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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1371735
異議申立番号 異議2020-700670  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-07 
確定日 2021-03-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6661721号発明「複合粒子及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6661721号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6661721号に係る出願(特願2018-173415号、以下「本願」ということがある。)は、平成27年3月26日(優先権主張:平成26年4月25日、特願2014-91668号)の国際出願日に出願人積水化成品工業株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)によりされたものとみなされる特許出願(特願2016-514830号)の一部を平成30年9月18日に新たな特許出願としたものであり、令和2年2月14日に特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、特許掲載公報が令和2年3月11日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和2年9月7日に特許異議申立人羽川延子(以下「申立人」という。)により、「特許第6661721号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし11が記載されている。
「【請求項1】
粒子径20?500nmの重合体小粒子と、
この重合体小粒子よりも大きく、重合性ビニル系モノマーを含むモノマー混合物の重合体からなる重合体大粒子と、
水溶性セルロースとを含み、
前記重合体小粒子が、前記重合体大粒子の表面に付着しており、
前記水溶性セルロースが、前記重合体小粒子の表面に吸着している複合粒子であって、
体積平均粒子径が1?100μmであることを特徴とする複合粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の複合粒子であって、
前記重合体小粒子への前記水溶性セルロースの吸着量が、前記重合体小粒子1gあたり
0.05g?0.5gであることを特徴とする複合粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合粒子であって、
前記重合体小粒子が、架橋重合体からなることを特徴とする複合粒子。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1つに記載の複合粒子であって、
前記モノマー混合物が、さらに、下記式(1);
【化3】

(式(1)中、nは1?5であり、aが1のとき、bは2であり、aが2のとき、bは1である。)又は下記式(2);
【化4】

(式(2)中、Rは水素、メチル基、又はクロロメチル基であり、mは1?20であり、aが1のとき、bは2であり、aが2のとき、bは1である。)で表される少なくとも1つの重合性リン酸系モノマーを含むことを特徴とする複合粒子。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1つに記載の複合粒子であって、
前記重合体大粒子の表面の少なくとも一部が、前記重合体小粒子からなる層で被覆されていることを特徴とする複合粒子。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1つに記載の複合粒子であって、
粒子流動性を示す、なだれ前後のアバランシェエネルギー変化AEの数値が10?45kJ/kgの範囲内であることを特徴とする複合粒子。
〔なだれ前後のアバランシェエネルギー変化AEの測定方法〕
測定対象の粒子(複合粒子)を100g計量して測定試料とする。そして、この測定試料中の粒子について、粉体流動性測定装置(Mercury Scientific社製の「パウダーアナライザー REVOLUTION」)を用いて、回転数0.3rpm、なだれ150回という条件で、なだれ前後のアバランシェエネルギー変化AE(kJ/kg)を測定する。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1つに記載の複合粒子を含むことを特徴とする外用剤。
【請求項8】
請求項1?6のいずれか1つに記載の複合粒子を含むことを特徴とするコーティング剤。
【請求項9】
請求項8に記載のコーティング剤を基材に塗工してなることを特徴とする光学フィルム。
【請求項10】
請求項1?6のいずれか1つに記載の複合粒子と、基材樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。」
(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」という。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第4号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件の請求項1、3及び7ないし11に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基づいて又は甲第1号証に記載された発明に基づき甲第4号証に記載された発明を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1、3及び7ないし11に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件の請求項1ないし3の記載では、本件特許に係る明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明において、同各項記載の発明が記載したものではないから、本件の請求項1ないし3及び同各項を引用する請求項4ないし11の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法同条同項(柱書)に記載した要件を満たしていないものであって、本件の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3:本件の請求項1に記載された事項で特定される発明は、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:国際公開第2012/043681号
甲第2号証:特開2011-63758号公報
甲第3号証:特開2009-256639号公報
甲第4号証:特開2002-173410号公報
(以下、「甲1」ないし「甲4」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき検討するが、事案に鑑み、まず、取消理由1及び3につき併せて検討し、取消理由2につき順次検討する。

I.取消理由1及び3について

1.各甲号証に記載された事項及び甲1ないし甲3に記載された各発明
取消理由1及び3は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、甲1ないし甲3に記載された各発明を認定する。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
上記甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「請求の範囲
[請求項1] 水性媒体中、分散剤を用いることなく、ポリオキシエチレン鎖を有さずかつアルキル基を有するアニオン性界面活性剤の存在下、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の少なくとも一方を含む重合性単量体と重合開始剤とを含む重合性混合物を種粒子に吸収させる工程と、
水性媒体中、分散剤を用いることなく、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤の存在下、前記重合性単量体を重合させて樹脂粒子を得る工程とを含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法。
・・(中略)・・
[請求項6] 前記重合性単量体が、スチレン系単量体を含み、
前記スチレン系単量体が、スチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、及びα-メチルスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1?5のいずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項7] 前記重合性単量体が、(メタ)アクリル系単量体を含み、
前記(メタ)アクリル系単量体が、(メタ)アクリル酸アルキルであり、前記アルキルの炭素数が2?12である請求項1?6のいずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項8] 前記重合性単量体が、(メタ)アクリル系単量体を含み、
前記重合性混合物が、種粒子1重量部に対して、30?500重量部吸収される請求項1?7のいずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法。
[請求項9] 請求項1?8のいずれか1つの方法により得られ、
スチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の少なくとも一方を含む重合性単量体に由来する樹脂を含み、
150℃の恒温槽中で2時間加熱した後に色彩色差計により測定されるb^(*)値が-1.0?+2.0の範囲内である樹脂粒子。
[請求項10] スチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の少なくとも一方を含む重合性単量体に由来する樹脂を含む樹脂粒子であって、
体積平均粒子径の80%以上120%以下の粒子径を持つ粒子の個数割合が83%以上であり、
150℃の恒温槽中で2時間加熱した後に色彩色差計により測定されるb^(*)値が-1.0?+2.0の範囲内であることを特徴とする樹脂粒子。
・・(中略)・・
[請求項12] 請求項10又は11に記載の樹脂粒子を含むコーティング用組成物を透明基材フィルム上にコーティングして得られることを特徴とする防眩フィルム。
[請求項13] 請求項10又は11に記載の樹脂粒子を含むことを特徴とする光拡散性樹脂組成物。
[請求項14] 請求項10又は11に記載の樹脂粒子を含むことを特徴とする外用剤。」(第54?56頁)

(a2)
「技術分野
[0001] 本発明は、樹脂粒子及びその製造方法、並びに、防眩フィルム、光拡散性樹脂組成物、及び外用剤に関する。更に詳しくは、本発明は、単分散性の高い樹脂粒子及びそれを用いた防眩フィルム、光拡散性樹脂組成物、外用剤、並びにシード重合法による単分散性の高い樹脂粒子の製造方法に関する。」

(a3)
「発明が解決しようとする課題
[0007] しかしながら、上記特許文献2に記載の製造方法では、単量体の吸収と重合を1段階行って得られる樹脂粒子の大きさには限界があるため、大きな粒子径の樹脂粒子を得るには、単量体の吸収と重合を繰り返す必要があった。
[0008] また、本願発明者等の検討によれば、上記特許文献2に記載の製造方法のようにポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性(又は非イオン性)の界面活性剤のみを使用した場合、微小粒子及び粗大粒子が多く、粒子径が揃った(単分散性の高い)樹脂粒子を得ることができないことが分かった。
[0009] 従って、単量体の吸収と重合の繰り返し数を減らしても、大きく、単分散性が高く、かつ加熱時の変色が抑制された樹脂粒子を生産性よく与え得る製造方法、並びに、単分散性が高く、かつ加熱時の変色が抑制された樹脂粒子及びそれを用いた防眩フィルム、光拡散性樹脂組成物、外用剤の提供が望まれていた。」

(a4)
「[0066] (5)種粒子
上記種粒子としては、特に限定されないが、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子等のビニル系樹脂粒子が挙げられる。
・・(中略)・・
[0071] 上記種粒子は、アクリル系樹脂粒子又はスチレン系樹脂粒子であることが好ましい。上記種粒子は、非架橋の樹脂粒子であることが好ましく、非架橋の(メタ)アクリル系樹脂粒子又はスチレン系樹脂粒子であることがより好ましい。
[0072] 上記種粒子の体積平均粒子径は、種粒子に吸収させる重合性混合物の量、所望する樹脂粒子の粒子径等の条件により適宜調整できるが、0.1?10μmの範囲内であることが好ましい。
[0073] なお、上記種粒子は、例えば乳化重合法、ソープフリー乳化重合法(界面活性剤を使用しない乳化重合法)、分散重合法、シード重合法等の公知の重合方法により、(メタ)アクリル系単量体、スチレン系単量体等のビニル系単量体(重合可能なアルケニル基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物)を重合することで、入手可能である。
・・(中略)・・
[0076] 第1段のシード重合に用いる種粒子を得るためのビニル系単量体の重合は、本発明の樹脂粒子を得る上記重合性単量体の重合と同様にして行うことができるが、界面活性剤は使用しないことが好ましい。すなわち、第1段のシード重合に用いる種粒子を得るためのビニル系単量体の重合方法としては、ソープフリー重合法が最も好ましい。一方、第2段以降のシード重合に用いる種粒子(第2以降の種粒子)を得るためのビニル系単量体の重合は、本発明の樹脂粒子を得る最終段のシード重合と同様のシード重合であり、界面活性剤を使用することが好ましい。
・・(中略)・・
[0078] (6)シード重合法
本発明の方法は、公知のシード重合法を参考にすればよい。以下にシード重合法の一般的な方法を述べるが、この方法に限定されるものではない。
[0079] まず、重合性混合物と水性媒体とから構成される乳化液に種粒子を添加する。乳化液は、公知の方法により作製できる。例えば、重合性混合物を、水性媒体に添加し、ホモジナイザー、超音波処理機、高圧ホモジナイザー(ナノマイザー(登録商標))等の微細乳化機により分散させることで、乳化液を得ることができる。重合開始剤は、重合性単量体に予め混合させた後、水性媒体中に分散させてもよいし、両者を別々に水性媒体に分散させたものを混合してもよい。得られた乳化液中の重合性混合物の液滴の粒子径は、種粒子よりも小さい方が、重合性混合物が種粒子に効率よく吸収されるので好ましい。
・・(中略)・・
[0081] 種粒子の乳化液への添加後、種粒子へ重合性混合物を吸収させる。この吸収は、通常、種粒子添加後の乳化液を、室温(約20℃)で1?12時間撹拌することで行うことができる。また、乳化液を30?50℃程度に加温することにより吸収を促進してもよい。
[0082] 種粒子は、重合性混合物の吸収により膨潤する。本発明の方法は、上記従来技術より、1回の吸収工程における種粒子に吸収させる重合性混合物の量を多くすることができる。例えば、重合性混合物の使用量を、種粒子1重量部に対して、30重量部以上とすることができる。上記重合性単量体がスチレン系単量体を含む場合、上記重合性混合物の使用量は、種粒子1重量部に対して、30?300重量部の範囲であることが好ましく、30?200重量部の範囲であることがより好ましい。上記重合性単量体が(メタ)アクリル系単量体を含む場合、上記重合性混合物の使用量は、種粒子1重量部に対して、30?500重量部の範囲であることが好ましく、40?300重量部の範囲であることがより好ましい。上記重合性混合物の使用量が上記数値範囲の下限値より小さくなると、重合による粒子径の増加が小さくなることにより、生産性が低下する。上記重合性混合物の使用量が上記数値範囲の上限値より大きくなると、上記重合性混合物が、完全に種粒子に吸収されず、水性媒体中で独自に懸濁重合し異常粒子を生成することがある。なお、種粒子への上記重合性混合物の吸収の終了は光学顕微鏡の観察で粒子径の拡大を確認することにより判定できる。
[0083] 次に、種粒子に吸収させた重合性単量体を重合させることで、樹脂粒子が得られる。」

(a5)
「[0093] 本発明の製造方法により得られた樹脂粒子、及び本発明の樹脂粒子は、光拡散剤として使用できる。また、本発明の製造方法により得られた樹脂粒子、及び本発明の樹脂粒子は、光拡散剤以外に、LCD(液晶ディスプレイ)スペーサー・銀塩フィルム用表面改質剤・磁気テープ用フィルム用改質剤・感熱紙走行安定剤等の電子工業分野、レオロジーコントロール剤・艶消し剤等の塗料・インク・接着剤・クロマトグラフ用充填材等の化学分野、診断試薬用担体(抗原抗体反応検査用粒子)等の医療分野、滑り剤、体質顔料等の化粧品分野、不飽和等ポリエステル等の樹脂の低収縮化剤、紙、歯科材料、アンチブロッキン
グ剤、マット化剤、樹脂改質剤等の一般工業分野等へ使用可能である。
[0094] 〔コーティング用組成物〕
本発明の樹脂粒子は、塗料用艶消し剤、光拡散フィルム用光拡散剤、防眩フィルム用光拡散剤等としてコーティング用組成物に含有させることが可能である。上記コーティング用組成物は、本発明の樹脂粒子を含んでいる。
・・(中略)・・
[0099] 〔光学フィルム〕
光学フィルムは、上記コーティング用組成物を透明基材フィルム上にコーティングして得られるものである。上記光学フィルムは、本発明の防眩フィルム、光拡散フィルム等として利用できる。
・・(中略)・・
[0103] 〔外用剤〕
更に、本発明の樹脂粒子は、外用剤の原料としても使用できる。上記外用剤は、本発明の樹脂粒子を含んでいる。外用剤における樹脂粒子の含有量は、外用剤の種類に応じて適宜設定できるが、1?80重量%の範囲内であることが好ましく、5?70重量%の範囲内であることがより好ましい。外用剤全量に対する樹脂粒子の含有量が1重量%を下回ると、樹脂粒子の含有による明確な効果が認められないことがある。また、樹脂粒子の含有量が80重量%を上回ると、含有量の増加に見合った顕著な効果が認められないことがあるため、生産コスト上好ましくない。
[0104] 外用剤としては、例えば、化粧料、外用医薬品等が挙げられる。
・・(中略)・・
[0108] 〔光拡散性樹脂組成物〕
本発明の樹脂粒子は、透明基材樹脂(透明性樹脂)に分散させることで、照明カバー、液晶表示装置の光拡散板等のような光学用部材の原料(光拡散性樹脂組成物)として使用できる。上記光拡散性樹脂組成物は、本発明の樹脂粒子と、透明基材樹脂とを含んでいる。」

(a6)
「実施例
[0114] 以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の製造例、実施例、及び比較例において、種粒子(一次粒子、種粒子1、及び種粒子2)の体積平均粒子径、及び樹脂粒子の体積平均粒子径は、以下の測定法で測定した。
・・(中略)・・
[0120] 〔種粒子の製造例1〕
容器中の純水(水性媒体)630gに、アクリル系単量体としてのメタクリル酸メチル(MMA)108gと、分子量調整剤としてのn-オクチルメルカプタン11gとを投入した。容器内部をN_(2)(窒素ガス)パージ(容器内の空気をN_(2)に置換)した後、55℃まで昇温した。
[0121] その後、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.54gを純水100gに溶解した水溶液を容器に投入した。容器を再びN_(2)パージした後、55℃で12時間重合を行い、体積平均粒子径が0.75μmの種粒子1(アクリル系樹脂粒子)をスラリーの状態で得た。
[0122] 〔種粒子の製造例2〕
容器中の純水(水性媒体)630gに、アクリル系単量体としてのメタクリル酸メチル(MMA)108gと、分子量調整剤としてのオクチルメルカプタン11gとを投入した。容器内部をN_(2)パージした後、70℃まで昇温した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.54gを純水100gに溶解した水溶液を、容器に投入した。容器を再びN_(2)パージした後、55℃で12時間重合を行い、体積平均粒子径が0.45μmの一次粒子(種粒子)をスラリーの状態で得た。
[0123] 容器に、イオン交換水650gと、アクリル系単量体としてのメタクリル酸メチル160gに分子量調整剤としてのオクチルメルカプタン3gを溶解させた溶液とを投入した。更に、一次粒子を含むスラリー(分散液)80gを加え、得られた分散液を攪拌しながら窒素気流中で70℃に昇温した。重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.8gをイオン交換水100gに溶解させた水溶液を続けて投入して、70℃で12時間攪拌し、重合反応を行った。この重合反応により、体積平均粒子径が1.1μmのポリメチルメタクリレート粒子からなる種粒子2をスラリーの状態で得た。
[0124] 〔実施例1〕
(メタ)アクリル系単量体としてのメタクリル酸n-ブチル28gと、スチレン系単量体としてのスチレン28gと、多官能(メタ)アクリル系単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート24gとからなる重合性単量体に、重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.4gを溶解することで、重合性混合物を得た。
[0125] 上記重合性混合物とは別に、水性媒体としての純水80gに、ポリオキシエチレン鎖を有さずかつアルキル基を有するアニオン性界面活性剤としてのジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.8gを溶解して、水溶液を得た。
[0126] 上記重合性混合物を上記水溶液に加えた後、得られた分散液を「T.KホモミクサーMarkII2.5型」(プライミクス(登録商標)株式会社製の高速乳化・分散機)を用いて攪拌回転数8000rpmで10分間処理して、乳化液を得た。上記乳化液を攪拌機及び温度計を備えた内容量1リットルの反応容器に入れた。この後、上記乳化液に、製造例1で得た種粒子1を含有するスラリー(種粒子1を14重量%含有)8.9gを添加して、混合物を得た。次いで、得られた混合物を攪拌機により攪拌回転数120rpmで4時間攪拌しつつ、種粒子1に重合性混合物を吸収させた。これにより、重合性混合物を吸収した種粒子1を含む溶液を得た。
[0127] 純水240gに、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤としての「フォスファノール(登録商標)LO-529」(東邦化学工業株式会社製、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸ナトリウム70重量%とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル20重量%と水10重量%との混合物)0.8gを添加して、界面活性剤水溶液を得た。得られた界面活性剤水溶液に、上記重合性混合物を吸収した種粒子1を含む溶液を添加した。添加後、上記重合性単量体を70℃で12時間重合させることで、体積平均粒子径が3μmの樹脂粒子を得た。重合後に凝集は発生しなかった。さらに、重合後の樹脂粒子を含む懸濁液を加圧ろ過法にて脱液した後、懸濁液中の固形分の12倍量のイオン交換水を加えて加圧ろ過することにより、樹脂粒子表面に付着した界面活性剤を除去した。その後、再度加圧して脱水し、60℃の恒温槽中で樹脂粒子を充分に乾燥して、樹脂粒子の乾燥体を得た。得られた樹脂粒子の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
[0128] 得られた樹脂粒子は、その体積平均粒子径の80%以上120%以下の粒子径を持つ粒子の個数割合が90%であり、粒子径が非常によく揃っていた。
・・(中略)・・
[0172] 〔比較例9〕
メタクリル酸n-ブチル28gとスチレン28gとエチレングリコールジメタクリレート24gとからなる重合性単量体に、重合開始剤である2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.4gを溶解することで、重合性混合物を得た。
[0173] 上記重合性混合物とは別に、純水80gに、ポリオキシエチレン鎖を有さずかつアルキル基を有するアニオン性界面活性剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.8gを溶解して、水溶液を得た。
[0174] 上記重合性混合物を上記水溶液に加えた後、得られた分散液を「T.KホモミクサーMarkII2.5型」(プライミクス(登録商標)株式会社製の高速乳化・分散機)を用いて攪拌回転数8000rpmで10分間処理して、乳化液を得た。上記乳化液を攪拌機及び温度計を備えた内容量1リットルの反応容器に入れた。この後、上記乳化液に、製造例1で得た種粒子1を含有するスラリー3gを添加して、混合物を得た。次いで、得られた混合物を攪拌機により攪拌回転数120rpmで4時間攪拌しつつ、種粒子1に重合性混合物を吸収させた。これにより、重合性混合物を吸収した種粒子1を含む溶液を得た。
[0175] 純水240gに、水溶性高分子分散剤(水溶性有機分散剤)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製GH-17)3.2gを添加して、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液に、上記重合性混合物を吸収した種粒子1を含む溶液を添加した。添加後、上記重合性単量体を70℃で12時間重合させることで、体積平均粒子径が4μmの樹脂粒子を得た。重合後に凝集は発生しなかった。さらに、重合後の樹脂粒子を含む懸濁液を加圧ろ過法にて脱液した後、懸濁液中の固形分の12倍量のイオン交換水を加えて加圧ろ過することにより、樹脂粒子を洗浄した。その後、再度加圧して脱水し、60℃の恒温槽中で樹脂粒子を充分に乾燥して、樹脂粒子の乾燥体を得た。樹脂粒子の乾燥体は、ポリビニルアルコールが残留しているため、強固に合着していた。
[0176] 解砕後に得られた樹脂粒子は、その体積平均粒子径の80%以上120%以下の粒子径を持つ粒子の個数割合が89%であり、粒子径が非常によく揃っていた。」

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.で摘示した甲1の記載(特に摘示(a1)及び(a6)の下線部)からみて、
「水性媒体中、分散剤を用いることなく、ポリオキシエチレン鎖を有さずかつアルキル基を有するアニオン性界面活性剤の存在下、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の少なくとも一方を含む重合性単量体と重合開始剤とを含む重合性混合物を平均粒子径0.75μmの種粒子に吸収させる工程と、
水性媒体中、分散剤を用いることなく、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤の存在下、前記重合性単量体を重合させて樹脂粒子を得る工程とを含む製造方法により製造された平均粒子径3μmの樹脂粒子。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(2)甲2

ア.甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b1)
「【請求項1】
ビニル系モノマー100重量部と、下記一般式
CH_(2)=C(CH_(3))-COO-X-OCO-C(CH_(3))=CH_(2)
(式中、Xは、炭素数が4?12の直鎖状で二価の炭化水素基である。)
で表される架橋剤0.05?2重量部とから由来する樹脂からなることを特徴とするシード重合用種粒子。
【請求項2】
前記直鎖状で二価の炭化水素基が、-(CH_(2))_(n)-(nは4?12である)で表されるアルキレン基である請求項1に記載のシード重合用種粒子。
【請求項3】
前記樹脂が、80重量%以上のゲル分率を示す請求項1又は2に記載のシード重合用種粒子。
【請求項4】
前記ビニル系モノマーが、炭素数1?10のアルキル基をエステル部に有する(メタ)アクリル酸エステルである請求項1?3のいずれか1つに記載のシード重合用種粒子。
【請求項5】
水性媒体中、請求項1?4のいずれか1つに記載の種粒子1重量部の存在下で、1?50重量%の架橋性モノマー及び99?50重量%の単官能ビニル系モノマーのモノマー混合物を20?150重量部を重合させることにより真球状の重合体粒子を得ることを特徴とする重合体粒子の製造方法。
【請求項6】
前記モノマー混合物が、ビニル基を2個以上有する(メタ)アクリル酸誘導体及びスチレン誘導体から選択される前記架橋性モノマーと、(メタ)アクリル酸誘導体及びスチレン誘導体から選択される前記単官能ビニル系モノマーとの混合物である請求項5に記載の重合体粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1?4のいずれか1つに記載の種粒子1重量部と、1?50重量%の架橋性モノマー及び99?50重量%の単官能ビニル系モノマーのモノマー混合物20?150重量部とをシード重合法に付して得られた真球状の重合体粒子。
【請求項8】
前記重合体粒子が、80重量%以上のゲル分率、1?1.1の真球度、15%以下のCV値を有する請求項7に記載の重合体粒子。」

(b2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、種粒子、重合体粒子及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、ゲル分率を上げることで耐薬品性が向上した重合体粒子を与える種粒子、その種粒子を用いたシード重合法により得られた重合体粒子、及びその製造方法に関する。」

(b3)
「【0006】
本発明の発明者は、十分な耐溶剤性を備えた重合体粒子を得るための技術について検討した結果、特定の架橋剤に由来する種粒子を使用したシード重合法によれば、十分な耐溶剤性だけなく、重合体粒子の形状を真球状とできることを意外にも見い出し、本発明に至った。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の架橋剤を使用することで、種粒子の架橋量を上げても、種粒子とモノマー混合物に由来する樹脂との相分離が抑制でき、その結果、真球状で、高単分散性で、高耐溶剤性の重合体粒子を提供できる。例えば、80重量%以上のゲル分率、1?1.1の真球度、15%以下のCV値を有する重合体粒子を提供できる。
また、直鎖状で二価の炭化水素基が、-(CH_(2))_(n)-(nは4?12である)で表されるアルキレン基である場合、より高単分散性の真球状の重合体粒子を得ることができる。
【0009】
更に、種粒子を構成する樹脂が、80重量%以上のゲル分率を示すことで、真球状で、高単分散性で、高耐溶剤性の重合体粒子を提供できる。
また、ビニル系モノマーが、炭素数1?10のアルキル基をエステル部に有する(メタ)アクリル酸エステルである場合、真球状で、高単分散性で、高耐溶剤性の重合体粒子を提供できる。
更に、本発明の重合体粒子の製造方法によれば、真球状で、高単分散性で、高耐溶剤性の重合体粒子を簡便に製造できる。
【0010】
また、モノマー混合物が、ビニル基を2個以上有する(メタ)アクリル酸誘導体及びスチレン誘導体から選択される前記架橋性モノマーと、(メタ)アクリル酸誘導体及びスチレン誘導体から選択される前記単官能ビニル系モノマーとの混合物である場合、真球状で、高単分散性で、高耐溶剤性の重合体粒子を簡便に製造できる。」

(b4)
「【0021】
(重合体粒子)
本発明の重合体粒子は、上記種粒子と、架橋性モノマー及び単官能ビニル系モノマーのモノマー混合物とをシード重合法に付して得られた真球状の重合体粒子である。
・・(中略)・・
【0025】
(5)重合体粒子の製造方法
重合体粒子の製造方法は、シード重合法であれば、その条件は、特に限定されない。具体的には、水性媒体中、種粒子1重量部に、1?50重量%の架橋性モノマー及び99?50重量%の単官能ビニル系モノマーのモノマー混合物を重合させることにより真球状の重合体粒子を得ることができる。
モノマー混合物は、水性媒体中の種粒子に付着し、種粒子に吸収されかつ種粒子を膨潤させることにより、種粒子とモノマー混合物とからなる油滴を構成する。モノマー混合物は、水性媒体に全量を一度に添加してもよく、徐々に添加してもよい。後者の方が、モノマー混合物のみからなる重合体粒子の発生を抑制できる。徐々に添加する場合、モノマー混合物を重合させながら添加してもよい。重合させつつ添加すれば、より大量のモノマー混合物を、それのみからなる重合体粒子の発生を抑制しつつ、重合できる。
・・(中略)・・
【0030】
また、分散安定剤を水性媒体に添加してもよい。分散安定剤としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子が挙げられる。
重合温度は、60?90℃とでき、重合時間は、1?20時間とできる。重合は、窒素雰囲気のような重合に対して不活性な不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0031】
(6)重合体粒子の形状
本発明の重合体粒子は、高いゲル分率と高い単分散性を有しながら、真球状であるという特徴を有している。具体的には、ゲル分率を80重量%以上とすることができ、CV値を15%以下とすることができ、1?1.1の真球度とすることができる。高いゲル分率と高い単分散性を有する重合体粒子は、従来実現することができず、発明者が初めて見い出した粒子である。高いゲル分率を有することで、十分な耐薬品性を重合体粒子に付与することができるので、重合体粒子が有機溶媒と接触することが要求される用途、例えば、塗料、光拡散剤等に有用である。
重合体粒子の大きさは特に限定されないが、種粒子1重量部にモノマー混合物を20?150重量部吸収させることにより得られる大きさの範囲である。例えば0.5?10μmの平均粒子径の重合体粒子を得ることができる。」

(b5)
「【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の各性質の評価方法を下記する。
・・(中略)・・
【0038】
実施例1
[種粒子の製造]
はじめに、イオン交換水1300gに、分子量調整剤として1-オクタンチオール3gと架橋剤として1,9-ノナンジオールジメタクリレート(炭素数9個)0.40g(0.1重量部)とを溶解したメタクリル酸メチル(MMA)400g(100重量部)を加えることで分散液を得た。分散液を攪拌しながら窒素気流中で70℃に昇温した。昇温後の分散液に、重合開始剤として過硫酸アンモニウム2.0gをイオン交換水300gに溶解した溶液を投入した。投入後、70℃で12時間攪拌しつつ重合反応を行うことで、ポリメタクリル酸メチルからなる種粒子Aの分散液を得た(固形分約20重量%)。得られた種粒子Aは、架橋剤由来の成分を0.1重量部含み、平均粒子径が0.5μm、ゲル分率が82%、CV値が13%の単分散粒子であった。
【0039】
次に、イオン交換水1300gに、分子量調整剤として1-オクタンチオール3gと架橋剤として1,9-ノナンジオールジメタクリレート(炭素数9個)0.40g(0.1重量部)とを溶解したメタクリル酸メチル(MMA)400g(100重量部)を加えることで1次分散液を得た。この1次分散液に、上記種粒子Aの分散液を200g加えることで2次分散液を得た。2次分散液を攪拌しながら窒素気流中で70℃に昇温した。昇温後の分散液に、重合開始剤として過硫酸アンモニウム2.0gをイオン交換水300gに溶解した溶液を投入した。投入後、70℃で12時間攪拌しつつ重合反応を行うことで、ポリメタクリル酸メチルからなる種粒子Bの分散液を得た(固形分約20重量%)。得られた種粒子Bは、架橋剤由来の成分を0.1重量部含み、平均粒子径が1.1μm、ゲル分率が83%、CV値が13.5%の単分散粒子であった。
【0040】
[重合体粒子の製造]
次に、スチレン760gとエチレングリコールジメタクリレート40gとからなるビニル系モノマーに、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート8gを溶解してモノマー混合物を得た。得られたモノマー混合物に、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(界面活性剤)8gが含まれたイオン交換水800gを混合した。得られた混合液を、T.KホモミキサーMark2.5型(特殊機化工業社製)に入れて9000rpmで10分間処理して乳化液を得た。
【0041】
この乳化液に上記の1.1μmの種粒子Bの分散液80gを加え、30℃で4時間攪拌した(膨潤倍率800/(80×0.20)=50倍)。攪拌後の分散液を光学顕微鏡で観察したところ、乳化液中のモノマーは完全に種粒子Bに吸収されていることを認めた。この分散液に88%部分けん化ポリビニルアルコール4%水溶液(日本合成化学社製ゴーセノールGH-20)2400g、亜硝酸ナトリウム0.64gを加えた。その後、分散液中のビニル系モノマーを70℃で3時間重合させた。次いで、105℃で2.5時間攪拌し、有機過酸化物を分解させることで、平均粒子径4.06μm、CV値8.9%、ゲル分率99.7%の単分散性の重合体粒子を得た。重合体粒子の電子顕微鏡写真(日本電子社製JSM-6360LVを使用)を図1(倍率2000倍)に示す。SEM画像より50個の重合体粒子の真球度(L/W)をそれぞれ計測した。50個の重合体粒子の平均真球度は1.009であった。」

イ.甲2に記載された発明
上記ア.で摘示した甲2の記載(特に摘示(b1)及び(b5)の下線部)からみて、
「ビニル系モノマー100重量部と、一般式(式は省略)で表される架橋剤0.05?2重量部とから由来する樹脂からなる平均粒子径1.1μmのシード重合用種粒子1重量部の存在下で、水性媒体中、1?50重量%の架橋性モノマー及び99?50重量%の単官能ビニル系モノマーのモノマー混合物の20?150重量部を当該種粒子に吸収させた後、重合させることにより得られた平均粒子径4.06μmの真球状の重合体粒子。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(3)甲3

ア.甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(c1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中で種粒子に単量体を吸収させた後、前記単量体を重合させるシード重合法による単分散重合体粒子の製造方法であって、
前記単量体が、疎水性のビニル系単量体を5重量%以上含み、かつ前記種粒子1重量部に対して80重量部以上前記種粒子に吸収され、
前記水性媒体が、臨界ミセル濃度の9?24倍量の界面活性剤を含むことを特徴とする単分散重合体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記単分散重合体粒子が、体積換算で2.2%以下、又は個数換算で25%以下の小粒子を含み、
前記小粒子が、前記単分散重合体粒子の平均粒子径の80%以下の粒子径を有する粒子である請求項1に記載の単分散重合体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記単分散重合体粒子が、前記種粒子の粒子径を1とした場合に、4.5以上の粒子径を有する請求項1又は2に記載の単分散重合体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、アニオン系界面活性剤である請求項1?3のいずれか1つに記載の単分散重合体粒子の製造方法。
【請求項5】
前記疎水性のビニル系単量体は25℃における水に対する溶解度が1g/L以下の単量体であり、前記単量体が前記疎水性のビニル系単量体以外の他の単量体を95重量%以下含む請求項1?4のいずれか1つに記載の単分散重合体粒子の製造方法。
【請求項6】
前記単量体が、前記種粒子1重量部に対して100?300重量部前記種粒子に吸収される請求項1?5のいずれか1つに記載の単分散重合体粒子の製造方法。
【請求項7】
前記疎水性のビニル系単量体が、単官能又は多官能スチレン類から選択される請求項1?6のいずれか1つに記載の単分散重合体粒子の製造方法。」

(c2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、単分散重合体粒子の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、シード重合法による単分散重合体粒子の製造方法に関する。」

(c3)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報に記載の臨界ミセル濃度の範囲内では、疎水性のビニル系単量体の水性媒体への溶出が不十分であり、その結果として種粒子へ吸収されず残存したビニル系単量体小滴がそのまま重合し、小粒子及び粗大粒子として製品中に混入するといった問題が発生する。特に、大きな粒子を生産性よく得るために膨潤倍率を高くした場合には、上記問題は顕著であった。従って、疎水性のビニル系単量体をシード重合法に使用した場合でも、より単分散性の高い重合体粒子を生産性よく与え得る製造方法の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
水性媒体中で種粒子に単量体を吸収させた後、前記単量体を重合させるシード重合法による単分散重合体粒子の製造方法であって、
前記単量体が、疎水性のビニル系単量体を5重量%以上含み、かつ前記種粒子1重量部に対して80重量部以上前記種粒子に吸収され、
前記水性媒体が、臨界ミセル濃度の9?24倍量の界面活性剤を含むことを特徴とする単分散重合体粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、生産性よく粒子径が揃った(単分散性の高い)重合体粒子を得ることができる。
更に、本発明の製造方法によれば、種粒子の粒子径を1とした場合に、4.5以上の粒子径を有するより大きな単分散重合体粒子を得ることができる。
更に、界面活性剤としてアニオン系界面活性剤を使用することで、単量体の種粒子の吸収をより促進できるので、単分散性の高い重合体粒子を得ることができる。
また、本発明の製造方法によれば、体積換算で2.2%以下、又は個数換算で25%以下の小粒子(単分散重合体粒子の平均粒子径の80%以下の粒子径を有する粒子をいう)を含む、単分散性の高い重合体粒子を得ることができる。」

(c4)
「【0015】
(種粒子)
本発明で使用できる種粒子としては、特に限定されないが、アクリル系粒子、スチレン系粒子等のビニル系樹脂粒子が挙げられる。
・・(中略)・・
【0019】
種粒子の平均粒子径は、吸収させるビニル系単量体の量、所望する単分散重合体粒子の粒子径等の条件により適宜調整できる。
種粒子がアクリル系粒子の場合、それを構成するアクリル系樹脂の重量平均分子量は、1万?4万であることが好ましい。1万未満の場合、単分散性に優れた重合体粒子を得がたいことがある。また、種粒子と吸収される単量体の分子構造が異なる場合には相分離を起こすことがある。この場合、重合が進むにつれて内部のボイドや亀裂が発生し、得られた単分散重合体粒子の力学的強度が著しく低下することがある。4万より大きい場合、単量体吸収率が低下することがある。より好ましい重量平均分子量は、1万?3万である。
【0020】
種粒子がスチレン系粒子の場合、それを構成するスチレン系樹脂の重量平均分子量は、上記アクリル系粒子と同様の理由から、1万?4万であることが好ましい。より好ましい重量平均分子量は、1万?3万である。
なお、種粒子は、例えば乳化重合法、懸濁重合法等の公知の方法により入手可能である。
種粒子は、重合系から単離してもよく、単離せずにそのまま単分散重合体粒子の製造に使用してもよい。
【0021】
ここで、小粒子及び粗大粒子の発生を抑制する観点から、単分散重合体粒子が、種粒子の重量を1とした場合に、80以上の重量を有するように、種粒子の重量を調整する。好ましい単分散重合体粒子の重量は100?300であり、より好ましい重量は100?250である。このように種粒子の重量に対する単分散重合体粒子の重量を多くしても、高い単分散性の重合体粒子を得ることができる。
また、上記と同様の観点から、単分散重合体粒子が、種粒子の粒子径を1とした場合に、4.5以上の粒子径を有するように、種粒子の平均粒子径を調整することが好ましい。
【0022】
本発明の方法は、公知のシード重合法を参考にすればよい。以下にシード重合法の一般的な方法を述べるが、この方法に限定されるものではない。
まず、単量体と水性媒体とから構成される乳化液に種粒子を添加する。乳化液は、公知の方法により作製できる。例えば、単量体を、水性媒体に添加し、ホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー等の微細乳化機により分散させることで、乳化液を得ることができる。単量体は、必要に応じて重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤は、単量体に予め混合させた後、水性媒体中に分散させてもよいし、両者を別々に水性媒体に分散させたものを混合してもよい。得られた乳化液中の単量体の液滴の粒子径は、種粒子よりも小さい方が、重合性単量体が種粒子に効率よく吸収されるので好ましい。
種粒子は、乳化液に直接添加してもよく、種粒子を水性分散媒体に分散させた形態(以下、種粒子分散液という)で添加してもよい。
【0023】
種粒子の乳化液への添加後、種粒子へ単量体を吸収させる。この吸収は、通常、種粒子添加後の乳化液を、室温(約20℃)で1?12時間撹拌することで行うことができる。また、乳化液を30?50℃程度に加温することにより吸収を促進してもよい。
種粒子は、単量体の吸収により膨潤する。単量体と種粒子との混合比率は、種粒子1重量部に対して単量体80重量部以上であり、単量体100?300重量部の範囲であることが好ましく、100?250重量部がより好ましい。単量体の混合比率が小さくなると、重合による粒子径の増加が小さくなることにより、生産性が低下し、大きくなると完全に種粒子に吸収されず、水性媒体中で独自に懸濁重合し異常粒子を生成することがある。なお、吸収の終了は光学顕微鏡の観察で粒子径の拡大を確認することにより判定できる。
・・(中略)・・
【0025】
次に、種粒子に吸収させた単量体を重合させることで、単分散重合体粒子が得られる。
重合温度は、単量体、重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25?110℃が好ましく、より好ましくは50?100℃である。重合反応は、種粒子に単量体、任意に重合開始剤が完全に吸収された後に、昇温して行うのが好ましい。重合完了後、必要に応じて単分散重合体粒子を遠心分離して水性媒体を除去し、水及び溶剤で洗浄した後、乾燥、単離される。
【0026】
上記重合工程において、単分散重合体粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を添加してもよい。
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリビニルピロリドン等である。またトリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、単量体100重量部に対して1?10重量部が好ましい。
また、水系での乳化粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。」

(c5)
「【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、重量平均分子量、平均粒子径、変動係数の測定法を下記する。
・・(中略)・・
【0031】
実施例1
[種粒子の製造]
はじめに、イオン交換水3000g、次いで分子量調整剤として1-オクタンチオール10gを溶解したメタクリル酸エチル(EMA)500gを加え、これを撹拌しながら窒素気流中で55℃に昇温し、重合開始剤として過硫酸カリウム2.6gをイオン交換水100gに溶解した後に投入し、55℃で12時間撹拌し重合反応を行い、平均粒子径が0.5μm、重量平均分子量1.3万の単分散ポリEMAの分散液(固形分14.3%)を得た。
【0032】
次に、メタクリル酸メチル(MMA)550gに、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル5.5g、1-オクタンチオール11gを溶解し得られた単量体混合物を、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム5.5gが含まれたイオン交換水2200gと混合し、T.KホモミキサーMark2.5型(特殊機化工業社製)に入れて10000rpmで5分間処理して乳化液を得た。
【0033】
この乳化液に上で得た平均粒子径が0.5μmの種粒子の分散液(固形分14.3%)390gを加え、室温で3時間撹拌した。その時の分散液を光学顕微鏡で観察したところ、乳化液中の単量体は完全に種粒子に吸収されていることを認めた。この分散液にポリビニルアルコール(日本合成化学社製、GH-17)の3.6%水溶液1100gを加え、その後55℃で6時間、次いで80℃で1.5時間重合を行い、平均粒子径が1.50μm、重量平均分子量1.16万の単分散ポリメチルメタクリレートの分散液(固形分14.3%)を得た。
【0034】
[単分散重合体粒子の製造]
はじめに、MMA450g、スチレン180g、ジビニルベンゼン370gを用い、2,2’-アゾイソブチロニトリル6g、過酸化ベンゾイル6gを溶解し得られた単量体混合物を、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム20g(臨界ミセル濃度(0.125重量%)の16倍)が含まれたイオン交換水1000gと混合し、T.KホモミキサーMark2.5型(特殊機化工業社製)に入れて10000rpmで10分間処理して乳化液を得た。
【0035】
この乳化液に上で得た平均粒子径が1.50μmの種粒子分散液(固形分14.3%)60gを加え、30℃で5時間撹拌した。この分散液にポリビニルアルコールGH-17の4%水溶液2000g、亜硝酸ナトリウム0.6gを加え、その後60℃で5時間、次いで105℃で2.5時間撹拌し重合反応を行った。
【0036】
得られた重合体粒子の粒度分布をコールター社製のコールターカウンターで測定したところ、体積%分布において平均粒子径が8.0μm、変動係数が7.2%、粒子径7.3μm以下が0.9%、7.3?9.1μmが96.6%、9.1μm以上が2.5%、また個数%分布において25%径が7.6μm、75%径が8.1μmであり、80%径(6.4μm)以下の小粒子割合が、体積換算にて1.13%、個数換算にて16.6%となることから、粒子径が非常によく揃った粒子であることが認められた。」

イ.甲3に記載された発明
甲3には、上記ア.の記載(特に摘示(c1)、(c4)及び(c5)の各下線部)からみて、「水性媒体中で種粒子に単量体を吸収させた後、前記単量体を重合させるシード重合法による単分散重合体粒子の製造方法であって、前記単量体が、疎水性のビニル系単量体を5重量%以上含み、かつ前記種粒子1重量部に対して80重量部以上前記種粒子に吸収され、前記水性媒体が、臨界ミセル濃度の9?24倍量の界面活性剤を含むことを特徴とする単分散重合体粒子の製造方法。」(【請求項1】)が記載され、実施例1として「平均粒子径が0.5μm、重量平均分子量1.3万の単分散ポリEMA」を、「単量体混合物」の「乳化液・・を加え、・・撹拌し」、「乳化液中の単量体は完全に種粒子に吸収されていることを認めた」上で、「55℃で6時間、次いで80℃で1.5時間重合を行い」製造されてなる「平均粒子径が1.50μm、重量平均分子量1.16万の単分散ポリメチルメタクリレート」である「種粒子」(【0031】?【0033】)を、「単量体混合物」を含む「乳化液に・・種粒子分散液・・を加え、30℃で5時間撹拌し・・その後60℃で5時間、次いで105℃で2.5時間撹拌し重合反応を行っ」て「得られた・・体積%分布において平均粒子径が8.0μm」の「重合体粒子」が記載されている(【0034】?【0036】)から、
「臨界ミセル濃度の9?24倍量の界面活性剤を含む水性媒体中で、平均粒子径が1.50μmの種粒子に疎水性のビニル系単量体を5重量%以上含む単量体を前記種粒子1重量部に対して80重量部以上吸収させた後、前記単量体を重合させるシード重合法により製造された体積%分布において平均粒子径が8.0μmの単分散重合体粒子。」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

(4)甲4
甲4には、ポリアクリル酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂またはシリコーン系樹脂からなる粒子であり、該樹脂粒子が機能性薬剤を1?50%および低分子ポリエチレン、パラフィン、トリグリセライド、シリカ粉末または天然岩石粉末である該機能性薬剤のブリード性を調整するブリード調整剤を1?40%含有しており、該樹脂粒子が略球形で、5?100μmの大きさであることを特徴とする化粧用微細樹脂粒子が記載されており(【特許請求の範囲】)、その製造方法として、懸濁安定剤を含む水中に、機能性薬剤と、ブリード調整剤と、原料樹脂(以下、懸濁重合が可能なモノマー、懸濁架橋が可能なプレポリマー、または樹脂液を原料樹脂という。)とを添加、攪拌して、機能性薬剤とブリード調整剤とが混合分散した懸濁液とし、次いで、この懸濁液を加温して反応を開始させ、その後、懸濁重合または懸濁架橋により樹脂粒子を生成させ、これを固液分離し、洗浄により粒子に付着している懸濁安定剤を取り除いて、乾燥させることにより、機能性薬剤とブリード調整剤とを内部に含有した所望粒径の略球状の本発明の樹脂粒子が得られることが記載されている(【0011】)。

2.本件発明に係る検討

(1)甲1発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「樹脂粒子」は、「種粒子」と「重合性単量体を重合させてなる」部分とを含むものである点で、本件発明における「重合体小粒子」と「重合体大粒子と」を含む「複合粒子」に一致するものと認められ、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点a1:本件発明では「粒子径20?500nmの重合体小粒子と、・・重合体大粒子と・・を含」む「複合粒子であって、体積平均粒子径が1?100μmである」のに対して、甲1発明では「平均粒子径0.75μmの種粒子」を含む「平均粒子径3μmの樹脂粒子」である点
相違点a2:本件発明では「前記重合体小粒子が、前記重合体大粒子の表面に付着しており、前記水溶性セルロースが、前記重合体小粒子の表面に吸着している複合粒子」であるのに対して、甲1発明では「水性媒体中、分散剤を用いることなく、ポリオキシエチレン鎖を有さずかつアルキル基を有するアニオン性界面活性剤の存在下、・・重合性単量体と重合開始剤とを含む重合性混合物を・・種粒子に吸収させる工程と、水性媒体中、分散剤を用いることなく、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤の存在下、前記重合性単量体を重合させて樹脂粒子を得る工程とを含む製造方法により製造された・・樹脂粒子」である点

イ.検討
事案に鑑み、上記相違点a2につき検討すると、甲1発明では、種粒子に重合性組成物を吸収させてから重合に付しており、種粒子の分散ミセルの中で重合性組成物の重合が行われているから、重合性組成物からなる重合体は、種粒子と同一のミセル中で重合が進行し一体化した、例えばコアシェル型のような樹脂粒子が生成するものと認められる。
そして、甲1の記載を検討しても、上記重合性組成物からなる重合体粒子の表面に上記種粒子が付着した構造となることを認識し得る記載はない。
それに対して、本件発明は、大粒子の表面に小粒子が付着した構造を有するものであって、この点は本件の図面として添付された写真からも看取できる。
してみると、本件発明と甲1発明とは、重合体粒子の構造が異なることが明らかであり、上記相違点a2は実質的な相違点である。
さらに、他の甲号証の記載を検討しても、甲1発明の樹脂粒子につき、構造を変え、本件発明の複合粒子のような構造とすべきことを認識し得る事項も記載又は示唆されていない。
したがって、上記相違点a2につき、甲1発明において、当業者が適宜なし得ることであるとすることもできない。

ウ.小括
よって、上記相違点a1につき検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(2)甲2発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「真球状の重合体粒子」は、「シード重合用種粒子」と「モノマー混合物を重合させてなる」部分とを含むものである点で、本件発明における「重合体小粒子」と「重合体大粒子と」を含む「複合粒子」に一致するものと認められ、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点b1:本件発明では「粒子径20?500nmの重合体小粒子と、・・重合体大粒子と・・を含」む「複合粒子であって、体積平均粒子径が1?100μmである」のに対して、甲2発明では「平均粒子径1.1μmのシード重合用種粒子1重量部の存在下で、・・モノマー混合物の20?150重量部を・・重合させることにより得られた平均粒子径4.06μmの真球状の重合体粒子」である点
相違点b2:本件発明では「前記重合体小粒子が、前記重合体大粒子の表面に付着しており、前記水溶性セルロースが、前記重合体小粒子の表面に吸着している複合粒子」であるのに対して、甲2発明では「シード重合用種粒子1重量部の存在下で、水性媒体中、・・モノマー混合物の20?150重量部を当該種粒子に吸収させた後、重合させることにより得られた・・真球状の重合体粒子」である点

イ.検討
事案に鑑み、上記相違点b2につき検討すると、甲2発明では、シード重合用種粒子にモノマー混合物を吸収させてから重合に付しており、水性媒体中の種粒子の分散ミセルの中でモノマー混合物の重合が行われているから、モノマー混合物からなる重合体は、種粒子と同一のミセル中で重合が進行し一体化した、例えばコアシェル型のような樹脂粒子が生成するものと認められる。
そして、甲2の記載を検討しても、上記モノマー混合物からなる重合体粒子の表面に上記種粒子が付着した構造となることを認識し得る記載はない。
それに対して、本件発明は、上記(1)で説示したとおり、大粒子の表面に小粒子が付着した構造を有するものである。
してみると、本件発明と甲2発明とは、重合体粒子の構造が異なることが明らかであり、上記相違点b2は実質的な相違点である。
さらに、他の甲号証の記載を検討しても、甲2発明の重合体粒子につき、構造を変え、本件発明の複合粒子のような構造とすべきことを認識し得る事項も記載又は示唆されていない。
したがって、上記相違点b2につき、甲2発明において、当業者が適宜なし得ることであるとすることもできない。

ウ.小括
よって、上記相違点b1につき検討するまでもなく、本件発明は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲2に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(3)甲3発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「単分散重合体粒子」は、「種粒子」と「単量体を重合させてなる」部分とを含むものである点で、本件発明における「重合体小粒子」と「重合体大粒子と」を含む「複合粒子」に一致するものと認められ、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点c1:本件発明では「粒子径20?500nmの重合体小粒子と、・・重合体大粒子と・・を含」む「複合粒子であって、体積平均粒子径が1?100μmである」のに対して、甲3発明では「平均粒子径が1.50μmの種粒子に・・単量体を・・吸収させた後、前記単量体を重合させるシード重合法により製造された体積%分布において平均粒子径が8.0μmの単分散重合体粒子」である点
相違点c2:本件発明では「前記重合体小粒子が、前記重合体大粒子の表面に付着しており、前記水溶性セルロースが、前記重合体小粒子の表面に吸着している複合粒子」であるのに対して、甲2発明では「種粒子に・・単量体を前記種粒子1重量部に対して80重量部以上吸収させた後、前記単量体を重合させるシード重合法により製造された・・単分散重合体粒子」である点

イ.検討[TS23][Wユ24]
事案に鑑み、上記相違点c2につき検討すると、甲3発明では、種粒子に単量体を吸収させてから重合に付しており、水性媒体中の種粒子の分散ミセルの中でモノマー混合物の重合が行われているから、単量体からなる重合体は、種粒子と同一のミセル中で重合が進行し一体化した、例えばコアシェル型のような樹脂粒子が生成するものと認められる。
そして、甲3の記載を検討しても、上記単量体からなる重合体粒子の表面に上記種粒子が付着した構造となることを認識し得る記載はない。
それに対して、本件発明は、上記(1)で説示したとおり、大粒子の表面に小粒子が付着した構造を有するものである。
してみると、本件発明と甲3発明とは、重合体粒子の構造が異なることが明らかであり、上記相違点c2は実質的な相違点である。
さらに、他の甲号証の記載を検討しても、甲3発明の重合体粒子につき、構造を変え、本件発明の複合粒子のような構造とすべきことを認識し得る事項も記載又は示唆されていない。
したがって、上記相違点c2につき、甲3発明において、当業者が適宜なし得ることであるとすることもできない。

ウ.小括
よって、上記相違点c1につき検討するまでもなく、本件発明は、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲3に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(4)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明、すなわち、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないということはできない。

3.本件請求項2ないし11に係る発明についての検討
本件請求項2ないし11に係る発明について検討すると、本件請求項2ないし11は、いずれも本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであるところ、本件請求項1に係る発明、すなわち本件発明は、上記2.でそれぞれ説示したとおりの理由により、甲1ないし甲3に記載された各発明ではなく、甲1ないし甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもないから、請求項2ないし11に係る発明についても、甲1ないし甲3に記載された各発明ではなく、甲1ないし甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

4.取消理由1及び3に係るまとめ
よって、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、上記取消理由1及び3は、いずれも理由がない。

II.取消理由2について

1.検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、複合粒子及びその用途に係る本件の請求項1ないし11に係る発明の解決しようとする課題は、「(本件発明に係る)複合粒子、及び、この複合粒子の用途」の提供にあるものと認められる(【0011】)。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を更に検討すると、本件発明の複合粒子を製造するにあたっては、重合体小粒子の表面に水溶性セルロース類を十分に吸着させた上で、重合体大粒子を構成する水性懸濁重合に供されており(【0093】?【0103】参照)、そのような製造方法を採用することによって、粒子径20?500nmの重合体小粒子が重合体大粒子の表面に吸着し、水溶性セルロースが重合体小粒子の表面に吸着した構造の体積平均粒子径が1?100μmである複合粒子が構成されていることが認識できるものと認められる。
さらに、当該複合粒子の構造については、添付図面としての【図1】及び【図2】の各写真を参酌しても看取できるところである。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明であれば、上記課題を解決できるであろうことは、当業者が認識できるものと認められる。

2.申立人の主張について
申立人は、本件特許異議の申立書(第19?20頁)において、(a)複合粒子を構成する重合体小粒子の粒子径が不明確であること、(b)複合粒子としての水溶性セルロースの吸着の有無、吸着量及び吸着箇所の特定実証がないこと、(c)本件特許発明の実施例では、重合体小粒子に対する水溶性セルロースの吸着量として、極めて限られた場合が記載されているのみであり、請求項2の範 囲0.05?0.5gを外れた場合についての記載はなく、本発明の課題を解決する詳細な記載がなく不明確であること並びに(d)重合体大粒子を構成するモノマー種別による分散性や反応性の相違によりいかなる重合性モノマーの組合せによっても本件発明の課題が解決できるとはいえないことにより、本件の請求項1ないし11に係る発明は、発明の課題を解決できない範囲を含む旨主張している。
しかるに、上記(a)の点につき検討すると、重合体小粒子単独の粒子径は明確であるところ、本件発明では、重合体小粒子の表面に水溶性セルロース類を吸着させた上で、重合体大粒子の重合に供されているから、当該重合工程において重合体小粒子の粒子径が有意に変化するものと解することができないし、また、粒子径が変化するであろうとすべき技術的要因が存するものとも認められない。
よって、複合粒子における重合体小粒子の粒子径は、重合体小粒子そのものの粒子径であるといえる。
次に、上記(b)の点につき検討すると、本件発明の具体例である実施例では、[TS40][Wユ41]重合体小粒子の表面に水溶性セルロースを吸着させた上で、重合体大粒子の重合に供されており、当該重合工程において重合体小粒子に吸着した水溶性セルロースの量が変化するであろうとすべき技術的要因が存するものとは認められない。
また、上記(c)の点につき検討すると、水溶性セルロースの付着量が変化したからといって、本件発明の解決課題を解決できないとするべき技術的要因となる事項が存するものとは認められず、「0.05?0.5g」なる範囲を外れた場合に課題が解決できない場合が存することを、申立人は論証していない。
さらに、上記(d)の点につき検討すると、本件特許明細書の段落【0031】?【0046】には、本件発明の複合粒子を製造するための重合性ビニル系モノマーの具体例が記載され、重合体大粒子を構成するモノマー種別及びその組合せにより、いかなる場合に本件発明に係る複合粒子が構成できないのかの指針となる技術事項が存するものとは認められないし、申立人はいかなる場合に本件発明に係る複合粒子を構成できないかにつき、論証していない。
してみると、申立人が指摘する点はいずれも採用することができす、本件請求項1ないし11に係る発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項の範囲を超えているものと認めることはできない。
したがって、本件の請求項1ないし11の記載は、同各項に係る発明が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとまでいうことはできない。
よって、申立人が主張する取消理由2についても理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-02-25 
出願番号 特願2018-173415(P2018-173415)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08F)
P 1 651・ 537- Y (C08F)
P 1 651・ 113- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西山 義之  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
安田 周史
登録日 2020-02-14 
登録番号 特許第6661721号(P6661721)
権利者 積水化成品工業株式会社
発明の名称 複合粒子及びその用途  
代理人 山田 泰之  
代理人 安藤 達也  
代理人 特許業務法人あーく特許事務所  

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