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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10L
管理番号 1370051
異議申立番号 異議2020-700808  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-20 
確定日 2021-01-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6684298号発明「固体燃料の製造方法及び固体燃料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6684298号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6684298号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)9月26日(優先権主張 平成24年9月28日、日本)を国際出願日とする特願2014-538587号の一部を、平成30年3月16日に新たな特許出願としたものであって、令和2年3月31日にその特許権の設定登録がされ、同年4月22日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?5に係る特許に対し、令和2年10月20日に特許異議申立人廣川博美(以下、単に「申立人」ということもある。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
1 特許第6684298号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ハードグローブ粉砕性指数が30?70である、石炭と混燃させるための固体燃料の製造方法であって、
樹皮を含む0.1?100mmの木質系バイオマス粉砕物の水分を10?50%に調整し、嵩密度が0.55g/cm^(3)以上になるまで高密度化した後、酸素濃度10%以下かつ温度170?330℃の条件下で物質収率が60?90%、熱量収率が70?95%となるようにロータリーキルンを用いて焙焼することを含む、上記方法。
【請求項2】
焙焼処理を行うための装置を不活性ガスで置換して焙焼する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
200?330℃で焙焼する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
木質系バイオマス粉砕物の水分を10?30%に調整する、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ハードグローブ粉砕性指数が30?70である、石炭と混燃させるための固体燃料であって、
樹皮を含む0.1?100mmの木質系バイオマス粉砕物の水分を10?50%に調整し、嵩密度が0.55g/cm^(3)以上になるまで高密度化した後、酸素濃度10%以下かつ温度170?330℃の条件下で物質収率が60?90%、熱量収率が70?95%となるようにロータリーキルンを用いて焙焼することよって得られる、上記固体燃料。」

第3 申立理由の概要
申立人は、下記2の甲第1?6号証を提出し、次の1について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。
1 特許法第29条第2項(進歩性)(同法第113条第2号)
本件発明1は、甲1発明(甲1に記載された発明)と、甲2、甲3、甲4、甲5及び甲6に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができ、本件発明2は、甲1発明と、甲2、甲3、甲4、甲5及び甲6に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができ、本件発明3は、甲1発明と、甲2、甲3、甲4、甲5及び甲6に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができ、本件発明4は、甲1発明と、甲2、甲3、甲4、甲5及び甲6に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができ、本件発明5は、甲1発明と、甲2、甲3、甲4、甲5及び甲6に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができるものであるから、本件発明1?5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲1:特開2009-191085号公報
甲2:Chris. P. Kleinshimidt, Overview of international developments in torrefaction(2011年1月28日公開)及びその抄訳文
甲3:庄司哲也 外2名、バイオマス炭化特性評価装置の開発、電力中央研究所報告、2012年5月、報告書番号:M11014、第1-10頁
甲4:山田敦、ペレット燃料に関するQ&A、林産試だより、北海道立林産試験場、2006年1月号、第5-7頁
甲5:武田宏、スギ樹皮を原料にした木質ペレット製造試験、新潟県森林研究所研究報告、2011年、No.52、第49-52頁
甲6:吉田貴紘 外10名、平成23年版、研究成果選集2011、独立行政法人森林総合研究所、第16-17頁

第4 当審の判断
1 甲1の記載
甲1には、「固体燃料製造方法及びシステム、並びに固体燃料」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審が付与した)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭と混合して若しくは単独で粉砕され微粉燃料として用いられる固体燃料を、バイオマスを酸素欠乏雰囲気下で加熱することにより製造する固体燃料製造方法において、
植物の殻類、実、種子を含む硬質バイオマスを、酸素濃度1?5%で且つ処理温度350?400℃で30?90分加熱して炭化処理することにより前記固体燃料を製造することを特徴とする固体燃料製造方法。
【請求項2】
石炭と混合して若しくは単独で粉砕され微粉燃料として用いられる固体燃料を、バイオマスを酸素欠乏雰囲気下で加熱することにより製造する固体燃料製造方法において、
植物の殻類、実、種子を含む硬質バイオマスを、酸素濃度1?5%で且つ製造される固体燃料のHGI(ハードグローブ粉砕性指数)が30?60となる処理温度で30?90分加熱して炭化処理することにより前記固体燃料を製造することを特徴とする固体燃料製造方法。」
イ 「【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇化及びCO_(2)排出による地球温暖化への対策として、バイオマスを用いた燃料の利用促進が図られている。一般にバイオマスとは、エネルギー源又は工業原料として利用することのできる生物体をいい、従来よりこのバイオマスを有効利用する方法が各種提案されている。その中でも、バイオマスを低コストで以って高付加価値物に転換できる有用な方法として、バイオマスを炭化して固体燃料を製造する方法がある。これは、バイオマスを炭化炉に投入して酸素欠乏雰囲気下で所定時間加熱して炭化処理し、固体燃料を製造するものである。
【0003】
このようにして製造された固体燃料は、発電設備や焼却設備等の燃焼設備の燃料源に用いられるが、この場合、燃焼効率を向上させるために固体燃料を細かく粉砕して微粉燃料として用いることがある。固体燃料は単独で或いは石炭と混合して粉砕されるが、例えば、特許文献1(特開2004-347241号公報)には、石炭と固体燃料を粉砕ミルに供給して粉砕し、微粉混合燃料を製造する粉砕装置が開示されている。
【0004】
しかし、バイオマスのうち木質系バイオマスは大部分が繊維質であるため、粉砕性が悪く、燃焼効率の低下、粉砕機の運転性低下等の問題があった。
そこで特許文献2(特開2006-26474号公報)には、木質系バイオマスを240℃以上300℃以下の温度で15分以上90分以下の時間で熱分解した後に粉砕する方法が開示されている。これは、製材廃材、除間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマスを対象としており、加熱温度が240℃より低い温度だと破砕性、粉砕性が向上せず、300℃よりも高い温度だと破砕、粉砕時にサブミクロンオーダーの微粉量が増大して粉体トラブルを生じやすくなるため好ましくないとしている。
【0005】
同様に粉砕性が悪いバイオマスとして、植物の殻類、実、種子等の硬質バイオマスが挙げられる。植物の殻類、実、種子等は農園から大量に廃棄されているのが実状であり、これを有効利用することが望まれているが、このような硬質バイオマスは脆化材料ではなく且つ上記したような木質バイオマスよりもさらに粉砕性が悪く、圧縮、せん断による粉砕が困難であるため、石炭焚きボイラにて混焼する場合においては、バイオマスの混焼率の上限が数パーセントと極めて低い値となるため有効利用されていなかった。
一方、炭化処理は有機性物質の脆化には有効であるが、バイオマス中の揮発分が熱分解によりガス化する結果、炭化物に残る熱量は50%以下となり、燃料としての価値が低減してしまう。
【0006】
特開2004-347241号公報
特開2006-26474号公報」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、硬質バイオマスは極めて粉砕性が悪く、圧縮、せん断による粉砕が困難であるため、特許文献1に記載されるように石炭と混合して粉砕し、微粉混合燃料として微粉炭焚きボイラ等に用いる際には硬質バイオマスの混合率を低くしなければならなかった。
特許文献2に記載されるように硬質バイオマスを木質系バイオマスと同等レベルの条件で炭化しても、硬質バイオマスは木質系バイオマスとは性質が異なり、より粉砕性が悪いため炭化によっても粉砕性が十分に向上せず、石炭と混合して粉砕する場合には粉砕機の微粉度や、運転安定性等の運転性能の低下、運転エネルギの消費量増大、及び石炭微粉とバイオマス微粉が均一に混合しないことにより燃料としての燃焼効率低下などの問題が残る。
【0008】
一方、脆化を促進するため、より一層熱分解を促進させると炭化物(固体燃料)に残存する熱量が少なくなり、燃料としての価値が低減してしまうという問題があった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、硬質バイオマスを適切な条件にて炭化処理することにより、燃料として利用できる熱量を残存させながら粉砕性を向上させ石炭と同等レベルの粉砕性を有する固体燃料を製造することができる固体燃料の製造方法及びシステム、並びに固体燃料を提供することを目的とする。」
エ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、石炭と混合して若しくは単独で粉砕され微粉燃料として用いられる固体燃料を、バイオマスを酸素欠乏雰囲気下で加熱することにより製造する固体燃料製造方法において、
植物の殻類、実、種子を含む硬質バイオマスを、酸素濃度1?5%で且つ処理温度350?400℃で30?90分加熱して炭化処理することにより前記固体燃料を製造することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、炭化処理における処理温度が350?400℃のとき、製造される固体燃料のHGI(ハードグローブ粉砕性指数)は30?60程度となる。一般に石炭は、HGIが40?50程度であるため、固体燃料は石炭と同等レベルの粉砕性を有することとなる。これにより、固体燃料は粉砕性が大幅に向上し、粉砕機の粉砕性能向上、動力低減が可能となる。尚、HGIとは、Hardgrove Grinding Index(ハードブローブ粉砕性指数)の略であり、これは石炭の粉砕性を評価する指数で、一定量の仕事量を被粉砕物に加えて得られる砕成物量で定まり、値が大きいほど粉砕性が高いことを示す。
固体燃料を石炭と混合して粉砕する際にも、固体燃料を石炭とともに均一に粉砕することができるため、燃焼効率が高く、高品質な燃料を得ることが可能となる。
また、処理温度400℃以下の範囲内で加熱することにより、固体燃料の熱量残存割合は硬質バイオマスの熱量に対して50%以上となる。従って、燃料としての利用価値を低下させない程度に熱量を残存させた上で、石炭と同等レベルの粉砕性を確保することを可能としている。
【0011】
また、石炭と混合して若しくは単独で粉砕され微粉燃料として用いられる固体燃料を、バイオマスを酸素欠乏雰囲気下で加熱することにより製造する固体燃料製造方法において、
植物の殻類、実、種子を含む硬質バイオマスを、酸素濃度1?5%で且つ製造される固体燃料のHGIが30?60となる処理温度で30?90分加熱して炭化処理することにより前記固体燃料を製造することを特徴とする。」
オ 「【0012】
本発明によれば、上記と同様に固体燃料の粉砕性が大幅に向上し、粉砕機の粉砕性能向上、動力低減が可能となるとともに、石炭と混合して粉砕した際に固体燃料を石炭とともに均一に粉砕することができ、燃焼効率が高く、高品質な燃料とすることができる。
また、HGIが30?60となる処理温度に設定するため、硬質バイオマスの種類、性状、処理量に応じて適宜処理温度が設定され、粉砕性を確実に向上させることが可能となる。さらにまた、硬質バイオマスを他の種類のバイオマスと混合して炭化処理する場合においても、HGIが30?60となる適切な温度に設定することにより、硬質バイオマスの粉砕性を確実に向上させることができる。」

2 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の請求項2(上記1ア)に記載されるように、甲1には、
「石炭と混合して若しくは単独で粉砕され微粉燃料として用いられる固体燃料を、バイオマスを酸素欠乏雰囲気下で加熱することにより製造する固体燃料製造方法において、
植物の殻類、実、種子を含む硬質バイオマスを、酸素濃度1?5%で且つ製造される固体燃料のHGI(ハードグローブ粉砕性指数)が30?60となる処理温度で30?90分加熱して炭化処理することにより前記固体燃料を製造する固体燃料製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「固体燃料」において、「石炭と混合して」「粉砕され微粉燃料として用いられる固体燃料」に着目すれば、当該「固体燃料」は、本件発明1の「石炭と混燃させるための固体燃料」に相当する。
また、甲1発明では、当該固体燃料のHGI(ハードグローブ粉砕性指数)が30?60となるように炭化処理されているから、甲1発明の「石炭と混合して」「粉砕され微粉燃料として用いられる固体燃料を」「製造する固体燃料製造方法」は、本件発明1の「ハードグローブ粉砕性指数が30?70である、石炭と混燃させるための固体燃料の製造方法」に相当する。
(イ)本件発明1の「酸素濃度10%以下かつ温度170?330℃の条件下で物質収率が60?90%、熱量収率が70?95%となるようにロータリーキルンを用いて焙焼する」ことについて、甲1発明では、「酸素欠乏雰囲気下での加熱」は、「酸素濃度1?5%で」「加熱して炭化処理すること」が規定されており、本件発明1の「温度170?330℃の条件下」は、「加熱」といえるものであるから、本件発明1の該「酸素濃度10%以下かつ温度170?330℃の条件下で物質収率が60?90%、熱量収率が70?95%となるようにロータリーキルンを用いて焙焼する」ことと、甲1発明の「酸素欠乏雰囲気下で加熱すること」とは、「酸素濃度10%以下で加熱すること」で共通する。
(ウ)本件発明1の「木質系バイオマス」と、甲1発明の「植物の殻類、実、種子を含む硬質バイオマス」とは、「バイオマス」である点で共通する。
(エ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ハードグローブ粉砕性指数が30?70である、石炭と混燃させるための固体燃料の製造方法であって、バイオマスを酸素濃度10%以下で加熱することを含む、上記方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
バイオマスについて、本件発明1は、「樹皮を含む」「木質系バイオマス」であるのに対し、甲1発明は、「植物の殻類、実、種子を含む硬質バイオマス」である点。
(相違点2)
バイオマスの処理について、本件発明1は、「ロータリーキルンを用いて焙焼する」前に、「0.1?100mmの木質系バイオマス粉砕物の水分を10?50%に調整し、嵩密度が0.55g/cm^(3)以上になるまで高密度化」するのに対し、甲1発明は、「酸素欠乏雰囲気下で加熱する」前に、このような処理はしない点。
(相違点3)
「加熱すること」について、本件発明1は、「温度170?330℃の条件下で物質収率が60?90%、熱量収率が70?95%となるようにロータリーキルンを用いて焙焼する」のに対し、甲1発明は、「HGI(ハードグローブ粉砕性指数)が30?60となる処理温度で30?90分加熱して炭化処理する」点。

イ 判断
相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点1について検討する。
甲1の【0004】(上記1イ)には、木質系バイオマスは大部分が繊維質であるため、粉砕性が悪く、燃焼効率の低下、粉砕機の運転性低下等の問題があったことが記載され、木質系バイオマスとして、製材廃材、除間伐材、庭木、建築廃材等が例示されている。
そして、同【0005】(同イ)には、木質系バイオマスよりもさらに粉砕性が悪いバイオマスとして、植物の殻類、実、種子等の硬質バイオマスが挙げられることが記載されている。
また、同【0007】(同ウ)には、硬質バイオマスを木質系バイオマスと同等レベルの条件で炭化しても、硬質バイオマスは木質系バイオマスとは性質が異なり、より粉砕性が悪いため炭化によっても粉砕性が十分に向上しないことが記載されている。
そして、同【0008】(同ウ)には、本発明(甲1発明)は、硬質バイオマスを適切な条件にて炭化処理することにより、燃料として利用できる熱量を残存させながら粉砕性を向上させ石炭と同等レベルの粉砕性を有する固体燃料を製造することを目的とするものであることが記載されている。
以上のことから、甲1発明は、植物の殻類、実、種子等の硬質バイオマスは、製材廃材、除間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマスと同等レベルの条件で炭化しても粉砕性が十分に向上しないという知見に基いて、炭化処理を、木質系バイオマスとは異なる条件であって硬質バイオマスに適切な条件で行うことで熱量を残存させながら粉砕性を向上させるようにした固体燃料製造方法であるといえる。

そうすると、甲1においては、「植物の殻類、実、種子等の硬質バイオマス」と「製材廃材、除間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマス」とは炭化処理する条件が異なるとしており、当該「木質系バイオマス」に「樹皮」が含まれることは明らかであるから、甲1発明において、炭化処理する対象として、「樹皮を含む」「木質系バイオマス」を用いることは、想定されていないというべきである。
してみると、甲1発明において、本件発明1の上記相違点1に係る発明特定事項である「樹皮を含む」「木質系バイオマス」を用いる動機付けがあるとは認められず、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものではない。

そして、本件発明1は、「樹皮を含む」「木質系バイオマス」を用いることで、「本発明の製造方法にて得られる固形燃料は、物質収率、熱量収率が高く、さらに石炭と同等の粉砕性を有するため、石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として高い比率で混炭して使用することできる」という作用効果を奏するものであり、これは、「樹皮を含む」「木質系バイオマス」を用いていない甲1発明からは、予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものである。

したがって、上記相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。

(申立人の主張について)
申立人は、特許異議申立書において次のように主張している。なお、申立人の主張する相違点1?5は、上記相違点1?3とは異なる。
「以上より、甲1発明は、本件特許発明1に対し、相違点1?5を有するが、当業者であれば、甲1発明の固体燃料の製造方法に基づき、所望の粉砕性(HGI)や熱量収率を達成するために、甲1発明の硬質バイオマスを、当該硬質バイオマスより粉砕し易い木質系バイオマスに置き換え、木質系バイオマスの中から、甲第4号証及び甲第5号証の記載に基づき、発熱量が木部以上であるとされる「樹皮を含む木質系バイオマス」を選択し(相違点1)、甲第4号証の記載に基づき、「樹皮を含む木質系バイオマス」をペレット化するのに適した大きさ(0.1?100mm)に調整し(相違点2)、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証の記載に基づき、「樹皮を含む木質系バイオマス」の水分(10?50%)を調整し(相違点3)、甲第2号証及び甲第5号証の記載に基づき、嵩密度が0.55g/cm^(3)以上になるまで木質系バイオマスをあらかじめ高密度化(ペレット化)し(相違点4)、甲第3号証の記載に基づき、当該ペレットを物質収率(60?90%)及び熱量収率(70?95%)を維持しつつ(相違点5)、HGIが30?70となるような半炭化温度、例えば、甲第6号証の記載に基づき、300℃前後、又は甲第3号証の図4-3に基づき300℃程度(350℃末満)で半炭化して、HGIが36.6(甲第3号証の第iii頁の表1)である固体燃料を製造することに容易に想到することができる。」(特許異議申立書29頁12?30頁1行)

しかしながら、上記主張は、甲1発明において「樹皮を含む木質系バイオマス」を選択することを前提とするものであり、上述したように、甲1発明においては、「樹皮を含む木質系バイオマス」を選択することは想定されていないのであるから、甲2?甲6の記載を参照したとしても、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができるものではなく、申立人の上記主張は採用することができない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?4は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
また、本件発明5は、本件発明1の表現形式を、単に、物の発明である「固体燃料」としたものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。

4 まとめ
上記(1)、(2)で述べたとおり、申立人の申立理由には、理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-01-13 
出願番号 特願2018-49001(P2018-49001)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C10L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 門前 浩一
川端 修
登録日 2020-03-31 
登録番号 特許第6684298号(P6684298)
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 固体燃料の製造方法及び固体燃料  
代理人 新井 規之  
代理人 山本 修  
代理人 中村 充利  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 小野 新次郎  

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