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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B60R |
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管理番号 | 1371730 |
異議申立番号 | 異議2020-700202 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-24 |
確定日 | 2021-03-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6579821号発明「車両用の画像表示機能付きミラー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6579821号の請求項1、2、9に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6579821号(以下「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成27年6月24日に出願され、令和1年9月6日にその特許権の設定登録がされ、同年9月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の請求項1、2及び9に対し、令和2年3月24日に特許異議申立人田中清明(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、当審は、同年7月9日に取消理由を通知し、それに対し、特許権者より同年9月11日に意見書が提出され、当審は、同年10月22日に申立人に対し審尋を通知し、申立人より同年11月27日に回答書が提出された。 2 本件発明 特許第6579821号の請求項1、2及び9に係る発明(以下「本件発明1、2及び9」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2及び9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 車両であって、 強化ガラスが用いられているリアガラスおよびルームミラーとして画像表示機能付きミラーを備え、 前記画像表示機能付きミラーがハーフミラーおよび画像表示装置を含み、 前記ハーフミラーは高Re位相差膜および反射層を含み、 前記画像表示機能付きミラーにおいて、前記高Re位相差膜、前記反射層、および前記画像表示装置がこの順に配置されており、 前記高Re位相差膜は5000nm以上の正面位相差を有し、 前記反射層は直線偏光反射層または円偏光反射層である、車両。 【請求項2】 前記正面位相差が7000nm以上である請求項1に記載の車両。 【請求項9】 前記ハーフミラーが前面板を含み、 前記前面板、前記高Re位相差膜および前記反射層をこの順に含む請求項1?8のいずれか一項に記載の車両。」 3 取消理由の概要 当審において、請求項1、2及び9に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)本件特許の請求項1、2及び9に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献5に記載された技術的事項及び慣用技術(例えば、引用文献2ないし4)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 〔刊行物等〕 引用文献1 特開2014-26058号公報(特許異議申立人田中清明が提出した甲第1号証) 引用文献2 特開2004-91311号公報(同甲第3号証) 引用文献3 特開平11-321304号公報(同甲第8号証) 引用文献4 特開2005-97033号公報(同甲第10号証) 引用文献5 特開2014-112185号公報(同甲第2号証) 4 引用文献に記載された発明及び技術的事項 4-1 引用文献1について (1)引用文献1の記載事項 「【0009】 サングラス等の偏光メガネは、眩しさやギラツキやにじみ等を抑えることのできるように、着用したときの上下方向(水平面と垂直な方向)の直線偏光のみが透過されるように構成されている。すなわち、サングラス等の偏光メガネは透過軸が上下方向となるように設定されている。 【0010】 その場合、上述の液晶表示素子の前面に配置される反射型偏光板の反射軸が上下方向(垂直方向)に設定されていると、反射型偏光板の透過軸は水平方向となり、結果として、偏光メガネの透過軸は、反射型偏光板の反射軸と平行になって、反射型偏光板の透過軸と直交することになる。そのため、反射型偏光板の透過軸と平行な方向に偏光した光として液晶表示素子から出射される画像光は、偏光メガネを透過できずに吸収されてしまう。その結果、液晶表示素子はミラーとしての機能は発揮できるが、表示素子としての機能は失われることになる。 【0011】 また、上述の液晶表示素子の前面に配置される反射型偏光板の反射軸が水平方向(上述した上下方向と垂直な方向)に設定されていると、反射型偏光板の透過軸は上下方向となり、結果として、偏光メガネの透過軸は、反射型偏光板の反射軸と直交し、反射型偏光板の透過軸とは平行な方向に設定されることになる。そのため、液晶表示素子において、反射型偏光板からの反射光は、偏光メガネを透過できずに吸収されてしまう。その結果、表示素子としての機能は発揮できるが、ミラーとしての機能は失われることになる。」 「【0024】 そして、本発明者は、開発された技術を、自動車等車両の運転席前方のフロントガラスの上部付近に配置されるバックミラー(ルームミラー等とも称されることがある。)に適用し、バックミラー機能と情報表示機能とを両立できる液晶表示素子を開発した。」 「【0040】 図5に示す、本発明の実施形態の液晶表示素子1は、図1に例示された液晶表示素子100と同様のバックミラー状の外観を有し、ミラー状態を示すミラー部を有する。そして、そのミラー部の一部で文字情報や画像表示ができるように構成されている。 【0041】 図5に示すように、本実施形態の液晶表示素子1は、バックライト2、R偏光板3、液晶パネル4、F偏光板5、反射型偏光板6および位相差板7をこの順で積層して構成される。すなわち、液晶表示素子1は、液晶パネル4が、視認者(図示されない)の側となる前面側に配置されるF偏光板5と、背面側に配置されるR偏光板3とからなる一対の偏光板によって挟持される。液晶パネル4の背面側には、R偏光板3の背面側に、バックライト2が配置される。そして、F偏光板5の前面側には、反射型偏光板6が配置され、さらに、反射型偏光板6の前面側には、位相差板7が配置される。」 「【0050】 このとき、本実施形態の液晶表示素子1では、視認者側となる前面側のF偏光板5の透過軸が、視認者が着用するサングラス等の偏光メガネの透過軸と平行な方向に設定されることが好ましい。偏光メガネは、通常、上下方向(水平方向と垂直な方向)に透過軸の設定がなされており、F偏光板5の透過軸は、同様に、上下方向となるように設定されることが好ましい。その場合、R偏光板3の透過軸は、水平方向となるように設定され、液晶配向膜の配向処理方向は、上述したように、F偏光板5の透過軸の方向である上下方向を基準に、反時計回りに、例えば、45°となるように設定されることが好ましい。 【0051】 F偏光板5の前面側には、反射型偏光板6が配置される。反射型偏光板6は、上述したように、特定方向に偏光した光だけに限って透過させる透過軸を有し、その透過軸と直交する方向に偏光した光は反射させる偏光板である。本実施形態の液晶表示素子1の反射型偏光板6としては、市販されているものを用いることができ、例えば、住友スリーエム株式会社によるDBEF(登録商標)シリーズ等の反射型偏光板を用いることができる。」 「【0053】 反射型偏光板6の前面側には、位相差板7が配置される。位相差板7は、1/4波長板とすることが好ましい。位相差板7である1/4波長板の位相差方向に対応する延伸軸は、反射型偏光板6の透過軸の方向と35°?55°の方向、好ましくは、45°の方向となるように設定される。尚、延伸軸は、遅相軸あるいは進相軸と言い換えることができる。また、反射型偏光板6の偏光度が非常に高い場合、例えば偏光度が99%以上の場合、反射型偏光板6はF偏光板5の機能も兼ねることができ、F偏光板5を使用しなくてもよくなる。」 「【0089】 次に、F偏光板1005の前面側に、反射型偏光板1006を配置した。反射型偏光板1006としては、住友スリーエム株式会社製のDBEF(登録商標)を用いた。 次いで、F偏光板1005の前面側に、位相差板1007として、JSR株式会社製のリタデーション(ΔnF(位相差板の屈折率異方性)×dF(位相差板の厚さ))=140nmのものを設置した。」 「【符号の説明】 【0128】 1、50、70、100、200、200’、1000、2000、 3000、4000 液晶表示素子 2、4004 バックライト 3、1003 R偏光板 4、1004、2004、3004、4001 液晶パネル 5、1005 F偏光板 6、1006 反射型偏光板 7、1007 位相差板 ・・・・」 図5は、以下のとおりである。 【図5】 (2)認定事項 上記段落【0024】の「そして、本発明者は、開発された技術を、自動車等車両の運転席前方のフロントガラスの上部付近に配置されるバックミラー(ルームミラー等とも称されることがある。)に適用し、バックミラー機能と情報表示機能とを両立できる液晶表示素子を開発した。」なる記載からみて、当該バックミラー機能と情報表示機能とを両立できる液晶表示素子を備えた自動車等車両があることは明らかである。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)より、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「自動車等車両であって、 自動車等車両の運転席前方のフロントガラスの上部付近に配置されるバックミラー(ルームミラー等とも称されることがある。)としてバックミラー機能と情報表示機能とを両立できる液晶表示素子1を備え、 液晶表示素子1は、ミラー状態を示すミラー部を有し、そのミラー部の一部で文字情報や画像表示ができるように構成されており、 液晶表示素子1は、バックライト2、R偏光板3、液晶パネル4、F偏光板5、反射型偏光板6および位相差板7である1/4位相差板をこの順で積層して構成されており、 反射型偏光板6は、特定方向に偏光した光だけに限って透過させる透過軸を有し、その透過軸と直交する方向に偏光した光は反射させる偏光板である、自動車等車両。」 4-2 引用文献2について (1)引用文献2の記載事項 「【0003】 自動車用窓ガラスには、搭乗者の安全を確保するため、フロントガラスには合わせガラス、一部の車種を除きドアガラスやリアガラス等には強化ガラス板が用いられている。そこで、強化ガラス板の重量を軽量化する、つまり、薄板化することが自動車の軽量化につながる。」 4-3 引用文献3について (1)引用文献3の記載事項 「【0002】 【従来の技術】一般に、車両用の窓ガラスとしては、強化ガラスや合わせガラスが用いられている。これらの安全ガラスは、適用される車両の窓の種類に応じて使い分けられる。例えば自動車のウインドシールドには、通常、合わせガラスが用いられ、自動車のサイドやリアのガラス窓には強化ガラスが使用されることが多い。車両の窓に適用される強化ガラスは、一般には、風冷強化と呼ばれる方法によりその表層に圧縮応力層が形成される。この方法によれば、ガラス板は、所定の大きさに切断され、端面が研磨された後に、ガラス軟化点付近の温度にまで加熱され、冷却気体により急冷されて強化される。ガラス板は、強化処理のための加熱工程において、空力特性およびデザイン上の理由から所定の形状に曲げられることが多い。」 4-4 引用文献4について (1)引用文献4の記載事項 「【0002】 従来、自動車のドアガラスおよびリアガラスには、風冷強化処理によって強度の増強されたいわゆる強化ガラスが用いられている。強化ガラスとは、表面に残留圧縮応力層が形成されるとともに、内部に残留引張応力層が形成されることにより、これらの層における残留応力のバランスによって強度が増強されたガラスである。すなわち、フロート法等で作られた板ガラスを、所望の形状に切断および面取りしてから加熱炉内で軟化点(680℃程度)まで加熱し、プレス成形等により所望の湾曲形状に成形した後、冷却エアを吹き付けて急冷することにより作られる。」 4-5 引用文献5について (1)引用文献5の記載事項 「【0011】 [光学積層体] 本発明のインセルタッチパネル液晶素子の前面用の光学積層体は、位相差板、偏光膜及び透明基材をこの順に有し、さらに導電層を有してなる、光学積層体であって、前記透明基材は、前記偏光膜から出射される直線偏光を乱す光学異方性を有してなり、前記位相差板、偏光膜及び透明基材は、他の層を介さずに積層又は前記導電層のみを介して積層されてなり、当該光学積層体の厚みが32?200μmであるものである。以下、本発明の実施形態を説明する。」 「【0021】 <透明基材> 透明基材は、偏光膜から出射される直線偏光を乱す光学異方性を有するものである。当該機能を有する透明基材(光学異方性基材)は、偏光膜を保護する役割を果たしつつ、偏光サングラスを通しての視認性を良好にし得るものである。なお、偏光サングラスを通しての視認性が良好とは、液晶表示素子の前面に光学積層体を配置した際に、表示画面に色の異なるムラ(以下、「ニジムラ」ともいう)が観察されないことをいう。ニジムラは表示画面を斜めから観察したときに特に目立つものであるが、光学異方性表面保護フィルムを用いることにより、ニジムラを防止することができる。また、光学異方性表面保護フィルムを用いることにより、直線偏光と偏光サングラスの角度によって表示画面が視認できなくなることを防止することもできる。 従来の光学積層体は、図4に示すように、偏光膜を保護する役割のみでTAC(トリアセチルセルロース)フィルム7が用いられており、また、ニジムラを防止するために、カバーガラス上に光学異方性基材を接地していた。 本発明の光学異方性基材は、偏光膜を保護する役割を果たしつつ、偏光サングラスを通して観察した際のニジムラを防止し得ることから、従来の構成と比べて、薄型化を図ることができるものである。 【0022】 光学異方性基材は、リタデーション値3000?30000nmのプラスチックフィルム又は1/4波長位相差のプラスチックフィルム等が挙げられる。 【0023】 リタデーション値3000?30000nmのプラスチックフィルム(以下、「高リタデーションフィルム」という場合もある)は、リタデーション値を3000nm以上とすることにより、偏光サングラスで観察した際に、液晶表示装置の表示画像にニジムラが生じることを防止している。また、リタデーション値が3000nm以上であると、光学異方性基材を原因とする反射光の干渉ムラ(光学異方性フィルム表面で反射する光と、光学異方性フィルムを通過して硬化層表面で反射する光とが干渉して生じる干渉ムラ)を防止できる点で好適である。なお、リタデーション値を上げすぎてもニジムラ改善効果の向上が見られなくなるため、リタデーション値を30000nm以下とすることにより、膜厚を必要以上に厚くすることを防止している。 高リタデーションフィルムのリタデーション値は、6000?30000nmであることが好ましい。 なお、上述したリタデーション値は、波長589.3nm前後の波長に対して満たしていることが好ましい。 【0024】 リタデーション値(nm)は、プラスチックフィルムの面内において最も屈折率が大きい方向(遅相軸方向)の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向(進相軸方向)の屈折率(ny)と、プラスチックフィルムの厚み(d)(nm)とにより、以下の式によって表わされるものである。 リタデーション値(Re)=(nx-ny)×d また、上記リタデーション値は、例えば、王子計測機器社製KOBRA-WRによって測定(測定角0°、測定波長589.3nm)することができる。 あるいは、上記リタデーション値は、二枚の偏光板を用いて、基材の配向軸方向(主軸の方向)を求め、配向軸方向に対して直交する二つの軸の屈折率(nx、ny)を、アッベ屈折率差計(アタゴ社製、NAR-AT)によって求め、大きい屈折率を示す軸を遅相軸と定義する。このようにして求めた屈折率差(nx-ny)に、電気マイクロメータ(アンリツ社製)を用いて測定した厚みを掛けて、リタデーション値が得られる。 なお、本発明では、上記nx-ny(以下、「Δn」という場合もある)は、ニジムラ抑制及び膜厚抑制の観点から0.05以上が好ましく、0.07以上がより好ましい。」 「【0068】 <カバーガラス、プラスチック板> 本発明の光学積層体は、光学異方性基材上にカバーガラス又はプラスチック板が設置されていることが好ましい。カバーガラス又はプラスチッ板を設置することにより、光学積層体のコシ及び表面保護機能が向上する点で好適である。 カバーガラスは従来公知のものを用いることができ、厚みは0.3?1.0mmが好ましく、0.3?0.7mmがより好ましい。プラスチック板は従来公知のものを用いることができ、厚みは0.3?2.0mmが好ましく、0.3?1.0mmがより好ましい。 なお、カバーガラス又はプラスチック板を光学異方性基材上に設置する際は、接着層を介することが好ましい。接着層は、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤と、必要に応じて用いる硬化剤等の添加剤を含む組成物から形成することができる。」 「【符号の説明】 【0104】 1:導電層 11:第1導電層 12:第2導電層 121:導通微粒子 2:位相差板 21:樹脂フィルム 22:屈折率異方性材料含有層 3:偏光膜 4:光学異方性基材 5:接着層 6:偏光膜保護フィルム 7:カバーガラス 81:導電性部材 82:導線 83:導電性接着材料 10:本発明の光学積層体 10a:光学積層体 20:インセルタッチパネル液晶素子 30:インセルタッチパネル液晶表示装置」 図1は、以下のとおりである。 【図1】 (2)引用文献5に記載された技術的事項 上記(1)より、引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 〔技術的事項5-1〕 「位相差板、偏光膜及び透明基材をこの順に有するインセルタッチパネル液晶素子の前面用の光学積層体において、偏光サングラスを通しての視認性を良好にし、また、直線偏光と偏光サングラスの角度によって表示画面が視認できなくなることを防止するために、偏光膜上に、透明基材(光学異方性基材)であるリタデーション値3000?30000nmのプラスチックフィルム(以下、「高リタデーションフィルム」という場合もある)又は1/4波長位相差のプラスチックフィルムを積層すること及び高リタデーションフィルムのリタデーション値は、6000?30000nmであることが好ましいこと。」 〔技術的事項5-2〕 「光学積層体のコシ及び表面保護機能を向上するために、光学異方性基材上にカバーガラス又はプラスチック板を設置すること。」 5 当審の判断 5-1 取消理由通知に記載した取消理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「自動車等車両」は、本件発明1の「車両」に相当する。 (イ)引用発明の「自動車等車両の運転席前方のフロントガラスの上部付近に配置されるバックミラー(ルームミラー等とも称されることがある。)として」は、本件発明1の「ルームミラーとして」に相当する。 (ウ)引用発明の「液晶表示素子1」は、「バックミラー機能と情報表示機能とを両立できる」ものであって、「ミラー状態を示すミラー部を有し、そのミラー部の一部で文字情報や画像表示ができるように構成されて」いるから、本件発明1の「画像表示機能付きミラー」に相当する。 (エ)引用発明の「反射型偏光板6」と「位相差板7である1/4波長板」とを「積層して構成」したものは、引用発明の「反射型偏光板6」が、「特定方向に偏光した光だけに限って透過させる透過軸を有し、その透過軸と直交する方向に偏光した光は反射させる偏光板である」から、本件発明1の「ハーフミラー」に相当する。 (オ)本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0020】に「画像表示装置は直線偏光を出射して(発光して)画像を形成する画像表示装置であることが好ましく、液晶表示装置であることがより好ましい。」と記載され、画像表示装置の出射側に直線偏光板を有することが示唆されており、また、「画像表示装置の電源オフ時の可視光の反射は画像表示装置の構成部材(反射偏光板やバックライトユニットなど)に由来するものであればよい。」との記載から、画像表示装置がバックライトユニットを含むことが記載されている。 そして、引用文献1の段落【0050】に「F偏光板5の透過軸は、同様に、上下方向となるように設定されることが好ましい。」と記載され、「F偏光板5」は直線偏光板であることが記載されているから、引用発明の「バックライト2、R偏光板3、液晶パネル4、F偏光板5」を「この順で積層して構成」したものは、本件発明1の「画像表示装置」に相当する。 (カ)上記(ウ)、(エ)、(オ)を踏まえると、引用発明の「液晶表示素子1」が、「バックライト2、R偏光板3、液晶パネル4、F偏光板5、反射型偏光板6および位相差板7である1/4波長板」を「この順で積層して構成されて」いることは、本件発明1の「前記画像表示機能付きミラーがハーフミラーおよび画像表示装置を含」むことに相当する。 (キ)引用発明の「位相差板7である1/4波長板」と本件発明1の「高Re位相差膜」とは、「位相差部材」という点で共通する。 (ク)引用発明の「反射型偏光板6」は、「特定方向に偏光した光だけに限って透過させる透過軸を有し、その透過軸と直交する方向に偏光した光は反射させる偏光板であ」るから、「反射層を含」むことは明らかである。 (ケ)上記(エ)、(キ)、(ク)を踏まえると、引用発明の「反射型偏光板6」と「位相差板7である1/4波長板」とを「積層して構成」したことと、本件発明1の「ハーフミラーは高Re位相差膜および反射層を含」むこととは、「ハーフミラーは位相差部材および反射層を含」むという点で共通する。 (コ)引用発明の「液晶表示素子1は、バックライト2、R偏光板3、液晶パネル4、F偏光板5、反射型偏光板6および位相差板7である1/4波長板をこの順で積層して構成されて」いることと、本件発明1の「前記画像表示機能付きミラーにおいて、前記高Re位相差膜、前記反射層、および前記画像表示装置がこの順に配置されて」いることとは、上記(ウ)、(オ)、(キ)、(ク)を踏まえると、「前記画像表示機能付きミラーにおいて、前記位相差部材、前記反射層、および前記画像表示装置がこの順に配置されて」いる点で共通する。 (サ)上記(ク)で述べたとおり、引用発明の「反射型偏光板6」は、「特定方向に偏光した光だけに限って透過させる透過軸を有し、透過軸と直交する方向に偏光した光を反射させる」ものである。そして、引用文献1の段落【0009】に「サングラス等の偏光メガネは、」「着用したときの上下方向(水平面と垂直な方向)の直線偏光のみが透過されるように構成されている。」と記載され、同段落【0010】には、「液晶表示素子の前面に配置される反射型偏光板の反射軸が上下方向(垂直方向)に設定されていると、反射型偏光板の透過軸は水平方向となり、結果として偏光メガネの透過軸は、反射型偏光板の反射軸と平行になって、反射型偏光板の透過軸と直交することになる。そのため、反射型偏光板の透過軸と平行な方向に偏光した光として液晶表示素子から出射される画像光は、偏光メガネを透過できずに吸収されてしまう。その結果、液晶表示素子はミラーとしての機能は発揮できるが、表示素子としての機能は失われることになる。」と記載されており、「偏光メガネの透過軸」と「反射型偏光板の反射軸」とが平行な場合は、反射型偏光板からの反射光が、直線偏光のみが透過される偏光メガネを透過する旨記載されているから、引用発明の「反射型偏光板6」が含む「反射層」が、「直線偏光反射層」であることは明らかである。 よって、上記(ク)を踏まえると、引用発明の「反射型偏光板6」は、本件発明1の「前記反射層は直線偏光反射層または円偏光反射層である」ことに相当するといえる。 したがって、本件発明1と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりと認められる。 〔一致点〕 「車両であって、 ルームミラーとして画像表示機能付きミラーを備え、 前記画像表示機能付きミラーがハーフミラーおよび画像表示装置を含み、 前記ハーフミラーは位相差部材および反射層を含み、 前記画像表示機能付きミラーにおいて、前記位相差部材、前記反射層、および前記画像表示装置がこの順に配置されており、 前記反射層は直線偏光反射層または円偏光反射層である、車両。」 〔相違点〕 〔相違点1〕 本件発明1の「車両」は、「強化ガラスが用いられているリアガラス」を備えているのに対し、引用発明の「車両」は、そのような特定事項を有しない点。 〔相違点2〕 位相差部材について、本件発明1は「高Re位相差膜」であって、「5000nm以上の正面位相差を有し」ているのに対し、引用発明は「位相差板7である1/4波長板」である点。 イ 判断 (ア)相違点1について 上記相違点1について検討する。 上記4-2(1)?4-4(1)で示した引用文献2の段落【0003】、引用文献3の段落【0002】及び引用文献4の段落【0002】記載のとおり、車両の技術分野において、強化ガラスが用いられているリアガラスを設けることは、慣用技術である。 そして、引用発明の車両も、ルームミラーを備えるものであり、後方視界の確保は内包する課題といえるから、上記慣用技術である強化ガラスが用いられているリアガラスを設けることは、当業者にとって容易である。 (イ)相違点2について 上記相違点2について検討する。 上記4-5(2)に技術的事項5-1として示したとおり、引用文献5には、「位相差板、偏光膜及び透明基材をこの順に有するインセルタッチパネル液晶素子の前面用の光学積層体において、偏光サングラスを通しての視認性を良好にし、また、直線偏光と偏光サングラスの角度によって表示画面が視認できなくなることを防止するために、偏光膜上に、透明基材(光学異方性基材)であるリタデーション値3000?30000nmのプラスチックフィルム(以下、「高リタデーションフィルム」という場合もある)又は1/4波長位相差のプラスチックフィルムを積層すること及び高リタデーションフィルムのリタデーション値は、6000?30000nmであることが好ましいこと。」が記載されている。 ここで、引用文献5の段落【0024】の「リタデーション値」の定義に係る記載からみて、上記技術的事項5-1の「リタデーション値」は本件発明1の「正面位相差」に相当するから、上記技術的事項5-1の「高リタデーションフィルムのリタデーション値は、6000?30000nmであること」は本件発明1の「高Re位相差膜」が配置され、「前記高Re位相差膜は5000nm以上の正面位相差を有」することに相当するといえる。 そして、引用発明の「位相差板7である1/4波長板」と、上記技術的事項5-1の「高リタデーションフィルム」とは、ともに液晶表示装置の位相差部材という共通の技術分野に属し、また、液晶表示装置から出射される直線偏光と偏光サングラスの角度によって表示画面が視認できなくなることを防止するという共通の機能を奏するものであり、さらに、上記技術的事項5-1にも、高リタデーションフィルム又は1/4波長位相差のプラスチックフィルムのいずれでもよい旨示されていることに鑑みると、引用発明の位相差部材として、「位相差板7である1/4波長板」に代えて、上記共通の機能を奏する技術的事項5-1の「リタデーション値」が、「6000?30000nm」の「高リタデーションフィルム」を採用することの一応の動機付けが存在するといえなくもない。 しかしながら、引用発明が解決しようとする課題は、引用文献1の段落【0013】記載のとおり、「ミラーとしての機能と表示素子としての機能を両立」することであるところ、段落【0050】に「本実施形態の液晶表示素子1では、視認者側となる前面側のF偏光板5の透過軸が、視認者が着用するサングラス等の偏光メガネの透過軸と平行な方向に設定されることが好ましい。」と記載され、また、段落【0052】に「反射型偏光板6の透過軸と反射軸の設定については、その透過軸がF偏光板5の透過軸と平行な方向となるように設定されることが好ましい。その場合、反射型偏光板6の反射軸は、F偏光板5の透過軸と直交する方向に設定されることになる。」と記載されているから、引用発明の「位相差板7である1/4波長板」は、ミラーとして機能しなくなることを防止するために配置されるものであることが理解できる。 一方、技術的事項5-1の「高リタデーションフィルム」は、表示画面が視認できなくなることを防止するためのものであって、ミラーとして機能しなくなることを防止するものではない。 そうすると、引用発明において、ミラーとして機能しなくなることを防止するための位相差板7である1/4波長板に換えて、あえて、技術的事項5-1の表示画面が視認できなくなることを防止するための高リタデーションフィルムを採用する動機付けは存在しないといえる。 また仮に、引用発明も液晶表示素子1を有する以上、その表示画面が視認できなくなることを防止すべきことは内包する課題であるとして、技術的事項5-1の表示画面が視認できなくなることを防止するための高リタデーションフィルムの使用を検討した場合であっても、引用文献1の段落【0057】には、「以上の構成を有する本実施形態の液晶表示素子1は、上下方向に透過軸を有するサングラス等の偏光メガネを着用した視認者が視認する場合、外部から液晶表示素子1に入射する光が、反射型偏光板6で反射されて、位相差板7である1/4波長板を2回透過することになる。その結果、液晶表示素子1から出射される光の偏光方向が、例えば、90°回転されて、視認者の着用するサングラス等の偏光メガネの透過軸と平行になり、偏光メガネを透過できるようになる。すなわち、液晶表示素子1は、偏光メガネを着用した視認者に対してもミラーとしての機能を発揮することができる。」と記載されており、「位相差板7である1/4波長板」を使用することによって、外部から入射する光が、位相差板7である1/4波長板を2回透過出することで、光の偏光方向が90°回転されて、ミラーとしての機能を発揮することが記載されているから、引用発明において、「位相差板7である1/4波長板」とは異なる技術的事項5-1の「高リタデーションフィルム」を使用した場合に、出射される光の偏光方向が90°回転されて、ミラーとしての機能を発揮することが、当業者にとって明らかであったとはいえない。 よって、引用発明の「位相差板7である1/4波長板」に換えて、技術的事項5-1の「高リタデーションフィルム」の使用は、当業者が採用し難いものであったといわざるを得ない。 ウ 小括 したがって、本件発明1は、引用発明、引用文献5に記載された技術的事項5-1及び慣用技術(引用文献2?4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2及び9について 本件発明2及び9は、本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定したものであるから、本件発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献5に記載された技術的事項及び慣用技術(引用文献2?4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5-2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)証拠方法 甲第1号証 特開2014-26058号公報(取消理由通知における引用文献1) 甲第2号証 特開2014-112185号公報(取消理由通知における引用文献5) 甲第3号証 特開2004-91311号公報(取消理由通知における引用文献2) 甲第4号証 実公平1-34893号公報 甲第5号証 特開2011-107198号公報 甲第6号証 特開平6-258634号公報 甲第7号証 特開2004-170875号公報 甲第8号証 特開平11-321304号公報(取消理由通知における引用文献3) 甲第9号証 特開2003-119041号公報 甲第10号証 特開2005-97033号公報(取消理由通知における引用文献4) 甲第11号証 国際公開第2007/010875号 甲第12号証 特開2009-61820号公報 (2)甲第1?3号証に基づく申立ての理由について 申立人による、請求項1、2及び9に係る発明は、甲第1?3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとする申立ての理由については、上記5-1で判断したとおりであるから、理由がない。 (3)その他の甲各号証に基づく申立ての理由について 申立人は、上記(2)の申立ての理由に関連して、特許異議申立書の第11ページにおいて、以下(ア)?(エ)の甲第4?12号証に基づく主張をしているので、念のため検討する。 (ア)強化ガラスの応力分布によるムラが見える不都合が生じるという知見は甲第4号証に記載されている。 (イ)甲第2号証(引用文献5)のほかに、甲第5号証によっても、液晶表示において、偏光サングラスを通して該液晶表示装置を見たときに表示機能が失われる問題を解消するための位相差板として、従来は1/4波長板を配置していたのに代えて、3000?30000nmの高Re位相差膜を使用できるという知見が公知であったことがわかる。 (ウ)甲第2号証(引用文献5)及び甲第5号証のほかに、甲第6号証、甲第7号証によっても、高Re位相差膜による液晶表示装置の偏光サングラス対策が公知であったことがわかる。 (エ)甲第3号証(引用文献2)のほかに、甲第8号証(引用文献3)、甲第9号証、甲第10号証(引用文献4)、甲第11?12号証によっても、強化ガラスが用いられているリアガラスを備えた車両が公知であったことがわかる。また、自動車のリアガラスには通常強化ガラスが用いられているという事実がわかる。 (4)取消理由通知において採用しなかった甲各号証の記載事項 ア 甲第4号証の記載事項 ・第1ページ第1欄 「実用新案登録請求の範囲 (1)自動車のガラス窓の少なくとも一部に偏光フイルムを設け、この偏光フィルムとクロスニコルになるように車内側に偏光板を重層可能に取付けたことを特徴とする自動車用遮光ガラス窓。」 ・第2ページ第4欄第1?5行 「なお、フロントガラス11は生板から構成されることが好ましく、強化ガラスを使用した場合には偏光フィルム12によって応力パターンが見える不都合が生じる。」 イ 甲第5号証の記載事項 「【0004】 ところで、日差しの強い屋外等の環境では、その眩しさを解消するために、偏光特性を有するサングラスを掛けた状態でLCDを視認する場合がある。この場合、観察者はLCDから射出した直線偏光を有する光を、偏光板を通して視認することとなるため、LCDに内装される偏光板の吸収軸と、サングラスなどの偏光板の吸収軸とがなす角度によっては画面が見えなくなってしまう。 【0005】 上記問題を解決するため、例えば、特許文献1では、LCD表面に位相差(4分の1波長)板を斜めに積層して直線偏光を円偏光に変換して偏光解消する方法が提案されている。」 「【0008】 しかしながら、位相差(4分の1波長)板といえども、ある特定の波長領域の光に対してのみ4分の1波長を達成するに過ぎず、広い可視光領域に渡って均一に4分の1波長を達成する材料は得られていない。そのため特許文献1の方法では、十分な視認性改善効果は得られない。」 「【0012】 即ち、本発明は、以下の(i)?(vi)に係る発明である。 (i)バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、バックライト光源として白色発光ダイオードを用いるとともに、前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。・・・ 【0013】 本発明の方法では、連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオード光源において効率よく直線偏光を解消し、光源に近似したスペクトルが得られるため、サングラスなどの偏光板を通して液晶表示画面を観察する際でも、その観察角度によらず良好な視認性を確保できる。」 ウ 甲第6号証の記載事項 「【請求項1】 2枚の透明基板で液晶層が挾持され、該2枚の透明基板の外側にそれぞれ偏光板が配置され、前記液晶層の一方の面で表示されてなる液晶表示デバイスであって、前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板が配置され、該位相差板はその光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置されると共に、前記位相差板のリターデイションがほぼ4000nm以上の範囲に設定されてなる液晶表示デバイス。」 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は液晶表示デバイスに関する。さらに詳しくは、偏光めがねをかけてどの方向からみても、認識できる液晶表示デバイスに関する。」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の液晶表示デバイスのばあい、フロント側偏光板2から出射する光が直線偏光になっているため、図3に示すように観測者7が偏光めがね6をかけているばあい、見る方向によっては液晶表示面が見えなくなる。すなわちフロント側偏光板2の吸収軸の方向Cと偏光めがね6の吸収軸の方向Fとのなす角度が90°のばあい、光源5から液晶表示デバイスに入射し、フロント側偏光板2から出射する光が、自動車の運転や釣などのときに使用される偏光めがね6を透過できなくなるという欠点がある。とくに液晶表示デバイスが自動車のインジケータなど、表示計器に使用されたばあい、運転者が偏光板を使用したサングラスをかけていることがよくあるため、問題となる。」 「【0015】表1から明らかなように、リターデイションΔn・dがほぼ4000nm以上で、かつ、角度αがほぼ35°?55°の範囲では、偏光めがね6の吸収軸方向Fを360°どの方向に向けても液晶表示面が認識できた。とくにリターデイションが5000nm以上で、かつ、角度αが45°の範囲で認識状態が最も優れており(表1のa)、またリターデイションが5000nm以上で、かつ、角度αが40°?50°の範囲でも良好に認識でき、好ましかった(表1のb)。・・・」 エ 甲第7号証の記載事項 「【請求項1】 第1および第2電極基板と、前記第1および第2電極基板間に挟持され、前記第1および第2電極基板間でねじれて配向される正の誘電率異方性を有するネマチック液晶材料を含み、液晶分子配列が前記第1および第2電極基板から各々制御される複数の表示画素に区分される液晶層と、前記第1および第2電極基板うちの少なくとも一方上に配置される偏光板と、前記複数の表示画素からなる表示画面に対応して前記偏光板上に配置される光学部材層を備え、前記光学部材層はリタデーション値が2400nm以上でかつ光学軸が水平方向に対して30度?60度の角度に設定される光学特性を持つことを特徴とする液晶表示装置。」 「【0003】 ・・・モバイル機器は、表示画面が横長となる向きに設定されるランドスケープモードおよび表示画面が縦長となる向きに設定されるポートレートモードのいずれでも画像を表示できるように構成されている。・・・」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、上述の光学特性は、モバイル機器が例えば海や山に携行される場合に問題となる。このような場所では、ユーザが不要光を取り除いて眩しさを低減する偏光サングラスを着用していることがある。この偏光サングラスを着用した状態では、表示画面がランドスケープモードおよびポートレートモードのどちらかで著しく暗くなってしまうことがある。」 オ 甲第9号証の記載事項 「【0013】つぎに、自動車用のドアガラス,リアガラスについて説明する。自動車用のドアガラス,リアガラスは、強化ガラスで構成されている場合が多い。この強化ガラスは、ガラス板を軟化点付近にまで加熱し、両面に空気を吹き付け急冷したものである。」 カ 甲第11号証の記載事項 「[0002]・・・サイドガラスやリアガラスには、一般的に強化ガラスが用いられているため、・・・ 」 キ 甲第12号証の記載事項 「【0004】 自動車用窓ガラスには、通常、ウインドシールドガラスを除いて強化ガラスが用いられている。・・・」 (5)当審の判断 上記(3)の申立ての理由(イ)、(ウ)に関し、甲第5?7号証には、リタデーションを有する部材が記載されているものの、上記リタデーションを有する部材は、引用文献5(甲第2号証)と同様、表示画面に用いられるものであるから、上記5-1で示したのと同様の理由により、引用発明(甲第1号証記載の発明)において、ミラーとして機能しなくなることを防止するための「位相差板7である1/4波長板」に換えて、甲第5?7号証記載のリタデーションを有する部材を採用する動機付けは存在しないといえる。 同様に、引用発明も液晶表示素子1を有する以上、その表示画面が視認できなくなることを防止すべきことは内包する課題であるとして、甲第5?7号証記載のリタデーションを有する部材の使用を検討した場合についても、「位相差板7である1/4波長板」とは異なる甲第5?7号証記載のリタデーションを有する部材を使用した場合に、出射される光の偏光方向が90°回転されて、ミラーとしての機能を発揮することが、当業者にとって明らかであったとはいえず、引用発明の「位相差板7である1/4波長板」に換えて、甲第5?7号証記載のリタデーションを有する部材を使用することは、当業者が採用し難いものであったといわざるを得ない。 また、上記(3)の申立ての理由(ア)、(エ)に関し、甲第4号証には、「強化ガラスを使用した場合には偏光フィルム12によって応力パターンが見える不都合が生じる」ことが記載され、甲第8号証(引用文献3)、甲第9号証、甲第10号証(引用文献4)、甲第11?12号証には、車両のリアガラス又は窓ガラスに強化ガラスを用いることが記載されているものの、それら甲各号証のいずれにも、引用発明(甲第1号証記載の発明)に、引用文献5(甲第2号証)記載の技術的事項を採用する動機付けを肯定する記載は見いだせない。 よって、申立人による上記申立ての理由(ア)?(エ)についても、理由がない。 6 むすび したがって、本件特許の請求項1、2及び9に係る発明は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許の請求項1、2及び9に係る発明を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-02-25 |
出願番号 | 特願2015-126431(P2015-126431) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(B60R)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡▲さき▼ 潤、佐々木 智洋 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
佐々木 一浩 藤井 昇 |
登録日 | 2019-09-06 |
登録番号 | 特許第6579821号(P6579821) |
権利者 | 富士フイルム株式会社 |
発明の名称 | 車両用の画像表示機能付きミラー |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |