急冷して焼結体を得た。なお、水素吸蔵粉砕から焼結までの各工程を、酸素濃度が100ppm未満である雰囲気下で行なった。
【0077】
<第2工程>
焼結体を10mm×10mm×3mmに加工した。加工後の焼結体にDyH_(2)を含む拡散剤を塗布した。拡散剤としては、DyH_(2)を有機溶媒に分散させたスラリーを用いた。拡散剤の塗布量は、焼結体に対するDyH_(2)の割合が0.8質量%となるように調整した。
【0078】
<第3工程及び第4工程>
第3工程では、拡散剤を塗布した焼結体をAr雰囲気において600℃で48時間熱処理した。第3工程後の第4工程では、焼結体をAr雰囲気において800℃で1時間熱処理した。
【0079】
第4工程直後の焼結体を、その温度が300℃になるまで、50℃/分の冷却速度で冷却した。冷却後の焼結体をAr雰囲気において540℃で2時間時効処理した。これにより、実施例1の焼結磁石を得た。」

上記摘記事項「ア」、「イ」、「オ」の記載より、引用文献5には以下の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているといえる。
「コアと、前記コアを被覆するシェルと、を有するR-T-B系希土類磁石の結晶粒子群を備えた焼結磁石であり、
31wt%Nd-0.2wt%Al-0.5wt%Co-0.07wt%Cu-0.15wt%Zr-0.9wt%Ga-0.9wt%B-bal.Feの組成を有する原料合金を用い、
前記シェルにおける重希土類元素の質量の比率が、前記コアにおける重希土類元素の質量の比率よりも高い、
R_(2)T_(14)B結晶粒子を備える焼結磁石。」

3 当審の判断
(1)対比及び判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「R_(2)Fe_(14)Bを主として含む主相を備えた焼結体からなるR-T-B系希土類永久磁石」は、本件発明1の「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石」に相当する。

b 引用発明1の「永久磁石用材料」の組成が「Nd:9.16at%、Pr:2.86at%、Dy:1.76at%」を有することは、希土類原料の合計が13.78at%であるから本件発明1の「原料成分」が「R:13.5at%?14.5at%」に含まれ、「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素」であることに相当する。

c 引用発明1の「永久磁石用材料」の組成が「B:5.42at%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「B:5.2at%?5.6at%」に含まれる。

d 本件発明1と引用発明1とは「原料成分」が「Cu」を含有する点で共通するものの、本件発明1のCuの含有量が「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、引用発明1は「0.1at%」である点で相違する。

e 引用発明1の「永久磁石用材料」の組成が「Co:2.35at%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「Co:0.3at%?3at%」に含まれる。

f 引用発明1の「永久磁石用材料」の組成が「Fe:77.9at%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「残量のT」「を含有し、」「前記Tは主にFeを含む元素であること」に相当する。

g 引用発明1の「永久磁石用材料」の組成が「C:0.05at%、O:0.04at%、N:0.01at%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「不可避の不純物とを含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」ることに相当する。

h 引用発明1の「永久磁石用材料」の組成が「Al:0.24at%、Ga:0.09at%、」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、」「Ga」「から選ばれる」「元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」に含まれる。
ただし、本件発明1の「X」は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素」であるのに対し、引用発明1ではその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。

j 引用発明1の「永久磁石用材料」の組成が「B:5.42at%」であり、本件発明1の「原料成分」の「B:5.2at%?5.6at%」に含まれるから、引用発明1の「永久磁石用材料により製造されたR-T-B系磁石」は、本件発明1の「低Bの希土類磁石」に相当する。

k したがって、両者は以下の一致点と相違点とを有する。
〈一致点〉
「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.6at%、
Cu、
Co:0.3at%?3at%、及び
残量のTと不可避の不純物とを含有し、
前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Gaから選ばれる元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下であることを特徴とする低Bの希土類磁石。」

〈相違点1〉
Cuの含有量が、本件発明1は「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、引用発明1は「0.1at%」である点。

〈相違点2〉
Xが、本件発明1は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素」であるのに対し、引用発明1ではその旨特定されていない点。

〈相違点3〉
本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点1及び相違点3について検討する。
引用文献3には「0.5at%を超えると焼結密度が低下するため、上限は0.5at%とする。」(「2(2)エ」参照)と記載されており、引用文献3記載の技術のCuの添加量を0.5at%を超えた値とすることについては阻害要因がある。
仮に引用発明1に引用文献3記載の技術を組み合わせたとしても、引用文献3記載の技術は、Cuを0.02?0.5at%添加するものであるから、Cuの含有量を「0.6at%?0.8at%」とする本件発明1の上記相違点1に係る構成を得ることはできない。
そして、引用文献3には、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
また、引用文献4にも、Cuの含有量を「0.6at%?0.8at%」とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
なお、本件発明1は、Cuと適量のCoを複合添加することにより、粒界に三種のCuリッチ相を形成し、磁石の角形比や耐熱性への改善効果を得る(本件明細書の段落【0004】、【0045】参照)ものである。
したがって、引用文献1、3及び4に記載された発明に基づいて、本件発明1の上記相違点1及び相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、特許異議申立人が提出したその他の証拠(甲第1、3、4、6号証)にも、Cuの含有量を「0.6at%?0.8at%」とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されておらず、甲第1ないし7号証に記載された発明に基づいて、本件発明1の上記相違点1及び相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

イ 本件発明2、4ないし8について
本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明2、4ないし8は、本件発明1と同様に引用文献1、3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項2、4ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 本件発明9について
(ア)対比
本件発明9と引用発明5とを対比する。
a 引用発明5の「R_(2)T_(14)B結晶粒子を備える焼結磁石」は、本件発明9の「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石」に相当する。

b 引用発明5の「原料合金」の組成が「31wt%Nd-0.2wt%Al-0.5wt%Co-0.07wt%Cu-0.15wt%Zr-0.9wt%Ga-0.9wt%B-bal.Fe」であることは、at%に換算すると、「14.17at%Nd-0.49at%Al-0.56at%Co-0.07at%Cu-0.11at%Zr-0.85at%Ga-5.49at%B-78.26at%Fe」である。
してみると、引用発明5の「原料合金」の組成が「31wt%Nd」(14.17at%Nd)を有することは、本件発明9の「原料成分」が「R:13.5at%?14.5at%」に含まれ、「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素」であることに相当する。

c 引用発明5の「原料合金」の組成が「0.9wt%B」(5.49at%B)を有することは、本件発明9の「原料成分」が「B:5.2at%?5.8at%」に含まれる。

d 本件発明9と引用発明5とは「原料成分」が「Cu」を含有する点で共通するものの、本件発明9のCuの含有量が「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、引用発明5は「0.07wt%」である点で相違する。

e 引用発明5の「原料合金」の組成が「0.5wt%」(0.56at%Co)を有することは、本件発明9の「原料成分」が「Co:0.3at%?3at%」に含まれる。

f 引用発明5の「原料合金」の組成が「bal.Fe」(78.26at%Fe)を有することは、本件発明9の「原料成分」が「残量のT」「を含有し、」「前記Tは主にFeを含む元素であること」に相当する。

g 本願発明9は「原料成分」が「不可避の不純物を含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、引用発明5はその旨特定されていない点で相違する。

h 本件発明9と引用発明5とは「原料成分」が「前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、」「Ga」「から選ばれる」「元素」である点で共通するものの、本件発明9の「X」は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、引用発明5ではその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明9は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相」であるのに対し、引用発明5はその旨特定されていない点で相違する。

j 引用発明5の「R_(2)T_(14)B結晶粒子を備える焼結磁石」が「コアと、前記コアを被覆するシェルと、を有するR-T-B系希土類磁石の結晶粒子群を備え」、「前記シェルにおける重希土類元素の質量の比率が、前記コアにおける重希土類元素の質量の比率よりも高い」ことは、本件発明9の「前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散した」ことに相当する。

k 引用発明5の「原料合金」の組成は「0.9wt%B」(B:5.49at%)であり、本件発明9の「原料成分」の「B:5.2at%?5.8at%」に含まれるから、引用発明5の「R_(2)T_(14)B結晶粒子を備える焼結磁石」は、本件発明9の「低Bの希土類磁石」に相当する。

l したがって、両者は以下の一致点と相違点とを有する。
〈一致点〉
「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.8at%、
Cu、
Co:0.3at%?3at%、
及び残量のTを含有し、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、且つ、
前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Gaから選ばれる元素であり、
前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散したことを特徴とする低Bの希土類磁石。」

〈相違点4〉
Cuの含有量が、本件発明9は「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、引用発明5は「0.07wt%」である点。

〈相違点5〉
本願発明9は「原料成分」が「不可避の不純物を含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、引用発明5はその旨特定されていない点。

〈相違点6〉
Xが、本件発明9は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、引用発明5はその旨特定されていない点。

〈相違点7〉
本件発明9は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相」であるのに対し、引用発明5はその旨特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点4及び相違点7について検討する。
引用文献3には「0.5at%を超えると焼結密度が低下するため、上限は0.5at%とする。」(「2(2)エ」参照)と記載されており、引用文献3記載の技術のCuの添加量を0.5at%を超えた値とすることについては阻害要因がある。
仮に引用発明5に引用文献3記載の技術を組み合わせたとしても、引用文献3記載の技術は、Cuを0.02?0.5at%添加するものであるから、Cuの含有量を「0.6at%?0.8at%」とする本件発明9の上記相違点4に係る構成を得ることはできない。
そして、引用文献3には、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
また、引用文献4にも、Cuの含有量を「0.6at%?0.8at%」とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
なお、本件発明9は、Cuと適量のCoを複合添加することにより、粒界に三種のCuリッチ相を形成し、磁石の角形比や耐熱性への改善効果を得る(本件明細書の段落【0004】、【0045】参照)ものである。
したがって、引用文献5、3及び4に記載された発明に基づいて、本件発明9の上記相違点4及び相違点7に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、特許異議申立人が提出したその他の証拠(甲第1、2、4、6号証)にも、Cuの含有量を「0.6at%?0.8at%」とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されておらず、甲第1ないし7号証に記載された発明に基づいて、本件発明9の上記相違点4及び相違点7に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点5及び6について検討するまでもなく、請求項9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

エ 本件発明10ないし12について
本件発明9の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明10ないし12は、本件発明9と同様に引用文献5、3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項10ないし12に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
特許異議申立書における特許異議申立ての要旨は、次のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1、3ないし5、8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1または2または3号証に記載された発明に甲第4ないし6号証に記載された発明を適用して、また、甲第7号証に記載された発明に甲第4及び6号証に記載された発明を適用して、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3ないし5、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明に甲第4ないし6号証に記載された発明を適用して、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1または2号証に記載された発明に甲第4ないし6号証に記載された発明を適用して、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1または3号証に記載された発明に甲第4ないし6号証に記載された発明を適用して、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項9、11ないし12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明に甲第4ないし6号証に記載された発明を適用して、また、甲第7号証に記載された発明に甲第4及び6号証に記載された発明を適用して、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9、11ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明に甲第1、2、4ないし6号証に記載された発明を適用して、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:国際公開第2004/081954号
甲第2号証:特開2012-15169号公報
甲第3号証:特開2011-211069号公報
甲第4号証:特開2013-216965号公報
甲第5号証:特開平1-219143号公報
甲第6号証:国際公開第2013/114892号
甲第7号証:特開2013-236071号公報

(2)申立理由2
請求項1ないし9、11及び12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(3)申立理由3
請求項2ないし5、請求項8ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

2 申立理由1(進歩性)について
(1)甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明、甲号証に記載された技術事項
ア 甲第1号証
甲第1号証の請求項1ないし3、第12頁第12から16行、第13頁第7行から第15頁第9行の記載によれば、甲第1号証には実施例1として以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「Nd:31.0質量%、Co:1.0質量%、Ga:0.02質量%、B:0.93?1.02質量%、Al:0.2質量%、Cu:0.1質量%、残部:Feからなる組成の各元素を溶解し、ストリップキャスト法により凝固させ、
水素脆化法により原料粗粉を得、この原料粗粉を微粉砕し微粉末を得、
前記微粉末を磁界中成型し、アルゴンガス(Ar)を導入しつつ800℃にて1時間保持した後、1040℃にて2時間保持し焼結して製造された、
酸素:0.36-0.40質量%、窒素:0.004-0.015質量%、炭素:0.04-0.05質量%である主相がR_(2)T_(14)B型結晶構造を有するR-T-B系焼結磁石。」

イ 甲第2号証
甲第2号証の記載事項及び引用発明は、「第4」の「2」の「(1)引用文献1」に記載されたとおりのものである。

ウ 甲第3号証
甲第3号証の記載事項及び引用発明は、「第4」の「2」の「(4)引用文献5」に記載されたとおりのものである。

エ 甲第4号証
甲第4号証の段落【請求項1】、【0005】、【0034】、【0035】、【0042】には、以下の技術事項(以下、「甲第4号証記載の技術」という。)が記載されている。

「Bの含有量が4.8原子%以上、5.5原子%以下で、R2Fe14Bを主として含む主相を備えるR-T-B系合金にR2T17相が含まれている場合、R-T-B系磁石の保磁力や角形性を低下させるため、R2T17相を焼結過程で消滅させる」技術。

オ 甲第5号証
甲第5号証の記載事項及び記載される技術は、「第4」の「2」の「(2)引用文献3」に記載されたとおりのものである。

カ 甲第6号証
甲第6号証の段落[0029]、[0038]には、以下の技術事項(以下、「甲第6号証記載の技術」という。)が記載されている。

「主相であるR_(2)T_(14)B相を含むR-T-B-Ga系磁石用原料合金において、Feの一部をCoと置換し、残留磁束密度Brの温度係数を改善し、減磁曲線における角型性を向上させる」技術。

キ 甲第7号証
甲第7号証の【請求項1】、段落【0019】、段落【0051】ないし【0055】、段落【0073】ないし【0074】、段落【0121】ないし【0127】の記載によれば、甲第7号証には実施例9または実施例22として以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されている。

「Ndが12.5原子%、Prが2原子%、Alが0.5原子%、Cuが0.4原子%、Bが5.5原子%、Siが1.3原子%、Feが残部からなる合金、または、Ndが12.5原子%、Prが2.0原子%、Alが1.2原子%、Cuが0.4原子%、Bが5.5原子%、Siが1.3原子%、Feが残部からなる合金をストリップキャスト法により得、
前記合金を粗粉末とし、続いて、微粉砕し、
得られた微粉末を磁界中で配向させながら成形し、次いでAr雰囲気の焼結炉内で1060℃で焼結して焼結ブロックを作製して磁石体を得、
続いて、酸化テルビウム粉末の混濁液に磁石体を浸し、酸化テルビウムにより覆われた磁石体に対しAr雰囲気中で粒界拡散処理を施して得た、
Nd_(2)Fe_(14)B型結晶相を主相とした希土類焼結磁石。」

(2)甲第1号証に基づく進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する
a 甲1発明の「主相がR_(2)T_(14)B型結晶構造を有するR-T-B系焼結磁石」は、本件発明1の「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石」に相当する。

b 甲1発明の「Nd:31.0質量%、Co:1.0質量%、Ga:0.02質量%、B:0.93?1.02質量%、Al:0.2質量%、Cu:0.1質量%、残部:Feからなる組成」のものを用い「酸素:0.36-0.40質量%、窒素:0.004-0.015質量%、炭素:0.04-0.05質量%である」ことは、Bが0.93質量%の時の割合を原子%に換算すると、おおよそ「Nd:13.9at%、Co:1.1at%、Ga:0.02at%、B:5.6at%、Al:0.48at%、Cu:0.1at%、O:1.54at%、N:0.04at%、C:0.24at%、残部Feからなる組成」である。
してみると、甲1発明の組成が「Nd:31.0質量%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「R:13.5at%?14.5at%」に含まれ、「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素」であることに相当する。

c 甲1発明の組成が「B:0.93質量%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「B:5.2at%?5.6at%」に含まれる。

d 本件発明1と甲1発明とは「原料成分」が「Cu」を含有する点では共通するものの、本件発明1のCuの含有量が「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲1発明は「0.1質量%」である点で相違する。

e 甲1発明の組成が「Co:1.0質量%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「Co:0.3at%?3at%」に含まれる。

f 甲1発明の組成が「残部Fe」であることは、本件発明1の「原料成分」が「残量のT」「を含有し、」「前記Tは主にFeを含む元素であること」に相当する。

g 本件発明1と甲1発明とは「原料成分」が「不可避の不純物とを含有し、」「前記不可避の不純物において、O」を含有する点では共通するものの、本件発明1のOの含有量が「1at%以下に制御され」るのに対し、甲1発明は「0.36-0.40質量%」である点で相違する。

h 甲1発明が「Ga:0.02質量%」、「Al:0.2質量%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、」「Ga」「から選ばれる」「元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」に含まれる。
ただし、本件発明1の「X」は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素」であるのに対し、甲1発明ではその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

j 甲1発明の組成は「B:0.93質量%」であり、本件発明1の「原料成分」の「B:5.2at%?5.6at%」に含まれるから、甲1発明の「R-T-B系焼結磁石」は、本件発明1の「低Bの希土類磁石」に相当する。

k したがって、両者は以下の一致点と相違点とを有する。
〈一致点〉
「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.6at%、
Cu、
Co:0.3at%?3at%、及び
残量のTと不可避の不純物とを含有し、
前記不可避の不純物において、Oを含有し、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Gaから選ばれる元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下であることを特徴とする低Bの希土類磁石。」

〈相違点8〉
Cuの含有量が、本件発明1は「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲1発明は「0.1質量%」である点。

〈相違点9〉
Oの含有量が、本件発明1は「1at%以下に制御され」るのに対し、甲1発明は「0.36-0.40質量%」である点。

〈相違点10〉
Xが、本件発明1は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素」であるのに対し、引用発明1ではその旨特定されていない点。

〈相違点11〉
本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点8及び相違点11について検討する。
甲第4号証には、R-T-B系合金にR2T17相が含まれている場合、R-T-B系磁石の保磁力や角形性を低下させるため、R2T17相を焼結過程で消滅させる技術(甲第4号証記載の技術)が、甲第5号証には、Co20at%以下含むFe-Co-B-R系永久磁石材料においてCu0.02?0.5at%添加する技術(引用文献3記載の技術)が、甲第6号証には、R-T-B-Ga系磁石用原料合金において、Feの一部をCoと置換し、残留磁束密度Brの温度係数を改善し、減磁曲線における角型性を向上させる技術(甲第6号証記載の技術)が記載されているものの、甲第4ないし6号証のいずれにも、Cuの含有量を0.6?0.8at%とすることは、記載も示唆もされていない。
また、甲第4ないし6号証のいずれにも、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
そして、本件発明1は、Cuと適量のCoを複合添加することにより、粒界に三種のCuリッチ相を形成し、磁石の角形比や耐熱性への改善効果を得る(本件明細書の段落【0004】、【0045】参照)ものである。
したがって、甲第1号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて、本件発明1の上記相違点8及び相違点11に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点9及び10について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

イ 本件発明2,4ないし8について
本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明2,4ないし8は、本件発明1と同様に甲第1号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項2,4ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(3)甲第2号証に基づく進歩性について
本件発明1と甲第2号証に記載された発明(引用発明1)との一致点及び相違点は、「第4」の「3(1)ア(ア)」に記載したとおりである。
事案に鑑み、相違点1及び3について検討する。
上記「(2)ア(イ)」で検討したとおり、甲第4ないし6号証のいずれにも、Cuの含有量を0.6?0.8at%とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
したがって、甲第5号証に加え甲第4号証、甲第6号証の記載を考慮しても、甲第2号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて、本件発明1の上記相違点1及び3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明2、4ないし8は、本件発明1と同様に甲第2号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項2、4ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(4)甲第3号証に基づく進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
甲第3号証に記載された発明(甲3発明)は、「第4」の「2(4)」に引用発明5として記載されたとおりのものである。
本件発明1と甲3発明とを対比する。
a 甲3発明の「R_(2)T_(14)B結晶粒子を備える焼結磁石」は、本件発明1の「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石」に相当する。

b 甲3発明の「31wt%Nd-0.2wt%Al-0.5wt%Co-0.07wt%Cu-0.15wt%Zr-0.9wt%Ga-0.9wt%B-bal.Feの組成を有する原料合金」は、at%に換算すると、「14.17at%Nd-0.49at%Al-0.56at%Co-0.07at%Cu-0.11at%Zr-0.85at%Ga-5.49at%B-78.26at%Feの組成を有する原料合金」である。
してみると、甲3発明の「原料合金」の組成が「31wt%Nd」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「R:13.5at%?14.5at%」に含まれ、「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素」であることに相当する。

c 甲3発明の「原料合金」の組成が「0.9wt%B」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「B:5.2at%?5.6at%」に含まれる。

d 本件発明1と甲3発明とは「原料成分」が「Cu」を含有する点では共通するものの、本件発明1のCuの含有量が「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲3発明は「0.07wt%」である点で相違する。

e 甲3発明の「原料合金」の組成が「0.5wt%Co」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「Co:0.3at%?3at%」に含まれる。

f 甲3発明の「原料合金」の組成が「bal.Fe」であることは、本件発明1の「原料成分」が「残量のT」「を含有し、」「前記Tは主にFeを含む元素であること」に相当する。

g 本件発明1の「原料成分」が「不可避の不純物とを含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。

h 本件発明1と甲3発明とは「原料合金」が「前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、」「Ga」「から選ばれる」「元素」である点で共通するものの、本件発明1の「X」は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、甲3発明ではその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。

j 甲3発明の組成は「0.9wt%B」であり、本件発明1の「原料成分」の「B:5.2at%?5.6at%」に含まれるから、甲3発明の「焼結磁石」は、本件発明1の「低Bの希土類磁石」に相当する。

k したがって、両者は以下の一致点と相違点とを有する。
〈一致点〉
「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.6at%、
Cu、
Co:0.3at%?3at%、及び
残量のTを含有し、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Gaから選ばれる元素であることを特徴とする低Bの希土類磁石。」

〈相違点12〉
Cuの含有量が、本件発明1は「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲3発明は「0.1質量%」である点。

〈相違点13〉
本件発明1は「原料成分」が「不可避の不純物を含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。

〈相違点14〉
Xが、本件発明1は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、甲3発明ではその旨特定されていない点。

〈相違点15〉
本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点12及び相違点15について検討する。
上記「(2)ア(イ)」に記載したように、甲第4ないし6号証のいずれにも、Cuの含有量を0.6?0.8at%とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
そして、本件発明1は、Cuと適量のCoを複合添加することにより、粒界に三種のCuリッチ相を形成し、磁石の角形比や耐熱性への改善効果を得る(本件明細書の段落【0004】、【0045】参照)ものである。
したがって、甲第3号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて、本件発明1の上記相違点12及び相違点15に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点13及び14について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

イ 本件発明2、4ないし8について
本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明2、4ないし8は、本件発明1と同様に甲第3号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項2、4ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 本件発明9について

本件発明9と甲第3号証に記載された発明(引用発明5)との一致点及び相違点は、「第4」の「3(1)ウ(ア)」に記載したとおりである。
事案に鑑み、相違点4及び7について検討する。
上記「(2)ア(イ)」で検討したとおり、甲第4ないし6号証のいずれにも、Cuの含有量を0.6?0.8at%とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
したがって、甲第5号証に加え甲第4号証、甲第6号証の記載を考慮しても、甲第3号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて、本件発明9の上記相違点4及び7に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点5及び6について検討するまでもなく、請求項9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明9の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明10ないし12は、本件発明9と同様に甲第3号証及び甲第4ないし6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項10ないし12に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(5)甲第7号証に基づく進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲7発明とを対比する
a 甲7発明の「Nd_(2)Fe_(14)B型結晶相を主相とした希土類焼結磁石」は、本件発明1の「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石」に相当する。

b 甲7発明の合金が「Ndが12.5原子%、Prが2原子%」を有することは希土類の合計が14.5原子%であるから、本件発明1の「原料成分」が「R:13.5at%?14.5at%」に含まれ、「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素」であることに相当する。

c 甲7発明の合金が「Bが5.5原子%」を有することは、本件発明1の「原料成分」が「B:5.2at%?5.6at%」に含まれる。

d 本件発明1と甲7発明とは「原料成分」が「Cu」を含有する点では共通するものの、本件発明1のCuの含有量が「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲7発明は「0.4原子%」である点で相違する。

e 本件発明1の「原料合金」が「Co:0.3at%?3at%」であるのに対し、甲7発明にはその旨特定されていない点で相違する。

f 甲7発明の合金が「Feが残部からなる」ことは、本件発明1の「原料成分」が「残量のT」「を含有し、」「前記Tは主にFeを含む元素であること」に相当する。

g 本件発明1の「原料成分」が「不可避の不純物とを含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、甲7発明にはその旨特定されていない点で相違する。

h 本件発明1と甲7発明とは「原料成分」が「前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Si」「から選ばれる」「元素」である点で共通するものの、本件発明1の「X」は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、甲7発明ではその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、甲7発明はその旨特定されていない点で相違する。

j 甲7発明の合金は「Bが5.5原子%」であり、本件発明1の「原料成分」の「B:5.2at%?5.6at%」に含まれるから、甲7発明の「R-T-B系焼結磁石」は、本件発明1の「低Bの希土類磁石」に相当する。

k したがって、両者は以下の一致点と相違点とを有する。
〈一致点〉
「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.6at%、
Cu、及び
残量のTを含有し、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Siから選ばれる元素であることを特徴とする低Bの希土類磁石。」

〈相違点16〉
Cuの含有量が、本件発明1は「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲7発明は「0.4原子%」である点。

〈相違点17〉
本件発明1の「原料合金」が「Co:0.3at%?3at%」であるのに対し、甲7発明にはその旨特定されていない点。

〈相違点18〉
本件発明1の「原料成分」が「不可避の不純物とを含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、甲7発明にはその旨特定されていない点。

〈相違点19〉
Xが、本件発明1は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、甲7発明ではその旨特定されていない点。

〈相違点20〉
本件発明1は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」のに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点16及び相違点19について検討する。
上記「(2)ア(イ)」に記載したように、甲第4及び6号証のいずれにも、Cuの含有量を0.6?0.8at%とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
そして、本件発明1は、Cuと適量のCoを複合添加することにより、粒界に三種のCuリッチ相を形成し、磁石の角形比や耐熱性への改善効果を得る(本件明細書の段落【0004】、【0045】参照)ものである。
したがって、甲第7号証及び甲第4、6号証に記載された発明に基づいて、本件発明1の上記相違点16及び相違点19に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点17、18及び20について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

イ 本件発明2、4ないし8について
本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明2、4ないし8は、本件発明1と同様に甲第7号証及び甲第4、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項2、4ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 本件発明9について
(ア)対比
本件発明9と甲7発明とを対比する
a 甲7発明の「Nd_(2)Fe_(14)B型結晶相を主相とした希土類焼結磁石」は、本件発明9の「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石」に相当する。

b 甲7発明の合金が「Ndが12.5原子%、Prが2原子%」を有することは希土類原料の合計が14.5原子%であるから、本件発明9の「原料成分」が「R:13.5at%?14.5at%」に含まれ、「前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素」であることに相当する。

c 甲7発明の合金が「Bが5.5原子%」を有することは、本件発明9の「原料成分」が「B:5.2at%?5.8at%」に含まれる。

d 本件発明9と甲7発明とは「原料成分」が「Cu」を含有する点では共通するものの、本件発明9のCuの含有量が「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲7発明は「0.4原子%」である点で相違する。

e 本件発明9の「原料成分」が「Co:0.3at%?3at%」であるのに対し、甲7発明はその旨特定されていない点で相違する。

f 甲7発明の合金が「Feが残部からなる」ことは、本件発明9の「原料成分」が「残量のT」「を含有し、」「前記Tは主にFeを含む元素であること」に相当する。

g 本件発明9は「原料成分」が「不可避の不純物を含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、甲7発明はその旨特定されていない点で相違する。

h 本件発明9と甲7発明とは「原料成分」が「前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Si」「から選ばれる」「元素」である点で共通するものの、本件発明9の「X」は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、甲7発明ではその旨特定されていない点で相違する。

i 本件発明9は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相」であるのに対し、甲7発明はその旨特定されていない点で相違する。

j 甲7発明の「Nd_(2)Fe_(14)B型結晶相を主相とした希土類焼結磁石」が「酸化テルビウム粉末の混濁液に磁石体を浸漬し、酸化テルビウムにより覆われた磁石体に対しAr雰囲気中で粒界拡散処理を施して得た」ものであることは、本件発明9の「前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散した」ことに相当する。

k 甲7発明の合金は「Bが5.5原子%」であり、本件発明9の「原料成分」の「B:5.2at%?5.8at%」に含まれるから、引用発明5の「Nd_(2)Fe_(14)B型結晶相を主相とした希土類焼結磁石」は、本件発明9の「低Bの希土類磁石」に相当する。

l したがって、両者は以下の一致点と相違点とを有する。
〈一致点〉
「R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5at%?14.5at%、
B:5.2at%?5.8at%、
Cu、
及び残量のTを含有し、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、且つ、
前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Siから選ばれる元素であり、
前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散したことを特徴とする低Bの希土類磁石。」

〈相違点21〉
Cuの含有量が、本件発明9は「0.6at%?0.8at%」であるのに対し、甲7発明は「0.4原子%」である点。

〈相違点22〉
本件発明9の「原料成分」が「Co:0.3at%?3at%」であるのに対し、甲7発明はその旨特定されていない点。

〈相違点23〉
本願発明9は「原料成分」が「不可避の不純物を含有し、」「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され」るのに対し、甲7発明はその旨特定されていない点。

〈相違点24〉
Xが、本件発明9は「Al、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種類の元素であり、X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」であるのに対し、甲7発明ではその旨特定されていない点。

〈相違点25〉
本件発明9は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相」であるのに対し、引用発明5はその旨特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点21及び相違点24について検討する。
上記「(2)ア(イ)」に記載したように、甲第4及び6号証のいずれにも、Cuの含有量を0.6?0.8at%とすること、希土類磁石の粒界に「高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ことは記載されていない。
そして、本件発明9は、Cuと適量のCoを複合添加することにより、粒界に三種のCuリッチ相を形成し、磁石の角形比や耐熱性への改善効果を得る(本件明細書の段落【0004】、【0045】参照)ものである。
したがって、甲第7号証及び甲第4、6号証に記載された発明に基づいて、本件発明9の上記相違点21及び相違点24に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、相違点22、23及び25について検討するまでもなく、請求項9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

エ 本件発明10ないし12について
本件発明9の構成を全て含み、更に他の構成を含んだ本件発明10ないし12は、本件発明9と同様に甲第7号証及び甲第4、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項10ないし12に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

3 申立理由2(サポート要件)について
特許異議申立人は特許異議申立書において、
(1)「低酸素磁石でなければ本発明の効果が得られないことを、出願人自らが、明確に開示している。しかしながら、本件特許発明の請求項1及び請求項9には酸素含有量を特定し得る規定は、一切存在しない。」(第33頁第13-15行)、
(2)「本特許における角形比や耐熱性への改善効果は、粒界に三種のCuリッチ相を形成することで得られるということが明確に開示されている。しかしながら、一般に、希土類焼結磁石の技術分野では、特定の組成を有するからといって必ず特定の相が析出するわけではなく、主に熱処理等の製造過程の条件を適切に制御することによって、磁石中の析出相のコントロールを行っている。このような技術常識にもかかわらず、本特許の請求項1や請求項9においてはその組成のみが規定されているだけであり、本件特許発明の効果を得るための要件が十分に記載されているとすることはできない。」(第34頁第7-14行)、
(3)「実施例5は、そもそも本件特許の請求項1で規定している重要な要件を満たさないものであり、請求項2及び請求項6の発明は明細書(発明の詳細な説明)の記載により十分にサポートされていない。」(第35頁第13-15行)と主張している。

(4)上記主張について検討する。
本件訂正により、請求項1及び請求項9は「前記不可避の不純物において、Oの含有量が1at%以下に制御され、」「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」ものとなった。
したがって、特許異議申立人の上記(1)、(2)の主張は採用できない。
また、全ての実施例が有する構成を請求項に記載される必要はなく、実施例2、実施例4、実施例6にはAl、Si等から選ばれる少なくとも三種の元素を0.3at%?1.0at%含有させた例が記載されているから、請求項1、2、6に係る発明は、発明の詳細な説明の記載によりサポートされている。よって、特許異議申立人の上記(3)の主張は採用できない。

4 申立理由3(明確性)について
特許異議申立人は特許異議申立書において、
(1)「本願特許明細書の請求項3、請求項4、請求項8、請求項9、請求項11には、『高Cu相結晶』、『中Cu相結晶』、『低Cu相結晶』との文言が記載されており、これら三種のCu相結晶が粒界相に形成される旨が記載されている。これら請求項に記載の磁石には、当然Cuを含む相は無数に存在するが、それらの相においてどの程度が『高』で、どの程度が『低』であるのかについて、いずれの請求項にも(発明の詳細な説明)にも一切説明されておらず、勿論本件技術分野における技術常識に照らしても一義的には定まらない。そのため、この記載における高?低Cu相結晶というものが何を示しているのか特定できない。」(第35頁第20-27行)、
(2)「請求項2,10では、『前記Tはさらに(更に)Xを含み』と規定され、X元素の含有が必須の要件とされているにもかかわらず、いずれの請求項でもXの含有量が0at%の場合を含む記載にとなっている。このため、この請求項2及び請求項10の記載は不明確である。」(第36頁第23-26行)と主張している。

(3)上記主張について検討する。
請求項1及び請求項9は「前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相である」との構成を有するものである。
そして、当該構成より、「高Cu相結晶」は分子組成が「RT_(2)系相」で「中Cu相結晶」や「低Cu相結晶」よりCu含有量が多い結晶であること、「中Cu相結晶」は分子組成が「R_(6)T_(13)X系相」で「低Cu相結晶」よりCu含有量が多い結晶であること、「低Cu相結晶」は分子組成は「RT_(5)系相」で「高Cu相結晶」や「中Cu相結晶」よりCu含有量が少ない結晶であることが明らかであるから、磁石にCuを含む結晶相が多数存在し得るとしても、結晶の分子組成及びCu含有量の相対的な高低より各結晶相は特定可能であり、高?低Cu相結晶が何を示しているのか特定できないとはいえない。
また、本件訂正により、訂正前の請求項2、10の「X」に関する構成を含む請求項1、9は「X元素の総組成は0at%よりも多く1.0at%以下」と0at%の場合を含まないものとなった。
したがって、特許異議申立人の上記(1)、(2)の主張は採用できない。

5 特許異議申立人の意見書での主張について
(1)取消理由1(進歩性)について
特許異議申立人は令和2年2月13日の意見書において、「引用文献1の【0036】には永久磁石用合金材料に含まれる金属粉末としてCuが例示されている共に、【0037】にはこの金属粉末の好ましい含有量として0.002質量%?9質量%、より好ましい含有量として0.02質量%?6質量%、更に好ましい含有量として0.6質量%?6質量%が記載されている。つまり、引用文献1には、本件特許発明におけるCu含有量0.3?0.8at%を満足させることが可能であると考えられる十分に広い範囲のCu添加量が記載されている。」(第7頁第16-21行)と主張している。
しかしながら、引用文献1の上記記載は、永久磁石用合金材料に含まれるCuのat%を特定し得るものではない。
また、引用文献1の上記記載は、多数の元素を列挙し0.002質量%?9質量%という広い範囲を規定したものであり、上記記載に基づいて、特定のCu含有量に限定された本件発明1及び本件発明9の「原料成分」が「Cu:0.6at%?0.8at%」である構成が容易であるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)取消理由3(明確性)について
特許異議申立人は令和2年2月13日の意見書において、「RT_(2)、R_(6)T_(13)X、RT_(5)の組成が特定されても、各相結晶におけるCu含有量は依然として不明である。よって、この『高』、『中』、『低』がそれぞれ如何なる範囲を表しているのか、依然として不明である。」(第20頁第4-6行)、「『XはTに包含されている』にもかかわらず、」「中Cu相結晶の分子組成は『R_(6)T_(13)X』とされており、この中Cu相結晶の分子組成における『T』と『X』との関係が不明である。」(第20頁第12-14行)と主張している。
しかしながら、各相結晶におけるCuの具体的な含有量が如何なる範囲であるのか特定されていないとしても、「高」、「中」、「低」により、Cu含有量の相対的な高低の関係は明らかである。
そして、上記「第5」の「4(3)」で述べたように、高?低Cu相結晶が何を示しているのか特定できないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
また、「中Cu相結晶」の分子組成における「T」と「X」との関係が不明であるとの主張は、特許異議申立書に記載された申立理由とも、本件訂正により生じた取消理由であるとも認められず、特許異議申立人の上記「(2)」の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1、2、4ないし12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、2、4ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、特許異議申立人宇佐川ゆり子による特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論とのとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5 at%?14.5 at%、
B:5.2 at%?5.6 at%、
Cu:0.6 at%?0.8 at%、
Co:0.3 at%?3 at%、及び
残量のTと不可避の不純物とを含有し、
前記不可避の不純物において、Oの含有量が1 at%以下に制御され、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記TはさらにXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0 at%よりも多く1.0 at%以下であり、
前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、
前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であることを特徴とする低Bの希土類磁石。
【請求項2】
前記不可避の不純物において、Cの含有量が1 at%以下、及びNの含有量が0.5 at%以下に制御されることを特徴とする請求項1に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記高Cu相結晶と前記中Cu相結晶の合計含有量は粒界組成の65体積%以上を占めることを特徴とする請求項1又は2に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項5】
前記の希土類磁石は最大磁気エネルギー積が43MGOeを超えるNd-Fe-B系磁石であることを特徴とする請求項4に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項6】
XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、前記元素の総組成は0.3 at%?1.0 at%であることを特徴とする請求項5に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項7】
前記R中、Dy、Ho、Gd又はTbの含有量は1 at%以下であることを特徴とする請求項6に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項8】
希土類磁石成分の溶融液を希土類磁石用合金に製造する工程と、
前記希土類磁石用合金を粗粉砕してから微粉砕し、微粉に調製する工程と、
前記微粉を磁場成形法で成形体に製造し、且つ真空又は不活性ガス中、900℃?1100℃の温度で前記成形体を焼結し、粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させる工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の低Bの希土類磁石を製造するための方法。
【請求項9】
R_(2)T_(14)B主相を含む希土類磁石であって、下記の原料成分:
R:13.5 at%?14.5 at%、
B:5.2 at%?5.8 at%、
Cu:0.6 at%?0.8 at%、
Co:0.3 at%?3 at%、
及び残量のTと不可避の不純物を含有し、
前記RはNdを含む少なくとも一種の希土類元素であり、
前記不可避の不純物において、Oの含有量が1 at%以下に制御され、
前記Tは主にFeを含む元素であり、
前記Tは更にXを含み、ただし、XはAl、Si、Ga、Sn、Ge、Ag、Au、Bi、Mn、Cr、P又はSから選ばれる少なくとも三種の元素であり、X元素の総組成は0 at%よりも多く1.0 at%以下であり、
前記希土類磁石の粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させ、
前記高Cu相結晶の分子組成はRT_(2)系相、前記中Cu相結晶の分子組成はR_(6)T_(13)X系相、前記低Cu相結晶の分子組成はRT_(5)系相であり、
前記希土類磁石は、粒界にRHが拡散したことを特徴とする低Bの希土類磁石。
【請求項10】
前記RHはDy、Ho又はTbから選ばれる少なくとも一種であり、前記不可避の不純物において、Cの含有量が1 at%以下及びNの含有量が0.5 at%以下に制御されることを特徴とする請求項9に記載の低Bの希土類磁石。
【請求項11】
前記希土類磁石成分の溶融液を希土類磁石用合金に製造する工程と、
前記希土類磁石用合金を粗粉砕してから微粉砕し、微粉に調製する工程と、
前記微粉を磁場成形法で成形体に製造し、且つ真空又は不活性ガス中、900℃?1100℃の温度で前記成形体を焼結し、粒界に高Cu相結晶、中Cu相結晶と低Cu相結晶を形成させる工程と、
700℃?1050℃の温度でRH粒界拡散処理する工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の低Bの希土類磁石を製造するための方法。
【請求項12】
更に時効処理の工程、即ち、前記RH粒界拡散処理後の磁石を400℃?650℃の温度で時効処理する工程を含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-04 
出願番号 特願2018-55697(P2018-55697)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01F)
P 1 651・ 537- YAA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 崇大  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
山田 正文
登録日 2018-11-30 
登録番号 特許第6440880号(P6440880)
権利者 シアメン タングステン カンパニー リミテッド フージャン チャンティン ゴールデン ドラゴン レア?アース カンパニー リミテッド
発明の名称 低Bの希土類磁石  
代理人 山崎 一夫  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 須田 洋之  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  
代理人 須田 洋之  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 市川 さつき  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 服部 博信  
代理人 須田 洋之  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ