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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1371328
審判番号 不服2019-5618  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-25 
確定日 2021-02-17 
事件の表示 特願2015-562421「経皮弁を密閉するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月13日国際公開、WO2014/181188、平成28年 4月 4日国内公表、特表2016-509932〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26(2014)年3月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成25(2013)年3月15日 (US) アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成30年2月8日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同年7月17日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年12月18日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成31年4月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲について手続補正がなされた。

第2 平成31年4月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成31年4月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
平成31年4月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成30年7月17日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1についての以下の補正を含むものである。(下線部は補正箇所を示す。)

(1) 本件補正前
「経皮弁システムであって、
水性の環境で保存される複数の弁尖を有する弁部材を含む第1容器と、
乾燥した環境で保存される固定具を含む第2容器と、を含み、
前記固定具は、空間占拠材料を有し、前記弁部材に固定され、
前記空間占拠材料は、水媒体と接触すると膨張してシールを形成し、前記空間占拠材料を通って流体が逆流することを抑制することを特徴とする経皮弁システム。」

(2) 本件補正後
「経皮弁システムであって、
水性の環境で保存される複数の弁尖を有する弁モジュールを含む第1容器と、
乾燥した環境で保存される固定具を含む第2容器と、を含み、
前記固定具は、空間占拠材料を有し、前記弁モジュールに固定され、
前記弁モジュールは、折り畳まれて組み立てられていない送達形態と、組み立てられた使用形態とを有し、
前記固定具は、径方向に圧縮された送達形態と、径方向に拡張した使用形態とを有し、
前記弁モジュールと前記固定具は、空間的に離間して送達され、埋込み位置又はその付近において送達システムから留置された後に、使用する経皮弁システムに組み込まれるように設計され、
前記空間占拠材料は、水媒体と接触すると、前記固定具から離間する1つまたは複数の方向において所定量膨張して、前記埋込み位置において前記固定具と脈管壁の間にシールを形成し、弁周囲逆流を抑制することを特徴とする経皮弁システム。」

(3)本件補正の適否
本件補正は、以下の補正事項を含む。
ア 弁部材について
補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、「弁部材」について「弁モジュール」とし、「弁モジュール」は、「折り畳まれて組み立てられていない送達形態と、組み立てられた使用形態とを有」することを特定する。

イ 固定具について
補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、「固定具」について「径方向に圧縮された送達形態と、径方向に拡張した使用形態とを有」することを特定する。

ウ 弁モジュールと固定具について
補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、「固定具」について、「弁モジュールと前記固定具は、空間的に離間して送達され、埋込み位置又はその付近において送達システムから留置された後に、使用する経皮弁システムに組み込まれるように設計され」ることを特定する。

エ 空間占拠材料について
補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、「空間占拠材料」について「水媒体と接触すると、前記固定具から離間する1つまたは複数の方向において所定量膨張して、前記埋込み位置において前記固定具と脈管壁の間にシールを形成し、弁周囲逆流を抑制する」ことを特定する。

オ まとめ
上記アないしエより、本件補正は、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件に適合するものであるかについて検討する。

(4) 補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記(2)に示す、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

2 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1(下線は当審で付与した。)
原査定の拒絶の理由で引用された、本件優先日前に頒布された国際公開第2007/081820号(以下、「引用文献1」という。)には、「TRANSCATHETER DELIVERY OF A REPLACEMENT HEART VALVE」(置換心臓弁の送達経カテーテル)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、括弧内は、当審で付与した和訳である。
「[0015] ・・・For example, to allow transcatheter delivery, the heart valve replacement assembly must be able to collapse to a small diameter when crimped and loaded, and to expand to a larger diameter when deployed.」
([0015] ・・・例えば、カテーテルの送達を可能にするために、心臓弁置換アセンブリは、クリンプされて装填されたときに小さな直径に折り畳まれ、そして展開されたときに大きい直径に拡張しなければならない。)

「[0019] In one aspect, the present teachings provide a replacement valve apparatus that can be delivered via a cathether. The replacement valve apparatus can include a docking station and a valve frame adapted to be positioned within the docking station. The docking station is adapted to receive the valve frame and can be deployable within an anatomical lumen via an introducing catheter prior to the dockingstation receiving and supporting the valve frame.」
([0019] 一態様では、カテーテルを介して送達できる置換弁装置を提供することを教示する。交換弁装置はドッキングステーションと、ドッキングステーション内に配置されるように構成された弁フレームとを含むことができる。ドッキングステーションは、弁フレームを受け入れるように適合され、ドッキングステーションは、弁フレームを受け入れて支持する前に、導入カテーテルを介して解剖学的内腔の中に展開可能である。)

「[0023] To provide improved anchorage over existing valve prostheses,the replacement valve apparatus can further include a self-expanding member.The self-expanding member can be adapted to be associated with the outer wall of the docking station. The self-expanding member can be made of a self-expanding material that can expand and shape to securely engage the replacement valve apparatus in a relatively large anatomical lumen or cavity.」
([0023]「既存の人工弁に対して改善された固定を提供するために、交換弁装置は、自己拡張部材をさらに含むことができる。自己拡張部材は、ドッキングステーションの外壁に関連付けられるように適合させることができる。自己拡張部材は、比較的大きな解剖学的管腔または空洞において交換弁装置にしっかりと係合するように拡張および形状化することができる自己拡張材料で作製することができる。)

「[0024] The self-expanding material is preferably biocompatible butnon biodegradable. The self-expanding material can expand upon contact with a fluid, for example, a bodily fluid such as blood. The self-expanding material can be a foam, a sponge, or a hydrogel, and can be composed of one or more natural or synthetic polymers selected from polyvinyl alcohol, polyurethane, polyethylene, polypropylene, polytetrafluoroethylene, polyacrylate, polymethacrylate, polystyrene, polylactide, polycaprolactone, silicone,collagen, and copolymers thereof. The self-expanding material can be collagen sponge.」
([0024] 自己拡張材料は、好ましくは生体適合性であるが非生分解性である。自己拡張材料は、流体、例えば血液などの体液と接触すると拡張することができる。自己拡張材料は、フォーム、スポンジ、またはヒドロゲルであることができ、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリラクチドポリカプロラクトン、シリコーン、コラーゲン、およびそれらのコポリマーから選択される1つ以上の天然または合成ポリマーで構成することができる。自己拡張材料はコラーゲンスポンジとすることができる。)

「[0092] In other embodiments,the self-expanding member can be securely associated with the outer wall of the docking station without any direct physical or chemical attachment. For example, the self-expanding member can be molded into a tubular shape (such asa sleeve) with a lumen sized to receive the docking station in its compressed state. In use, the tubular sponge matrix may be deployed at the anatomical site and allowed to swell prior to the introduction of the docking station and the valve assembly as described in more detail below.」
([0092]他の実施形態では、自己拡張部材は、直接の物理的または化学的取り付けがなくとも、ドッキングステーションの外壁に確実に連結することができる。例えば、自己拡張部材は、ドッキング状態をその圧縮状態で受容するようなサイズの管腔を備えた管状形状(例えばスリーブ)に成形することができる。使用中、管状スポンジマトリックスは、解剖学的部位に配備され、以下により詳細に記載されるように、ドッキングステーションおよび弁アセンブリの導入前に膨張することが可能である。)

「[0093] Referring to FIGS. 1C-1E, the self-expanding member 39 can take various shapes. As illustrated in FIG. 1C, it can form a continuous layeron the outer wall 34 of the docking station 30. With reference to FIGS. ID and IE, the self-expanding member 39 can form a discontinuous layer on the outer wall 34 of the docking station 30, for example, in annular shape (shown in FIG.ID), or in longitudinal strips (shown in FIG. IE). In these embodiments, aplurality of self-expanding members 39 can be sparsely attached to the outer wall 34 of the docking station 30. For example, depending on the swelling capacity and mechanical strength of the material, as few as two rings or strips of the self-expanding material can be used.」
([0093]図1C-1Eを参照すると、自己拡張部材39は、様々な形状をとることができる。図2に示すように。図1Cを参照すると、それは、ドッキングステーション30の外壁34上に連続層を形成することができる。図1D及び図1Eを、自己拡張部材39は、例えば、環状形状(図1Dに示される)または長手方向ストリップ(図1Eに示される)で、ドッキングステーション30の外壁34上に不連続層を形成することができる。これらの実施形態では、複数の自己拡張部材39をドッキングステーション30の外壁34にまばらに取り付けることができる。例えば、材料の膨潤能力および機械的強度に応じて、自己拡張型材料の2つのリングまたは細い帯が使用され得る。)

「[0096] As shown in FIGS. 3A and 3B, the valve frame 40 can be deployed within the lumen 36 of the docking station 30 thereby creating a valve assembly 50. In some embodiments, the valve assembly 50 can be deployed within a human heart to replace a natural heart valve that may not function properly.The valve frame 40 would be manufactured to ensure that the valve frame 40 would maintain a desired (e.g., fixed) placement with respect to the docking station 30 when the valve frame 40 and the docking station 30 are located within the heart of a patient and subjected to the flow of blood through the valve assembly 50. Referring now to FIGS. 3C and 3D, the valve members 44a, 44b and 44c can be coated, typically, with a cover material 56 (e.g., a biocompatible material such as silicon rubber or bovine, porcine or human tissue that is chemically treated to minimize the likelihood of rejection by the patient's immune system). The coated valve members 44a, 44b and 44c can imitate the function of the three cusps of a natural heart valve (e.g., a pulmonary valve or an aortic valve). The cover material 56 can be a bio-engineered material that is capable of being applied to the valve members 44a, 44b and 44c. The cover material 56 can be applied to the valve frame 40 prior to deployment of the valve frame 40 into the body. The cover material 56 can have three free ends 46a,46b and 46c corresponding to valve members 44a, 44b and 44c, respectively. The free ends 46a, 46b and 46c also are herein referred to as leaflets. After placement of the valve frame 40 within the docking station 30 (located within the body) the cover material 56 applied to the valve members 44a, 44b and 44c can,generally, obstruct the flow of blood in the negative direction along the X-axis. The free ends 46a, 46b and 46c can move away from the inner wall 34 of the docking station 30, thereby limiting the flow of blood in the negative direction along the X-axis.」
([0096]図3Aおよび3Bに図示されるように、弁フレーム40は、ドッキングステーション30の管腔36内に配備され、弁アセンブリ50となる。いくつかの実施例では、弁アセンブリ50は、正しく機能することができない生来の心臓弁を取り替えるために、人間の心臓の中に配置することができる。弁フレーム40は、弁フレーム40およびドッキングステーション30が患者の心臓内に配置され、弁アセンブリ50に血液が流れているときに、弁フレーム40がドッキングステーション30に対して所望の(例えば、固定された)配置を確実に維持するように製造される。図3Cおよび3Dに図示されるように、弁部材44a、44bおよび44cは、典型的なカバー部材56で覆われる(例えば、患者の免疫系による拒絶反応の可能性を最小限に抑えるための、シリコンゴムまたはウシ、ブタまたは人間の組織を化学的に処理されたような生体適合性材料)。覆われた弁部材44a、44b、および44cは、生来の心臓弁(例えば、肺動脈弁または大動脈弁)の3つの尖の機能を模倣することができる。カバー部材56は、弁部材44a、44b、および44cに当てることができる生体工学材料であり得る。カバー部材56は、弁フレーム40を体内に展開する前に、弁フレーム40に覆当てることができる。カバー部材56は、それぞれ弁部材44a、44bおよび44cに対応する3つの自由端46a、46bおよび46cを有することができる。自由端46a、46b、および46cは、ここでは、リーフレットとも呼ばれる。弁フレーム40の配置後コーティングされた弁部材44a、44b、および44cは、生来の心臓弁(例えば、肺動脈弁または大動脈弁)の3つの尖の機能を模倣することができる。ドッキングステーション30内の弁フレーム40(本体内に配置された)は、弁部材44a、44b、及び44cに適用されたカバー部材56が一般に、X軸に沿った反対の方向の血液の流れを妨げる。自由端46a、46b、および46cは、ドッキングステーション30の内壁34から離れるように移動することができ、それにより、X軸に沿った反対の方向の血液の流れを制限する。)

[0104] Referring now to FIG. 9, a valve frame 91 can be compressed and inserted into the introducing catheter 61 and the valve frame 91 can be guided to the catheter orifice 66 and deployed into the lumen 75 of the expanded docking station 77. By way of example, in one embodiment the valve frame 91 can be the valve frame 40 of FIG. 3C. The valve frame 91 can expand upon being deployed from the introducing catheter 61 and can assume substantially the same size and shape as the lumen 75 of the expanded docking station 77. The docking station 77 and/or valve frame 91 can have attachment means that serve to align and fix the valve frame 91 in the predetermined position 68 within and with respect to the docking station 77. Referring now to FIG.10, the introducing catheter 61 can then be removed from the anatomical lumen 65 and the operation of the replacement valve can be subsequently monitored. Over time, the aneurysmal region 67 can be expected to reduce in size with the useof a competent replacement valve.
([0104] 図9に示すように、弁フレーム91を圧縮して導入カテーテル61に挿入することができ、弁フレーム91をカテーテルオリフィス66に案内して、拡張ドッキングステーション77の内腔75に配置することができる。例として、一実施形態では、弁フレーム91は、図3cの弁フレーム40とすることができる。弁フレーム91は、導入カテーテル61から展開されると拡張することができ、拡張されたドッキングステーション77の管腔75と実質的に同じサイズおよび形状をとることができる。ドッキングステーション77および/または弁フレーム91は、弁フレーム91をドッキングステーション77内およびドッキングステーションに対して所定の位置68に位置合わせをして固定する。次に、図10を参照すると、導入カテーテル61を解剖学的管腔65から取り外し、その後、置換弁の動作を監視することができる。時間の経過とともに、動脈瘤領域67は、的確な交換弁を使用することでサイズが減少すると期待できる。)

「図1D



「図3D



「図9



「図10


「図3Aおよび3Bに図示されるように、弁フレーム40は、ドッキングステーション30の管腔36内に配備され、弁アセンブリ50となる。」([0096])との記載から、弁アセンブリは、弁フレームとドッキングステーションを含むことが理解できる。
「ドッキングステーション30内の弁フレーム40(本体内に配置された)は、弁部材44a、44b、及び44cに適用されたカバー部材56が一般に、X軸に沿った反対の方向の血液の流れを妨げる。自由端46a、46b、および46cは、ドッキングステーション30の内壁34から離れるように移動することができ、それにより、X軸に沿った反対の方向の血液の流れを制限する。」([0096])との記載から、「弁フレーム」は、血液が反対方向へ流れることを妨ぐために複数の弁部材を設けているものと認められる。また、「弁部材44a、44bおよび44cは、典型的なカバー部材56で覆われる(例えば、患者の免疫系による拒絶反応の可能性を最小限に抑えるための、シリコンゴムまたはウシ、ブタまたは人間の組織を化学的に処理されたような生体適合性材料)。」([0096])との記載から、弁部材は、ウシ、ブタまたは人間の組織を化学的に処理されたような生体適合性材料で覆われているといえる。
「自己拡張部材は、直接の物理的または化学的取り付けがなくとも、ドッキングステーションの外壁に確実に連結することができる。」([0092])との記載から、ドッキングステーションは、外壁に自己拡張部材を有しているといえる。
また、「自己拡張材料は、好ましくは生体適合性であるが非生分解性である。自己拡張材料は、流体、例えば血液などの体液と接触すると拡張することができる。自己拡張材料は、フォーム、スポンジ、またはヒドロゲルであることができ」([0024])との記載から、「自己拡張材料」は、「ヒドロゲル」で構成されているといえる。
「カテーテルの送達を可能にするために、心臓弁置換アセンブリは、クリンプされて装填されたときに小さな直径に折り畳まれ、そして展開されたときに大きい直径に拡張しなければならない。」([0015])及び「図9に示すように、弁フレーム91を圧縮して導入カテーテル61に挿入することができ、弁フレーム91をカテーテルオリフィス66に案内して、拡張ドッキングステーション77の内腔75に配置することができる。・・・弁フレーム91は、導入カテーテル61から展開されると拡張することができ、拡張されたドッキングステーション77の管腔75と実質的に同じサイズおよび形状をとることができる。」([0104])の記載から、「弁フレーム」は、カテーテルの送達を可能にするためにクリンプされて小さな直径に折り畳まれ導入カテーテルに挿入されている形態と、導入カテーテルから展開され拡張してドッキングステーションの内腔に配置されている形態とを有しているといえる。
「カテーテルの送達を可能にするために、心臓弁置換アセンブリは、クリンプされて装填されたときに小さな直径に折り畳まれ、そして展開されたときに大きい直径に拡張しなければならない。」([0015])及び「弁フレーム91は、導入カテーテル61から展開されると拡張することができ、拡張されたドッキングステーション77の管腔75と実質的に同じサイズおよび形状をとることができる。」([0104])との記載から、ドッキングステーションは、クリンプされて導入カテーテルに挿入されている形態と、解剖学的内腔で拡張している形態とを有しているといえる。
「ドッキングステーション77および/または弁フレーム91は、弁フレーム91をドッキングステーション77内およびドッキングステーションに対して所定の位置68に位置合わせをして固定する。」([0104])、「図9に示すように、弁フレーム91を圧縮して導入カテーテル61に挿入することができ、弁フレーム91をカテーテルオリフィス66に案内して、拡張ドッキングステーション77の内腔75に配置することができる。」([0104])、図9及び図10の記載から、導入カテーテルによりドッキングステーションが所定位置に位置合わせされ、その後、導入カテーテルにより弁フレームがドッキングステーションの内腔に配置されてドッキングステーションと弁フレームとが固定されるといえる。

引用文献1の上記摘記事項、及び認定事項を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「弁アセンブリであって、
血液が反対方向へ流れることを妨げるために、複数のウシ、ブタまたは人間の組織を化学的に処理されたような生体適合性材料で覆われている弁部材を設けた弁フレームと、
ドッキングステーションとを含み、
前記ドッキングステーションは外壁にヒドロゲルで構成された自己拡張部材を有し、弁フレームと固定され、
弁フレームは、カテーテルの送達を可能にするためにクリンプされて小さな直径に折り畳まれ導入カテーテルに挿入されている形態と、導入カテーテルから展開され拡張してドッキングステーションの内腔に配置されている形態とを有し、
ドッキングステーションは、クリンプされて導入カテーテルに挿入されている形態と、解剖学的内腔で拡張している形態とを有し、
導入カテーテルによりドッキングステーションが所定位置に位置合わせされ、その後、導入カテーテルにより弁フレームがドッキングステーションの内腔に配置される、
弁アセンブリ。」

(2)引用文献2に記載された技術
原査定の拒絶の理由に引用された、本件優先日前に頒布された米国特許第6454799号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、「低侵襲心臓弁及びその使用方法 」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
「The most common tissue valves are constructed with whole porcine (pig) valves, or with separate leaflets cut from bovine (cow) pericardium. 」(1欄25行ないし27行)
(最も一般的な組織弁は、ブタ種(ブタ)の弁、またはウシ属(牛)心膜から切断された個々の小葉で構成されている。)

「That is, the wireform 106 and leaflets 108 may be stored immersed in a preservative such as glutaraldehyde in a sterile container until needed. In this regard, the prosthetic leaflets 108 remain in their functional shape during storage. This greatly reduces adverse wrinkling or other permanent or semi-permanent damage to the leaflets over time, and improves the quality of the valve 100 . At the same time, the base 104 desirably does not include any bioprosthetic or otherwise perishable components, and thus may be stored in a separate dry sterile container.」 (11欄31行ないし41行)
(すなわち、必要とされるまで、ワイヤ106及び小葉108は、滅菌容器内にグルタルアルデヒドなどの保存剤に浸漬して保存することができる。この点において、小葉108は、保存中のそれらの機能的な形状のままである。これは、時間をかけて小葉に不利なしわまたは他の永久的または半永久的な損傷を大幅に減少させ、弁100の品質を向上させる。同時に、望ましくは、基部104は、生体、または、そうでなければ腐敗し易い構成要素を含まなければ、別個の乾燥した無菌容器に保存してもよい。)

上記記載から、引用文献2には、心臓弁として用いるブタ、ウシの組織を保存する場合には、液体の容器内で保存することが記載されていると認められる。

3 対比及び判断
(1)一致点
補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「弁アセンブリ」は、その機能、構成から、補正発明の「経皮弁システム」に相当する。
同様に「血液が反対方向へ流れることを妨げるために複数のウシ、ブタまたは人間の組織を化学的に処理されたような生体適合性材料で覆われている弁部材を設けた弁フレーム」は「複数の弁尖を有する弁モジュール」に、「ドッキングステーション」は「固定具」に、「ヒドロゲルで構成された自己拡張部材」は「空間占拠材料」にそれぞれ相当する。
引用発明の「ドッキングステーションは外壁にヒドロゲルで構成された自己拡張部材を有し」ている態様は、補正発明の「固定具は、空間占拠材料を有し、前記弁モジュールに固定され」ている態様に相当する。
引用発明の「弁フレームは、カテーテルの送達を可能にするためにクリンプされて小さな直径に折り畳まれ導入カテーテルに挿入されている形態」は、弁フレームは、ドッキングステーションに組み立てられていないことは明らかであるから、補正発明の「弁モジュールは、折り畳まれて組み立てられていない送達形態」に相当する。
また、引用発明の「弁フレーム」の、「導入カテーテルから展開され拡張してドッキングステーションの内腔に配置されている形態」は、弁フレームがドッキングステーションの内腔に配置されて使用される形態になっているといえるから、補正発明の「弁モジュール」は、「組み立てられた使用形態」に相当する。
引用発明の「ドッキングステーションは、クリンプされて導入カテーテルに挿入されている形態」は、ドッキングステーションが導入カテーテルにより解剖学的内腔に送達される形態であるといえるから、補正発明の「固定具は、径方向に圧縮された送達形態」に相当する。
また、引用発明の「ドッキングステーション」が「解剖学的内腔で拡張している形態とを有し」ている態様は、ドッキングステーションが解剖学的内腔で使用されるために拡張しているといえるから、補正発明の「径方向に拡張した使用形態とを有し」ている態様に相当する。
引用発明の「導入カテーテルによりドッキングステーションが所定位置に位置合わせされ、その後、導入カテーテルにより弁フレームがドッキングステーションの内腔に配置される」態様は、ドッキングステーションと弁フレームが離れた状態で所定位置に配置されることは明らかであることから、補正発明の「前記弁モジュールと前記固定具は、空間的に離間して送達され、埋込み位置又はその付近において送達システムから留置された後に、使用する経皮弁システムに組み込まれるように設計され」ている態様に相当する。
引用発明の「弁フレーム」が「血液が反対方向へ流れることを妨げるために複数の弁部材を設け」ている態様は、補正発明の「経皮弁システム」が「前記空間占拠材料は、水媒体と接触すると、前記固定具から離間する1つまたは複数の方向において所定量膨張して、前記埋込み位置において前記固定具と脈管壁の間にシールを形成し、弁周囲逆流を抑制する」態様と、「逆流を抑制する」態様の限りにおいて一致する。

そうすると、補正発明と引用発明とは、
「経皮弁システムであって、
弁モジュールと、
固定具と、
前記固定具は、空間占拠材料を有し、前記弁モジュールに固定され、
前記弁モジュールは、折り畳まれて組み立てられていない送達形態と、組み立てられた使用形態とを有し、
前記固定具は、径方向に圧縮された送達形態と、径方向に拡張した使用形態とを有し、
前記弁モジュールと前記固定具は、空間的に離間して送達され、埋込み位置又はその付近において送達システムから留置された後に、使用する経皮弁システムに組み込まれるように設計され、
逆流を抑制する
経皮弁システム。」
で一致し、下記の点で相違する。

(2)相違点
ア 相違点1
補正発明は、「水性の環境で保存される複数の弁尖を有する弁モジュールを含む第1容器」と、「乾燥した環境で保存される固定具を含む第2容器」を備えているのに対して、引用発明は弁フレーム及びドッキングステーションがどのように保存されているか不明であって、弁フレームを水性の環境で保存するための第1容器と、ドッキングステーションを乾燥した環境で保存するための第2容器を備えているか不明な点。

イ 相違点2
補正発明の、空間占拠材料は、「水媒体と接触すると、前記固定具から離間する1つまたは複数の方向において所定量膨張して、前記埋込み位置において前記固定具と脈管壁の間にシールを形成し、弁周囲逆流を抑制する」のに対して、引用発明の「ヒドロゲルで構成された自己拡張部材」はそのような特定がされていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
上記相違点1について検討する。
引用発明の「弁フレーム」は、「ウシ、ブタまたは人間の組織を化学的に処理されたような生体適合性材料で覆われている弁部材」を含むものである。
そして、引用文献2には、心臓弁として用いるブタ、ウシの組織を保存する場合には、液体で保管することが記載されている。
また、引用発明の「自己拡張部材」は「ヒドロゲル」で構成されており、細菌等の発生の予防を考慮すれば、「ヒドロゲルで構成された自己拡張部材39」を乾燥した状態で容器で保管することが望ましいところ、生体に用いられるヒドロゲルを乾燥した状態で保管することは周知技術である(必要であれば、国際公開第2012/051096号の第12ページ第13行?18行、米国特許出願公開第2009/0118831号明細書の【0039】参照。以下「周知技術」という。)。そうすると、引用発明において保管性を向上させるために、ドッキングステーションを乾燥した状態で保管することは、当業者であれば容易に想起しうることである。
してみると、引用発明において、引用文献2に記載された技術及び周知技術を採用し、「ウシ、ブタまたは人間の組織を化学的に処理されたような生体適合性材料で覆われている弁部材」を水性の環境で保管するための容器と、「ヒドロゲルで構成された自己拡張部材」を有する「ドッキングステーション」を乾燥した状態で保管するための容器とをそれぞれ備えること、即ち相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

イ 相違点2について
上記相違点2について検討する。
「弁フレーム」の周囲において血液の漏れがあっては、十分な逆流を防止することができないから、「弁フレーム」の周囲においても血液の漏れを防ぐ必要があるという課題がある。
そして、引用発明の「自己拡張部材」は「ヒドロゲル」で構成されており、ヒドロゲルが血液に接触して拡張すれば、漏れを防ぐ効果が高くなることは自明であるから、引用発明において、「ヒドロゲルで構成された自己拡張部材」を拡張させることによりドッキングステーションと血管との間をシールするように構成すること、即ち相違点2に係る補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想起することである。

また、補正発明の奏する効果についてみても、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。
よって、補正発明は引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

(4)本件補正についての結び
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。よって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、本件補正は却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正が上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし23に係る発明は、平成30年7月17日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1(1)に示すとおりのものであると認める。

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち本願発明に対する理由は、次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2007/081820号
引用文献2:米国特許第6454799号明細書

第5 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、引用文献2の記載事項及び引用発明は、上記第2 2(1)及び(2)に示したとおりである。

第6 対比及び判断
補正発明は本願発明の発明特定事項の全てを含んでいる。
そうすると、補正発明が上記第2 3(3)に示したように、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-01 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-09-30 
出願番号 特願2015-562421(P2015-562421)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺澤 忠司  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 莊司 英史
井上 哲男
発明の名称 経皮弁を密閉するシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人 松原・村木国際特許事務所  

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