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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 取り消して特許、登録 G06N
管理番号 1370631
審判番号 不服2019-16737  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-10 
確定日 2021-02-16 
事件の表示 特願2018-238354「医療用のデータ構造」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月 2日出願公開、特開2020-101901、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成30年12月20日の出願であって,平成31年4月9日付けで拒絶理由通知がされ,令和元年6月14日付けで手続補正がされ,令和元年年9月4日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和元年12月10日に拒絶査定不服審判の請求と共に手続補正がされたものであって,当審において,令和2年9月29日付けで拒絶理由を通知したところ,令和2年12月4日付けで手続補正がされたものである。


第2 拒絶理由の概要

1 原査定の概要

この出願の請求項1?6に記載されたものは,特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

2 当審の拒絶の理由の概要

この出願の請求項1?6に記載されたものは,特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。


第3 はじめに

特許法で「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいう。」(2条1項)ことから,自然法則を利用していないものは,例えば,単なる精神活動,純然たる学問上の法則,人為的な取決めなどは,「発明」に該当しない。
そして,かかる「発明」は,一定の技術的課題の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用,その技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されることからすると,特許請求の範囲(請求項)に記載された「特許を受けようとする発明」が上記「発明」に該当するか否かは,それが,特許請求の範囲の記載や願書に添付した明細書の記載及び図面に開示された,「特許を受けようとする発明」が前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成,その構成から導かれる効果等の技術的意義に照らして,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべきものである。
したがって,「特許を受けようとする発明」に何らかの技術的手段が提示されているとしても,全体として考察した結果,その発明の本質が,単なる精神活動,純然たる学問上の法則,人為的な取決めなど自体に向けられている場合には,上記「発明」に該当するとはいえない。
そこで,請求項1?6に係る発明が,全体として「自然法則を利用した」技術的思想に該当するか否かについて,以下検討する。


第4 請求項1について

令和2年12月4日付け手続補正書で補正された請求項1は次のとおりである。

少なくとも日付,月度,診療された患者の症状の内容を示す症状を各要素とする複数のレコードから構成される患者の診療データと,
前記診療データの所定期間ごとを教師有学習の説明変数である1つの学習データとし,各学習データに対して設定された,前記所定期間から指定期間以内の間に前記症状に入院が設定される入院期間がある場合に前記患者が入院した経験がある体調不良者を示し,前記所定期間から指定期間以内の間に前記症状に入院が設定される入院期間がない場合に前記患者が入院したことがない通常者を示す前記教師有学習の目的変数である正解情報として利用される罹患情報であって,学習器による各学習データに基づく前記教師有学習の処理に用いられる前記罹患情報と前記診療データから生成されるテンソルデータの形状を変化させる重みを示す重み情報と,
を含む医療用のデータ構造であって,
ターゲットコアテンソルと,過去に入院期間があるが退院している回復患者への重み付けルールと,前記医療用のデータ構造とを記憶する記憶部と,前記記憶部に記憶された前記ターゲットコアテンソルと前記重み付けルールと前記医療用のデータ構造とに基づいて各学習データからテンソルデータを生成する生成部とを有する学習装置が,
第1の患者が前記回復患者に該当する場合,前記重み情報と前記重み付けルールとにしたがって,前記第1の患者に対応する学習データのうち過去の入院期間後の学習データに対して,前記過去の入院期間後の学習データのいずれかの要素の重みを変更して第1のテンソルデータを生成し,前記ターゲットコアテンソルと類似するように前記第1のテンソルデータから第1のコアテンソルを生成し,テンソルデータを用いた学習を行う前記学習器に前記第1のコアテンソルを入力して,前記学習器による出力結果と前記過去の入院期間後の学習データに対して設定された第1の罹患情報との差分を用いた教師有学習を前記学習器に実行させる処理に用いられる医療用のデータ構造。


第5 発明の詳細な説明の記載内容

発明の詳細な説明には,次の事項が記載されている。

1 発明が解決しようとする課題について
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記DTでは,コアテンソルで部分的な共通パターンを処理することができるが,部分的なテンソル上は類似しているが実はデータ全体でみると特徴が異なるデータも同じ共通パターンとして処理される場合があり,予測精度が低下する。
【0005】
例えば,出勤簿データをDTで学習する場合,体調不良者の出勤簿データおよび通常者の出勤簿データをDTに入力して予測モデルを学習する。そして,学習済みの予測モデルに,判別対象者の出勤簿データを入力して,判別対象者が療養(休職)する可能性を予測する。
【0006】
このような学習では,過去にメンタル疾患などを発症して療養経験のある既往者の出勤簿データが,復職して通常勤務している状態であっても,休暇や遅刻が頻出するなど,乱れがあることがある。このとき,新規療養前の兆候である出勤の乱れがある出勤簿データと,部分的なテンソル上では似た状態になることがある。しかし,その後で療養が発生するとは限らない。よって,既往者の出勤簿データがノイズとなり,新規療養者の予測精度を低下させる。なお,療養予測に限らず,入院予測などでも同様である。
【0007】
一つの側面では,予測精度の劣化を抑制することができる医療用のデータ構造を提供することを目的とする。

2 課題を解決するための手段について
「【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の案では,医療用のデータ構造は,複数の要素から構成される患者の診療データと,前記患者が入院した経験がある体調不良者または前記患者が入院したことがない通常者かのいずれかを特定する罹患情報と,を含む。学習装置は,ターゲットコアテンソルと,過去に入院経験があるが退院している回復患者の診療データへの重み付けルールとを記憶する記憶部と,前記診療データからテンソルデータを生成する生成部とを有する。データ構造は,学習装置が,前記患者が前記回復患者に該当する場合,前記重み付けルールにしたがって,前記診療データのいずれかの要素の重みを変更して前記テンソルデータを変更し,前記ターゲットコアテンソルと類似するように前記変更されたテンソルデータからコアテンソルを生成し,ディープテンソルを用いた学習器に前記コアテンソルを入力して教師有学習を実行する処理に用いられる。」

3 効果について
「【発明の効果】
【0009】
一実施形態によれば,予測精度の劣化を抑制することができる。」

4 発明を実施するための形態について
(1)実施例1について
「【実施例1】
【0012】
[全体例]
近年,従業員の体調管理などは,企業にとっても取り組むべき重要な事項に位置づけられており,従業員の出勤簿データから,数か月先のメンタル不調を予測し,カウンセリング等の対応を早期に実施することが行われている。一般的には,専任スタッフが,膨大な人数の従業員の出勤簿データを閲覧し,頻繁な出張,長時間残業,連続する欠勤,無断欠勤,これらの組合せなどの特徴的なパターンの勤務状態に該当する従業員を目視で探している。このような特徴的なパターンは,各専任スタッフにより基準が異なることもあり,明確に定義することが難しい。
【0013】
そこで,本実施例では,ディープテンソルを用いた深層学習の一例として,従業員等の出勤簿データを学習対象とし,体調不良者の出勤簿データおよび通常者の出勤簿データをディープテンソルに入力して従業員のメンタル不調を予測する予測モデルを学習する。
【0014】(省略)
【0015】
例えば,学習装置100は,複数の要素から構成される従業員の出勤簿データと,従業員が療養した経験がある体調不良者か療養したことがない通常者か否かを特定する従業員情報(ラベル)と,を含む学習データを記憶する。また,学習装置100は,ターゲットコアテンソルと過去に療養経験があるが復職している従業員を示す既往者の出勤簿データへの重み付けルールとを記憶する。
【0016】
このような状態で,学習装置100は,既往者に該当しない学習データに対しては,テンソル化対象の出勤簿データに対する重みを変更することなく(例えば1のまま),テンソル化を実行する。そして,学習装置100は,テンソル化されたテンソルデータをテンソル分解して,ターゲットコアテンソルに類似するようにコアテンソルを生成する。その後,学習装置100は,ディープテンソルを用いた学習器にコアテンソルを入力して教師有学習を実行する。
【0017】
一方,学習装置100は,既往者に該当する学習データに対しては,予め記憶する重みづけルールにしたがって,テンソル化対象の出勤簿データのいずれかの要素の重みを変更してテンソルデータを変更する。そして,学習装置100は,重みが変更されたデータをテンソル分解して,ターゲットコアテンソルと類似するようにコアテンソルを生成する。その後,学習装置100は,ディープテンソルを用いた学習器にコアテンソルを入力して教師有学習を実行する。
【0018】
ここで,ディープテンソルに入力する学習データについて説明する。図2は,学習データの例を説明する図である。学習データは,6か月ごとの出勤簿データと,その6か月以降から3か月以内に療養実績があるか否かを示すラベルとから構成される。図2の(a)は,ラベル(療養あり)が付される体調不良者の出勤簿データであり,図2の(b)は,療養しなかったラベル(療養なし)が付される通常者の出勤簿データである。図2に示すように,実施例1にかかる学習装置100は,「6か月分の出勤簿データ,ラベル(療養あり)」と,「6か月分の出勤簿データ,ラベル(療養なし)」とを学習データとして予測モデルを学習する。学習装置100は,学習後,ある人の6か月分の出勤簿データから3か月以内に療養するか否かを予測する。なお,図2内の網掛けは,休暇を示す。」

「【0024】
続いて,ディープテンソルの学習について説明する。図5は,ディープテンソルの学習例を説明する図である。図5に示すように,学習装置100は,療養ありなどの教師ラベル(ラベルA)が付された出勤簿データから入力テンソルを生成する。そして,学習装置100は,入力テンソルにテンソル分解を行って,初回にランダムに生成されたターゲットコアテンソルに類似するようにコアテンソルを生成する。そして,学習装置100は,コアテンソルをニューラルネットワーク(NN:Neural Network)に入力して分類結果(ラベルA:70%,ラベルB:30%)を得る。その後,学習装置100は,分類結果(ラベルA:70%,ラベルB:30%)と教師ラベル(ラベルA:100%,ラベルB:0%)との分類誤差を算出する。
【0025】
ここで,学習装置100は,誤差逆伝搬法を拡張した拡張誤差伝搬法を用いて予測モデルの学習およびテンソル分解の方法の学習を実行する。すなわち,学習装置100は,NNが有する入力層,中間層,出力層に対して,分類誤差を下層に伝搬させる形で,分類誤差を小さくするようにNNの各種パラメータを修正する。さらに,学習装置100は,分類誤差をターゲットコアテンソルまで伝搬させ,予測に寄与するグラフの部分構造,すなわち体調不良者の特徴を示す特徴パターンもしくは通常者の特徴を示す特徴パターンに近づくように,ターゲットコアテンソルを修正する。
【0026】(省略)
【0027】
そして,学習装置100は,通常者と体調不良者のそれぞれの出勤簿データから生成されたテンソルを用いて学習する際に,1つの学習データとして切り出された期間(例えば,6か月+ラベル用の3か月)内に療養が含まれるか否かに関わらず,出勤簿データの全期間を参照し,過去に療養経験がある者(既往者)を特定する。そして,学習装置100は,コアテンソル化(部分パターン抽出)した際に,療養前の兆候となる乱れた出勤簿のパターンと部分的に類似のデータを持つ恐れがある既往者の療養明け(復職後)期間のデータについてのテンソルの重みを減らす。
【0028】
このようにすることで,学習装置100は,既往者の出勤簿データが,休暇や遅刻が頻発するなど,新規に療養に入る前の体調不良者の出勤簿データと部分的に類似していても,既往者と体調不良者(新規療養者)とを別々のコアテンソルと抽出することができる。よって,学習装置100は,体調不良者の特徴を正確に学習することができるので,新規療養の予測精度の劣化を抑制することができる。
【0029】
[機能構成]
図6は,実施例1にかかる学習装置100の機能構成を示す機能ブロック図である。図6に示すように,学習装置100は,通信部101,記憶部102,制御部110を有する。
【0030】(省略)
【0031】
記憶部102は,プログラムやデータを記憶する記憶装置の一例であり,例えばメモリやハードディスクなどである。この記憶部102は,重み情報DB103,出勤簿データDB104,学習データDB105,テンソルDB106,学習結果DB107,予測対象DB108を記憶する。
【0032】
重み情報DB103は,テンソルデータに設定する重みの設定内容を示す重み付けルールを記憶するデータベースである。図7は,重み情報DB103に記憶される重み情報の例を示す図である。図7に示すように,重み情報DB103は,「種別,設定値(重み)」を対応付けて記憶する。ここで記憶される「種別」は,データの種別を示し,「設定値(重み)」は,設定する値を示す。
【0033】
図7の例では,既往者の療養期間後のテンソルデータに対しては重み「0.5」を設定することを示し,それ以外のテンソルデータに対しては重み「1.0」を設定することを示す。なお,重み「1.0」とは,テンソルデータを変化させないと解釈することができるので,デフォルト値などを用いることができる。また,重み「0.5」とは,テンソルデータの重みの一部を変化させて重要度を下げることと解釈することができるので,デフォルト値よりも小さい値を採用することができる。なお,重みの設定は,月度や出欠区分などの要素ごとに設定することもできる。
【0034】【0035】(省略)
【0036】
学習データDB105は,テンソル化対象となる学習データを記憶するデータベースである。具体的には,学習データDB105は,出勤簿データを6か月の期間で切出されたデータと,ラベルの組となる各学習データを記憶する。
【0037】
例えば,6か月の出勤簿データを1つの学習データとし,その後の3か月以内に療養した療養期間がある場合に,ラベルとして「療養あり」が設定され,その後の3か月以内に療養期間がない場合に,ラベルとして「療養なし」が設定される。なお,6か月の出勤簿データに療養期間が含まれている場合,そのデータは学習データとして採用されない。これは,予測時に,予測元のデータ(入力)となる6か月分の出勤簿データにすでに「療養」が入っている人は,明らかに直近で療養しているとわかっており,この先3か月の療養予測の対象にはしないためである。
【0038】
図9は,学習データDB105に記憶される情報の例を示す図である。図9に示すように,学習データDB105は,「従業員,データ(説明変数),ラベル(目的変数)」を対応付けて記憶する。ここで記憶される「従業員」は,学習データの生成元となった出勤簿データに対応する従業員であり,データを説明変数,ラベルを目的変数とする学習データが記憶される。
【0039】
図9の例では,従業員Aの1月から6月までの出勤簿データには,ラベルとして「療養なし」が設定されていることを示し,従業員Aの2月から7月までの出勤簿データには,ラベルとして「療養なし」が設定されていることを示す。また,従業員Aの3月から8月までの出勤簿データには,ラベルとして「療養あり」が設定されていることを示す。
【0040】?【0043】(省略)
【0044】
学習データ生成部111は,出勤簿データDB104に記憶される各出勤簿データから,始期の異なる一定期間のデータと,始期に対応したラベルの組となる学習データを生成する処理部である。具体的には,学習データ生成部111は,一人の出勤簿データから重複を許して,指定された期間のデータをサンプリングする。学習データ生成部111は,各出勤簿データから,期間のはじまり(始期)が異なる複数のデータを抽出し,各データについて,データの終期から3か月以内に療養期間があればラベル「療養あり」を設定し,データの終期から3か月以内に療養期間がなければラベル「療養なし」を設定する。その後,学習データ生成部111は,抽出したデータと設定したラベルとを対応付けた学習データを学習データDB105に格納する。
【0045】
例えば,学習データ生成部111は,1月から12月の出勤簿データから,1月から6月の出勤簿データを抽出する。そして,学習データ生成部111は,7月から9月の3か月間に療養期間がない場合はラベル「療養なし」を,抽出した出勤簿データに付加して学習データを生成する。続いて,学習データ生成部111は,1月から12月の出勤簿データから,2月から7月の出勤簿データを抽出する。そして,学習データ生成部111は,8月から10月の3か月間に療養期間がある場合はラベル「療養あり」を,抽出した出勤簿データに付加して学習データを生成する。
【0046】
既往者判定部112は,各学習データの元となった出勤簿データに基づいて,該当する従業員が既往者か否かを判定する処理部である。例えば,既往者判定部112は,予測に用いる「6か月」などの区間切り出しではなく,該当従業員の全データ区間である出勤簿データを参照し,過去に「療養期間」がある場合は既往者と判定し,過去に「療養期間」がない場合は通常者と判定する。そして,既往者判定部112は,各学習データに対する判定結果を重み設定部113に通知する。
【0047】
なお,既往者とは,1つの学習データとして使用する期間に限らず,過去の出勤簿データ全体において療養期間がある従業員を指す。例えば,療養期間が学習時から2年前の場合,直近6か月のデータだけみると「体調不良者」ではないが,「既往者」に該当する場合がある。
【0048】
重み設定部113は,各学習データが既往者の療養明け期間に該当するか否かを判定し,その判定結果に応じてテンソルデータの重みの一部を変更する処理部である。具体的には,重み設定部113は,学習データDB105に記憶される各学習データに対して,重み情報DB103に記憶される重み付けルールにしたがって重みを設定する。そして,重み設定部113は,重みが設定された結果をテンソル生成部114に出力する。
【0049】
例えば,重み設定部113は,既往者判定部112によって既往者であると判定されるとともに療養期間後に該当する出勤簿データから生成された学習データに対して,重み「0.5」を設定する。また,重み設定部113は,「既往者かつ療養期間後」以外の各学習データに対しては,重み「1.0」を設定する。つまり,重み設定部113は,ある条件の一例である既往者の学習データについて,療養明けで復職した療養期間明けに該当するデータの重要度を減少させるために,重みを設定する。
【0050】
ここで,図10を用いて,療養区間と重みの設定について説明する。図10は,療養期間の判定と重み設定を説明する図である。図10に示すように,重み設定部113は,テンソル化に際して,各学習データが「療養期間」の前後のいずれに該当するかを判定する。図10の例では,重み設定部113は,「2015年8月24日」から「2015年10月4日」まで「療養期間」を検出すると,療養開始の「2015年8月24日」より前に該当する学習データについては重みを「1」に設定し,療養終了の「2015年10月4日」より後の学習データについては重みを「0.5」に設定する。
【0051】
つまり,療養期間より前の療養前期間は,療養要因となる部分パターンであるコアテンソル(予測に影響を与える部分パターン)として抽出するのに重要と判定され,重みとして「1」を設定する。一方で,療養期間より後の療養後期間は,療養要因となる部分パターンであるコアテンソルとして抽出する対象としては重要ではないと判定し,重みとして「0.5」を設定する。このようにして,既往者の療養期間後に該当する学習データについては,テンソルデータの重みの一部を変化させる。
【0052】
テンソル生成部114は,各学習データをテンソル化する処理部である。具体的には,テンソル生成部114は,学習データDB105に記憶される各学習データであって,重み設定部113による重み設定が完了した各学習データについて,各学習データに含まれる要素で構成されるテンソルを生成して,テンソルDB106に格納する。例えば,テンソル生成部114は,各学習データについて,各学習データに含まれる4要素で構成される4階テンソルを生成して,テンソルDB106に格納する。このとき,テンソル生成部114は,学習データに付加されるラベル(療養あり)またはラベル(療養なし)を,テンソルに対応付けて格納する。
【0053】
具体的には,テンソル生成部114は,療養する傾向を特徴づけると想定される各属性を各次元として,学習データからテンソルを生成する。例えば,テンソル生成部114は,月度,日付,出欠区分,出張有無の4要素を用いた4次元の4階テンソルを生成する。なお,6か月分のデータである場合は,月度の要素数は「6」,各月の日付数の最大値が31であることから日付の要素数は「31」,出欠の種類が出社・休暇・休日であれば出欠区分の要素数は「3」,出張はありとなしであることから出張有無の要素数は「2」となる。したがって,学習データから生成されるテンソルは,「6×31×3×2」のテンソルとなり,学習データの各月度,日付における出欠区分,出張有無に対応する要素の値が1,そうでない要素の値が0となる。
【0054】【0055】(省略)
【0056】
学習部115は,各学習データから生成された各テンソルおよびラベルを入力として,ディープテンソルによる予測モデルの学習およびテンソル分解の方法の学習を実行する処理部である。具体的には,学習部115は,ディープテンソルの「グラフ(テンソル)の部分構造を認識することができる」という性質を利用して,学習を実行する。例えば,学習部115は,図5で説明した手法と同様,入力対象のテンソル(入力テンソル)からコアテンソルを抽出してNNに入力し,NNからの分類結果と入力テンソルに付与されているラベルとの誤差(分類誤差)を算出する。そして,学習部115は,分類誤差を用いて,NNのパラメータの学習およびターゲットコアテンソルの最適化を実行する。その後,学習部115は,学習が終了すると,各種パラメータを学習結果として学習結果DB107に格納する。
【0057】
なお,実施例1で説明するテンソル分解は,ターゲットコアテンソルに類似するようにコアテンソルを算出することにより,分類に重要な構造をコアテンソルの類似の位置に配置する。そして,このコアテンソルを用いてNNを学習することにより,精度の高い分類を実現する。」

「【0061】
[重み変更の影響]
次に,図12から図16を用いて,既往者の療養期間後の出勤簿データの重みが0.5に変更されることで,NNの学習に与える影響について説明する。図12は,テンソルデータの比較例を示す図である。図13は,既往者のテンソルデータ上における重み変更を説明する図である。図14は,重み変更の対象外である学習データを説明する図である。図15は,重み変更の対象である学習データを説明する図である。図16は,重み変更が与える影響を説明する図である。
【0062】
ここでは,ラベル「療養あり」が付与される体調不良者に該当する従業員Aの出勤簿データと,ラベル「療養なし」が付与される既往者に該当する従業員Bの出勤簿データとを例にして説明する。また,従業員Bの出勤簿データは,療養期間後の出勤簿データとする。
【0063】
また,図6等では,既往者かつ療養期間後の出勤簿データに対しては,すべての要素の一律に重み「0.5」を設定する例を説明したが,ここでは,1つの要素の重みを変更する例を説明する。すなわち,出勤簿データの日付,月度および出欠区分のうちの出欠区分の重みを0.5に変更して,出欠区分以外の重みを1.0とする例を説明する。なお,どの要素の重みを変更するかは,重み付けルールで設定することができる。
【0064】
図12に示すように,ラベル「療養あり」が付与される従業員A(体調不良者)の出勤簿データから生成されたテンソルデータと,ラベル「療養なし」が付与される従業員B(既往者)の出勤簿データから生成されたテンソルデータとは,1年や2年などの長い期間で比較すると,異なるデータである。しかし,6か月間などの短期間Pの範囲内に注目すると,類似するデータまたは同じデータとなり,特徴が区別できない。すなわち,本来,別々として扱われるべきデータが,学習データとして抽出される抽出対象の6か月間のデータでは同じ特徴量を持つ類似データとして扱われる。したがって,予測モデルの学習において,これらは同じ事例として処理されるので,既往者のデータがノイズとなり,ターゲットコアテンソルの最適化やNNの学習の精度劣化に繋がる結果,予測モデルの精度劣化が発生する。
【0065】
そこで,図13に示すように,重み設定部113による重み設定により,コアテンソル化(部分パターン抽出)した際に,部分的に類似のデータを持つ恐れがある既往者(従業員B)の療養明けのデータは,テンソルの重みの一部を変化させる。例えば,療養期間がある既往者であれば,療養後のデータ区間の重みの一部として,「出欠区分」のうち「年次休暇」や「準欠勤」などの休暇に該当するレコードの値を「0.5」にする。すなわち,エッジの長さを変えたり,ノードに設定する値を変更したりする。
【0066】
このように,既往者の療養期間後のデータの重みを変更することで,グラフ構造のエッジが変更され,結果としてテンソルデータを変更することになる。この結果,出勤簿データから抽出されるコアテンソルを差別化することができるので,既往者かつ療養期間後の出勤簿データの特徴を,それ以外の出勤簿データの特徴と区別することができる。
【0067】
具体的には,図14に示すように,学習装置100は,ラベル「療養あり」が付与される体調不良者に該当する従業員Aの出勤簿データに対しては,出欠区分に年次休暇等の休暇が含まれていたとしても,全部のレコードに対して重み「1.0」を設定する。このため,出勤簿データは,データ値そのままのグラフ構造となり,テンソル化される。
【0068】
一方,図15に示すように,ラベル「療養なし」が付与される従業員Bの出勤簿データに対しては,基本的に全部のレコードに対して重み「1.0」が設定されるが,そのうち出欠区分に年次休暇または準欠勤が含まれるレコード(データ)に対しては重みが「0.5」に変更される。このため,出勤簿データを表すグラフ構造の形状が重み「1.0」の場合とは異なる形状になるので,テンソル化後のテンソルデータも重み「1.0」の場合とは異なるものとなる。
【0069】
このように,重みを変更することで,出勤簿データ上では類似するデータであっても,異なるテンソルデータを生成することができる。したがって,コアテンソルの抽出元である出勤簿データが類似するデータ同士であっても,それぞれから別々のテンソルデータを生成できるので,別々の特徴としてNNを学習させることができる。
【0070】
具体的には,図16に示すように,重みの変更前後では,入力データとなる各グラフ構造の形状が変化することから,それぞれから生成されてコアテンソルの生成元となる各入力テンソル(テンソルデータ)の形状も変化する。このとき,入力テンソルの主成分方向は確定しない不確かな状態であることから,重み変更前後で主成分方向が一致する可能性もある。
【0071】
ところが,その後に,入力テンソルからコアテンソルを抽出するテンソル分解を行うと,重みの変更前後において分解元である入力テンソルが異なることから,別々のコアテンソルが生成される。ここで,入力テンソルの特徴量を示すコアテンソルでは主成分方向が確定されることから,重み変更前後では,主成分方向が異なる別々のコアテンソルが抽出される。つまり,類似する出勤簿データであっても,重みを変更することにより,異なるコアテンソルの抽出が可能となる。この結果,既往者かつ療養期間後の出勤簿データを学習データと用いたとしても,予測モデルの精度低下を抑制できる。
【0072】
[学習処理の流れ]
図17は,学習処理の流れを示すフローチャートである。図17に示すように,学習データ生成部111は,出勤簿データを出勤簿データDB104から読み込み(S101),学習対象の従業員1人を選択する(S102)。
【0073】
続いて,学習データ生成部111は,出勤簿データから6か月期間のデータを切出すとともに,続く3か月間の出勤簿データ内の療養期間の有無によって,切出された各データにラベルを付与して,学習データを生成する(S103)。なお,6か月のデータ内に療養が含まれている場合は学習データとして採用されない。
【0074】
その後,学習データ生成部111は,学習データを1つ選択し(S104),当該学習データに対応する従業員の過去の全出勤簿データを参照して,療養期間が含まれるか否かを判定する(S105)。そして,学習データ生成部111は,療養期間が含まれる場合(S105:Yes),学習データのラベルに「療養あり」を設定する(S106)。一方,学習データ生成部111は,療養期間が含まれない場合(S105:No),学習データのラベルに「療養なし」を設定する(S107)。
【0075】
そして,未処理の学習データが存在する場合(S108:Yes),S104以降を繰り返し,未処理の学習データが存在しなくなると(S108:No),S109以降が実行される。
【0076】
具体的には,既往者判定部112は,学習データを1つ選択し(S109),「条件:既往者かつ療養期間明け」に該当するか否かを判定する(S110)。ここで,重み設定部113は,条件に該当する学習データの場合(S110:Yes),重み付けルールにしたがって,重みを「0.5」に変更し(S111),条件に該当しない学習データの場合(S110:No),重み「1.0」をそのまま設定する(S112)。
【0077】
そして,テンソル生成部114は,重み付けされた学習データのテンソル化を実行してテンソルデータを生成する(S113)。その後,未処理の学習データが存在する場合(S114:Yes),S109以降が繰り返され,未処理の学習データがなくなると(S114:No),S115以降が実行される。
【0078】
具体的には,未処理の学習対象の従業員が残っている場合(S115:Yes),S102以降が繰り返される。一方,全ての従業員について処理が終了した場合(S115:No),学習データを用いた学習部115による学習処理が実行される(S116)。」

「【0083】
[効果]
上述したように,体調不良者の特徴を学習させたい場合に,体調不良者の出勤簿データと既往者の療養期間明けの出勤簿データとが類似することから,ノイズを含む学習となり,予測モデルの精度低下が発生する。そこで,実施例1にかかる学習装置100は,既往者の療養期間明けの出勤簿データの重みを変更することで,出勤簿データのグラフ構造を変更することができるので,NNへ入力されるコアテンソルを差別化することができる。
【0084】
具体的には,学習装置100は,重み付けルールにしたがって,通常者に該当する学習データ(ラベル:療養なし),体調不良者(療養あり)に該当する学習データ,既往者かつ療養期間前に該当する学習データ(ラベル:療養あり)には重みとして「1.0」を設定する。一方で,学習装置100は,既往者かつ療養期間後に該当する学習データ(ラベル:療養あり)に対しては,重みを「0.5」に変更する。
【0085】
このようにすることで,学習装置100は,各学習データの特徴量(コアテンソル)を明確に差別化する。この結果,学習装置100は,ディープテンソルの「予測に寄与するグラフの部分構造(テンソルの部分パターン)をコアテンソルとして抽出することができる」という性質を有効利用することができ,少ない学習データ量でも精度良く予測が可能である。」

(2)実施例2について
「【実施例2】
【0086】
ところで,実施例1では,データ構造の一例として,出勤簿データを用いて説明したが,これに限定されるものではなく,例えば医療用の診療データなどを用いることもできる。そこで,実施例2では,診療データを用いた学習例を説明する。
【0087】
実施例2では,症状の発生パターンなどを学習することで,入院を行うほど症状が悪化するかを予測する予測モデルを構築する。具体的には,学習装置100は,入院したケースとして学習する学習データと,入院しなかったケースとして学習データを用いて,診療データから入院の発生有無を予測する予測モデルを学習する。
【0088】
図19は,実施例2にかかる学習データの例を説明する図である。図19に示すように,学習データは,6か月ごとの診療データと,その6か月以降から3か月以内に入院実績があるか否かを示すラベルとから構成される。図19の(a)は,患者が疫病に罹患して入院したラベル(罹患あり)が付される体調不良者の診療データである。図19の(b)は,入院しなかったラベル(罹患なし)が付される通常者の出勤簿データである。
【0089】
図19に示すように,実施例2にかかる学習装置100は,「6か月分の診療データ,ラベル(罹患あり)」と,「6か月分の診療データ,ラベル(罹患なし)」とを学習データとして予測モデルを学習する。学習装置100は,学習後,ある人の6か月分の診療データから3か月以内に入院するか否かを予測する。なお,図19内の網掛けは,診療データの要素の1つである発熱を示す。
【0090】
そして,学習装置100は,実施例2においても,実施例1と同様に,重みの変更を実行する。具体的には,ラベル「罹患なし」が設定される入院期間明けの診療データの特徴と,ラベル「罹患あり」が設定される体調不良者の診療データの特徴とが類似することあるので,学習精度の劣化に繋がる。このため,実施例2においても,過去に入院したことがあるがすでに復帰している回復患者の入院期間明けの診療データに対して,通常よりも重みを小さく変更することで,学習への影響度を小さくする。
【0091】
ここで,図20を用いて,入院期間と重みの設定について説明する。図20は,入院期間の判定と重み設定を説明する図である。まず,図20に示すように,診療データは,「患者No.,日付,曜日,症状,血圧,投薬」を要素とするデータである。「患者No.」は,患者を特定する情報であり,「日付」は,診察日であり,「曜日」は,診察した曜日である。「症状」は,患者の症状であり,例えば発熱,腹痛,悪寒,正常(異常がない状態)などである。「血圧」は,患者の血圧の測定値である。「投薬」は,患者に薬を投薬したか否かを示す情報である。なお,ここで示した要素は一例であり,例えば診察時刻,手術の有無,血液検査の結果など他の要素を用いることもできる。
【0092】
このような学習データのテンソル化に際して,学習装置100は,各学習データが「入院期間」の前後のいずれに該当するかを判定する。図20の例では,学習装置100は,「2015年8月24日」から「2015年10月4日」までを「入院期間」として検出すると,入院開始の「2015年8月24日」より前に該当する学習データについては重みを「1」に設定し,入院終了の「2015年10月4日」より後の学習データについては重みを「0.5」に設定する。
【0093】
つまり,入院期間より前の入院前期間は,入院要因となる部分パターンであるコアテンソルとして抽出するのに重要と判定され,重みとして「1」を設定する。一方で,入院期間より後の入院後期間は,入院要因となる部分パターンであるコアテンソルとして抽出する対象としては重要ではないと判定し,重みとして「0.5」を設定する。このようにして,ラベル「罹患なし」が設定される入院期間明けに該当する学習データについては,テンソルデータの重みの一部を変化させる。」


第6 当審の判断

1 請求項1について
(1)発明の詳細な説明に記載された技術的意義について
上記「第5」「1」のとおり,既往者の出勤簿データがノイズとなり,新規療養者の予測精度を低下させるとの課題を解決するために,上記「第5」「2」のとおり,学習装置が,ターゲットコアテンソルと,過去に入院経験があるが退院している回復患者の診療データヘの重み付けルールとを記憶する記憶部とを有し,学習装置が,前記患者が前記回復患者に該当する場合,前記重み付けルールにしたがって,前記診療データのいずれかの要素の重みを変更して前記テンソルデータを変更し,前記ターゲットコアテンソルと類似するように前記変更されたテンソルデータからコアテンソルを生成し,ディープテンソルを用いた学習器に前記コアテンソルを入力して教師有学習を実行し,これらの処理に,複数の要素から構成される患者の診療データと,前記患者が入院した経験がある体調不良者または前記患者が入院したことがない通常者かのいずれかを特定する罹患情報と,を含むデータ構造を用いるものである。そして,その効果は,上記「第5」「3」のとおり,予測精度の劣化を抑制することである。
具体的には,上記「第5」「4」のとおり,実施例1として,データ構造について,学習データは,6か月ごとの出勤簿データと,その6か月以降から3か月以内に療養実績があるか否かを示すラベルとから構成される(【0018】【0037】)。そして,各学習データに対して,重み情報DB103に記憶される重み付けルールにしたがって重み(重み情報)が設定される(【0048】)。
療養区間と重みの設定について,療養期間より前の療養前期間は,療養要因となる部分パターンであるコアテンソル(予測に影響を与える部分パターン)として抽出するのに重要と判定され,重みとして「1」を設定する。一方で,療養期間より後の療養後期間は,療養要因となる部分パターンであるコアテンソルとして抽出する対象としては重要ではないと判定し,重みとして「0.5」を設定する。このようにして,既往者の療養期間後に該当する学習データについては,テンソルデータの重みの一部を変化させる(【0050】【0051】)。
そして,学習処理の流れについて,ラベル「療養あり」及びラベル「療養なし」が付与される従業員の出勤簿データから生成されたテンソルデータは,互いに1年や2年などの長い期間で比較すると,異なるデータであるが,6か月間などの短期間Pの範囲内に注目すると,類似するデータまたは同じデータとなり,特徴が区別できない(【0064】)。
そこで,学習装置100は,既往者かつ療養期間後の出勤簿データに対して,出勤簿データの日付,月度および出欠区分のうちの出欠区分の重みを0.5に変更して,出欠区分以外の重みを1.0とすることを,重み付けルールで設定する。このように,重みを変更することで,グラフ構造のエッジが変更され,結果としてテンソルデータを変更することになる(【0063】【0065】?【0068】)。そして,このように,重みを変更することで,出勤簿データ上では類似するデータであっても,異なるテンソルデータを生成することができる(【0069】)。
これにより,重み変更前後で,主成分方向が異なる別々のコアテンソルが抽出され,類似する出勤簿データであっても,重みを変更することにより,異なるコアテンソルの抽出が可能となり,予測モデルの精度低下を抑制できるとの効果を奏するものである(【0071】)。
そして,実施例2として,データ構造を「出勤簿データ」に限定せず,「医療用の診療時データ」などに用いることができるとするものである(【0086】?【0093】)。

(2)請求項1に係る発明の構成について
ア 請求項1のデータ構造は,「患者の診療データ」と,診療データの「所定期間」ごとを教師有学習の説明変数である1つの学習データとし,各学習データに対して設定された「正解情報」と,学習データ毎に設定される「重み情報」とからなるものである。

イ 学習装置は,「重み情報」と重み付けルールとにしたがって,学習データのいずれかの要素の重みを変更することで,重みを変更する前の学習データから生成された元のテンソルデータの形状を変化させたテンソルデータにテンソルデータを変更し,形状が変化されたテンソルデータからコアテンソルを生成し,学習器に生成されたコアテンソルを入力し,学習データを用いた学習処理を行う。

ウ これにより,学習データが類似又は同じであっても,予測モデルの精度低下を抑制できるとの効果を奏するものである。

エ このように,請求項1のデータ構造は,「所定期間」ごとの学習データのいずれかの要素に対する「重み情報」を有する構成であり,この「重み情報」によって,学習データが類似又は同じであっても,予測モデルの精度低下を抑制できるとの効果を奏するものである。
そして,請求項1のデータ構造の「重み情報」は,所定期間ごとの学習データ毎に設定される,学習データのいずれかの要素の重みであり,学習装置が実行する,学習データに基づくテンソルデータの生成処理において,テンソルデータの形状の変化を規定するものであるから,プログラムに準ずるものである。
そうすると,請求項1のデータ構造は,学習装置に提供されるデータ要素の内容を単に特定するにとどまるものではないから,人為的取決めとはいえず,自然法則を利用した「発明」に該当する。

(3)小括
以上のとおりであるから,請求項1は,特許請求の範囲の記載や願書に添付した明細書の記載及び図面に開示された,「特許を受けようとする発明」が前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成,その構成から導かれる効果等の技術的意義に照らして,全体として考察した結果,データ構造の発明の本質が,人為的な取決め自体などに向けられているとはいえず,上記「発明」に該当するものである。

2 請求項2?6について
請求項1を引用する請求項2?6についても,請求項1の「データ構造」を含むものであり,それにより,予測モデルの精度低下を抑制できるとの効果を奏するものである。
よって,請求項2?6についても,特許請求の範囲の記載や願書に添付した明細書の記載及び図面に開示された,「特許を受けようとする発明」が前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成,その構成から導かれる効果等の技術的意義に照らして,全体として考察した結果,データ構造の発明の本質が,人為的な取決め自体に向けられているとはいえず,上記「発明」に該当するものである。

3 原査定について
令和2年12月4日付け手続補正書による補正により,原査定の理由は解消した。


第7 むすび

以上のとおり,請求項1?6に係る発明は,「発明」に該当する。
したがって,原査定の理由及び当審の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-01-28 
出願番号 特願2018-238354(P2018-238354)
審決分類 P 1 8・ 1- WY (G06N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 海江田 章裕  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 相崎 裕恒
松田 直也
発明の名称 医療用のデータ構造  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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