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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D01F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D01F
管理番号 1371740
異議申立番号 異議2020-700869  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-13 
確定日 2021-03-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6693057号発明「ポリメチルペンテン繊維」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6693057号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6693057号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年7月1日を出願日とする特許出願であって、令和2年4月20日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:同年5月13日)がされ、令和2年11月13日に山川隆之(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。


第2.本件発明
特許第6693057号の請求項1?4の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
単糸繊度が3dtex以下、U%(Normal)が2.0未満であることを特徴とするポリメチルペンテン繊維。
【請求項2】
総繊度が500dtex以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリメチルペンテン繊維。
【請求項3】
強度が2.0cN/dtex以上であることを特徴する請求項1または2に記載のポリメチルペンテン繊維。
【請求項4】
伸度100%以下の原糸を延伸温度150?220℃で1.1?3.0倍延伸することを特徴とするポリメチルペンテン繊維の製造方法。」


第3.特許異議の申立理由の概要
申立人の主張する申立理由は、次のとおりである。
なお、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲第1号証等をそれぞれ「甲1」等といい、甲1等に記載された発明及び事項をそれぞれ「甲1発明」、「甲1記載事項」等という。

1.申立理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1?4は、甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、本件発明1?4に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2.申立理由2(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1?4は、特許請求の範囲の記載が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

3.申立理由3(特許法第36条第6項第1号)
本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

4.申立理由4(特許法第36条第4項第1号)
本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1?4を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

< 刊 行 物 一 覧 >
甲1:特開平11-323657号公報
甲2:特開2005-133250号公報
甲3:特開2011-174214号公報
甲4:特開2004-332186号公報
甲5:特開平5-186964号公報
甲6:特開2003-342852号公報


第4.当審の判断
1.申立理由1(特許法第29条第2項)について
(1)刊行物の記載
ア.甲1について
甲1には、以下の記載がある。
なお下線部は、当審が付した。以下同様。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維強度が2g/d以上、融点が210℃以上であり、かつ120℃?130℃の温度条件で分散染料で染色処理した後のL*が75以上であることを特徴とするポリメチルペンテン繊維。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、染色温度が120℃?130℃での分散染料による染色処理では実質的に染色されないポリメチルペンテン繊維とその製造技術に関し、さらにポリメチルペンテン繊維とそれ以外の2種類以上の繊維からなり、染色後にポリメチルペンテン繊維が実質的に白糸として存在する織編物に関する。」

(ウ)「【0014】次に、本発明のポリメチルペンテン繊維の製造方法は、通常の溶融紡糸法で得られた紡糸原糸を延伸前に自発伸長率0.5%以上になるように熱処理させ、その後に延伸しなければならない。自発伸長率が0.5%以上となるように自発伸長させないで延伸したポリメチルペンテン繊維は十分に配向結晶化することができていないためと思われるが、染色時に汚染が著しく、L*が75未満であったり、染色前後での色差△Eが10を越えてしまい、実質的に染色されて白糸として用いることができなくなる。」

(エ)「【0026】
【実施例】実施例1
市販のポリメチルペンテン(DX820:三井化学社製)を押出機を用いて300℃で溶融押出し、0.2mmx48ホールの丸孔ノズルより吐出し、1,000m/minの速度で巻き取りポリメチルペンテン繊維の紡糸原糸を得た。得られた原糸を図1のような延伸機を用いてローラーR1とローラーR2の間で自発伸長率0.7%となるように90℃のホットプレートHPを用いて自発伸長させた後に、ローラーR2とローラーR3の間で160℃のヒートチューブHTを用いて2.6倍に延伸した。得られた延伸糸の融点は234℃であり、繊維強度は2.9g/dであった。」

上記(ア)?(エ)によると、甲1には、次の甲1物発明が記載されている。
「繊維強度が2g/d以上である、ポリメチルペンテン繊維。」

甲1には、さらに以下の記載がある。
(オ)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項4】 ポリメチルペンテンを溶融紡糸するに際し、延伸前の紡糸原糸に自発伸長率が0.5%以上になるように熱処理を施し、次いで延伸を行うことを特徴とするポリメチルペンテン繊維の製造方法。」

(カ)「【0026】
【実施例】実施例1
市販のポリメチルペンテン(DX820:三井化学社製)を押出機を用いて300℃で溶融押出し、0.2mmx48ホールの丸孔ノズルより吐出し、1,000m/minの速度で巻き取りポリメチルペンテン繊維の紡糸原糸を得た。得られた原糸を図1のような延伸機を用いてローラーR1とローラーR2の間で自発伸長率0.7%となるように90℃のホットプレートHPを用いて自発伸長させた後に、ローラーR2とローラーR3の間で160℃のヒートチューブHTを用いて2.6倍に延伸した。得られた延伸糸の融点は234℃であり、繊維強度は2.9g/dであった。」

上記(ア)?(カ)の特に実施例1に注目すると、甲1には、次の甲1方法発明が記載されている。
「紡糸原糸に自発伸長率が0.5%以上になるように熱処理を施し、次いで延伸を行う、ポリメチルペンテン繊維の製造方法において、
紡糸原糸を延伸機を用いてローラーR1とローラーR2の間で自発伸長率0.7%となるように90℃のホットプレートHPを用いて自発伸長させた後に、ローラーR2とローラーR3の間で160℃のヒートチューブHTを用いて2.6倍に延伸した、ポリメチルペンテン繊維の製造方法。」

イ.甲2について
甲2には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞘成分がポリマーアロイからなる芯鞘複合繊維であって、ポリマーアロイ部分が難溶解性ポリマーが海、易溶解性ポリマーが島である海島構造を形成し、島全体に占める直径200nm以上の島の面積比が3%以下である芯鞘複合繊維。
・・・
【請求項4】
ウースター斑が0.1?5%である請求項1?3のうちいずれか1項記載の芯鞘複合繊維。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、島ポリマーが凝集した粗大ポリマー粒子をほとんど含まない分散均一性に優れたポリマーアロイを鞘成分とする芯鞘複合繊維に関するものである。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のポリマーブレンド繊維とは異なり、発色性、強度、形態安定性に優れた多孔性繊維を得るための、粗大なポリマー凝集粒子をほとんど含まない分散均一性に優れたポリマーアロイを鞘部とする芯鞘複合繊維を提供するものである。」

(エ)「【0021】
ところで、本発明の芯鞘複合繊維は・・・糸斑の小さな繊維が得られやすいという特徴を有する。糸斑はウースター斑(U%)で評価することが可能であるが、本発明ではU%を0.1?5%とすると、アパレルやインテリア、車両内装等の繊維製品にした際、染色斑が小さく品位の高い物が得られ好ましい。・・・」

(オ)「【0036】
D.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。」

(カ)「【0039】
H.発色性評価
得られたサンプルを常法にしたがい染色し、同条件で染色した比較サンプルとの発色性を比較した。比較サンプルはポリマーアロイ繊維の海ポリマーを単独で製糸したものを用いた。目視判定で、比較とほぼ同等の発色性が得られたものを合格(○)とし、それよりも劣るものを不合格とした(△、×)。」

(キ)「【0051】
参考例10
溶融粘度1370poise(280℃、剪断速度2432sec^(-1))、融点220℃のポリメチルペンテン(PMP)を常法にしたがい紡糸速度3000m/分で溶融紡糸し巻き取った。そして常法にしたがい90℃で予熱した後1.6倍で延伸し、130℃で熱処理した。得られたPTT単独糸は強度3.3cN/dtex、伸度40%であった。」

(ク)「【0126】
実施例18
PTTを参考例10のPMPとし、溶融温度を255℃として実施例13と同様に溶融混練、芯鞘複合紡糸を行ったところ、紡糸性は良好で24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。そして、第1ホットローラー温度13を90℃として、実施例1と同様に延伸・熱処理を行った。得られた芯鞘複合繊維横断面のポリマーアロイ部分をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、糸物性は表3に示すとおり優れたものであった。」

(ケ)「【0129】
【表3】



上記(ア)?(ケ)の特に参考例10及び実施例18に注目すると、甲2には、次の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「鞘成分がポリマーアロイからなる芯鞘複合繊維であって、ポリマーアロイ部分が難溶解性ポリマーが海、易溶解性ポリマーが島である海島構造を形成し、島全体に占める直径200nm以上の島の面積比が3%以下である芯鞘複合繊維において、芯ポリマーがポリメチルペンテン、鞘ポリマーがポリメチルペンテンからなり、ノーマルモードで測定したU%が1.9%である芯鞘複合繊維。」

(2)本件発明1
本件発明1と甲1物発明を対比すると、甲1物発明の「ポリメチルペンテン繊維」は、本件発明1の「ポリメチルペンテン繊維」に相当する。
よって、本件発明1と甲1物発明は、以下の点で一致している。
<一致点1>
「ポリメチルペンテン繊維。」

そして、本件発明1と甲1物発明は、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1は、「単糸繊度が3dtex以下、U%(Normal)が2.0未満である」のに対して、甲1物発明は、単糸繊度及びU%(Normal)が不明である点。

<相違点1>について検討する。
甲2記載事項は、上記(1)イ.(ウ)及び(カ)に摘記のとおり、染色後の発色性に優れた特定の芯鞘構造を持つ多孔性繊維としてのポリメチルペンテン繊維に関する技術である。
これに対して、甲1物発明は、上記(1)ア.(イ)及び(ウ)に摘記のとおり、染色されないポリメチルペンテン繊維に関する技術であるから、染色後の発色性を向上させるために採用される甲2記載事項、特に「ノーマルモードで測定したU%が1.9%」との事項について、甲1物発明に採用する動機付けがないし、甲2記載事項を適用することに阻害事由があるともいえる。
また、他の証拠をみても、甲1物発明のポリメチルペンテン繊維について、単糸繊度を3dtex以下、且つU%(Normal)を2.0未満とすることの根拠がない。
そして、本件発明1は、単糸繊度を3dtex以下、且つU%(Normal)を2.0未満とすることにより、「細繊度かつ太細ムラの少ないポリメチルペンテン繊維」(段落【0008】)であることから、「軽量かつ耐熱性に優れる衣料用繊維として好適に用いることができるポリメチルペンテン繊維を提供することができる。」(段落【0010】)という格別の効果を奏するものである。

よって、本件発明1は、甲1物発明、及び甲2記載事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)申立人の主張について
特許異議申立書における上記<相違点1>に関する申立人の主張は、要すると、「したがって、甲第1号証の実施例1?4に記載のポリメチルペンテン繊維の紡糸速度を、甲第2号証の記載に基づき紡糸速度を1500?4000m/分の範囲内にすることは当業者が容易になし得たことであり、これによりポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)が2.0未満になることも容易に予測し得たことである。仮にそうでなくとも、甲第2号証等の記載に基づき、甲第1号証の実施例1?4に記載のポリメチルペンテン繊維のU%を2.0未満にすることは、当業者が容易になし得たことである。」(異議申立書 3(4)ウ(イ)-5 相違点3の検討)というものである。

しかしながら、上記(2)で述べたとおり、甲1物発明には、甲2記載事項を適用することに動機付けがなく、阻害事由がある。
また、甲4には、
「【0036】
また、上記したポリマーアロイ繊維は粗大な凝集ポリマー粒子を含まないため紡糸が公知技術(特許文献1?4)よりも安定化し、糸斑の小さな繊維が得られやすいという特徴を有する。糸斑はウースター斑(U%)で評価することが可能であるが、本発明で利用するポリマーアロイ繊維ではU%を0.1?5%とすると、アパレルやインテリア、車輌内装等の繊維製品にした際、染色斑が小さく品位の高い物が得られ好ましい。U%はより好ましくは0.1?2%、さらに好ましくは0.1?1.5%である。また、特にアパレル用途で杢調を出す場合には、U%が3?10%の太細糸とすることもできる。」
と記載されているが、これは、
「【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のナノポーラスファイバーを構成するポリマーとしてはポリエステルやポリアミド、またポリオレフィンに代表される熱可塑性ポリマーやフェノール樹脂等のような熱硬化性ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルに代表される熱可塑性に乏しいポリマーや生体ポリマー等のことを言うが、熱可塑性ポリマーが成形性の点から好ましい。・・・」
等の記載があるのみで、ポリメチルペンテン繊維に関する記載はない。
さらに甲4には、
「【0004】
ところで、・・・繊維の発色性が著しく低下する問題があった。
【0005】
一方、・・・逆に発色性は著しく低下してしまう問題があった。・・・粗大孔による発色性低下の問題を解決できなかった。」
「【0058】
J.発色性評価
得られたサンプルを常法にしたがい染色し、同条件で染色した比較サンプルとの発色性を比較した。・・・」
等と記載されているから、甲4は、染色後の発色性に優れたナノポーラスファイバーに関する技術である。
そうすると、甲2記載事項と同様に、甲1物発明には、甲4に記載された事項を適用することに阻害事由がある。
よって、上記申立人の主張は、採用することができない。

(4)本件発明2及び3
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2及び3についても本件発明1と同様に、甲1物発明、及び甲2記載事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)本件発明4
本件発明4と甲1方法発明を対比すると、甲1方法発明の「紡糸原糸」、「延伸」、「ポリメチルペンテン繊維の製造方法」は、本件発明4の「原糸」、「延伸」、「ポリメチルペンテン繊維の製造方法」にそれぞれ相当する。
よって、本件発明4と甲1方法発明は、以下の点で一致している。
<一致点2>
「原糸を延伸するポリメチルペンテン繊維の製造方法。」

そして、本件発明4と甲1方法発明は、以下の点で相違している。
<相違点2>
原糸について、本件発明4は、「伸度100%以下の原糸」であるのに対して、甲1方法発明は、紡糸原糸の伸度が不明である点。

<相違点3>
延伸について、本件発明4は、「延伸温度150?220℃で1.1?3.0倍延伸する」のに対して、甲1方法発明は、延伸機を用いてローラーR1とローラーR2の間で自発伸長率0.7%となるように90℃のホットプレートHPを用いて自発伸長させた後に、ローラーR2とローラーR3の間で160℃のヒートチューブHTを用いて2.6倍に延伸する点。

<相違点2>について検討する。
まず、本件発明4における「伸度100%以下の原糸」は、本件特許の明細書段落【0025】によると、
「伸度が100%以下の原糸を得るには、溶融紡糸にて得られたポリメチルペンテン繊維を延伸する方法(以下、前延伸と呼ぶ)と、溶融紡糸時に紡糸速度を調整する方法(以下、高速紡糸と呼ぶ)がある。前延伸を行う場合には、溶融紡糸にて引き取ったポリメチルペンテン繊維を、延伸温度40?70℃で1.1?3.0倍延伸すればよい。高速紡糸を行う場合は、溶融紡糸にてポリメチルペンテン繊維を得る際に、紡糸速度1500?4000m/分で引き取りを行えばよい。」
とあるから、溶融紡糸後に前延伸又は高速紡糸によって伸長したものが「原糸」である。

一方、甲1には、以下の記載がある。
「【0014】次に、本発明のポリメチルペンテン繊維の製造方法は、通常の溶融紡糸法で得られた紡糸原糸を延伸前に自発伸長率0.5%以上になるように熱処理させ、その後に延伸しなければならない。自発伸長率が0.5%以上となるように自発伸長させないで延伸したポリメチルペンテン繊維は十分に配向結晶化することができていないためと思われるが、染色時に汚染が著しく、L*が75未満であったり、染色前後での色差△Eが10を越えてしまい、実質的に染色されて白糸として用いることができなくなる。」
上記記載によると、甲1方法発明は、通常の溶融紡糸法で得られた紡糸原糸、すなわち伸長していない原糸を、延伸前に自発伸長率0.5%以上になるように熱処理することを必須の構成とするものである。
そうすると、甲1方法発明は、溶融紡糸後に前延伸又は高速紡糸によって伸長したものを原糸とすることに阻害事由がある。
また、他の証拠をみても、甲1方法発明において紡糸原糸の伸度を100%以下とすることの根拠がない。
そして、本件発明4は、伸度100%以下の原糸とすることにより、「原糸の伸度を100%以下とすることで、得られるポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)の値が小さくなる効果が得られる」という格別の効果を奏するものである。

よって、<相違点3>について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1方法発明、及び甲2記載事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)申立人の主張について
特許異議申立書における上記<相違点2>に関する申立人の主張は、要すると、「したがって、甲第1号証の実施例1?4に記載のポリメチルペンテン繊維の紡糸速度を、甲第2号証の記載に基づき紡糸速度1500?4000m/分の範囲内に変更し、原糸の伸度を100%以下することは当業者が容易になし得たことである。」(異議申立書 3(4)ウ(ア)-5 相違点1の検討)というものである。

しかしながら、上記(4)で述べたとおり、甲1方法発明には、溶融紡糸後に前延伸又は高速紡糸によって伸長したものを原糸とすることに阻害事由がある。
よって、上記申立人の主張は、採用することができない。

(7)小括
以上のとおり、本件発明1?4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。


2.申立理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1について
請求項1の「単糸繊度が3dtex以下」との記載は、文言上、0dtexを含む記載となっている。
しかしながら、単糸繊度が0dtexの繊維は、糸として成立し得ないことは技術的に明らかであるから、「単糸繊度が3dtex以下」の範囲に0dtexが実質的に含まれていないことは明らかである。
そして、本件特許の明細書には以下の記載がある。
「【0011】
本発明のポリメチルペンテン繊維は、単糸繊度が3dtex以下であることを特徴としている。ポリメチルペンテン繊維の単糸繊度が3dtex以下であれば、衣料用途として用いる際に繊維の柔軟性を損なうことがない。繊維の柔軟性の観点では単糸繊度は細いほど良いが、繊維の工程通過性や耐久性を考えた場合には、ポリメチルペンテン繊維の単糸繊度は0.3dtex以上であることが好ましい。・・・」
上記記載に触れた当業者であれば、請求項1の「単糸繊度が3dtex以下」は、単糸繊度が3dtex以下であって細いほどよいという程度のことを意味するものであることが理解できる。
よって、請求項1の記載は、明確である。

(2)請求項2について
請求項2の「総繊度が500dtex以下」との記載は、文言上、0dtexを含む記載となっている。
しかしながら、総繊度が0dtexの繊維は、糸として成立し得ないことは技術的に明らかであるから、「総繊度が500dtex以下」の範囲に0dtexが実質的に含まれていないことは明らかである。
そして、本件特許の明細書には以下の記載がある。
「【0012】
本発明のポリメチルペンテン繊維は、総繊度が500dtex以下であることが好ましい。ポリメチルペンテン繊維の総繊度が500dtex以下であれば、衣料用途として用いる際に繊維の柔軟性を損なうことがない。繊維の柔軟性の観点では総繊度は細いほど良いが、繊維の工程通過性や耐久性を考えた場合には、ポリメチルペンテン繊維の総繊度は10dtex以上であることが好ましい。すなわち、本発明のポリメチルペンテン繊維の総繊度は10?500dtexの範囲であることが好ましく、20?400dtexがより好ましく、30?300dtexであることがさらに好ましい。」
上記記載に触れた当業者であれば、請求項2の「総繊度が500dtex以下」は、総繊度が500dtex以下であって細いほどよいという程度のことを意味するものであることが理解できる。
よって、請求項2の記載は、明確である。

(3)請求項3について
請求項3の「強度が2.0cN/dtex以上」との記載は、文言上、無限大の強度を含む記載となっている。
しかしながら、強度を無限大とすることが不可能であることは技術的に明らかであるから、「強度が2.0cN/dtex以上」の範囲には、実質的に技術的な上限があることは明らかである。
そして、本件特許の明細書には以下の記載がある。
「【0015】
本発明のポリメチルペンテン繊維の強度は2.0cN/dtex以上であることが好ましい。ポリメチルペンテン繊維の強度は、機械的特性の観点から高ければ高いほど好ましいが、実情としては6.0cN/dtexよりも高い強度とすることは困難である。ポリメチルペンテン繊維の強度が2.0cN/dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、耐久性に優れるため好ましい。強度は2.5cN/dtex以上であることがより好ましく、3.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。」
上記記載に触れた当業者であれば、請求項3の「強度が2.0cN/dtex以上」は、技術的に可能な範囲の中で、強度が2.0cN/dtex以上であって高いほどよいという程度のことを意味するものであることが理解できる。
よって、請求項3の記載は、明確である。

(4)請求項4について
ア.請求項4の「伸度100%以下の原糸を延伸温度150?220℃で1.1?3.0倍延伸すること」なる記載は、原糸として伸度100%以下のものを用いること、及び延伸温度150?220℃、1.1?3.0倍延伸という条件で延伸することを意味するものであることが明確である。
よって、請求項4の記載は、明確である。

イ.申立人は、特許異議申立書において以下のように主張している。
「・・・これらの比較例1および4に記載の製造方法は、本件請求項4の要件を全て満たすにもかかわらず、比較例1および4は実施例ではなく比較例とされており、本件請求項4中の上記規定と矛盾する。・・・」(異議申立書 3(4)エ(ア)-4 請求項4について)

しかしながら、上記ア.で述べたとおり、請求項4はその記載自体から明確であって、比較例1及び4が比較例とされているからといって、請求項4の原糸及び延伸条件が不明確となるものではない。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(5)小括
以上のとおり、本件特許の請求項1?4の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているから、その特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。


3.申立理由3(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1が解決しようとする課題は、「衣料用繊維として好適に用いることができる細繊度かつ太細ムラの少ないポリメチルペンテン繊維を提供すること」(段落【0008】)である。

イ.上記課題を解決する手段について、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、伸度100%以下の原糸を延伸温度150?220℃で1.1?3.0倍延伸することによって得られる単糸繊度3dtex以下かつU%(Normal)が2.0未満であることを特徴とするポリメチルペンテン繊維によって解決することができる。」
「【0011】
本発明のポリメチルペンテン繊維は、単糸繊度が3dtex以下であることを特徴としている。ポリメチルペンテン繊維の単糸繊度が3dtex以下であれば、衣料用途として用いる際に繊維の柔軟性を損なうことがない。繊維の柔軟性の観点では単糸繊度は細いほど良いが、繊維の工程通過性や耐久性を考えた場合には、ポリメチルペンテン繊維の単糸繊度は0.3dtex以上であることが好ましい。すなわち、本発明のポリメチルペンテン繊維の単糸繊度は0.3?3dtexの範囲であることが好ましく、0.4?2.5dtexがより好ましく、0.5?2.0dtexであることがさらに好ましい。」
「【0014】
本発明のポリメチルペンテン繊維は、繊維の太さのムラを表す指標であるU%(Normal)が2.0%未満であることを特徴としている。U%は実施例に記載されている方法によって算出された値である。ポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)が2.0%未満であれば、繊維を衣料用途として用いた場合の工程通過性が良く、外観上の均一性を保つことができる。U%(Normal)は小さいほどよく、工程通過性、外観上の均一性をより高める。」
上記記載によれば、単糸繊度が3dtex以下で細いほど衣料用途として用いる際の柔軟性という課題が解決できること、及びU%(Normal)が2.0%未満で小さいほど外観上の均一性すなわち太細ムラが少ないという課題が解決できることが理解できる。

ウ.そして、本件発明1には、上記イ.で述べた「単糸繊度が3dtex以下」及び「U%(Normal)が2.0%未満」という課題解決手段が反映されている。
よって、本件発明1は、上記課題を解決できるものであって、発明の詳細な説明に記載した発明である。

エ.申立人の特許異議申立書「3(4)エ(イ)-1 請求項1について」における主張について検討する。
(ア)「・・・ここで、本願特許の発明の詳細な説明には、単糸繊度の小さいポリメチルペンテン繊維をどのようにして得ることができるかについて具体的な記載はない。したがって、本件明細書には、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「1.0?2.9dtex」よりも小さい単糸繊度を有するポリメチルペンテン繊維をどのようにして得ることができるかについて具体的な記載がないといえる。」

上記主張について検討すると、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0043】
[実施例3?5、比較例1]
溶融紡糸時の吐出量を変更し、ポリメチルペンテン繊維の総繊度と単糸繊度を変更した他は、実施例1と同様にしてポリメチルペンテン繊維を得た。ポリメチルペンテン繊維とポリメチルペンテン織物の評価結果を表1に示す。」
上記記載によれば、溶融紡糸時の吐出量を変更することによってポリメチルペンテン繊維の単糸繊度を変更することができると理解できる。
そうすると、当業者であれば、溶融紡糸時の吐出量の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「1.0?2.9dtex」よりも小さい単糸繊度を有するポリメチルペンテン繊維が得られることが理解できる。

(イ)「また、本件明細書の段落[0011]の記載「繊維の柔軟性の観点では単糸繊度は細いほど良いが、繊維の工程通過性や耐久性を考えた場合には、ポリメチルペンテン繊維の単糸繊度は0.3dtex以上であることが好ましい。」にあるように、繊維には一定の工程通過性や耐久性も求められていることにも留意する必要がある。これを考慮すると、単糸繊度が限りなく0に近い場合でも、繊維の工程通過性や耐久性を損なうことなく本件発明の課題を解決できるかどうか疑問の余地がある。」

上記主張について検討すると、本件発明1が解決すべき課題は、上記ア.に示したように、「衣料用繊維として好適に用いることができる細繊度かつ太細ムラの少ないポリメチルペンテン繊維を提供すること」であって、「繊維の工程通過性や耐久性を損なうことなく」は、本件発明1が解決すべき課題とはされていない。

(ウ)「一方、U%(Normal)についてみると、本件明細書の段落[0027]には、・・・が示されてはいる。ただ、本件明細書には、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「1.1?1.9%」よりも小さいU%(Normal)を有するポリメチルペンテン繊維をどのようにして得ることができるかについて具体的な記載はない。・・・」

上記主張について検討すると、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0024】
次に、本発明のポリメチルペンテン繊維の製造方法について説明する。・・・原糸の伸度を100%以下とすることで、得られるポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)の値が小さくなる効果が得られる他、延伸時の工程通過性が向上する。・・・」
「【0027】
本発明の製造方法では、延伸温度が150?220℃の範囲であることを特徴としている。・・・また、U%(Normal)を3%未満とすることができ、毛羽の発生も抑制される。延伸温度が150℃未満である場合、十分に延伸することができないため強度が低下する他、延伸が不均一となりU%(Normal)が大きくなる。延伸温度が220℃よりも高温となった場合には、延伸時の張力が低下して延伸が不均一となり、U%(Normal)が大きくなる。・・・」
「【0029】
本発明の製造方法では、延伸倍率が1.1?3.0倍の範囲であることを特徴としている。・・・延伸倍率が3.0倍以下であれば、延伸が安定するためU%(Normal)を3.0%未満とすることができ、かつ毛羽の発生を抑制することができる。・・・」
上記記載によれば、原糸の伸度を100%以下、延伸温度を150?220℃、延伸倍率を3.0倍以下とすることでU%(Normal)の値が小さくなることが理解できる。
そうすると、当業者であれば、原糸の伸度、延伸温度、延伸倍率の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「1.1?1.9%」よりも小さいU%(Normal)を有するポリメチルペンテン繊維が得られることが理解できる。

(エ)以上のとおり、請求人の上記主張は、採用することができない。

(2)本件発明2について
ア.本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、課題解決手段が反映されており、上記課題を解決できるものである。
よって、本件発明2は、上記課題を解決できるものであって、発明の詳細な説明に記載した発明である。

イ.申立人の特許異議申立書「3(4)エ(イ)-2 請求項2について」における主張について検討する。
(ア)「・・・ここで、本願特許の発明の詳細な説明には、総繊度の小さいポリメチルペンテン繊維をどのようにして得ることができるかについて具体的な記載はない。したがって、本件明細書には、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「43?130dtex」よりも小さい総繊度を有するポリメチルペンテン繊維をどのようにして得ることができるかについて具体的な記載がないといえる。」

上記主張について検討すると、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0043】
[実施例3?5、比較例1]
溶融紡糸時の吐出量を変更し、ポリメチルペンテン繊維の総繊度と単糸繊度を変更した他は、実施例1と同様にしてポリメチルペンテン繊維を得た。ポリメチルペンテン繊維とポリメチルペンテン織物の評価結果を表1に示す。」
上記記載によれば、溶融紡糸時の吐出量を変更することによってポリメチルペンテン繊維の総繊度を変更することができると理解できる。
そうすると、当業者であれば、溶融紡糸時の吐出量の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「43?130dtex」よりも小さい総繊度を有するポリメチルペンテン繊維が得られることが理解できる。

(イ)「また、本件明細書の段落[0012]の記載「繊維の柔軟性の観点では総繊度は細いほど良いが、繊維の工程通過性や耐久性を考えた場合には、ポリメチルペンテン繊維の総繊度は10dtex以上であることが好ましい。」にあるように、繊維には一定の工程通過性や耐久性も求められていることにも留意する必要がある。これを考慮すると、総繊度が限りなく0に近い場合でも、繊維の工程通過性や耐久性を損なうことなく本件発明の課題を解決できるかどうか疑問の余地がある。・・・」

上記主張について検討すると、本件発明2が解決すべき課題は、上記ア.に示したように、「衣料用繊維として好適に用いることができる細繊度かつ太細ムラの少ないポリメチルペンテン繊維を提供すること」であって、「繊維の工程通過性や耐久性を損なうことなく」は、本件発明2が解決すべき課題とはされていない。

(ウ)以上のとおり、請求人の上記主張は、採用することができない。

(3)本件発明3について
ア.本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、課題解決手段が反映されており、上記課題を解決できるものである。
よって、本件発明3は、上記課題を解決できるものであって、発明の詳細な説明に記載した発明である。

イ.申立人の特許異議申立書「3(4)エ(イ)-3 請求項3について」における主張について検討する。
(ア)「・・・ただ、本件明細書には、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「2.2?3.7cN/dtex」よりも高い強度を有するポリメチルペンテン繊維をどのようにして得ることができるかについて具体的な記載はない。それどころか、上記(ア)(ア)-3で上述したように、本件明細書の段落[0015]には、ポリメチルペンテン繊維の強度を6.0cN/dtexよりも高くすることは困難であるとの記載がある。・・・」

上記主張について検討すると、上記2.(3)で述べたとおり、本件発明3の「強度が2.0cN/dtex以上」は、技術的に可能な範囲の中で、強度が2.0cN/dtex以上であって高いほどよいという程度のことを意味するものである。
そして、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0027】
本発明の製造方法では、延伸温度が150?220℃の範囲であることを特徴としている。延伸温度を該範囲とすることで、ポリメチルペンテン繊維を原糸の伸度以上に延伸することが可能となり、強度が向上する。・・・延伸温度が150℃未満である場合、十分に延伸することができないため強度が低下する他、延伸が不均一となりU%(Normal)が大きくなる。・・・」
「【0029】
本発明の製造方法では、延伸倍率が1.1?3.0倍の範囲であることを特徴としている。延伸倍率が1.1倍以上であれば強度を2cN/dtex以上とすることができ、延伸倍率が3.0倍以下であれば、延伸が安定するためU%(Normal)を3.0%未満とすることができ、かつ毛羽の発生を抑制することができる。・・・」
上記記載によれば、延伸温度を150?220℃、延伸倍率を1.1倍以上とすることによってポリメチルペンテン繊維の強度を大きくすることができると理解できる。
そうすると、当業者であれば、延伸温度及び延伸倍率の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「2.2?3.7cN/dtex」よりも高い強度を有するポリメチルペンテン繊維を得ることが技術的に可能であると理解できる。

(イ)よって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(4)本件発明4について
ア.本件発明4が解決しようとする課題は、「衣料用繊維として好適に用いることができる細繊度かつ太細ムラの少ないポリメチルペンテン繊維を提供すること」(段落【0008】)である。

イ.上記課題を解決する手段について、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0024】
次に、本発明のポリメチルペンテン繊維の製造方法について説明する。本発明の製造方法では、延伸に供する原糸の伸度が100%以下であることを特徴としている。原糸の伸度を100%以下とすることで、得られるポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)の値が小さくなる効果が得られる他、延伸時の工程通過性が向上する。・・・」
「【0027】
本発明の製造方法では、延伸温度が150?220℃の範囲であることを特徴としている。・・・また、U%(Normal)を3%未満とすることができ、毛羽の発生も抑制される。延伸温度が150℃未満である場合、十分に延伸することができないため強度が低下する他、延伸が不均一となりU%(Normal)が大きくなる。延伸温度が220℃よりも高温となった場合には、延伸時の張力が低下して延伸が不均一となり、U%(Normal)が大きくなる。・・・」
「【0029】
本発明の製造方法では、延伸倍率が1.1?3.0倍の範囲であることを特徴としている。延伸倍率が1.1倍以上であれば強度を2cN/dtex以上とすることができ、延伸倍率が3.0倍以下であれば、延伸が安定するためU%(Normal)を3.0%未満とすることができ、かつ毛羽の発生を抑制することができる。・・・」
上記記載によれば、原糸の伸度を100%以下、延伸温度を150?220℃、延伸倍率を1.1?3.0倍とすることで、U%(Normal)の値を小さくできるから、外観上の均一性すなわち太細ムラが少ないという課題は解決できることが理解できる。

ウ.そして、本件発明4には、上記イ.で述べた原糸の伸度を100%以下、延伸温度を150?220℃、延伸倍率を1.1?3.0倍とするという課題解決手段が反映されている。
よって、本件発明4は、太細ムラが少ないという課題を解決できるものであって、発明の詳細な説明に記載した発明である。

エ.申立人の特許異議申立書「3(4)エ(イ)-4 請求項4について」における主張について検討する。
(ア)「・・・しかし、上記(ア)(ア)-4で上述したように、比較例1および4に記載の製造方法は、本件請求項4の要件を全て満たすにもかかわらず、比較例1および4は本件請求項1の要件を満たさない。
・・・比較例1で得られるポリメチルペンテン繊維の単糸繊度(4.2dtex)は、本件請求項1で規定する単糸繊度の範囲外にある。
・・・比較例4で得られるポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)(5.2dtex)は、本件請求項1で規定する単糸繊度の範囲外にある。なお、比較例4で得られるポリメチルペンテン繊維の総繊度(516dtex)は、本件請求項2で規定する単糸繊度の範囲外でもある。
これらのことから、本件請求項4に係る発明の中に、本件発明の課題を解決できない発明が包含されていることは明らかである。
そうすると、実施例1?7、9?14、17および18以外の場合に、どのようにして本件請求項1の要件を満たすポリメチルペンテン繊維を製造できるのか、当業者といえども理解することができず、本件請求項4に記載された発明の範囲にまで、これらの実施例に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは到底いえない。・・・」

上記主張は、本件発明4とは別の独立請求項である本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2と実施例、比較例の関連を根拠とするものであるから、請求項4の記載に基づかない主張であり、採用することができない。

(イ)よって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1?4は、本件発明の課題を解決できるものであって発明の詳細な説明に記載した発明であり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。


4.申立理由4(特許法第36条第4項第1号)について
(1)本件発明1について
ア.本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0043】
[実施例3?5、比較例1]
溶融紡糸時の吐出量を変更し、ポリメチルペンテン繊維の総繊度と単糸繊度を変更した他は、実施例1と同様にしてポリメチルペンテン繊維を得た。ポリメチルペンテン繊維とポリメチルペンテン織物の評価結果を表1に示す。」
上記記載によれば、溶融紡糸時の吐出量を変更することによってポリメチルペンテン繊維の単糸繊度を変更することができると理解できる。
そうすると、当業者であれば、溶融紡糸時の吐出量の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「1.0?2.9dtex」よりも小さい単糸繊度を有するポリメチルペンテン繊維が得られることが理解できる。

イ.また、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0024】
次に、本発明のポリメチルペンテン繊維の製造方法について説明する。・・・原糸の伸度を100%以下とすることで、得られるポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)の値が小さくなる効果が得られる他、延伸時の工程通過性が向上する。・・・」
「【0027】
本発明の製造方法では、延伸温度が150?220℃の範囲であることを特徴としている。・・・また、U%(Normal)を3%未満とすることができ、毛羽の発生も抑制される。延伸温度が150℃未満である場合、十分に延伸することができないため強度が低下する他、延伸が不均一となりU%(Normal)が大きくなる。延伸温度が220℃よりも高温となった場合には、延伸時の張力が低下して延伸が不均一となり、U%(Normal)が大きくなる。・・・」
「【0029】
本発明の製造方法では、延伸倍率が1.1?3.0倍の範囲であることを特徴としている。・・・延伸倍率が3.0倍以下であれば、延伸が安定するためU%(Normal)を3.0%未満とすることができ、かつ毛羽の発生を抑制することができる。・・・」
上記記載によれば、原糸の伸度を100%以下、延伸温度を150?220℃、延伸倍率を3.0倍以下とすることでU%(Normal)の値が小さくなることが理解できる。
そうすると、当業者であれば、原糸の伸度、延伸温度、延伸倍率の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「1.1?1.9%」よりも小さいU%(Normal)を有するポリメチルペンテン繊維が得られることが理解できる。

ウ.よって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載と技術常識を勘案すれば、本件発明1を実施可能であるといえる。

(2)本件発明2について
本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0043】
[実施例3?5、比較例1]
溶融紡糸時の吐出量を変更し、ポリメチルペンテン繊維の総繊度と単糸繊度を変更した他は、実施例1と同様にしてポリメチルペンテン繊維を得た。ポリメチルペンテン繊維とポリメチルペンテン織物の評価結果を表1に示す。」
上記記載によれば、溶融紡糸時の吐出量を変更することによってポリメチルペンテン繊維の総繊度を変更することができると理解できる。
そうすると、当業者であれば、溶融紡糸時の吐出量の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「43?130dtex」よりも小さい総繊度を有するポリメチルペンテン繊維が得られることが理解できる。
よって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載と技術常識を勘案すれば、本件発明2を実施可能であるといえる。

(3)本件発明3について
上記2.(3)で述べたとおり、本件発明3の「強度が2.0cN/dtex以上」は、技術的に可能な範囲の中で、強度が2.0cN/dtex以上であって高いほどよいという程度のことを意味するものである。
そして、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0027】
本発明の製造方法では、延伸温度が150?220℃の範囲であることを特徴としている。延伸温度を該範囲とすることで、ポリメチルペンテン繊維を原糸の伸度以上に延伸することが可能となり、強度が向上する。・・・延伸温度が150℃未満である場合、十分に延伸することができないため強度が低下する他、延伸が不均一となりU%(Normal)が大きくなる。・・・」
「【0029】
本発明の製造方法では、延伸倍率が1.1?3.0倍の範囲であることを特徴としている。延伸倍率が1.1倍以上であれば強度を2cN/dtex以上とすることができ、延伸倍率が3.0倍以下であれば、延伸が安定するためU%(Normal)を3.0%未満とすることができ、かつ毛羽の発生を抑制することができる。・・・」
上記記載によれば、延伸温度を150?220℃、延伸倍率を1.1倍以上とすることによってポリメチルペンテン繊維の強度を大きくすることができると理解できる。
そうすると、当業者であれば、延伸温度及び延伸倍率の設定によって、実施例1?7、9?14、17および18に示されている「2.2?3.7cN/dtex」よりも高い強度を有するポリメチルペンテン繊維を得ることが技術的に可能であると理解できる。
よって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載と技術常識を勘案すれば、本件発明3を実施可能であるといえる。

(4)本件発明4について
ア.本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0025】
伸度が100%以下の原糸を得るには、溶融紡糸にて得られたポリメチルペンテン繊維を延伸する方法(以下、前延伸と呼ぶ)と、溶融紡糸時に紡糸速度を調整する方法(以下、高速紡糸と呼ぶ)がある。前延伸を行う場合には、溶融紡糸にて引き取ったポリメチルペンテン繊維を、延伸温度40?70℃で1.1?3.0倍延伸すればよい。高速紡糸を行う場合は、溶融紡糸にてポリメチルペンテン繊維を得る際に、紡糸速度1500?4000m/分で引き取りを行えばよい。・・・」
上記記載に接した当業者であれば、本件発明4の「伸度100%以下の原糸」を実施することが可能である。
また、本件発明4の「延伸温度150?220℃で1.1?3.0倍延伸すること」は、延伸条件の設定であるから、当業者であれば実施可能であることが明らかである。
よって、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載と技術常識を勘案すれば、本件発明4を実施可能であるといえる。

イ.申立人の特許異議申立書「3(4)エ(ウ)-4 請求項4について」における主張について検討する。
(ア)「・・・一方、上記(イ)(イ)-4で上述したように、・・・比較例1で得られるポリメチルペンテン繊維の単糸繊度(4.2dtex)は、本件請求項1で規定する単糸繊度の範囲外にある。・・・
また、実施例13と比較例4は、・・・比較例4で得られるポリメチルペンテン繊維のU%(Normal)は、本件請求項1で規定する単糸繊度の範囲外にある。・・・」

上記主張は、本件発明4とは別の独立請求項である本件発明1と実施例、比較例の関連を根拠とするものであるから、請求項4の記載に基づかない主張であり、採用することができない。

(イ)よって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1?4が実施可能であることは、発明の詳細な説明の記載、及び技術常識から明らかであり、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。


第5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-02-24 
出願番号 特願2015-132519(P2015-132519)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (D01F)
P 1 651・ 537- Y (D01F)
P 1 651・ 121- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 相田 元  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
村山 達也
登録日 2020-04-20 
登録番号 特許第6693057号(P6693057)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ポリメチルペンテン繊維  

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