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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1370380
審判番号 不服2019-11099  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-22 
確定日 2021-01-14 
事件の表示 特願2017- 77679「リニアモータ及びその固定子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開,特開2018-182863〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概略
本願は,平成29年4月10日を出願日とする出願であって,その手続の経緯は,おおむね,以下のとおりである。
平成30年 6月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月 2日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年12月 4日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月30日 :意見書,手続補正書の提出
令和 元年 6月28日付け:拒絶査定
令和 元年 8月22日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和 2年 7月22日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 9月17日 :意見書,手続補正書の提出

第2 当審にて通知した拒絶の理由の概要
当審にて令和2年7月22日付けで通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。
理由1 この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1には,「前記蓋は,・・・,前記パイプ状部材に挿入されることで,前記抜け止め部における前記弾性部と前記繋止用凹部とを係合させ,係合状態において複数個の前記磁石と前記スペーサとを前記パイプ状部材の内部で密着させる」と記載されているが,当該記載は,
ア 弾性部と繋止用凹部が係合した状態(時点)で,複数個の磁石とスペーサがパイプ状部材の内部で密着している状態であることを指しているのか,
イ 弾性部と繋止用凹部が係合した状態(時点)では複数個の磁石とスペーサはパイプ状部材の内部で密着しておらず,前記弾性部と前記繋止用凹部が係合した後,何らかの手段によって,複数個の前記磁石と前記スペーサがパイプ状部材の内部で密着した状態になることを指しているのか
など,多義的な解釈が可能であるから,請求項1に係る発明は不明である。
仮に,上記イの状態を指しているのであれば,具体的にどのような手段(構成)によって,イの状態が達成されているのかも特定されたい。
この点は,請求項1を引用する請求項2-5についても同様である。
(2)請求項6には,「前記蓋は,・・・,前記蓋挿入ステップにおいて前記パイプ状部材に挿入されることで,前記弾性部と前記繋止用凹部とを係合させ,係合状態において複数個の前記磁石と前記スペーサとを前記パイプ状部材の内部で密着させる」と記載されているが,当該記載は,
ア 弾性部と繋止用凹部を係合させた状態(時点)で,複数個の磁石とスペーサがパイプ状部材の内部で密着している状態であることを指しているのか,
イ 弾性部と繋止用凹部を係合させた状態(時点)では複数個の磁石とスペーサはパイプ状部材の内部で密着しておらず,前記弾性部と前記繋止用凹部を係合させた後,さらに,別のステップにて,複数個の前記磁石と前記スペーサをパイプ状部材の内部で密着させることを指しているのか
など,多義的な解釈が可能であるから,請求項6に係る発明は不明である。
仮に,上記イの状態を指しているのであれば,具体的にどのようなステップによって,イの状態が達成されているのかも特定されたい。

理由2 この出願の請求項1-6に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献)
引用文献1:特開2007-43780号公報
引用文献2:国際公開第2008/013053号
引用文献3:特開2011-25576号公報
引用文献4:特開2008-82405号公報
引用文献5:特開2003-96952号公報
引用文献6:特開2010-270559号公報
引用文献7:特開2006-153266号公報
引用文献8:米国特許出願公開第2003/0041698号明細書
引用文献9:特開2006-353022号公報
引用文献10:実願昭53-008094号(実開昭54-113169号)のマイクロフィルム

第3 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下,請求項の番号に従って,「本願発明1」などという。)は,令和2年9月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
パイプ状部材の内部に複数個の磁石とスペーサとを収納し,前記パイプ状部材の端部に蓋を配置して構成された固定子と,
前記固定子の外側に配置され,コイルが内蔵された可動子と,
前記固定子の端部に対して設けられ,前記蓋が前記パイプ状部材の前記端部から外れることを防止する抜け止め部と
を備え,
前記抜け止め部は,
前記パイプ状部材および前記蓋のいずれか一方に設けられ,弾性を有する弾性部と,
前記いずれか一方に対する他方に設けられ,前記弾性部が係合される繋止用凹部と
を有し,
前記弾性部は,前記弾性により変形可能であり,
前記蓋は,
前記固定子の分解を可能にするために,前記弾性部の変形によって,前記パイプ状部材の前記端部に対して着脱可能に構成されており,
前記パイプ状部材に挿入されることで,前記抜け止め部における前記弾性部と前記繋止用凹部とを係合させ,係合状態において,前記蓋に設けられている螺子を前記パイプ状部材の軸方向に移動させるように締めることで複数個の前記磁石と前記スペーサとを前記パイプ状部材の内部で密着させる
リニアモータ。
【請求項2】
前記弾性部は,前記パイプ状部材の一部を切り欠いて前記パイプ状部材の内径側に折り曲げた曲げ部から構成され,
前記繋止用凹部は,前記蓋に設けられ,前記曲げ部に係合する溝から構成されている,
請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項3】
前記パイプ状部材は,一端のみが開口しており,
前記蓋および前記抜け止め部は,前記パイプ状部材の開口している前記一端に対して設けられている,
請求項1または2に記載のリニアモータ。
【請求項4】
前記蓋および前記抜け止め部は前記パイプ状部材の一端にのみ配置され,
前記パイプ状部材の他端は,前記パイプ状部材の一部を切り欠いて前記パイプ状部材の内径側に折り曲げた第2の曲げ部を有し,
前記第2の曲げ部は,前記パイプ状部材の内部に収納された前記磁石及び前記スペーサのうち,最も前記他端に近い位置に配置された1つに当接されている,
請求項1または2に記載のリニアモータ。
【請求項5】
前記弾性部は,前記蓋に設けられ,内部にばねを有するプランジャから構成され,
前記繋止用凹部は,前記パイプ状部材に設けられ,前記プランジャの頭部が係合する穴から構成されている,
請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項6】
パイプ状部材の内部に複数個の磁石とスペーサとを収納する収納ステップと,
前記パイプ状部材の端部に蓋を挿入して配置する蓋挿入ステップと
を備え,
前記蓋挿入ステップは,
前記蓋の前記パイプ状部材の端部への挿入過程において,前記パイプ状部材および前記蓋のいずれか一方に設けられ,弾性を有する弾性部と,前記いずれか一方に対する他方に設けられた繋止用凹部とが係合される,
リニアモータの固定子の製造方法であって,
前記弾性部は,前記弾性により変形可能であり,
前記蓋は,
前記固定子の分解を可能にするために,前記弾性部の変形によって,前記パイプ状部材の前記端部に対して着脱可能に構成されており,
前記蓋挿入ステップにおいて前記パイプ状部材に挿入されることで,前記弾性部と前記繋止用凹部とを係合させ,係合状態において,前記蓋に設けられている螺子を前記パイプ状部材の軸方向に移動させるように締めることで複数個の前記磁石と前記スペーサとを前記パイプ状部材の内部で密着させる
リニアモータの固定子の製造方法。」

第4 当審にて通知した拒絶の理由についての判断
事案に鑑み,上記第2に示す理由2(特許法第29条第2項)から検討する。
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
ア 当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに以下の事項が記載されている(下線は,当審にて付与した。以下同様である。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
この発明は,特に複数の磁石を組み合わせて構成されるシャフト型リニアモータ及び放射線画像読取装置に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように,円筒状の磁石を用いた場合においては,磁石の中心に軸を通し,その軸の端部に螺子部を設けて,その螺子を用いてナットで締め付けて磁石を挟み込むように固定する構成をとることによって反発し合う磁石の力を押さえ込んでいたが,軸,ナットなどが必要で部品点数も多く,コストが高くなっていた。
【0005】
また,磁石の中心に孔の空いた磁石に限定されることとなり,例えば円柱状の磁石を用いた場合は同様の構成を用いることができないため,磁石を収納する部材に,磁石を抜け止めするための機構を設けなくてはならない。この磁石の抜け止めをするための機構は,反発し合う磁石の力が強力であり,それに耐えうる構成としなくてはならないなどの問題がある。
【0006】
この発明は,このような実情に鑑みてなされたもので,簡素な構成で,強度を有し,低コストで,高い部品精度を確保できるシャフト型リニアモータ及び放射線画像読取装置を提供する。」
(ウ)「【0025】
図1はシャフト型リニアモータの概略構成図である。シャフト型リニアモータ10は,複数の磁石を収納するパイプ状部材21を含む固定子20と,固定子20を包むように配置された線材を巻き付けてなるコイル31を含む可動子30を有する。固定子20は,複数の磁石24と,複数の磁石24を収納するパイプ状部材21とを有する。磁石24は,パイプ状部材21に効率よく収納されるように円柱形状であることが好ましいが,外形が円柱形状であれば,中心に貫通孔が設けられた円筒形状の磁石を用いてもよい。磁石24の材料としては,磁束密度の大きい希土類磁石が好ましい。特に,希士類磁石は,ネオジム系磁石,例えばネオジム-鉄-ボロン磁石(Nd-Fe-B磁石)が好ましく,他の磁石に比べて高い推力が得られる。
【0026】
パイプ状部材21の材料としては,アルミニウム合金,銅合金,非磁性ステンレス鋼等 の非磁性材料を用いることが好ましい。また,パイプ状部材21は,可動子30に作用させる磁界を減少させないようにできるだけ薄いほうが好ましい。この実施の形態では,薄肉パイプを使用しており,この薄肉パイプとすることにより磁石24と可動子30間の距離を短くすることができ,より大きな推力を得るようにしている。
【0027】
パイプ状部材21の一端部は抜け止め機構23が設けられている。また,パイプ状部材21の他端部は磁石24をパイプ状部材21の内部に収納するために開口しており,所定数の磁石24の詰め込み収納が終了したら,封止機構22で磁石24の飛び出しを押さえ込むようになっている。抜け止め機構23は挿入部材23aを有し,挿入部材23aはパイプ状部材21と同様の非磁性体材料を用いて形成することができる。
【0028】
パイプ状部材21の内部には,複数の磁石24が隣接する磁石と互いに反発するように同じ磁極を対向させて収納されている。なお,隣り合う磁石24同士が密着するようにパイプ状部材21の内部に収納されているが,隣り合う磁石24同士が反発し合うように収納されていればよく,隣り合う磁石24同士の間に隙間を設けるように収納してもよい。抜け止め機構23と封止機構22とによってパイプ状部材21の両端部から磁石24が反発力により抜け出ることを規制する。」
(エ)「【0040】
このようにして,パイプ状部材21の一端部21bに抜け止め機構23が設けられ,他端部21aから所定数の磁石24の詰め込み収納が終了したら,図11及び図12に示すように,封止機構22で磁石24の飛び出しを押さえ込む。図11は封止機構の断面図,図12は封止機構の正面図である。
【0041】
所定数の磁石24が送り込まれた後,磁石24と同等の外形寸法である封止部材70を磁石5と同様の方法で送り込み,磁石24をパイプ状部材21に封止する。この封止部材70の固定は,磁石24を詰め込み後,スペーサ51,封止部材70を順次詰め込み,封止部材70まで挿入したら,固定リング50を3個のねじ53によって封止部材70に固定する。封止部材70にはDカットのような面70aが対向して設けられ,この面70aによって各部品の(ネジ)穴の方向を決めることができる。この実施の形態では,封止部材70を詰め込む際は,面70aによってパイプ状部材21に送り込む際の(ネジ)穴の方向を図示しないガイド部材を突き当て詰め込む。
【0042】
次に,封止部材70に軸方向からボルト54を捻じ込み,スペーサ51を押込んで磁石24の反発力によって生じた磁石24間の隙間を無くす。このスペーサ51は直接磁石24にボルト54があたった際に,磁石24に破損の恐れがあるため用いている。また,封止機構22は,図11及び図12に示す構成に限定されることなく,図2乃至図10に示した抜け止め機構23のように構成しても良い。」
(オ)上記(エ)及び図1,11より,前記封止部材70に設けられている前記ボルト54を前記パイプ状部材21の軸方向から捻じ込み,前記スペーサ51を押し込んで前記磁石24の反発力によって生じた前記磁石24間の隙間及び前記磁石24と前記パイプ状部材21の端部に配置された前記スペーサ51との間の隙間を無くすことがわかる。

イ 上記の記載及び図面の記載からみて,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「パイプ状部材21の内部に複数個の磁石24を収納し,前記パイプ状部材21の端部にスペーサ51,封止部材70を配置して構成された固定子20と,
前記固定子20の外側に配置され,コイル31を含む可動子30と,
前記固定子20の端部に対して設けられ,前記封止部材70が前記パイプ状部材21の前記端部から外れることを防止する固定リング50とねじ53と
を備え,
前記封止部材70は,
前記パイプ状部材21に挿入されて,前記固定リング50と前記ねじ53によって固定され,固定された状態において,前記封止部材70に設けられているボルト54を前記パイプ状部材21の軸方向から捻じ込み,前記スペーサ51を押し込んで前記磁石24の反発力によって生じた前記磁石24間の隙間及び前記磁石24と前記パイプ状部材21の端部に配置された前記スペーサ51との間の隙間を無くす
シャフト型リニアモータ10。」

(2)引用文献2について
当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「実施例1
[0012] 図1は本発明の実施例1に係る円筒型リニアモータを示す断面図である。
図1において,10は界磁極,10aはそれぞれ軸方向に磁化された複数の円柱状のマグネットと,10bは各マグネット10a間に間挿される磁性体からなる円柱状のポールピースである。ポールピース10bはこれを挟み込むことにより,エアギャップ中の空間磁束密度が正弦波分布に近くなり,電機子コイルに生じる誘起電圧に関して絶対値が大きくなりかつ正弦波に近い分布となり,磁力線を効率よく電機子20側へ向かわせるのに有効な働きをするので,モータ定数の向上と推力リプルの低減につながるので好ましいが,必須ではない。10cはマグネット10aおよびポールピース10bを内部に収納するステンレスパイプ,10dはステンレスパイプ10cの端部を封止するエンドブロックである。
以上の要素で固定子1を構成している。
一方,可動子2は,20の電機子,20aの円筒形コイル,20bの磁性体からなる円筒形ヨーク,20cの樹脂フレームで構成される。
このような界磁極10と電機子20とが磁気ギャップを介してそれぞれが同軸上に配置され,界磁極10を固定子1に,電機子20を可動子2として,相対的に走行するようにしてリニアモータが構成されている。
上記のように,円筒形ヨーク20bの外側のフレーム20cを樹脂材で構成しているため,導電率がほぼ0となっている。したがって,電機子20の両端部付近において,界磁極から漏れた磁束が樹脂フレーム20cへ鎖交しても渦電流が発生しないため,渦電流ブレーキ(粘性制動力)が発生しなくなる。」

(3)引用文献3について
当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0038】
本発明の実施例1を図1乃至図21に基づいて説明する。
図1に示すように,車両の窓開口縁(例えばアウタードアパネルの上縁)に沿って装着される長尺なベルトモールディング10(複合押出成形品)は,金属材料で成形された装飾カバー部11(第1部材)と,ポリマー材料で押出成形されたモール本体部12(第2部材)とが一体化されている。」
イ 「【0078】
具体的には,図16に示すように,装飾カバー部11の長さが所定の最終寸法Lになるように装飾カバー部11の端末段差部57を最終切断する加工を行った後,装飾カバー部11の端末段差部57(内部空間11a内にモール本体部12が存在しない部分)の各フランジ13に,プレス加工でそれぞれ内部空間11aに向けて突出する切り起こし突片58を設けると共に,装飾カバー部11の端末段差部57以外の部分(内部空間11a内にモール本体部12が存在する部分)の端末段差部57近傍の各フランジ13に,それぞれ内部空間11aに向けて突出する突起59を設ける。
【0079】
この後,図17に示すように,装飾カバー部11の端末11Eを塞ぐように別体のエンドキャップ60を矢印X方向から端末段差部57の内部空間11a内に挿入して,エンドキャップ60に形成した係合凹部61に装飾カバー部11の切り起こし突片58を係合させることで,装飾カバー部11の端末段差部57にエンドキャップ60を抜け止め保持した状態で装着する。尚,エンドキャップ60が装飾カバー部11よりも軟質材料で形成されている場合には,エンドキャップ60に係合凹部61を設けずに装飾カバー部11の切り起こし突片58をエンドキャップ60に食い込ませるようにしても良い。また,モール本体部12を矢印Y方向から端末12Eが突起59を越える所定位置まで押し込んで,装飾カバー部11の突起59がモール本体部12に食い込む或は強く押し当たることで,モール本体部12が固定され,突起59の位置を基準として(突起59の位置で固定された状態で)装飾カバー部11に対して長手方向に伸縮可能になっている。
【0080】
或は,図18に示すように,装飾カバー部11の端末段差部57の各フランジ13に,それぞれ係合孔62を設け,エンドキャップ60に形成した係合突起63を装飾カバー部11の係合孔62に係合させることで,装飾カバー部11の端末段差部57にエンドキャップ60を抜け止め保持した状態で装着するようにしても良い。尚,差し込み方向X,押し込み方向Yは,図17の説明の場合と同一なので,以降の説明は省略する。」

(4)引用文献4について
当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は,管継手及びこれを用いた配管システムに関するものである。」
イ 「【0022】
本発明の管継手1は図1に示すように,雄継手部材2と雌継手部材3と抜け止め兼カバー部材4とで構成してある。」
ウ 「【0033】
まず,図3に示すように,割り筒部11の軸方向の他端部の雄筒部8の先端から突出している突出部分である第2被嵌部22に雌継手部材3の雌筒部10を嵌め込んで雌筒部10の軸方向を雄筒部8の軸方向に合わせて位置決めすると同時に,軸方向の位置決めをした状態で第2被嵌部22により雌筒部10を仮保持する。この場合,第2被嵌部22は側部開口11aの開口巾が直径よりも小さい略C字状をしているので,軸方向の位置決め状態が確実に保持される。また,第2被嵌部22の両側に傾斜した弾性を有する切り起こし片13aが設けてあるので,切り起こし片13aが第2被嵌部22に嵌め込んで軸方向の位置合わせをした雌筒部10の両側面に弾接して位置合わせ状態をより確実に保持できるようになっている。ここで,切り起こし片13aの傾斜の向きが,先端側ほど割り筒部11の軸方向の他端から離れ且つ先端側ほど割り筒部11の内面から離れるように傾斜しているので,傾斜に沿って雌筒部10を差し込むことができて,第2被嵌部22への雌筒部10の嵌め込みに当って切り起こし片13aが障害とならない。
【0034】
上記のようにして第2被嵌部22に雌筒部10を嵌め込んで軸方向の位置合わせをして仮保持した状態で,雄継手部材2,雌継手部材3を互いに近づく方向に移動して図4に示すように雌筒部10と雄筒部8とを嵌め込み接続する。
【0035】
この場合,雌筒部10は上記のように第2被嵌部22により軸方向の位置決め保持がなされて第2被嵌部22にガイドされながら雄筒部8に嵌め込まれるのであるが,雌筒部10は雄筒部8と中間被嵌部21との間の隙間14に嵌め込まれるので,中間被嵌部21においてもガイドされ,雌筒部10の中心軸と雄筒部8の中心軸とが一致するように軸方向の位置決めがなされたまま軸方向に誘導されながら嵌め込み作業ができるようになっており,この結果,Oリング7を有する雄筒部8に雌筒部10を簡単且つOリング7を傷付けないようにスムーズに嵌め込むことができる。このように嵌め込み作業中において雄筒部8に対して雌筒部10は軸方向にガイドされながら嵌め込まれることになって,雌筒部10が雄筒部8に対して斜めに被嵌されてOリング7が噛み込まれて損傷するというような事態が生じることがなく,この点でも,Oリング7による止水効果を低下させることなく,嵌め込み接続部分における流体漏れ(例えば水漏れ)を事前に防止することができることになる。
【0036】
Oリング7を外周に設けた雄筒部8と雌筒部10を完全に嵌め込むと,ちょうど雌筒部10の先端が大径筒部6の端面に当たり,且つ,この状態で第2係止部13となる切り起こし片13aが第2被係止部9となる環状溝9aに位置して弾性的に係止する。
【0037】
上記のようにして雄筒部8と雌筒部10との嵌め込みというワンタッチの作業で雄継手部材2と雌継手部材3とを嵌め込み接続できる。
【0038】
雄継手部材2と雌継手部材3とが上記のようにして嵌め込み接続された状態で,第1係止部12と第1被係止部5との係止,及び,第2係止部13と第2被係止部9との係止により軸方向の抜け止めがなされることになり,嵌め込みというワンタッチの作業で接続できるようにしたにもかかわらず,簡単な構成で軸方向の抜け止めができることになる。また,割り筒部11により雄筒部8と雌筒部10との嵌め込み接続部分が覆われるので,割り筒部11により嵌め込み接続部を外側から保護すると共に嵌め込み接続強度を向上させることができ,この結果,雄継手部材2又は雌継手部材3に外力が作用した場合でも嵌め込み接続部ががたつかないようにでき,この点でもOリング7の周方向の一部に無理な力が集中して嵌め込み接続部分からの流体漏れ(例えば水漏れ)を防止することができる。」

(5)引用文献5について
当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献5には,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,オフィス等において使用される厚み方向に変形可能な間仕切に関するものである。」
イ 「【0012】本実施の形態における間仕切P1は,順次隣接する方向に配列した複数の間仕切要素1と,隣り合う間仕切要素1の間を連結する連結部材2とを備えたもので,その連結部材2と間仕切要素1との間に,鉛直軸回りの摺動を禁止する禁止部Kを設けて各間仕切要素1を連結部材2により連結しているものである。更に,各間仕切要素1の上下端部には,爪構造Tを用いてキャップ部材3を着脱可能に取り付けて開口した間仕切要素1の端部を蓋閉している。」
ウ 「【0028】キャップ部材3は,図3及び図8に示すように,間仕切要素1の横断面に略対応した平面形状を成す円盤状の蓋部31と,この蓋部31の下面から垂下して取り付けられ,間仕切要素1の本体部1Aに嵌装される一対のガイド片32と,同じくこの蓋部31の下面から前記間仕切要素1の内隔壁13aに当たる位置に垂下させた一対の爪取付片33とを具備している。そして,爪構造Tを介して各間仕切要素1の上端1及び下端1に嵌め込まれることにより間仕切要素1の開口部を蓋封する。尚,各キャップ部材3は,隣接するキャップ部材3との間に僅かに隙間を設け,間仕切P1の変形に伴って互いが接触しない位置関係に取り付けられる。
【0029】この蓋部31は,前記間仕切要素1の凸状前壁11及び凸状後壁12と略同様の直径を有する2枚の外円盤31aに,この外円盤31aよりも僅かに小径な中円盤31bを挟み込むことにより構成され,その外円盤31aと中円盤31bとの間に形成した段差を利用してキャップ部材3を脱着する際の持ち手としている。
【0030】ガイド片32は,間仕切要素1の本体部1Aの内周形状に合わせた部分円筒状の湾曲形状を有するものであり,キャップ部材3を間仕切要素1にはめ込む際に,このガイド片32を前記間仕切要素1の本体部1Aに接触させてがたつきを防止し,間仕切要素1に対する取付位置を定める役割を果たすものである。
【0031】前記爪取付片33は,前記蓋部31から垂下する平板部材に,下向きコの字状の切り込みを設けたもので,この切り込みに囲まれた突出片33aの上端外周面に前記間仕切要素1の内隔壁13aに設けた爪受け部13eに引っかけられる爪部33bを突出させて構成されるものである。
【0032】爪構造Tは,図8つまり間仕切要素1にキャップ部材3を取り付けた状態の縦中央断面図に示すように,このキャップ部材3の外周壁に設けた一対の前記爪部33bと,前記間仕切P1の内隔壁13aの設けた一対の爪受け部13eから成り,この爪部33bを爪受け部13eに嵌め込む構造とすることで,前記キャップ部材3を間仕切要素1に対して脱着可能に取り付けられるようにしている。爪受け部13eは,図3,図8に示すように,内隔壁13aの上下端近傍に,長方形状を成して前後対向位置に開口しているものである。また,爪部33bは,外側への突出幅を前記爪受け部13eを設けた内隔壁13aの厚み寸法より短い寸法とすることで,キャップ部材3を嵌めた際にその外側面を内隔壁13aの外側に突出しないようにしている。」
エ 「【0036】次に,この間仕切要素1の上端及び下端の開口部を蓋閉するために,キャップ部材3を取り付ける。ここでキャップ部材3を間仕切要素1の上端に取り付ける際の工程を説明すると,図3,図8に示すように,その間仕切要素1の上方からキャップ部材3に設けたガイド片32を,間仕切要素1の本体部1Aの内周面に摺接させながら嵌め込んでいく。そして,そのキャップ部材3に設けた突出片33aを内側に弾性変形させて,爪部33bを間仕切要素1の内隔壁13aに設けた爪受け部13eに嵌め合わせて固定する。尚,このキャップ部材3を間仕切要素1の下端に取り付ける際も同様の工程により取り付ける。」

(6)引用文献6について
当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献6には,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は,塀,フェンス,柵等に用いられる縦桟,横桟,支柱等のパイプ材の端部開口部を塞ぐためのキャップ及びキャップ付きパイプ材に関するものである。」
イ 「【0017】
図1において,1はパイプ材,2はパイプ材1の開口端部に取付けられたキャップ2であり,本発明に係るキャップ付きパイプ材は,これらパイプ材1とキャップ2とから主に構成されている。そして図1は,パイプ材1として支柱11と縦桟12を用いたフェンスFを示すものである。すなわち,このフェンスFは,間隔をおいて複数の支柱11が立設され,支柱11の間に上下に間隔をおいて複数の横桟13が取付けられ,更に横桟13の間に複数の縦桟12が架設されたものである。パイプ材1は,一般には,筒状体を適宜長さに切断して用いられ,鋼材,ステンレス合金,アルミニウム合金等の金属製のものが好適に用いられる。」
ウ 「【0026】
図5は,パイプ材1に対するキャップ2の固定構造において実施の第一形態を示す説明図である。前記挿入部22がパイプ1の内部で移動不可となった状態において,パイプ1に設けられた貫通孔18から挿入部22に向けて固定ビスBが螺入されることにより,挿入部22の面部24a,24bがパイプ材1の面部16a,16bに圧設された前記状態が維持され,キャップ2がパイプ材1に固定される。本実施形態では,面部16aと対向する24aとが何れも半円筒状であるので,前記圧設状態においては,挿入部2の面部25方向への位置ずれを抑えることができる。
【0027】
本実施形態では,固定ビスBは,パイプ材1の貫通孔18から挿入部22の面部24bに向けて螺入されるものであるが,前記圧設状態を維持できるものであれば,パイプ材1から面部24aに向けて螺入されるものでもよく,あるいは面部25に向けて螺入されるものでもよい。又,固定ビスBは,前記圧設状態を維持できるのであれば,挿入部22の外周面を押圧する形態でもよい。」
エ 「【0032】
図7は,パイプ材1に対するキャップ2の固定構造において実施の第三形態を示す説明図である。図6に示された固定方法と比べて,前記突起26が設けられた挿入部22の形態が異なるものであり,他の形態は同様である。図8は,本実施形態に係るキャップ2の説明図であり,(a)は側面図,(b)はD-D線における断面図,(c)はE-E線における断面図である。すなわち挿入部22は,内部に中空部が設けられると共に,間隔をおいて長手方向に沿って切れ目27が形成され,その間が内側に向けて弾性変形可能な架橋部28となされている。そして,該架橋部28上に突起26が設けられている。
【0033】
従って,挿入部22をパイプ材1の内部に挿入する際に,突起26の頂部29がパイプ材1の内壁面に接触しても,架橋部28が内側に向けて弾性変形するので,挿入作業がより容易となり,又頂部29の摩耗が抑えられるので,該突起26が係止孔19に挿入係止された際に,突起26の挿入深さがより深くなって,より強固な係止状態となる。」

(7)引用文献7について
当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献7には,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,パイプ部材を接合するためのジョイント構造に関する。」
イ 「【0041】
次に,パイプ部材40の構造について説明する。図2に示すパイプ部材40は,中空角パイプであり,冷間圧延ステンレス鋼帯を素材とし,該鋼帯を折り曲げると共に,例えばTIG(イナートガスタングステンアーク)溶接または高周波誘導溶接により,断面が中空角形状となるように造管した管部材である。また,パイプ部材40は,例えばレーザ加工装置を用いて切断されることにより,縁部40aが形成される。なお,この縁部40aが為す平面は,パイプ部材40の長手方向に対して,略垂直を為している。
【0043】
このパイプ部材40には,その長手方向に沿って内部を貫く空間部分である,中空部41が設けられている。また,パイプ部材40には,係止孔に対応するネジ孔42が設けられている。ネジ孔42は,ネジ部材50を捻じ込まれる部分である。本実施の形態では,ネジ孔42には,ネジ山が形成されており,ネジ部材50を螺合することを可能としている。なお,本実施の形態では,ネジ孔42は,中央溝24がパイプ部材40の端部に差し掛かる状態(例えば,パイプ部材40が,中央溝24を覆わない状態で,該中央溝24の側縁とパイプ部材40の側縁とが略面一となる状態)において,固定V溝32に対応する部位に設けられている。それにより,ネジ孔42にネジ部材50を捻じ込むと,ネジ部材50の頭部が固定V溝32に押し付けられ,パイプ部材40に対するジョイント部材10の位置決めが為される。
【0043】
また,上述のネジ孔42は,パイプ部材40の外周面のうち,互いに平行を為す2つの外周面に設けられている。しかしながら,固定V溝32がジョイント部材10を囲むように設けられている場合には,ネジ孔42もパイプ部材40を構成する4つの外周壁の全てに設けるようにしても良いし,1つの外周壁のみに設けるようにしても良い。また,筒状部51のうち,球部材53とは逆側の上底側には,ドライバー溝54aが設けられている。なお,このドライバー溝54aは,プラス溝またはマイナス溝のいずれでも良い。また,ドライバー溝54aが設けられている上底のうち,外周側には,筒状部51の他の部分よりも外径側に向かって突出する,鍔部54bが設けられている。なお,鍔部54bは,上底側に向かうにつれて大径となるように設けられていて,ドライバーでネジ部材50を捻じ込んだ場合,中空部41に対する球部材53の突出位置が規定される。なお,球部材53の突出位置は,ジョイント部材10を中空部41に差し込んだ場合に,該球部材53が固定V溝32に良好に係止される位置となっている。
【0044】
また,ネジ孔42には,係止部材としてのネジ部材50が捻じ込まれる。このネジ部材50は,いわゆるポコピン機構を備えている。すなわち,図4に示すように,このネジ部材50は,筒状部51の内部に,付勢手段としてのバネ52を内蔵していると共に,先端部分に球部材53を備えている。ここで,ネジ部材50の筒状部51の内部には,孔部51aが形成されていて,この孔部51aには,バネ52が内蔵されている。また,孔部51aの開口側には,球部材53が位置する。球部材53は,バネ52に接触して,孔部51aの開口側から飛び出す付勢力を受ける。また,孔部51aの開口部分は,かしめ等によって細径に形成されている。この開口部分は,球部材53よりも小径となるように狭められている。それによって,球部材53は,開口部分から抜けることがなく,球部材53の先端側のみが飛び出した状態となる。」

(8)引用文献8について
当審にて通知した拒絶の理由に引用された引用文献8には,図面とともに以下の事項が記載されている。引用文献8の和訳は,当審で作成した。
ア 「[0001] The present invention relates to an engaging member on a ratchet tool for being engaged with a socket.」
(本発明は,ソケットと係合するためのラチェット工具係合部材に関するものである。)
イ 「[0016] When a socket 6 is mounted to the polygonal section 20 and is positioned by the bead 21, the carry member 4 and the magnet 5 are located in the central passage 60 in the socket 6.」
(ソケット6は,多角形部20に取り付けられると,ビード21によって位置決めされる際に,搬送体4および磁石5がソケット6の中央通路60内に配置されている。)

2 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,引用発明の「パイプ状部材21」,「磁石24」,「スペーサ51」,「固定子20」,「シャフト型リニアモータ10」は,その機能に照らして,それぞれ,本願発明1の「パイプ状部材」,「磁石」,「スペーサ」,「固定子」,「リニアモータ」に相当し,引用発明の「封止部材70」は,配置される位置に照らして,本願発明1の「蓋」に対応する。
引用発明の可動子30はコイル31を「含む」ので,コイル31を「内蔵」しているといえるから,引用発明の「コイル31を含む可動子30」は,本願発明1の「コイルが内蔵された可動子」に相当する。
また,引用発明の「固定リング50とねじ53」は,封止部材70がパイプ状部材21の端部から外れることを防止しているから,本願発明1の「抜け止め部」と機能を共通にする。
そして,引用発明は,ねじ53によって封止部材70をパイプ状部材21に固定しているので,その構成上,封止部材70は,パイプ状部材21の端部に対して着脱可能であると認められ,封止部材70は固定子20の分解を可能にするために,本願発明1の蓋と同様,パイプ状部材21の端部に対して着脱可能に構成されているといえる。
そうすると,引用発明の「封止部材70」は,パイプ状部材の端部に配置され,固定子の分解を可能にするために,前記パイプ状部材の前記端部に対して着脱可能に構成されている点で,本願発明1の「蓋」と機能を共通にする。
また,引用発明は,パイプ状部材21の内部に複数個の磁石24と,前記パイプ状部材21の端部にスペーサ51を配置しているのに対し,本願発明1は,パイプ状部材の内部に複数個の磁石とスペーサを収納しているので,引用発明の「パイプ状部材21の内部に複数個の磁石24を収納し,前記パイプ状部材21の端部にスペーサ51,封止部材70を配置して構成された固定子20」と,本願発明1の「パイプ状部材の内部に複数個の磁石とスペーサとを収納し,前記パイプ状部材の端部に蓋を配置して構成された固定子」は,「パイプ状部材の内部に複数個の磁石を収納し,前記パイプ状部材の端部に蓋を配置して構成された固定子」である点で共通する。
さらに,引用発明は,封止リング70がパイプ状部材21に挿入されて,固定リング50とねじ53によって固定された状態において,封止部材70に軸方向からボルト54を捻じ込み,複数個の磁石24間及び前記磁石24及びパイプ状部材21の端部に配置されたスペーサ51との間の隙間を無くすものであるから,引用発明は,固定状態において,ボルト54をパイプ状部材21の軸方向に移動させるように締めることで複数個の磁石24及びパイプ状部材21の端部に配置されたスペーサ51をパイプ状部材21の内部で密着させるといえる。
そうすると,引用発明の「前記封止部材70は,前記パイプ状部材21に挿入されて,前記固定リング50と前記ねじ53によって固定され,固定された状態において,前記封止部材70に設けられているボルト54を前記パイプ状部材21の軸方向から捻じ込み,前記スペーサ51を押し込んで前記磁石24の反発力によって生じた前記磁石24間の隙間及び前記磁石24とパイプ状部材21の端部に配置されたスペーサ51との間の隙間を無くすシャフト型リニアモータ10」と,本願発明1の「前記蓋は,前記固定子の分解を可能にするために,前記弾性部の変形によって,前記パイプ状部材の前記端部に対して着脱可能に構成されており,前記パイプ状部材に挿入されることで,前記抜け止め部における前記弾性部と前記繋止用凹部とを係合させ,係合状態において,前記蓋に設けられている螺子を前記パイプ状部材の軸方向に移動させるように締めることで複数個の前記磁石と前記スペーサとを前記パイプ状部材の内部で密着させるリニアモータ」は,「前記蓋は,前記固定子の分解を可能にするために,前記パイプ状部材の前記端部に対して着脱可能に構成されており,前記パイプ状部材に挿入され,抜け止め部により固定された固定状態において,前記蓋に設けられている螺子を前記パイプ状部材の軸方向に移動させるように締めることで複数個の前記磁石を前記パイプ状部材の内部で密着させるリニアモータ」という点で共通する。

したがって,本願発明1と引用発明は以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「パイプ状部材の内部に複数個の磁石を収納し,前記パイプ状部材の端部に蓋を配置して構成された固定子と,
前記固定子の外側に配置され,コイルが内蔵された可動子と,
前記固定子の端部に対して設けられ,前記蓋が前記パイプ状部材の前記端部から外れることを防止する抜け止め部と
を備え,
前記蓋は,
前記固定子の分解を可能にするために,前記パイプ状部材の前記端部に対して着脱可能に構成されており,
前記パイプ状部材に挿入され,抜け止め部により固定された固定状態において,前記蓋に設けられている螺子を前記パイプ状部材の軸方向に移動させるように締めることで複数個の前記磁石を前記パイプ状部材の内部で密着させる
リニアモータ。」

(相違点1)
本願発明1は,パイプ状部材の内部に「複数個の」磁石と「スペーサ」とを収納しているのに対し,引用発明は,パイプ状部材の内部に複数個の磁石を収納し,パイプ状部材の端部にスペーサを配置しているものの,パイプ状部材の内部に複数個のスペーサを収納しているとはいえない点。
(相違点2)
本願発明1は,前記抜け止め部は,「前記パイプ状部材および前記蓋のいずれか一方に設けられ,弾性を有する弾性部と,前記いずれか一方に対する他方に設けられ,前記弾性部が係合される繋止用凹部とを有し,前記弾性部は,前記弾性により変形可能であり」,前記蓋は,前記固定子の分解を可能にするために,「前記弾性部の変形によって」,前記パイプ状部材の端部に対して着脱可能に構成されており,前記パイプ状部材に挿入されることで,前記抜け止め部における「前記弾性部と前記繋止用凹部とを係合させ,係合状態において」,前記蓋に設けられている螺子を前記パイプ状部材の軸方向に移動させるように締めることで複数個の前記磁石と前記スペーサとを前記パイプ状部材の内部で密着させるのに対し,引用発明は,抜け止め部は,固定リング50とねじ53から構成されており,封止部材70は,前記固定リング50と前記ねじ53によって,パイプ状部材21の端部に対して着脱可能に構成されており,前記パイプ状部材21に挿入されて,固定された状態において,前記封止部材70に設けられているボルト54を前記パイプ状部材21の軸方向から捻じ込み,スペーサ51を押し込んで磁石24の反発力によって生じた前記磁石24間の隙間及び前記磁石24と前記パイプ状部材21の端部に配置された前記スペーサ51との間の隙間を無くすものの,前記固定リング50を介して,前記ねじ53により封止部材70を固定する点。

3 判断
以下,上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
パイプ状部材の内部に磁石を収納させてなる固定子と,前記固定子の外側に配置され,コイルが内蔵された可動子からなるリニアモータにおいて,パイプ状部材の内部に複数個の磁石と複数個のスペーサを収納した構成は周知である(例えば,引用文献2の段落[0012],図1のポールピース10bを参照。以下,「周知技術」という。)。
引用発明において,上記周知技術を適用して,相違点1に係る本願発明1の構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
相違点2は,要するに,抜け止め部の具体的な構成の相違に関するものである。
2部材を固定する手段として,前記2部材のうち一方に設けられ,弾性を有する弾性部と,前記2部材のうち他方に設けられ,前記弾性部が係合される繋止用凹部を有し,前記2部材のうちどちらかをもう一方に挿入することで前記弾性部と前記繋止用凹部を係合させて前記2部材を固定する手段は,リニアモータの分野に限らず,広く慣用された手段である(例えば,引用文献3の段落【0079】,【0080】,図17,18の「切り起こし突片58」と「係合凹部61」又は「係合突起63」と「係合孔62」,引用文献4の段落【0033】-【0038】,図3,4の「切り起こし片13a」と「環状溝9a」,引用文献5の段落【0028】-【0032】,【0036】,図3,8の爪構造Tにおける「爪部33b」と「爪受け部13e」,引用文献6の段落【0032】-【0033】,図7,8の「突起26」と「係止孔19」,引用文献7の段落【0043】,【0044】,【0095】,図4,5の「球部材53」と「固定V溝32」,引用文献8の段落[0016],図4の「bead21」と「socket 6」の係合部等を参照。以下,「慣用手段」という。)。
そして,上記慣用手段は,例えば,引用文献4の「第2係止部13と第2被係止部9との係止により軸方向の抜け止めがなされることになり,嵌め込みというワンタッチの作業で接続できるようにしたにもかかわらず,簡単な構成で軸方向の抜け止めができることになる。」(段落【0038】参照。)という記載,引用文献6の「挿入部22をパイプ材1の内部に挿入する際に,突起26の頂部29がパイプ材1の内壁面に接触しても,架橋部28が内側に向けて弾性変形するので,挿入作業がより容易となり」(段落【0033】参照。)という記載からもわかるように,簡単な構成であり,組付けが容易であるということは当業者にとって明らかである。
また,上記慣用手段はその構成上,弾性部の変形によって着脱可能であることは当業者にとって明らかであり,引用文献5の段落【0029】,【0032】には,キャップ部材3が間仕切要素1に対して脱着可能に取り付けられている点が記載されている。
さらに,引用文献6の段落【0026】,図5には,パイプ材1に対するキャップ2の固定構造として,固定ビスBを螺入することで固定する固定構造の実施例が記載されており,段落【0032】-【0033】,図7,8には,キャップ2の固定構造の別実施例として,上記慣用手段の一例である,キャップ2をパイプ材1に挿入することで,キャップ2に形成された架橋部28が内側に向けて弾性変形し,前記架橋部28に設けられた突起26が,パイプ材1に形成された係止孔19に挿入係止される固定構造が記載されていることから,引用文献6に接した当業者であれば,キャップの固定構造として,固定ビスを螺入する固定構造に代えて,上記慣用手段の固定構造を用いることができることは容易に理解し得ることである。
ここで,一般に,部材の組立容易性という課題は当業者に広く知られた課題であり,また,引用文献1に「この発明は,このような実情に鑑みてなされたもので,簡素な構成で,強度を有し,低コストで,高い部品精度を確保できるシャフト型リニアモータ及び放射線画像読取装置を提供する。」(段落【0006】参照。)と記載されているように,引用発明は,簡素な構成を用いることを課題として含んでいる。
そして,引用文献1に「封止機構22は,図11及び図12に示す構成に限定されることなく,図2乃至図10に示した抜け止め機構23のように構成しても良い。」(段落【0042】)と記載されていることから,引用発明における抜け止め部は,その具体的な構成を適宜変更可能であるものと認められる。
また,引用発明は,封止部材70が固定リング50及びねじ53によって固定された後,ボルト54を捻じ込んでいるものであるところ,封止部材70をパイプ状部材に固定するという固定リング50及びねじ53が奏する機能と,パイプ状部材の内部に配置された隣り合う磁石間及び前記磁石24とパイプ状部材21の端部に配置されたスペーサ51との間に生じた隙間を無くすというボルト54の奏する機能は,固定リング50及びねじ53とボルト54によってそれぞれ独立して達成される機能であるから,引用発明において,抜け止め部の構成は,ボルト54とは独立して変更可能であるといえる。
そうすると,引用発明において,抜け止め具の構成として,固定リング50とねじ53からなり,ねじ53によって蓋をパイプ状部材の端部に固定する構成に代えて,上記慣用手段を採用することは当業者が容易になし得たことである。
そして,引用発明に上記周知技術及び慣用手段を適用したものにおいては,抜け止め部における弾性部と繋止用凹部とが係合した状態において,ボルト54を捻じ込んだ場合,複数個の磁石とスペーサとをパイプ状部材の内部で密着させる構成となることは当業者にとって容易に理解し得ることである。
したがって,引用発明において,引用文献1,4-6に記載された事項を参酌して引用文献3-8に例示される慣用手段を適用して,相違点2に係る本願発明1の構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。

(3)また,本願発明1の奏する作用効果をみても,引用発明,引用文献2に例示される周知技術,引用文献3-8に例示される慣用手段,引用文献4-6に記載された事項から予測される範囲内のものであって,格別顕著なものでもない。

(4)審判請求人は,令和2年9月17日提出の意見書において,本願発明に関し,以下の主張をしている。
ア 本願発明に係る「抜け止め部」は,別部材を用いることなく,「パイプ状部材および蓋のいずれか一方に設けられ,弾性を有する弾性部と,いずれか一方に対する他方に設けられ,弾性部が係合される繋止用凹部と」を有して構成されており,このような構成を備えることで,「蓋」を「パイプ状部材」に挿入するだけで「抜け止め部」の機能が働き,「係合状態」となる。
イ 本願発明は,係合状態において,「前記蓋に設けられている螺子を前記パイプ状部材の軸方向に移動させるように締めることで複数個の前記磁石と前記スペーサとを前記パイプ状部材の内部で密着させる」という技術的特徴を備えており,この結果,出願当初明細書の段落0020に記載されたように,「螺子5が,磁石1とスペーサ2とを密着させているので,磁石1とスペーサ2の位置が安定し,パイプ3内で磁石1とスペーサ2とが移動したり揺れたりすることはない。」という顕著な効果を実現できる。

以下,上記主張について検討する。
アに関して,上記(2)で検討したとおり,引用発明において,慣用手段を適用することで,上記アに記載の構成を備えるようにすることは当業者にとって容易であり,その効果についても慣用手段から十分予測可能な範囲のものである。
イに関して,引用文献1の段落【0042】に記載されているように,引用発明も,蓋に設けられている螺子を締めることでパイプ状部材の内部で磁石及びスペーサを密着させる構成を有しており,その効果についても引用発明から十分予測可能な範囲のものである。

(5)したがって,本願発明1は,引用発明,引用文献2に例示される周知技術,引用文献1,4-6に記載された事項,引用文献3-8に例示される慣用手段に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願請求項1に係る発明(本願発明1)は,引用発明,引用文献2に例示される周知技術,引用文献1,4-6に記載された事項,引用文献3-8に例示される慣用手段に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その余の拒絶理由及び他の請求項について検討するまでもなく特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-10-30 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-25 
出願番号 特願2017-77679(P2017-77679)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H02K)
P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力大島 等志  
特許庁審判長 窪田 治彦
特許庁審判官 柿崎 拓
山本 健晴
発明の名称 リニアモータ及びその固定子の製造方法  
代理人 曾我 道治  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 松岡 隆裕  
代理人 梶並 順  
代理人 上田 俊一  

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