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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1371596
審判番号 不服2018-9319  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-05 
確定日 2021-03-02 
事件の表示 特願2016-557002「性ステロイド前駆体とSERMとの併用による男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月17日国際公開、WO2015/135061、平成29年 3月23日国内公表、特表2017-507975〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [第1]手続の経緯
本願は、平成27年3月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年3月10日 米国、外1)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月5日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正がなされ、その後、当審において令和1年9月18日付けで拒絶理由が通知されたところ、令和2年3月19日付けで手続補正がなされると共に意見書が提出されたものである。


[第2]本願発明
本願の請求項1?16に係る発明は、令和2年3月19日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」ということがある)。

「 男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させるための医薬の製造における、性ステロイド前駆体の、選択的エストロゲン受容体調節薬と組み合わせた使用であって、前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、循環テストステロンのレベルを上昇させるLH分泌を刺激し、前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロンであり、前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、アコルビフェン又はEM-800である、使用。 」


[第3]当審による拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由
上述の当審による令和1年9月18日付けの拒絶理由通知書(以下、単に拒絶理由通知書ということがある)に記載された拒絶の理由1の一部の概要は、本願発明は、本願優先日前に頒布された次の刊行物A1に記載された発明と刊行物Bの記載との組合せに基づいて、若しくは、刊行物A1に記載された発明と刊行物A2?A6のいずれかの記載及び刊行物Bの記載との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

[引用刊行物等一覧]
A1.特表2008-511615号公報
A2.KATZ,DJ ET AL., BJU INT., (2012) 110(4) P.573-578
A3.TAYLOR,F. ET AL., J. SEX MED., (2010) 7(1 Pt1) P.269-276
A4.SHABSIGH, A. ET AL., J. SEX. MED., (2005) 2(5) P.716-721
A5.GUAY, AT ET AL., INT. J. IMPOT. RES., (2003) 15(3) P.156-165
A6.特表2003-503446号公報
B.J. CLIN. ENDOCRINOL. METAB., (2013) 98 P.3615-3626


[第4]当審の判断

1.引用刊行物の記載事項
拒絶理由通知書で引用された刊行物のうち、以下の刊行物A1、A6及びB:
A1.特表2008-511615号公報
A6.特表2003-503446号公報
B.J. CLIN. ENDOCRINOL. METAB., (2013) 98 P.3615-3626
には、それぞれ次の事項が記載されている。
( 刊行物Bは英語で記載されているので、当審による訳文にて記す。
各下線は当審による。)

(1)刊行物A1

・(A1-1)請求項1?9
「 【請求項1】
男性のアンドロゲン欠乏症の治療法または予防法に用いられる医薬調製物の製造における、エストロゲン受容体選択的調節物質、または、それらの異性体、異性体混合物、代謝物、もしくは薬剤学的に許容されるそれらの塩の使用法。
【請求項2】
前記エストロゲン受容体選択的調節物質は、トリフェニルアルカン化合物、トリフェニルアルケン化合物であり、このとき、アルケン鎖はハロゲン置換されたブテンもしくはプロペンであり、また、ベンゾチオフェン化合物、EM652、EM800、EM776、EM651、EM312、ICI182780、ERA-923、ジンドキシフェン、脱アセチル化ジンドキシフェン、ZK119010、TSE-4247、ラソキシフェン、ラソキシフェンのアナログ、ナホキシジン、バセドキシフェン、GW5638、GW7604、ICI164384、RU58668、RU39411もしくはEM319、または、それらの異性体、異性体混合物、代謝物もしくは薬剤学的に許容される塩であることを特徴とする請求項1記載の使用法。
・・・
【請求項5】
前記エストロゲン受容体選択的調節物質は、男性に対して適切な組織特異的抗エストロゲン様作用またはエストロゲン様作用を有する化合物であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の使用法。
【請求項6】
前記エストロゲン受容体選択的調節物質は、・・・、(Z)-2{2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニル-ブト-1-エニル)フェノキシ]エトキシ}エタノール(フィスペミフェン)、・・・、あるいは、それらの異性体、異性体混合物、代謝物または薬剤学的に許容されるそれらの塩より成る群から選択されることを特徴とする請求項5記載の使用法。
【請求項7】
前記エストロゲン受容体選択的調節物質は、フィスペミフェンまたはそれらの代謝物もしくは薬剤学的に許容されるそれらの塩であることを特徴とする請求項6記載の使用法。
【請求項8】
男性のアンドロゲン欠乏症、またはアンドロゲン欠乏症によって生じる疾病および疾患の治療または予防に有用な医薬調製物の製造に用いられることを特徴とする、請求項1から7いずれか1項記載のエストロゲン受容体選択的調節物質、もしくはそれらの異性体、異性体混合物、代謝物、または薬剤学的に許容されるそれらの塩の使用法。
【請求項9】
前記疾病もしくは疾患は、
性腺機能低下症、特に、しかし次のような疾病もしくは疾患を原因とする続発性性腺機能低下症に限定されない、例えば、カルマン症候群、プラーダー-ラバート-ヴィリ症候群、ローレンス-ムーン-ビードル症候群、下垂体不全/腺腫、パスカリニ症候群、ヘモクロマトーシス、高プロラクチン血症、または、腫瘍、外傷、放射線照射による下垂体-視床下部の損傷、肥満、糖尿病などの慢性疾患、甲状腺機能低下症、あるいはゴナドトロピンの中心産生に影響を及ぼすその他の疾病もしくは疾患など;
加齢関連テストステロン欠乏症、ならびにそれらによって引き起こされる疾病もしくは疾患、例えば、筋力低下、性的機能不全、性欲減退、筋肉量の減少、骨密度低下、抑鬱および認知機能低下など;さらに、
任意の筋萎縮/ジストロフィー;リポジストロフィー;長期の危篤状態;横紋筋欠乏;虚弱性もしくは加齢関連機能低下;筋力および筋機能低下;HIVによる筋肉消失;慢性腎不全、骨密度または骨増殖低下;糖質コルチコイドの異化副作用;慢性疲労性症候群;骨折修復低下;急性疲労性症候群および選択的外科手術後の筋肉消失;病的感覚;慢性異化状態;摂食障害;化学療法による副作用;消耗;抑鬱;神経過敏症;ストレス;発育遅延;老化によって発現する症状;認知機能低下;貧血;男性避妊;不妊;症候群X;糖尿病性合併症もしくは肥満など;より成る群から選択されることを特徴とする請求項8記載の使用法。
・・・ 」

・(A1-2)【0001】?【0008】
「 【技術分野】
【0001】
本発明は、男性におけるアンドロゲン欠乏症の治療法または予防法に関し、該方法は、有効量のエストロゲン受容体選択的調節物質(SERM)を投与することを含む。さらに、本発明は、アンドロゲンの欠乏によって引き起こされる疾病もしくは疾患の治療法または予防法に関する。
【背景技術】
・・・
【0003】
男性におけるテストステロン
男性ホルモンであるアンドロゲンは、男性性徴の発達に関与している。さらに、それらは生殖に必要である。アンドロゲンのうちの主要物質はテストステロンであり、該物質は、男性の内性器および外性器の発達ならびに機能に必須であり、筋肉の発育に支持的影響を及ぼし、毛髪の発育の分布および密度を決定し、赤血球の産生、ならびにエリスロポエチンの分布および認知機能(cognitive functions)に関して正の影響を及ぼす。テストステロンの不足(性腺機能低下)は、2つの原則的な型、すなわち、原発性性腺機能低下症および続発性性腺機能低下症に分類することができる。テストステロンの不足が基になって生じる疾病としては、例えば、骨粗鬆症、筋萎縮、老化によって発現する症状(senescence outfall symptoms)、性欲および性交能力の減退、抑鬱および貧血などが挙げられる。
【0004】
原発性性腺機能低下症
テストステロンの生産欠如または体内でのテストステロン産生の減少が原発性性腺機能低下症と定義されており、これは、テストステロンの主要合成部位である精巣の機能不全に端を発する。原発性性腺機能低下症としては、遺伝性もしくは後天性の無精巣症による精巣不全、XYY症候群、XX男性、ヌーナン症候群、性腺形成異常、ライディッヒ細胞腫、精巣下降不全精巣炎、精巣静脈瘤、セルトリ細胞唯一症候群、潜伏精巣症、両側捻転(bilateral torsion)、自然消失睾丸症候群、精巣摘除術、クラインフェルター症候群、化学療法、アルコールもしくは重金属による毒性、ならびに一般的な疾患(腎不全、肝硬変、糖尿病、筋強直性ジストロフィー)などが挙げられる。原発性性腺機能低下症の患者は、直接フィードバック機構がみられ、その際に、血清中のテストステロン濃度が低いことは、FSH(卵胞刺激ホルモン)およびLH(黄体形成ホルモン)の濃度が高いことと関連している。しかしながら、精巣またはその他の器官の不全が理由でLH濃度が高い場合には、テストステロン産生を刺激することはない。
【0005】
続発性性腺機能低下症
疾病の主因が視床下部または下垂体の機能不全である場合には、そのような疾病は、続発性(または、ゴナドトロピン欠乏性)性腺機能低下症と称される。そのような疾病としては、特発性ゴナドトロピン欠乏症またはLH放出ホルモン欠乏症などが挙げられる。この型のゴナドトロピン欠乏症としては、カルマン症候群、プラーダー-ラバート-ヴィリ症候群(Prader-Labhart-Willi's Syndrome)、ローレンス-ムーン-ビードル症候群、下垂体不全/腺腫、パスカリニ症候群(Pasqualini's Syndrome)、ヘモクロマトーシス、高プロラクチン血症、または、腫瘍、外傷、放射線照射による下垂体-視床下部の損傷、あるいは肥満などが挙げられる。続発性性腺機能低下症の患者は、フィードバック経路のどこかに障害があることから、テストステロン濃度が低いことと、LHまたはFSHレベルが上昇していることとは無関係である。従って、これらの患者においては、血清中のテストステロン濃度は低いが、ゴナドトロピン濃度は正常?低いレベルの範囲である。
【0006】
加齢によるテストステロン欠乏症
男性の血清中のテストステロンの平均濃度は、20?30歳以降は緩やかに継続的に低下する。低下率は、年に約1?2%であることが確認されている。さらに、年齢が上がるにつれて、テストステロン濃度の日周期リズムが現れなくなったり、減衰したり、あるいは完全に消失する。老年男性において、テストステロン欠乏症を未治療のままにしておくと、性的機能不全、性欲減退、筋肉量の減少、骨密度低下、抑鬱および認知機能低下などの多様な身体的変化が現れる。最終結果は、男性アンドロポーズ(andropause)、あるいは、遅発性性腺機能低下症もしくは高齢男性におけるアンドロゲン減少(ADAM)である。
【0007】
テストステロン欠乏症の診断および治療
テストステロン濃度の正常範囲は多様であり、性腺機能低下症の診断を下す限界値の定義も同様である。内分泌学会第二回アンドロポーズコンセンサス会議年会(Endocrine Society's Second Annual Andropause Consensus Meeting)(内分泌学会、2002年)は、50歳以上の男性の性腺機能低下症のスクリーニングおよび診断において考慮すべき3つの分類を明確にした:1)テストステロンの総量が≦200ng/dL(すなわち、7nmol/L)の場合には、アンドロゲン欠乏症であることを確定する;男性において、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を伴う重篤な視床下部もしくは下垂体の疾患は除外する;2)テストステロンの総量が200?400ng/dL(すなわち、7?14nmol/L)の場合には、テストステロン治療を考える前に、テストステロンの再測定およびさらなる評価を行うことを推奨する;3)テストステロンの総量が>400ng/dL(すなわち、14nmol/L)の場合には、テストステロン欠乏症ではない。多くの研究では、性腺機能低下症の患者の確認のために用いるカットオフ値として、300?350ng/dL(すなわち、10?12nmol/L)というテストステロン総量を用いていた(非特許文献1)。診断に際しては、血清中のテストステロン濃度が低いことに加え、テストステロン欠乏症の兆候および/または症状が現れていなければならない。
【0008】
通常、治療は補充療法であり、その効果は、血清中のテストステロン濃度を基にして直接的に測定できる。テストステロン補充療法の目的は、血清中のテストステロン濃度を正常値まで上昇させることである。現在のところ、性腺機能低下症の治療に用いられているのは、テストステロン/アンドロゲン化合物である。 」

・(A1-3)【0009】?【0022】
「 【0009】
エストロゲン受容体選択的調節物質
「SERM」(selective estrogen receptor modulator:エストロゲン受容体選択的調節物質)は、エストロゲン様および抗エストロゲン様特性を有する(非特許文献2)。効果は、タモキシフェンおよびトレミフェン(toremifene)の場合には、組織特異的であり、骨においてはエストロゲン様効果を発揮し、子宮および肝臓においては部分的にエストロゲン様特性を発揮し、さらに、乳癌に対しては純粋に抗エストロゲン作用を発揮する。ラロキシフェン(raloxifene)およびドロロキシフェン(droloxifene)は、抗エストロゲン様特性が強いこと以外はタモキシフェンおよびトレミフェンと類似している。それらは、総コレステロールおよびLDLコレステロールを減少させることが知られており、従って、心血管疾病のリスクを軽減し、さらに、閉経後の女性における骨粗鬆症を阻止し、乳癌の増殖を阻害する。
・・・
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、発明者らは、エストロゲン受容体選択的調節物質に属する化合物が、男性の血清中のテストステロンレベルの上昇に有効であることを発見した。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
定義
「治療」または「治療する」とは、疾病もしくは疾患の完全治癒、該疾病もしくは疾患の改善もしくは緩和、ならびに、該疾病もしくは疾患の進行または発症を遅延させることを含む意味である。
【0014】
「予防」とは、完全な予防、防御、ならびに、該疾病もしくは疾患を伴う病気になるリスクを下げることを含む意味である。
・・・
【0017】
「アンドロゲン欠乏症」とは、男性個体内において、男性ホルモン、特にテストステロンおよびジヒドロテストステロンの血清レベルが減少している状態を意味する。
【0018】
「テストステロン欠乏症」とは、男性個体内において、テストステロンの血清レベルが減少している状態を指し、特に、正常基準値以下もしくは下限まで減少している状態を指す。基準値は、使用した実験法によって異なる。
【0019】
「エストロゲン受容体選択的調節物質」およびこの群に属する任意の特定化合物とは、任意の幾何異性体、任意の立体異性体、ラセミ体、または該化合物の異性体のその他混合物を網羅するものとする。さらに、薬剤学的に許容される塩、およびエステルなどのその他の誘導体、ならびに代謝物も含まれる。
【0020】
SERMsを使用してアンドロゲン欠乏症を治療もしくは阻止することにより、阻止または治療できる疾病もしくは疾患
発明者らは、SERMsが男性個体における任意の疾患もしくは疾病の治療に有効であると考えており、そのような疾病もしくは疾患とは、アンドロゲン欠乏症が原因である。
【0021】
性腺機能低下症、特に続発性性腺機能低下症および加齢関連テストステロン欠乏症は、本発明に従うSERMsの投与によって治療または阻止できる疾患の例である。また、性腺機能低下症または加齢関連テストステロン欠乏症によって引き起こされる特定の疾病もしくは疾患も治療または阻止できる。しかしながら、アンドロゲン欠乏症によって引き起こされるが、性腺機能低下症もしくは加齢関連テストステロン欠乏症とは無関係であるその他の疾病または疾患も本発明に従う方法で治療または阻止できる。
【0022】
従って、本発明に従って治療または阻止できる特定の疾病もしくは疾患の例としては次のようなものが挙げられる:1)性腺機能低下症、特に、しかし次のような疾病もしくは疾患を原因とする続発性性腺機能低下症に限定されない、例えば、カルマン症候群、プラーダー-ラバート-ヴィリ症候群(Prader-Labhart-Willi's Syndrome)、ローレンス-ムーン-ビードル症候群、下垂体不全/腺腫、パスカリニ症候群(Pasqualini's Syndrome)、ヘモクロマトーシス、高プロラクチン血症、または、腫瘍、外傷、放射線照射による下垂体-視床下部の損傷、肥満、糖尿病などの慢性疾患、甲状腺機能低下症、あるいはゴナドトロピンの中心産生(central production)に影響を及ぼすその他の疾病もしくは疾患など;2)加齢関連テストステロン欠乏症、ならびにそれらによって引き起こされる疾病もしくは疾患、例えば、筋力低下、性的機能不全、性欲減退、筋肉量の減少、骨密度低下、抑鬱および認知機能低下など;3)任意の筋萎縮/ジストロフィー;リポジストロフィー;長期の危篤状態;横紋筋欠乏(sarcopenia);虚弱性もしくは加齢関連機能低下;筋力および筋機能低下;HIVによる筋肉消失;慢性腎不全、骨密度または骨増殖低下;糖質コルチコイドの異化副作用;慢性疲労性症候群;骨折修復低下(reduced bone fracture repair);急性疲労性症候群および選択的外科手術後の筋肉消失;病的感覚;慢性異化状態;摂食障害;化学療法による副作用;消耗;抑鬱;神経過敏症;ストレス;発育遅延;老化によって発現する症状;認知機能低下;貧血;男性避妊;不妊;症候群X;糖尿病性合併症もしくは肥満など。 」

・(A1-4)【0024】?【0028】
「 【0024】
アンドロゲン欠乏症の治療にSERMsを使用することの利点
SERMにより、テストステロン欠乏症を治療するのに十分なレベルまでテストステロンが増加することについては、テストステロンの直接補充に加えていくつかの利点がある。テストステロンが増加したことによる恩恵は、抗エストロゲン様作用もしくはエストロゲン様作用を有するSERM化合物が、テストステロンが増加したことに伴って通常起こりうる副作用を同時に防御している限りは、得られる。そのような副作用としては、前立腺刺激、男性の女性化乳房、または脂質代謝に及ぼす悪影響などが挙げられる。
【0025】
多数のエストロゲン/抗エストロゲン/植物性エストロゲン/SERMsは、エストロゲン受容体を介した抗腫瘍効果を有することが知られており、前立腺癌を阻止および治療する能力を有する(ホー(Ho)S-M、エストロゲン類および抗エストロゲン類:前立腺発癌現象の主要媒介物質および新規治療剤候補(Estrogens and Anti-Estrogens:Key Mediators of Prostate Carcinogenesis and New Therapeutic Candidates)、2004;91:491-503)。SERMsは乳房においては抗エストロゲン様作用を有することから、テストステロン治療に伴って頻発する女性化乳房を防御できる。
【0026】
SERMsは、脂質プロファイル、例えば、HDLの増加、ならびに総コレステロールおよびLDLの低下などに対して有利な影響を及ぼす。例えば、テストステロンはHDLを減少させることが知られており、従って、この副作用はSERMと拮抗する。SERMsおよびテストステロンは、骨の代謝回転を阻害することにより、骨の代謝に好影響を及ぼす。従って、骨に対するSERMの防御効果は、SERMがテストステロンを増加させることができるならば、増強されると考えられる。
【0027】
つまり、SERMs、特に、以下の化学式(I)で表されるSERMsは、前立腺もしくは脂質代謝に対する副作用、または女性化乳房などのような所望しないテストステロンの副作用を伴うことなく、アンドロゲン補充療法の有益な応答を引き出す。
【0028】
これらの化合物はテストステロン量を増加させ、それにより、肥満治療において筋肉増加を刺激し、皮下および内臓腹部の脂肪を減少させ;精力および性欲を高めて骨の減少を最小限に抑え;さらに、脂質代謝に有利な影響を及ぼす。 」

・(A1-5)【0029】?【0041】
「 【0029】
好ましいSERMs
本発明に使用する適切なエストロゲン受容体選択的調節物質としては、例えば、V.クライグ・ジョーダン(Craig Jordan)(2003)が記載した化合物などが挙げられる。
【0030】
従って、本発明に使用する適切なエストロゲン受容体選択的調節物質としては、国際特許公報WO 01/36360号、米国特許第4,996,225号、米国特許第4,696,949号、米国特許第5,750,576号、国際特許公報WO 99/42427に開示されているようなトリフェニルアルケンまたはトリフェニルアルカン化合物、ならびにL.カンガス(Kangas)が記載している(Cancer Chemother. Pharmacol.,(1990)27:8-12)トレミフェン代謝物などが挙げられる。上記の参考文献中に開示されている特定薬物の例としては、トレミフェン、フィスペミフェンおよびオスペミフェンなどが挙げられる。・・・
・・・
【0032】
適切なSERMsのさらなる例としては、EM652、EM800、EM776、EM651、EM312、ICI182780、ERA-923、ジンドキシフェンおよび脱アセチル化ジンドキシフェン、ZK119010、TSE-4247、ラソキシフェンおよびそれらのアナログ、特に、欧州特許第802910号に記載されているもの、ナホキシジン、バセドキシフェン、GW5638、GW7604、ジョーダン(Jordan)(2003)が記載している化合物32番、ICI164384、RU58668、RU39411およびEM319などが挙げられる。
・・・
【0040】
本発明の目的を達成するためには、SERM、もしくはその異性体、異性体混合物、または薬剤学的に許容されるそれらの塩を多様な経路で投与する。適切な投与剤形としては、例えば、経口用製剤;静脈内、筋肉内、皮内および皮下への注射を含む非経口注射剤;ならびに経皮または直腸投与剤形などが挙げられる。適切な経口用製剤としては、例えば、従来から使用されているもしくは徐放性錠剤、ならびにゼラチンカプセルなどが挙げられる。
【0041】
SERM化合物の必要投与量は、治療すべき特定の状態、状態の重篤度、治療期間、投与経路および使用する特定の化合物によって異なる。例えば、フィスペミフェンは、経口で好ましくは1日1回投与することができる。1日の投与量は、5?1500mg、好ましくは20?1500mgである。フィスペミフェンは、単独もしくは製薬業界で使用されている臨床的に許容される不活性材料と混合し、錠剤またはゼラチンカプセルなどのその他の剤形で投与できる。 」

・(A1-6)実施例(【0043】?【0046】)
「 【実施例】
【0043】
方法および材料
フィスペミフェンは、ヒトにおいて2つの第I相試験が行われている。ひとつは単回投与試験であり、もうひとつは反復投与試験である。フィスペミフェンがホルモンレベルに与える影響の調査が反復投与試験のひとつの主要目的である。第I相反復試験(試験番号101-50202)は、32人の健康な50?68歳の高齢男性において行った、無作為、二重盲検、プラセボ対照、28日間の投与量増量試験である。本試験の主要目的は、反復経口投与後のフィスペミフェンの耐薬性、安全性および薬物動態を調査することであるが、さらに、血清中のテストステロン、エストラジオールおよびその他の適切なホルモンに対してフィスペミフェンが及ぼす影響にも着目した。フィスペミフェンは1日あたり10、30、100および300mgを投与し、プラセボは、毎朝1回、10mgもしくは100mgのフィスペミフェンまたはプラセボを含むカプセルとして投与した。実験室安全判断基準および乳腺の超音波により、前回投与した量が安全かつ十分耐えられると評価された場合には、次回はより高い投与量レベルに上げた。
【0044】
安全性および耐薬性に関する可変項目としては、副作用、バイタルサイン、12-誘導線心電図、臨床実験室評価、身体検査、超音波検査(乳腺)およびインヒビンbを用いた。薬物動態用には、フィスペミフェンおよびその代謝物の濃度を調べた。薬理学用には、治療前および治療中のFSH、LH、エストラジオール、テストステロン、SHBG、プロラクチン、アルドステロン、コルチゾールおよびTSHの血清濃度を測定し、プラセボ群のそれらと比較した。
【0045】
ホルモンに対するフィスペミフェンの影響のまとめ
驚くべきことに、28日の治療期間中に、フィスペミフェンは、テストステロン、FSH、LH、SHBGの血清濃度を上昇させた(表1)。テストステロンは、プラセボを投与した場合と比較して、フィスペミフェンを100mgおよび300mg投与した場合には、統計的に有意に上昇した。300mgを投与した場合には、テストステロンの平均総上昇率は、ベースライン濃度と比較して約75%であった。最高投与量のフィスペミフェンを用いて治療を行った6人の男性のうちの2人では、治療中に血清テストステロン濃度が正常範囲の上限を超えた(すなわち、33nmol/L)。残りの2人については、基準範囲内で顕著な上昇が観察された。6人の男性はすべて、ベースラインではテストステロン値は正常であった。100mgを投与した場合には、平均総上昇率は約32%であり、群内の6人すべてにおいてテストステロンレベルが基準範囲内で上昇した。図1には、血清中の総テストステロンレベルの上昇について群ごとに示している。いずれの投与量においても安全性に関する懸念はなかったことから、適切と考えられる場合には、投与量を増量できることが示唆された。
【表1】

【0046】
考察および結論
フィスペミフェンは、治療開始から28日間で、血清中のテストステロン濃度について臨床的かつ統計的に顕著に、また用量依存的に上昇を誘導した。また、28日の治療期間中において、100mgまたは300mgのフィスペミフェンを用いて治療したすべての患者で血清テストステロン濃度の上昇が観察された。ベースラインからの75%の上昇は、臨床的に非常に顕著であると考えられることから、テストステロン濃度が低い男性における臨床的効果が期待できる。LHおよびFSHも上昇したことから、フィスペミフェンは視床下部/下垂体に対して抗エストロゲン用作用を有し、また、テストステロンの上昇は、下垂体ホルモンの上昇によって生じることが示唆される。テストステロンの上昇は緩和であることから、外部からテストステロンを投与することに伴って頻発する悪影響は生じないことが期待される。さらに、SERMは、前立腺癌の進行などのような、テストステロンによって起こりうる安全上の問題点に対して防御を提供すると考えられる。従って、性腺機能低下症に対しては、SERMによるテストステロンの上昇により、テストステロン上昇による効果と安全性の均衡がとれた最適な治療が提供される。 」

・(A1-7)【0048】、図1
「 【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】異なる投与量のフィスペミフェンを用いた治療中の血清中のテストステロン濃度を時間に対して示している。

図1




(2)刊行物A6

・(A6-1)請求項4?6
「 【請求項4】 インスリン抵抗性を発症する危険性を処置するか、または低下させる方法であって、そのような処置または低下を必要とする対象体に、治療有効量の選択的エストロゲン受容体調節剤で、下記の一般式:

(式中、R_(1)およびR_(2)は独立して、水素、ヒドロキシル、-OM(Mは、直鎖状または分枝状のC_(1?)C_(4)アルキル、直鎖状または分枝状のC_(3?)C_(4)アルケニル、直鎖状または分枝状のC_(3?)C_(4)アルキニルからなる群から選択される)、および生体内でヒドロキシルに変換され得る基からなる群から選択され;
Gは-CH_(3)であり;そして
R_(3)は、ピロリジニル、ピペリジノ、モルホリノおよびNRaRb(RaおよびRbは独立して、水素、直鎖状または分枝状のC_(1?)C_(6)アルキル、直鎖状または分枝状のC_(3?)C_(6)アルケニル、および直鎖状または分枝状のC_(3?)C_(6)アルキニルである)からなる群から選択される化学種である)
を有する選択的エストロゲン受容体調節剤を投与することを含む方法。
【請求項5】 エストラジオールおよびプレマリンまたは性ステロイド前駆体(性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスト-5-エン-3b,17b-ジオール、および生体内でいずれかに変換される化合物からなる群から選択される)からなる群から選択されるエストロゲンの治療有効量を投与することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】 前記選択的エストロゲン受容体はEM-652.HCl

である、請求項4に記載の方法。 」

・(A6-2)【0002】
「【0002】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肥満(特に腹部の肥満)を処置し、かつ/または防止するための方法に関し、そしてヒトを含む感受性温血動物における異常なインスリン抵抗性の獲得を処置するか、または抑制することに関する。本発明の方法は、下記の一般式Iの化合物またはその薬学的組成物を投与することを伴う。他の実施形態において、本発明の方法は、選択的エストロゲン受容体調節剤(「SERM」)を性ステロイド前駆体と組み合わせて投与することを伴う。」

・(A6-3)【0007】?【0009】
「【0007】
DHEAは、肥満の処置および/または防止において有益な作用をも有する。老齢のSprague-Dawleyラットにおいて、Schwartz(・・・、1982)は、体重が、DHEAにより、食物摂取量に影響を及ぼすことなく600gから550gに減少したことを観測している。Schwartz(・・・、1979)は、DHEA(450mg/kg、 3回/週)が与えられたC3Hマウスは、コントロール動物よりも著しく少ない体重増加を示し、長寿命であり、そして体脂肪が少なく、活動的であったことを認めた。体重増加の減少が、食欲の喪失または食物制限を伴うことなく達成された。さらに、DHEAは、成体になってから肥満になるように育種された動物における体重増加を防止し得る。
【0008】
痩せたZuckerラットに対するDHEAの投与は、増大した食物摂取にも関わらず、体重増加を減少させた。処置された動物は、脂肪パッドが小さくなっていた。従って、このことは、全体的に見れば、DHEAは食物代謝を増大させ、これにより体重増加および脂肪蓄積の低下を生じさせていることを示唆している(Svec他、・・・、1997年)。
【0009】
肥満がAvy変異体マウス(Yen他、・・・、1983)において改善されたことが見出された。DHEAで処理されたC3Hマウスはコントロールよりも若い外見を有した(Schwartz、・・・、1979)。」

・(A6-4)【0015】?【0017】
「【0015】
・・・、性ステロイド前駆体(例えば、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスト-5-エン-3b,17b-ジオール)が、肥満を処置するために、あるいは体重増加を抑制するために、選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)に加えて添加される。50歳以上の年齢のヒトは、おそらくは前駆体のレベルが年齢とともに望ましくないほど低下しやすいために、混合療法に十分に応答すると考えられる。
【0016】
従って、そのような局面において、本発明は、肥満の処置または体重増加の抑制に対する方法を提供する。この方法は、そのような抑制または処置を必要とする対象体に、薬学的な希釈剤またはキャリアとともに、あるいは薬学的な希釈剤またはキャリアを伴うことなく、少なくとも1つのSERMの治療有効量と、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスト-5-エン-3b,17b-ジオール、および生体内で前記の前駆体のいずれかに変換される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの性ステロイド前駆体の有効量とを投与することを含む。
【0017】
別の局面において、本発明は、インスリン抵抗性を発症させる危険性を処置するか、または低下させるための方法を提供する。この方法は、そのような処置また低下を必要とする対象体に少なくとも1つのSERMの治療有効量を投与することを含む。いくつかの実施形態において、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスト-5-エンー3b,17b-ジオール、および生体内でいずれかに変換される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの性ステロイド前駆体の有効量が、混合療法の一部として同様に投与される。」

・(A6-5)【0092】?【0093】
「【0092】
実施例8A(オス)および実施例8B(メス)には、肥満の防止ならびに処置における本発明の有効性のデータが報告されている。痩身および肥満のZucker雄性ラットおよび雌性ラットに、2.5mg/kg/日のEM-652.HClが20日間にわたって投与された。防止モデルは痩身ラットによって表され、一方、肥満の処置モデルは、既に肥満のラットによって表される。体重増加、白色後腹膜脂肪組織およびひらめ筋におけるリポタンパク質リパーゼ活性、ならびにインスリン、グルコール、総コレステロールおよびトリグリセリドの血清濃度に対するデータが、オスの動物については表7に、メスの動物については表8に報告されている(これらのパラメーターの意味については実施例3を参照のこと)。
【0093】
抗エストロゲンEM-652.HClは、体重増加を、痩身の雄性ラットについては38%、肥満の雄性ラットについては35%と著しく減少させ、一方、白色後腹膜脂肪組織およびひらめ筋におけるリポタンパク質リパーゼ活性はオスおよびメスとも変化していない。血漿インスリンは、痩身のオス、肥満のオスおよび痩身のメスにおいてそれぞれ、35%、57%および48%低下し、一方、非常に高レベルのインスリンを示す肥満のメスにおいては、EM-652.HClは著しい効果を有していない。肥満群の方が大きい血漿コレステロールもまた、EM-652.HClの投与により低下している。血清グルコースは、EM-652.HClの投与による影響を受けていない。」

・(A6-6)【0098】?【0109】
「【0098】
実施例8A
痩身および肥満のZucker雄性ラットにおけるエネルギー収支および脂質-リポタンパク質代謝に対するEM-652.HClの効果
URMA-r-61-99
この研究の目的は、痩身および肥満のZucker雄性ラットにおけるエネルギー収支および脂質-リポタンパク質代謝に対するEM-652.HClの効果を明らかにすることであった。この目的のために、EM-652.HCl(2.5mg/kg)が無傷の痩身および肥満のZucker雄性ラットに14日間にわたって1日に1回経口(胃管栄養補給)投与された。
・・・
【0109】
・・・



・(A6-7)【0170】?【0178】
(※当審注:【表17】?【表22】の各表は罫線略)
「 【0170】
薬学的組成物の例
好ましい活性なSERMのEM-800またはEM-652.HClが単独で利用されるか、あるいは好ましい活性な性ステロイド前駆体のDHEA、アンドロスト-5-エン-3b,17b-ジオール3-アセタートまたはアンドロスト-5-エン-3b,17b-ジオールジヘミスクシナートのいずれかと組み合わせて利用されるいくつかの薬学的組成物が、限定としてではなく、例として下記に示される。本発明の他の化合物またはその組合せは、EM-800またはEM-652.HCl、DHEA、アンドロスト-5-エン-3b,17b-ジオール3-アセタートまたはアンドロスト-5-エン-3b,17b-ジオールジヘミスクシナートの代わりに使用することができる(あるいはそれらに加えて使用することができる)。有効成分の濃度は、本明細書中で議論されているように広い範囲にわたって変化させることができる。含まれ得る他の成分の量およびタイプはこの分野で十分に知られている。
・・・
【0173】
混合療法用の薬学的組成物
例C
【表17】
錠剤
成分 重量%(組成物全体の重量比)
EM-652.HCl 5
DHEA 15
ゼラチン 5
ラクトース 58.5
デンプン 16.5

【0174】
例D
【表18】
ゼラチンカプセル剤
成分 重量%(組成物全体の重量比)
EM-652.HCl 5
DHEA 15
ラクトース水和物 65
デンプン 4.8
微結晶セルロース 9.8
ステアリン酸マグネシウム 0.4
【0175】
キットの例
・・・
【0177】
例A
SERMは経口投与されるが、性ステロイド前駆体は経皮投与される。
【表19】
経口投与用SERM組成物(カプセル剤)
成分 重量%(組成物全体の重量比)
EM-652.HCl 5
ラクトース水和物 80
デンプン 4.8
微結晶セルロース 9.8
ステアリン酸マグネシウム 0.4
【表20】
局所投与用ステロイド前駆体組成物(ゲル剤)
成分 重量%(組成物全体の重量比)
DHEA 10
カプリル酸-カプリン酸トリグリセリド 5
(Neobee M-5)
ヘキシレングリコール 15
Transcutol(ジエチレングリコール 5
モノメチルエーテル)
ベンジルアルコール 2
シクロメチコーン(Dow Corning 5
345)
エタノール(無水) 56
ヒドロキシプロピルセルロース 2
(1500cps)(KLUCEL)
【0178】
例B
SERMおよび性ステロイド前駆体は経口投与される。
経口投与される非ステロイド抗エストロゲン組成物(カプセル剤)
【表21】
成分 重量%(組成物全体の重量比)
EM-652.HCl 5
ラクトース水和物 80
デンプン 4.8
微結晶セルロース 9.8
ステアリン酸マグネシウム 0.4
経口投与される性ステロイド前駆体組成物(ゼラチンカプセル剤)
【表22】
成分 重量%(組成物全体の重量比)
DHEA 15
微結晶セルロース 84.6
ステアリン酸マグネシウム 0.4

(3)刊行物B

・(B-1)標題
「 高齢男性におけるデヒドロエピアンドロステロン補充:プラセボ対照治験のメタ解析研究 」

・(B-2)要約
「 背景:加齢に関連したデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)欠乏症はこれまで男性における広範囲の生物学的異常に関係して来た。

目的:我々の目的は、高齢男性における性的及び代謝上の転帰(outcomes)についてプラセボ対照と比較した経口DHEA(DHEA補充)の効能を調査している全ての二重盲検プラセボ対照無作為化治験(RCTs)をメタ解析することであった。

データ元:次のワード:DHEA、RCT、及び男性 を含む、Medline、Embase及びCochraneの広範な検索が実施された。

研究の選択:高齢男性に実施された二重盲検プラセボ対照治験のみが含められた。

データ抽出:データ抽出は2人の著者(A.S.及びV.G.)により独立して実施され、不一致は第3の研究者(G.C.)により解消された。RCTの質はCochraneの判断基準を用いて評価された。

結果:220の検索された文献のうち25が本研究に含められた。利用可能なRCTは36週間の平均経過観察を伴う1353人の高齢男性を登録した。DHEA補充は体脂肪量の減少と関連していた(-0.35[-0.65から-0.05]の標準化された平均上の差異;P=.02)。しかしながら、その体脂肪量との関連は、多変量回帰モデルにおいて総テストステロン及びエストラジオール量のようなDHEA関連代謝産物の増大の補正の後には消失した。体脂肪量についてみられたのに比して、脂質及び血糖代謝、骨の健康、性的機能、及びQOLを含む様々な臨床上のパラメーターについては、DHEA補充はプラセボと比較して効果はみられなかった。

結論:今回の介入研究のメタ解析は、老齢男性におけるDHEA補充が、アンドロゲン又はエストロゲンのような生物学的に活性な代謝産物へのDHEAの変換に厳密に依存する身体組成について、わずかだが有意なプラスの効果を誘導し得ることを示すものである。」

・(B-3)3615頁左欄下から3行?3616頁右欄11行
「 デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)及びその硫酸塩(DHEAS)は、主に副腎から毎日それぞれおよそ5?8mg及び6?20mgの生産率で分泌されるステロイドホルモンである。・・・。DHEAの血清濃度はナノモルの範囲(3-30nmol/L)である一方、DHEASレベルはもっと高く(3-12μmol/L)、これはDHEASの代謝クリアランス率が非常に低いからである(3-5)。DHEASは一般にDHEAの大きな血漿リザーバーと考えられている、というのは、この2種のホルモンは副腎外のスルホトランスフェラーゼ及びスルファターゼの酵素活性により相互転換し得るからである(3,4)。
・・・
DHEASは副腎の網状層のみにより分泌されるのに対し、DHEAは精巣及び卵巣によっても産生され得、脳内でも合成され得る(3,4)。女性においては、副腎によるDHEA及びDHEASの生産は、実質的に全体のアンドロゲン産生に寄与するが、男性においては、生物学的に活性なアンドロゲンのプールへの副腎の寄与は非常に小さい(3-5)。・・・。これまで女性においてみられて来たのと同様に、男性においても、循環DHEASの年齢依存的減少がこれまでに報告されている(3-5)。特に、80歳までには、その濃度は25歳時の約20%のみとなる(6,7)。
数個の実験的及び非管理の研究は、DHEA及びDHEASが、肥満、糖尿病、骨粗鬆症、性機能不全、癌、及び精神障害を含み、相対的なDHEAS欠乏が一般的な年齢関連疾患の発症又は減少した寿命に寄与する恐れがあるとの推測につながる、広範囲の生物学的異常に関与している可能性がある、ということをこれまで記述して来た(3-7)。したがって、高齢男性においては、青春の泉を発見することを期待して、DHEAは栄養補助食品として、管理はされていないものの、広く利用されている。 」

・(B-4)3617頁右欄下から4行?3618頁左欄8行、表1(罫線略)
「 結果
検索した236文献のうち、25文献が本研究に含められた。・・・。全体のフローは図1に要約されている(12-35)。利用可能なRCTは全体として36週間の平均経過観察期間を伴う1353人の高齢男性を登録した。これらの治験の登録者はその大多数が健康な高齢の被験者であったが、彼らはベースのDHEASレベルにおいて異なっていた。加えて、DHEAは異なる用量で投与された。本メタ解析に含められた治験の特徴が表1に要約されている。

表1.メタ解析に含められた無作為化プラセボ対照臨床研究の特徴及び転帰(outcomes)

研究(Ref.) 患者の数 ・・ 転帰 年齢,年^(a)・・
(DHEA/プラセボ)
Nestlerら、1988(12) 5/5 ・・ BC,H,MP 24.1±1.0・・
Moralesら、1994(13) 13/13 ・・ BC,H,MP,SF 53.7±2.5・・
Yenら、1995(14) 13/13 ・・ BC^(b) 40-70 ・・
Moralesら、1998(15) 9/9 ・・ BC,^(b)H,MP,B 55.6±1.9・・
Flynnら、1999(16) 20/20 ・・ BC,H,MP 60-84・・
Reiterら、1999(17) 17/13 ・・ H,SF 56.5・・
Baulieuら、2000(18) 66/67 ・・ H,B 60-79・・
Aritら、2001(19) 22/22 ・・ H 59.3±5.6・・
van Niekerkら、2001(20) 46/46 ・・ SF,QOL 68.5±3.8・・
Khanら、2002(21) 43/43 ・・ H,B 66.0±6.4・・
Jedrzejukら、2003(22) 12/12 ・・ BC,H,MP 59.0±4.8・・
Kawanoら、2003(23) 12/12 ・・ H,MP 54.1±1.0・・
Villarealら、2004(24) 15/14 ・・ H 71.0±3.6・・
Jankowskiら、2006(25) 35/35 ・・ BC,^(b)B 68.8±6.5・・
Martinaら、2006(26) 12/12 ・・ H,MP 65.4±3.4・・
Nairら、2006(27) 29/31 ・・ BC,^(b)H,MP, 67.7±3.8・・
B,QOL
Villarealら、2006(28) 29/27 ・・ H 71.5±4.0・・
Jankowskiら、2008(29) 30/31 ・・ H 69.2±6.5・・
von Muhlenら、2008(30) 55/55 ・・ H,B 68.7±8.0・・
Kritz-Silversteinら、2008(31) 55/55・・ B,SF,QOL 68.7±8.0・・
Moralesら、2009(32) 27/28 ・・ H,SF 60.5±10.7・・
Weissら、2009(33) 28/27 ・・ B,H ・・
Srinivasanら、2010(34) 25/29 ・・ MP 66.9±3.7・・
Jankowskiら、2011(35) 30/31 ・・ BC,MP 68.8±6.5・・
Weissら、2011(36) 28/27 ・・ BC^(b) ・・

略語: ・・; B,骨パラメーター; BC,身体組成; H,ホルモンパラメーター; MP,代謝パラメーター; ・・; SF,性的機能.
^(a)平均±標準偏差又は範囲
^(b)二重エネルギーx線吸光光度法で評価された身体組成 」

・(B-5)3618頁右欄1行?3620頁左欄24行
「 身体組成及び代謝パラメーター
DHEA補充の身体組成又は代謝パラメーターへの影響についてのデータは、それぞれ10個の研究において利用可能であった。体脂肪量についてのDHEA補充群 vs プラセボ群に基づく計算による、Beggの補正順位相関テスト(ケンドールのτ係数-0.333;P=.179)は、大きな出版バイアスは存在しないことを示唆した。利用可能なRCT中のDHEA補充の効果を組み合わせると、DHEA補充は、全体としては体脂肪量の減少と相関しており、除脂肪体重は増大傾向を伴っていた(図2、A及びB)。体脂肪量についてのプラスの効果は、二重エネルギーX線吸収測定法を用いた研究のみ(表1も参照)又は並列設計のRCTのみが考慮された場合であっても確認された:・・・
予期されたように、DHEA補充はDHEASレベルの全体としての増加を特定した(9.09[8.00-10.19」μmol/L P<.0001)のみならず、TT(1.24[0.0-2.49]nmol/L;P=.05)及びE2(24.76[14.14-35.39];P<.0001)の増加も特定した(図3、A-C)。DHEA補充後の体脂肪量の減少は、TTの増大及び明らかなE2の増大と負の関係にあった(r=-0.836及び0.398;双方共P<.0001)。多変数回帰モデルにおいて、体脂肪量の減少を従属変数として、並びに、TT、E2及びDHEASの増大を共変数として考慮すると、体脂肪量の減少はTT及びE2との相関関係が確認された(TT及びE2それぞれについて補正後r=0.415及び0.478、双方共P<.0001)一方、DHEASとの相関関係は確認されなかった(補正後r=0.057;P=.246)。さらに逆分散法を用いた感度分析が実施され、DHEASと体脂肪量減少との間に相関はないことが確認された(データ示さず)。
体脂肪量についてみられたのと対照的に、DHEA補充は、血糖、インスリン、及び全コレステロール(図4、A-C)や高密度リポプロテイン-コレステロール、低密度リボリポプロテイン-コレステロール、及びトリグリセリド(補足図1、A-C、・・・)を含む様々な代謝パラメーターについては、プラセボに比して効果はみられなかった。」

・(B-6)図2(※A及びB中の各イメージ部分(「・・・」)は省略)

「 A
情報源 脂肪量の標準化 平均差 下限値 上限値 p
された平均差 95%CI 95%CI

Nestlerら、1988(12) ・・・ -1,46 -2,86 -0,07 0,04
Moralesら、1994(13) ・・・ -0,04 -0,81 0,72 0,91
Yenら、1995(14) ・・・ -1,07 -2,12 -0,02 0,04
Moralesら、1998(15) ・・・ -1,22 -2,22 -0,21 0,02
Flynnら、1999(16) ・・・ -0,10 -0,72 0,52 0,74
Flynnら、1999^(*)(16) ・・・ 0,08 -0,56 0,72 0,81
Jedrzejukら、2003(22) ・・・ -0,08 -0,51 0,34 0,70
Jankowskiら、2006(25) ・・・ 0,03 -0,47 0,53 0,91
Nairら、2006(27) ・・・ -0,21 -0,71 0,30 0,43
Weissら、2011(36) ・・・ -1,00 -1,60 -0,41 0,00
全体 ・・・ -0,35 -0,65 -0,05 0,02

B
情報源 除脂肪量の標準 平均差 下限値 上限値 p
化された平均差 95%CI 95%CI

Yenら、1995(14) ・・・ 1,00 0,09 1,91 0,03
Moralesら、1998(15) ・・・ 0,70 -7,62 9,02 0,87
Flynnら、1999(16) ・・・ 0,20 -6,00 6,40 0,95
Flynnら、1999(16)^(*) ・・・ 0,00 -8,27 8,27 1,00
Jankowskiら、2006(25)・・・ -0,20 -1,21 0,81 0,70
Nairら、2006(27) ・・・ 0,87 -0,02 1,76 0,06
Jankowskiら、2011(35)・・・ -0,10 -0,91 0,71 0,81
全体 ・・・ 0,39 -0,05 0,84 0,08

図2.DHEA治療 vs プラセボ治療の効果を評価したRCTのエンドポイント時における平均の体脂肪量(A)及び除脂肪量(B)の加重標準化された差異(95%信頼区間)。・・・。^(*)、プラセボが最初に投与された。 」

・(B-7)図3(※A表?C表中の各グラフイメージ部分(「・・・」)は省略)
「 A
情報源 DHEAS平均差 平均差 下限値 上限値 p
(ng/ml) 95%CI 95%CI

Nestlerら、1988(12) ・・・ 30,10 7,90 52,30 0,01
Flynnら、1999(16) ・・・ 12,06 7,50 16,62 0,00
Flynnら、1999^(*)(16) ・・・ 17,62 11,85 23,38 0,00
Baulieuら、2000(18) ・・・ 8,01 6,45 9,56 0,00
Aritら、2001(19) ・・・ 7,70 5,83 9,57 0,00
Jedrzejukら、2003(22) ・・・ 21,20 18,59 23,82 0,00
Villarealら、2004(24) ・・・ 8,44 7,85 9,02 0.00
Nairら、2006(27) ・・・ 9,00 4,78 13,22 0.00
Villarealら、2006(28) ・・・ 7,40 6,85 7,95 0,00
Jankowskiら、2008(29) ・・・ 5,90 4,16 7,64 0,00
von Muhlenら、2008(30) ・・・ 6,50 5,91 7,09 0,00
Weissら、2011(36) ・・・ 8,13 7,88 8,38 0,00
全体 ・・・ 9,09 8,00 10,19 0,00

B
情報源 TT平均差 平均差 下限値 上限値 p
(nmol/L) 95%CI 95%CI

Nestlerら、1988(26) ・・・ -0,40 -10,40 9,60 0,94
Moralesら、1994(13) ・・・ 1,00 -4,32 6,32 0,71
Moralesら、1998(15) ・・・ 0,00 -2,77 2,77 1,00
Reiterら、1999(17) ・・・ 3,43 1,54 5,32 0,00
Flynnら、1999(16) ・・・ 1,32 -1,53 4,17 0,36
Flynnら、1999^(*)(16) ・・・ -2,64 -5,17 -0,10 0,04
Baulieuら、2000(18) ・・・ 5,49 2,05 8,93 0,00
Aritら、2001(19) ・・・ -0,50 -3,18 2,18 0,71
Khanら、2002(21) ・・・ 1,37 -0,95 3,69 0,25
Jedrzejukら、2003(22) ・・・ 1,03 -3,51 5,56 0,66
Kawanoら、2003(23) ・・・ -0,12 -4,58 4,34 0,96
Villarealら、2004(24) ・・・ -0,34 -3,21 2,53 0,81
Martinaら、2006(26) ・・・ 6,30 3,91 8,69 0,00
Villarealら、2006(28) ・・・ 0,70 -2,86 4,26 0,70
Jankowskiら、2008(29) ・・・ -1,70 -3,72 0,32 0,10
von Muhlenら、2008(30) ・・・ 1,50 -1,57 4,57 0,34
Moralesら、2009(32) ・・・ 3,00 0,19 5,81 0,04
Weissら、2009(33) ・・・ 1,47 -2,97 5,92 0,52
全体 ・・・ 1,24 0,00 2,49 0,05

(※当審注:上のB表中の「Nestlerら、1988(26)」は、他表中の「Nestlerら、1988」の参照文献番号との整合性を考慮すると、「Nestlerら、1988(12)」の誤記と推測される。)

C
情報源 E2平均差 平均差 下限値 上限値 p
(pmol/L) 95%CI 95%CI

Nestlerら、1988(12) ・・・ 9,40 -6,60 25,40 0,25
Moralesら、1994(13) ・・・ 26,00 -20,46 72,46 0,273
Flynnら、1999(16) ・・・ 85,81 50,32 121,30 0,000
Flynnら、1999^(*)(16) ・・・ 77,94 34,86 121,02 0,000
Baulieuら、2000(18) ・・・ 1,67 -8,09 11,42 0,738
Aritら、2001(19) ・・・ 1,00 -6,71 8,71 0,799
Jedrzejukら、2003(22) ・・・ 2,57 -27,60 32,75 0,867
Villarealら、2004(24) ・・・ 41,18 23,65 58,70 0,000
Martinaら、2006(26) ・・・ 16,00 3,45 28,55 0,012
Nairら、2006(27) ・・・ 20,00 10,62 29,38 0,000
Villarealら、2006(28) ・・・ 50,40 34,30 66,50 0,000
Jankowskiら、2008(29) ・・・ 59,50 27,75 91,25 0,000
von Muhlenら、2008(30) ・・・ 3,00 -7,58 13,58 0,578
Weissら、2009(33) ・・・ 23,16 8,81 37,52 0,002
全体 ・・・ 24,76 14,14 35,39 0,000

図3.DHEA治療 vs プラセボ治療の効果を評価したRCTのエンドポイント時におけるDHEAS(A)、TT(B)、及びE2(C)の加重標準化された差異(95%信頼区間)。・・・。 ^(*)、プラセボが最初に投与された。 」

(B-8)3621頁右欄1行?3622頁右欄20行
「 考察
本稿は、DHEAが高齢男性に投与された利用可能なRCTからの臨床結果についての、初の系統的かつ包括的なメタ解析である。我々の結果が示すのは、DHEA補充が体脂肪量の減少と関連し、そして除脂肪量の増大傾向を伴ったことである;しかしながら、これらの効果は小さく、DHEA由来の代謝産物による補正により説明され得る。代謝上のプロファイル、骨の健康、性的機能、及びQOLを含むいくつかの他の転帰についてのDHEA補充の追加的効果はみられなかった。
性ステロイドは男女双方において身体組成の調節について中心的な役割を果たす。今回のメタ解析由来のデータが示すのは、DHEA補充は身体組成、特に体脂肪量の減少についてある程度のプラスの効果を発揮する、ということである。しかしながら、データの多変量解析は、この効果がDHEAそれ自体よりTT及びE2の循環レベルの変動(増大)に関連している可能性があることを示唆している。データは注意して解釈されるべきである、というのは、それらが生態学的錯誤である可能性があるからである。実際、それらは、個々の患者のデータに直接アクセスすることなく、利用可能な研究結果を総合して導かれたものである。したがって、高齢男性におけるDHEA補充は、性ステロイドの修正を誘導する可能性があり、それは次に体脂肪量分布を制御する可能性がある。男性において体脂肪量とテストステロンレベルとの間の関係は双方向性であることはよく知られている;テストステロン投与は肥満を低減し、肥満はテストステロン及びゴナドトロピンの減少を誘導する(37-40)。実際、多くの証拠が、男性の肥満、2型糖尿病、及びメタボリックシンドロームが全て低ゴナドトロピン性性腺機能低下症により特徴付けられ、体脂肪量と厳密に相関している(37-40)。脂肪に関連したアロマターゼ活性の増大によるエストロゲン過剰、及びそれに関連した下垂体レベルでのネガティブフィードバックが、これまでに最も真実味のある説明として提唱されてきた(37-40)。この見方に沿って、生活様式又は肥満学的治療介入のいずれかにより得られた、体重減少の効果について調査した利用可能な治験のメタ解析において、我々は、体重減少により誘導されるエステロゲンレベルの低下がゴナドトロピン及びテストステロンの上昇と関連していることを観察した(41)。さらに、性腺機能低下症の男性におけるテストステロン補充療法(TRT)は体脂肪量の分布を寛解させることができる。性腺機能低下症の2型糖尿病及びメタボリックシンドロームを伴う男性におけるTRTの効果について調査したRCTのメタ解析は、体脂肪量及び腹囲両方の減少におけるTRTのプラスの効果を実証した(42,43)。同様の結果がこれまでにクラインフェルター症候群患者(44,45)、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症患者(46)、又は健康な非肥満性の男性(47)において報告されている。DHEA補充後にみられるTT依存性の体脂肪量減少は、この証拠と合致する。 」

(B-9)3624頁左欄20?30行
「 現在のメタ解析の限界は、原則的にレビューされた研究の全てにわたる欠点と関連し、それらは、研究サイズが小さいことや、低い統計的検出力、しばしば信頼できないステロイド検出のための分析方法、交絡因子、若しくはその他の臨床上のエンドポイント又は解析された母集団における差異を含む。しかしながら、メタ解析は、多様なデータ源が相反していることによる問題に取り組むため、若しくは統計的検出力の低い様々な報告が存在する場合には、特に有用である;したがって、データをプールすることは力を改善し説得力のある結果を提供する。 」

(B-10)3624頁左欄31?51行
「 結論として、DHEASレベルは、糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧、アテローム性動脈硬化、冠動脈疾患、減少したBMD、癌、認知症、抑鬱した気分、及び接触障害といった多くの年齢に関連した現象と相関している可能性があるが(3)、今回の治療介入研究のメタ解析は、高齢男性におけるDHEA補充が、小規模にとどまるとはいえ統計学的に有意な、DHEAのアンドロゲン又はエストロゲンといったその生物活性代謝産物への転換に厳密に依存した身体組成におけるプラスの効果を誘導し得る、ということを示すものである。DHEAの特異的結合部位はこれまで内皮細胞において述べられて来たが(65)、我々のデータは、DHEA及びDHEASはホルモン前駆体と考えられ、末梢で他の性ホルモン(特にテストステロン及びエストラジオール)に変換されて同族の受容体を介した生物学的作用を仲介する、との見方を確証させるものである。加えて、DHEAからの活性ステロイド代謝産物の局所的な産生は、その特有の組織における特有の優勢な酵素のポートフォリオに依存するが故に、DHEAによる最終的な生物学的効果は予測し得ない。 」

2.対比・判断

(1)刊行物A1に記載された発明

上の摘記(A1-1)?(A1-7)によれば、刊行物A1には、
・「男性のアンドロゲン欠乏症の治療法または予防法に用いられる医薬調製物の製造における、エストロゲン受容体選択的調節物質、または、それらの異性体、異性体混合物、代謝物、もしくは薬剤学的に許容されるそれらの塩の使用法。」((A1-1)請求項1)(なお、以下、ここでいう「エストロゲン受容体選択的調節物質、または、・・・それらの塩」をまとめて単に「SERM」ということがある)について記載され; ここでいうSERMとしては、トレミフェンやフィスペミフェン等のトリフェニルアルケン化合物の他、EM652、EM800等を含む、SERMとして知られた種々の化学構造の化合物又はそれらの異性体、異性体混合物、代謝物若しくは薬学的にに許容される塩が挙げられることも記載され((A1-1)請求項2?7、(A1-5));
・「男性のアンドロゲン欠乏症」として、男性における原発性性腺機能低下症や続発性性腺機能低下症((A1-2)【0004】?【0005】)の他、20?30歳以降の高齢男性における「加齢によるテストステロン欠乏症」((A1-2)【0006】)が挙げられ、並びに、それらのアンドロゲン欠乏に伴い生じ得る様々な症状が請求項1の医薬調製物の適用対象となり得ることが記載され((A1-1)請求項9、(A1-3)【0021】?【0022】);
・SERMは男性の血清中のテストステロン(TT)レベルの上昇に有効であり((A1-3)【0011】等)、TTの直接補充に比して「前立腺もしくは脂質代謝に対する副作用、または女性化乳房などのような所望しないテストステロンの副作用を伴うことなく、アンドロゲン補充療法の有益な応答を引き出す」((A1-4)【0027】)ことを以て、上述のアンドロゲン欠乏症若しくはそれに伴う様々な症状を呈する男性患者に対しTT量を増加させ、それにより皮下及び内臓腹部の脂肪を減少させる等の脂肪代謝に有利な影響を及ぼすものであること((A1-4)【0028】)が記載され;
・SERMの適用に係る薬理試験例として、フィスペミフェンを健康な50?68歳の高齢男性に対し1日当たり10、30、100又は300mg経口投与した((A1-6)【0043】)ところ、フィスペミフェンはTT、FSH、LH、SHBGの血清濃度を上昇させ、特に、プラセボ投与群と比較してフィスペミフェンを100mg又は300mg投与した場合にはTT濃度は有意に上昇したこと((A1-6)【0045】、表1、(A1-7)図1)、並びに、それらの試験結果から、フィスペミフェンに例示されるSERMの投与によりTT濃度が低い男性における臨床的効果が期待できること、LH及びFSHの濃度も上昇したことから、フィスペミフェンは視床下部/下垂体に対して抗エストロゲン用作用を有し、TTの上昇は下垂体ホルモンの上昇によって生じることが示唆されること、また、TTの上昇は緩和であることから、外部からのTT投与に伴って頻発する悪影響は生じないことが期待されること((A1-6)【0046】)等が記載されている。

これら(A1-1)?(A1-7)を含む刊行物A1の記載を踏まえた(A1-1)の請求項1の記載によれば、刊行物A1には、次の発明:
「 血清LH濃度を上昇させるエストロゲン受容体選択的調節物質(SERM)を有効成分とする、アンドロゲン欠乏症のヒト男性における血清テストステロン濃度を増加させるための、若しくは同増加により男性のアンドロゲン欠乏症を治療又は予防するための、医薬調製物
並びに、
当該医薬調製物の製造におけるSERMの有効成分としての使用方法 」
(以下、これらをまとめて単に「引用発明A1」ということがある)が記載されているものと認められる。

(2)対比・判断

(i)対比
本願発明と引用発明A1の使用方法の態様の発明を対比する。
引用発明A1のエストロゲン受容体選択的調節物質(SERM)が本願発明の「選択的エストロゲン受容体調節薬」(SERM)に該当することは、刊行物A1でSERMの例として挙げられているフィスペミフェンやEM652、EM800((A1-1)、(A1-5))が、本願発明の「選択的エストロゲン受容体調節薬」の例として本願明細書の【0054】や【0197】?【0198】に挙げられている「フィスペミフェン」や「EM-652」「EM-800」と一致すると認められることから明らかであることを踏まえると、両者は
「男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患に適用する医薬の製造における、選択的エストロゲン受容体調節薬の使用」
の点で一致するが、次の点1)?3):
1) 「選択的エストロゲン受容体調節薬」(SERM)として、本願発明では「アコルビフェン又はEM-800」を使用し、当該「アコルビフェン又はEM-800」が「循環テストステロンのレベルを上昇させるLH分泌を刺激」するのに対し、引用発明A1ではSERMについてそのような限定はない点;
2) 本願発明では、「性ステロイド前駆体」である「デヒドロエピアンドロステロン」(DHEA)を上記「選択的エストロゲン受容体調節薬」と組み合わせて使用するのに対し、引用発明A1ではDHEA若しくはその他の「性ステロイド前駆体」相当成分を「選択的エストロゲン受容体調節薬」と組み合わせて用いることの限定はない点;
3) 製造対象である「医薬」の用途に関し、本願発明における「医薬」が「男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させるための」ものであるのに対し、引用発明A1における「医薬」が「アンドロゲン欠乏症のヒト男性における血清テストステロン濃度を増加させるための、若しくは同増加により男性のアンドロゲン欠乏症を治療又は予防するための」ものである点;
(以下、順に「相違点1」?「相違点3」ということがある)
において、相違する。

(ii)判断
以下、相違点1?3について検討する。

(ii-1)相違点1について
(ア) 刊行物A1には、実施例((A1-6)?(A1-7))のフィスペミフェン以外のSERMについては現実の薬理試験結果等の具体的な記載はないが、当該フィスペミフェン以外にもSERMとしてEM800やEM652、若しくはそれらの塩等も用い得ることが記載されているから((A1-1)請求項2、(A1-5))、当該記載に基づき、引用発明A1のSERMとしてEM800やEM652、若しくは当該EM652のHCl塩である刊行物A6の例えば請求項6((A6-1))等に記載されたSERM化合物(EM-652.HCl。即ち、本願発明の「アコルビフェン」)を採用し、同様の血清テストステロン(TT)濃度の増加をもたらしめること、若しくは、当該血清TT濃度の増加により男性のアンドロゲン欠乏症を治療又は予防することを見込むことは、当業者が必要に応じ検討しかつ行い得たことである。
(イ) そしてその際、次の事項1)?2):
1) 抗エストロゲン作用を有するSERMが、エストラジオール(エストロゲン)による視床下部エストロゲン受容体への結合を介した通常のネガティブフィードバック機構を、当該(エストラジオールのエストロゲン受容体への)結合を競合的に阻害することにより遮断し得、また当該遮断によって脳下垂体からのLHやFSHの分泌を増大せしめ得る作用を有することは、例えば、刊行物A1の実施例におけるフィスペミフェンの投与試験の結果を示す記載((A1-6))や、同じく上記SERMの一種であるクエン酸クロミフェンについての拒絶理由通知書で引用された刊行物A3:TAYLOR,F. ET AL., J. SEX MED., (2010) 7(1 Pt1) P.269-276(270頁左欄22?31行)及び刊行物A4:SHABSIGH, A. ET AL., J. SEX. MED., (2005) 2(5) P.716-721(717頁左欄20?31行)の記載や、同タモキシフェン、トレミフェン及びラロキシフェンについての次の文献:FETIL.STERIL.,(2009)91 P.1427-1430(特に1429頁表1及び左欄段落1?2) の記載にみられるように、本願優先日当時当業者にとり周知の技術事項であったこと;
2) 上記LHが男性(雄)の精巣の間質細胞(ライディッヒ細胞)に作用してアンドロゲン(テストステロン等)の生合成・分泌を促進する作用を有することもまた、本願優先日当時当業者にとり技術常識であったこと(この点については、要すれば 今堀・山川監修「生化学事典」(第4版)(2007年12月10日 第1刷発行)(株)東京化学同人 234?235頁「黄体形成ホルモン」の項を参照のこと);
を踏まえれば、抗エストロゲン性SERM(例えば(A6-5)【0093】)であるそれらEM800やEM652、若しくはEM-652.HCl(アコルビフェン)の作用によりLH分泌が刺激され、以て循環TTレベルが上昇することは、当業者が予期し得た範囲のことである。

(ii-2)相違点2について
(ア) テストステロン等と共にアンドロゲンとして周知であるDHEAの補充療法(即ち、DHEAを用いたアンドロゲン補充療法)により、高齢男性の血中TT濃度の増大及びそれに伴う男性アンドロゲン欠乏症の治療及び/又は予防作用(例えば、体脂肪量の減少作用等)をもたらしめ得ることは、刊行物Bに記載されているとおりである。
そして、ここでいう刊行物Bの高齢男性((B-1)等)としては、より具体的には、25歳時以後の高齢の男性であって、年齢に依存して当該25歳時のような若い時期に比して循環(血中)DHEA/DHEAS量が相対的に減少し、それに応じた肥満、性機能不全等のアンドロゲン欠乏症状の発症の恐れがあり、(DHEA補充により)当該症状の発症を低減又は抑制させることが所望されているヒト男性(B-3)が、主な対象とされているものと解される。実際、刊行物Bでメタ解析の対象とされた(B-4)表1の参照文献(12)?(36)の患者集団のほぼ全員(参照文献(12)の患者以外)が、少なくとも40歳超(大半が60歳代以上)である。

(イ)1) そして、刊行物A1には、SERMが血中TTの増加により生じ得る副作用を防御しつつ、アンドロゲン補充療法の有益な応答を引き出し得ることが記載されている((A1-4)【0027】)のだから、かかる刊行物A1の記載を踏まえつつ、引用発明A1に加えて刊行物Bに記載されたDHEAの補充療法(上記(A1-4)【0027】のアンドロゲン補充療法に相当する)を組み合わせて用いることで、両者による高齢男性の血中TT濃度の増大、若しくはそれに伴う男性アンドロゲン欠乏症の治療及び/又は予防に係る薬理作用の相加的乃至相乗的向上を見込むことは、当業者にとり容易に検討しかつ行い得たことである。

2)また、そもそも一般に、医薬分野において、薬効増大、副作用低減といった当業者によく知られた課題を解決するために、2種以上の医薬成分を各成分の用法・用量等を最適化しつつ組み合わせて用いることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない(審査ハンドブック 附属書B第3章 医薬発明「2.3 進歩性(第29条第2項)」2.3.2(3))。
実際、そのような組合せ使用の例として、例えば、体重増加/肥満の減少作用を有する2種の医薬成分であるEM-652.HCl(SERM)とDHEA(アンドロゲン)とを組み合わせて用いることも、そのような製剤例の記載と共に、刊行物A6の記載にみられるとおりである。
してみると、これらのことを併せ考慮すれば、1)の刊行物A1の(A1-4)の記載乃至示唆に依らずとも、上述のよく知られた課題の解決のために、血中TT濃度の増加並びにそれに伴う男性アンドロゲン欠乏症の治療及び/又は予防に係る薬理作用(抗肥満作用等)を有する点で共通する、引用発明A1中のSERM成分と刊行物BのDHEAとを組み合わせて用いてみることは、当業者にとり容易になし得たことといえる。

(ii-3)相違点3について
(ア)(加齢による男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患について)
1) 本願発明では、「男性患者」の「男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患」における、「性腺機能低下症関連症状及び疾患」の原因やアンドロゲン欠乏の程度、客観的な診断基準等について、具体的な限定はない。

なお、この点については、本願明細書中でも、例えば
「 【0003】
そのレベル未満ではアンドロゲン欠乏症の症状及び有害な健康転帰が出現する、正確なテストステロン閾値レベルは、知られておらず、年齢に依存する可能性がある(Kelleher、Conwayら 2004; Zitzmann、Faberら 2006; Hall、Escheら 2008)。
【0004】
3.0ng/mLのテストステロン閾値において、症状はこの値未満でより多く出現する(Kelleher、Conwayら 2004; Zitzmann、Faberら 2006; Bhasin、Cunninghamら 2010)。米国内分泌学会(US Endocrine Society)のガイドラインは、LOHを、血清テストステロン2.0ng/mL未満が古典的な性腺機能低下症の1つ又は複数の兆候及び症状と共に認められることと定義している(Bhasin、Cunninghamら 2006)。米国アンドロロジー学会(American Society of Andrology)は、症状を示す男性においては3.0ng/mL未満を推奨している(American Society of Andrology 2006)。他方、International Society for the Study of the Aging Male (ISSAM)によれば、症状を示す高齢男性は、テストステロン3.50ng/mL未満を性腺機能低下とみなすべきである(Wang、Nieschlagら 2009a)。
【0005】
同時に、その濃度未満ではテストステロン投与が転帰を改善するテストステロン濃度は不明であり、個体及び標的臓器により異なり得る。したがって、入手可能な証拠は、全ての患者において性腺機能低下症の診断を確定する、そのレベル未満では臨床的なアンドロゲン欠乏が起こるテストステロンレベルの任意の閾値の使用を裏付けていない(Bhasin、Cunninghamら 2006)。 」
「 【0020】
加齢自体が、男性における性的機能の低下と関連する(Vermeulen 2003; Ebert、Jockenhovelら 2005)。 」
「 【0156】
所与の疾患の治療又はその発症リスクの低下を必要とする患者は、このような疾患と診断されている患者又はこのような疾患を獲得し得る患者である。 」
(各下線は当審による)等と記載されているのみである。
即ち、男性で性腺機能低下症と診断するに際し推奨されるテストステロン閾値については、上の【0004】で例示されているようにいくつかの先行知見が見出されるものの、その前後の【0003】及び【0005】の記載からみて、本願発明における「男性患者」の「男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患」における血中のテストステロン等のアンドロゲン濃度や客観的な診断基準等は、本願明細書中でも明確に定義づけられているとは認められない。
そして、本願明細書では併せて、個体(個人)にも依るものの、年齢(加齢、若しくは高齢)それ自体が、若い時期に比して性的機能の相対的な低下(このような相対的な性的機能の低下もまた、本願発明の「男性性腺機能低下関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患」と区別し得ない)をもたらし(【0003】、【0020】)、年齢が高い男性である程「男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患」の「発症リスク」(【0156】)を有するか、若しくは、そのような「症状又は疾患」を「獲得し得る」(【0156】)男性患者といえる、といったことが示唆されているのみと解される。

2) 一方、刊行物A1の(A1-2)によれば、ヒト男性におけるアンドロゲン欠乏症の原因としては、原発性性腺機能低下症及び続発性性腺機能低下症の他、「加齢」それ自体も挙げられ((A1-2))、より具体的には、「男性の血清中のテストステロンの平均濃度は、20?30歳以降は緩やかに継続的に低下する。低下率は、年に約1?2%であることが確認されている。さらに、年齢が上がるにつれて、テストステロン濃度の日周期リズムが現れなくなったり、減衰したり、あるいは完全に消失する。」((A1-2)【0006】)とされている。
そして、かかる記載によれば、引用発明A1における「アンドロゲン欠乏症」に関し、20?30歳より高齢のヒト男性であれば、当該ヒト男性のそれぞれにおいて20?30歳時に比して相対的に血中テストステロン濃度が低下しており、当該低下に応じて、(A1-3)【0021】?【0022】に記載されているような性腺機能の相対的低下及び/又はそれ以外の加齢関連テストステロン(アンドロゲン)の相対的欠乏(症)を来しているものと推認することができる。(仮に、そのような高齢のヒト男性において、(A1-3)【0022】に例示されるようないずれかの具体的な疾患の症状が一見して顕著にみられない場合であっても、そのような高齢のヒト男性は、20?30歳時に比してそのような疾患の「発症のリスク」(本願明細書【0156】)が高い患者であり、そのような疾患を「獲得し得る患者」(本願明細書【0156】)に他ならない。)
また、引用発明A1の薬理試験例として刊行物A1の(A1-6)の実施例において被験体として実際に採用されているヒト男性も「50?68歳の高齢男性」((A1-2)【0006】の「20?30歳」より高齢のヒト男性」)であることから、当該高齢男性はそれぞれ、加齢により20?30歳時に比して相対的に血中テストステロン濃度が低下しており、当該相対的な低下に応じて(A1-3)【0021】?【0022】に記載されているような性腺機能の相対的低下及び/又はそれ以外の加齢関連テストステロン(アンドロゲン)欠乏症を有しているか、若しくは、そのような疾患の症状を発症するリスクを有する(そのような疾患を獲得し得る)患者である、と解することができる。

3) 上の1)及び2)での検討を併せ踏まえると、引用発明A1に係る医薬調製物の適用対象であるヒト男性のうち、加齢による性腺機能の相対的低下を伴うヒト高齢男性は、男性性腺機能低下関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させることが所望される男性患者と、実質的に区別し得ない。
そうすると、相違点3は実質的な相違点とはいえない。

また、(A1-2)【0006】に挙げられた加齢によるアンドロゲン欠乏症の高齢男性が、特に顕著な性腺機能低下症又はその関連症状を示す男性である場合(例えば、(A1-2)【0007】の診断基準に合致する「テストステロンの総量が≦200ng/dL(すなわち、7nmol/L)」であって「アンドロゲン欠乏症であることを確定」し得る高齢男性患者である場合や、(A1-3)【0022】に例示されるようないずれかの具体的な疾患の症状を顕著に呈している高齢男性患者である場合)もまた、それらの高齢男性患者は、男性性腺機能低下関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させることが所望される男性患者と明らかに区別し得ない。
そうすると、この場合においても、相違点3は実質的な相違点とはいえない。また、高齢男性のうち、特に上述のような顕著な性腺機能低下症又はその関連症状を示す高齢男性患者を、引用発明A1の医薬調製物の適用対象であるヒト男性として選択することは、刊行物A1の記載に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(イ)(加齢以外の原因による男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患について)
刊行物A1には、引用発明A1の医薬調製物の適用対象であるヒト男性として、加齢によるテストステロン欠乏症の高齢男性以外にも、原発性性腺機能低下症又は続発性腺機能低下症の男性も挙げられているところ((A1-2)【0004】?【0005】等)、当該原発性性腺機能低下症又は続発性腺機能低下症の男性もまた、男性性腺機能低下関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させることが所望される男性患者と、実質的に区別し得ない。
そうすると、引用発明A1におけるアンドロゲン欠乏症が加齢以外の原因による場合でも、相違点3は実質的な相違点ではない。また、引用発明A1の医薬調製物の適用対象として、そのような原発性性腺機能低下症又は続発性腺機能低下症を伴い、それら原発性性腺機能低下症又は続発性腺機能低下症の発生を低減させる又は消失させることが所望される男性患者を選択することは、刊行物A1の記載に基づいて当業者が容易になし得たことでもある。

(ii-4)本願発明の効果について
(ア)1) 本願明細書において、本願発明に係るアコルビフェン(EM-652.HCl)又はEM-800とDHEAとの組合せ医薬の投与について、in vivo薬理試験である実施例3、4等で採用されている被験体は、いずれも雌性の動物である。
そして、TTやDHEA等のアンドロゲンの主な合成器官である精巣を有しておらず、精巣以外の男性(優性)生殖器官を有してもいない点等において本願発明の上記組合せ医薬の適用対象であるヒト男性(雄性)と決定的に異なり、またそれ故に、本願発明の「男性性腺機能低下関連症状及び疾患」に該当する任意の疾患を呈さないことが明らかな、上記雌性動物を被験体を用いたそれら実施例3、4等の薬理試験の結果を、本願発明に係るヒト男性(雄性)対象の組合せ医薬の薬理作用の評価に際して合理的に参酌することはできない。

2) また、本願明細書において、男性(雄性)被験体を適用対象とした薬理試験結果について具体的に記載されているのは、本願発明のSERMであるアコルビフェン又はEM-800を単独で(即ち、DHEAを併用することなく)、【0088】中の図13、14の説明文に記載された特定の用法・用量条件下に「雄カニクイザル」に投与したところ、図13、14の血清TT濃度の変化がみられたことを述べた、【0148】記載の試験(以下、「【0148】の試験」ということがある)においてのみである。
そして、当該【0148】の試験は、次の2-1)?2-2)の点において、本願発明に係る上記組合せ医薬による「男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させる」薬理作用を具体的に又は合理的に裏付け得ているものとは認められない。
・2-1) 【0148】の試験で適用対象とされている被験体については、単に「雄カニクイザル」と記載されているのみであって、ヒトの男性ではないのみならず、そもそも本願発明にいう「男性患者にお」ける「男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患」に相当する症状又は疾患を呈するモデルであるとは直ちに把握することができないから、当該試験における被験体が本願発明に係る組合せ医薬の薬理作用を示す試験において用いるに適切なものとはいえない。
・2-2) 仮に、ここで用いられている「雄カニクイザル」が、本願発明にいう「男性患者にお」ける「男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患」に相当する症状又は疾患を呈するモデルであるのだとしても、上述のとおり、【0148】の試験で採用されているのはアコルビフェン又はEM-800の単独投与であって、本願発明に係るDHEAとの組合せ医薬の投与の試験結果を示したものではない。

(イ) してみると、これらの本願明細書の記載を以ては、上記(i)の相違点1?3に係る要件を併せ具備してなる、本願発明に係るアコルビフェン又はEM-800とDHEAとの組合せ使用が、例えば「男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させる」という薬理作用において、刊行物A1、A6及び/又は刊行物Bに記載乃至示唆される事項の範囲を超えて優れた効果を奏する、ということが明らかにされているとはいえない。

(ii-5)小括
以上の(ii-1)?(ii-4)で検討・説示したとおりであるから、本願発明は、刊行物A1に記載された発明と刊行物A1の記載及び刊行物Bの記載との組合せに基づいて、若しくは、刊行物A1に記載された発明と刊行物A1の記載、刊行物A6の記載及び刊行物Bの記載との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iii)請求人の主張について
なお、請求人は、令和2年3月19日付けの意見書において、本願明細書の【0148】?【0149】及び図13、14に示された試験結果について述べているが、(ii)(ii-4)で述べたとおり、当該試験結果の記載は、
・上記(i)の相違点1?3に係る要件を併せ具備してなる、本願発明に係るアコルビフェン又はEM-800とDHEAとの組合せ使用が、「男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を低減させる又は消失させる」という薬理作用において、質的及び/又は程度的に、刊行物A1、A6及び/又は刊行物Bに記載乃至示唆される事項の範囲を超えた如何なる優れた効果を奏するといえるのか;
・当該優れた効果が奏されることが、本願明細書のどの箇所の記載により裏付けられているといえるのか;
といった点について、何ら具体的かつ合理的に示すものではなく、また、同意見書中でも、これらの点について具体的かつ合理的な説明がなされているわけでもない。
よって、このような主張を以て、(ii)で述べた進歩性否定に係る判断を取り消すべき理由として採用することはできない。
また、同意見書におけるその他の主張、並びに、同意見書で引用されている令和2年3月19日付け手続補足書に添付された参考資料1?18の記載事項も、本願発明に対する進歩性否定に係る上述の当審の判断を何ら合理的に妨げるものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について論及するまでもなく、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-17 
結審通知日 2020-09-23 
審決日 2020-10-16 
出願番号 特願2016-557002(P2016-557002)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 大久保 元浩
冨永 みどり
発明の名称 性ステロイド前駆体とSERMとの併用による男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の治療  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  

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