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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01F
管理番号 1370899
異議申立番号 異議2020-700696  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-14 
確定日 2021-02-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6685054号発明「懸濁体の製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6685054号の請求項1?11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6685054号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2018年(平成30年) 8月29日(優先権主張 平成29年12月26日)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 4月 2日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月22日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年 9月14日付けで、特許異議申立人 荻原 星治(以下、「申立人」という。)により甲第1?8号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の材料を混ぜ合わせて懸濁体を製造する製造装置であって、
前記材料を収納する容器と、
前記容器内に回転可能に配置される第1羽根と、
前記第1羽根を囲むように回転可能に配置される第2羽根と、を備え、
前記第2羽根は、前記容器の半径方向に所定の幅を有し、上下方向に延びる鉛直羽根部と、前記鉛直羽根部の下端部に一端部が結合され、他端部が半径方向内方に延びる水平羽根部と、を備え、前記鉛直羽根部と前記容器の内側面との間に、所定のクリアランスを有し、
さらに、前記第1羽根を回転させる第1回転手段と、前記第2羽根を回転させる第2回転手段と、前記第1羽根を前記第2羽根よりも高速で回転させる回転駆動制御手段とを有し、
前記回転駆動制御手段は、前記材料を混ぜ合わせる場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを逆方向に回転させ、当該第1羽根が前記容器内の下方への流れを生じさせ、前記材料を脱気する場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを同一方向に回転させ、前記第1羽根が前記容器の上方への流れを生じさせ、さらに、前記第1羽根を600?1800rpmの範囲で回転させ、前記第2羽根を3?20rpmの範囲で回転させるものである、
ことを特徴とする、懸濁体の製造装置。
【請求項2】
前記第2羽根は、
上部中央に、装置に取り付けるための取付部と、
前記取付部と前記鉛直羽根部とをつなぐ前記容器の半径方向にのびる接続部と、を備える、
請求項1に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項3】
前記第2羽根は、
前記接続部、前記鉛直羽根部、前記水平羽根部が、一対に構成され、
一対の前記接続部、前記鉛直羽根部、前記水平羽根部は、前記取付部を対象に配されている、
請求項2に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項4】
一対の前記接続部は、前記取付部を対象にして、それぞれ前記容器の半径方向にまっすぐのび、
前記接続部と前記鉛直羽根部とが滑らかにつながる、
請求項3に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項5】
前記第2羽根は、
一対の前記接続部、前記鉛直羽根部、前記水平羽根部を、2組備え、
各前記接続部、前記鉛直羽根部、前記水平羽根部が、前記取付部を中心に90度ずらして配されている、
請求項3又は4に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項6】
前記第2羽根は、前記水平羽根部が、前記鉛直羽根部に対し傾斜する傾斜面を有する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項7】
前記第2羽根は、前記水平羽根部が中央部に開口を有する、
請求項6に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項8】
前記第2羽根の前記水平羽根部は、前記容器内において、材料に上方への流れを生じさせるものである、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項9】
前記第1羽根は、前記容器の鉛直方向に対し傾斜する傾斜面を有する、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項10】
前記第1羽根は、前記容器内において、材料に上方または下方への流れを生じさせるものである、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の懸濁体の製造装置。
【請求項11】
前記クリアランスが、2?100mmである、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の懸濁体の製造装置。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 各甲号証
甲第1号証:実公平4-22822号公報
甲第2号証:特開2014-223581号公報
甲第3号証:「同芯二軸DESPA CONCENTRIC TWIN DESPA MC-20・MC-50・MC-60・MC?75」のリーフレット,淺田鉄工株式会社,2005年12月
甲第4号証:実願昭63-107091号(実開平2-29637号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特開2015-139713号公報
甲第6号証:「混合・混練・攪拌 ミキサーシリーズ PLM/WHS/CHS/HS/RSV/MRS」のカタログ,アシザワ・ファインテック株式会社,2010年
甲第7号証:米国特許第4854720号明細書
甲第8号証:特開2014-144447号公報

2 特許法第29条第2項(進歩性)について
本件発明1?4、11は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された本件特許の優先日の当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明5は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、4、5号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された本件特許の優先日の当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明6は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、4、5号証に記載された事項及び甲第3、6号証に記載された本件特許の優先日の当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明7は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、7号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された本件特許の優先日の当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明8は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、7号証に記載された事項及び甲第3、6号証に記載された本件特許の優先日の当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明9?10は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、8号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された本件特許の優先日の時点の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件発明1は、「前記材料を混ぜ合わせる場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを逆方向に回転させ、当該第1羽根が前記容器内の下方への流れを生じさせ、前記材料を脱気する場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを同一方向に回転させ、前記第1羽根が前記容器の上方への流れを生じさせ」る、との発明特定事項を有するものである。
一方、本件特許明細書の【0045】によれば、本件発明における第2羽根は常時上向きの流れを生じさせ、第1羽根4を選択的に逆方向または同一方向に回転させるが、この場合、図1において製造装置を平面視すると第2羽根は常時時計回りに回転し、この状態において第1羽根を逆方向(反時計方向)に回転すると上方への流れを生じ、同一方向(時計方向)に回転すると下方への流れを生じるから、本件発明1の前記発明特定事項を実施できない。
同様に、図2-4の構成において、第2羽根は常時反時計回り回転し、この場合、第1羽根を逆方向(時計方向)に回転すると下方への流れを生じ、同一方向(反時計方向)に回転すると上方への流れを生じるから、本件発明1の前記発明特定事項を実施できない。
したがって、本件発明1は特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、本件発明2?11も同様に特許法第36条第4項第1号の規定に適合しない。

第4 当審の判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)各甲号証の記載事項
(1-1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には以下(1a)?(1c)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。)。
(1a)「攪拌槽本体1の上部に設けた軸受4,5により回転筒6を回転自在に軸支し、該回転筒6内に下部に攪拌体17を有する中心軸10を回転自在に軸支しかつ該攪拌槽本体1内に存する回転筒6の下部に上記中心軸の攪拌体17の外側に位置し上記攪拌槽本体1の内壁に密接する攪拌体18を設け、上記回転筒6の軸受4,5間に低速用モータにより駆動される伝導車7を設けると共に該回転筒6の上端から突出する上記中心軸10に高速用モータにより駆動される伝導車14を設けた同芯2軸ミキサー。」(実用新案登録請求の範囲)

(1b)「図において、攪拌槽本体1の上部には、ベアリングボツクス2,3を設け、該ボツクス内に設けた軸受4,5により回転筒6を回転自在に軸支している。該回転筒6は、中間部にスプロケツトやプーリ等の伝導車7を固着してあり、チエーン、ベルト等の無端帯8を介し、図において低速用モータ9により低速回転する。
上記回転筒6の内部には中心軸10を貫挿してあり、該回転筒内に設けた軸受11,12により回転自在に軸支している。…該中心軸10は、先部にスプロケツトやプーリ等の伝導車14を固定してあり、チエーン、ベルト等の無端帯15を介し、図において高速用モータ16により高速回転する。
上記中心軸10の下部にはタービンブレード等の高速用攪拌体17を設けてあり、また上記回転筒6の下部には上記攪拌体17の外側に位置する低速用の攪拌体18をキー19により取付けてある。なお、図において、低速用の攪拌体18は槽壁に近接する枠型のブレードを用いているが、第3図のようにスパイラルリボンを用いたり、第4図のように適宜の突起19を設けたり、種々用途に応じた攪拌体を用いることができる。

而して、上記各モータ9,16を始動すれば、上記中心軸10及び回転筒6はそれぞれ別々に駆動され、中心軸に設けた高速用攪拌体17及び上記回転筒に設けた低速用攪拌体18により流動性の悪い材料も効率よくミキシングすることができる。なお、従来の偏芯2軸ミキサーでは、材料に応じて、先ず高速軸を回転してから低速軸を回転して運転を始め、停止する場合は低速軸を停止してから高速軸を停止させなければ高速軸の軸が曲つてしまうことがあつたが、本考案のものでは同芯に2軸を設けてあるから、そのような制限なく運転することができる。

上記回転筒、中心軸は、同方向に回転させたり、逆方向に回転させたり、図に示す場合とは逆に各軸が高速、低速回転するようにすることもできる。」(1頁右欄8行?2頁右欄3行)

(1c)「



(イ)前記(ア)(1a)?(1c)によれば、甲第1号証には「同芯2軸ミキサー」が記載されており、当該「同芯2軸ミキサー」は、攪拌槽本体の上部に設けた軸受により回転筒を回転自在に軸支し、該回転筒内に下部に攪拌体を有する中心軸を回転自在に軸支しかつ該攪拌槽本体内に存する回転筒の下部に前記中心軸の攪拌体の外側に位置し前記攪拌槽本体の内壁に密接する攪拌体を設け、前記回転筒の軸受間に低速用モータにより駆動される伝導車を設けると共に該回転筒の上端から突出する前記中心軸に高速用モータにより駆動される伝導車を設けたものである。
具体的には、前記「同芯2軸ミキサー」は、攪拌槽本体の上部にベアリングボツクスを設け、該ボツクス内に設けた軸受により回転筒を回転自在に軸支し、該回転筒は、中間部にスプロケツトやプーリ等の伝導車を固着してあり、チエーン、ベルト等の無端帯を介し、低速用モータにより低速回転するものであり、前記回転筒の内部には中心軸を貫挿してあり、該回転筒内に設けた軸受により回転自在に軸支し、該中心軸は、先部にスプロケツトやプーリ等の伝導車を固定してあり、チエーン、ベルト等の無端帯を介し、高速用モータにより高速回転するものであり、前記中心軸の下部にはタービンブレード等の高速用攪拌体を設けてあり、また前記回転筒の下部には前記攪拌体の外側に位置する低速用の攪拌体をキーにより取付けてあり、低速用の攪拌体は槽壁に近接する枠型のブレードを用いるものである。
そして、前記各モータを始動すれば、前記中心軸及び回転筒はそれぞれ別々に駆動され、中心軸に設けた高速用攪拌体及び前記回転筒に設けた低速用攪拌体により流動性の悪い材料も効率よくミキシングすることができるものであり、前記回転筒、中心軸は、同方向に回転させたり、逆方向に回転させたり、各軸が逆に高速、低速回転するようにすることもできるものである。

(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、
「攪拌槽本体の上部に設けた軸受により回転筒を回転自在に軸支し、該回転筒内に下部に攪拌体を有する中心軸を回転自在に軸支しかつ該攪拌槽本体内に存する回転筒の下部に前記中心軸の攪拌体の外側に位置し前記攪拌槽本体の内壁に密接する攪拌体を設け、前記回転筒の軸受間に低速用モータにより駆動される伝導車を設けると共に該回転筒の上端から突出する前記中心軸に高速用モータにより駆動される伝導車を設けた同芯2軸ミキサーであって、
攪拌槽本体の上部にベアリングボツクスを設け、該ボツクス内に設けた軸受により回転筒を回転自在に軸支し、該回転筒は、中間部にスプロケツトやプーリ等の伝導車を固着してあり、チエーン、ベルト等の無端帯を介し、低速用モータにより低速回転するものであり、前記回転筒の内部には中心軸を貫挿してあり、該回転筒内に設けた軸受により回転自在に軸支し、該中心軸は、先部にスプロケツトやプーリ等の伝導車を固定してあり、チエーン、ベルト等の無端帯を介し、高速用モータにより高速回転するものであり、前記中心軸の下部にはタービンブレード等の高速用攪拌体を設けてあり、また前記回転筒の下部には前記攪拌体の外側に位置する低速用の攪拌体をキーにより取付けてあり、低速用の攪拌体は槽壁に近接する枠型のブレードを用いるものであり、
前記各モータを始動すれば、前記中心軸及び回転筒はそれぞれ別々に駆動され、中心軸に設けた高速用攪拌体及び前記回転筒に設けた低速用攪拌体により流動性の悪い材料も効率よくミキシングすることができるものであり、前記回転筒、中心軸は、同方向に回転させたり、逆方向に回転させたり、各軸が逆に高速、低速回転するようにすることもできる、同芯2軸ミキサー。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(1-2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下(2a)?(2d)の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の翼本体に上方に開口する切り込みスリットを設けタンクの中央で低速で回転する切込み平板大型翼と、該切込み平板大型翼の周囲を囲みタンクの側壁内面に沿って低速で回転する枠型翼と、上記切込み平板大型翼の上方に同芯に設けられ下方に向かう掻き下げ軸方向流を発生する傾斜パドル翼を具備し、上記枠型翼と切込み平板大型翼と傾斜パドル型翼によりタンク内で全体流を発生させるとともにタンク内に上部から下部に向かう軸方向流を生じさせるようにしたことを特徴とする低剪断型同芯2軸ミキサー」

(2b)「【0008】
本発明の解決課題は、上記のように、熱に対して準安定な水系バインダーを用いてリチウムイオン二次電池等の電極用の活物質ペースト、特に水系負極ペーストを製造するとき、負極活物質に混合する水系バインダーの量を少量の添加量で済ませることができ、かつ変質させることなく低剪断力で均質かつソフトに撹拌、混練、分散できるようにした低剪断型同芯2軸ミキサーを提供することである。」

(2c)「【0016】
本発明は、上記のようにリチウムイオン二次電池の水系負極ペーストの製造に好適に使用されるが、低剪断作用で撹拌、混練、分散等することが要求される化学、医薬、電子、セラミックス、食品、飼料その他の分野の処理材料の処理に使用することもできる。図1は、本発明の一実施例を示し、ベアリングケース1とタンク(撹拌槽)2は、タンク2の上方の開口部を開閉できるよういずれか一方側が上下動可能に設けられており、図に示す状態は、タンク2の開口部がフード3で閉鎖された状態を示し、タンクの周囲には冷却ジャケットが設けられている。
【0017】
上記ベアリングケース1には、外方駆動軸4と内方駆動軸5が同芯状態に設けられており、それぞれの駆動軸は図示を省略したモーター等の駆動源により個別に回転され、同方向に回転させたり、異方向に回転させたり、回転速度を変えたり、種々に駆動することができる。上記外方駆動軸4には、タンク2の側壁内面に沿って低速で回転する低剪断用の枠型翼6が設けられている。該枠型翼6は、斜行部材7と、その下端からタンク側壁内面に近接して下方に延びる縦部材8と、縦部材8の下端を連結しタンクの底面に沿って延びる底部材9で構成されている。該縦部材8はタンク内側面に付着する処理材料を掻き落とすことができるよう断面略三角形に形成してあるが、邪魔板効果を強調するよう板状に形成したり、適宜の断面形状に形成することができる。上記水系バインダーの混練処理をする際、高剪断力を生じないようこの枠型翼6の回転速度は、約1.0?2.0m/sec程度にするのが好ましい。…
【0018】
上記内方駆動軸5は、タンク2の中央部で下方に向かって延出しており、下端には、タンク内で円周方向流を発生させるよう低速で回転する切込み平板大型翼10が設けられている。該切込み平板大型翼10は、上記枠型翼6に周囲を囲まれる程度の大型の平板状の翼本体11を有し、その上部に間隔をあけて上方が開口する切込みスリット12を有している。該切込み平板大型翼10は、図に示す実施例では、中央に上記内方駆動軸5を挿通する開口部13を設けて連結部材14で上記翼本体11に連結し、該開口部13から外方に向かって間隔をあけて縦溝状の開口部を形成して複数の切込みスリット12としてあるが、この切込みの形状、数は適宜に形成することもできる(図示略)。該切込み平板大型翼の回転速度は、約1.0?2.0m/sec程度にするのが好ましい。…
【0019】
上記枠型翼6と切込み平板大型翼10は、同方向に回転するが、逆方向に回転させることもできる。逆方向に回転させると、撹拌時に真空脱泡を必要とする場合に、撹拌により液面を更新することができるので、脱泡効果を高めることができる。
【0020】
上記切込み平板大型翼10の上方の内方駆動軸5には、下方に向かう軸方向流を発生する傾斜パドル型翼15が設けられている。該傾斜パドル型翼15は、翼上部から流体を吸い込んで軸方向に吐出させることができるように板面を適宜角度に傾斜させてあり、軸流型の傾斜パドル型翼となっている。この傾斜パドル型翼によれば、すべて軸流になりきらずに半径方向の放射流(半径方向流)と円周方向の旋回流(円周方向流)が合成された軸方向の斜流となり、この傾斜角度により変化する。この傾斜角度は、上記切込み平板大型翼と同速度で回転した際確実に軸方向流を発生させることが必要であり、好ましくは約30?60°に形成されている。…
【0021】
上記低速剪断用の枠型翼6は、タンク2の内壁との間隙が、約2?10mmに設けられており、その回転速度は翼径により決定される。また、枠型翼6の内面と切込み平板大型翼10の外面間の間隙Sは、約20?50mmが好ましい。両撹拌翼ともに上述したように回転速度が低速であるから、間隙Sを20mm未満にすると材料が共回りする現象が発生し、均一に処理することができなくなる。間隙Sが50mmを超えると、切込み平板大型翼10により発生する円周方向流を、枠型翼6によって軸方向流、半径方向流に変化させるとういう循環流を繰り返して発生させることができなくなり、タンク内の全体流の発生が妨げられるからである。」

(2d)「



(1-3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には以下(3a)の記載がある
(ア)(3a)「



(イ)前記(ア)(3a)によれば、甲第3号証には、同芯二軸DESPAにおいて、回転数が高速側と低速側で異なる2つの動力を有すること、攪拌量が3000(l)の型式MC-60の回転数を高速側で900(rpm)、低速側で10(rpm)とすることが記載されているといえる。

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「同芯2軸ミキサー」は、本件発明1における「複数の材料を混ぜ合わせて懸濁体を製造する製造装置」に相当し、甲1発明における「撹拌槽本体」、「高速用撹拌体」、「低速用攪拌体」は、それぞれ、本件発明1における「前記材料を収納する容器」、「前記容器内に回転可能に配置される第1羽根」、「前記第1羽根を囲むように回転可能に配置される第2羽根」に相当する。
また、甲1発明における「高速用モータ」及び「低速用モータ」は、それぞれ、本件発明1における「前記第1羽根を回転させる第1回転手段」及び「前記第2羽根を回転させる第2回転手段」に相当し、甲1発明において、「高速用攪拌体」が高速用モータにより高速回転し、「低速用攪拌体」は、低速用モータにより低速回転することは、本件発明1において、「前記第1羽根を前記第2羽根よりも高速で回転させる」ことに相当する。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「複数の材料を混ぜ合わせて懸濁体を製造する製造装置であって、
前記材料を収納する容器と、
前記容器内に回転可能に配置される第1羽根と、
前記第1羽根を囲むように回転可能に配置される第2羽根と、を備え、
さらに、前記第1羽根を回転させる第1回転手段と、前記第2羽根を回転させる第2回転手段と、前記第1羽根を前記第2羽根よりも高速で回転させる、
懸濁体の製造装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、「懸濁体の製造装置」が、「前記第2羽根は、前記容器の半径方向に所定の幅を有し、上下方向に延びる鉛直羽根部と、前記鉛直羽根部の下端部に一端部が結合され、他端部が半径方向内方に延びる水平羽根部と、を備え、前記鉛直羽根部と前記容器の内側面との間に、所定のクリアランスを有」する、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。

相違点2:本件発明1は、「懸濁体の製造装置」が、「前記第1羽根を回転させる第1回転手段と、前記第2羽根を回転させる第2回転手段と、前記第1羽根を前記第2羽根よりも高速で回転させる回転駆動制御手段」を「有し、前記回転駆動制御手段は、前記材料を混ぜ合わせる場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを逆方向に回転させ、当該第1羽根が前記容器内の下方への流れを生じさせ、前記材料を脱気する場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを同一方向に回転させ、前記第1羽根が前記容器の上方への流れを生じさせ、さらに、前記第1羽根を600?1800rpmの範囲で回転させ、前記第2羽根を3?20rpmの範囲で回転させるものである」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、まず、前記ア(イ)の相違点2から検討すると、前記(1)(1-2)(2a)?(2d)によれば、甲第2号証には、平板状の翼本体に上方に開口する切り込みスリットを設けタンクの中央で低速で回転する切込み平板大型翼と、該切込み平板大型翼の周囲を囲みタンクの側壁内面に沿って低速で回転する枠型翼と、前記切込み平板大型翼の上方に同芯に設けられ下方に向かう掻き下げ軸方向流を発生する傾斜パドル翼を具備し、前記枠型翼と切込み平板大型翼と傾斜パドル型翼によりタンク内で全体流を発生させるとともにタンク内に上部から下部に向かう軸方向流を生じさせるようにした「低剪断型同芯2軸ミキサー」が記載されている。
具体的には、前記「低剪断型同芯2軸ミキサー」は、リチウムイオン二次電池の水系負極ペーストの製造に好適に使用されるものであって、前記「低剪断型同芯2軸ミキサー」においては、ベアリングケースとタンク(撹拌槽)が、タンクの上方の開口部を開閉できるよういずれか一方側が上下動可能に設けられており、ベアリングケースには、外方駆動軸と内方駆動軸が同芯状態に設けられており、それぞれの駆動軸は駆動源により個別に回転され、同方向に回転させたり、異方向に回転させたり、回転速度を変えたり、種々に駆動することができるものであり、外方駆動軸には、タンクの側壁内面に沿って低速で回転する低剪断用の枠型翼が設けられ、水系バインダーの混練処理をする際、高剪断力を生じないようこの枠型翼の回転速度は、約1.0?2.0m/sec程度にするのが好ましいものであり、前記内方駆動軸は、タンクの中央部で下方に向かって延出しており、下端には、タンク内で円周方向流を発生させるよう低速で回転する切込み平板大型翼が設けられており、該切込み平板大型翼は、枠型翼に周囲を囲まれる程度の大型の平板状の翼本体を有し、その上部に間隔をあけて上方が開口する切込みスリットを有しているものであり、該切込み平板大型翼の回転速度は、約1.0?2.0m/sec程度にするのが好ましいものであり、枠型翼と切込み平板大型翼は、同方向に回転するが、逆方向に回転させることもでき、逆方向に回転させると、撹拌時に真空脱泡を必要とする場合に、撹拌により液面を更新することができるので、脱泡効果を高めることができるものであり、切込み平板大型翼の上方の内方駆動軸には、下方に向かう軸方向流を発生する傾斜パドル型翼が設けられていて、該傾斜パドル型翼は、翼上部から流体を吸い込んで軸方向に吐出させることができるように板面を適宜角度に傾斜させてあり、軸流型の傾斜パドル型翼となっているものであり、この傾斜パドル型翼によれば、すべて軸流になりきらずに半径方向の放射流(半径方向流)と円周方向の旋回流(円周方向流)が合成された軸方向の斜流となり、この傾斜角度により変化するものであり、この傾斜角度は、前記切込み平板大型翼と同速度で回転した際確実に軸方向流を発生させることが必要であり、好ましくは約30?60°に形成されているものである。
また、前記低速剪断用の枠型翼は、タンク内壁との間隙が約2?10mmに設けられており、その回転速度は翼径により決定され、枠型翼の内面と切込み平板大型翼の外面間の間隙は約20?50mmが好ましく、両撹拌翼共に回転速度が低速であるから、間隙を20mm未満にすると材料が共回りする現象が発生し、均一に処理することができなくなるものであり、間隙が50mmを超えると、切込み平板大型翼により発生する円周方向流を、枠型翼によって軸方向流、半径方向流に変化させるという循環流を繰り返して発生させることができなくなり、タンク内の全体流の発生が妨げられるものである。
そして、前記「低剪断型同芯2軸ミキサー」は、いずれも回転速度が低速である枠型翼、切込み平板大型翼及び傾斜パドル型翼により、熱に対して準安定な水系バインダーを用いてリチウムイオン二次電池等の電極用の活物質ペースト、特に水系負極ペーストを製造するとき、負極活物質に混合する水系バインダーの量を少量の添加量で済ませることができ、かつ変質させることなく低剪断力で均質かつソフトに撹拌、混練、分散できるものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲第2号証に記載される「低剪断型同芯2軸ミキサー」は、複数の材料を混ぜ合わせて懸濁体を製造する「懸濁体の製造装置」といえ、前記「低剪断型同芯2軸ミキサー」の「タンク(撹拌槽)」、「傾斜パドル型翼」、「枠型翼」は、それぞれ、「材料を収容する容器」、「前記容器内に回転可能に配置される第1羽根」、「前記第1羽根を囲むように回転可能に配置される第2羽根」といえるものである。
また、前記「第2羽根」は、低速で回転するものであって、その回転速度は約1.0?2.0m/sec程度にするのが好ましいものであり、前記「第1羽根」は、「切込み平板大型翼」の回転速度である約1.0?2.0m/sec程度と同速度で回転するものであり、これらはいずれも回転速度が低速であるものである。
そして、前記「懸濁体の製造装置」は、いずれも回転速度が約1.0?2.0m/sec程度の低速である「第1羽根」、「切込み平板大型翼」及び「第2羽根」により、熱に対して準安定な水系バインダーを用いてリチウムイオン二次電池等の電極用の活物質ペースト、特に水系負極ペーストを製造するとき、負極活物質に混合する水系バインダーの量を少量の添加量で済ませることができ、かつ変質させることなく低剪断力で均質かつソフトに撹拌、混練、分散できるものである。
そうすると、甲第2号証には、「懸濁体の製造装置」において、「材料を収容する容器」、「前記容器内に回転可能に配置される第1羽根」、「前記第1羽根を囲むように回転可能に配置される第2羽根」を備え、前記「第2羽根」の回転速度を約1.0?2.0m/sec程度の低速とし、前記「第1羽根」の回転速度を、前記「切込み平板大型翼」と共に約1.0?2.0m/sec程度の低速とすることで、熱に対して準安定な水系バインダーを用いてリチウムイオン二次電池等の電極用の活物質ペースト、特に水系負極ペーストを製造するとき、負極活物質に混合する水系バインダーの量を少量の添加量で済ませることができ、かつ変質させることなく低剪断力で均質かつソフトに撹拌、混練、分散できることが開示されているといえ、そのような「懸濁体の製造装置」において、「第1羽根」を「切込み平板大型翼」と共に600?1800rpmの高速で回転させ、「第2羽根」を3?20rpmの低速で回転させることは、そもそも想定されない。

(ウ)すると、前記(1)(1-3)(イ)から、甲第3号証に、同芯二軸DESPAにおいて、回転数が高速側と低速側で異なる2つの動力を有すること、攪拌量が3000(l)の型式MC-60の回転数を高速側で900(rpm)、低速側で10(rpm)とすることが記載されているとしても、甲1発明に甲第2号証に記載された「第1羽根」、「第2羽根」及び「切込み平板大型翼」を適用する動機付けは存在しないし、仮に、甲1発明に甲第2号証に記載された「第1羽根」、「第2羽根」及び「切込み平板大型翼」を適用したとしても、「第1羽根」を「切込み平板大型翼」と共に600?1800rpmの範囲で高速回転させ、「第2羽根」を3?20rpmの範囲で低速回転させることはそもそも想定されないから、「前記第1羽根を600?1800rpmの範囲で回転させ、前記第2羽根を3?20rpmの範囲で回転させる」との本件発明1の発明特定事項とするには至らない。

(エ)してみれば、甲1発明において、「懸濁体の製造装置」を、「前記第1羽根を回転させる第1回転手段と、前記第2羽根を回転させる第2回転手段と、前記第1羽根を前記第2羽根よりも高速で回転させる回転駆動制御手段」を「有し、前記回転駆動制御手段は、前記材料を混ぜ合わせる場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを逆方向に回転させ、当該第1羽根が前記容器内の下方への流れを生じさせ、前記材料を脱気する場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを同一方向に回転させ、前記第1羽根が前記容器の上方への流れを生じさせ、さらに、前記第1羽根を600?1800rpmの範囲で回転させ、前記第2羽根を3?20rpmの範囲で回転させるものである」との前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を甲1発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)本件発明2?11について
(ア)本件発明2?11は、いずれも、直接的または間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2?11のいずれかと甲1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点2の点で相違する。

(イ)そして、前記甲第3号証の記載事項に関わらず、甲1発明に甲第2号証に記載された「懸濁体の製造装置」の「第1羽根」、「第2羽根」及び「切込み平板大型翼」を適用する動機付けは存在しないし、仮に適用したとしても、本件発明1の発明特定事項とするには至らないことは、前記(2-1)イ(ウ)に記載のとおりであって、このことは、甲第4号証?甲第8号証に記載された事項及び本件特許の優先日の当時の周知技術に左右されるものでもない。

(ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2?11は、甲1発明と、甲第2?8号証に記載された事項及び本件特許の優先日の当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるので、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)本件発明1の、「前記材料を混ぜ合わせる場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを逆方向に回転させ、当該第1羽根が前記容器内の下方への流れを生じさせ、前記材料を脱気する場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを同一方向に回転させ、前記第1羽根が前記容器の上方への流れを生じさせ」る、との発明特定事項は、本件発明1に係る「懸濁体の製造装置」において、材料を混ぜ合わせる場合は、第1羽根と第2羽根とを逆方向に回転させることで、当該第1羽根が容器内の下方への流れを生じさせ、前記材料を脱気する場合は、前記第1羽根と前記第2羽根とを同一方向に回転させることで、前記第1羽根が前記容器の上方への流れを生じさせる、複数の態様を含むものと認められる。

(イ)一方、本件特許明細書及び図面には、以下(a)?(e)の記載がある。
(a)「【0008】

そして、第2羽根の水平羽根部が容器内の材料に対して上方向の流れを生じさせ、第1羽根がこれと逆方向の下方向への流れを生じさせた場合には、材料同士がぶつかり合って、効果的に材料を混ぜ合わせることができる。一方、第1羽根が第2羽根の水平羽根部とともに上方向に流れを生じさせる場合には、容器内の材料に上方向の流れを与え、材料内の空気を効果的に脱気することができる。」

(b)「【0025】
[1.製造装置の構造]
図1は、本発明の一実施形態に係る懸濁体の製造装置の概略構成を示す正面図である。図2は、同斜視図である。図1、図2に示すように、電極懸濁体の製造装置1は、複数の電極材料を収納する容器2と、容器2内の中央において上下方向に延びる回転軸3と、一対の第1羽根4と、第2羽根5と、を主要な構成として備える。
【0026】
一対の第1羽根4は、回転軸3に上下に所定の間隔をあけて配置されている。第2羽根5は、容器2内において一対の第1羽根4のまわりを囲むように配置されている。なお、本実施形態においては、第1羽根4を一対に構成しているが、これに限られず、例えば第1羽根4が1つのみの構成としてもよい。

【0028】
第1羽根4は,4枚の羽根部4Aを有し、各羽根部4Aは、中心の筒状部4Bの外周に周方向に90°間隔で取り付けられ、筒状部4Bの軸線に対し45度傾斜して取り付けられている。なお、羽根部4Aの枚数や傾斜角は本実施形態の一例であり、これに限られない。
【0029】
そして、筒状部4Bには回転軸3が貫通し、筒状部4Bが回転軸に取り付けられている。第1羽根4は、回転軸3の回転方向に応じて、容器2内で電極材料に上下方向の流れを生じさせるとともに、電極材料を容器2の半径方向外方への流れを生じさせる。このような羽根部4Aは、平面視で十字状に配置されている。なお、羽根部4Aの十字状の配置は本実施形態の一例であり、これに限られない。」

(c)「【0033】
第2羽根5は、容器2の半径方向に一定の幅を有し上下方向に延びる2つの鉛直羽根部5Aと、各鉛直羽根部5Aの下端部に一端部が結合され他端部が半径方向内方に延び、電極材料に上方への流れを生じさせる2つの水平羽根部5Bとを有する。つまり、鉛直羽根部5Aや水平羽根部5Bは周方向において180度の等角度間隔で配置され、平面視で一文字状に配置されている(図3参照)。

【0038】
また、図4の側面図に示すように、水平羽根部5Bは、鉛直羽根部5Aに対し略45°傾斜している傾斜板状で、中央部分に開口5Baを有し、電極材料の上方への流れを効率よく生じさせる。なお、水平羽根部5Bの傾斜角は本実施形態の一例であり、これに限られない。また、水平羽根部5Bの下面を下側容器2の内底面とほぼ平行な平坦面とする構成としてもよい。」

【0045】
また、第2羽根5を回転させる第2回転手段12は、容器2内において常時上方向への流れを生じさせる一方、第1羽根4を回転させる第1回転手段11は、電極材料を混ぜ合わせる場合と、脱気する場合とにより、上下方向の流れを選択する。
【0046】
すなわち、電極材料を混ぜ合わせる場合、第1回転手段11は、第1羽根4を第2羽根5の回転方向と逆方向に回転させ、第1羽根4の回転により容器2の下方への流れを生じさせる。
【0047】
一方、電極材料を脱気する場合、第1回転手段11は、第1羽根4を第2羽根5の回転方向と同一方向に回転させ、第1羽根4の回転により容器2の上方への流れを生じさせる。」

(d)「



(e)「



(ウ)前記(イ)(a)?(e)によれば、本件発明においては、第2羽根の水平羽根部が容器内の材料に対して上方向の流れを生じさせ、第1羽根がこれと逆方向の下方向への流れを生じさせた場合には、材料同士がぶつかり合って、効果的に材料を混ぜ合わせることができる一方、第1羽根が第2羽根の水平羽根部とともに上方向に流れを生じさせる場合には、容器内の材料に上方向の流れを与え、材料内の空気を効果的に脱気することができるものであり、具体的には、一対の第1羽根は、回転軸に上下に所定の間隔をあけて配置され、第2羽根は、容器内において一対の第1羽根のまわりを囲むように配置され、第1羽根は、4枚の羽根部を有し、各羽根部は、中心の筒状部の外周に周方向に90°間隔で取り付けられ、筒状部の軸線に対し45度傾斜して取り付けられていて、回転軸の回転方向に応じて、容器内で電極材料に上下方向の流れを生じさせるとともに、電極材料を容器の半径方向外方への流れを生じさせるものであり、第2羽根は、容器の半径方向に一定の幅を有し上下方向に延びる2つの鉛直羽根部と、各鉛直羽根部の下端部に一端部が結合され他端部が半径方向内方に延び、電極材料に上方への流れを生じさせる2つの水平羽根部とを有し、水平羽根部は、鉛直羽根部に対し略45°傾斜している傾斜板状であり、第2羽根を回転させる第2回転手段は、容器内において常時上方向への流れを生じさせる一方、第1羽根を回転させる第1回転手段は、電極材料を混ぜ合わせる場合と、脱気する場合とにより、上下方向の流れを選択するものであり、電極材料を混ぜ合わせる場合、第1回転手段は、第1羽根を第2羽根の回転方向と逆方向に回転させ、第1羽根の回転により容器の下方への流れを生じさせるものであり、一方、電極材料を脱気する場合、第1回転手段は、第1羽根を第2羽根の回転方向と同一方向に回転させ、第1羽根の回転により容器の上方への流れを生じさせるものである。

(エ)そして、前記(ウ)の本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明において、例えば第2羽根が容器内において常時上方への流れを生じさせるものである場合、第1羽根は、第1回転手段が当該第1羽根を第2羽根の回転方向と逆方向に回転させたとき、第2羽根とは逆に、容器の下方への流れを生じさせ、第1羽根を第2羽根の回転方向と同一方向に回転させたとき、第2羽根と同じく、容器の上方への流れを生じさせるものであることを理解するものであり、そのような容器内の流れが、第1羽根及び第2羽根の傾斜方向を同じ方向とすることで得られることは当業者にとって明らかである。
更に、そうでない場合であっても、当業者は、第1羽根及び第2羽根の傾斜方向を選択することで、前記(ア)の発明特定事項を実施できることを理解でき、このことは、本件特許図面に記載される第1羽根及び第2羽根の傾斜方向、回転方向及び流れの方向が、前記(ア)の発明特定事項と合致しないことに左右されるものでもない。

(オ)してみれば、本件特許図面の【図1】?【図4】の構成により、本件発明1の前記(ア)発明特定事項を実施できないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1を実施することができるというべきである。
そして、このことは、本件発明2?11についても同様であるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するというべきである。

(カ)したがって、前記第3の3の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-02-09 
出願番号 特願2018-545669(P2018-545669)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01F)
P 1 651・ 536- Y (B01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
村岡 一磨
登録日 2020-04-02 
登録番号 特許第6685054号(P6685054)
権利者 中村 洋輝
発明の名称 懸濁体の製造装置  
代理人 鳥巣 実  

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