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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1371087
審判番号 不服2020-1204  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-29 
確定日 2021-02-12 
事件の表示 特願2016-108468「加飾合成樹脂成形品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月 7日出願公開、特開2017-213747〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年 5月31日の出願であって、令和 1年 8月13日付けの拒絶理由の通知に対し、令和 1年10月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、令和 1年10月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和 2年 1月29日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 令和 2年 1月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和 2年 1月29日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正における特許請求の範囲の補正は、請求項1についての次の補正事項を含む。(下線部は、補正箇所である。)
「合成樹脂成形体(11)の上面(14)に設定された加飾領域(DR)に、加飾シート体(12)がその表面を露出した状態害で(合議体注:「状態害で」は「状態で」の誤記と解される。)該合成樹脂成形体(11)に埋め込まれている加飾合成樹脂成形品であって、
前記合成樹脂成形体(11)の前記上面(14)とその側面(15)との境界部分には、丸み面取り部(16)が形成され、
前記加飾シート体(12)は、その外周縁(12a)が、前記合成樹脂成形体(11)の、前記上面(14)と丸み面取り部(16)との境界に設けられた始端位置(16a)と前記丸み面取り部(16)と前記側面(15)との境界に設けられた終端位置(16b)との中央に位置した状態で、表面を揃えて前記合成樹脂成形体(11)の表面部に埋め込まれていることを特徴とする加飾合成樹脂成形品。」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、令和 1年10月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲のうち、請求項1の記載は次のとおりである。
「合成樹脂成形体(11)の上面(14)に設定された加飾領域(DR)に、加飾シート体(12)がその表面を露出した状態で該合成樹脂成形体(11)に埋め込まれている加飾合成樹脂成形品であって、
前記合成樹脂成形体(11)の前記上面(14)とその側面(15)との境界部分には、丸み面取り部(16)が形成され、
前記加飾シート体(12)の外周縁(12a)が、前記合成樹脂成形体(11)の、前記上面(14)と丸み面取り部(16)との境界に設けられた始端位置(16a)と前記丸み面取り部(16)と前記側面(15)との境界に設けられた終端位置(16b)との中央に位置していることを特徴とする加飾合成樹脂成形品。」

2 補正の適否
本件補正のうち、請求項1についての補正は、「前記加飾シート体(12)の外周縁(12a)が」との表現を、「前記加飾シート体(12)は、その外周縁(12a)が」と明確化するとともに、「加飾シート体(12)がその表面を露出した状態で該合成樹脂成形体(11)に埋め込まれている」点について、「表面を揃えて前記合成樹脂成形体(11)の表面部に埋め込まれている」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2) 主な引用文献の記載事項等
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開平9-94846号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。(下線は、当審合議体が付したものである。)

「【請求項1】 帯状シート又は枚葉シートからなる絵付シートを雌型のキャビティ面に対向させ、先端面が前記雌型のキャビティ面の一部を形成する移動型を前記絵付シート側に前進させて、該移動型の先端面に前記絵付シートを吸着保持させ、この絵付シートを吸着保持した前記移動型を後退させてその先端面を前記キャビティ面の一部となし、その後、前記雌型と雄型との型閉めを行って前記雌型内に前記雄型側から流動状態の樹脂を注入充填して射出成形を行い、以て射出成形品と前記絵付シートとを接着一体化させるようにしてなる射出成形同時絵付方法。
【請求項2】 対向配置されて一方が他方側へ移動できるようにされてなる一対の雄型及び雌型を有し、前記雌型に、先端面が該雌型のキャビティ面の一部を形成するとともに他の部分から前記雄型側へ分離移動できるようにされてなる移動型が設けられ、該移動型により帯状シート又は枚葉シートからなる絵付シートを吸着保持して前記キャビティ内に引き込むようにされてなる射出成形同時絵付装置。」

「【0028】図6?図9は、本発明に係る射出成形同時絵付方法及び装置の他の例(インサート成形)を示し、前述した図1?図5に示される例の各部に対応する部分には同一の符号を付して重複説明を省略し、以下においては相違点を説明する。この例においては、図6に示される如くに、予め所定の寸法形状に切断された枚葉シートからなる絵付シート5’を搬送ロボット60によりその吸着盤62、62で吸着保持したまま雌型12のキャビティ面20に対向する位置まで搬送する。なお、搬送ロボット60は射出成形同時絵付終了後においてキャビティ内から製品を取り出す際にも利用される。
【0029】次に、前述した例と同様に、移動型30が絵付シート5’側に前進せしめられるとともに、図7に示される如くに、吸気管32及び真空吸引孔33を通じて真空吸引が行われ、ロボット60の吸着盤62による吸着保持が解かれると同時に、移動型30の先端面30aに絵付シート5’が吸着されて、絵付シート5’のロボット60から移動型30への移し替えが行われる。この際、絵付シート5’の特定部位がキャビティ面20の一部を形成する移動型30の先端面30aに固定される。ここで、本例においても、移動型30の先端面30aの特定の点Xに絵付シート5’の点Yが一致せしめられる。
【0030】続いて、移動型30の先端面30aに絵付シート5’が吸着保持されている状態で、図8に示される如くに、そのまま移動型30が後退せしめられて、絵付シート5’がキャビティ内に移動せしめられ、移動型30の先端面30aが前記キャビティ面20の一部とされる。そして、必要に応じて図5と同様な真空吸引孔を通じての真空吸引により絵付シート5’をキャビティ面20全体に沿わせて密着させる(図8)。この際にも、前記移動型30の先端面30a(キャビティ面20)の点Xと絵付シート5の点Yとは一致したままでずれは生じない。
【0031】このようにして、絵付シート5をキャビティ面20全体に沿わせて密着させた後、図9に示される如くに、前記雌型12を前進させて雄型11との型閉めを行い、雌型と雄型で形成されるキャビティ内に前記雄型11側のノズル25から流動状態の熔融樹脂50を注入充填して射出成形を行い、以て射出成形品と前記絵付シート5とを接着一体化させ、絵付成形品を得る。」








































イ 引用文献2に記載された発明
【図6】ないし【図9】から、「絵付けシート5’」がその表面を露出した状態で「射出成形品」の上面に接着一体化された、「絵付け成形品」が射出成形により得られること、「絵付け成形品」の上面と側面の境界部には丸み面取り部に相当する部分が形成されることが看取できる。
そして、「絵付けシート5’」を雌型12に吸着保持した状態で型閉めし、熔融樹脂50を注入充填して射出成形がなされるのであるから、「絵付けシート5’」は樹脂からなる「射出成形品」の表面部に埋め込まれた状態であって、「絵付けシート5’」と樹脂からなる「射出成形品」の表面が揃っていることは、その工程上ならびに図面の記載から明らかである。
以上の点をふまえ、引用文献2の記載、特に、段落【0028】ないし【0031】の記載を中心に整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「上面に、絵付けシートがその表面を露出した状態で樹脂からなる射出成形品に埋め込まれている絵付け成形品であって、
前記上面とその側面との境界部分には、丸み面取り部が形成され、
前記絵付けシートは、表面を揃えて前記樹脂からなる射出成形品の表面部に埋め込まれている、絵付け成形品。」

ウ 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開平6-182811号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0004】(2)成形品の頂壁及び側壁の一部を形成するための凹部を有する金型Aと、成形品の側壁の一部を形成するための凹部を有する金型Bと、金型Aと金型Bと協働して成形品の頂壁と側壁を形成するための凸部を有するとともに樹脂射出口7を有する金型Cとからなる成形同時絵付金型(図8参照)を用いて、金型Aと金型Bとの間に絵付層30を有する絵付フィルム3を挟み込み、金型Aと金型Bとの接合面に絵付フィルム通過用パーティングを形成し、金型Aと金型Bと金型Cとを型閉め後、キャビティ内に溶融樹脂を射出し、溶融樹脂を冷却固化後、成形同時絵付成形品を取り出す製造方法がある。」





(3) 対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「樹脂からなる射出成形品」、「絵付けシート」、「絵付け成形品」は、それぞれ本件補正発明の「合成樹脂成形体」、「加飾シート体」、「加飾合成樹脂成形品」に相当する。
また、引用発明の「絵付けシート」が配されている部分は、「樹脂からなる射出成形品」の上面に設定された領域であって、本願補正発明における「合成樹脂成形体」の「上面に設定された加飾領域」にあたることは明らかである。

してみると、本件補正発明と引用発明は、
「合成樹脂成形体の上面に設定された加飾領域に、加飾シート体がその表面を露出した状態で該合成樹脂成形体に埋め込まれている加飾合成樹脂成形品であって、
前記合成樹脂成形体の前記上面とその側面との境界部分には、丸み面取り部が形成され、
前記加飾シート体は、表面を揃えて前記合成樹脂成形体の表面部に埋め込まれている、加飾合成樹脂成形品。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
加飾シート体が合成樹脂成形体に埋め込まれている態様について、本件補正発明は「その外周縁が、前記合成樹脂成形体の、前記上面と丸み面取り部との境界に設けられた始端位置と前記丸み面取り部と前記側面との境界に設けられた終端位置との中央に位置した状態」であると特定されるのに対し、引用発明にはそのような特定がない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について判断する。

引用発明において、「絵付けシート」を「樹脂からなる射出成形品」のどの部分まで覆うようにするかは、装飾を要する範囲に応じて当業者が適宜調整しうる設計的事項にすぎない。
すなわち、絵付けシートを射出成形品のどの部分まで覆うかは、例えば引用文献2の図1?5にあるように、射出成形品の頂面及び側面まで覆うか、図6?9にあるように、頂面及びその周縁を覆うかなど、必要に応じ適宜なされるものであり、図6?9にあるように、頂面及びその周縁を覆うにあたり、絵付けシートの端部を、面取り部のどの部分まで覆うかも適宜選択される程度のことにすぎない(例えば、引用文献1の図8には、面取り部の始点と終点の間に端部が配するものが例示されている。)。
また、上記相違点に係る本件補正発明の特定事項を満たすことによる効果についても、本願明細書の発明の詳細な説明の【0031】に「なお、加飾シート体12の外周縁12a(側端面)の位置は、丸み面取り部16の中央に限定されることはなく、丸み面取り部16の始端位置16aから終端位置16bの範囲内であればよい。この条件に適合したときには、加飾シート体12の外周縁12aが目立たなくなり、良好な外観の加飾合成樹脂成形品10となる。」と記載されるにとどまるものであって、発明の詳細な説明全体の記載を通じてみても、「その外周縁が、前記合成樹脂成形体の、前記上面と丸み面取り部との境界に設けられた始端位置と前記丸み面取り部と前記側面との境界に設けられた終端位置との中央に位置した状態」としたことによる効果については何ら記載されておらず、格別の効果を見出すこともできない。

ウ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、引用文献2には、加飾シート体が、「表面を揃えて前記合成樹脂成形体(11)の表面部に埋め込まれ」ている点について記載がない旨主張しているが、上記(2)イのとおり、引用発明においても、「絵付けシートは、表面を揃えて前記樹脂からなる成形体の表面部に埋め込まれている」ものと認定できるから、当該主張点は相違点とはならない。
したがって、審判請求人の当該主張は採用しない。

エ 小括
上記アないしウのとおり、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) 補正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
令和 2年 1月29日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和 1年10月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、
との理由を含むものである。

引用文献2:特開平9-94846号公報

3 対比・判断
本願発明は、結局のところ、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「表面を揃えて前記合成樹脂成形体(11)の表面部に埋め込まれ」ているとの限定事項を削除したものである。
そして、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明から、「表面を揃えて前記合成樹脂成形体(11)の表面部に埋め込まれ」ているとの限定事項を削除した発明である本願発明もまた、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-12-04 
結審通知日 2020-12-08 
審決日 2020-12-21 
出願番号 特願2016-108468(P2016-108468)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 祐樹神田 和輝  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 細井 龍史
植前 充司
発明の名称 加飾合成樹脂成形品及びその製造方法  
代理人 渡辺 一豊  

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