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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1370828
審判番号 不服2019-17802  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-27 
確定日 2021-02-03 
事件の表示 特願2017-137465「インダクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月15日出願公開、特開2018- 41955〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成29年7月13日(パリ条約に基づく優先権主張 2016年9月7日 韓国(KR) 2016年9月26日 韓国(KR))の出願であって、平成30年6月29日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年10月3日に手続補正がなされ、平成31年3月8日付け拒絶理由通知に対する応答時、令和1年5月30日に手続補正がなされたが、同年8月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.令和1年12月27日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和1年12月27日の手続補正を却下する。
[理由]
(1)本願補正発明
令和1年12月27日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前には、
「【請求項1】
コイルを含む本体と、前記本体の外部面に配置される外部電極と、を含み、
前記本体は高分子材料のマトリックス(matrix)内に磁性特性を有するコア粉末を含み、
前記コア粉末は前記高分子材料によってそれに隣接するコア粉末と絶縁され、
前記高分子材料はベンゼン環を有さない熱硬化性エポキシを含み、
前記マトリックス内の前記高分子材料は、単一の絶縁層を形成して、前記コア粉末の表面と直接接触し、
前記本体内の前記コア粉末の体積を100vol%としたとき、前記高分子材料のマトリックスの体積比は3vol%以上15vol%以下であり、
前記コア粉末の中央部及び表面部は同一の組成を有し、前記コア粉末の境界である前記表面部は、前記コア粉末の組成と異なる組成を有する追加の無機物層を含まず、
それぞれの前記コア粉末の全表面は高分子材料の絶縁層でコーティングされる、インダクタ。」

とあったものが、

「【請求項1】
コイルを含む本体と、前記本体の外部面に配置される外部電極と、を含み、
前記本体は高分子材料のマトリックス(matrix)内に、磁性特性を有しており形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上のコア粉末を含み、
前記コア粉末は前記高分子材料によってそれに隣接するコア粉末と絶縁され、
前記高分子材料はベンゼン環を有さない熱硬化性エポキシを含み、
前記マトリックス内の前記高分子材料は、単一の絶縁層を形成して、前記コア粉末の表面と直接接触し、
前記本体内の前記コア粉末の体積を100vol%としたとき、前記高分子材料のマトリックスの体積比は3vol%以上15vol%以下であり、
前記コア粉末の中央部及び表面部は同一の組成を有し、前記コア粉末の境界である前記表面部は、前記コア粉末の組成と異なる組成を有する追加の無機物層を含まず、
それぞれの前記コア粉末の全表面は高分子材料の絶縁層でコーティングされる、インダクタ。」と補正された(下線部は補正箇所を示す。)。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「コア粉末」について、「形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上」であることの限定を付加するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正における上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2016/121951号(以下、「引用例」という。)には、「コイル部品」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[請求項16] コイル導体が磁性体部に埋設されたコイル部品であって、
前記磁性体部は、主成分が請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の磁性体粉末で形成されていることを特徴とするコイル部品。
[請求項17] 前記磁性体部が、結合剤を含有すると共に、
前記磁性体部中の前記磁性体粉末の含有量が、体積比率で60vol%以上であることを特徴とする請求項16記載のコイル部品。」

イ.「[0001] 本発明は、磁性体粉末とその製造方法、及び磁心コアとその製造方法、並びにコイル部品、及びモータに関し、より詳しくはトランスやインダクタ等のコイル部品に適した合金系の磁性体粉末とその製造方法、及びこの磁性体材料を使用した磁心コアとその製造方法、並びに前記磁性体粉末を使用したリアクトルやインダクタ等のコイル部品、及びモータに関する。」

ウ.「[0091] 磁心コア12は、上述した本発明の磁性体粉末を主成分とし、エポキシ樹脂等の樹脂材料(結合剤)を少なくとも含有した複合材料で形成されている。
[0092] 尚、複合材料中の磁性体粉末の含有量は、特に限定されるものではないが、体積比率で60vol%以上が好ましい。磁性体粉末の含有量が60vol%未満になると、磁性体粉末の含有量が過少となって透磁率や磁束飽和密度が低下して磁気特性が低下を招くおそれがある。また、磁性体粉末の含有量の上限は、樹脂材料が、所期の作用効果を奏する程度に含有されていればよいことから、99vol%以下が好ましい。
[0093] この磁心コア12は、以下のようにして容易に製造することができる。
[0094] 上述した本磁性体粉末とエポキシ樹脂等の樹脂材料(結合剤)とを混錬し、分散させて複合材料を得る。次いで、例えば、圧縮成形法等を使用して成形処理を行い、成形体を作製する。すなわち、加熱された金型のキャビティに前記複合材料を流し込み、100MPa程度に加圧してプレス加工を行い、成形体を作製する。
[0095] その後、成形金型から成形体を取り出し、成形体を120?150℃の温度で24時間程度、熱処理を施して樹脂材料の硬化を促進し、これにより上述した磁心コア12が作製される。」

エ.「[0100] 図5は、本発明に係るコイル部品の第2の実施の形態としてのインダクタの斜視図である。
[0101]このインダクタは、矩形形状に形成された磁性体部14の表面略中央部に保護層15が形成されると共に、該保護層15を挟むような形態で前記磁性体部14の表面両端部には一対の外部電極16a、16bが形成されている。
[0102] 図6は、インダクタの内部構造を示す図である。この図6では説明の都合上、保護層15及び外部電極16a、16bを省略している。
[0103] 磁性体部14は、本発明の磁性体粉末を主成分とし、エポキシ樹脂等の樹脂材料を含有した複合材料で形成されている。そして、磁性体部14にはコイル導体17が埋設されている。
[0104] 磁性体部14は、上記磁心コア12と同様、本発明の磁性体粉末を主成分とし、エポキシ樹脂等の樹脂材料を含有した複合材料で形成されている。そして、磁性体部14にはコイル導体17が埋設されている。
[0105] 尚、複合材料中の磁性体粉末の含有量は、特に限定されるものではないが、上記磁心コア12の場合と同様の理由から、体積比率で60vol%以上が好ましく、より好ましくは60?99vol%がよい。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0107] このインダクタは、以下のようにして容易に作製することができる。
[0108] まず、第1の実施の形態と同様、本磁性体粉末と樹脂材料とを混錬し、分散させて複合材料を作製する。次いで、導体コイル17が複合材料で封止されるように該導体コイル17を複合材料中に埋め込む。そして、例えば、圧縮成形法を使用して成形加工を施し、導体コイル17が埋設された成形体を得る。次いで、この成形体を成形金型から取り出した後、熱処理を行い、表面研磨し、コイル導体17の端部17a、17bが端面に露出した磁性体部14を得る。
[0109] 次に、外部電極16a、16bの形成部位以外の磁性体部14表面に絶縁性樹脂を塗布し硬化させて保護層15を形成する。
[0110] その後、磁性体部14の両端部に導電性材料を主成分とした外部電極16a、16bを形成し、これによりインダクタが作製される。」

・上記引用例に記載の「コイル部品」は、上記「イ.」の記載事項によれば、例えば磁性体粉末を使用したインダクタに関するものである。
・上記「ア.」の[請求項16]、「エ.」の記載事項、及び図5,6によれば、コイル導体17が磁性体部14に埋設され、磁性体部14の表面両端部には一対の外部電極16a、16bが形成されてなるものである。
・上記「ア.」の[請求項17]、「ウ.」、「エ.」の記載事項によれば、磁性体部14は、磁性体粉末を主成分とし、エポキシ樹脂等の樹脂材料(結合剤)を含有した複合材料で形成され、磁性体粉末の含有量は、体積比率で60vol%以上99vol%以下である。
・上記「ウ.」、「エ.」の記載事項によれば、磁性体部14は、まず、磁性体粉末とエポキン樹脂等の樹脂材料とを混錬し、分散させて複合材料を作製し、次いで、導体コイル17を複合材料中に埋め込み、成形加工を施して成形体とし、そして、成形体に熱処理を施して樹脂材料の硬化させることにより作製されるものである。

したがって、「コイル部品」が、図5,6に示さるようにコイル導体が磁性体部に埋設されてなるインダクタである場合に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「コイル導体が磁性体部に埋設され、当該磁性体部の表面両端部に一対の外部電極が形成されたインダクタであって、
前記磁性体部は、主成分である磁性体粉末とエポキン樹脂からなる樹脂材料とを混錬し、分散させて複合材料を作製し、当該複合材料に導体コイルを埋め込み、成形加工を施して成形体とし、当該成形体に熱処理を施して前記樹脂材料を硬化させることにより作製され、
前記磁性体粉末の含有量は、体積比率で60vol%以上99vol%以下である、インダクタ。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「コイル導体が磁性体部に埋設され、当該磁性体部の表面両端部に一対の外部電極が形成されたインダクタであって」によれば、
「コイル導体」、「磁性体部」、一対の「外部電極」は、それぞれ本願補正発明でいう「コイル」、「本体」、「外部電極」に相当し、引用発明においても、コイル導体は磁性体部に埋設されていることから、磁性体部はコイル導体を含むものであり、また、一対の外部電極は磁性体部の表面(外部面)に配置されてなるものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「コイルを含む本体と、前記本体の外部面に配置される外部電極と」を含むものである点で一致する。

イ.引用発明における「前記磁性体部は、主成分である磁性体粉末とエポキン樹脂からなる樹脂材料とを混錬し、分散させて複合材料を作製し、当該複合材料に導体コイルを埋め込み、成形加工を施して成形体とし、当該成形体に熱処理を施して前記樹脂材料を硬化させることにより作製され」によれば、
「磁性体粉末」、「樹脂材料」は、それぞれ本願補正発明でいう「コア粉末」、「高分子材料」に相当する。そして、引用発明の磁性体部は、主成分である磁性体粉末と樹脂材料とを混錬し、分散させて作製した複合材料を成形して樹脂材料を硬化させることにより得られるものであることから、本願補正発明と同様に、磁性体粉末は樹脂材料のマトリックス内に分散して含まれ、隣接する磁性体粉末同士は当該樹脂材料によって絶縁された状態にあるといえる。さらに、複合材料は磁性体粉末と樹脂材料とからなり、磁性体粉末の表面部を酸化する処理やガラス層などの追加の無機物層で被覆する処理などは特段行われていないことから、本願補正発明と同様に、樹脂材料は単一の絶縁層を形成して磁性体粉末の表面と直接接触し、磁性体粉末の中央部と表面部は同一の組成を有し、磁性体粉末の表面部には、当該磁性体粉末の組成と異なる組成を有する追加の無機物層を含まず、それぞれの磁性体粉末の全表面は樹脂材料の絶縁層でコーティングされた状態にあるといえるものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記本体は高分子材料のマトリックス(matrix)内に、磁性特性を有するコア粉末を含」むものである点で共通する。そして、「前記コア粉末は前記高分子材料によってそれに隣接するコア粉末と絶縁され」、「前記マトリックス内の前記高分子材料は、単一の絶縁層を形成して、前記コア粉末の表面と直接接触し」、「前記コア粉末の中央部及び表面部は同一の組成を有し、前記コア粉末の境界である前記表面部は、前記コア粉末の組成と異なる組成を有する追加の無機物層を含まず、それぞれの前記コア粉末の全表面は高分子材料の絶縁層でコーティングされる」ものである点で一致する。
ただし、コア粉末について、本願補正発明では、「形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違する。
また、引用発明の「樹脂材料」はエポキシ樹脂からなるものであるから、本願補正発明と引用発明とは、「前記高分子材料は熱硬化性エポキシを含」むものである点で共通する。
ただし、熱硬化性エポキシについて、本願補正発明では、「ベンゼン環を有さない」ものである旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違する。

ウ.本願補正発明では、「前記本体内の前記コア粉末の体積を100vol%としたとき、前記高分子材料のマトリックスの体積比は3vol%以上15vol%以下」であると特定するのに対し、引用発明では、「磁性体粉末の含有量は、体積比率で60vol%以上99vol%以下」である点で一応相違するといえる。

エ.そして、引用発明における「インダクタ」は、本願補正発明でいう「インダクタ」に相当するものであることは明らかである。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「コイルを含む本体と、前記本体の外部面に配置される外部電極と、を含み、
前記本体は高分子材料のマトリックス(matrix)内に、磁性特性を有するコア粉末を含み、
前記コア粉末は前記高分子材料によってそれに隣接するコア粉末と絶縁され、
前記高分子材料は熱硬化性エポキシを含み、
前記マトリックス内の前記高分子材料は、単一の絶縁層を形成して、前記コア粉末の表面と直接接触し、
前記コア粉末の中央部及び表面部は同一の組成を有し、前記コア粉末の境界である前記表面部は、前記コア粉末の組成と異なる組成を有する追加の無機物層を含まず、
それぞれの前記コア粉末の全表面は高分子材料の絶縁層でコーティングされる、インダクタ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
コア粉末について、本願補正発明では、「形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
高分子材料が含む熱硬化性エポキシについて、本願補正発明では、「ベンゼン環を有さない」ものである旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点3]
本願補正発明では、「本体内のコア粉末の体積を100vol%としたとき、高分子材料のマトリックスの体積比は3vol%以上15vol%以下」である旨特定するのに対し、引用発明では、「磁性体粉末の含有量は、体積比率で60vol%以上99vol%以下」である点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。
[相違点1]について
例えば国際公開第98/08233号(特に1頁28行?2頁5行、2頁17行?3頁17行を参照)、特開2013-201374号公報(特に段落【0025】?【0026】、【0040】?【0041】を参照)に記載されているように、磁性粉末(粒子)と樹脂材料とからなる磁性成型物において、磁性粉末(粒子)の充填率を高め、高い透磁率等の磁気特性を得るために、形状と平均粒径が互いに異なる2種類の磁性粉末(粒子)を用いることは周知の技術事項であり、引用発明においても、透磁率等の磁気特性を高めることは普通に求められる課題であるから、複合材料中の磁性体粉末として、形状と平均粒径が互いに異なる2種類の磁性体粉末を用いるようにし相違点1に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
例えば拒絶査定時に提示した特開2009-105330号公報(【請求項1】、段落【0016】を参照)、特開2010-238929号公報(段落【0034】を参照)に記載のように、磁性体粉末とエポキシ樹脂とからなる磁芯(コア)用複合材料において、エポキシ樹脂として「脂環式(型)」エポキシ樹脂、すなわちベンゼン環を有さないエポキシ樹脂を用いることは周知の技術事項であり、引用発明においても、磁性体部を作製するための複合材料に含まれる樹脂材料であるエポキシ樹脂として、脂環式(型)エポキシ樹脂のようにベンゼン環を有さないエポキシ樹脂を用いることは当業者が適宜なし得ることである。

[相違点3]について
引用発明における磁性体粉末の含有量は、体積比率で60vol%以上99vol%以下であるから、樹脂材料の含有量は体積比率で1vol%以上40vol%以下であるところ、磁性体粉末100vol%に対する樹脂材料の割合(体積比)はおよそ1?67vol%である。したがって、本願補正発明で特定する「3vol%以上15vol%以下」の範囲を含んでいるから、この点において相違点3は実質的な相違とはならない。
仮に、相違にあたるとしても、本願明細書には段落【0039】に「コア粉末1aの体積100vol%に対して絶縁層1bの体積が3vol%?15vol%含まれることが好ましい。絶縁層の体積が3vol%よりも少ない場合は十分な絶縁特性を発揮することができず、15vol%よりも大きい場合は十分な透磁率を確保することが困難となる。」と記載されているだけであり、上限を「15vol%」、下限を「3vol%」としたことに臨界的な意義があるとは認められない。そして、引用例の段落[0092]には、磁性体粉末の含有量が少ないと透磁率等の磁気特性が低下すること、及び樹脂材料は所期の作用効果(結合剤としての作用効果と解される)を奏する程度に含有されていればよいことが記載されていることを踏まえると、必要とする十分な磁気特性を得るために磁性体粉末の含有量を多めして樹脂材料の含有量は少なめとし、本願補正発明で特定する「3vol%以上15vol%以下」の範囲を満たすような樹脂材料の含有量とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は、引用発明及び周知の技術事項から当業者であれば予測し得る程度のものであり、格別顕著なものがあるとはいえない。

なお、請求人は令和2年5月11日に提出の上申書において、「本願請求項1に係る発明によれば、『前記本体は高分子材料のマトリックス(matrix)内に、磁性特性を有しており形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上のコア粉末を含む』ことで、平均粒径の大きなコア粒子の間に生じる隙間を、平均粒径の小さなコア粉末によって埋めることができ、これによって隙間を少なくして『前記本体内のコア粉末の体積を100vol%としたとき、高分子材料のマトリックスの体積比は3vol%以上15vol%以下』という少ない前記高分子材料のマトリックスの体積比でも、前記コア粉末の全表面は高分子材料の絶縁層でコーティングすることができる。・・・引用文献1の段落0092において、『磁性体粉末の含有量が過少となって透磁率や磁束飽和密度が低下して磁気特性が低下する』ことが記載されているとしても、このように平均粒径が互いに異なる2種類以上のコア粉末を含むことによる相乗効果についてまでは考慮していない。」などと主張している。
かかる主張によれば、平均粒径が互いに異なる2種類以上のコア粉末を用いることと、高分子材料のマトリックスが3vol%以上15vol%以下という少ない体積比であることとは密接な技術的関係にあることを言わんとしているものと解される。
しかしながら、そもそも本願請求項1には、高分子材料のマトリックスの体積比は「3vol%以上15vol%以下」であるという特定事項(以下、「後者」という。)は、コア粉末について「形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上」という限定事項(以下、「前者」という。)が付加される前から記載されており、「前者」の構成とすることではじめて「後者」が実現できたというものでもない。また、本願明細書をみても、段落【0038】に「・・形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上のコア粉末を混合して構成できることは言うまでもない。互いに異なる結晶粒径を有するコア粉末1aを用いる場合は、本体10内の磁性粉末の充填密度を高めることで透磁率を増加させることができる。」と記載され、また、段落【0039】に「・・コア粉末1aの体積100vol%に対して絶縁層1bの体積が3vol%?15vol%含まれることが好ましい。絶縁層の体積が3vol%よりも少ない場合は十分な絶縁特性を発揮することができず、15vol%よりも大きい場合は十分な透磁率を確保することが困難となる。」と記載されているのみであり、「前者」と「後者」との技術的な関係については何ら記載されていない。
以上のこと踏まえると、請求人の上記主張は採用できない。

(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
令和1年12月27日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和1年5月30日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
コイルを含む本体と、前記本体の外部面に配置される外部電極と、を含み、
前記本体は高分子材料のマトリックス(matrix)内に磁性特性を有するコア粉末を含み、
前記コア粉末は前記高分子材料によってそれに隣接するコア粉末と絶縁され、
前記高分子材料はベンゼン環を有さない熱硬化性エポキシを含み、
前記マトリックス内の前記高分子材料は、単一の絶縁層を形成して、前記コア粉末の表面と直接接触し、
前記本体内の前記コア粉末の体積を100vol%としたとき、前記高分子材料のマトリックスの体積比は3vol%以上15vol%以下であり、
前記コア粉末の中央部及び表面部は同一の組成を有し、前記コア粉末の境界である前記表面部は、前記コア粉末の組成と異なる組成を有する追加の無機物層を含まず、
それぞれの前記コア粉末の全表面は高分子材料の絶縁層でコーティングされる、インダクタ。」

(1)引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例、及び引用例の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「コア粉末」について、「形状と平均粒径が互いに異なる2種類以上」であることの限定、すなわち前記「2.(3)」で認定した相違点1に係る構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-08-28 
結審通知日 2020-09-01 
審決日 2020-09-15 
出願番号 特願2017-137465(P2017-137465)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 安希子田中 崇大須藤 竜也  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 井上 信一
赤穂 嘉紀
発明の名称 インダクタ  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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