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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1371971
審判番号 不服2019-12890  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-27 
確定日 2021-03-10 
事件の表示 特願2014-225362「光学結像装置及び顕微鏡検査用の結像方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月18日出願公開、特開2015-111259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月5日(パリ条約による優先権主張 2013年11月6日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成27年 1月20日 :手続補正書の提出
平成30年 9月10日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月15日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 5月17日付け:拒絶査定(原査定)
令和 元年 9月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 4月14日 :上申書の提出

第2 令和元年9月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年9月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。

「【請求項1】
顕微鏡対物レンズ(105)と、前記顕微鏡対物レンズ(105)を使用して物体を画像記録装置(104)の結像平面(107.1)上に結像させるよう構成される、光学結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置と、を備える光学結像系であって、
前記光学ズーム装置は、光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記顕微鏡対物レンズ(105)の対物レンズ出口に、光学接続するための物体側のズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)と、前記画像記録装置(104)における画像記録入口に光学接続するための像側のズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)を含み、該望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)は、負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)と、結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)を含み、
前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)は、前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)の複数の光学素子群のうち、前記画像記録装置(104)における前記結像平面(107.1)に最も近接する光学素子群として、前記ズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)に配置され、更に、
前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)は、前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)の物体側に配置されている光学結像系において、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記ズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)に配置され、かつ正の屈折力を有する第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)を含み、該第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)が、前記光学ズーム装置内において、前記第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)間の不変の位置に、中間実像(111; 211; 311; 411; 511; 611; 711)を生成するよう構成され、
前記第1光学素子群及び前記第2光学素子群は、結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置され、
前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み、該第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記第3光学素子群(508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(508.2; 608.2; 708.2)間に配置され、
前記中間実像(511; 611; 711)は、少なくとも二次の軸上色収差を有し、更に、
第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記中間実像(511; 611; 711)の少なくとも二次の軸上色収差に関して、少なくとも部分的な補正をするよう構成されていることを特徴とする光学結像系。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成31年3月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、5、7の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
顕微鏡対物レンズ(105)と、前記顕微鏡対物レンズ(105)を使用して物体を画像記録装置(104)の結像平面(107.1)上に結像させるよう構成される、光学結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置と、を備える光学結像系であって、
前記光学ズーム装置は、光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記顕微鏡対物レンズ(105)の対物レンズ出口に、光学接続するための物体側のズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)と、前記画像記録装置(104)における画像記録入口に光学接続するための像側のズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)を含み、該望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)は、負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)と、結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)を含み、
前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)は、前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)の複数の光学素子群のうち、前記画像記録装置(104)における前記結像平面(107.1)に最も近接する光学素子群として、前記ズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)に配置され、更に、
前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)は、前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)の物体側に配置されている光学結像系において、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記ズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)に配置され、かつ正の屈折力を有する第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)を含み、該第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)が、前記光学ズーム装置内において、前記第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)間の不変の位置に、中間実像(111; 211; 311; 411; 511; 611; 711)を生成するよう構成され、
前記第1光学素子群及び前記第2光学素子群は、結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置されていることを特徴とする光学結像系。」

「【請求項5】
請求項1?4の何れか一項に記載の光学結像系であって、
前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み、該第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記第3光学素子群(508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(508.2; 608.2; 708.2)間に配置されている光学結像系。」

「【請求項7】
請求項5又は6に記載の光学結像系であって、
前記中間実像(511; 611; 711)は、少なくとも二次の軸上色収差を有し、更に、
第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記中間実像(511; 611; 711)に関して、少なくとも部分的な補正をするよう構成されている光学結像系。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1及び5を引用する請求項7に記載された発明を特定するために必要な事項である「第4光学素子群」について、中間実像(511; 611; 711)「の少なくとも二次の軸上色収差」に関して、少なくとも部分的な補正をするよう構成されていると限定するものであって、本件補正前の請求項1及び5を引用する請求項7に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
ア この出願の発明の詳細な説明には、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。
(ア)「【0007】
ウェハ検査との関連において、特許文献3には、高開口数(0.9よりも大きな開口数NA)を有し、かつ高度に拡大的な反射屈折性の顕微鏡対物レンズが既知である。この場合の対物レンズは、物体を無限遠に結像させ、その際の結像は広帯域、即ち広範囲の波長に亘って補正されている。この場合、一変形における顕微鏡対物レンズには、光学素子群が隣接し、その光学素子群によって先に中間像が生成され、その後に光が、再び平行化されて正の屈折力を有するズーム群に供給される。このズームシステムの問題点は、コンパクトな構成とした場合に、最大焦点距離が比較的小さく、従って比較的小さな最大拡大倍率(そのため、結像スケールの広がりも比較的小さい)しか実現できないことである。
【0008】
ウェハ検査との関連において、上述した特許文献4は、平坦化された像面を有し、高開口数(0.99までの開口数NA)で、高度に拡大的な反射屈折性の顕微鏡対物レンズを記載している。この場合の対物レンズは、物体を無限遠に結像し、その際の結像は広帯域、即ち広範囲の波長に亘って補正されている。その後、顕微鏡対物レンズの光ビームは、非テレセントリック光学チューブユニットにより、検出器上に高倍率で結像される。この点に関する一変形において、(非テレセントリックなビーム経路に配置された)検出器の位置の変化及びその後の収束により、約3x(倍率の変化は36x?100x)の広がりを有する結像スケールが生じる。これにより、ズーム可能で構成簡単な光学チューブユニットが実現されるが、システム全体の長さは、設定した倍率に大幅に依存することになる。
【0009】
特許文献4は更に、同一の広がり(倍率の変化は36x?100x)を有する他の一変形において、顕微鏡対物レンズのコリメータ出口を、ズーム可能な結像スケールで検出器上に結像させるズームシステムを記載している。この場合の一変形においては、望遠レンズの原理に従って構成される2個の部材より成るズームシステム又は望遠システムが示され、該システムは、結像スケールを変化させる、正の屈折力を有する物体側の素子群と、負の屈折力を有する像側の素子群を備える。この場合、両方の素子群を変位させることにより、ズームシステムにおいて一定の長さが達成される。
【0010】
この場合の問題点は、このような望遠システムの像面湾曲を代表するペッツバール和を補正できないことである。そのため、望遠システムにより、システム全体のペッツバール和が大幅に過補正されることになる。この効果は、よりコンパクトな構成に伴い及び/又は倍率の増加に伴い増大するものである。しかしながら多くの場合、顕微鏡対物レンズ及びズームシステム間における光学インターフェースは、収差がなく、かつ平行化して構成することが望ましい。従って、上述したような望遠システムでは、高倍率が有利に達成できるにも関わらず、コンパクトな構成とした場合に、所望かつ無収差の広帯域を容易には実現することができない。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した事情に鑑み、本発明の課題は、特にコンパクトな構成及び高倍率を実現した状態で、上述した欠点を全く示さないか又は少なくとも僅かにのみ示すと共に、広帯域で補正された結像を容易に可能にする、結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置、結像装置、光学ズーム方法及び顕微鏡検査用の結像方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ズームシステムが、正の屈折力を有し、かつ第1光学素子群及び第2光学素子群よりも物体側に配置された第3光学素子群を含めば、コンパクトな構成及び高倍率を実現した状態で、結像が広帯域で補正できるとの思想に基づくものである。この場合、第3光学素子群は、中間実像をズームシステム内に生成する。第3光学素子群により、ズームシステムにおけるペッツバール和が補正され、従って必要に応じてシステム全体におけるペッツバール和をゼロにするさえ可能になる。これにより、光学的に無収差及び/又は平行化された顕微鏡対物レンズへの光学接続が容易に可能になる。
【0014】
更に、この場合の第1及び第2光学素子群の設計により、大きな最大焦点距離が、コンパクトな構成で容易に可能になる。これにより、結像スケールに関して、高倍率及び大きな広がりを容易に実現することができる。」

(ウ)「【0027】
本発明の他の好適な変形において、光学素子アセンブリは、好適には正の屈折力を有する第4光学素子群を含む。この場合、第4光学素子群は、第3光学素子群及び第2光学素子群間に配置される。これにより、中間像をほぼ固定的に留めておくと共に、やはり第1及び/又は第2光学素子群によって、結像スケールを設定することが容易に可能になる。即ち、第3光学素子群及び/又は第4光学素子群は、顕微鏡対物レンズに対してほぼ一定の距離で、光学素子アセンブリにおける光軸に沿って配置しておくのが好適である。このように、これら変形における第4光学素子群により、システム瞳の結像が、結像の広がりを実現する第1及び/又は第2光学素子群で構成される実際のズームシステム内において保証される。
【0028】
原則として、この場合の中間像は、任意の箇所に配置することができる。好適には、中間像は、第3光学素子群及び第4光学素子群間に配置され、好適には、第4光学素子群に近接、特に第4光学素子群領域に配置される。
【0029】
上述したシステム瞳の結像に加えて、中間像の近傍に配置される第4光学素子群は、色収差の焦点変動に関して、二次スペクトルを補正する際に重要な機能を発揮し得る。従って、本発明における特定の変形において、顕微鏡対物レンズからの(必要に応じて)平行化された光ビームは、大きな軸上色収差を有する状態で中間像に結像される可能性があり、その結果、第4光学素子群上において、周辺光線のビーム高さが光の波長の関数として大きく異なる場合がある。
【0030】
他方では、軸上色収差に対するレンズ素子の全体的な補正の寄与度、レンズ素子の屈折力、利用する材料における分散性及び通過する光ビームにおける周辺光線高さの二乗に比例する。従って、中間像における大きな軸上色収差により、第4光学素子群における周辺光線高さの位置を波長に応じて大きく異ならせ、従ってシステム全体における軸上色収差に対する第4光学素子群の寄与度を、異なる波長で大幅に異ならせることができる。本発明の好適な変形において、この効果は、高次の色収差を補正するために、第4光学素子群における光学パラメータを適切に選択することによって有利に利用することができる。
【0031】
従って、本発明の好適な変形において、中間像は、顕著で特に高次の軸上色収差を有しし、また第4光学素子群は、中間像における軸上色収差の少なくとも部分的な補正、特にほぼ完全な補正のために構成される。」

イ 上記アの各記載によれば、本件補正発明の技術的意義は次のとおりであると認められる。
(ア)物体を無限遠に結像させ、その際の結像は広帯域、即ち広範囲の波長に亘って補正されている反射屈折性の顕微鏡対物レンズが既知であるところ、当該顕微鏡対物レンズに光学素子群が隣接し、その光学素子群によって先に中間像が生成され、その後に光が、再び平行化されて正の屈折力を有するズーム群に供給されるシステムがあった。しかし、このズームシステムは、コンパクトな構成とした場合に、最大焦点距離が比較的小さく、従って比較的小さな最大拡大倍率しか実現できないという問題があった。(【0007】)

また、高度に拡大的な反射屈折性の顕微鏡対物レンズのコリメータ出口を、ズーム可能な結像スケールで検出器上に結像させるズームシステムがあった。このズームシステムは、望遠レンズの原理に従って構成されるものであって、正の屈折力を有する物体側の素子群と、負の屈折力を有する像側の素子群を備えており、両方の素子群を変位させることによりズームシステムにおいて一定の長さが達成されるものである。しかし、このような望遠システムの像面湾曲を代表するペッツバール和を補正できないため、望遠システムにより、システム全体のペッツバール和が大幅に過補正されるという問題があり、この問題は、よりコンパクトな構成に伴い及び/又は倍率の増加に伴い増大する。顕微鏡対物レンズ及びズームシステム間における光学インターフェースは、収差がなく、かつ平行化して構成することが望ましいので、上述した望遠システムでは、高倍率化が有利に達成できるにも関わらず、コンパクトな構成とした場合に、所望かつ無収差の広帯域を容易には実現することができなかった。(【0008】?【0010】)

(イ)そこで、本件補正発明は、特にコンパクトな構成及び高倍率を実現した状態で、上述した欠点を全く示さないか又は少なくとも僅かにのみ示すと共に、広帯域で補正された結像を容易に可能にする、結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置、結像装置、光学ズーム方法及び顕微鏡検査用の結像方法を提供することを目的とする。(【0012】)

(ウ)本件補正発明は、ズームシステムが、正の屈折力を有し、かつ第1光学素子群及び第2光学素子群よりも物体側に配置された第3光学素子群を含んでいるので、コンパクトな構成及び高倍率を実現した状態で、結像が広帯域で補正できる。第3光学素子群は、中間実像をズームシステム内に生成する。第3光学素子群により、ズームシステムにおけるペッツバール和が補正され、従って必要に応じてシステム全体におけるペッツバール和をゼロにすることさえ可能になる。これにより、光学的に無収差及び/又は平行化された顕微鏡対物レンズへの光学接続が容易に可能になる。この場合の第1及び第2光学素子群の設計により、大きな最大焦点距離が、コンパクトな構成で容易に可能になるので、結像スケールに関して、高倍率及び大きな広がりを容易に実現することができる。(【0013】?【0014】)
さらに、本件補正発明は、正の屈折力を有し、第3光学素子群及び第2光学素子群間に配置される第4光学素子群を含んでいるので、中間像をほぼ固定的に留めておくと共に、システム瞳の結像が、結像の広がりを保証する第1及び/又は第2光学素子群で構成される実際のズームシステム内において保証される。加えて、中間像が大きな軸上色収差を有する状態で結像されるので、第4光学素子群における周辺光線高さの位置を波長に応じて大きく異ならせ、従って、システム全体における軸上色収差に対する第4光学素子群の寄与度を、異なる波長で大幅に異ならせることができ、よって、高次の色収差を補正することができる。(【0027】?【0031】)

ウ 判断
(ア)特許法第36条第4項第1号実施可能要件を定める趣旨は、発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。

そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。

したがって、この出願の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすというためには、本件補正発明の各構成要件を充足する光学結像系を、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に基づいて、当業者が製造し、使用することができる程度の記載が本願の発明の詳細な説明にあることを要するというべきである。

(イ)これを本件補正発明についてみると、本件補正発明は、ズーム入口に配置され、かつ正の屈折力を有する第3光学素子群を含み、前記光学ズーム装置内において、前記第3光学素子群及び第2光学素子群間の不変の位置に、中間実像を生成するように構成されている。
そして、このような第3光学素子群を設ける技術的意義は、上記イ(ウ)で認定したとおり、ズームシステムにおけるペッツバール和が補正され、従って必要に応じてシステム全体におけるペッツバール和をゼロにすることさえ可能にすることにある。しかしながら、仮に、第3光学素子群により、ペッツバール和が補正できるとしても、「光学結像系」として使用することができるためには、他の収差についてもバランスよく補正されていなければならないところ、本願明細書をみても、そのようにするために、具体的にどうすればよいのかについて何ら記載されていない。
さらに、本件補正発明は、正の屈折力を含む第4光学素子群を含み、該第4光学素子群は、前記第3光学素子群及び前記第2光学素子群間に配置され、前記中間実像は、少なくとも二次の軸上色収差を有し、更に、第4光学素子群は、前記中間実像の少なくとも二次の軸上色収差に関して、少なくとも部分的な補正をするよう構成されているところ、そのような補正をするために、具体的にどのように構成すればよいのかが、本願明細書には記載されていないし、それを措くとしても、上記と同様に、他の収差とのバランスをいかに図るのかについて、本願明細書には記載されていない。

(ウ)加えて、この出願の発明の詳細な説明には、実施例がなく、結像レンズ系の諸元データ(すべてのレンズの曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数)についても一切記載されていない。
すなわち、一般にレンズ系においては、すべてのレンズの曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数といった諸元データが特定されてはじめて光線を追跡でき、光線追跡によって結像性能の評価(ペッツバール和、軸上色収差をはじめとした諸収差の状態の評価)が可能になる。そして、この「結像性能の評価」によってはじめて技術的に意味のある(あるいは実際の使用に耐えうる)レンズ系であるか否かの評価が可能になることは技術常識である。そうすると、レンズ系が完成されたというためには、諸元データの開示が必要である。しかるに、この出願の発明の詳細な説明には、このような開示が一切無いのであるから、「完成されたレンズ系」すら開示されていない。

(エ)このように、この出願の発明の詳細な説明には、本件補正発明に係る結像光学系を製造し、使用することができる程度の記載に関して、一般的な指針となるものは存在せず、しかも、「完成されたレンズ系」が一切開示されていない。
以上によれば、当業者といえども、本件補正発明を実施するためには、過度の試行錯誤を要すると言わざるを得ない。
そうすると、結局、出願の発明の詳細な説明は、当業者が、この出願の請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

エ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、明細書の段落【0016】及び【0069】には、光学素子の材料が石英ガラス及び/又は蛍石であることが記載されるとともに、図10・図11等には、本願発明の一実施形態として、レンズの数、各レンズの厚み及び屈折力、並びに一対の光学面のそれぞれの形状が規定され、加えて、レンズ間の距離も明示されている旨主張する。
しかしながら、光学素子の材料の選択肢が限定的であるとしても、レンズの設計には、それ以外に多数の考慮要因があるから、これをもって、試行錯誤の程度が過度でなくなるとはいえない。
また、図10・図11等の記載は単なる模式図であって、当業者が、これらの図に記載されたレンズ系を再現できるとはいえないから、この図をもって、上記ウの認定判断を左右することはない。

(イ)審判請求人は、課題を解決するための本願発明の本質的な構成は、レンズ等の各光学素子の光学面についての諸元データではなく、あくまでも明細書に開示されているセットアップに基づく旨主張する。
しかしながら、上記ウ(ア)で説示したとおり、実施可能要件を満たすというためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要するというべきである。そして、同(イ)で説示したとおり、本願明細書は、過度の試行錯誤を要することなく、光学結像系として使用することができる程度の記載があるとはいえない。

オ 小括
以上のとおりであるから、この出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)進歩性(特許法第29条第2項)について
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1
a 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2012-252037号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(a)「【0011】
以上のような実情を踏まえて、本発明では、広い変倍範囲で収差が良好に補正されたコンパクトなズーム結像光学系及びズーム顕微鏡の技術を提供することを目的する。」

(b)「【0023】
ズーム顕微鏡100は、照明光路上に、照明光を射出する光源1と、照明光学系2と、視野絞り3と、ポラライザ4と、ハーフミラー5と、DICプリズム6と、対物レンズ7と、を含んでいる。また、ズーム顕微鏡100は、観察光路上に、結像レンズ10とズーム機能を有するリレーレンズ15(以降、ズームレンズと記す。)とを含むズーム結像光学系16を含んでいる。より詳細的には、ズーム顕微鏡100は、観察光路上に、上述した対物レンズ7、DICプリズム6、及びハーフミラー5に加えて、アナライザ9と、結像レンズ10と、ミラー11と、視野絞り12と、ズームレンズ15と、像面18に配置されたCCD17を含んでいる。なお、視野絞り3及び視野絞り12は、それぞれ標本面8と光学的に共役な位置に配置されている。」

(c)「【0026】
対物レンズ7は、照明光を標本面8に照射すると共に、標本面8からの観察光を平行光束として射出する無限遠補正型の対物レンズである。結像レンズ10は、対物レンズ7からの平行光束を集光して標本面8の一次像(中間像)を視野絞り12上に形成する。」

(d)「【0032】
ズームレンズ15は、中間像側(標本面8側)から順に、正のパワーを有する第1レンズ群と、正のパワーを有する可動群である第2レンズ群と、光軸方向に移動する開口絞り14と、正または負のパワーを有する可動群である第3レンズ群と、負のパワーを有する第4レンズ群と、を含んでいる。ズームレンズ15は、第2レンズ群と第3レンズ群が光軸方向に移動することにより、像面18に形成される像を変倍する。
【0033】
第1レンズ群及び第2レンズ群は、その正のパワーにより、第2レンズ群と第3レンズ群との間に、対物レンズ7の射出瞳位置と光学的に共役な位置(以降、瞳共役位置と記す。)を形成する。第1レンズ群は、中間像からの光束を収斂光束に変換するレンズ群であり、主に球面収差、色収差を補正する役割を担っている。一方、第2レンズ群は、その正のパワーにより、瞳収差を補正する。さらに、可動群である第2レンズ群は、光軸方向へ移動することで、変倍効果を発生させる役割も担っている。なお、第1レンズ群及び第2レンズ群のいずれかを負のパワーを有するレンズ群として構成すると、第2レンズ群と第3レンズ群との間に瞳共役位置を形成することが困難となる。」

(e)「【0052】
図2は、本実施例に係るズーム結像光学系の断面図であり、図2(a)は低倍端、図2(b)は中間、図2(c)は高倍端の状態を示している。図2に例示されるズーム結像光学系20は、図示しない無限遠補正型の対物レンズと組み合わせて用いられるズーム結像光学系であって、その対物レンズからの光束を集光して中間像を形成する結像レンズ21と、その中間像を像面に投影する、ズーム機能を有するズームレンズ22と、を含んでいる。
【0053】
結像レンズ21は、物体側(対物レンズ側)から順に、両凸レンズTL1と物体側に凹面を向けたメニスカスレンズTL2からなる接合レンズCTL1と、両凸レンズTL3と両凹レンズTL4からなる接合レンズCTL2とを含んでいる。
【0054】
ズームレンズ22は、結像レンズ21により形成される中間像側から順に、正のパワーを有する第1レンズ群G1と、正のパワーを有する可動群である第2レンズ群G2と、光軸方向に移動する開口絞りASと、正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4と、を含んでいる。ズームレンズ22は、第2レンズ群G2及び第3レンズ群G3の光軸方向への移動により、像面に形成される像を変倍する。
【0055】
第1レンズ群G1は、中間像側から順に、像側に凹面を向けたメニスカスレンズL1と両凸レンズL2からなる接合レンズCL1と、両凸レンズL3と両凹レンズL4からなる接合レンズCL2と、を含んでいる。
【0056】
第2レンズ群G2は、光軸方向に移動する可動群であり、中間像側から順に、像側に凹面を向けたメニスカスレンズL5と両凸レンズL6からなる接合レンズCL3を含んでいる。
【0057】
第3レンズ群G3は、光軸方向に移動する可動群であり、中間像側から順に、両凸レンズL7と物体側に凹面を向けたメニスカスレンズL8からなる接合レンズCL4を含んでいる。
【0058】
第4レンズ群G4は、中間像側から順に、両凹レンズL9と、両凸レンズL10と両凹レンズL11からなる接合レンズCL5と、像側に凹面を向けたメニスカスレンズL12と両凸レンズL13からなる接合レンズCL6と、両凸レンズL14と両凹レンズL15からなる接合レンズCL7と、を含んでいる。 本実施例に係るズーム結像光学系20の各種データについて記載する。なお、基準波長は、d線(587.56nm)である。」

(f)「【0060】
ここで、sは面番号を、rは曲率半径(mm)を、dは面間隔(mm)を、ndはd線に対する屈折率を、vdはアッベ数を示す。なお、面番号s1、s8、s18、s33が示す面は、それぞれ、対物レンズの射出瞳位置、一次像(中間像)位置、瞳共役位置、像面を示している。また、面間隔d1は、射出瞳位置(面番号s1)から結像レンズ21の対物レンズに最も近い第1面(面番号s2)までの距離を示している。面間隔d32は、ズームレンズ22の最終面(面番号s32)から像面(面番号s33)までの距離を示している。面間隔d14、d17、d18、d21は、ズームレンズ22の変倍動作に応じて変化する可変値D14、D17、D18、D21であり、それぞれ第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との距離、第2レンズ群G2と開口絞りASとの距離、開口絞りASと第3レンズ群G3との距離、第3レンズ群G3と第4レンズ群G3との距離を示している。
【0061】
また、図2(a)に例示される低倍端状態、図2(b)に例示される中間状態、図2(c)に例示される高倍端状態での結像レンズ21とズームレンズ22の合成焦点距離、即ち、ズーム結像光学系20の焦点距離(mm)と、それぞれの状態での可変部分の面間隔(mm)は、以下のとおりである。
ズーム結像光学系20の焦点距離と面間隔
状態 高倍端 中間 低倍端
焦点距離 -830.6 -145.8 -61.1
D14 2.424 43.530 83.838
D17 1.000 20.000 1.000
D18 1.000 20.450 1.157
D21 85.232 5.676 3.660」

(g)図1の記載から、対物レンズ7の出口側に、光学接続するための結像レンズ10の入口側と、CCD17の入口側に、光学接続するためのリレーレンズ15の出口側とを有することが、見て取れる。
また、図1及び図2の記載から、第4レンズ群G4は、像面s33に最も近接する光学素子群として、ズームレンズ22の出口側に配置され、第3レンズ群G3は、第4レンズ群の標本面8側に配置されていることが、見て取れる。
さらに、図2の記載から、一次像(中間像)位置を示している面番号s8は、結像レンズ21と第1レンズ群G1の間の不変の位置であることが、見て取れる。



b 上記aから、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。

「ズーム顕微鏡100は、対物レンズ7と、観察光路上に、結像レンズ10、21とズーム機能を有するリレーレンズ15(以降、ズームレンズと記す。)とを含むズーム結像光学系16と、像面に配置されたCCD17を含み、
対物レンズ7の出口側に、光学接続するための結像レンズ10、21の入口側と、CCD17の入口側に、光学接続するためのズームレンズの出口側とを有し、
ズームレンズは、中間像側(標本面側)から順に、正のパワーを有する第1レンズ群G1と、正のパワーを有する可動群である第2レンズ群G2と、光軸方向に移動する開口絞りと、正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4と、を含んでおり、
第4レンズ群G4は、像面に最も近接する光学素子群として、ズームレンズの出口側に配置され、第3レンズ群G3は、第4レンズ群G4の標本面側に配置され、
対物レンズからの平行光束を集光して標本面の一次像(中間像)を、結像レンズと第1レンズ群G1の間の不変の位置である視野絞り上に形成し、
面間隔d21は、ズームレンズの変倍動作に応じて変化する可変値D21であり、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4との距離を示しており、
第1レンズ群G1は、色収差を補正する役割を担っているズーム顕微鏡。」(以下「引用発明1」という。)

(イ)引用文献2
a 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2011-150299号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(a)「【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、広い波長域に亘り良好に収差補正が行われたズームレンズを備えることにより、可視域だけでなく、赤外域での観察にも対応可能な顕微鏡装置を提供することを目的とする。」

(b)「【0015】
上記構成を有するズームレンズ12(12a,12b)において、第1レンズ群G1及び第3レンズ群G3の少なくとも一方は、正の屈折力を持つ単レンズと、負の屈折力を持つ単レンズとからなる、全体として正の屈折力を持つ接合レンズを含み、前記正の屈折力を持つ接合レンズのうち少なくとも1枚は、該レンズを構成する前記正の屈折力を持つ単レンズの部分分散比をθCt1とし、前記負の屈折力を持つ単レンズの部分分散比をθCt2としたとき(但し、部分分散比θCtは、当該レンズの硝材のC線に対する屈折率をnCとし、t線に対する屈折率をntとし、F線に対する屈折率をnFとしたとき、 θCt=(nC-nt)/(nF-nC) と定義する)、以下の条件式(1)を満足する。
【0016】
θCt1-θCt2 < 0.08 …(1)
【0017】
上記条件式(1)は、第1レンズ群G1及び第3レンズ群G3の少なくとも一方が有する、正の屈折力を持つ接合レンズで生じる色収差の二次スペクトルを小さくするための条件である。この条件式(1)の上限値を上回ると、二次スペクトルが大きくなり、可視域と赤外域の色収差を同時に抑えることが困難になる。なお、この正の屈折力を持つ接合レンズを用いて良好に色収差を補正するためには、二次スペクトルをより小さくする、言い換えれば、上記条件式(1)の左辺の値はより小さい方が好ましい。」

(c)「【0050】
(第2実施例)
第2実施例に係る顕微鏡装置MS´について、図8?図14及び表2を用いて説明する。図8に示すように、本実施例に係る顕微鏡装置MS´では、標本1から発せられる光は、対物レンズ2によって平行光束となって、結像レンズを構成するレンズ群3に入射する。目視観察時には、光路中にプリズム4を挿入し、レンズ群3からの射出した光をこのプリズム4によって偏向させて目視観察用光路へと光を導き、該光路内に設けられたレンズ群5によって一次像6を形成する。観察者8は接眼レンズ7を通して、この一次像6を観察する。また、撮像時には、プリズム4を光路中から除き、レンズ群3から射出した光を撮像用光路へと導き、該光路内に設けられたミラー9によって偏向した後、結像レンズを構成するレンズ群10によって一次像11を形成する。この一次像11からの光は、ズームレンズ12(12b)を通って、ミラー13によって偏向された後、撮像素子15上に像14を形成する。
【0051】
上記構成の顕微鏡装置MS´では、図9にも示すように、対物レンズ2(図示略)の射出瞳2´から射出された光束は、結像レンズ(倍率β=0.875×,焦点距離fT=177.0mm)によって一次像11を形成する。なお、本実施例の結像レンズは、物体側から順に並んだ、レンズ群3と、2つのレンズ群10a,10bからなるレンズ群10とから構成される。そして、この結像レンズを構成するレンズ群の内、最も像面側に配置されているレンズ群10bは負の屈折力を持つ(焦点距離fL=-270.4mm)。これにより、一次像11から193.4mmの位置に結像レンズの射出瞳が形成される。これは第1レンズ群G1?第4レンズ群G4によって構成されるズームレンズ12bの内部に位置する。
【0052】
上記構成の結像レンズによれば、該レンズに係る条件式、すなわち条件式(3)はfL=-270.4となり、条件式(4)は|fL/fT|=1.53となり、条件式(5)はβ=0.875となる。ゆえに、これら条件式(3)?(5)を全て満たしていることが分かる。
【0053】
続いて、上記ズームレンズ12bについて説明する。第2実施例に係るズームレンズ12bは、図10に示すように、物体側から順に並んだ、正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、負の屈折力を持つ第2レンズ群G2と、正の屈折力を持つ第3レンズ群G3と、負の屈折力を持つ第4レンズ群G4とからなり、低倍から高倍への変倍にしたがって、第2レンズ群G2は像側へ、第3レンズ群G3は物体側へ移動する。
【0054】
第1レンズ群G1は、物体側より順に並んだ、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL11と両凸レンズL12とからなる接合レンズと、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL13とを有する。
【0055】
第2レンズ群G2は、物体側より順に並んだ、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL21と両凹レンズL22とからなる接合レンズを有する。
【0056】
第3レンズ群G3は、物体側より順に並んだ、両凹レンズL31と両凸レンズL32とからなる接合レンズと、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL33と両凸レンズL34とからなる接合レンズとを有する。
【0057】
第4レンズ群G4は、物体側より順に並んだ、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL41と両凹レンズL42とからなる接合レンズを有する。
【0058】
表2に、第2実施例の顕微鏡装置MS´を構成するズームレンズ12bの各諸元の表を示す。なお、表2における面番号1?17は、図10に示す面1?17に対応している。」

(d)図1の記載から、対物レンズ2の出口側に、光学接続するための結像レンズを構成するレンズ群3の入口側と、撮像素子15の入口側に、光学接続するためのズームレンズ12の出口側とを有することが、見て取れる。
また、図1、図9及び図10の記載から、第4レンズ群G4は、撮像素子15に最も近接する光学素子群として、ズームレンズ12の出口側に配置され、第3レンズ群G3は、第4レンズ群G4の標本1側に配置されていることが、見て取れる。
さらに、図9及び図10の記載から、一次像11は、結像レンズを構成するレンズ群10と第1レンズ群G1の間の位置であることが、見て取れる。



b 上記aから、引用文献2には、次の発明が記載されていると認められる。

「標本1から発せられる光は、対物レンズ2によって平行光束となって、結像レンズを構成するレンズ群3に入射し、結像レンズを構成するレンズ群10によって一次像11を形成し、この一次像11からの光は、ズームレンズ12bを通って、ミラー13によって偏向された後、撮像素子15上に像14を形成し、
対物レンズ2の出口側に、光学接続するための結像レンズを構成するレンズ群3の入口側と、撮像素子15の入口側に、光学接続するためのズームレンズ12bの出口側とを有し、
ズームレンズ12bは、物体側から順に並んだ、正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、負の屈折力を持つ第2レンズ群G2と、正の屈折力を持つ第3レンズ群G3と、負の屈折力を持つ第4レンズ群G4とからなり、低倍から高倍への変倍にしたがって、第2レンズ群G2は像側へ、第3レンズ群G3は物体側へ移動し、
第4レンズ群G4は、撮像素子15に最も近接する光学素子群として、ズームレンズ12bの出口側に配置され、第3レンズ群G3は、第4レンズ群G4の標本1側に配置され、
一次像11は、結像レンズを構成するレンズ群10と第1レンズ群G1の間の位置であり、
第1レンズ群G1が有する、正の屈折力を持つ接合レンズで生じる色収差の二次スペクトルを小さくするための条件である条件式を満たす第1レンズ群G1である顕微鏡装置MS´」(以下「引用発明2」という。)

ウ 引用文献1を主引用例として場合
(ア)対比
a 本件補正発明と引用発明1とを対比する。
(a)引用発明1の「対物レンズ7」は、本件補正発明の「顕微鏡対物レンズ(105)」に、
引用発明1の「観察光路上に、結像レンズ10、21とズーム機能を有するリレーレンズ15(以降、ズームレンズと記す。)とを含むズーム結像光学系」は、本件補正発明の「前記顕微鏡対物レンズ(105)を使用して物体を画像記録装置(104)の結像平面(107.1)上に結像させるよう構成される、光学結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置」、「光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)」、「光学結像系」に、
引用発明1の「対物レンズ7の出口側に、光学接続するための結像レンズの入口側と、CCD17の入口側に、光学接続するためのズームレンズの出口側とを有し」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記顕微鏡対物レンズ(105)の対物レンズ出口に、光学接続するための物体側のズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)と、前記画像記録装置(104)における画像記録入口に光学接続するための像側のズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)を含み」に、
引用発明1の「負のパワーを有する第4レンズ群G4」は、本件補正発明の「負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)」に、
引用発明1の「正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3」は、本件補正発明の「結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)」に、
引用発明1の「『ズームレンズは、中間像側(標本面側)から順に、』『正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4と、を含んでおり、』『CCD17の入口側に、光学接続するためのズームレンズの出口側とを有し』」は、本件補正発明の「前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)は、前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)の複数の光学素子群のうち、前記画像記録装置(104)における前記結像平面(107.1)に最も近接する光学素子群として、前記ズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)に配置され、更に、前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)は、前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)の物体側に配置されている光学結像系」に、
引用発明1の「『対物レンズ7の出口側に、光学接続するための結像レンズ10、21の入口側』『を有』する『結像レンズ10、21』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記ズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)に配置され、かつ正の屈折力を有する第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)を含み」に、
引用発明1の「対物レンズからの平行光束を集光して標本面の一次像(中間像)を、結像レンズと第1レンズ群G1の間の不変の位置である視野絞り上に形成し」は、本件補正発明の「該第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)が、前記光学ズーム装置内において、前記第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)間の不変の位置に、中間実像(111; 211; 311; 411; 511; 611; 711)を生成するよう構成され」に、
引用発明1の「『第3レンズ群G3』は、『正のパワーを有する可動群である』」は、本件補正発明の「前記第2光学素子群は、結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置され」に、
引用発明1の「『ズームレンズは、中間像側(標本面側)から順に、正のパワーを有する第1レンズ群G1と、』『を含んでおり』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み」に、
それぞれ相当する。

(b)引用発明1は「ズームレンズは、中間像側(標本面側)から順に、」「正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4と、を含んでおり、」「CCD17の入口側に、光学接続するためのズームレンズの出口側とを有し」ていることから、正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4とにより、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリとなっていると解される。
引用発明1の「『ズームレンズは、中間像側(標本面側)から順に、』『正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4と、を含んでおり、』『CCD17の入口側に、光学接続するためのズームレンズの出口側とを有し』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)を含み、該望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)は、負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)と、結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)を含み」に相当する。

(c)引用発明1は「ズーム顕微鏡は、対物レンズ7と、観察光路上に、結像レンズ10、21とズーム機能を有するリレーレンズ15(以降、ズームレンズと記す。)とを含むズーム結像光学系16と」「を含み、」「ズームレンズは、中間像側(標本面側)から順に、正のパワーを有する第1レンズ群G1と、正のパワーを有する可動群である第2レンズ群G2と、光軸方向に移動する開口絞りと、正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4と、を含んでおり」と特定されているので、正のパワーを有する第1レンズ群G1は、結像レンズ10、21及び第3レンズ群G3間に配置されていることは明らかである。
引用発明1は「『ズーム顕微鏡100は、対物レンズ7と、観察光路上に、結像レンズ10、21とズーム機能を有するリレーレンズ15(以降、ズームレンズと記す。)とを含むズーム結像光学系16と』『を含み、』『ズームレンズは、中間像側(標本面側)から順に、正のパワーを有する第1レンズ群G1と、』『正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、』『を含んでおり』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み、該第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記第3光学素子群(508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(508.2; 608.2; 708.2)間に配置され」に相当する。

b 以上のことから、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「顕微鏡対物レンズ(105)と、前記顕微鏡対物レンズ(105)を使用して物体を画像記録装置(104)の結像平面(107.1)上に結像させるよう構成される、光学結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置と、を備える光学結像系であって、
前記光学ズーム装置は、光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記顕微鏡対物レンズ(105)の対物レンズ出口に、光学接続するための物体側のズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)と、前記画像記録装置(104)における画像記録入口に光学接続するための像側のズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)を含み、該望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)は、負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)と、結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)を含み、
前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)は、前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)の複数の光学素子群のうち、前記画像記録装置(104)における前記結像平面(107.1)に最も近接する光学素子群として、前記ズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)に配置され、更に、
前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)は、前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)の物体側に配置されている光学結像系において、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記ズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)に配置され、かつ正の屈折力を有する第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)を含み、該第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)が、前記光学ズーム装置内において、前記第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)間の不変の位置に、中間実像(111; 211; 311; 411; 511; 611; 711)を生成するよう構成され、
前記第2光学素子群は、結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置され、
前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み、該第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記第3光学素子群(508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(508.2; 608.2; 708.2)間に配置される光学結像系。」

【相違点1】
第1光学素子群が、本件補正発明では、「結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置され」るのに対し、引用発明1では、そのようなものか明らかでない点。

【相違点2】
本件補正発明では、「前記中間実像(511; 611; 711)は、少なくとも二次の軸上色収差を有し、更に、第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記中間実像(511; 611; 711)の少なくとも二次の軸上色収差に関して、少なくとも部分的な補正をするよう構成されている」のに対し、引用発明1では、そのようなものか明らかでない点。

(イ)判断
以下、上記相違点について検討する。
a 相違点1について
(a)引用発明1には「面間隔d21は、ズームレンズの変倍動作に応じて変化する可変値D21であり、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4との距離を示しており」、「正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3」と特定されており、第3レンズ群G3は可動群であり、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4との距離は変化することが把握できる。
そうすると、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4との距離の可変値D21としてズームレンズの変倍動作に応じて変化するようにするためには、第3レンズ群G3のみを、可動群とするか、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4とを、可動群とするかであり、どちらを選択するかは、当業者が適宜行うことである。

(b)なお、本願明細書において、結像スケールを設定するためには、第1及び第2光学素子群の軸線方向における間隔を可変にすればよい旨、また、第1及び/又は第2光学素子群を移動させる旨、以下のように記載されていることから、第2光学素子群を光軸に沿って変位させる態様と、第1及び第2光学素子群を光軸に沿って変位させる態様との間に、格別の効果の差異はないと解される。
本願明細書の【0019】には「第1光学素子群及び画像記録装置の間隔が、対として固定的に選択された場合、結像スケールは、この対を異ならせること、及び第2光学素子群を光軸に沿って変位させることによって設定される。この場合、システムにおける広がり全体は、第2光学素子群を変化させることによって実質的に達成される。更にこの場合、第1及び第2光学素子群の軸線方向における間隔は、結像スケールを設定するために原則として可変である。」、【0020】には「原則として、第1及び第2光学素子群は、軸線方向に固定的な間隔を有する対として配置し、結像スケールを設定するために、軸線方向に共に変位させることができる。ただし、収差が生じることをより良好に補正するために、第1及び第2光学素子群を互いに対して変位可能に配置して、これら光学素子群の間隔を調整することもできる。」、【0026】には「この場合、結像スケールは、第1及び/又は第2光学素子群、並びに画像記録装置を必要に応じて移動させることにより設定することができる。この変形の利点は、少なくともほぼ固定的な中間像領域において、操作を行うことができる点、及び/又は、付加的なビーム経路を結合若しくは分離させることができる点にある。これにより、例えば自動焦点システムをビーム経路に統合すること、及び/又は、露光モニタリング用の測定装置を設けることが可能になる。」と記載されている。

b 相違点2について
(a)引用発明1は「第1レンズ群は、色収差を補正する役割を担っている」と特定されている。
そして、当該色収差には軸上色収差も含まれ、かつ、色収差の補正は一般に、二次のスペクトルの補正も含むことが技術常識であるから、第1レンズ群は、中間実像における二次の軸上色収差を少なくとも部分的に補正しているものと認められる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。

(b)仮にそうでないとしても、光学結像系において、二次のスペクトルの軸上色収差を低減することは、周知技術(必要ならば、特開2005-352265号公報(特に、【0003】参照。)、特開2011-75982号公報(特に、【0015】参照。)、特開2013-57802号公報(特に、【0006】参照。)を参照されたい。)である。
そうすると、引用発明1に周知技術を考慮し、第1レンズ群は、中間実像における二次のスペクトルの軸上色収差を低減する役割を担うようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

c そして、相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

d したがって、本件補正発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 引用文献2を主引用例として場合
(ア)対比
a 本件補正発明と引用発明2とを対比する。
(a)引用発明2の「対物レンズ2」は、本件補正発明の「顕微鏡対物レンズ(105)」に、
引用発明2の「『撮像素子15上に像14を形成』させる、『対物レンズ2によって平行光束となって、』『入射』する『結像レンズを構成するレンズ群3』、『結像レンズを構成するレンズ群10』、『ズームレンズ12b』」は、本件補正発明の「前記顕微鏡対物レンズ(105)を使用して物体を画像記録装置(104)の結像平面(107.1)上に結像させるよう構成される、光学結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置」、「光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)」、「光学結像系」に、
引用発明2の「対物レンズ2の出口側に、光学接続するための結像レンズ3の入口側と、撮像素子15の入口側に、光学接続するためのズームレンズ12bの出口側とを有し」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記顕微鏡対物レンズ(105)の対物レンズ出口に、光学接続するための物体側のズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)と、前記画像記録装置(104)における画像記録入口に光学接続するための像側のズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)を含み」に、
引用発明2の「負の屈折力を持つ第4レンズ群G4」は、本件補正発明の「負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)」に、
引用発明2の「正の屈折力を持つ第3レンズ群G3」は、本件補正発明の「結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)」に、
引用発明2の「『ズームレンズ12bは、物体側から順に並んだ、』『正の屈折力を持つ第3レンズ群G3と、負の屈折力を持つ第4レンズ群G4とからなり、』『撮像素子15の入口側に、光学接続するためのズームレンズ12bの出口側とを有し』」は、本件補正発明の「前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)は、前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)の複数の光学素子群のうち、前記画像記録装置(104)における前記結像平面(107.1)に最も近接する光学素子群として、前記ズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)に配置され、更に、前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)は、前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)の物体側に配置されている光学結像系」に、
引用発明2の「『対物レンズ2の出口側に、光学接続するための結像レンズを構成するレンズ群3の入口側と』『を有』する『結像レンズを構成するレンズ群3』及び『結像ンズを構成するレンズ群10』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記ズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)に配置され、かつ正の屈折力を有する第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)を含み」に、
引用発明2の「『結像レンズを構成するレンズ群10によって』、『結像レンズを構成するレンズ群10と第1レンズ群G1の間の位置』する『一次像11を形成し』」は、本件補正発明の「該第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)が、前記光学ズーム装置内において、前記第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)間の不変の位置に、中間実像(111; 211; 311; 411; 511; 611; 711)を生成するよう構成され」に、
引用発明2の「『低倍から高倍への変倍にしたがって、』『第3レンズ群G3は物体側へ移動し』」は、本件補正発明の「前記第2光学素子群は、結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置され」に、
引用発明2の「『ズームレンズ12bは、物体側から順に並んだ、正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と』『からなり』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み」に、
それぞれ相当する。

(b)引用発明2は「ズームレンズ12bは、物体側から順に並んだ、」「正の屈折力を持つ第3レンズ群G3と、負の屈折力を持つ第4レンズ群G4とからなり、」「撮像素子15の入口側に、光学接続するためのズームレンズ12bの出口側とを有し」ていることから、正のパワーを有する可動群である第3レンズ群G3と、負のパワーを有する第4レンズ群G4とにより、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリとなっていると解される。
引用発明2の「『ズームレンズ12bは、物体側から順に並んだ、』『正の屈折力を持つ第3レンズ群G3と、負の屈折力を持つ第4レンズ群G4とからなり、』『撮像素子15の入口側に、光学接続するためのズームレンズ12の出口側とを有し』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)を含み、該望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)は、負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)と、結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)を含み」に相当する。

(c)引用発明2は「標本1から発せられる光は、対物レンズ2によって平行光束となって、結像レンズを構成するレンズ群3に入射し、結像レンズを構成するレンズ群10によって一次像11を形成し、この一次像11からの光は、ズームレンズ12bを通って、ミラー13によって偏向された後、撮像素子15上に像14を形成し、」「ズームレンズ12bは、物体側から順に並んだ、正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、負の屈折力を持つ第2レンズ群G2と、正の屈折力を持つ第3レンズ群G3と、負の屈折力を持つ第4レンズ群G4とからなり」と特定されているので、正のパワーを有する第1レンズ群G1は、結像レンズを構成するレンズ群10及び第3レンズ群G3間に配置されていることは明らかである。
引用発明2は「『標本1から発せられる光は、対物レンズ2によって平行光束となって、結像レンズを構成するレンズ群3に入射し、結像レンズを構成するレンズ群10によって一次像11を形成し、この一次像11からの光は、ズームレンズ12bを通って、ミラー13によって偏向された後、撮像素子15上に像14を形成し、』『ズームレンズ12bは、物体側から順に並んだ、正の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、』『正の屈折力を持つ第3レンズ群G3と』『からなり』」は、本件補正発明の「前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み、該第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記第3光学素子群(508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(508.2; 608.2; 708.2)間に配置され」に相当する。

b 以上のことから、本件補正発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「顕微鏡対物レンズ(105)と、前記顕微鏡対物レンズ(105)を使用して物体を画像記録装置(104)の結像平面(107.1)上に結像させるよう構成される、光学結像装置の結像スケールを設定するための光学ズーム装置と、を備える光学結像系であって、
前記光学ズーム装置は、光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記顕微鏡対物レンズ(105)の対物レンズ出口に、光学接続するための物体側のズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)と、前記画像記録装置(104)における画像記録入口に光学接続するための像側のズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)を含み、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、望遠レンズの原理に従って構成された望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)を含み、該望遠アセンブリ(109; 209; 309; 409; 509; 609; 709)は、負の屈折力を有する第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)と、結像スケールを設定するために前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)に割り当てられ、かつ正の屈折力を有する第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)を含み、
前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)は、前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)の複数の光学素子群のうち、前記画像記録装置(104)における前記結像平面(107.1)に最も近接する光学素子群として、前記ズーム出口(106.2; 206.2; 306.2; 406.2; 506.2; 606.2; 706.2)に配置され、更に、
前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)は、前記第1光学素子群(108.1; 208.1; 308.1; 408.1; 508.1; 608.1; 708.1)の物体側に配置されている光学結像系において、
前記光学素子アセンブリ(108; 208; 308; 408; 508; 608; 708)は、前記ズーム入口(106.1; 206.1; 306.1; 406.1; 506.1; 606.1; 706.1)に配置され、かつ正の屈折力を有する第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)を含み、該第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)が、前記光学ズーム装置内において、前記第3光学素子群(108.3; 208.3; 308.3; 408.3; 508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(108.2; 208.2; 308.2; 408.2; 508.2; 608.2; 708.2)間の不変の位置に、中間実像(111; 211; 311; 411; 511; 611; 711)を生成するよう構成され、
前記第2光学素子群は、結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置され、
前記光学素子アセンブリ(508; 608; 708)は、正の屈折力を有する第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)を含み、該第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記第3光学素子群(508.3; 608.3; 708.3)及び前記第2光学素子群(508.2; 608.2; 708.2)間に配置される光学結像系。」

【相違点1】
第1光学素子群が、本件補正発明では、「結像スケールを設定するために、前記光学素子アセンブリの光軸に沿って変位可能に配置され」るのに対し、引用発明2では、そのようなものか明らかでない点。

【相違点2】
本件補正発明では、「前記中間実像(511; 611; 711)は、少なくとも二次の軸上色収差を有し、更に、第4光学素子群(508.4; 608.4; 708.4)は、前記中間実像(511; 611; 711)の少なくとも二次の軸上色収差に関して、少なくとも部分的な補正をするよう構成されている」るのに対し、引用発明2では、そのようなものか明らかでない点。

(イ)判断
以下、上記相違点について検討する。
a 相違点1について
引用発明2には「第3レンズ群G3は物体側へ移動」と特定されている。
そうすると、第3レンズ群G3が移動する場合に、第3レンズ群G3のみを、物体側へ移動とするか、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4とを、ともに移動させるかであり、どちらを選択するかは、当業者が適宜行うことである。

b 相違点2について
(a)引用発明2は「第1レンズ群G1が有する、正の屈折力を持つ接合レンズで生じる色収差の二次スペクトルを小さくするための条件である条件式を満たす第1レンズ群G1」と特定されている。
そうすると、第1レンズ群G1は、色収差の二次スペクトルを小さくするものなので、一次像における二次スペクトルの色収差についても、少なくとも部分的に補正しているものと考えるのが自然である。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。

(b)仮にそうでないとしても、光学結像系において、二次のスペクトルの軸上色収差を低減することは、周知技術(必要ならば、特開2005-352265号公報(特に、【0003】参照。)、特開2011-75982号公報(特に、【0015】参照。)、特開2013-57802号公報(特に、【0006】参照。)を参照されたい。)である。
そうすると、引用発明2に周知技術を考慮し、第1レンズ群G1は、一次像における二次のスペクトルの軸上色収差を低減する役割を担うようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

c そして、相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明2及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

d したがって、本件補正発明は、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ 審判請求人の進歩性に対する主張について
(ア)本件審判請求人は、令和元年9月27日付けで提出された審判請求書において、
「本願発明では、正の屈折力を有する第4光学素子群は、第3光学素子群及び第2光学素子群間に配置され、中間実像の少なくとも二次の軸上色収差に関して、少なくとも部分的な補正をします。このように、第4光学素子群は、第3光学素子群及び第2光学素子群間の不変の位置に生成される中間実像と同様に、第3光学素子群及び第2光学素子群間に配置された状態で、当該中間実像の少なくとも二次の軸上色収差に関して、少なくとも部分的な補正をします。」、「本願発明は、第3光学素子群及び第2光学素子群間で中間実像と共に第4光学素子群が配置されることで、中間実像と第4光学素子群とが互いに隣接し、軸上色収差の補正を適切に調整可能である(明細書の段落[0029]、[0030]、及び[0100]参照)という引例と比較した有利な効果を奏します。」
旨主張している。

(イ)上記(ア)については、上記ウ、エで判断したとおりである。

以上から、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年9月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年3月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1及び5を引用する請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1及び5を引用する請求項7に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、
理由1(実施可能要件) この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、
理由5(進歩性) この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。



理由1(実施可能要件)について
本願明細書の[0003]-[0005][0010][0012]等の記載から、[0011]に挙げられている各先行文献に記載の発明では、“コンパクトな構成及び高倍率を実現した状態で、広帯域で補正された結像を容易に可能にする”に足るものでないことは明らかである。すなわち、各先行文献に記載されているのは、“コンパクト化及び高倍率”ではないレンズ系において、広帯域で(収差)補正されたものが開示されているに過ぎず、仮に、“広帯域で補正”が従来技術と同程度であることを意味するとしても、当該収差補正の程度を維持したままでコンパクト化及び高倍率とすることは一般に困難であることが技術常識であり、本願明細書に記載の定性的な内容に各先行文献に記載の諸元データを参酌したのみでは当該課題が解決できないことは明らかである。
よって、レンズ系の技術常識に鑑みて、諸元データの開示がない本願明細書等の記載では、当業者といえども、課題を解決する発明を実施するために、過度の試行錯誤を要すると言わざるを得ない。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は依然として、当業者が請求項1-17に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

理由5(特許法第29条第2項)について
請求項1-5、7-15、17
引用文献等:1-5
<引用文献等一覧>
1.特開2012-252037号公報
2.特開2011-150299号公報
3.特開2004-070092号公報
4.特表2007-531060号公報
5.特表2001-517806号公報

3 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「第4光学素子群」について、中間実像(511; 611; 711)「の少なくとも二次の軸上色収差」に関して、少なくとも部分的な補正をするよう構成されているとの限定事項を削除したものである。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、前記第2の[理由]2(1)で説示したのと同様な理由によって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)イに記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「第4光学素子群」について、中間実像(511; 611; 711)「の少なくとも二次の軸上色収差」に関して、少なくとも部分的な補正をするとの限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(2)ウ、エに記載したとおり、引用発明1及び周知技術、又は引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1及び周知技術、又は引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-09-16 
結審通知日 2020-09-29 
審決日 2020-10-19 
出願番号 特願2014-225362(P2014-225362)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
野村 伸雄
発明の名称 光学結像装置及び顕微鏡検査用の結像方法  
代理人 杉村 憲司  

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