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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03F |
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管理番号 | 1371641 |
審判番号 | 不服2020-8141 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-12 |
確定日 | 2021-03-23 |
事件の表示 | 特願2017-555047「感放射線性樹脂組成物,硬化膜,パターン形成方法,固体撮像素子および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月15日国際公開,WO2017/099019,請求項の数(15)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2017-555047号(以下「本件出願」という。)は,2016年(平成28年)12月2日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年12月8日)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成31年 4月15日付け:拒絶理由通知書 平成31年 4月19日提出:刊行物提出書 令和 元年 6月14日提出:意見書 令和 元年 6月14日提出:手続補正書 令和 元年 9月 3日付け:拒絶理由通知書 令和 元年10月11日提出:意見書 令和 元年10月11日提出:手続補正書 令和 2年 2月27日提出:刊行物提出書 令和 2年 3月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 6月12日提出:審判請求書 令和 2年 6月12日提出:手続補正書 令和 2年 8月 7日提出:刊行物提出書 令和 2年 8月27日付け:前置報告書 2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項15に係る発明は,令和2年6月12日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項15に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1および請求項2の記載は,以下のとおりである。 「【請求項1】 樹脂と,エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物と,光重合開始剤と,有機溶剤と,水を含む感放射線性樹脂組成物であって, 前記光重合開始剤は,分岐アルキル基および環状アルキル基から選ばれる少なくとも1種類の基を有するオキシムエステル化合物と,前記オキシムエステル化合物以外の化合物を含み, 前記オキシムエステル化合物以外の化合物は,分岐アルキル基および環状アルキル基を有さないオキシムエステル化合物,アルキルフェノン化合物,および,アシルホスフィン化合物から選ばれる少なくとも1種であり, 前記オキシムエステル化合物以外の化合物の含有量が前記オキシムエステル化合物の100質量部に対して100?1300質量部であり, 前記光重合開始剤の100質量部に対し,水を4?300質量部含有し, 水の含有量が,前記感放射線性樹脂組成物の質量に対して0.1?2質量%である,感放射線性樹脂組成物。」 「【請求項2】 樹脂と,エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物と,光重合開始剤と,有機溶剤と,水を含む感放射線性樹脂組成物であって, 前記光重合開始剤は,分岐アルキル基および環状アルキル基から選ばれる少なくとも1種類の基を有するオキシムエステル化合物と,前記オキシムエステル化合物以外の化合物を含み, 前記オキシムエステル化合物以外の化合物は,分岐アルキル基および環状アルキル基を有さないオキシムエステル化合物,アルキルフェノン化合物,および,アシルホスフィン化合物から選ばれる少なくとも1種であり, 前記オキシムエステル化合物以外の化合物の含有量が前記オキシムエステル化合物の100質量部に対して100?1300質量部であり, 前記分岐アルキル基および環状アルキル基から選ばれる少なくとも1種類の基を有するオキシムエステル化合物の100質量部に対し,水を30?1000質量部含有し, 水の含有量が,前記感放射線性樹脂組成物の質量に対して0.1?2質量%である,感放射線性樹脂組成物。」 なお,請求項3?請求項14には,請求項1又は請求項2に記載の「感放射線性樹脂組成物」の発明に対して,さらに他の発明特定事項を付加した「感放射線性樹脂組成物」の発明が記載されている。また,請求項15には,請求項1?14のいずれか1項に記載の「感放射線性樹脂組成物」の発明を用いた,「パターン形成方法」の発明が記載されている。 3 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は,概略,[A](新規性)本件出願の請求項1?請求項11及び請求項17に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B](進歩性)本件出願の請求項1?請求項17に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1:特表2014-500852号公報 引用文献2:特開2015-165297号公報 引用文献3:特開2003-295427号公報 引用文献4:特開2008-058683号公報 引用文献5:特開2013-054339号公報 引用文献6:特開2014-228775号公報 引用文献7:特開2011-169980号公報 引用文献8:特開2014-167509号公報 引用文献9:特開2014-167510号公報 (当合議体注:主引用例は,引用文献1又は引用文献2である。引用文献3?引用文献9は,周知技術を示す文献として挙げられたものである。) 第2 当合議体の判断 1 引用文献1についての判断 (1) 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特表2014-500852号公報)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,【0327】及び【0332】に付された下線以外の下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物ならびに前記化合物の光重合性の組成物における光開始剤としての使用に関する。 …省略… 【0003】 光重合技術においては,反応性が高く,製造が容易で,かつ取り扱いが容易な光開始剤に対しての要求がいまだ存在する。例えば,カラーフィルターレジスト用途においては,高度に顔料着色されたレジストは,高い色品質特性のために必要である。顔料含分の増加に伴い,カラーレジストの硬化はより困難になる。ここで,高い感度を有する光開始剤が必要である。更にまた,かかる新規の光開始剤は,例えば取り扱いの容易性,高い可溶性,熱安定性および貯蔵安定性などの特性に関する高い工業的要求を満たさねばならない。 【0004】 ここで,選択された化合物は,特に光開始剤として好適であることが判明した。」 イ 「【0116】 本発明の式Iの化合物の例は, 【化89】 …省略… である。」 ウ 「【0121】 式Iの化合物は,ラジカル光開始剤として適している。従って,本発明の対象は,上記定義の式(I)の化合物の,少なくとも1種のエチレン性不飽和の光重合性の化合物を含む組成物の光重合のための使用である。 【0122】 従って,本発明のもう一つの対象は,光重合性の組成物であって, (a)少なくとも1種のエチレン性不飽和の光重合性の化合物と, (b)光開始剤としての,上記定義の,少なくとも1種の式Iの化合物と, を含む前記組成物である。 【0123】 該組成物は,前記光開始剤(b)に加えて,少なくとも1種の更なる光開始剤(c)および/または他の添加剤(d)を含有してよい。 【0124】 該組成物は,前記光開始剤(b)に加えて,少なくとも1種の更なる光開始剤(c)もしくは他の添加剤(d)またはその両方,つまり少なくとも1種の更なる光開始剤(c)および他の添加剤(d)を含有してよい。 【0125】 不飽和化合物(a)は,1つまたはそれより多くのオレフィン性二重結合を含んでよい。それらは,低分子量(モノマー)または高分子量(オリゴマー)であってよい。二重結合を含むモノマーの例は,アルキルアクリレート,ヒドロキシアルキルアクリレート,シクロアルキルアクリレート(任意にOによって中断されている)もしくはアミノアクリレート,またはアルキルメタクリレート,ヒドロキシアルキルメタクリレート,シクロアルキルメタクリレート(任意にOによって中断されている)もしくはアミノメタクリレート,例えばメチルアクリレート,エチルアクリレート,ブチルアクリレート,2-エチルヘキシルアクリレートもしくは2-ヒドロキシエチルアクリレート,テトラヒドロフルフリルアクリレート,イソボルニルアクリレート,メチルメタクリレート,シクロヘキシルメタクリレートまたはエチルメタクリレートである。 …省略… 【0139】 希釈剤として,一官能性のまたは多官能性のエチレン性不飽和化合物または幾つかの前記化合物の混合物は,前記組成物中に,該組成物の固形分に対して70質量%までで含まれていてよい。 …省略… 【0146】 もちろんまた,他の公知の光開始剤(c),例えば…省略…(4-モルホリノベンゾイル)-1-ベンジル-1-ジメチルアミノプロパン(Irgacure(登録商標)369),(4-モルホリノベンゾイル)-1-(4-メチルベンジル)-1-ジメチルアミノプロパン(Irgacure(登録商標)379),…省略…1,2-オクタンジオン 1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-2-(O-ベンゾイルオキシム)(Irgacure(登録商標)OXE01),エタノン 1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)(Irgacure(登録商標)OXE02),…省略…ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(Irgacure(登録商標)819)…省略…を有する混合物を添加することも可能である。 …省略… 【0149】 光重合性の組成物は,一般に,固体組成物に対して,0.05?25質量%の,好ましくは0.01?10質量%の,特に0.01?5質量%の光開始剤を含有する。その量は,開始剤の混合物が用いられる場合,添加される全ての光開始剤の合計に関する。従って,その量は光開始剤(b)または光開始剤(b)+(c)のいずれかに関する。 【0150】 光開始剤に加えて,光重合可能な混合物は様々な添加剤(d)を含んでよい。 …省略… 【0169】 本発明の対象は,また,上記の光重合性の組成物であって,更なる添加剤(d)として,分散剤もしくは分散剤の混合物を含む前記組成物ならびに上記の光重合性の組成物であって,更なる添加剤(d)として顔料もしくは顔料の混合物を含む前記組成物である。 …省略… 【0171】 結合剤(e)は,同様に新規組成物に添加してよい。これは,光重合性の化合物が液体または粘性物質である場合,特に好都合である。 …省略… 【0186】 本発明による光硬化性の組成物は良好な熱的安定性と酸素による阻害に対して十分に耐久性があるので,該組成物は,例えばEP320264に記載されるようなカラーフィルターまたはカラーモザイクシステムの製造のために特に適している。 …省略… 【0202】 本発明による組成物,例えば顔料着色されたカラーフィルターレジスト組成物中に含まれうる顔料は,好ましくは,加工された顔料,例えば顔料を,アクリル樹脂,塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー,マレイン酸樹脂およびエチルセルロース樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂中に微分散させることによって製造された粉末状またはペースト状の製品である。 …省略… 【0325】 本発明の化合物は,良好な熱安定性,低揮発性,優れた貯蔵安定性および高い溶解性を有し,また,空気(酸素)の存在下での光重合にも好適である。さらに,それらは,光重合後の組成物において,ほんの少しの黄化しか引き起こさない。」 エ 「【0326】 下記の実施例で本発明をより詳細に説明する。部およびパーセントは,本願明細書の残りにおいて,および特許請求の範囲において,特段指定されない限り,質量によるものである。3つより多い炭素原子を有するアルキル基が以下の実施例において特定の異性体の言及なく示される場合,それぞれの場合n-異性体を意味する。 【0327】 例1 1-[11-(2-エチルヘキシル)-5-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-11H-ベンゾ[a]カルバゾール-8-イル]-エタノンオキシムO-アセテートの合成 …省略… 【0332】 1.c 1-[11-(2-エチルヘキシル)-5-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-11H-ベンゾ[a]カルバゾール-8-イル]エタノンオキシムO-アセテート 【化101】 …省略… 【0411】 適用例 例A1:ポリ(ベンジルメタクリレート-コ-メタクリル酸)の製造 24gのベンジルメタクリレート,6gのメタクリル酸および0.525gのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を,90mlのプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)中に溶解させる。得られた反応混合物を,80℃の予熱された油浴中に入れる。 【0412】 80℃で5時間にわたり窒素下で撹拌した後に,得られた粘性の溶液を室温で冷却し,更なる精製を行わずに使用する。固体含有率は,約25%である。 【0413】 例A2:感受性試験 感受性試験のための光硬化性組成物を,以下の成分の混合によって製造する: 前記の例A1で製造された,25%のプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)溶液としての,ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=80質量%:20質量%)を,200.0質量部で, ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート((DPHA),UCB-Chemicalsによって提供)を,50.0質量部で, 光開始剤を,1.0質量部で,かつ PGMEAを,150.0質量部で。 【0414】 全ての作業は,黄色光のもとで行われる。該組成物を,アルミニウム板上に線巻棒を有する電気式アプリケータを使用して適用する。溶剤を,対流式オーブン中で80℃で10分にわたり加熱することによって除去する。乾燥被膜の厚さは,約2μmである。21ステップの異なる光学密度を有する標準化された試験用ネガフィルム(Stouffer社のステップウェッジ)を,前記被膜とレジストとの間に約100μmのエアギャップをもって配置する。そのネガフィルム上にガラスフィルター(UV-35)を置く。露光は,250Wの超高圧水銀灯(USHIO, USH-250BY)を使用して15cmの距離で行う。ガラスフィルター上で光パワー計(UV-35検出器を有するORC UV Light Measure Model UV-M02)によって測定された全照射線量は,1000mJ/cm^(2)である。露光後に,露光されたフィルムを,アルカリ溶液(DL-A4の5%水溶液,Yokohama Yushi)を用いて28℃で120秒間にわたって吹き付け型現像剤(AD-1200,Takizawa Sangyo)を使用することによって現像する。使用される開始剤の感度は,現像後に残る(すなわち重合される)最高のステップ数を示すことによって特徴付けられる。ステップ数が高ければ高いほど,試験された開始剤の感度はより高い。結果を,第3表に示す。 【0415】 第3表: 【表14】 」 (2) 引用発明 引用文献1の【0413】には,「光硬化性組成物」が記載されているところ,その「光開始剤」の一例は,【0415】【表14】「1」の例の光開始剤,すなわち,【0327】以降に記載された例1の工程によって合成される【0332】【化101】のものである。 そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)。なお,用語を統一し,成分を区別するため「成分(A)」等の見出しを付した。 「 以下の成分(A)?成分(D)の混合によって製造された光硬化性組成物であって, 成分(A):25%のプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート溶液としての,ベンジルメタクリレート及びメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=80質量%:20質量%)を200.0質量部, 成分(B):ジペンタエリトリトールヘキサアクリレートを50.0質量部, 成分(C):光開始剤を1.0質量部, 成分(D):プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテートを150.0質量部, ここで,成分(C)は,次の【化101】で表される化合物である, 【化101】 光硬化性組成物。」 (3) 対比 本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明1を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 感放射線性樹脂組成物 引用発明1の「光硬化性組成物」は,「成分(A)?成分(D)の混合によって製造された」ものである。 ここで,引用発明1の「成分(A)」に含まれる「ベンジルメタクリレート及びメタクリル酸のコポリマー」は,「コポリマー」であるから,樹脂に該当する。また,「成分(B)」は,その化合物名からみて,エチレン性不飽和結合(アクリロイルオキシ基)を有する重合性化合物に該当する。さらに,「成分(C)」は,その名称,構造式及び「光硬化性組成物」における役割からみて,光重合開始剤として機能する。加えて,「成分(A)」及び「成分(D)」の「プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート」は,その化合物名及び「光硬化性組成物」における役割からみて,有機溶剤といえる。さらに加えて,引用発明1の「光硬化性組成物」に,少なくとも不純物としての「水」が含まれることは,自明である。そして,引用発明1の「光硬化性組成物」及びその成分からみて,紫外線に感応して硬化する性質の,樹脂を含む組成物であるから,感放射線性樹脂組成物と称することができる。 そうしてみると,引用発明1の「成分(A)」の「ベンジルメタクリレート及びメタクリル酸のコポリマー」,「成分(B)」,「成分(C)」,「成分(A)」及び「成分(D)」の「プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート」並びに不純物としての「水」は,それぞれ本願発明1の「樹脂」,「エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物」,「光重合開始剤」,「有機溶剤」及び「水」に相当する。また,引用発明1の「光硬化性組成物」は,本願発明1の「樹脂と,エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物と,光重合開始剤と,有機溶剤と,水を含む」とされる,「感放射線性樹脂組成物」に相当する。 イ 光重合開始剤の成分 引用発明1の「成分(C)」は,「次の【化101】で表される化合物である」。 「【化101】 」 ここで,上記化合物は,11H-ベンゾカルバゾール骨格の11位(窒素原子)に結合する基(2-エチルヘキシル)からみて,分岐アルキル基を有する化合物といえる。また,上記化合物は,11H-ベンゾカルバゾール骨格の8位(上の図の左上)に結合する基(エタノンO-アセチルオキシム-1-イル)からみて,オキシムエステル化合物ともいえる。 そうしてみると,引用発明1の「成分(C)」と本願発明1の「光重合開始剤」は,「分岐アルキル基および環状アルキル基から選ばれる少なくとも1種類の基を有するオキシムエステル化合物」「を含」む点で共通する。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明1は,次の構成で一致する。 「 樹脂と,エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物と,光重合開始剤と,有機溶剤と,水を含む感放射線性樹脂組成物であって, 前記光重合開始剤は,分岐アルキル基および環状アルキル基から選ばれる少なくとも1種類の基を有するオキシムエステル化合物を含む, 感放射線性樹脂組成物。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明1は,以下の点で相違する。 (相違点1) 「光重合開始剤」が,本願発明1は,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物を含み」,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物は,分岐アルキル基および環状アルキル基を有さないオキシムエステル化合物,アルキルフェノン化合物,および,アシルホスフィン化合物から選ばれる少なくとも1種であり」,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物の含有量が前記オキシムエステル化合物の100質量部に対して100?1300質量部であ」るのに対し,引用発明1は,このような構成を具備しない点。 (相違点2) 「感放射線性樹脂組成物」が,本願発明1は,「前記光重合開始剤の100質量部に対し,水を4?300質量部含有し」,「水の含有量が,前記感放射線性樹脂組成物の質量に対して0.1?2質量%である」という要件を満たすのに対し,引用発明1は,この要件を満たすか明らかではない点。 (5) 判断 ア 新規性について 本願発明1と引用発明1は,相違点1及び相違点2において相違するから,同一であるということができない。 イ 進歩性について 相違点1について判断する。 引用文献1の【0146】には,「もちろんまた,他の公知の光開始剤(c)…省略…を有する混合物を添加することも可能である。」と記載されている。また,引用文献1の【0146】には,「エタノン1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)(Irgacure(登録商標)OXE02)」,「1,2-オクタンジオン 1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-2-(O-ベンゾイルオキシム)(Irgacure(登録商標)OXE01)」,「(4-モルホリノベンゾイル)-1-ベンジル-1-ジメチルアミノプロパン(Irgacure(登録商標)369)」,「(4-モルホリノベンゾイル)-1-(4-メチルベンジル)-1-ジメチルアミノプロパン(Irgacure(登録商標)379)」,「ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(Irgacure(登録商標)819)」のように,相違点1に係る本願発明1の「前記オキシムエステル化合物以外の化合物」の要件を満たし,かつ,本件出願の明細書の【0242】に記載の「その他の光重合開始剤」である「C-4」?「C-9」と同一の化合物も記載されている。 しかしながら,引用文献1には,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物の含有量」を「前記オキシムエステル化合物の100質量部に対して100?1300質量部」とすること(以下「本願発明1の含有量比の構成」という。)については,記載も示唆もない。 また,引用文献1には,上記【0146】の記載があるとしても,このようにすることの利点については,何ら説明がない。したがって,仮に,上記記載に接した当業者が,引用発明1の「光硬化性組成物」の「成分(C)」として,「【化101】で表される化合物」と「他の公知の光開始剤」を併用することがあるとしても,本願発明1の含有量比の構成にまで到るとはいえない。 かえって,引用文献1の【0003】及び【0414】には,それぞれ「顔料含分の増加に伴い,カラーレジストの硬化はより困難になる。ここで,高い感度を有する光開始剤が必要である。」及び「使用される開始剤の感度は,現像後に残る(すなわち重合される)最高のステップ数を示すことによって特徴付けられる。ステップ数が高ければ高いほど,試験された開始剤の感度はより高い。」と記載されている。このような引用文献1の記載に接した当業者ならば,引用発明1の「【化101】で表される化合物」を「成分(C)」の主成分とする(50%超とする)と考えるのが自然である。したがって,引用発明1において,本願発明1の含有量比の構成を採用することには,阻害要因があるといえる。 本願発明1の含有量比の構成に関して,本件出願の明細書の【0257】には,「光重合開始剤として分岐アルキル基および環状アルキル基から選ばれる少なくとも1種類の基を有するオキシムエステル化合物と,他の光重合開始剤とを併用した実施例1?16は,光重合開始剤として分岐アルキル基および環状アルキル基から選ばれる少なくとも1種類の基を有するオキシムエステル化合物のみを使用した実施例17よりも,現像性が良好で,パターン形状が優れていた。」と記載されている。これに対する引用文献1の記載は,上記【0003】や【0414】のようなものであるから,本願発明1は,引用発明1から予測することができない,異なる効果を奏するものと理解される。 (当合議体注:請求人も,審判請求書の10?11頁において,上記【0257】の記載を引用して,引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものではないと主張している。なお,本件出願の明細書には,【0070】のような記載もある。) 以上の点は,原査定の拒絶の理由において挙げられた,他の引用文献(引用文献2?引用文献9)の記載を考慮しても,変わらない。 (6) 他の請求項に係る発明について 本件出願の請求項2に係る発明(以下「本願発明2」という。)と引用発明1を対比すると,相違点1が抽出される(同一ではない。)。また,相違点1についての判断は,前記(5)イと同じものとなる(進歩性を有する。)。 本件出願の請求項3?請求項14に係る発明(以下「本願発明3」?「本願発明14」という。)は,本願発明1又は本願発明2に対して,さらに他の発明の特定事項を付加したものである。したがって,これら発明と引用発明1を対比しても,相違点1が抽出され,その判断は前記(5)イと同じものとなる。 本件出願の請求項15に係る発明(以下「本願発明15」という。)は,本願発明1?本願発明14の「感放射線性樹脂組成物」を用いた「パターン形成方法」の発明であるから,やはり,相違点1が抽出され,その判断は前記(5)イと同じものとなる。 (7) 小括 以上のとおりであるから,本願発明1?本願発明15は,引用文献1に記載された発明ということができない。また,本願発明1?本願発明15は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 2 その他文献についての判断 (1) 引用文献2について ア 引用発明2 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(特開2015-165297号公報)は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであり,その【請求項4】には,次の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)。 「下記(A)?(D)成分, (A)エポキシ基を2個以上有する化合物と(メタ)アクリル酸との反応物と,多価カルボン酸又はその無水物と反応させて得られた重合性不飽和基含有アルカリ可溶性樹脂, (B)少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー, (C)光重合開始剤,及び (D)黒色有機顔料,混色有機顔料及び遮光材からなる群から選ばれた1以上の遮光成分を必須成分として含む遮光膜用感光性樹脂組成物において, (A)成分と(B)成分との重量割合(A)/(B)が,50/50?90/10であり,(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して(C)成分を2?30重量部含有し, 且つ,(C)成分の光重合開始剤が,下記式(IV)で表される化合物を含有する, 遮光膜用感光性樹脂組成物。 」 イ 相違点 本件出願の請求項1?請求項15に係る発明(以下「本願発明」と総称する。)と引用発明2を対比すると,少なくとも次の相違点が抽出される。 (相違点ア) 「光重合開始剤」が,本願発明は,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物を含み」,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物は,分岐アルキル基および環状アルキル基を有さないオキシムエステル化合物,アルキルフェノン化合物,および,アシルホスフィン化合物から選ばれる少なくとも1種であり」,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物の含有量が前記オキシムエステル化合物の100質量部に対して100?1300質量部であ」るのに対し,引用発明2は,このような構成を具備しない点。 ウ 判断 まず,本願発明と引用発明2は,同一ではない。 次に,引用文献2の【0032】及び【0034】には,それぞれ,「本発明においては,一般式(I)で表される光重合開始剤と共に,他の光重合開始剤若しくは増感剤を1種以上併用することができる。」及び「(C)成分の光重合開始剤は,必須成分として一般式(I)で表される光重合開始剤を含むが,その量は他の(C)成分を加えない場合であっても,単独で光重合開始剤として有効に作用する量以上であることがよく,一般式(I)で表される光重合開始剤の量は(C)成分の全体量のうち,70?100質量%であることが好ましい。」と記載されている。 (当合議体注:一般式(I)は,式(IV)で表される化合物を一般式で表したものである。) そうしてみると,当業者が,仮に,引用発明2の「式(IV)で表される化合物」と「他の光重合開始剤」を併用することがあるとしても,本願発明の含有量比の構成に到ることについては阻害要因があるといえる。 エ 小括 本願発明は,引用文献2に記載された発明ということができない。また,本願発明は,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (2) 引用文献Aについて 令和2年8月7日提出の刊行物提出書及び同年同月27日付けの前置報告書において引用された特開2014-52470号公報(以下「引用文献A」という。)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。 ア 対比 本願発明と、引用文献Aの実施例14(【0072】の【化3】,【0144】,【0145】,【0155】?【0158】,【0167】,【0170】の【表4】,【0177】,【0178】及び【0180】を参照。)の「感光性着色組成物」の発明(以下「引用発明A」という。)を対比すると,両者は少なくとも次の点で相違する。 (相違点A) 「光重合開始剤」が,本願発明は,「前記オキシムエステル化合物以外の化合物の含有量が前記オキシムエステル化合物の100質量部に対して100?1300質量部であ」るという要件を満たすのに対し,引用発明Aは,この要件を満たさない(アシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量が,オキシムエステル化合物の100質量部に対して約26質量部と計算される)点。 イ 判断 引用文献Aの【0008】及び【0027】には,それぞれ「本発明は,高解像度かつパターン形状が良好であり,高感度な感光性着色組成物,それを用いて形成されてなる着色膜,及び該着色膜を具備するカラーフィルタの提供を目的とする。」及び「本発明の感光性着色組成物の光重合開始剤(C)に用いられるアシルフォスフィンオキサイド化合物は,着色膜内部の硬化を促進し,パターン形状が良好な着色膜の形成に寄与する。」と記載されている。 そうしてみると,「パターン形状が良好な着色膜の形成」をより重視する当業者ならば,引用発明Aにおいて,アシルフォスフィンオキサイド化合物の分量を増量するといえる。 しかしながら,引用文献Aの【0068】には,「オキシムエステル化合物の重量Iaとアシルフォスフィンオキサイド化合物の重量Ibとの比率について特に制限はないが,好ましくは,Ia/(Ia+Ib)が,0.55?0.95,より好ましくは0.60?0.90の範囲である。オキシムエステル化合物の量をアシルフォスフィンオキサイドの量より比較的多くすることにより,より高感度な着色膜を得ることができる。」と記載されている。 そうしてみると,仮に,当業者が,引用発明Aにおいて,アシルフォスフィンオキサイド化合物の分量を増量することがあるとしても,引用発明Aの「26質量部」を,相違点Aに係る本願発明の要件を満たす程度(100?1300質量部)にまで増量するとまではいえない。この点は,[A]引用文献Aに記載された49個の実施例のうち,アシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量が最も高い実施例10の「感光性着色組成物」であっても,オキシムエステル化合物の100質量部に対するアシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量は約79質量部と計算されること,[B]実施例10の「感光性着色組成物」は,「パターン形状」の評価結果が「○」であるとしても,「感度」及び「解像度」の評価結果が「△」となっていること(【0193】の【表11】),[C]実施例34?実施例36及び実施例40?42(【0196】の【表14】)並びに実施例45及び実施例49(【0197】の【表15】)のように,「パターン形状」及び「感度」を両立(◎)させた例においても,オキシムエステル化合物の100質量部に対するアシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量は25質量部程度にとどまっていること,からみても明らかである。 ウ 小括 本願発明は,引用文献Aに記載された発明ということができない。また,本願発明は,引用文献Aに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 第3 むすび 以上のとおり,本件出願の請求項1?請求項15に係る発明は,いずれも,引用文献1又は引用文献2に記載された発明ではない。また,本件出願の請求項1?請求項15に係る発明は,いずれも,引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。したがって,原査定の拒絶の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。 また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-03-03 |
出願番号 | 特願2017-555047(P2017-555047) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G03F)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 外川 敬之 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
河原 正 樋口 信宏 |
発明の名称 | 感放射線性樹脂組成物、硬化膜、パターン形成方法、固体撮像素子および画像表示装置 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |