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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1371510
審判番号 不服2020-2525  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-25 
確定日 2021-02-25 
事件の表示 特願2019- 75951「電子機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月22日出願公開、特開2020-174308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成31年4月11日にされた特許出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
令和元年 5月14日付け:拒絶理由通知書
令和元年 6月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年 7月 2日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和元年 9月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年11月19日付け:補正却下の決定
令和元年11月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和元年11月26日 :原査定の謄本の送達
令和2年 2月25日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月25日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についての補正である。本件補正前(令和元年6月20日付け手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前
「【請求項1】
略直方体のハウジングと、
前記ハウジングの前面に配置される表示部と、
前記表示部の前記前面を覆い、前記ハウジングに外周を囲まれるカバー部と、を備え、
前記ハウジングは、前記ハウジングの側面に外周部を含み、
前記外周部は、長辺部と短辺部と角部とを含み、
前記外周部は、
前記表示部に直交する方向から見た場合、前記角部が、前記長辺部に配置されている部分よりも厚く、
前記表示部に平行な方向から前記長辺部を見た場合、前記角部が、前記カバー部よりも突出し、かつ、前記長辺部に配置されている部分よりも突出しており、前記長辺部の中央から前記角部に向かう方向において前記外周部の第1の特定位置で漸次的に突出量が増加し、
前記長辺部に配置されている部分は、前記カバー部よりも突出している電子機器。」

(2)本件補正後
「【請求項1】
略直方体のハウジングと、
前記ハウジングの前面に配置される表示部と、
前記表示部の前記前面を覆い、前記ハウジングに外周を囲まれるカバー部と、を備え、
前記ハウジングは、前記ハウジングの側面に外周部を含み、
前記外周部は、長辺部と短辺部と角部とを含み、
前記外周部は、
前記表示部に直交する方向から見た場合、前記角部が、前記長辺部に配置されている部分よりも厚く、
前記表示部に平行な方向から前記長辺部を見た場合、前記角部が、前記カバー部よりも突出し、かつ、前記長辺部に配置されている部分よりも突出しており、前記長辺部の中央から前記角部に向かう方向において前記外周部の第1の特定位置で漸次的に突出量が増加し、
前記長辺部に配置されている部分は、前記カバー部よりも突出し、
前記角部は、前記表示部に平行な方向において、前記表示部に直交する方向に中央付近が突出する凸部を有し、
前記凸部は、前記表示部に平行な方向において、表面が曲面状に変化し、前記前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径は、当該前面に対向する後面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径より大きい電子機器。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した事項である「角部」について、「前記角部は、前記表示部に平行な方向において、前記表示部に直交する方向に中央付近が突出する凸部を有し、前記凸部は、前記表示部に平行な方向において、表面が曲面状に変化し、前記前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径は、当該前面に対向する後面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径より大きい」との記載を追加して、その態様を限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討を行う。

3 独立特許要件についての判断
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献
以下に示す引用文献8、2、7及び3は、いずれも、原査定の拒絶の理由に引用された文献であり、発行日は本願の出願日より前である。

引用文献8:特開2012-215682号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2012/0194998号明細書
引用文献7:特表2015-524632号公報
引用文献3:特開2016-100890号公報

(3)引用文献に記載された発明等
ア 引用文献8
(ア)引用文献8には、以下の記載がある。下線は当合議体が付した。

「【0009】
図1ないし図3は、タブレット型ポータブルコンピュータ1を開示している。ポータブルコンピュータ1は、電子機器の一例であり、例えばユーザが手で持って使用できる大きさを有している。
【0010】
ポータブルコンピュータ1は、筐体2、フレーム3、LCDサポート4および表示モジュール5を主要な構成要素として備えている。筐体2は、ポータブルコンピュータ1の外郭を構成する外装部材の一例である。外装部材は、ポータブルコンピュータ1の一部を構成する第1の部材と言い換えることができる。
【0011】
筐体2は、保護板7およびベース8を有している。保護板7は、第1のパネル又は第1の壁の一例であって、ガラスあるいはプラスチックのような透光性材料で構成されている。保護板7は、四角い透明な表示領域7aと、表示領域7aを取り囲む不透明なマスク部7bとを有している。表示領域7aおよびマスク部7bは、同一の平面上に位置されているとともに、筐体2の外に全面的に露出された第1の面を構成している。
【0012】
ベース8は、例えばアルミニウム合金又はマグネシウム合金のような金属製であり、筐体2の底を構成している。ベース8は、第2のパネル又は第2の壁の一例であって、四角い底板8aと、底板8aの外周縁から立ち上がるフランジ部8bとを有している。ベース8は、底板8aとフランジ部8bとを一体化したバスタブ型であり、継ぎ目のない立体構造を採用している。底板8aの裏面は、筐体2の外に全面的に露出された第2の面を構成している。
【0013】
保護板7およびベース8は、筐体2の厚み方向に互いに間隔を存して平行に配置されている。そのため、ベース8は、保護板7に対し筐体2の厚み方向に沿う反対側に位置されている。
【0014】
フレーム3は、中間部材の一例であって、保護板7とベース8との間に設けられている。中間部材は、筐体2と協働してポータブルコンピュータ1を構成する第2の部材と言い換えることができる。
【0015】
フレーム3は、例えばアルミニウム合金又はマグネシウム合金のような金属もしくは高剛性樹脂で構成され、堅牢である。高剛性樹脂とは、例えば樹脂中にガラス繊維、カーボン繊維、その他の強化繊維およびタルクのような添加剤を混入した繊維強化樹脂のことを指しており、本実施形態では、ヤング率が4000MPa以上に設定されている。
【0016】
図2に示すように、フレーム3は、実装部10とバンパー部11とを有する一体構造物である。実装部10は、保護板7とベース8の底板8aとの間に介在された四角い板で構成されている。実装部10は、保護板7との間に第1の実装スペース12を規定しているとともに、ベース8の底板8aとの間に第2の実装スペース13を規定している。第1の実装スペース12と第2の実装スペース13との間は、実装部10に設けられた配線用の通孔14を介して互いに連通されている。
【0017】
フレーム3の実装部10は、板状に限らず、例えば複数の縦桟と複数の横桟とを組み合わせた格子状に形成してもよい。この場合、縦桟と横桟とで規定される複数の空所を通じて第1の実装スペース12と第2の実装スペース13との間が連通されるとともに、空所の存在によりフレーム3の軽量化を図ることができる。
【0018】
バンパー部11は、実装部10の外周縁部に一体に形成されて、実装部10を周方向に連続して取り囲んでいる。バンパー部11は、突出部の一例であって、フレーム3の一部分あるいはフレーム3の外周部分に位置された領域であるということができる。
【0019】
バンパー部11は、外郭壁16を有している。外郭壁16は、保護板7の外周縁部と底板8aの外周縁部との間に跨るようにポータブルコンピュータ1の厚み方向に延びて、筐体2の外に突出されている。
【0020】
さらに、外郭壁16は、第1の縁部16aと第2の縁部16bとを有している。第1の縁部16aは、保護板7を周方向に連続して取り囲んでいるとともに、保護板7のマスク部7bよりもポータブルコンピュータ1の厚み方向に数ミリ突出されている。
【0021】
第2の縁部16bは、第1の縁部16aの反対側に位置されて、ベース8のフランジ部8bを周方向に連続して取り囲んでいる。第2の縁部16bは、ベース8の底板8aの裏面と同一の面上に位置されるか、あるいは底板8aの裏面よりもポータブルコンピュータ1の厚み方向に数ミリ突出されている。
【0022】
したがって、バンパー部11の外郭壁16は、ポータブルコンピュータ1の外に全面的に露出されて、ポータブルコンピュータ1の外形を形作る輪郭を構成している。
【0023】
LCDサポート4は支持体の一例であって、例えば合成樹脂材料で構成されている。図2に最もよく示されるように、LCDサポート4は、四角い開口部18を規定した額縁部19を有している。額縁部19は、保護板7とフレーム3の実装部10との間に介在されて、バンパー部11の外郭壁16により取り囲まれている。
【0024】
図3ないし図5に示すように、保護板7のマスク部7bは、額縁部19の表面に接着等の手段により固定されている。これにより、保護板7の表示領域7aが額縁部19の開口部18と向かい合っている。
【0025】
さらに、第1の実施形態では、保護板7の表示領域7aの裏面に手書き入力機能を有する圧電式又は静電式のタッチパネル20が接着等の手段により固定されている。タッチパネル20は、LCDサポート4の額縁部19により取り囲まれている。
【0026】
図3に示すように、表示モジュール5は、LCDサポート4の額縁部19に接着等の手段により固定されて、第1の実装スペース12に収容されている。表示モジュール5は、画像および映像を表示する四角い表示画面5aを有している。表示画面5aは、LCDサポート4の開口部18を通じてタッチパネル20の裏面と向かい合っている。
【0027】
スペーサ21がタッチパネル20の裏面の外周縁部と表示モジュール5の外周縁部との間に介在されている。スペーサ21は、表示画面5aとタッチパネル20との間にモアレ縞を防ぐための間隙22を形成している。
【0028】
表示モジュール5および保護板7が固定されたLCDサポート4は、フレーム3の実装部10に浮動的に支持されている。」

「【0039】
第1の実施形態によると、LCDサポート4を支持する堅牢なフレーム3が保護板7および表示モジュール5を取り囲むバンパー部11を備えている。バンパー部11の外郭壁16は、ポータブルコンピュータ1の外に全面的に露出されて、ポータブルコンピュータ1の外形を形作る輪郭を構成している。
【0040】
このため、ユーザがポータブルコンピュータ1を手で持って操作している時に、誤ってポータブルコンピュータ1を床の上に落下させた場合、堅牢なフレーム3のバンパー部11で落下に伴う衝撃を受け止めることができる。
【0041】
すなわち、ユーザがポータブルコンピュータ1を床の上に落下させた場合、ポータブルコンピュータ1は、保護板7を上向き又は下向きにした水平の姿勢で落下するというよりも、むしろポータブルコンピュータ1の角部を下向きにした姿勢で落下する可能性が高い。そのため、ポータブルコンピュータ1の外形を形作るバンパー部11の外郭壁16が最初に床に衝突する確率が高くなる。
【0042】
特に第1の実施形態では、外郭壁16の第1の縁部16aが壊れやすい保護板7の表示領域7aおよびマスク部7bよりもポータブルコンピュータ2の厚み方向に突出しているので、外郭壁16の第1の縁部16aが床に衝突する確率がより一層高くなる。
【0043】
したがって、ポータブルコンピュータ1を床の上に落下させたとしても、床がポータブルコンピュータ2の表面に露出された保護板7を直撃するのを回避でき、保護板7の破損を防止することができる。」

「【0077】
加えて、電子機器はポータブルコンピュータに限定されるものではなく、例えば、携帯電話、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)あるいは携帯型のゲーム機のようなその他の電子機器に広く適用が可能である。」

「【図1】及び【図2】



「【図3】



図1?3より、「フレーム3」が「第1の実装スペース12」を規定する略直方体のハウジングを構成することと、その前面に「表示領域7a」が配置されていることが読み取れる。
さらに、図1?3より、「フレーム3」の「外郭壁16」が略矩形状であることと、当該「外郭壁16」の「第1の縁部16a」が全体にわたって「保護板7」から突出していることが読み取れる。

(イ)引用文献8の前記(ア)の記載をまとめると、引用文献8には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「保護板7及びベース8を有する筐体2と、フレーム3を構成要素として備えるポータブルコンピュータ1であって(【0010】、【0011】及び【0014】)、
前記フレーム3は、実装部10とバンパー部11とを有する一体構造物であり(【0016】)、
前記実装部10と前記保護板7との間に第1の実装スペース12が規定されるとともに、前記実装部10と前記底板8aとの間に第2の実装スペース13が規定され(【0016】)、
表示モジュール5が前記第1の実装スペース12に収容され(【0026】)、
前記フレーム3が前記第1の実装スペース12を規定する略直方体のハウジングを構成し、その前面に表示領域7aが配置され(図1?3)、
前記バンパー部11は、前記実装部10を周方向に連続して取り囲んでおり、かつ、略矩形状の外郭壁16を有しており(【0018】、【0019】及び図1?3)、
前記外郭壁16の第1の縁部16aが、前記保護板7を周方向に連続して取り囲んでいるとともに、前記保護板7のマスク部7bよりも前記ポータブルコンピュータ1の厚み方向に全体にわたって数ミリ突出していることで(【0020】)、落下による前記保護板7の破損を防止することができる(【0042】及び【0043】)、
ポータブルコンピュータ1。」

イ 引用文献2
(ア)引用文献2には、以下の記載がある。下線は当合議体が付した。翻訳文は当審によるものである。

「[0006] One design challenge associated with the portable computing device is the design of the enclosures used to house the various internal components. This design challenge generally arises from a number conflicting design goals that includes the desirability of making the enclosure lighter and thinner, the desirability of making the enclosure stronger and making the enclosure more esthetically pleasing. The lighter enclosures, which typically use thinner structures and fewer fasteners, tend to be more flexible and therefore they have a greater propensity to buckle and bow when used while the stronger and more rigid enclosures, which typically use more substantial structures and include fasteners, tend to be thicker and carry more weight. Unfortunately, however, the increased weight consistent with the more rugged enclosure can lead to user dissatisfaction whereas bowing of enclosures formed of lightweight material can result in damaging some of the internal components (such as printed circuit boards) of the portable device.」
「携帯型コンピューティングデバイスに関連する設計上の課題の一つは、様々な内部構成要素を収容するために使用される筐体の設計である。この設計上の課題は、一般に、筐体をより軽く、より薄くする要求、筐体をより強くする要求、及び筐体をより美的に魅力的にする要求を含む、多くの相反する設計目標から生じる。より軽い筐体は、典型的に、より薄い構造を使用し、より少ない締結具を使用するが、より柔らかくなる傾向があり、従って、使用時に座屈し湾曲しやすく、一方、より強くより剛性の筐体は、典型的には、より頑丈な構造を使用し、より多くの締結具を含むが、より厚く、より重くなる傾向がある。しかしながら、残念なことに、より頑丈な筐体に伴う重量の増加は、ユーザの不満を招く可能性があり、一方、軽量材料で形成された筐体の湾曲は、携帯型デバイスの内部構成要素(プリント基板等)の一部を損傷する可能性がある。」

「[0060] Brackets, such as 150a, 150b, 150c and 150d, can be placed at each corner of the housing. The brackets can be formed from a metal, such as stainless steel. The brackets can be configured to add structural stiffness to the housing. During an impact event, such as an impact to the corner of the housing, the corner brackets can limit the amount of impact damage, such as damage to a cover glass. The shape of the brackets can vary from corner to corner. In addition, the simplified shape of the brackets is shown for the purposes of illustration and brackets with different shapes can be used. As is discussed in more detail as follows, the brackets can be bonded with an adhesive to the housing. In one embodiment, The brackets can include a surface for receiving a corner portion of a trim bead and a cover.」
「ブラケット150a、150b、150c、150d等は、ハウジングの各角部に配置することができる。ブラケットは、ステンレス鋼のような金属によって形成することができる。ブラケットは、ハウジングに構造的剛性を付加するように構成することができる。ハウジングの角部への衝撃のような衝撃事故の間、角部ブラケットは、カバーガラスへの損傷のような衝撃損傷の量を抑えることができる。ブラケットの形状はコーナーによって異なる。さらに、ブラケットの単純化された形状は、説明のために示されており、異なる形状のブラケットを使用することができる。以下にさらに詳細に説明するように、ブラケットは、接着剤を用いてハウジングに接着することができる。一実施形態では、ブラケットは、トリムビードとカバーの角部を受け入れるための表面を含むことができる。」

「FIG. 3A


FIG. 3Aから、ブラケット150a、150b、150c、150dが設けられたことで、ハウジングの各角部は、ブラケットが設けられていない長辺部よりも厚いことが見てとれる。

(イ)引用文献2の前記(ア)の記載をまとめると、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。

<引用文献2に記載の技術事項>
「携帯型コンピューティングデバイスにおいて、ハウジングの各角部に長辺部より厚いブラケットを設けることで、ハウジングに構造的剛性が付加され、角部への衝撃が発生したときのカバーガラスの損傷を抑えることができること。」

ウ 引用文献7
(ア)引用文献7には、以下の記載がある。下線は当合議体が付した。

「【0020】
図2は、本願発明の実施形態における手持ち電気製品100の概略構造図である。図1に示すように、手持ち電気背品は、ガラスカバー101及び筐体102を含み、筐体102は矩形筐体であり、ベゼル103が筐体102の四隅に設けられ、かつ、ガラスカバー101は、筐体102内に後退して組み込まれ、グラスカバー101も後面が筐体102と結合し、例えば、ガラスカバー101の後面は、筐体102と接着によって結合し、また、筐体102の四隅に設けられたベゼルは、グラスカバー101の後面より高い。」

「【0022】
図3は、本願発明の実施形態における筐体の概略構造図である。図から、筐体の4つの丸面取りがベゼルに設けられ、4つのベゼル以外の筐体の他の部品は中空の板構造であり、ガラスカバーの後面が、板の上面に結合されることが分かる。図3は本願発明のこの実施形態における前筐体のみを示すが、本願発明のこの実施形態における筐体は、本願発明のこの実施形態に限定されることなく、別の構造の前筐体、または、後筐体であり得ることが理解されるべきである。
【0023】
本願発明のこの実施形態では、筐体102の左側部及び右側部はベゼル手段を有さず、ガラスカバー101の左側部及び右側部は、筐体102のベゼルによって覆われていないことが理解されるべきである。本願発明のこの実施形態では、ガラスカバー101の左側部及び右側部は、0.1mm?0.5mm筐体内に別々に後退し得、例えば、ガラスカバー101の左側部と対応する筐体102の左側部との間の距離は0.1mm?0.5mmである。
【0024】
本願発明のこの実施形態では、筐体102の四隅に設けられたベゼル103は、ガラスカバー101の後面より高い。従って、電気製品を落とした際のガラスカバー101への衝撃はさらに軽減される。本願発明のこの実施形態では、筐体102の四隅に設けられたベゼル103は、ガラスカバー101の前面より、低くも、平行でも、または、高くもあり得る。例えば、筐体102の四隅に設けられたベゼル103の最高点は、ガラスカバー101より高い、または、ベゼル103すべてガラスカバー101より高い。例えば、筐体102の四隅に設けられたベゼルの最高点は、ガラスカバーより0.1mm?0.3mm高い。
【0025】
本願発明のこの実施形態では、筐体102の四隅は、弧状面取りであり、筐体の四隅の設けられたベゼルは全て弧状ベゼルであり、筐体の四隅に設けられたベゼルの高さは、弧状面取りが筐体の左側部及び右側部と結合する基部から弧状面取りの中点まで徐々に高くなり、これにより、高さが中間点で弧状面取りの頂点に達する。これにより、ベゼルの高さが滑らかに変化し、電気製品をより美的にする。例えば、電気製品の左側部及び右側部の弧状ベゼルの基部でのベゼルは、ガラスカバーの後面と平行であり、中間点のベゼルは、ガラスカバー101より0.1mm?0.3mm高い。」

「【図2】



「【図3】



(イ)引用文献7の前記(ア)の記載をまとめると、引用文献7には、以下の技術事項が記載されている。

<引用文献7に記載の技術事項>
「手持ち電気製品において、筐体の四隅に設けられたベゼルをガラスカバーよりも高くし、かつ、筐体の四隅に向かってベゼルが徐々に高くなるようにすることで、電気製品を美的にしつつ、電気製品を落とした際のガラスカバーへの衝撃を軽減することができること。」

エ 周知のデザイン
(ア)引用文献3には、以下の記載がある。下線は当合議体が付した。

「【0005】
一方、最近にはスマートフォンにおいて、独創的なデザインが試されていて、このような新しいデザインの試みとして、スクリーン部の形状を従来の単純な平面状からへり部分にラウンド状が含まれた形状に変えた製品が市販された。」

「【0021】
図1ないし図5を参照して説明し、図6ないし図10を部分的に参照すると、本発明の第一実施例による携帯電子機器用プロテクタは、へり部分(11b)がラウンド状に形成されたスクリーン部(11)と、このスクリーン部(11)が設置される本体部(12)を含む携帯電子機器(10)を保護するためのプロテクタであって、平面保護部(100)とへり保護部(200)とを含む。」

「【図3】



「【図4】



(イ)引用文献3の前記(ア)の記載によると、次のデザインは周知であると認められる。

<周知のデザイン>
「本体部のへり部分をラウンド状とした携帯電子機器のデザイン。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「ポータブルコンピュータ1」は電子機器であるから、本件補正発明と引用発明は、ともに「電子機器」の発明である点で一致する。

イ 引用発明の「フレーム3」は、略直方体のハウジングを構成するものであるから、本件補正発明の「略直方体のハウジング」に相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「略直方体のハウジング」を備える点で一致する。

ウ 引用発明の「表示モジュール5」は、本件補正発明の「表示部」に相当する。そして、引用発明において「フレーム3」の前面に「表示領域7a」が配置されていることから、「表示モジュール5」が「フレーム3」の前面に配置されていることは明らかといえる。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記ハウジングの前面に配置される表示部」を備える点で一致する。

ウ 引用発明の「保護板7」は、本件補正発明の「カバー部」に相当する。そして、引用発明は、「フレーム3」の「実装部10」と「保護板7」の間に規定された「第1の実装スペース12」に「表示モジュール5」を収容したものであり、当該「保護板7」は、「表示モジュール5」の前面に位置するものである。さらに、引用発明は、「略直方体のハウジング」を構成する「フレーム3」の「外郭壁16」の「第1の縁部16a」が、「保護板7」を周方向に連続して取り囲んでいる。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記表示部の前記前面を覆い、前記ハウジングに外周を囲まれるカバー部」を備える点で一致する。

エ 引用発明における「フレーム3」の「外郭壁16」は、本件補正発明における「ハウジング」の「外周部」に相当する。そして、当該「外郭壁16」は略矩形状であるから、長辺部と短辺部と角部を含むことは自明である。さらに、当該「外郭壁16」の「第1の縁部16a」の全体は、「保護板7」よりも数ミリ突出している。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記ハウジングは、前記ハウジングの側面に外周部を含み、前記外周部は、長辺部と短辺部と角部とを含み」、「前記長辺部に配置されている部分は、前記カバー部よりも突出し」ている点で一致する。

(5)一致点及び相違点
前記(4)の対比の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点
「略直方体のハウジングと、
前記ハウジングの前面に配置される表示部と、
前記表示部の前記前面を覆い、前記ハウジングに外周を囲まれるカバー部と、を備え、
前記ハウジングは、前記ハウジングの側面に外周部を含み、
前記外周部は、長辺部と短辺部と角部とを含み、
前記長辺部に配置されている部分は、前記カバー部よりも突出している電子機器。」

イ 相違点
(ア)相違点1
本件補正発明は、「ハウジング」の「外周部」について、「前記表示部に直交する方向から見た場合、前記角部が、前記長辺部に配置されている部分よりも厚く」なっているのに対して、引用発明は、「フレーム3」の「外郭壁16」について、その角部と長辺部の厚さの差に関する限定を有しない点。

(イ)相違点2
本件補正発明は、「ハウジング」の「外周部」について、「前記表示部に平行な方向から前記長辺部を見た場合、前記角部が、前記カバー部よりも突出し、かつ、前記長辺部に配置されている部分よりも突出しており、前記長辺部の中央から前記角部に向かう方向において前記外周部の第1の特定位置で漸次的に突出量が増加」するものであるのに対して、引用発明は、「フレーム3」の「外郭壁16」について、その角部と長辺部での突出量の差に関する限定を有しない点。

(ウ)相違点3
本件補正発明は、「ハウジング」の「外周部」について、「前記角部は、前記表示部に平行な方向において、前記表示部に直交する方向に中央付近が突出する凸部を有し、前記凸部は、前記表示部に平行な方向において、表面が曲面状に変化し、前記前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径は、当該前面に対向する後面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径より大きい」ものであるのに対して、引用発明は、「フレーム3」の「外郭壁16」について、凸部の有無やその曲率半径に関する限定を有しない点。

(6)相違点についての判断

ア 相違点1について
引用文献2には、「携帯型コンピューティングデバイスにおいて、ハウジングの各角部に長辺部より厚いブラケットを設けることで、ハウジングに構造的剛性が付加され、角部への衝撃が発生したときのカバーガラスの損傷を抑えることができること。」という技術事項が記載されている(前記(3)イ(イ))。
引用発明と引用文献2に記載の技術は、ポータブルコンピュータのハウジングの構造という技術分野において共通する。さらに、引用発明は、落下の衝撃による保護板7の破損を防止することを課題としているから、当該課題を解決するための手段として、引用文献2に記載されたブラケット又はブラケットの構造を引用発明におけるバンパー部に適用することは、当業者が適宜なしえる事項にすぎない。
そして、この場合、「フレーム3」の「外郭壁16」の各角部は長辺部より厚くしたものとなるから、相違点1の「前記表示部に直交する方向から見た場合、前記角部が、前記長辺部に配置されている部分よりも厚く」なっているという構成は満たされることとなる。
したがって、引用発明において相違点1に係る構成を備えるようにすることは、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用文献7には、「手持ち電気製品において、筐体の四隅に設けられたベゼルをガラスカバーよりも高くし、かつ、筐体の四隅に向かってベゼルが徐々に高くなるようにすることで、電気製品を美的にしつつ、電気製品を落とした際のガラスカバーへの衝撃を軽減することができること。」という技術事項が記載されている(前記(3)ウ(イ))。
引用発明と引用文献7に記載の技術は、携帯型電気製品のハウジングの構造という技術分野において共通する。さらに、引用発明において、なるべく美観を持たせることは当業者の自明な配慮事項又は設計指針であり、引用発明は落下の衝撃による保護板7の破損を防止することを課題としているから、前記配慮事項又は設計指針に配慮しつつ、当該課題を解決するための手段として、引用発明におけるバンパー部において、「筐体の四隅に向かってベゼルが徐々に高くなる」という引用文献7に記載された技術を適用することは、当業者が適宜なしえる事項にすぎない。
そして、引用発明に引用文献7に記載の技術を適用すると、「フレーム3」の「外郭壁16」が四隅において「保護板7」よりも高くなるから、相違点2の「前記表示部に平行な方向から前記長辺部を見た場合、前記角部が、前記カバー部よりも突出し、かつ、前記長辺部に配置されている部分よりも突出しており」という構成は満たされることとなる。加えて、「フレーム3」の「外郭壁16」が四隅に向かって徐々に高くなるときに当然に存在する、高さの変化が開始する位置は、「第1の特定位置」にほかならないから、相違点2の「前記長辺部の中央から前記角部に向かう方向において前記外周部の第1の特定位置で漸次的に突出量が増加」するという構成も満たされることとなる。
したがって、引用発明において相違点2に係る構成を備えるようにすることは、引用発明及び引用文献7に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
「本体部のへり部分をラウンド状とした携帯電子機器のデザイン」は周知である(前記(3)エ(イ))。
引用発明において、「フレーム3」の「外郭壁16」に当該周知のデザインを採用することは当業者にとって容易であり、その結果、相違点3の「前記角部は、前記表示部に平行な方向において、前記表示部に直交する方向に中央付近が突出する凸部を有し、前記凸部は、前記表示部に平行な方向において、表面が曲面状に変化」するという構成は満たされることとなる。
なお、相違点3には、「前記前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径は、当該前面に対向する後面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径より大きい」という限定事項が更に存在するところ、下記(ア)及び(イ)に示す理由により、かかる限定に基づく技術効果は認めることができないから、当該限定は、デザインの差としてしか評価できないものである。したがって、前記限定は、当業者が適宜選択すべき設計上の事項であって、格別のものではない。
(ア)まず、「前記前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径は、当該前面に対向する後面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径より大きい」という限定事項は、本願の明細書に明示されたものではなく、【図5】のみに図示された内容が、上記記述と矛盾しないという程度のものにしかすぎず、したがって、当該限定によって得られる効果は、本願の明細書には説明されていない。
(イ)そして、審判請求人は、審判請求書において、「ユーザが表示部側を自分に向けて電子機器を把持するとき、親指或いは手の母指球が『前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面』にひっかけ易くなりユーザが電子機器を強く把持できるという効果」があることを主張しているところ、当該主張された効果の存在は、明らかに認められるものではない。また、仮に効果があったとしても、前記限定は、「前記前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径」と「当該前面に対向する後面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径」の大小の程度を特定していないため、前者が後者に対して無限小のごく僅かに大きいだけのものが含まれ、そのようなごく僅かな差に基づいて有意な技術上の効果があるとは、到底考えられないことである。
したがって、請求人の主張する技術効果の主張は、採用することができない。

以上検討のとおりであるから、引用発明において相違点3に係る構成を備えるようにすることは、実質的に、引用発明及び周知のデザインに基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(7)作用効果について
本件補正発明の奏する作用効果としては、引用発明、引用文献2及び7に記載の技術事項及び周知のデザインから予測されるものを超える格別顕著なものは、認めることができない。

(8)独立特許要件についての判断のまとめ
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2及び7に記載の技術事項及び周知のデザインに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
以上検討のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願に係る発明
本件補正は、上記第2において述べたとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
本願発明は、以下の引用文献8、2及び7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献8:特開2012-215682号公報(前掲)
引用文献2:米国特許出願公開第2012/0194998号明細書(前掲)
引用文献7:特表2015-524632号公報(前掲)

3 引用文献に記載された発明等
引用文献8には、前記第2の3(3)ア(イ)において記載したとおりの引用発明が記載されている。引用文献2には、前記第2の3(3)イ(イ)において記載したとおりの技術事項が記載されている。引用文献7には、前記第2の3(3)ウ(イ)において記載したとおりの技術事項が記載されている。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「角部」について、「前記角部は、前記表示部に平行な方向において、前記表示部に直交する方向に中央付近が突出する凸部を有し、前記凸部は、前記表示部に平行な方向において、表面が曲面状に変化し、前記前面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径は、当該前面に対向する後面から当該凸部の頂点に向かって延びる曲面の曲率半径より大きい」という限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明は、前記第2の3(5)イ(ア)及び(イ)で示した相違点1及び2のみにおいて相違する。
そして、前記第2の3(6)ア及びイで示したとおり、引用発明に対して引用文献2及び7に記載の技術をそれぞれ適用し、相違点1及び2に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本願発明は、引用文献8、2及び7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-12-21 
結審通知日 2020-12-22 
審決日 2021-01-07 
出願番号 特願2019-75951(P2019-75951)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09F)
P 1 8・ 121- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川俣 郁子  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 岸 智史
中塚 直樹
発明の名称 電子機器  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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