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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1371298
審判番号 不服2019-14055  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-23 
確定日 2021-03-09 
事件の表示 特願2015- 3006「車両用通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月14日出願公開、特開2016-129290、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月9日の出願であって、平成30年10月19日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年12月5日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年3月18日付けで拒絶理由通知がされ、令和元年5月9日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年9月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和元年10月23日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、当審において、令和2年10月30日付けで令和元年10月23日に提出された手続補正書による手続補正が却下されるとともに拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由」という。)がされ、令和2年12月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和元年9月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献A-Cに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2000-151668号公報
B.特開2008-103821号公報
C.特開2008-44489号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-44489号公報(拒絶査定時の引用文献C)
2.特開2000-151668号公報(拒絶査定時の引用文献A)

第4 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、令和2年12月14日になされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-4は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
車両に搭載され、前記車両の車室内に配置された電装品の制御系のネットワークを構成する複数の無線通信端末と、
前記無線通信端末と無線通信が可能な複数の中継ネットワーク端末同士を相互に通信可能に配設することで複数の前記中継ネットワーク端末間でトークンを巡回させる通信経路を構成し、且つ、前記車両の天井に設けられる中継ネットワークと、
を備え、
複数の前記中継ネットワーク端末のそれぞれは、複数の前記無線通信端末のうち1つ以上の前記無線通信端末と無線通信が可能な位置に配設され、
前記中継ネットワーク端末は、前記車両に搭載されて前記車両の各部を制御する制御装置に通信可能に設けられており、前記中継ネットワーク端末に対して送信された前記制御装置からの制御信号を前記中継ネットワーク端末間で伝達しつつ、前記制御信号に適した前記無線通信端末に伝達し、
前記無線通信端末は、前記中継ネットワーク端末を介して、異なる前記無線通信端末同士の間で信号の送受信を行うことを特徴とする車両用通信システム。
【請求項2】
前記中継ネットワークは、複数の前記中継ネットワーク端末のうち、前記通信経路に沿って伝送される前記トークンを受信した前記中継ネットワーク端末のみを用いて、前記無線通信端末と無線通信を行う請求項1に記載の車両用通信システム。
【請求項3】
前記トークンは、前記無線通信端末と通信するデータを有する請求項2に記載の車両用通信システム。
【請求項4】
前記中継ネットワークの前記通信経路がリング状に構成される請求項1?3のいずれか1項に記載の車両用通信システム。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下、同様。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、バス、鉄道車両等の各種車両に搭載された複数の電子機器の間で相互に無線通信を行う車両通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両通信システムには、移動体端末を介して自動車外部のネットワークと通信可能なカーナビゲーション装置と、当該移動体端末と無線通信可能な中継器とを含むものがある。カーナビゲーション装置は、中継器と無線信号の送受信を行う通信部と、通信部に接続され、近距離無線通信を行うためのアンテナ素子とを備えている。一方、中継器は、カーナビゲーション装置と移動体端末との間で送受信される無線信号を中継する送受信部と、送受信部に接続され、移動体端末と近距離無線通信を行うために、自動車のシートよりも高い位置に配置されるアンテナ部とを備えている(例えば、特許文献1参照。)。以下、この技術を第1の従来例と呼ぶ。
【0003】
また、従来の車両通信システムには、車両に搭載されて電子機器に対する情報を処理する車両用情報処理装置本体と、車両内の天井の中央部付近に設置されて上記車両用情報処理装置本体に接続される無線通信用アンテナと、上記車両用情報処理装置本体に設けられ、無線通信用アンテナを介して電子機器との間で無線通信を行う無線通信手段とを備えたものもある(例えば、特許文献2参照。)。以下、この技術を第2 の従来例と呼ぶ。
【0004】
【特許文献1】特開2002-359565号公報
【特許文献2】特開2001-239894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、車両内の無線通信における伝送経路の電波状況は、一定しておらず、搭乗者の人数や搭乗位置、車内に持ち込む荷物に応じて変動するものである。ところが、上記した第1及び第2の従来例では、いずれの場合も伝送経路が固定されているため、車両の車内電波環境が変化することにより、伝送経路の電波状況が悪化した場合には、通信品質が劣化してしまうという問題があった。従って、マルチパス・フェージングの影響を受けやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような課題を解決することができる車両通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る車両通信システムは、車両に搭載された複数の通信機器と、前記車両の天井に所定間隔を隔てて取り付けられた複数のパッチアンテナと、前記複数のパッチアンテナの切換を制御する制御装置とを備え、前記複数の通信機器間で前記複数のパッチアンテナのいずれかを介して近距離無線通信を行うとともに、前記近距離無線通信の電波状況を監視し、前記電波状況が悪化した場合には、前記制御装置は、前記近距離無線通信で用いる前記パッチアンテナを切り換えることを特徴としている。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両通信システムの構成を示す概念図である。本実施の形態1に係る車両通信システムは、通信機器1及び2と、アンテナ3及び4と、制御装置5と、パッチアンテナ群6とから概略構成されている。通信機器1及び2は、例えば、ノート型、パーム型、ポケット型等のコンピュータ、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)、カーナビゲーション装置、携帯電話、簡易型携帯電話(PHS:Personal Handy-phone System)、携帯用オーディオプレーヤ、ワイパー、エアーコンディショナ等からなる。
【0016】
通信機器1がカメラ付き携帯電話である場合には、例えば、図2に示すような構成を有している。図2に示す通信機器1は、制御部11と、送受信部12と、アンテナ13と、送受話部14と、操作部15と、表示部16と、カメラ部17と、記憶部18と、送受信部19と、アンテナ3とから構成されている。制御部11は、中央処理装置(CPU)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、シーケンサ等からなり、記憶部18に記憶された各種プログラムを実行することにより、この通信機器1の各部を制御する。制御部11は、例えば、以下に示す処理を行う。即ち、制御部11は、送受信部12又は19からそれぞれ供給される制御信号を制御部11内部の処理に用い、また、送受信部12又は19からそれぞれ供給される音声信号を処理して送受話部14に供給する。また、制御部11は、送受話部14から供給される音声信号や記憶部18から読み出した音声信号、画像データ、通信データ等を処理して送受信部12又は19に供給する。さらに、制御部11は、送受信部12又は19から供給される画像データや通信データ、記憶部18に記憶されている文字データや画像データに基づいて、表示部16に文字や画像を表示するために、表示部16を制御する。」

ウ 「【0020】
送受信部19は、通信機器2を構成する送受信部22(図3参照)との間で、パッチアンテナ群6及び制御装置5を介して、例えば、無線LAN等で採用されているIEEE802.11a、11b、11gやBluetooth(登録商標)等の通信規格に準拠した近距離無線通信を行う。即ち、送受信部19は、パッチアンテナ群6及び制御装置5から送信される無線信号をアンテナ3を介して受信して無線信号から音声信号、画像データ、通信データ、あるいは制御信号を復調して制御部11に供給するとともに、制御部11から供給される音声信号、画像データ、通信データ、あるいは制御信号を無線信号に変調してアンテナ3を介して上記パッチアンテナ群6及び制御装置5に送信する。アンテナ3は、車両の天井に設けられたパッチアンテナ群6に対して向かう狭いビーム幅の指向性を有している。」

エ 「【0022】
送受信部22は、通信機器1を構成する送受信部19(図2参照)との間で、パッチアンテナ群6及び制御装置5を介して、上記通信規格に準拠した近距離無線通信を行う。即ち、送受信部22は、パッチアンテナ群6及び制御装置5から送信される無線信号をアンテナ4を介して受信して無線信号から音声信号、画像データ、通信データ、あるいは制御信号を復調して制御部21に供給するとともに、制御部21から供給される音声信号、画像データ、通信データ、制御信号あるいはダミー信号を無線信号に変調してアンテナ4を介して上記パッチアンテナ群6及び制御装置5に送信する。アンテナ4は、車両の天井に設けられたパッチアンテナ群6に対して向かう狭いビーム幅の指向性を有している。」

オ 「【0024】
次に、制御装置5の構成について、図4を参照して説明する。制御装置5は、制御部41と、機器信号受信部42と、機器信号送信部43と、ダミー信号受信部44と、電波状況監視部45と、切換部46とから構成されている。制御部41は、CPU等からなり、内部に記憶された制御プログラムを実行することにより、この制御装置5の各部を制御する。機器信号受信部42は、通信機器1又は2から送信された機器信号をパッチアンテナ3111?31jk(j、kは自然数)のいずれかを介して受信する。ここで、「機器信号」とは、通信機器1と通信機器2との間で無線通信を行うために、通信機器1又は2から制御装置5に対して送信された無線信号をいう。また、パッチアンテナ3111?31jkのうち、特定の個体を意味しない場合には、単にパッチアンテナ31と呼ぶことにする。
【0025】
機器信号送信部43は、機器信号受信部42により受信された機器信号をパッチアンテナ3111?31jkのいずれかを介して通信機器1又は2に送信する。・・・
【0026】
切換部46は、制御部41の制御の下、機器信号を受信すべきパッチアンテナ31及び機器信号を送信すべきパッチアンテナ31を選択して、受信のために選択したパッチアンテナ31により受信された機器信号を機器信号受信部42に供給するとともに、機器信号送信部から供給された機器信号を送信のために選択したパッチアンテナ31に供給する。
【0027】
次に、パッチアンテナ群6を構成する各パッチアンテナ31の構成及び配置例について説明する。各パッチアンテナ31は、1辺がλ/2(λは無線信号の波長)である正方形状を呈している。無線信号の周波数を無線LAN等で採用されている2.4GHz帯とした場合、λ/2(周波数fは2.45GHz)は、6.12cmである。このようなパッチアンテナ31は、車内の伝送路改善のために、図5に示すように、車両の天井に所定間隔を隔てて取り付けられている。」

カ 「【図5】



キ 以上ア?カより、特に下線部に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「車両に搭載された複数の電子機器の間で相互に無線通信を行う車両通信システムであって、
車両通信システムは、通信機器1及び2と、アンテナ3及び4と、制御装置5と、パッチアンテナ群6とから構成されており、
通信機器1及び2は、例えば、ノート型、パーム型、ポケット型等のコンピュータ、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)、カーナビゲーション装置、携帯電話、簡易型携帯電話(PHS:Personal Handy-phone System)、携帯用オーディオプレーヤ、ワイパー、エアーコンディショナ等からなり、
通信機器1は、制御部11と、送受信部12と、アンテナ13と、送受話部14と、操作部15と、表示部16と、カメラ部17と、記憶部18と、送受信部19と、アンテナ3とから構成されており、
送受信部19は、通信機器2を構成する送受信部22との間で、パッチアンテナ群6及び制御装置5を介して、近距離無線通信を行っており、
送受信部22は、通信機器1を構成する送受信部19との間で、パッチアンテナ群6及び制御装置5を介して、近距離無線通信を行っており、
制御装置5は、制御部41と、機器信号受信部42と、機器信号送信部43と、ダミー信号受信部44と、電波状況監視部45と、切換部46とから構成されており、
機器信号受信部42は、通信機器1又は2から送信された機器信号をパッチアンテナ3111?31jk(j、kは自然数)のいずれかを介して受信しており、
機器信号送信部43は、機器信号受信部42により受信された機器信号をパッチアンテナ3111?31jkのいずれかを介して通信機器1又は2に送信しており、
切換部46は、制御部41の制御の下、機器信号を受信すべきパッチアンテナ31及び機器信号を送信すべきパッチアンテナ31を選択して、受信のために選択したパッチアンテナ31により受信された機器信号を機器信号受信部42に供給するとともに、機器信号送信部から供給された機器信号を送信のために選択したパッチアンテナ31に供給し、
パッチアンテナ31は、車内の伝送路改善のために、図5に示すように、車両の天井に所定間隔を隔てて取り付けられている
車両通信システム。」

2 引用文献2について
当審拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0031】まず、本発明に係るリング式ネットワークの監視システム1は、図1に示すように、複数のノードN1,N2,N3,N4間を、リング形式の伝送路3を介して、相互にデータ交換可能に接続して構成されるリング式ネットワーク2の通信状態を監視する通信監視機能を有している。」
「【0034】また、複数のノードNの各々には、1又は2以上の図示しない各種の機能機器がそれぞれ接続されており、ノードN間、機能機器間、又は機能機器とノードN間において、伝送路3を介して相互にデータ交換可能に構成されている。
【0035】上述した機能機器としては、例えば本発明に係るリング式ネットワーク2を車両に適用した場合には、携帯電話、ファックス(FAX)、ディジタルTV、ラジオ受信機、ナビゲーション装置(NV)、DVD(Digital Video Disc、又はDigital Versatile Disc)-ROM装置、CD(Compact Disc)-ROM装置、DAT(Digital Audio Taperecorder)、MD(Mini Disc)、ディジタル信号プロセッサ(DSP)内蔵のオーディオアンプ、CAN(Controller Area Network)インターフェース、方位センサや車速センサ等の各種センサ、モニタ装置、及び車載パーソナルコンピュータ等の各種の機能機器を適宜採用することができる。
【0036】ここで、本リング式ネットワーク2内を巡回する通信フレームのフォーマットについて、図3を参照して説明すると、通信フレーム31内には、各種情報が記述される複数の情報記述領域が設定されており、この複数の情報記述領域は、主として2つの部分、つまりトークンパケット部33と、通過ビット部35とに分割されている。
【0037】トークンパケット部33は、通信フレームの宛先ノードの宛先アドレスが記述される宛先アドレス記述領域DA、通信フレーム31の発信元ノードの発信元アドレスが記述される発信元アドレス記述領域SA、及び各種命令や制御データ、又はソースデータ等を含む各種データが記述されるデータ記述領域を含んで構成されている。」

上記記載からみて、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。

「複数のノードN1,N2,N3,N4間を、リング形式の伝送路3を介して、相互にデータ交換可能に接続して構成され、通信フレームが巡回し、複数のノードNの各々に接続される各種の機能機器間において、伝送路3を介して相互にデータ交換可能に構成されているリング式ネットワーク2を、車両に適用すること。」

3 引用文献Bについて
令和元年9月10日付けの拒絶査定(原査定)において引用された引用文献Bには、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0015】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について図1乃至図4を参照して説明する。図1は、本発明の車内通信用中継器を、車室内に配置することで構成される車内通信システムを示すものである。図1(a)は、車室内の縦断側面図である。車載ECU(車載通信機)1は、車室内の前方(図1(a)中左方)側、例えば、ダッシュボードの内部などに配置されている。そして、リピータ(車内通信用中継器)2は、車室内の天井の略中央部分に設置されており、車載ECU1と、後方座席側において乗員が持ち込んだ携帯電話機(携帯通信端末)3との間で行われる近距離無線通信(例えば、Bluetooth)を中継する。」

上記記載からみて、引用文献Bには、次の技術事項が記載されていると認められる。

「リピータ(車内通信用中継器)2は、車室内の天井の略中央部分に設置されており、車載ECU1と、後方座席側において乗員が持ち込んだ携帯電話機(携帯通信端末)3との間で行われる近距離無線通信(例えば、Bluetooth)を中継すること。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「通信機器1及び2」は、車両に搭載されており、無線信号を送受信するものであるから、引用発明の「通信機器1及び2」と、本願発明1の「車両に搭載され、前記車両の車室内に配置された電装品の制御系のネットワークを構成する複数の無線通信端末」とは、「車両に搭載される複数の無線通信端末」である点で共通しているといえる。

イ 引用発明の「パッチアンテナ群6」は、複数のパッチアンテナ31から構成され、前記「通信機器1及び2」と無線通信を行うことから、本願発明1の「前記無線通信端末と無線通信が可能な複数の中継ネットワーク端末」とは、「前記無線通信端末と無線通信が可能な複数の装置」である点で共通しているということができ、また、引用発明の「パッチアンテナ31」は、本願発明1の「中継ネットワーク端末」とは、前記無線端末装置と無線通信が可能な「装置」である点で共通しているといえる。
そして、引用発明の「制御装置5」は、制御部41と、機器信号受信部42と、機器信号送信部43と、切換部46とを備え、機器信号受信部42は、通信機器1又は2から送信された機器信号をパッチアンテナ3111?31jk(j、kは自然数)のいずれかを介して受信しており、機器信号送信部43は、機器信号受信部42により受信された機器信号をパッチアンテナ3111?31jkのいずれかを介して通信機器1又は2に送信しており、切換部46は、制御部41の制御の下、機器信号を受信すべきパッチアンテナ31及び機器信号を送信すべきパッチアンテナ31を選択して、受信のために選択したパッチアンテナ31により受信された機器信号を機器信号受信部42に供給するとともに、機器信号送信部から供給された機器信号を送信のために選択したパッチアンテナ31に供給していることから、当該「制御装置5」は、機器信号を受信する「パッチアンテナ3111?31jk(j、kは自然数)のいずれか」と、機器信号を送信する「パッチアンテナ3111?31jk(j、kは自然数)のいずれか」を、すなわち、「パッチアンテナ同士」を相互に通信可能となるように切換部46に接続して構成されているといえる。また、引用発明における当該「制御装置5」は、車両の天井に設けられている。
以上のことから、引用発明に特定された上記「制御装置5」は、本願発明1の「前記無線通信端末と無線通信が可能な複数の中継ネットワーク端末同士を相互に通信可能に配設することで複数の前記中継ネットワーク端末間でトークンを巡回させる通信経路を構成し、且つ、前記車両の天井に設けられる中継ネットワーク」とは、「前記無線通信端末と無線通信が可能な複数の装置同士を相互に通信可能に配設するように構成し、且つ、前記車両の天井に設けられる手段」である点で共通しているといえる。

ウ 引用発明では、通信機器1を構成する送受信部19と、通信機器2を構成する送受信部22との間で、パッチアンテナ群6及び制御装置5を介して、近距離無線通信を行うことから、引用発明の「パッチアンテナ群6」が、通信機器1又は通信機器2と無線通信が可能な位置に配設されていることは明らかである。そうすると、引用発明の「パッチアンテナ群6」と、本願発明1の「複数の中継ネットワーク端末」とは、「複数の前記無線通信端末のうち1つ以上の前記無線通信端末と無線通信が可能な位置に配設」されている点で共通しているといえる。

エ 引用発明の「通信機器1」は、送受信部19を備え、送受信部19は、通信機器2を構成する送受信部22との間で、パッチアンテナ群6及び制御装置5を介して、近距離無線通信を行うことから、本願発明1の「前記中継ネットワーク端末を介して、異なる前記無線通信端末同士の間で信号の送受信を行う」「無線通信端末」とは、「前記装置を介して、異なる前記無線通信端末同士の間で信号の送受信を行う」「無線通信端末」である点で共通しているといえる。

(2)一致点・相違点
以上から、本願発明1と引用発明とは、以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「車両に搭載される複数の無線通信端末と、
前記無線通信端末と無線通信が可能な複数の装置同士を相互に通信可能に配設するように構成し、且つ、前記車両の天井に設けられる手段と、
を備え、
複数の前記装置のそれぞれは、複数の前記無線通信端末のうち1つ以上の前記無線通信端末と無線通信が可能な位置に配設され、
前記無線通信端末は、前記装置を介して、異なる前記無線通信端末同士の間で信号の送受信を行うことを特徴とする車両用通信システム。」

[相違点]
<相違点1>
本願発明1では、「複数の無線通信端末」は「前記車両の車室内に配置された電装品の制御系のネットワークを構成」しており、「前記中継ネットワーク端末は、前記車両に搭載されて前記車両の各部を制御する制御装置に通信可能に設けられており、前記中継ネットワーク端末に対して送信された前記制御装置からの制御信号を前記中継ネットワーク端末間で伝達しつつ、前記制御信号に適した前記無線通信端末に伝達」するのに対し、引用発明では、そのような構成が特定されていない点。

<相違点2>
本願発明1では、無線通信端末と無線通信が可能な装置は「中継ネットワーク端末」であって、「複数の前記中継ネットワーク端末間でトークンを巡回させる通信経路を構成」するのに対し、引用発明では、無線通信端末と無線通信が可能な装置は「パッチアンテナ」であり、「複数の前記中継ネットワーク端末間でトークンを巡回させる通信経路を構成」することについては記載されていない点。

(3)相違点についての判断

<相違点1について>
引用文献2には、「複数のノードN1,N2,N3,N4間を、リング形式の伝送路3を介して、相互にデータ交換可能に接続して構成され、通信フレームが巡回し、複数のノードNの各々に接続される各種の機能機器間において、伝送路3を介して相互にデータ交換可能に構成されているリング式ネットワーク2を、車両に適用する」という技術事項が記載されているものの、本願発明1のように、「複数の無線通信端末」を「前記車両の車室内に配置された電装品の制御系のネットワークを構成」するものとし、「前記中継ネットワーク端末は、前記車両に搭載されて前記車両の各部を制御する制御装置に通信可能に設けられており、前記中継ネットワーク端末に対して送信された前記制御装置からの制御信号を前記中継ネットワーク端末間で伝達しつつ、前記制御信号に適した前記無線通信端末に伝達」することについては、記載も示唆もない。
よって、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、上記引用文献1及び2には記載されておらず、本願の出願日前において周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明1は、相違点2について検討するまでもなく、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-4について
本願発明2-4も、上記相違点1に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
令和2年12月14日に提出された手続補正書による補正により、補正後の請求項1-4は、上記相違点1に係る本願発明1の構成を有するものとなった。
当該構成は、原査定における引用文献A-Cには記載されておらず、本願の出願日前における周知技術でもないので、本願発明1-4は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Cに基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-02-16 
出願番号 特願2015-3006(P2015-3006)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大石 博見  
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 野崎 大進
北川 純次
発明の名称 車両用通信システム  
代理人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所  

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