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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60S
管理番号 1370305
審判番号 不服2020-5909  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-30 
確定日 2021-01-12 
事件の表示 特願2018-55058号「合わせガラス、加熱機構付きガラス及び乗り物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年9月6日出願公開、特開2018-138456号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月30日に出願した特願2014-135101号(以下「原出願」という。)の一部を平成30年3月22日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月27日 :手続補正書の提出
平成31年 2月15日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 7月26日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 1年10月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 1月28日付け:令和1年10月1日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 2年 4月30日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年4月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月30日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和2年4月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前(平成31年4月23日付け手続補正)の請求項1
「【請求項1】
一対の湾曲したガラス板の間に配置されるメッシュシートであって、
面内の各方向での加熱収縮率の絶対値の最大値が2%以上10%以下である基材と、
前記基材上に形成された導電性メッシュと、を有する、メッシュシート。」

(2)補正後の請求項1
「【請求項1】
一対の湾曲したガラス板の間に配置されるメッシュシートであって、
面内の各方向での加熱収縮率の絶対値の最大値が2%以上10%以下である基材と、
前記基材上に形成された導電性メッシュと、を有し、
前記導電性メッシュは、金、銀、銅、白金、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム又はタングステンを含む導電細線を用いて形成され、
前記導電細線の幅は、前記メッシュシートの法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて狭くなるように変化し、
前記導電細線は、第1の側面及び第2の側面を有し、
前記第1の側面は、前記法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて前記第2の側面に近づくテーパ面をなし、
前記第2の側面は、前記法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて前記第1の側面に近づくテーパ面をなし、
前記導電細線は、全体として略台形の断面を有している、メッシュシート。」

2 補正の適否
2-1 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「導電性メッシュ」に関し、「前記導電性メッシュは、金、銀、銅、白金、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム又はタングステンを含む導電細線を用いて形成され、前記導電細線の幅は、前記メッシュシートの法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて狭くなるように変化し、前記導電細線は、第1の側面及び第2の側面を有し、前記第1の側面は、前記法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて前記第2の側面に近づくテーパ面をなし、前記第2の側面は、前記法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて前記第1の側面に近づくテーパ面をなし、前記導電細線は、全体として略台形の断面を有している」との限定を付すものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

2-2 独立特許要件
(1)引用文献の記載事項等
(1-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、原出願の出願日前に頒布された特開2010-251230号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電熱窓ガラスに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、3次元曲面ガラス上に数mm間隔で電熱ワイヤを配列する工程が煩雑でコストが高い。また、運転席の前方に電気加熱窓を設けると、運転席から電熱ワイヤが見え、運転しにくい。さらに、電熱ワイヤと電極との接触部の抵抗が大きく、接触部で発熱が起こる可能性がある。
【0006】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、金属細線群が視認されにくく、金属細線群と電極との接触部の発熱を低コストで抑制することができる電熱窓ガラスを提供することを目的とする。」

「【0036】
図1には、電熱窓ガラスの全体構成が平面図にて示されている。この図に示されるように、電熱窓ガラス10は、上辺と下辺がほぼ平行で、かつ上辺よりも下辺が長く形成された略矩形状の電熱窓ガラス本体12と、電熱窓ガラス本体12の長手方向に沿って帯状に形成された略長方形状の発熱部14と、この発熱部14の上下に対向するように配置された上下一対の第1電極16及び第2電極18と、を備えている。さらに、電熱窓ガラス本体12には、発熱部14の長手方向両側(図1中の左右両側)に、上下方向に沿って非発熱部20が設けられている。
【0037】
第1電極16及び第2電極18は、電熱窓ガラス本体12の上辺と下辺の縁部に沿って配設されており、略平行でかつ略同じ長さに形成されている。第1電極16と第2電極18には電源22が接続されている。
【0038】
図2には電熱窓ガラス10の発熱部14が断面図にて示されている。図2では、説明を分りやすくするために各部材の断面を模式的に表している。この図に示されるように、電熱窓ガラス10は、窓ガラス材料からなる2枚のガラス30、32を備えており、2枚のガラス30、32に挟まれた部位には、一方のガラス30に積層された樹脂層34と、樹脂層34に積層された導電性フィルム36と、導電性フィルム36と他方のガラス32との間に介在された樹脂層38と、を備えている。導電性フィルム36の一方の面(樹脂層38側の面)には導電層40が形成されている。樹脂層34、38は、本実施形態ではPVB(ポリビニルブチラール)で形成されている。PVB(ポリビニルブチラール)は通常の状態では柔軟性があるが、熱により架橋して硬くなる性質を有している。
【0039】
図3には電熱窓ガラス10の第1電極16及び第2電極18の部分が断面図にて示されている。図3では、説明を分りやすくするために各部材の断面を模式的に表している。この図に示されるように、電熱窓ガラス10は、2枚のガラス30、32に挟まれた部位に、ガラス30に順次積層された樹脂層34及び導電性フィルム36を備えており、さらに、導電性フィルム36の導電層40に積層された導電性ペースト層46と、導電性ペースト層46に積層された金属箔48と、を備えている。さらに、電熱窓ガラス10は、金属箔48とガラス32との間に介在された樹脂層38を備えている。
【0040】
導電性フィルム36は、図6に示されるように、支持体としての絶縁性の透明フィルム50と、この透明フィルム50の一方の面に形成された導電層40と、を備えている。図4に示されるように、導電層40は、導電性の金属細線42にて構成された多数の格子の交点を有する多数の金属細線群としてのメッシュ状パターンを有し、発熱部14に形成された粗いメッシュ状パターン43Aからなる発熱区域43と、第1電極16及び第2電極18に形成された細かいメッシュ状パターン44Aからなる電極区域44と、を備えている。すなわち、発熱区域43には、金属細線42の細線間隔が大きいメッシュ状パターン43Aが形成されており、電極区域44には、発熱区域43よりも金属細線42の細線間隔が小さいメッシュ状パターン44Aが形成されている。導電性フィルム36の一方の面には、導電層40(メッシュ状パターン)を形成しない非発熱区域45が設けられており、この非発熱区域45が電熱窓ガラス10の非発熱部20となる。
【0041】
電熱窓ガラス10では、電極区域44のメッシュ状パターン44Aと、導電性ペースト層46と、金属箔48とで第1電極16及び第2電極18が構成されている。図示を省略するが、金属箔48は、電源22と接続された電線に接続されている。
【0042】
電源22から第1電極16と第2電極18との間に電圧を印加して導電層40の金属細線42に通電させることで、発熱区域43のメッシュ状パターン43Aが発熱して発熱領域となる。
【0043】
電熱窓ガラス10は、例えば車両のウィンドウガラス(例えばリアガラスやフロントガラスなど)に使用されており、上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている。」

「【0059】
次いで、ガラス30の上にPVBフィルム(樹脂層34)、上記の導電性フィルム36、導電性フィルム36の導電性ペースト層46上に金属箔テープ(金属箔48)、PVBフィルム(樹脂層38)、ガラス32を記載順に重ねて真空乾燥機に入れ、真空脱気した後、真空を保ったまま加熱して電熱窓ガラスの積層材料を仮接着させる。さらに、電熱窓ガラスの積層材料を真空乾燥機から取り出し、オートクレーブに移して空気圧0.1?20MPaの圧力下で120?150℃に加熱処理することにより積層材料が接着し、電熱窓ガラス10が得られる。電熱窓ガラス10の第1電極16及び第2電極18への電源22の接続は、電熱窓ガラス10を車両の窓枠に取り付けた後に行われる。」

「【0072】
本実施形態では、図6に示されるように、現像定着により金属銀部62を形成した後に、銅を電解めっきして銅めっき層68を形成する。さらに、ニッケルを黒化層めっきすることにより、金属銀部62と銅めっき層68の表面に黒化層70を形成する。すなわち、金属銀部62に担持された銅めっき層68及びニッケルの黒化層70にて発熱区域43のメッシュ状パターン43Aを形成する。これは、銅めっき層68は赤いため、ニッケルの黒化層70を形成することにより、メッシュ状パターン43Aを見えにくくするためである。また、電極区域44ではニッケルの黒化層めっきを行わず、金属銀部62に担持された銅めっき層68にて電極区域44のメッシュ状パターン44Aを形成する。」

「【0096】
(感光材料) [透明フィルム50] 本実施形態の製造方法に用いられる透明フィルム50としては、フレキシブルなプラスチックフイルムを用いることができる。
【0097】
上記プラスチックフイルムの原料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、EVA等のポリオレフィン類、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリル樹脂、ポリイミド、又はアラミド等を用いることができる。」

また、引用文献1には、以下の図が示されている。










【図2】




【図6】





以上のとおり、引用文献1には、「導電性フィルム36」に関する技術について開示されており(段落【0038】、段落【0040】)、かかる「導電性フィルム36」を実施するための形態について、以下の事項が認定できる。
・段落【0038】の「電熱窓ガラス10は、窓ガラス材料からなる2枚のガラス30、32を備えており、2枚のガラス30、32に挟まれた部位には、一方のガラス30に積層された樹脂層34と、樹脂層34に積層された導電性フィルム36と、導電性フィルム36と他方のガラス32との間に介在された樹脂層38と、を備えている。」との記載、段落【0043】の「電熱窓ガラス10は、例えば車両のウィンドウガラス(例えばリアガラスやフロントガラスなど)に使用されており、上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている。」との記載、及び【図2】を参照すると、導電性フィルム36は、車両のウィンドウガラスの上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている電熱窓ガラス10の2枚のガラス30、32に挟まれた部位に、一方のガラス30に積層された樹脂層34と他方のガラス32に積層された樹脂層38の間に備えられ、樹脂層34に積層されていること。

・段落【0040】の「導電性フィルム36は、図6に示されるように、支持体としての絶縁性の透明フィルム50と、この透明フィルム50の一方の面に形成された導電層40と、を備えている。図4に示されるように、導電層40は、導電性の金属細線42にて構成された多数の格子の交点を有する多数の金属細線群としてのメッシュ状パターンを有し」との記載及び【図6】を参照すると、導電性フィルム36は、支持体としての絶縁性の透明フィルム50と、この透明フィルム50の一方の面に形成された導電層40と、を備え、前記導電層40は、導電性の金属細線42にて構成された多数の格子の交点を有する多数の金属細線群としてのメッシュ状パターンを有していること。

・段落【0072】の記載及び【図6】を参照すると、導電層40は、金属銀部62及び銅めっき層68により形成された導電性の金属細線42であること。

以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両のウィンドウガラスの上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている電熱窓ガラス10の2枚のガラス30、32に挟まれた部位に、一方のガラス30に積層された樹脂層34と他方のガラス32に積層された樹脂層38の間に備えられ、樹脂層34に積層された導電性フィルム36であって、
前記導電性フィルム36は、支持体としての絶縁性の透明フィルム50と、この透明フィルム50の一方の面に形成された導電層40と、を備え、
前記導電層40は、金属銀部62及び銅めっき層68により形成された導電性の金属細線42にて構成された多数の格子の交点を有する多数の金属細線群としてのメッシュ状パターンを有している、導電性フィルム36。」

(1-2)引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用文献4として示され、原出願の出願日前に頒布された特開2010-159201号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項 1】
フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5?5.0%の範囲であることを特徴とする合わせガラス用ポリエステルフィルム。」

「【0001】
本発明は、合わせガラス用ポリエステルフィルムに関し、特に曲率の大きいガラスを使用した合わせガラス用に好適なポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窓ガラス、特に自動車等の車両の窓ガラスには車内温度上昇を防止するために熱線遮断機能を付与する取り組みが行われている。合わせガラスには、飛散防止効果や耐貫通性を向上させるために、中間膜としてポリビニルブチラールなどの軟質樹脂が使用されており、軟質樹脂に有機染料や無機酸化物を配合して熱線吸収する方法やポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法が知られている。
【0003】
軟質樹脂に有機染料を配合して熱線吸収する方法では、軟質樹脂は曲面を持ったガラスへの追従性に優れるので、合わせガラスにおいて光学歪みはないが、軟質樹脂が着色フィルムとなり、可視光領域で高い透過率を必要とする用途には使えない。軟質樹脂に無機酸化物を配合する方法では、曲面を持ったガラスへの追従性には優れるものの、当該方法では熱線を吸収してガラスが割れてしまうことがある。
【0004】
ポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法は、可視領域での透過率が高く、熱線遮断機能を有する合わせガラスとして優れた性能を有しているが、曲面を持ったガラスを使用した際にガラスの曲面にプラスチックフィルムが追従せず、光学歪みが出ることがある。」

「【0006】
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、曲面を持ったガラスを使用した際であっても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、光学歪みが出ることがない合わせガラス用として好適なポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ある特定の収縮率を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題が容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5?5.0%の範囲であることを特徴とする合わせガラス用ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、曲面を持ったガラスを使用した際においても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、光学歪みが出ることがない、優れた特性を有する合わせガラスを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。 本発明でいうポリエステルフィルムとは、いわゆる押出法に従い、押出口金から溶融押出されたシートを延伸したフィルムである。
【0011】
上記のフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸と、ジオールとからあるいはヒドロキシカルボン酸から重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーを指す。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等を、ジオールとしては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール等を、ヒドロキシカルボン酸としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等をそれぞれ例示することができる。かかるポリマーの代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンー2、6ナフタレート等が例示される。」

「【0028】
(2)合わせガラスにおける光学歪み
曲面を持った2枚のガラス板の間にポリビニルブチラールフィルムおよびポリエステルフィルムを挟み込み、ガラス温度80?100℃、減圧度650mmHg以上で予備圧着し、次いで、温度120?150℃、圧力10?15kg/cm^(2)のオートクレーブ中で20?40分間の本接着を行うことにより、合わせガラスとした。作成した合わせガラスの外観を観察して、合わせガラスにおける光学歪みについて以下の基準で評価を行った。
○:合わせガラスにおいてポリエステルフィルムに起因するシワなく、光学歪みの全くない優れた外観
×:合わせガラスにおいてポリエステルフィルムに起因するシワがあり、透明性が低下し実用上問題がある」

「【0036】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、建材、自動車等の窓の合わせガラス用として好適に利用することができる。」

以上のとおり、引用文献4には、「ガラス用ポリエステルフィルム」に関する技術について開示されており(【請求項1】)、かかる「ガラス用ポリエステルフィルム」を実施するための形態について、以下の事項が認定できる。
・段落【0002】の「窓ガラス、特に自動車等の車両の窓ガラスには車内温度上昇を防止するために熱線遮断機能を付与する取り組みが行われている。合わせガラスには、飛散防止効果や耐貫通性を向上させるために、合わせガラスには、飛散防止効果や耐貫通性を向上させるために、中間膜としてポリビニルブチラールなどの軟質樹脂が使用されており」との記載、及び段落【0028】の「曲面を持った2枚のガラス板の間にポリビニルブチラールフィルムおよびポリエステルフィルムを挟み込み」との記載から、「ガラス用ポリエステルフィルム」は、特に自動車等の車両の曲面を持った2枚のガラス板の間に挟み込まれた中間膜であること。

・段落【0011】の記載内容から、「ガラス用ポリエステルフィルム」を構成するポリマーの代表的なものとしては、「ポリエチレンテレフタレート」であること。

・段落【0009】の「本発明によれば、曲面を持ったガラスを使用した際においても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、光学歪みが出ることがない、優れた特性を有する合わせガラスを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。」との記載、及び段落【0028】の「ポリエステルフィルムに起因するシワなく、光学歪みの全くない優れた外観」との記載から、曲面を持ったガラスを使用した際であっても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、シワなく光学歪みが出ることがない効果を有すること。

以上によれば、引用文献4には、次の事項が記載されていると認められる。
「特に自動車等の車両の曲面を持った2枚のガラス板の間に挟み込まれた中間膜であるガラス用ポリエステルフィルム(構成するポリマーの代表的なものとしては、ポリエチレンテレフタレート)において、フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5?5.0%の範囲にすることで、曲面を持ったガラスを使用した際であっても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、シワなく、光学歪みが出ることがないようにすること。」

(1-3)引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用文献5として示され、原出願の出願日前に頒布された特開2010-159395号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ5.0?10.0%の範囲であることを特徴とする合わせガラス用ポリエステルフィルム。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用ポリエステルフィルムに関し、特に曲率の大きいガラスを使用した合わせガラスに好適なポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窓ガラス、特に自動車等の車両の窓ガラスには車内温度上昇を防止するために熱線遮断機能を付与する取り組みが行われている。合わせガラスには、飛散防止効果や耐貫通性を向上させるために、中間膜としてポリビニルブチラールなどの軟質樹脂が使用されており、軟質樹脂に有機染料や無機酸化物を配合して熱線吸収する方法やポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法が知られている。
【0003】
軟質樹脂に有機染料を配合して熱線吸収する方法では、軟質樹脂は曲面を持ったガラスへの追従性に優れるので、合わせガラスにおいて光学歪みはないが、軟質樹脂が着色フィルムとなり、可視光領域で高い透過率を必要とする用途には使えない。軟質樹脂に無機酸化物を配合する方法では、曲面を持ったガラスへの追従性には優れるものの、当該方法では熱線を吸収してガラスが割れてしまうことがある。
【0004】
ポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法は、可視領域での透過率が高く、熱線遮断機能を有する合わせガラスとして優れた性能を有しているが、曲面を持ったガラスを使用した際にガラスの曲面にプラスチックフィルムが追従せず、光学歪みが出ることがある。・・・」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、曲面を持ったガラスを使用した際であっても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、光学歪みが出ることがない合わせガラス用として好適なポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ある特定の収縮率を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題が容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ5.0?10.0%の範囲であることを特徴とする合わせガラス用ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、曲面を持ったガラスを使用した際においても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、光学歪みが出ることがない、優れた特性を有するフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいうポリエステルフィルムとは、いわゆる押出法に従い、押出口金から溶融押出されたシートを延伸したフィルムである。
【0011】
上記のフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸と、ジオールとからあるいはヒドロキシカルボン酸から重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーを指す。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等を、ジオールとしては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール等を、ヒドロキシカルボン酸としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等をそれぞれ例示することができる。
かかるポリマーの代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンー2、6ナフタレート等が例示される。」

「【0028】
(2)合わせガラスにおける光学歪み
曲面を持った2枚のガラス板の間にポリビニルブチラールフィルムおよびポリエステルフィルムを挟み込み、ガラス温度80?100℃、減圧度650mmHg以上で予備圧着し、次いで、温度120?150℃、圧力10?15kg/cm^(2)のオートクレーブ中で20?40分間の本接着を行うことにより、合わせガラスとした。作成した合わせガラスの外観を観察して、合わせガラスにおける光学歪みについて以下の基準で評価を行った。
○:合わせガラスにおいてポリエステルフィルムに起因するシワなく、光学歪みの全くない優れた外観
×:合わせガラスにおいてポリエステルフィルムに起因するシワがあり、透明性が低下し実用上問題がある」

「【0035】
本発明のフィルムは、例えば、建材、自動車等の窓の合わせガラス用として好適に利用
することができる。」

以上の記載から、引用文献5には、上記引用文献4と同様に、以下の事項が記載されている。
「特に自動車等の車両の曲面を持った2枚のガラス板の間に挟み込まれた中間膜であるガラス用ポリエステルフィルム(構成するポリマーの代表的なものとしては、ポリエチレンテレフタレート)において、フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5?5.0%の範囲にすることで、曲面を持ったガラスを使用した際であっても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、シワなく、光学歪みが出ることがないようにすること。」

(1-4)引用文献6
補正却下の決定の理由に引用文献6として示され、原出願の出願日前に頒布された特開2010-118396号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項 1】
透明基材の一方の面に金属パターン層と、透明樹脂からなり該金属パターン層の凹凸を埋めてその表面が平坦面である接着剤層と光鏡面反射防止層とがこの順に積層されてなる電磁波遮蔽性と光鏡面反射防止性とを有する光学フィルタの製造方法であって、
透明基材上に、該透明基材表面に平行な仮想面で切断した面積が、該透明基材からの距離zの減少関数S(z)となる金属パターン層を形成する金属パターン層形成工程と、
前記金属パターン層形成工程後、剥離性基材上に光鏡面反射防止層及び接着剤層を積層してなる転写シートを準備し、該転写シートをその接着剤層側を金属パターン層側に対面する向きで重ねて、該金属パターン層上に圧着せしめ、該剥離性基材を剥離除去する光鏡面反射防止層転写工程とを、有することを特徴とする、電磁波遮蔽性と光鏡面反射防止性とを有する光学フィルタの製造方法。」

「【0006】
近年、金属パターン層による電磁遮蔽性と光鏡面反射防止性と有する光学フィルタにおいて、電磁波遮蔽層と光鏡面反射防止層を積層する工程において、平坦化層や接着剤層に生じる気泡が、ヘイズを上昇させ透視性を阻害するので問題とされていた。
そこで、我々は、金属パターンの凸状を構成する断面形状と、光鏡面反射防止層積層時の気泡の抜けやすさを鋭意検討したところ、断面の先端側が透明基材から離れるに従って先細り状である場合に、金属パターン凹部内の気泡が抜けやすく、残留し難いことを知得した。
・・・」

また、引用文献6には、以下の図が示されている。
【図1】



以上の記載事項から、以下の事項が認定できる。
・【請求項1】の「透明基材上に、該透明基材表面に平行な仮想面で切断した面積が、該透明基材からの距離zの減少関数S(z)となる金属パターン層」との記載、及び段落【0006】の「金属パターンの凸状を構成する断面形状と、光鏡面反射防止層積層時の気泡の抜けやすさを鋭意検討したところ、断面の先端側が透明基材から離れるに従って先細り状である場合に、金属パターン凹部内の気泡が抜けやすく、残留し難いことを知得した。」との記載並びに【図1】のから、金属パターン層の金属パターンの幅は、光学フィルタの法線方向に沿って透明樹脂から離間するにつれて狭くなるように変化し、金属パターンは、2つの側面を有し、一方の側面は、前記法線方向に沿って前記透明樹脂から離間するにつれて他方の側面に近づくテーパ面をなし、前記他方の側面は、前記法線方向に沿って前記透明樹脂から離間するにつれて前記一方の側面に近づくテーパ面をなし、前記金属パターンは、全体として略台形の断面を有すること。

・段落【0006】の記載から、金属パターンは、全体として略台形の断面を有することで、金属パターン凹部内の気泡が抜けやすくしていること。

以上によれば、引用文献6には、次の事項が記載されていると認められる。
「透明基材の一方の面に金属パターン層と、透明樹脂からなり該金属パターン層の凹凸を埋めてその表面が平坦面である接着剤層と光鏡面反射防止層とがこの順に積層されてなる電磁波遮蔽性と光鏡面反射防止性とを有する光学フィルタにおいて、
金属パターン層の金属パターンの幅は、光学フィルタの法線方向に沿って透明樹脂から離間するにつれて狭くなるように変化し、金属パターンは、2つの側面を有し、一方の側面は、前記法線方向に沿って前記透明樹脂から離間するにつれて他方の側面に近づくテーパ面をなし、前記他方の側面は、前記法線方向に沿って前記透明樹脂から離間するにつれて前記一方の側面に近づくテーパ面をなし、前記金属パターンは、全体として略台形の断面を有することにより、金属パターン凹部内の気泡が抜けやすくしていること。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 後者の「車両のウィンドウガラスの上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている電熱窓ガラス10の2枚のガラス30、32」は、前者の「一対の湾曲したガラス板」に相当する。
後者の「導電性フィルム36」は、「金属細線42にて構成された多数の格子の交点を有する多数の金属細線群としてのメッシュ状パターンを有」するものであるから、前者の「メッシュシート」に相当する。
また、「導電性フィルム36」は、「2枚のガラス30、32」の間に配置されることは明らかである。
そうすると、後者の「車両のウィンドウガラスの上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている電熱窓ガラス10の2枚のガラス30、32に挟まれた部位に、一方のガラス30に積層された樹脂層34と他方のガラス32に積層された樹脂層38の間に備えられ、樹脂層34に積層された導電性フィルム36」は、前者の「一対の湾曲したガラス板の間に配置されるメッシュシート」に相当する。

イ 後者の「支持体としての絶縁性の透明フィルム50」は、前者の「基材」に相当し、後者の「導電層40」は、「導電性の金属細線42にて構成された多数の格子の交点を有する多数の金属細線群としてのメッシュ状パターンを有」するものであるから、前者の「導電性メッシュ」に相当する。
そうすると、後者の「この透明フィルム50の一方の面に形成された導電層40」は、前者の「前記基材上に形成された導電性メッシュ」に相当する。

ウ 後者の「金属銀部62及び銅めっき層68により形成された導電性の金属細線42」は銀及び銅を含むものであるから、前者の「金、銀、銅、白金、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム又はタングステンを含む導電細線」に相当し、後者の「前記導電層40は、金属銀部62及び銅めっき層68により形成された導電性の金属細線42にて構成され」ることは、前者の「前記導電性メッシュは、金、銀、銅、白金、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム又はタングステンを含む導電細線を用いて形成され」ることに相当する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「一対の湾曲したガラス板の間に配置されるメッシュシートであって、
基材と、
前記基材上に形成された導電性メッシュと、を有し、
前記導電性メッシュは、金、銀、銅、白金、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム又はタングステンを含む導電細線を用いて形成されている、メッシュシート。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

<相違点1>
「基材」について、
本件補正発明が、「面内の各方向での加熱収縮率の絶対値の最大値が2%以上10%以下である」のに対し、
引用発明は、かかる加熱収縮率の特定がされていない点。

<相違点2>
「導電細線」について、
本件補正発明は、「前記導電細線の幅は、前記メッシュシートの法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて狭くなるように変化し、前記導電細線は、第1の側面及び第2の側面を有し、前記第1の側面は、前記法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて前記第2の側面に近づくテーパ面をなし、前記第2の側面は、前記法線方向に沿って前記基材から離間するにつれて前記第1の側面に近づくテーパ面をなし、前記導電細線は、全体として略台形の断面を有して」いるのに対し、
引用発明は、かかる形状について特定されていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
(ア)引用文献4及び5には、上記「(1)(1-2)及び(1-3)」で述べたように、
「特に自動車等の車両の曲面を持った2枚のガラス板の間に挟み込まれた中間膜であるガラス用ポリエステルフィルム(構成するポリマーの代表的なものとしては、ポリエチレンテレフタレート)において、フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5?5.0%の範囲にすることで、曲面を持ったガラスを使用した際であっても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、シワなく、光学歪みが出ることがないようにすること。」(以下「引用文献4、5に記載された事項」という。)が記載されている。
ここで、上記引用文献4、5に記載された事項の「特に自動車等の車両の曲面を持った2枚のガラス板」及び「中間膜であるガラス用ポリエステルフィルム」は、その配設構造に照らして、引用発明の「車両のウィンドウガラスの上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている電熱窓ガラス10の2枚のガラス30、32」及び「透明フィルム50」に対応する。

(イ)引用発明の「導電性フィルム36」と引用文献4、5に記載された事項の「ガラス用ポリエステルフィルム」とは、自動車等の車両用のガラスに適用されるものであるから技術分野が共通する。また、引用発明の「導電性フィルム36」は「曲面形状に形成されている電熱窓ガラス10の2枚のガラス30、32に挟まれた部位に、一方のガラス30に積層された樹脂層34と他方のガラス32に積層された樹脂層38の間に備えられ、樹脂層34に積層され」ているものであるから、引用文献4、5に記載された事項の「ガラス用ポリエステルフィルム」とは、2枚のガラス板の間に挟み込まれ、ガラスの曲面に添うように追従して積層される構成においても共通している。加えて、引用発明の「導電性フィルム36」の「支持体」である「透明フィルム50」の材質は、引用文献1の段落【0096】、【0097】を参照すると「ポリエチレンテレフタレート(PET)」が例示されているから、引用文献4、5に記載された事項の「ガラス用ポリエステルフィルム(構成するポリマーの代表的なものとしては、ポリエチレンテレフタレート)」と材質においても共通する。
そして、引用発明は、引用文献1の段落【0005】、【0006】の記載から、運転席から電熱ワイヤの金属細線群が視認されにくくすることを課題に含むものであって、運転者の視界を良好にすることを念頭においているものといえるから、引用発明の「導電性フィルム36」を「電熱窓ガラス10」として形成する際に、引用発明に引用文献4、5に記載された事項を参考にして、シワなく、光学歪みが出ることがないようにする動機付けは十分存在するものといえる。

(ウ)上記(イ)より、引用発明に引用文献4、5に記載された事項を参考にすれば、車両のウィンドウガラスの上下方向に沿った中心線に対して左右対称の曲面形状に形成されている電熱窓ガラス10の2枚のガラス30、32の曲面に添うように透明フィルム50が追従して積層され、シワなく、光学歪みが出ることがないように、透明フィルム50の長手方向および幅方向における熱収縮率を設定することは想起し得ることである。

(エ)本件補正発明と引用文献4、5に記載された事項とを対比すると、引用文献4、5に記載された事項の「フィルムの長手方向および幅方向」及び「熱収縮率」は、本件補正発明の「面内の各方向」及び「加熱収縮率」にそれぞれ相当する。
「加熱収縮率」の加熱条件に関しては、本件補正発明は「加熱収縮率」を算出する際の加熱温度及び加熱時間は特定されていないが、本件明細書の段落【0034】の記載によれば、100℃で15分間とするものあるのに対し、引用文献4、5に記載された事項では、130℃で30分としている点で相違している。
しかしながら、本件補正発明の「基材」と引用文献4、5に記載された事項の「中間膜」とは、自動車等の車両の曲面を持った2枚のガラス板の間に挟み込まれた部材である点で技術分野及び配置態様が共通するところ、しわの発生を防止することを目的としている点でも共通している。
また、「熱収縮率」の具体的算出手段は、当業者であれば適宜設定し得るものであるところ、面内の各方向での加熱収縮率の絶対値の最大値を採ることに、格別な困難性はないものであるから、引用発明に引用文献4、5に記載された事項を参考にして、引用発明の「透明フィルム50」の加熱収縮率の数値範囲を設定する際に、2枚のガラス30、32の曲面に添うように透明フィルム50が追従して積層され、シワなく、光学歪みが出ることがないことを達成するために、透明フィルム50の面内の各方向での加熱収縮率の絶対値の最大値が2%以上10%以下の数値にすることは、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することで設定できるものであって、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
したがって、上記相違点1に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易になし得たものである。

イ 相違点2について
(ア)引用文献6には、上記「(1)(1-4)」で述べたように、
「透明基材の一方の面に金属パターン層と、透明樹脂からなり該金属パターン層の凹凸を埋めてその表面が平坦面である接着剤層と光鏡面反射防止層とがこの順に積層されてなる電磁波遮蔽性と光鏡面反射防止性とを有する光学フィルタにおいて、
金属パターン層の金属パターンの幅は、光学フィルタの法線方向に沿って透明樹脂から離間するにつれて狭くなるように変化し、金属パターンは、2つの側面を有し、一方の側面は、前記法線方向に沿って前記透明樹脂から離間するにつれて他方の側面に近づくテーパ面をなし、前記他方の側面は、前記法線方向に沿って前記透明樹脂から離間するにつれて前記一方の側面に近づくテーパ面をなし、前記金属パターンは、全体として略台形の断面を有することにより、金属パターン凹部内の気泡が抜けやすくしていること。」(以下「引用文献6に記載された事項」という。)が記載さている。
ここで、上記引用文献6に記載された事項の「金属パターン層の金属パターン」及び「透明樹脂からなり該金属パターン層の凹凸を埋めてその表面が平坦面である接着剤層」は、その配設構造に照らして、引用発明の「金属細線42」及び「樹脂層34」に対応するものである。

(イ)引用発明と引用文献6に記載された事項とは、金属パターン上に樹脂層を積層する技術である点で共通する。
また、上記「ア(イ)」で述べたように、引用発明は、運転者の視界を良好にすることを念頭においているものであるから、「2枚のガラス30、32に挟まれた部位に、一方のガラス30に積層された樹脂層34と他方のガラス32に積層された樹脂層38の間に備えられ、樹脂層34に積層された導電性フィルム36」において、視界を妨げるような気泡等の発生を防止するような構成にすることは当然考慮に入れることである。
加えて、引用発明の「導電性フィルム36」を使用した電熱窓ガラス10の製造方法に関し、引用文献1の段落【0059】の「・・・さらに、電熱窓ガラスの積層材料を真空乾燥機から取り出し、オートクレーブに移して空気圧0.1?20MPaの圧力下で120?150℃に加熱処理することにより積層材料が接着し、電熱窓ガラス10が得られる。・・・」との記載を参照すると、その製造工程に、オートクレーブに移して加熱処理をする工程を含むものである。そして、該オートクレーブに移して加熱処理をする工程が、気泡の発生を防止する効果を有することは技術常識(例えば、国際公開第2013/118489号の段落[0055]、及び特開2010-41003号公報の段落【0048】を参照。)であるから、引用発明においても、気泡の発生を防止するという課題は内在するものといえる。
したがって、引用発明に引用文献6記載された事項を参考とする動機付けは十分存在する。

(ウ)引用発明に引用文献6に記載された事項を参考にして、引用発明において、「導電性フィルム36」の「金属細線42」と「樹脂層34」との間の気泡が抜けやすくするために、該「金属細線42」の幅を、「導電性フィルム36」の法線方向に沿って「透明フィルム50」から離間するにつれて狭くなるように変化し、「金属細線42」は、2つの側面を有し、一方の側面は、前記法線方向に沿って前記「透明フィルム50」から離間するにつれて他方の側面に近づくテーパ面をなし、前記他方の側面は、前記法線方向に沿って前記「透明フィルム50」から離間するにつれて前記一方の側面に近づくテーパ面をなし、前記「金属細線42」は、全体として略台形の断面を有することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易になし得たものといえる。

ウ そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献4、5に記載された事項、引用文献6に記載された事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。

エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書(「4.(2)」の項)で、
「また、本願発明の上記特徴(a)によれば、導電細線の側面全体が一方のガラス板の側を向くようになるので、導電細線の側面からの反射によって伝熱される熱を、この一方のガラスに向かいやすくすることができます。これにより、ガラス板をより発熱させることができます。」と主張しているが、かかる効果については、本件明細書には記載さていない。
また、「導電細線の側面全体が一方のガラス板の側を向くようになるので、導電細線の側面からの反射によって伝熱される熱を、この一方のガラスに向かいやすくすることができ」る効果について、引用文献1の【図6】に示されているような、導電細線の断面が長方形である通常のものと比較して、どれくらいの効果の差異があるのか不明であり、定量的な効果を確認できないから、格別な効果ということはできない。

(イ)請求人は、審判請求書(「4.(4)」の項)で、
「すなわち、引用文献6に記載された発明において、金属パターン層2がアルミニウムで形成されていることと、この金属パターン層2の断面が台形等の形状を有していることとは、一体不可分の構成であるものというべきです。したがいまして、引用文献1に記載された発明に、このような引用文献6に記載された発明を採用してアルミニウムとは異なる金属材料を含んで形成された導電細線の断面形状を台形等の形状とし、上記特徴(a)に係る本願発明の構成とすることは、当業者であっても容易ではありません。」と主張しているが、引用文献6の【請求項1】及び段落【0006】には、金属パターン層2がアルミニウムで形成されていることの限定はないから、金属パターン層2がアルミニウムで形成されていることと、この金属パターン層2の断面が台形等の形状を有していることとが、一体不可分の構成であるとは認められない。また、特に段落【0006】の記載は、背景技術における知見が示されているものであるから、該金属パターン層2の材質に左右されるものではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

エ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用文献4、5に記載された事項、引用文献6に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成31年4月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。

本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献4、5に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、上記引用文献1、4、5は、上記「第2 2 2-2 (1)」に示す引用文献1、4、5である。

3 当審の判断
本願発明は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものであり、本願補正発明から、上記相違点2に係る事項を省いたものである。
上記相違点1の判断は、「第2 2 2-2(3)ア」で述べたとおり、引用発明、引用文献4、5に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用文献4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献4、5に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2020-11-12 
結審通知日 2020-11-13 
審決日 2020-11-26 
出願番号 特願2018-55058(P2018-55058)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 須賀 仁美
島田 信一
発明の名称 合わせガラス、加熱機構付きガラス及び乗り物  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 柳本 陽征  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  

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