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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和1行ケ10160 審決取消請求事件 判例 特許
異議2018701011 審決 特許
異議2021700592 審決 特許
異議2019700557 審決 特許
令和1行ケ10067 審決取消請求事件 判例 特許

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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1371550
審判番号 不服2019-17608  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-26 
確定日 2021-03-04 
事件の表示 特願2018- 32836「脂質代謝促進用組成物、脂質代謝促進用機能性食品及び肥満の予防または改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日出願公開、特開2018- 90619〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月22日(優先権主張 平成23年9月20日)を出願日とする特願2012-183468号の一部を、平成30年2月27日に新たな特許出願としたものであって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。

平成30年 3月28日受付:上申書及び手続補正書
平成30年 9月28日受付:刊行物等提出書
(以下、「刊行物等提出書1」という。)
平成31年 2月18日付け:拒絶理由通知
令和 1年 6月25日受付:意見書及び手続補正書
令和 1年 8月 5日受付:刊行物等提出書
令和 1年 9月25日付け:拒絶査定
令和 1年12月26日受付:審判請求書及び手続補正書
令和 2年 2月17日受付:刊行物等提出書

第2 令和1年12月26日受付の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年12月26日受付の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所を示す。)

「 【請求項1】
経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用組成物であって、
6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガを有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝促進用組成物。
【請求項2】
安静時の脂質代謝を促進するための請求項1に記載の脂質代謝促進用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の脂質代謝促進用組成物を含有することを特徴とする経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための機能性食品。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和1年6月25日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。(下線部は本件補正による補正箇所に対応する部分である。)

「 【請求項1】
経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用組成物であって、
6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガを有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝促進用組成物。
【請求項2】
安静時の脂質代謝を促進するための請求項1に記載の脂質代謝促進用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の脂質代謝促進用組成物を含有することを特徴とする脂質代謝促進用機能性食品。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1の記載、並びに本願明細書【0019】の「エネルギー代謝は、糖質代謝と脂質代謝に大別されるが、本発明の代謝促進組成物は特に脂質代謝を促進する作用が大きく」なる記載及び本願明細書【0047】の「図3から図5からわかるように、(当審注:経口摂取により)実施例(加熱発酵ショウガ)では、安静時代謝、運動時代謝及び回復時代謝のいずれにおいても、エネルギー代謝総量の脂質代謝の寄与分が、比較例1(プラセボ)又は比較例2(乾燥ショウガ)より大きくなっていることがわかる。」なる記載に基づき、補正前の請求項3における「脂質代謝促進用」を、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための」と特定するものであり、補正前の請求項3に記載された発明と補正後の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の、請求項1を引用する請求項3に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)の記載より、以下のとおりのものである。

「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用組成物であって、6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガを有効成分として含有する脂質代謝促進用組成物を含有することを特徴とする経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための機能性食品。」

(2)引用文献の記載事項
ア 刊行物等提出書1にて写しとして提出され、原査定の拒絶の理由で引用された、株式会社のぞみ,“生姜美人スッキリスリム”,[2016年12月21日検索],インターネット<URL:http://www.806808.jp/>,
(以下、「引用文献1」という。)の写しには、以下の事項が記載されている。(本文にない下線は当審にて付与した。以下についても同様。)

「ついに誕生!発酵黒生姜入りのスリムティー!あなたのダイエットをサポートします。
生姜美人スッキリスリム
・・・
購入はこちら」
(当審注:「生姜美人スッキリスリム」は商品名である。)
「発酵黒生姜も贅沢にミックス!
発酵黒生姜
血行を良くする成分ショウガオールが約30倍!
○1体を温める効果(低体温改善)
(当審注:「○1は」○の中に1が入った記号を示す、以下同様。)
○2血小板凝集抑制作用
○3抗炎症効果・血行促進
○4冷え性の改善・胃腸の働きの向上
○5アディポネクチン増産による糖尿病の予防
○6脂肪分解・抗酸化作用
生姜に含まれるジンゲロールという生姜成分は熱に弱く、空気に触れると壊れてしまう性質があります。発酵黒生姜は、生姜を発酵・熟成させることでジンゲロールを「ショウガオール」という成分に変換し、効率よく生姜の成分を摂取できるようにした優れた素材なのです。
ショウガオールはジンゲロールに比べて、血の巡りを良くする働き(毛細血管の拡張作用)や体を温める効果、抗炎症作用がはるかに強いので、新陳代謝の向上や冷え性予防、免疫力向上に貢献する成分として期待されています。」
「★驚異のファイブスター成分!★ 生姜美人スッキリスリムの主な成分
★キャンドルブッシュ(ゴールデンキャンドル)
・・・
★発酵黒生姜
ポカポカと体を温める成分は生姜に含まれるショウガオールという成分。発酵黒生姜は生姜を発酵熟成、そして乾燥させることでショウガオール成分を大幅にアップさせた生姜です。血のめぐりを良くする効果もあり、今最も注目されている食材のひとつなのです。
★金時生姜
・・・
★ルイボス
・・・
★キダチアロエ
・・・」
「生姜美人スッキリスリムは研究に研究を重ねて誕生したこだわりの逸品。
そのこだわりをひとつひとつ丁寧に、ティーパックの中に詰め込んでいます。」
「http://www.806808.jp/」「2016/12/21」
(当審注:URLは写し各頁の左下、日付は右下に記載されている。)

イ 刊行物等提出書1にて写しとして提出され、原査定の拒絶の理由で引用された、原田大輔,“ホームページ制作のハラプロ”,[2016年12月21日検索],インターネット
<URL:http://www.harapro.jp/blog/archives/date/2011/03/page/3>
(以下、「引用文献2」という。)の写しには、以下の事項が記載されている。

「生姜美人ホームページOPEN
2011年3月7日
・・・
福岡のルフィこと、エクサイトの山口社長が、
新たにはじめた通販プロジェクト
生姜美人のホームページを作らせていただきました。

http://www.806808.jp/
・・・
生姜美人シリーズの第一弾「スッキリスリム」は
生姜効果でからだが温まり、なおかつ便秘を解消してくれる優れもの。
女性にとってはたまらないアイテムです。
冷え性や便秘でお悩みの方は、ぜひお試しください。」
「http://www.harapro.jp/blog/archives/date/2011/03/page/3」
「2016/12/21」(当審注:URLは写し各頁の左下、日付は右下に記載されている。)

ウ 刊行物等提出書1にて写しとして提出され、原査定の拒絶の理由で引用された、“ふく経ニュース”,[2016年12月21日検索],インターネット
<URL:http://www.fukuoka-keizai.co.jp/content/asp/week/week.asp?
PageID=3&Kkiji=3502&tpg=569&Knum=6&pp=top&CntFlg=false>
(以下、「引用文献3」という。)の写しには、以下の事項が記載されている。

「健康食品の通信販売を開始
エクサイト 子会社を設立
通信コンサル・セミナー事業の株式会社エクサイト(福岡市中央区百道2丁目、山口貴史社長)は2月11日、本社内に子会社を設立し健康食品の通信販売業を開始した。
子会社の名称は株式会社のぞみ。本社はエクサイト社内で、社長は山口社長が兼任する。ショウガの成分を配合したお茶で、便通の改善と血行促進による体温上昇の効果が期待される商品を開発し、販売する。商品名は「生姜美人スッキリスリム」。・・・
週刊経済:2011年2月22日発行 No.1192」
「http://www.fukuoka-keizai.co.jp/content/asp/week/week.asp?
PageID=3&Kkiji=3502...」「2016/12/21」
(当審注:URLは写し各頁の左下、日付は右下に記載されている。)

エ 刊行物提出書1にて写しとして提出され、原査定の拒絶の理由で引用された特開2011-32248号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。

「この発明は、ショウガ科植物由来の原料を、そのまま、加熱、または、微生物を利用して植物または乳を発酵させた発酵液中または発酵液から抽出した酵素液中に漬け込んだ後、加熱することによって、ジンゲロール類を効率よくショウガオール類に変換し、これによって、ショウガオール類を富化するものである。
すなわち、ショウガ科植物由来の原料(葉、茎、根茎等)を、微生物を利用して植物または乳を発酵させた発酵液中または発酵液から抽出した酵素液中に漬け込んだ後、加熱方法として、蒸気加熱、遠赤外線等の電磁波を利用した加熱、電気ヒーター等の電熱機器を使用した加熱、直火、を利用した加熱等によって、淡褐色になるまで、温度30℃?90℃、湿度50%?90%、120時間?500時間、加熱する。
・・・
そして、ジンゲロール類の発酵・熟成によるショウガオール類への変換のメカニズムは、以下の反応による脱水反応により、ショウガオール類に変化したものと考えられる。
【化2】

式中、n=1?10の整数を表す。
主に、ショウガオール類はn=4、6、8に相当する6-ショウガオール、8-ショウガオール、または10-ショウガオールを指す。
また主に、ジンゲロール類はn=4,6,8に相当する6-ジンゲロール、8-ジンゲロール、10-ジンゲロールを指す。
この発明の処理法によって富化したショウガオール類は安定して維持でき、しかも、ショウガオール類の含有量が、従来の抽出法によるものと対比して2倍以上、すなわち、ショウガ科植物の含有成分であるショウガオールとジンゲロールの比率は1:1?30:1の組成の富化物とすることができる。」(【0012】-【0018】)

「この発明においては、ショウガ科植物由来の原料をそのままを加熱熟成してよいし、発酵液と混合した後、温度30℃?90℃、湿度50%?90%の条件下で、120時間?500時間加熱するが、加熱の手段としては、蒸気加熱、遠赤外線等の電磁波を利用した加熱、電気ヒーター等の電熱機器を使用した加熱、直火、を利用した加熱等によって、淡褐色になるまで、温度30℃?90℃、湿度50%?90%の下で、120時間?500時間、加熱する。
加熱条件としては、およそ2日間かけて30℃から78℃に上昇させ、78℃を維持した状態で10日から2週間、湿度を約70%に保ち、熟成を行った後、徐々に温度と湿度を下げるのが好ましい。熟成が不十分な場合は、さらに加熱熟成を行ってもよい。加熱熟成後、1ヶ月間、約20℃の湿度の低い環境で乾燥・熟成を行うことが好ましい。
この加熱条件を得るためには、遠赤外線による加熱が、微生物が植物を発酵させることのできる温度を調節しやすいことや、原料を熟成させる温度を調整しやすい点から好ましい。」(【0037】-【0039】)

「以下、この発明の実施例を、ショウガ科植物に該当する生姜の原料として、三州生姜を用いた例によって説明する。
【実施例】
原料の処理
生姜原料100gをステンレス製のビーカーに入れ、発酵素液を加え、浸漬した。
酵素液としては、種麹で玄米を発酵させ、得られた玄米発酵物50gに水200mLを加えて調製し、そのうち60mLを使用した。
浸漬後、この混合物を、遠赤外線を熱源として備えた蒸し器に入れ、50時間かけて30℃から78℃に温度を上昇させ、78℃を維持したまま、湿度約70%で300時間保持して蒸し込んだ。 加熱後、この生姜を78℃から徐々に冷却し、50時間かけて室温に戻した。熟成工程に合計400時間を要した。熟成後、この生姜を1ヶ月間乾燥させた後、加工生姜を秤量したところ、11gとなり、回収率は11%であった。
酵素液浸漬と加熱熟成処理前後の生姜抽出液のショウガオール類含量分析
酵素・熟成処理前後の生姜抽出液のショウガオール類の含量を分析した。
・・・
酵素液浸漬・加熱熟成処理前の生姜抽出液の分析結果を表1に示す。
【表1】

」(【0040】-【0046】)

(3)引用文献1の公開日
引用文献1は「生姜美人スッキリスリム」なる商品の販売ウェブページであるが、公開日の明記はない。
しかしながら一方で、引用文献2には、「2011年3月7日」の記事として、「生姜美人シリーズの第一弾「スッキリスリム」」なる商品の通販ホームページが作成されたこと、当該通販のプロジェクトが「エクサイトの山口社長」によるものであること、及び当該ホームページのURLとしての引用文献1のURLが記載されている。
また引用文献3には、「2011年2月22日」の記事として、「株式会社エクサイト(福岡市中央区百道2丁目、山口貴史社長)」により「生姜美人スッキリスリム」なる商品の通販が開始されたことが公開されている。
そして、引用文献1?3に記載された商品名の共通性、引用文献2に引用文献1のURLが記載されていること、さらには引用文献2及び3における通販会社名及び会社社長の姓の同一性からみて、引用文献2の「生姜美人シリーズの第一弾「スッキリスリム」」、引用文献3の「生姜美人スッキリスリム」とは、引用文献1に記載される「生姜美人スッキリスリム」に他ならず、この「生姜美人スッキリスリム」については、少なくとも「2011年3月7日」(平成23年3月7日)時点において、引用文献1のウェブページを介し通販事業がなされていたものと推認できる。
したがって、引用文献1は、本願優先日の平成23年9月20日以前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである。

(4)引用文献1に記載された発明
上記(2)アのとおり、引用文献1には「生姜美人スッキリスリム」なる商品として、「発酵黒生姜」、キャンドルブッシュ、金時生姜、ルイボス及びキダチアロエを主な成分として含み、ダイエットをサポートするスリムティーが記載されている。また、「発酵黒生姜」について、生姜を発酵・熟成及び乾燥させたものであり、それにより生姜中のジンゲロールがショウガオールに変換され、ショウガオールの量が約30倍となったものであること、さらには脂肪分解作用を有することも記載されている。
そうすると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「生姜を発酵・熟成及び乾燥させ、ショウガオールの量が約30倍となった、脂肪分解作用を有する発酵黒生姜、キャンドルブッシュ、金時生姜、ルイボス及びキダチアロエを主な成分として含む、ダイエットをサポートするスリムティー。」

(5)本件補正発明と引用発明との対比及び判断
ア 以下、本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「生姜を発酵」「させ」、「ショウガオールの量が約30倍となった」「発酵黒生姜」「を主な成分として含む」「ダイエットをサポートするスリムティー」は、本件補正発明の「ショウガオールが富化した」「発酵ショウガを有効成分として含有する」「組成物を含有することを特徴とする」「機能性食品」に相当する。
したがって、両者は、
「ショウガオールが富化した発酵ショウガを有効成分として含有する組成物を含有することを特徴とする、機能性食品。」
である点で一致する一方、以下の点で相違する。

<相違点1>
「ショウガオールが富化した発酵ショウガ」が、本件補正発明においては、「6-ショウガオール」が富化した「加熱」発酵ショウガであるのに対し、引用発明においては、ショウガオールのうち「6-ショウガオール」が富化されたこと及び「加熱」について特定されていない点。

<相違点2>
本件補正発明においては、「組成物」が、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用」であり、それを含有する「機能性食品」が、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるため」のものであるのに対し、引用発明においては、「組成物」が、「脂肪分解作用を有する」成分である発酵黒生姜を含み、それを含有する「機能性食品」が、「ダイエットをサポートする」ものである点。

イ 以下、相違点1について検討する。
(ア)本願明細書には、「本発明の代謝促進組成物に含まれる加熱発酵ショウガは、原料である原料発酵ショウガを、加熱処理したものであり、未加工の生ショウガ、生ショウガを乾燥させた乾燥ショウガ、生ショウガを発酵させた発酵ショウガと比較してショウガオール類を多く含有する。発酵ショウガの原料となる生ショウガは、ジンゲロール類を主成分としておりショウガオール類の含有量は微量であるが、ショウガを発酵させたのち、加熱する過程を経ることにより、ショウガオール類の量を増加させることができる。」及び「原料発酵ショウガの加熱条件は、発酵ショウガが熱劣化せずに、ジンゲロール類を効率よくショウガオール類に変化させることができる条件で選択される。」(【0017】及び【0028】:下線は当審にて付与した。)と記載され、実施例においても、生ショウガの加熱発酵により、6-ショウガオールが550ppmから3700ppmに富化したことが記載されている(【0039】)ことからみて、本件補正発明の「加熱発酵ショウガ」とは、6-ショウガオールを含むショウガオール類が富化したものであるといえる。

(イ)一方、引用文献1の「発酵黒生姜は、生姜を発酵・熟成させることでジンゲロールを「ショウガオール」という成分に変換し」及び「発酵黒生姜は生姜を発酵熟成、そして乾燥させることでショウガオール成分を大幅にアップさせた生姜」なる記載(上記(2)ア)からみて、引用発明の「発酵黒生姜」は、発酵・熟成及び乾燥前の未処理の生姜に比して「ショウガオールの量が約30倍となった」もの、すなわちショウガオール類が富化したものであるといえる。そして、通常生姜には6-ジンゲロールを含む各種ジンゲロール類が含まれ、6-ジンゲロールから生成される6-ショウガオールを含む、各種ジンゲロール類に対応した各種ショウガオール類が脱水反応により生成されるのだから(例えば、上記(2)エ:引用文献5の【0012】-【0018】参照)、ショウガオール類が富化した引用発明の「発酵黒生姜」においては、ショウガオール類の一つである6-ショウガオールの量も富化したといえる。

(ウ)そうすると、本件補正発明の「6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガ」と、引用発明の「生姜を発酵・熟成及び乾燥させ、ショウガオールの量が約30倍となった」「発酵黒生姜」とは、その組成において、すなわち「物」として区別できない。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(エ)仮に、引用発明の「発酵黒生姜」が本件補正発明の「加熱発酵ショウガ」と「物」として区別し得るとしても、引用発明の「発酵黒生姜」はショウガオールに富んだ成分として使用されるものである一方、引用文献5には、発酵及び加熱熟成することでジンゲロール類を効率よくショウガオール類に変換する方法が記載されているから(上記(2)エ)、引用発明の「発酵黒生姜」を「生姜を発酵・熟成及び乾燥させ」て得る際、熟成工程として加熱熟成を行い、相違点1に係る本件補正発明の「加熱発酵ショウガ」とすることは、当業者であれば適宜なし得る事項である。
そして、本願明細書の記載からは、「加熱」により本件補正発明が引用発明に比して顕著な効果を奏するものとはいえない。

ウ 以下、相違点2について検討する。
(ア)本願明細書には、以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)
a 「本発明は、経口摂取により、基礎代謝を向上させ、肥満の予防・改善に効果的な代謝促進組成物および機能性食品に関する。」(【0001】)

b 「・・・肥満は、糖尿病など成人病を引き起こす原因の一つとされている。・・・ダイエット効果のある機能性食品が望まれている。
ショウガを利用した肥満の予防・改善作用に関する検討として・・・報告している。しかしながら、・・・ショウガに含まれる成分によるエネルギー代謝促進についての詳細な知見はないのが実状である。」(【0007】【0008】)
「かかる状況下、本発明の目的は、ショウガの有するヒトのエネルギー代謝促進作用を増強し、安全で嗜好的にも優れ、日常的に経口摂取のしやすい、ショウガを原料とした代謝促進組成物および機能性食品を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ショウガを特定の条件で発酵させることで得られる発酵ショウガをさらに加熱した加熱発酵ショウガが優れた代謝促進作用を有することを見出し、本発明に至った。」(【0012】【0013】)

c 「従来のショウガ加工品に比し、ヒトのエネルギー代謝、特に脂質代謝に対して優れた促進作用が認められるショウガを含有する代謝促進組成物が提供される。
該代謝促進組成物を含有する機能性食品は、安全で嗜好的にも優れ、日常的に経口摂取しやすく、肥満の予防・改善に有用である。」(【0015】)

d 「本発明の代謝促進組成物の特徴は、従来のショウガ加工品と比し、エネルギー代謝を促進する効果が大きいことが挙げられる。エネルギー代謝は、糖質代謝と脂質代謝に大別されるが、本発明の代謝促進組成物は特に脂質代謝を促進する作用が大きく、安静時においても優れた脂質代謝の促進作用を有する。そのため、本発明の代謝促進組成物は、脂質代謝用の代謝促進組成物として、肥満の予防・改善に直接的に優れた効果を有する。」(【0019】)

e 「実施例及び比較例の脂質消費量を評価した。
・・・
対象者は、身体組成(身長、体重)を測定し、座位安静を30分間以上保った。呼気ガス量と呼気ガス濃度はミナト社製の呼気ガス分析機(エアロモニタAE-310S)によって分析した。酸素摂取量、二酸化炭素産生量、呼吸商、呼気排出量などを測定した。
実施例(加熱発酵ショウガ)、比較例1(プラセボ)又は比較例2(乾燥ショウガ)を3.0g摂取し30分間の安静時代謝、30分間の運動時代謝、60分間の回復時代謝を測定した。各測定間の脂質消費量を比較した。」
「・・・実施例(加熱発酵ショウガ)では、安静時代謝、運動時代謝及び回復時代謝のいずれにおいても、エネルギー代謝総量の脂質代謝の寄与分が、比較例1(プラセボ)又は比較例2(乾燥ショウガ)より大きくなっていることがわかる。」(【0045】及び【0047】)

(イ)上記(ア)a?eの記載からみて、本件補正発明は、加熱発酵ショウガが「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させる」ことで優れた「脂質代謝促進」作用を有するという属性を見出したことに基づくものである。
そこで、上記属性により提供される、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用」組成物を含有する本件補正発明の、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための」という機能性食品についての用途が、引用発明の用途と異なるものであるのか否かについて、検討する。

(ウ)上記(ア)a?dの記載からみて、本件補正発明の「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用組成物」及び「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための機能性食品」とは、各々、脂質の低減による肥満の予防・改善(ダイエット)を目的として含有される「組成物」であり、脂質の低減による肥満の予防・改善(ダイエット)を目的とする者が摂取する「機能性食品」であるといえる。

(エ)一方、引用発明に係るスリムティーは、「脂肪分解作用を有する」「発酵黒生姜」を主な成分として含有し、「ダイエットをサポートする」ものである。
そして、「脂肪分解作用」とは体内に貯蔵されていた脂肪(脂質)の分解を意味するところ、脂肪(脂質)は分解により当然に低減され、また、脂肪を分解する「発酵黒生姜」は、通常肥満の予防・改善を意味する「ダイエット」をサポートするスリムティーの有効成分として含有されるのだから、引用発明の「脂肪分解作用を有する」「発酵黒生姜」を主な成分とする各種成分(すなわち「組成物」)は、脂質の低減による肥満の予防・改善(ダイエット)を目的として含有されるものである。そして、そのような目的で「発酵黒生姜」を主な成分とする各種成分(組成物)を含有する、引用発明に係る「ダイエットをサポートするスリムティー」は、脂質の低減による肥満の予防・改善(ダイエット)を目的とする者が摂取するものである。

(オ)そうすると、引用発明の「脂肪分解作用を有する」「発酵黒生姜」を主な成分とする「組成物」と本件補正発明の「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用組成物」とは、実質的に同じ目的を達成する組成物であり、各々を含有する、引用発明に係る「ダイエットをサポートするスリムティー」と本件補正発明に係る「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための機能性食品」とは、いずれも脂質の低減による肥満の予防・改善(ダイエット)を目的とする者が摂取するものであり、摂取をする者について実質的に区別することができない。
したがって、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させる」ことで「脂質代謝促進」作用を有するという属性を見出したことに基づく本件補正発明において、たとえそれが未知の属性であったとしても、本件補正発明が、その未知の属性を発見したことによって引用発明とは異なる新たな用途を提供するものとはいえない。
よって、相違点2もまた、実質的な相違点ではない。

エ 以下、請求人の主張について検討する。
請求人は、令和1年12月26日受付の審判請求書において、
「審査官の認定のうち、・・・引用文献1・・・で開示された「発酵黒生姜」(生姜美人スッキリスリム)は、本願発明に係る「6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガ」と同一のものであること、引用文献1・・・が本願出願前に公開されていることは認める。また、引用文献1には「発酵黒生姜」が「脂肪分解」作用を有することが記載され・・・ていること、についても認める。
また、・・・本願発明に係る「6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガ」は、引用文献5・・・にて開示された「加熱発酵ショウガ」に相当するものであることも認める。」(審判請求書5頁(3-2)1?2段落)
とした上で、概略、以下のとおり主張する。

引用文献1に開示されているのは、発酵黒生姜が「脂肪分解」作用、すなわち、脂質自体を分解する作用を有することであるから、引用文献1には、加熱発酵ショウガに相当する発酵黒生姜が脂質代謝促進作用を有することが開示されているとは認められない。また、引用文献1の記載から、加熱発酵ショウガを「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させる」作用があることについての知見を得ることができない一方、本願発明は、当該作用を見出したことにより、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための」用途という新たな用途を提供したものであり、引用文献1に記載の「脂肪分解作用」とは区別できるものである(審判請求書5?7頁の(3-1)及び(3-3))。

しかしながら、上記ウに説示したとおり、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させる」ことで「脂質代謝促進」作用を有するという属性を見出したことに基づく本件補正発明において、たとえそれが未知の属性であったとしても、引用発明の「脂肪分解作用を有する」「発酵黒生姜」を主な成分とする「組成物」と本件補正発明の「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用組成物」とは、作用上の表現として「脂肪分解」と「脂質代謝」とで異なるものの実質的に同じ目的を達成する組成物であり、また、引用発明に係る「スリムティー」と「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための機能性食品」とは、いずれも脂質の低減による肥満の予防・改善(ダイエット)を目的とする者が摂取するものであり、摂取をする者について実質的に区別することができないので、本件補正発明が引用発明に対して新たな用途を提供したものとはいえない。
したがって、審判請求書における上記主張は、採用することはできない。

オ 以上ア?エより、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、引用文献1に記載された発明及び引用文献5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、令和1年6月25日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1を引用する請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(2)の記載より、以下のとおりのものである。

「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための脂質代謝促進用組成物であって、6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガを有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝促進用組成物を含有することを特徴とする脂質代謝促進用機能性食品。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。

1.この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1?3及び5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、引用文献1?3及び5は、上記第2の2(2)における引用文献1?3及び5である。

3 引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献1?3及び5の記載事項については、上記第2の2(2)に示すとおりである。また、引用発明についても、上記第2の2(4)に示すとおりである。

4 本願発明と引用発明との対比及び判断
上記第2の2で検討したとおり、本願発明の「脂質代謝促進用」機能性食品を、「経口摂取することによってエネルギー代謝総量(糖質代謝及び脂質代謝の合計)における脂質代謝の割合を増加させるための」機能性食品と特定したものが本件補正発明であるから、本願発明は、本件補正発明を包含するものである。
そして、上記第2の2に説示した本件補正発明と同様の理由により、本件補正発明を包含する本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明及び引用文献5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願請求項3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-12-16 
結審通知日 2020-12-22 
審決日 2021-01-05 
出願番号 特願2018-32836(P2018-32836)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 松本 直子
小川 知宏
発明の名称 脂質代謝促進用組成物、脂質代謝促進用機能性食品及び肥満の予防または改善方法  
代理人 森 博  
代理人 森 博  

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