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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
管理番号 1371598
審判番号 不服2019-4360  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-03 
確定日 2021-03-02 
事件の表示 特願2014-151635「燃料噴射ノズル」拒絶査定不服審判事件〔平成27年2月5日出願公開、特開2015-25454〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
第1.手続きの経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成26年7月25日(パリ条約による優先権主張2013年(平成25年)7月26日(DE)ドイツ特許庁)の出願であって、平成30年11月22日付け(発送日:平成30年12月3日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成31年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その請求と同時に特許請求の範囲を補正する手続補正がされ、令和元年12月27日付け(発送日:令和2年1月6日)で当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である令和2年4月6日に意見書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願請求項1ないし7に係る発明は、平成31年4月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。下線部は請求人が付与したものであり、補正箇所を示す。

(1)本願発明
「ノズル本体(11)と前記ノズル本体(11)内に配置されるノズルニードル(12)とを備える、重油で作動される船舶用ディーゼル内燃機関または定置式内燃機関の燃料噴射ノズル(10)であって、 前記ノズル本体(11)が、前記ノズルニードル(12)のための弁座(13)を提供し、かつ前記ノズル本体(11)は、金属材料から製造され、前記ノズルニードル(12)は、燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズルニードル(12)の所定の領域(15)が前記ノズル本体(11)によって提供される前記弁座(13)に押し付けられる様式でバルブ本体として機能し、 前記ノズルニードル(12)のうち、前記燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズル本体(11)によって提供される前記弁座(13)に押し付けられる前記領域(15)のみが、セラミック材料から形成されることを特徴とする燃料噴射ノズル。」

第3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審において令和元年12月27日付けで通知した拒絶理由の(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。

(進歩性)本願の請求項1ないし7に係る発明(以下「本願発明1ないし7」とする)は、その優先日前に日国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 一 覧

1.特開2002?106445号公報
2.特開昭63-80063号公報(周知技術を示す文献)
3.特表2013?519027号公報(周知技術を示す文献)

第4.引用文献の記載事項
1.引用文献1について
当審拒絶理由に引用した引用文献1、すなわち特開2002-106445号公報には、「燃料噴射ノズル」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである(以下、同様)。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼルエンジン等の燃料噴射に使用する高圧の燃料噴射ノズルに関する。」

イ「【0008】しかしながら、このような高速噴射を従来の金属製の燃料噴射ノズルで試みると、金属が変形し精密な噴射制御ができなくなるという問題があった。そこで、提案されているのが、剛性の高いセラミックスを燃料噴射ノズル先端のニードル4等に使用することである。また、セラミックスとしては、熱膨張率が11×10^(-6)/℃と比較的金属に近いジルコニアを使用することが提案されている(特開平5-240127号公報参照)。」

ウ「【0012】特に、コマンドピストンピン5とノズル本体1との間隔は、コマンドピストンピン5方向への燃料の漏れを防止するため、片側2μm以下と微小に調整されている。このため、セラミックスからなるコマンドピストンピン5の真円度が変化すると摺動性が低下し、ノズル本体1が磨耗してコマンドピストンピン5方向に燃料が漏れてしてしまうという課題があった。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、噴口を備えたノズル本体と、該ノズル本体中に配置され、上記噴口の開閉を行うニードルと、該ニードルの後方を支持するコマンドピストンピンを有する燃料噴射ノズルにおいて、上記ノズル本体が金属材からなり、前記ニードル、コマンドピストンピンの少なくとも一つが、ジルコニアを主成分とし5?40重量%のアルミナを含有するセラミックスからなり、該セラミックスの熱膨張率が9.4×10^(-6)/℃以上で、表面に存在する気孔の最大径が5μm以下であり、且つその表面粗さが0.8z以下の燃料噴射ノズルとすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】本発明の燃料噴射ノズルは、図1に示すように、有底筒状のノズル本体1とノズル本体1の筒状体先端部2に形成された複数個の噴口3、ノズル本体1内に配置され墳孔3を開閉するためのニードル4、またその後方からニードル4の往復運動を支えるコマンドピストンピン5とからなる。
【0016】ノズル本体1は筒状体上部6と筒状体下部7とからなり、筒状体上部6には燃料通路8が形成され、該燃料通路8の端部には燃料溜まり9が形成されている。また、筒状体下部7の内周面10とニードル4の外周面11との間には、燃料溜まり9と連通する環状燃料通路12が形成されている。そして、噴口3は、ニードル4の往復運動によってニードル4の先端テーパー面が筒状体先端部2の弁座13に接触したり離れたりすることにより開閉される。」

エ「【0042】
【実施例】実施例 1
ジルコニアと、3mol%Y_(2)O_(3)を含有する共沈粉末とアルミナ粉末を用いて、表1の組成になるように調合後、80MPaでラバー成形することによりニードル4およびコマンドピストンピン5の成形体を得た。
【0043】次に、この成形体を切削加工したのち、大気中で1450℃で焼成することにより98%以上まで緻密化させ、さらに2000気圧の加圧下にて1450℃でHIP処理を施し焼結体を得た。
【0044】さらに規定の形状、寸法に加工し、またコマンドピンピストン5については、さらに外形をノズル本体1の内径に対し径差2μm以下となるようにマッチング加工をほどこした。ノズル本体1はSCM415で形成し、これらのニードル4とコマンドピストン5を、図1に示すような形で組み付けた。
【0045】また、比較用として、現在量産用のノズルとして使用されているSCM415浸炭品からなるニードル4を用い、実機条件(250?260℃)で実機相当の衝撃を10^(7)回印加した。その後、各々のニードル4の磨耗量、コマンドピストンピン5の磨耗量およびノズル本体1の磨耗量は、図2に示すように、ニードル4の弁座部13に接する部分、コマンドピストンピン5の表面、ノズル本体1の弁座部13および内周面について、表面粗さ計14を用いて測定した。なお、各磨耗量は、その最大深さを示した。
【0046】
【表1】
【0047】この表から判るように、アルミナ含有量が40重量%を越え、熱膨張率が9.4×10^(-6)/℃未満となるNo.1、2は、抗折強度が1000MPa未満と低くなると同時に、ニードル4等の磨耗量が、従来の金属を用いた場合に較べて大きくなるので好ましくない。また、アルミナ含有量が5重量%未満となるNo.6,7は、ニードル4等の摩耗量が従来の金属を用いた場合に較べて大きくなるので好ましくない。
【0048】また、ニードル4およびコマンドピストンピン5の表面の最大気孔径が5μmを越えるNo.10、11、およびニードル4とコマンドピストンピン5の表面粗さが0.8zを越えるNo.13、14は、供にニードル等の部品の磨耗量が、金属を使った場合に較べて大きくなり、好ましくないことが判った。
【0049】これに対し、本発明の請求範囲内になるように調整したNo.3?5、8、9、12は、金属を用いた場合に較べて、約7割程度の磨耗量となり、良好であった。」

オ「【0060】
【発明の効果】以上のように、本発明の燃料噴射ノズルのように、噴口を備えたノズル本体と、該ノズル本体中に配置され、上記噴口の開閉を行うニードルと、該ニードルの後方を支持するコマンドピストンピンを有する燃料噴射ノズルにおいて、上記ノズル本体が金属材からなり、前記ニードル、コマンドピストンピンの少なくとも一つが、ジルコニアを主成分とし5?40重量%のアルミナを含有するセラミックスからなり、該セラミックスの熱膨張率が9.4×10^(-6)/℃以上で、表面に存在する気孔の最大径が5μm以下であり、且つ前記ニードルおよび/またはコマンドピストンピンの外周部の表面粗さを0.8z以下とすることにより、ニードルおよびコマンドピストンピンによる相手攻撃性の小さく、耐久性良好な燃料噴射ノズルを得ることができる。」

上記の記載及び図面より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

[引用発明1]
「有底筒状の金属材からなるノズル本体1と、前記ノズル本体1の筒状体先端部2に形成された複数個の噴口3、前記ノズル本体1内に配置され墳孔3を開閉するためのニードル4、またその後方からニードル4の往復運動を支えるコマンドピストンピン5とからなる、ディーゼルエンジンの燃料噴射ノズルであって、
上記噴口3は、ニードル4の往復運動によってニードル4の先端テーパー面が筒状体先端部2の弁座13に接触したり離れたりすることにより開閉され、
前記ニードル4及びコマンドピストンピン5の少なくとも一つが、ジルコニアを主成分とし5?40重量%のアルミナを含有するセラミックスからなる、燃料噴射ノズル。」

2.引用文献2について
当審拒絶理由に引用した引用文献2、すなわち特開昭63-80063号公報には、「噴射ノズル構造」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「[従来の技術]
内燃機関に採用される噴射ノズルは、ノズル先端部が燃焼室に臨まされて配設されるために燃焼ガスに対しての高温強度が要求される。このため本出願人は特開昭58-143163号公報にノズルボディの先端部分である噴口部をSi_(3)N_(4)またはAl_(2)O_(3)等のセラミックスで形成したエンジン用燃料噴射ノズルを提案している。
[発明が解決しようとする問題点]
上記ノズル先端部を形成するセラミックスは一般の金属材料に比べて(1)熱膨張係数が小さい、(2)大きな耐衝撃性をもつ、(3)熱伝導度が小さいなどの優れた長所をもっているが、しかし、金属性のノズル本体にセラミックス製のノズル先端を接続する上で、構造が複雑になって製造コストが上昇するため改善の余地が残されていた。
[問題点を解決するための手段]
本発明は上記問題点を解決することを目的とし、本発明は、針弁を昇降自在に収容するノズル本体の先端にセラミックスから形成されて燃料の噴口を有するノズル先端部を接続し、上記針弁の着座部分を含む針弁先端部をセラミックスと略同等の低熱膨張係数を有する材料で形成して噴射ノズル構造を構成するものである。」(1ページ右下欄18行ないし2ページ左上欄5行)

イ「第1図に示されるように円筒状に形成されたノズル本体1の針弁収容部2には、針弁3が昇降自在に収容されており、このノズル本体1の先端にはそのノズル本体1の同軸上にインコロイ、コバール等のセラミックスと略同等の熱膨張係数をもつリング状の中間金属部材4が接続される。接続としては摩擦圧接や拡散溶接が採用される。この中間金属部材4には、先端内周面に上記針弁3のシート面3aが着座されるシート部4aが円錐状に形成されており中間金属部材4の後端には上記針弁3のステム部3aを包囲する筒部4bが形成されている。
一方、ノズル先端部7はセラミックス(例えばSi_(3)N_(4、)Al_(2)O_(2))にて焼成され、この実施例では、上記針弁3の先端部の外形状に合せて断面V字形に形成されている。ノズル先端部7の側部7aにはその傾斜方向に対し交差する方向に且つ傾斜方向に間隔をおいて燃料の噴口8が複数形成されている。セラミックス類のノズル先端部7と中間金属部材4とは同軸上に一体に接続されており、これにより針弁5を収容するノズルボディ10が形成される。
他方、針弁5は上記中間金属部材4のシート部4aに着座される部分を含む針弁先端部(図の二点鎖線で示す部分)が、上記ノズル先端部7の形成材料と略同等の熱膨張係数を有する材料から形成されている。本実施例では針弁5の後端側部分となるステム部3aがスチールFeで針弁先端部3bが例えばセラミックス(Si_(3)N_(4))、インコロイ、ニレジスト等で夫々別個に形成され、-体に接続される。これらの接続としてはブレージング溶接が採用される。」(2ページ左下欄12行ないし3ページ左上欄3行)

上記の記載及び図面より、引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

引用文献2記載事項
「内燃機関に採用される噴射ノズルにおいて、燃焼ガスに対しての高温強度を高めるために、ノズル先端部7及びノズル本体1に接続される中間金属部材4のシート部4aに着座する部分を含む針弁先端部3bがセラミックスで形成され、後端側部分となるステム部3aがスチールで形成されること。」

3.引用文献3について
当審拒絶理由に引用した引用文献3、すなわち特表2013-519027号公報には、「針弁のための針」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

オ「【0003】
燃料噴射器のための針弁は、複数の性能基準、すなわち、針弁は、ある範囲の動作圧力に耐える必要があること、針弁は、十分な動作期間にわたって針弁が確実に動作することを可能にするために、十分な構造的強度および摩耗に対する十分な耐性を必要とすること、および、針弁は、製造および使用に対して容易で安価であるべきこと、を満たす必要がある。これらの性能基準について、とりわけディーゼルエンジンのためのコモンレール燃料噴射器で使用するための燃料噴射器については、従来の針弁より良好に作動する針弁を提供することが望ましい。」

カ「【0017】
以下に説明される針および針弁は、噴射器システム、とりわけコモンレール燃料噴射器システムにおける使用に適する。次に、説明される針および針弁が使用されうる、既存のコモンレール燃料噴射器システムが、図1を参照して論じられる。このシステムは、とりわけ、ディーゼルが使用される燃料である場合に適する。
【0018】
コモンレール燃料噴射器の便益は、他の知られているシステムと比較して、最小のエンジン暖機時間と、より低いエンジン雑音と、より少ない排出物とを含む。典型的には、コモンレール燃料システムは、「レール」と呼ばれ、エンジンブロックに沿って装着され、高圧ポンプで供給される、コモン蓄圧器を含む。レールの圧力レベルは、供給ポンプの計量と、高圧レギュレータ(適合される場合)による燃料排出との組合せによって、電子的に調整される。蓄圧器は、エンジンの速度または負荷と独立に動作し、それにより、高噴射圧力が、必要な場合、低速度において生み出されうる。一連の噴射器がレールに接続され、それぞれは、各噴射器を電子的に開くエンジン制御ユニット(ECU)によって指示される通りに、ソレノイド弁または圧電作動装置などによって開かれ、また閉じられる。
【0019】
従来のコモンレール燃料噴射器の一形態が、例として図1に示される。それは、ノズル本体(22)の中に形成された穴(bore)の中で滑動可能であり、かつ穴の自由端において座(seating)(21)と係合可能なノズル針(26)を備え、自由端に隣接する1つまたは複数の出口(24)を介して穴から燃焼室までの燃料の分配を制御する。穴が針の滑動運動のための案内部として働くように、穴は、針(26)の直径に類似する直径の、ノズル端に向かう領域を含む。また、穴は、燃料供給通路(102)からの圧力の下で燃料を受けるための通路(gallery)(30)を画定する、拡張された直径の領域を含む。
【0020】
ノズル本体(22)は、ノズル針(26)と協働するかまたはノズル針(26)から延びる突起部を受けかつ案内するための穴(46)を含むピストン筐体(40)に当接する。ピストンばね(29)が、針(26)を座(21)に向かって押圧するように、拡張された直径の領域(27)で形成されるばね当接面に作用する。」

キ「【0024】
針弁のための針の第1の実施形態が、図2に示される。針は、針先端を備える先端部(2)と、針先端から離れた第1の案内部(1)と、管(3)の形の第2の案内部とを有する。
【0025】
針は、弁体の穴(図1の構成における穴(46)など)の中に受け入れられるように適合された上部案内(1)の形の第1の案内部を有する。上部案内(1)の端面(33)にかかる圧力が、針を閉止に向けて駆動する。図示の構成では、上部案内(1)は、狭い案内部(31)およびより大きな直径の本体部(32)を有する。段部(34)が、狭い案内部(31)と本体部(32)との間に形成され、この段部は、針を弁閉止に向けて付勢するためのばね(図示されないが、等価の構成が、図4に示される)の座として働く。燃料噴射器の中で使用するための針弁に対して、狭い案内部(31)に対する典型的な直径Gは2mmであってよく、本体部(32)に対する典型的な直径Dは、4mmであってよい。針弁の異なる設計では、Gは、1.5mm?5mmの範囲にあるように選択されてよく、Dは、2mm?6mmの範囲にあるように選択されてよい。
【0026】
先端部(2)は、不連続な構成要素であり、上部案内(1)と別個に形成される。上部案内(1)は、通常、鋼でできており、先端部(2)は、鋼から作られてもよいが、鋼でできている必要はなく、同様に、セラミック(窒化ケイ素、または酸化マグネシウムで安定化された酸化ジルコニウムなど)で作られてもよく、その場合、針先端が受ける条件により適合している。針先端は、例えば図1での例示的な使用に示されるように、針弁に関する通常の方法で弁体に対して封止係合を形成するように適合される。燃料噴射器の針弁の中で使用するための針では、針に対する最適な全長Lは、60mmであってよい。針弁の異なる設計では、Lは、40mm?100mmの範囲にあるように選択されてよく、他の設計では、さらに大きな長さの針が、使用されてよい。」

ク「【0028】
管(3)は、先端部(2)と上部案内(1)との間に唯一の接続部を提供する。管の形の構造的強度は、管(3)が適切な材料でできておりかつ適切な厚さであるならば、管(3)は、十分に剛性でかつ強く、針弁は、その動作パラメータ内で機能するが、また、非常に軽量であることを意味する。管(3)は、典型的には、適切な鋼で作られてよく、約0.5mmの厚さの壁を有してよく、壁の厚さは、実際には、剛性と重量との適切な組合せをもたらすように選択されてよい。」

上記の記載及び図1及び図2より、引用文献3には、以下の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

引用文献3記載事項
「十分な構造強度および摩耗に対する十分な耐性を有するようにし、針先端が受ける条件により適合させるために、ディーゼルエンジンのための燃料噴射器において、ノズル本体22に形成された座21と係合可能なノズル針26のうち、封止係合を形成する先端部2はセラミックで作られてもよく、上部案内1及び管3は鋼で作られてもよいこと。」

第5.対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比すると、後者の「有底筒状の金属材からなるノズル本体1」は、その機能、構成及び技術的意議からみて前者の「金属材料から製造され」る「ノズル本体(11)」に相当し、以下同様に「ニードル4」は「ノズルニードル(12)」に、「前記ノズル本体1の筒状体先端部2」「の弁座13」は「前記ノズル本体(11)によって提供される前記弁座(13)」に、相当する。
また、引用発明1の「ディーゼルエンジンの燃料噴射ノズル」と本願発明の「重油で作動される船舶用ディーゼル内燃機関または定置式内燃機関の燃料噴射ノズル(10)」とは、「ディーゼル内燃機関または内燃機関の燃料噴射ノズル」という限りにおいて一致する。
そして、引用発明1の「ニードル4の先端テーパー面」は本願発明の「前記ノズルニードル(12)の所定の領域(15)」に対応し、同様に、「接触したり離れたりすることにより開閉され」は「押し付けられる様式でバルブ本体として機能し」に、「ジルコニアを主成分とし5?40重量%のアルミナを含有するセラミックスからなる」は「セラミック材料から形成される」に対応することを踏まえると、引用発明1の「ニードル4及びコマンドピストンピン5の少なくとも一つが、ジルコニアを主成分とし5?40重量%のアルミナを含有するセラミックスからなる」と本願発明の「ノズルニードル(12)のうち、前記燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズル本体(11)によって提供される前記弁座(13)に押し付けられる前記領域(15)のみが、セラミック材料から形成される」とは、「ノズルニードルのうち、前記燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズル本体によって提供される前記弁座に押し付けられる前記領域が、セラミック材料から形成される」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明と引用発明1とは、
「ノズル本体と前記ノズル本体内に配置されるノズルニードルとを備える、ディーゼル内燃機関または内燃機関の燃料噴射ノズルであって、
前記ノズル本体が、前記ノズルニードルのための弁座を提供し、かつ前記ノズル本体は、金属材料から製造され、前記ノズルニードルは、燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズルニードルの所定の領域が前記ノズル本体によって提供される前記弁座に押し付けられる様式でバルブ本体として機能し、
ノズルニードルのうち、前記燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズル本体によって提供される前記弁座に押し付けられる前記領域が、セラミック材料から形成される燃料噴射ノズル。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「燃料噴射ノズル」が備えられるべき「ディーゼル内燃機関または内燃機関」が、本願発明では「重油で作動される船舶用内燃機関または定置式内燃機関」であるのに対し、引用発明では重油で作動される船舶用または定置式とは規定されていない点。

[相違点2]
「ノズルニードルのうち、前記燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズル本体によって提供される前記弁座に押し付けられる前記領域が、セラミック材料から形成される」ことが、本願発明では「ノズルニードル(12)のうち、前記燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズル本体(11)によって提供される前記弁座(13)に押し付けられる前記領域(15)のみが、セラミック材料から形成される」ことであるのに対して、引用発明では「ニードル4及びコマンドピストンピン5の少なくとも一つが、ジルコニアを主成分とし5?40重量%のアルミナを含有するセラミックスからなる」ことである点。

上記相違点について検討する。
[相違点1]について
船舶用の内燃機関としての、重油で作動され、燃料噴射ノズルが備えられたディーゼルエンジンや、定置式内燃機関に燃料噴射ノズルを備えることは、いずれも、例示するまでもない周知技術(以下、「周知技術1」という。)であって、その採否は当業者が適宜決定し得た程度のことにすぎない。
そうすると、引用発明の燃料噴射ノズルが備えられるディーゼルエンジンを、「重油で作動される船舶用内燃機関または定置式内燃機関」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2]について
引用発明において、「ニードル4及びコマンドピストンピン5の少なくとも一つが、ジルコニアを主成分とし5?40重量%のアルミナを含有するセラミックスからなる」ものとしたことは、上記第4.1.イに摘記した段落【0008】の記載からみて、剛性の高さが要求されるニードル4等のみを剛性の高いセラミック製としたものと解されるところ、「噴口3」が、「ニードル4の往復運動によってニードル4の先端テーパー面が筒状体先端部2の弁座13に接触したり離れたりすることにより開閉され」るという引用発明において、「筒状体先端部2の弁座13に接触したり離れたりする」ものである「ニードル4の先端テーパー面」部分が、特に剛性が要求されることは当業者であれば通常予測し得たことにすぎない。
また、上記第4.2.に示した引用文献2記載事項「内燃機関に採用される噴射ノズルにおいて、燃焼ガスに対して高温強度を高めるために、ノズル先端部7及びノズル本体1に接続される中間金属部分4のシート部4aに着座する部分を含む針弁先端部3bがセラミックスで形成され、後端側部分となるステム部3aがスチールで形成されること」及び上記第4.3.に示した引用文献3記載事項「ディーゼルエンジンのための燃料噴射機器において、十分な構造的強度および摩耗に対する十分な耐性を有するようにして、針先端が受ける条件により適合するために、ノズル本体22に形成された座21と係合可能なノズル針26のうち、封止係合を形成する先端部2はセラミックで作られてもよく、上部案内1及び管3は鋼で作られてもよいこと」からみて、燃料噴射ノズルを構成する部品のうち、「燃焼ガスに対する高温強度」が必要とされる部分(前記ノズル先端部7及びノズル本体1に接続される中間金属部分4のシート部4aに着座する部分を含む針弁先端部3b)のみを、あるいは、「十分な構造的強度および摩耗に対する十分な耐性を有するようにして、針先端が受ける条件により適合する」ことが必要される部分(前記先端部2)のみを、セラミック材料性とすることは、本願の優先日前の周知技術(以下、「周知技術2」という。)であったといえる。
以上を踏まえると、引用発明において、「ニードル4の先端テーパー面」部分のみをセラミック製とするか否かは、当業者が、その製造コスト等を勘案して、適宜決定し得た設計的事項というべきことである。

そして、本願発明において「ノズルニードル(12)のうち、前記燃料噴射ノズルが閉鎖されると前記ノズル本体(11)によって提供される前記弁座(13)に押し付けられる前記領域(15)のみが、セラミック材料から形成される」ことに関して、本願明細書には、段落【0005】に「本発明によれば、ノズルニードルの少なくとも所定の領域であって、燃料噴射ノズルが閉鎖されるとノズル本体によって提供される弁座に押し付けられる領域が、セラミック材料から製造される。」と記載され、段落【0007】に「優先的に、ノズルニードルは完全にセラミック材料から形成される。これによりノズルニードルの質量をさらに低減でき、したがって燃料噴射ノズルの閉鎖時にノズル本体によって提供される弁座にノズルニードルが接触する際の衝撃をさらに低減できるため、この構成は有利となる。」と記載され、段落【0018】に「本発明に関し、ノズルニードル12は、燃料噴射ノズル10が閉鎖されるとノズル本体11によって提供される弁座13に押し付けられる領域15において少なくともセラミック材料で形成される。言い換えると、ノズルニードル12は、少なくともシーリング縁部15の領域においてセラミック材料から形成される。このため、一方ではノズルニードル12の重量を低減でき、かつ他方では領域15におけるノズルニードル12の硬度および強度を高めることができる。」と記載されているものの、前記「領域(15)のみが、セラミック材料から形成される」ことに起因する特有の作用ないし効果については何ら説明されていない。

なお、審判請求人は、審判請求書の4.において「弁座(13)に押し付けられる領域(15)のみに、つまり必要最小限の部分に硬度が高いセラミック材料を使用することにより、有利に燃料噴射ノズルの閉鎖時のノズル本体の弁座におけるノズルの接触衝撃が低減するとともにノズルニードルが燃料中の異物によって損傷されるリスクはより低くなるという効果を得ることができます。」と主張しているが、この主張は、本願明細書の記載に基づくものではなく、当を得たものではない。

また、本願発明1は、全体としてみても、引用発明、周知技術1及び周知技術2から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明1は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-14 
結審通知日 2020-09-23 
審決日 2020-10-12 
出願番号 特願2014-151635(P2014-151635)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 北村 英隆
特許庁審判官 渡邊 豊英
谷治 和文
発明の名称 燃料噴射ノズル  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  

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