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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G05B |
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管理番号 | 1370881 |
異議申立番号 | 異議2020-700506 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-07-21 |
確定日 | 2021-01-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6633313号発明「原子力プラント監視支援システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6633313号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6633313号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年7月22日に出願され、令和1年12月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年7月21日に特許異議申立人村山玉恵(以下「特許異議申立人」という)は、請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立てを行った。 2 本件発明 特許第6633313号の請求項1?7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 緊急時活動レベルの各項目について異常通知を行うか否かの判定条件が保存されたプラント監視サーバと、前記プラント監視サーバに各種プラントデータを出力する信号処理装置と、前記プラント監視サーバに接続され前記各種プラントデータを蓄積するプラントデータベースと、前記緊急時活動レベルの各項目をマトリックス状に表示する表示装置と、人間系の要求又は判断結果の少なくとも一方が入力される入力装置と、関係機関に異常と判断された前記緊急時活動レベルの項目を通報する通報装置と、を備えた原子力プラント監視支援システムであって、 前記プラント監視サーバは、 前記緊急時活動レベルの少なくとも1つの項目が前記異常通知を行うとの判定条件を満たした場合に、前記表示装置に表示された当該項目を強調表示することで人間系に異常通知を実施するとともに、人間系から異常通知要因の表示要求があった場合に異常通知要因を表示し、 人間系からの異常通知判断に基づいて緊急時活動レベルの項目、異常通知要因及び通報判断時刻の少なくとも何れかを前記プラントデータベースに記録し、 人間系からの異常通報指示に基づいて関係機関に異常通報することを特徴とする原子力プラント監視支援システム。 【請求項2】 前記判定条件は、前記緊急時活動レベルの各項目に関連づけられた少なくとも1のプラントデータが予め定められた閾値から逸脱したか否か、又は逸脱する可能性があるか否かであることを特徴とする請求項1記載の原子力プラント監視支援システム。 【請求項3】 前記異常通知要因は、予め定められた閾値から逸脱したか、又は逸脱する可能性がある前記プラントデータであることを特徴とする請求項2記載の原子力プラント監視支援システム。 【請求項4】 前記異常通知要因は、前記プラントデータと他の関連情報であることを特徴とする請求項3記載の原子力プラント監視支援システム。 【請求項5】 前記プラント監視支援システムは、関係機関に通報する必要があると判断された前記緊急時活動レベルの項目、前記異常通知要因、時刻を印刷するための印刷装置をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の原子力プラント監視支援システム。 【請求項6】 前記プラント監視支援システムは、前記異常通報を行った前記緊急時活動レベルの項目が前記異常通知を行わないとの判定条件を満たした場合に、前記異常通報を解除するための情報を前記表示装置に表示することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の原子力プラント監視支援システム。 【請求項7】 前記プラント監視サーバは信号切替装置に接続され、当該信号切替装置は前記信号処理装置又は訓練サーバに切替可能に接続されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の原子力プラント監視支援システム。」 3 申立理由の概要 特許異議申立人は、主たる証拠として中国特許出願公開第103928071号明細書(甲第1号証。以下「甲1」という。甲第2号証?甲第10号証についても同様に「甲2」?「甲10」という。)及び従たる証拠として米国特許出願公開2007/0033095号明細書(「甲2」)、特開平2-292696号公報(「甲3」)、特開2001-337721号公報(「甲4」)、特開2011-203947号公報(「甲5」)、特開2014?229158号公報(「甲6」)、特開2011?145206号公報(「甲7」)、特開2015-106391号公報(「甲8」)、特開2014-167706号公報(「甲9」)、特開平11-212622号公報(「甲10」)を提出し、請求項1?7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 4 証拠の記載等 (1)甲1には以下の事項が記載されている(甲1の関連する段落について、特許異議申立人による抄訳文のみを摘記した。)。 ア 「[0002] 本発明は、原子力発電所が、緊急事態において、有効な緊急時活動レベルを実施する補助判断システム及び方法に関する。」 イ 「[0005] 緊急時活動レベル(EAL,Emergency Action Levels)は、原子力発電所が緊急事態の区分を決定するための基礎であり、相応の緊急対応を実行する開始条件である。EALは、あらかじめ決定された、あるいくつかの計器の測定値、特定の機器又はシステムの状態変化(運転開始、故障)又は特定の事象(例えば火災、保安事象など)の深刻度等であってよい。EALは原子力発電所緊急計画の重要な構成部分である。オペレータ、特に当直長及び緊急指令員は必ずEALを熟知していなければならず、EALを熟知していなければ、緊急事態の際に、正確な判断を適時に行い適当な緊急操作手順及び他の緊急実施手順を採用することができない。現在のところ、緊急事態についての判断は、大部分が人間による判断に依存しており、一組のシステムによる補助判断方法がない。本願はまさに、このような背景に基づいて行われた開発設計である。」 ウ 「[0015] 【図1】本発明の原子力発電所緊急事態補助判断システムの原理ブロックであり; ここで:1はEALモデルであり;2はリアルタイムデータ収集モジュールであり;3は手動データ収集モジュールであり;4は論理制御モジュールであり;5は可視化ユーザインタフェースであり;6は原子力発電所デジタル制御システムであり;7は原子力発電所環境モニタリングシステムであり;8はEALリアルタイムデータベースである。」 エ 「[0017] 以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳しく説明する: 図1に示す緊急時活動レベルに基づく原子力発電所緊急事態補助判断システムは、主に、EALモデル1、リアルタイムデータ収集モジュール2、手動データ収集モジュール3、論理制御モジュール4、可視化ユーザインタフェース5、EALリアルタイムデータベース8という、いくつかの大きなモジュールからなる。次に、いくつかのモジュールについてさらに説明する: ここで、EALモデル1は、規格に基づいて設定された、あるいくつかの計器の測定値、特定の機器又はシステムの状態変化(運転開始、故障)又は特定の事象(例えば火災、保安事象など)の深刻度等のパラメータである。リアルタイムデータ収集モジュール2は、原子力発電所デジタル制御システム(DCS)6、原子力発電所環境モニタリングシステム7に接続され、原子力発電所デジタル制御システム6、原子力発電所環境モニタリングシステム7等のリアルタイムデータを収集するために用いられる。手動データ収集モジュール3は、特定の機器又はシステムの状態変化(運転開始、故障)又は特定の事象(例えば火災、保安事象など)データをEALリアルタイムデータベース8中に手動で入力するために用いられる。EALリアルタイムデータベース8はさらに前記リアルタイムデータ収集モジュール2に接続され、EALリアルタイムデータベース8が一定の頻度でリアルタイムデータを直接取得した後、その中に格納する。」 オ 「[0018] 論理制御モジュール4は、EALモデル1、EALリアルタイムデータベース8とデータをやりとりし、EALリアルタイムデータベース8における関連するパラメータの変化状況をリアルタイムで監視し、閾値、EALパラメータ、フリップフロップ、論理判断プロセスのモデル実現を担う。一定の頻度でEALリアルタイムデータベース8からすべてのEALパラメータのデータを取得してEALモデル1に同期させ、EALをトリガする条件を各パラメータが満足するか否かを論理制御モジュール4が判断し、満足する場合には、フリップフロップによりそのトリガを遂行して論理判断プロセスに入ることにより判断を段階的に遂行するとともに、最終的な判断結果を導出する。」 カ 「[0019] 可視化ユーザインターフェース5は論理制御モジュール4の出力端に接続され、EALパラメータの監視、論理判断フロー、論理判断結果、勧告提案事態等の情報をリアルタイムで表示するとともに、パラメータ閾値条件のトリガ及び緊急事態変化時の指示情報を適時に示し、しかも、論理制御モジュール4も緊急事態勧告を示し、緊急指令員が手動で関与し、最終的な緊急事態を決定するとともにシステムを介して対外的に公表する。」 キ 「[0020] 本発明の補助補助判断システムは、論理制御モジュール4がシステムの中核的モジュールであり、閾値、EALパラメータ、フリップフロップ、論理判断プロセスのモデル実現を担う。本モジュールは、EALに係るすべてのパラメータをデータベースから一定の頻度で取得するとともに、メモリのモデルに同期させ、EALをトリガする条件を各パラメータが満足するか否かをモデルが判断し、満足する場合には、そのトリガプロセスをフリップフロップにより遂行して論理判断プロセスに入り、判断を段階的に遂行するとともに、最終的な判断結果を導出する。本モジュールは同時に、ユーザインタフェースにおける論理判断プロセスの表示を制御することも担う。」 ク 「[0021] 可視化インタフェースは可視化要素でEALの論理判断プロセスを組織して表示すると同時に、論理制御モジュールの制御の下、パラメータ状態、警告指示、緊急事態判断情報等を更新表示することができる。」 ケ 「[0023] 上記では、本発明の緊急事態補助判断システムの構成について説明した。続いて、実施ステップについて次の通り説明する: ステップ1:論理制御モジュールが、原子力発電所デジタル制御システム(DCS)、原子力発電所環境モニタリングシステム等のポートを接続するとともに、手動データ入力モジュールを結合することによって、原子力発電所の運転状態とパラメータを自動的に取得し; ステップ2:論理制御モジュールがEAL関連パラメータの変化状況をリアルタイムで監視するとともに、内蔵された論理意味判断に基づいてEALの論理判断フローと結果を示し; ステップ3:可視化ユーザインタフェースによって、EALパラメータの監視、論理判断フロー、論理判断結果、勧告緊急事態等の情報を表示するとともに、パラメータ閾値条件のトリガ及び緊急事態変化時の指示情報を適時に示し; ステップ4:システムが緊急事態勧告を示し、緊急指令員が手動で関与し、最終的な緊急事態を決定するとともに、プラットフォームを介して対外的に公表する。」 コ 「[0024] 本発明は次のような特色を有する: (1)自動化された論理分析と判断 システムはEAL論理フローのモデル化を実現しており、人が関与していない状況でシステムがデータに基づいて緊急事態の判断情報及び関連する勧告を直接示すことができるようにしている。」 サ 「[0025] (2) 論理判断結果の同期 システムは動機メカニズムを実現しており、異なるクライアントが分布式環境においてEAL論理判断フローを実行した後に生成される結果の時間同期性を保証していることにより、原子力発電所の事故緊急状況におけるシステムの機能の有効性と判断の正確性及び適時性を保証する。」 シ 「[0026] (3) EAL論理判断プロセスの可視化 システムは、可視化インタフェース及び可視化要素によって、EAL全体の、入力から出力までの判断プロセスを有効に組織して表示しており、しかも、プロセスにおけるステップ毎に詳しい情報を調べて履歴を振り返ることができ、ユーザの使用時における正確性を保証している。」 ス 上記エ、オ、キ及び図1の記載からみて、論理制御モジュール4は、EALのすべてのEALパラメータについてEALをトリガする条件を各パラメータが満足するか否かを、規格に基づいて設定されたパラメータであるEALモデル1に同期させて判断するものであることから、論理制御モジュール4と接続されているEALモデル1にはEALをトリガする条件が備えられているといえる。 セ 上記エ、オ及び図1の記載からみて、EALリアルタイムデータベース8には、原子力発電所デジタル制御システム6及び原子力発電所環境モニタリングシステム7等のリアルタイムデータ並びに手動データ収集モジュール3からの特定の機器又はシステムの状態変化又は特定の事象のデータが蓄積されているといえる。 ソ 上記カ及びケの記載からみて、緊急指令員が手動で関与し、最終的な緊急事態を決定するとともにシステムないしプラットフォームを介して対外的に公表するとしていることから、最終的な緊急事態と決定された内容を対外的に公表する手段を備えているといえる。 以上の記載によれば、甲1には以下の発明(以下「引用発明1」という)が記載されていると認められる。 「緊急時活動レベル(EAL)の各EALパラメータについて論理判断プロセスに入る緊急時活動レベル(EAL)をトリガする条件が備えられたEALモデル1と接続された論理制御モジュール4と、前記論理制御モジュール4に原子力発電所デジタル制御システム6及び原子力発電所環境モニタリングシステム7等のリアルタイムデータを出力するリアルタイムデータ収集モジュール2と、前記論理制御モジュール4に特定の機器又はシステムの状態変化又は特定の事象のデータを出力する手動データ収集モジュール3と、前記論理制御モジュール4に接続され前記原子力発電所デジタル制御システム6及び原子力発電所環境モニタリングシステム7等のリアルタイムデータ並びに手動データ収集モジュール3からの特定の機器又はシステムの状態変化又は特定の事象のデータを蓄積するEALリアルタイムデータベース8と、前記EALパラメータの監視、論理判断フロー、論理判断結果、勧告緊急事態等の情報、パラメータ状態、警告指示、緊急事態判断情報等を表示する可視化ユーザインタフェース5と、最終的な緊急事態と決定された内容を対外的に公表する手段と、を備えた原子力発電所緊急事態補助判断システムであって、 前記論理制御モジュール4は、 緊急時活動レベル(EAL)をトリガする条件を各EALパラメータが満足した場合に、論理判断プロセスに入り、論理判断結果、勧告緊急事態等の情報を可視化ユーザインタフェース5に表示するとともにパラメータ閾値条件のトリガ及び緊急事態変化時の指示情報を適時に示し、論理制御モジュール4が緊急事態勧告を示し、 緊急指令員が手動で関与し最終的な緊急事態を決定するとともに対外的に公表する(人間系からの異常通報指示に基づいて関係機関に異常通報する)原子力発電所緊急事態補助判断システム(原子力プラント監視支援システム)。」 (2)甲2、甲3は、緊急時活動レベルの各項目をマトリックス状に表示する表示装置が周知技術であることを示す証拠として、特許異議申立人が提出したものである。 (3)甲4?甲6は、人間系から異常通知要因の表示要求があった場合に異常通知要因を表示することが周知技術であることを示す証拠として、特許異議申立人が提出したものである。 (4)甲7は、人間系からの異常通知判断に基づいて緊急時活動レベルの項目、異常通知要因及び通報判断時刻の少なくとも何れかをプラントデータベースに記録することが周知技術であることを示す証拠として、特許異議申立人が提出したものである。 (5)甲8は、プラントデータが予め定められた閾値を逸脱する可能性があるか否かを判定して通知する構成が公知であることを示す証拠として、特許異議申立人が提出したものである。 (6)甲9は、異常通知に併せて異常通知要因も表示する構成が公知であることを示す証拠として、特許異議申立人が提出したものである。 (7)甲10は、信号処理装置と訓練サーバに切替可能に接続されているプラント監視サーバが公知であることを示す証拠として、特許異議申立人が提出したものである。 5 当審の判断 (1)請求項1に係る発明について 請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「緊急時活動レベル(EAL)」は本件発明の「緊急時活動レベル」に相当し、同様に、「緊急時活動レベル(EAL)の各EALパラメータ」は「緊急時活動レベルの各項目」に相当する。 また、引用発明1の「緊急時活動レベル(EAL)の各EALパラメータについて論理判断プロセスに入る緊急時活動レベル(EAL)をトリガする条件が備えられたEALモデル1と接続された論理制御モジュール4」は、「緊急時活動レベルの各項目について異常時の対応を行うか否かの判定条件が備えられたプラント監視要素」という点において、本件発明の「緊急時活動レベルの各項目について異常通知を行うか否かの判定条件が保存されたプラント監視サーバ」と共通する。 さらに、引用発明1の「原子力発電所デジタル制御システム6及び原子力発電所環境モニタリングシステム7等のリアルタイムデータ並びに手動データ収集モジュール3からの特定の機器又はシステムの状態変化又は特定の事象のデータ」は本件発明の「各種プラントデータ」に相当する。 さらにまた、引用発明1の「論理制御モジュール4に原子力発電所デジタル制御システム6及び原子力発電所環境モニタリングシステム7等のリアルタイムデータを出力するリアルタイムデータ収集モジュール2と、論理制御モジュール4に特定の機器又はシステムの状態変化又は特定の事象のデータを出力する手動データ収集モジュール3」は、「プラント監視要素に各種プラントデータを出力する信号処理装置」という点において、本件発明の「プラント監視サーバに各種プラントデータを出力する信号処理装置」と共通する。 さらにまた、引用発明1の「論理制御モジュール4に接続され原子力発電所デジタル制御システム6及び原子力発電所環境モニタリングシステム7等のリアルタイムデータ並びに手動データ収集モジュール3からの特定の機器又はシステムの状態変化又は特定の事象のデータを蓄積するEALリアルタイムデータベース8」は、「プラント監視要素に接続され各種プラントデータを蓄積するプラントデータベース」という点において、本件発明の「プラント監視サーバに接続され各種プラントデータを蓄積するプラントデータベース」と共通する。 さらにまた、引用発明1の「EALパラメータの監視、論理判断フロー、論理判断結果、勧告緊急事態等の情報、パラメータ状態、警告指示、緊急事態判断情報等」は、緊急時活動レベルに関する各項目を包含しているといえるので、本件発明の「緊急時活動レベルの各項目」に相当する。 さらにまた、引用発明1の「EALパラメータの監視、論理判断フロー、論理判断結果、勧告緊急事態等の情報、パラメータ状態、警告指示、緊急事態判断情報等を表示する可視化ユーザインタフェース5」は、「緊急時活動レベルの各項目を表示する表示装置」という点において、本件発明の「緊急時活動レベルの各項目をマトリックス状に表示する表示装置」と共通する。 さらにまた、引用発明1の「最終的な緊急事態と決定された内容を対外的に公表する手段」は本件発明の「関係機関に異常と判断された前記緊急時活動レベルの項目を通報する通報装置」に相当する。 さらにまた、引用発明1の「原子力発電所緊急事態補助判断システム」は、それを構成する各要素の共通する各点の限りにおいて、本件発明の「原子力プラント監視支援システム」と共通する。 さらにまた、引用発明1の「論理判断プロセスに入る緊急時活動レベル(EAL)をトリガする条件を各EALパラメータが満足した場合に、論理判断プロセスに入り、論理判断結果、勧告緊急事態等の情報を可視化ユーザインタフェース5に表示するとともにパラメータ閾値条件のトリガ及び緊急事態変化時の指示情報を適時に示し、論理制御モジュール4が緊急事態勧告を示」すことは、「緊急時活動レベルの項目が異常時の対応を行うとの判定条件を満たした場合に、人間系からの異常通知判断の検討用の情報を示」すことという点において、本件発明の「緊急時活動レベルの少なくとも1つの項目が異常通知を行うとの判定条件を満たした場合に、表示装置に表示された当該項目を強調表示することで人間系に異常通知を実施するとともに、人間系から異常通知要因の表示要求があった場合に異常通知要因を表示し、人間系からの異常通知判断に基づいて緊急時活動レベルの項目、異常通知要因及び通報判断時刻の少なくとも何れかを前記プラントデータベースに記録」することと共通する。 さらにまた、引用発明1の「緊急指令員が手動で関与し最終的な緊急事態を決定するとともに対外的に公表する」ことは本件発明の「人間系からの異常通報指示に基づいて関係機関に異常通報する」ことに相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明1とは、以下の点で一致し、又、相違するものと認められる。 <一致点> 「緊急時活動レベルの各項目について異常時の対応を行うか否かの判定条件が備えられたプラント監視要素と、前記プラント監視要素に各種プラントデータを出力する信号処理装置と、前記プラント監視要素に接続され前記各種プラントデータを蓄積するプラントデータベースと、前記緊急時活動レベルの各項目を表示する表示装置と、関係機関に異常と判断された前記緊急時活動レベルの項目を通報する通報装置と、を備えた原子力プラント監視支援システムであって、 前記プラント監視要素は、 緊急時活動レベルの項目が異常時の対応を行うとの判定条件を満たした場合に、人間系からの異常通知判断の検討用の情報を示し、 人間系からの異常通報指示に基づいて関係機関に異常通報する原子力プラント監視支援システム。」 <相違点> 原子力プラント監視支援システムが異常時の対応を行うにあたり、原子力プラント監視支援システムが備える「緊急時活動レベルの各項目について異常時の対応を行うか否かの判定条件が備えられたプラント監視要素」と「緊急時活動レベルの各項目を表示する表示装置」と人間系からの入力装置について、本件発明は「『(人間系に)異常通知を行うか否か』の判定条件が保存されたプラント監視『サーバ』」と緊急時活動レベルの各項目を「『マトリックス状に』表示する表示装置」と「人間系の(異常通知要因の表示)要求又は(異常通知)判断結果の少なくとも一方が入力される入力装置」を備えるのに対し、引用発明1は「『論理判断プロセスに入る緊急時活動レベル(EAL)をトリガする』条件が備えられた『EALモデル1と接続された』論理制御『モジュール』4」を備え、緊急時活動レベルの各項目を「表示する可視化ユーザインタフェース5」は本件発明の「マトリックス状に」のような特定がなく本件発明のような機能を持った入力装置を備えておらず、また、「プラント監視要素」が「緊急時活動レベルの項目が異常時の対応を行うとの判定条件を満たした場合に、人間系からの異常通知判断の検討用の情報を示」すにあたり、本件発明では「プラント監視サーバ」が「緊急時活動レベルの少なくとも1つの項目が異常通知を行うとの判定条件を満たした場合に、表示装置に表示された当該項目を強調表示することで人間系に異常通知を実施するとともに、人間系から異常通知要因の表示要求があった場合に異常通知要因を表示し、人間系からの異常通知判断に基づいて緊急時活動レベルの項目、異常通知要因及び通報判断時刻の少なくとも何れかを前記プラントデータベースに記録」するのに対し、引用発明1では「論理判断プロセスに入る緊急時活動レベル(EAL)をトリガする条件を各EALパラメータが満足した場合に、論理判断プロセスに入り、論理判断結果、勧告緊急事態等の情報を可視化ユーザインタフェース5に表示するとともにパラメータ閾値条件のトリガ及び緊急事態変化時の指示情報を適時に示し、論理制御モジュール4が緊急事態勧告を示」するように構成している点。 上記相違点について検討する。 「プラント監視要素」が「緊急時活動レベルの項目が異常時の対応を行うとの判定条件を満たした場合に、人間系からの異常通知判断の検討用の情報を示して人間系が異常通知判断及び異常通報指示を行うにあたり、本件発明は、「プラント監視サーバ」が「マトリックス状に表示する表示装置」に異常通知を行うとの判定条件を満たした項目を「強調表示」することで「人間系に異常通知を実施」するとともに人間系からの「入力装置」を通じた「異常通知要因の表示要求」による「異常通知要因」の表示情報を人間系が総合的に検討して「異常通知判断」を行い「異常通報指示」に至るように、「異常通知判断」を、「緊急時活動レベルの各項目」についての表示情報から「人間系」が全ての段階において関与することを前提としているのに対して、引用発明1は、緊急事態補助判断を「論理制御モジュール4」が行って緊急事態勧告を示し、緊急指令員は最終的に緊急事態を決定する段階にのみ関与するものであって、「論理制御モジュール4」が論理判断プロセスにおいて判断を段階的に遂行して最終的な判断結果を導出し、「論理制御モジュール4」から示された緊急事態勧告を受けて、緊急指令員が最終的な緊急事態を決定するものである。 これについて、甲1の段落【0005】に「現在のところ、緊急事態についての判断は、大部分が人間による判断に依存しており、一組のシステムによる補助判断方法がない。本願はまさに、このような背景に基づいて行われた開発設計である。」と記載されており、引用発明1が人間系による判断への依存を極力減らすことを指向しているものであることが理解できる。 そうすると、引用発明1では、本件発明のように論理判断プロセスの各段階を人間系の関与のもとに行うことを想定しないものであるところ、甲2?7によって、仮に上記4(2)?(4)のように緊急時活動レベルの各項目をマトリクス状に表示することや人間系からの要求で異常通知要因を表示すること等が周知技術であるとしても、引用発明1のような人間系の関与を極力減らす前提において、当該周知技術を採用することについては記載も示唆もされていない以上、これら甲2?7に記載された事項を引用発明1に組み合わせて、本件発明の上記相違点に係る特定事項のように「異常通知判断」を「緊急時活動レベルの各項目」についての表示情報から「人間系」が各段階の全てに関与することを前提としたもののように構成することは、引用発明1の思想に逆行し、その機能を損なうものであるから、当業者が容易に想到することができたものということはできない。 また、甲8?10についてみても、甲8?10によって、仮に上記4(5)?(7)の各事項が公知であるとしても、引用発明1のような人間系の関与を極力減らす前提において、該各事項を採用することについては記載も示唆もされていない以上、甲2?7と同様に、これら甲8?10に記載された事項を引用発明1に組み合わせて、本件発明の上記相違点に係る特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到することができたものということはできない。 したがって、本件発明は、当業者であっても、引用発明1及び甲2?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)請求項2?7に係る発明について 請求項2?7に係る発明は、本件発明を引用するものであって、本件発明のすべての発明特定事項を含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明が引用発明1及び甲2?10に記載された事項に基き、当業者が容易に想到することができたものということはできないから、請求項2?7に係る発明についても同様に、引用発明1及び甲2?10に記載された事項に基き、当業者が容易に想到することができたものということはできない。 以上のとおり、請求項1?7に係る発明は、引用発明1及び甲2?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-01-18 |
出願番号 | 特願2015-144574(P2015-144574) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G05B)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大野 明良、田村 耕作 |
特許庁審判長 |
見目 省二 |
特許庁審判官 |
河端 賢 田々井 正吾 |
登録日 | 2019-12-20 |
登録番号 | 特許第6633313号(P6633313) |
権利者 | 株式会社東芝 東芝エネルギーシステムズ株式会社 |
発明の名称 | 原子力プラント監視支援システム |
代理人 | 鹿股 俊雄 |
代理人 | 鹿股 俊雄 |