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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61H
管理番号 1370555
審判番号 不服2019-15269  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-14 
確定日 2021-01-20 
事件の表示 特願2015-229554「点灸具」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日出願公開、特開2017- 93832〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月25日の出願であって、令和1年7月3日付けの拒絶理由通知に対し、同年7月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月26日付けで拒絶査定がされ、その後、同年11月14日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 令和1年11月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年11月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
円柱状をなしたもみがら製の炭化粉末成形体を、中央に透孔を有し、裏面に粘着層が形成されている円盤状の台座の表面側に、前記透孔を覆う様に立設固定せしめたことを特徴とするもみがらをヨモギの代替物として用いた点灸具。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
円柱状をなしたもみがら製の炭化粉末成形体を、中央に透孔を有し、裏面に粘着層が形成されている円盤状の台座の表面側に、前記透孔を覆う様に立設固定せしめたことを特徴とする点灸具。」

2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「点灸具」について、「もみがらをヨモギの代替物として用いた点灸具」と限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について、以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-69344号公報(以下「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、理解のため当審で付した。)。
a:「2.特許請求の範囲

2 草根木皮等の植物の炭化物にもぐさエキス、漢方生薬エキスを混合したものに、保形材を混入して所定の形に成形した無煙無臭灸成形物。」(第1頁左下欄第3?8行)

b:「… 第8図は、紙巻もぐさ(13)を円柱状にしたり、もぐさを糊剤で固形化して定寸法に切断したものをアルミ箔で被覆した同心円盤の積層紙か発泡スチロールの台座(15)に、固定接着した間接灸と呼ぶ無痕灸である。」(第1頁右下欄第8?12行)

c:「【発明が解決しようとする課題】
臭覚を刺激する物質を「匂い」といい、快感を伝える匂いを「香り」といって、「臭い」という不快感を与える匂いと区別している。
もぐさが燃焼すると蓬(よもぎ)の原臭である「臭い」の成分を拡散するが、炭化すると無煙になり水や油脂類に溶解し難い物質になるから無臭になってしまうのである。」(第2頁左上欄第2?9行)

d:「生産された炭化もぐさの発熱量を適正にするため不揃いな粒度を矯正して微粉粒子に整えると、精錬された無煙無臭の炭化粉体もぐさになってくるのである。 … もみがら(籾殻)を炭化するともぐさの発生熱とほぼ同等な熱量を発生するから好ましい素材の一つである。低火力を発生する炭化物なら、もぐさや籾殻に限定されるものではなく、身近な材料の中ではパルプ、乾燥した草根木皮、唐黍の搾粕、鋸屑などがあり、一般的には天然資源の植物を合理的に用いることもできる。」(第3頁右上欄第1行?左下欄第1行)

e:「… 第1図は、中央に通過孔(2)のある同心円の紙シート(1)に再湿性接着剤層(4)を塗布形成し、表面に炭化円錐もぐさ(3)を接着すると、簡便に施灸できるばかりでなく皮膚損傷の防除にも繋がってくる。…」(第4頁右下欄第15?19行)

f:「… 無煙無臭の炭化粉体もぐさを用いるなら、場所を選ばず室内の清浄を保ちながら、自由に圧痛点に施灸することができ早期治癒に結ばれてゆくことになる。
もぐさを燃やしながら施灸するより、炭火となった灸の方が皮膚に優しく作用することは明白であり、1壮の温熱持続時間が他の灸の数壮より長く続けば、1壮単位の効き目は時間差となって顕れることも明らかである。
炭化粉体もぐさは目的に応じた形状で成型しているから、切迫した時間内での施灸は早く燃焼する形状の灸、時間に余裕のある場合は熱が持続する灸という用法がある。 …」(第5頁右下欄第1?13行)

続いて、図面を参照しつつ上記の各記載について検討する。
ア)摘記事項dの「もみがら(籾殻)を炭化するともぐさの発生熱とほぼ同等な熱量を発生するから好ましい素材の一つである。低火力を発生する炭化物なら、もぐさや籾殻に限定されるものではなく、身近な材料の中ではパルプ、乾燥した草根木皮、唐黍の搾粕、鋸屑などがあり、一般的には天然資源の植物を合理的に用いることもできる。」の記載から、摘記事項aの「草根木皮等の植物の炭化物」は、もみがらの炭化物が含まれるものといえる。
また、摘記事項dの「生産された炭化もぐさの発熱量を適正にするため不揃いな粒度を矯正して微粉粒子に整えると、精錬された無煙無臭の炭化粉体もぐさになってくるのである。」の記載によれば、摘記事項aの「炭化物」は、炭化粉体物であるといえる。
イ)摘記事項eの「炭化円錐もぐさ(3)」の記載及び第1図の図示内容からみて、摘記事項aの「所定の形に成形した無煙無臭灸成形物」には、円錐状に成形した無煙無臭灸成形物が含まれるものといえる。
ウ)上記のア)、イ)を総合すれば、引用文献には、摘記事項aの「草根木皮等の植物の炭化物」を「所定の形に成形した無煙無臭灸成形物」として、もみがらの炭化粉体物を円錐状に成形した無煙無臭灸成形物が記載されている。
エ)摘記事項eの「中央に通過孔(2)のある同心円の紙シート(1)に再湿性接着剤層(4)を塗布形成し、表面に炭化円錐もぐさ(3)を接着する」の記載によれば、引用文献には、同心円の紙シートが記載されているところ、第1図の図示内容をも併せみると、当該紙シートは、中央に透過孔があり、表面に上記ウ)の無煙無臭灸成形物が透過孔を塞ぐ様に起立して接着され、また、裏面に再湿性接着剤層が塗布形成されているものといえる。

よって、以上によれば、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「無煙無臭灸成形物及び紙シートであって、
前記無煙無臭灸成形物は、もみがらの炭化粉体物を円錐状に成形した無煙無臭灸成形物であり、
前記紙シートは、中央に透過孔があり、裏面に再湿性接着剤層が塗布形成されている同心円の紙シートであり、
前記表面に前記無煙無臭灸成形物が透過孔を塞ぐ様に起立して接着されると、簡便に施灸でき、もぐさを燃やしながら施灸するより、炭火となった灸の方が皮膚に優しく作用する、無煙無臭灸成形物及び紙シート。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア)引用発明の「もみがらの炭化粉体物を」「成形した無煙無臭灸成形物」は、その組成、機能等からみて本願補正発明の「もみがら製の炭化粉末成形体」に相当する。
また、引用発明の「無煙無臭灸成形物」は「円錐状に成形した」ものであるから、“所定の形状をなした”ものである点で、本願補正発明の「円柱状をなした」「炭化粉末成形体」と共通する。
イ)引用発明の「紙シート」は、その用語の意味ないし機能からみて、本願補正発明の「台座」に相当し、以下同様に、「透過孔があり」は「透孔を有し」に、「再湿性接着剤層が塗布形成されている」は「粘着層が形成されている」に、「同心円の」は「円盤状の」に、「表面に」は「表面側に」に、「透過孔を塞ぐ様に起立して接着」は「透孔を覆う様に立設固定」に、それぞれ相当する。
ウ)引用発明では、「表面に前記無煙無臭灸成形物が透過孔を塞ぐ様に起立して接着されると、簡便に施灸でき」るのであるから、引用発明における「紙シート」と当該「紙シート」に接着された「無煙無臭灸成形物」とは、両者で皮膚の特定部位を施灸するための一の手段を成すものといえるので、引用発明の「無煙無臭灸成形物」及び「表面に前記無煙無臭灸成形物が透過孔を塞ぐ様に起立して接着され」た「紙シート」は、本願補正発明における「炭化粉末成形体を、」「台座の表面側に、前記透孔を覆う様に立設固定せしめた」「点灸具」に相当する。
また、引用発明は、「もぐさを燃やしながら施灸するより、炭火となった灸の方が皮膚に優しく作用する」というものであるところ、摘記事項cに「もぐさが燃焼すると蓬(よもぎ)の原臭である「臭い」の成分を拡散する」とあるように、もぐさの原料はよもぎであることを踏まえると、引用発明における「もみがらの炭化粉体物を円錐状に成形した無煙無臭灸成形物」及び「紙シート」が、本願補正発明の「ヨモギの代替物として用いた点灸具」にも相当することは明らかである。

してみると、本願補正発明と引用発明とは、
「所定の形状をなしたもみがら製の炭化粉末成形体を、中央に透孔を有し、裏面に粘着層が形成されている円盤状の台座の表面側に、前記透孔を覆う様に立設固定せしめ、もみがらをヨモギの代替物として用いた点灸具。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
炭化粉末成形体の所定の形状が、本願補正発明では、「円柱状」であるのに対し、引用発明では、円錐状である点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用文献に「炭化粉体もぐさは目的に応じた形状で成型しているから、切迫した時間内での施灸は早く燃焼する形状の灸、時間に余裕のある場合は熱が持続する灸という用法がある。」(摘記事項f)と記載されるように、成形体をどのような形状に成形するかは、必要とされる灸の目的や用法に応じて適宜に定め得る設計上の選択事項にすぎない。
加えて、引用文献には、従来の技術ではあるが、もぐさを円柱状にして台座に固定する事項も記載されている(摘記事項b、第8図参照。)。
そうすると、従来から用いられているもぐさの形状をも参考にしつつ、引用発明における成形体の形状として、「円柱状」を採用することは、当業者が必要に応じて容易になし得た程度のことである。
そして、本願補正発明の奏する効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(5)小括
よって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和1年7月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(前記第2の[理由]1(2)参照。)。

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献:特開平4-69344号公報

3 引用文献の記載事項
引用文献の記載事項(引用発明)は、前記第2の[理由]3の(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、前記第2の[理由]2で検討した限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の[理由]3の(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-11-02 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-27 
出願番号 特願2015-229554(P2015-229554)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関本 達基佐藤 智弥  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
井上 哲男
発明の名称 点灸具  
代理人 藤吉 繁  

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