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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1372103
審判番号 不服2020-1184  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-29 
確定日 2021-03-08 
事件の表示 特願2018-561112「太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月19日国際公開、WO2018/131060〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)1月10日を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 7月 2日 :手続補正書の提出
令和 元年 8月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 元年10月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年10月23日付け:拒絶査定
令和 2年 1月29日 :審判請求書の提出
令和 2年 3月 9日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
令和 2年 9月16日付け:拒絶理由通知書
令和 2年11月11日 :意見書、手続補正書の提出

第2 拒絶の理由
令和2年9月16日付けで当審が通知した拒絶の理由の概略は、次のとおりである。
この出願は、特許請求の範囲の請求項2及び4の記載が、「UV劣化防止層」と(その直下にある)「光起電力発生層」の境界がどのように定まるのかが不明確である点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、
この出願は、特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載が、固定電荷の極性によって特定されておらず、課題を解決できると認識されるとはいえない点、及び、仮に固定電荷の極性が特定されたとしても、「UV劣化防止層」の極性が、固定電荷の極性とは反対の極性であることが特定されていない点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、
この出願の請求項1ないし4に係る発明は、本願の出願日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



<引用文献等一覧>
1.国際公開第2015/170698号

第3 当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)について
(1)本願の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載
令和2年11月11日提出の手続補正書により補正(以下、この補正を「本件補正」という。)された本願の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、次の記載がある。
「 【請求項1】
半導体接合を備えている光起電力発生層、
該光起電力発生層上に直接設けてあるUV劣化防止層、
とを、備えており、
前記UV劣化防止層は、当該UV劣化防止層の層内に不純物を含有し、該不純物のうち、該UV劣化防止層の半導体極性に寄与する不純物が当該UV劣化防止層の層厚方向に濃度分布し且つ当該UV劣化防止層の内部に濃度分布の極大値(C_(D)Max)を有するように含有されており、当該UV劣化防止層の層厚(d1+d2)が2?60 nmの範囲にあり、前記極大値(C_(D)Max)は以下の範囲にあり、
1x10^(19)個/cm^(3) ≦ 極大値(C_(D)Max)≦ 4x10^(20)個/cm^(3) ・・・式(1)
前記極大値(C_(D)Max)の位置(A0)(=「深さ(Dmax)」)は以下の範囲にあり、
0 < 深さ(Dmax)≦ 4nm ・・・・式(2)
前記極大値(C_(D)Max)の半減値(b1)の位置が前記UV劣化防止層の光入射側の表面か らの深さ位置(A1)にあり、その深さ位置(A1)が、
前記極大値(C_(D)Max)の深さ位置(A0)<(「深さ位置(A1)」)≦ 20nm・・・式 (3)
の範囲にあることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
半導体接合を備えている光電荷発生層、
該光電荷発生層上に直接設けてあるUV劣化防止層、
とを、備えており、
前記UV劣化防止層は、当該UV劣化防止層の層内に不純物を含有し、該不純物のうち、
該UV劣化防止層の半導体極性に寄与する不純物が当該UV劣化防止層の層厚方向に濃度分布し且つ当該UV劣化防止層の内部に濃度分布の極大値(C_(D)Max)を有するように含有されており、当該UV劣化防止層の層厚(d1+d2)が2?60nm の範囲にあり、前記極大値(C_(D)Max)は以下の範囲にあり、
1x10^(19)個/cm^(3) ≦ 極大値(C_(D)Max)≦ 4x10^(20)個/cm^(3) ・・・式(1)
前記極大値(C_(D)Max)の位置(A0)(=「深さ(Dmax)」)は以下の範囲にあり、
0 < 深さ(Dmax)≦ 4nm ・・・・式(2)
前記極大値(C_(D)Max)の半減値(b1)の位置が前記UV劣化防止層の光入射側の表面からの深さ位置(A1)にあり、その深さ位置(A1)が、
前記極大値(C_(D)Max)の深さ位置(A0)<(「深さ位置(A1)」)≦ 20nm・・・式(3)
の範囲にあることを特徴とする光電変換装置。」

「【0004】
・・・
このようなUV光による劣化を抑制する目的で、紫外線吸収剤等の耐候剤や光安定剤などを含ませた封止材で太陽電池セルを被覆して封止する技術がある。
しかし、この技術は、UV光を有効に利用して発電効率を上げるという視点からは外れるものである上に、太陽電池セルの製造工程数及びコストを増加させる要因となっている。
・・・」

「【0009】
・・・
光起電力発生層102は、半導体で構成される層領域(1)103、層領域(2)104で構成されている。
・・・」

「【0011】
極大値(C_(D)Max)を式(1)の範囲とすることで、太陽電池内部のシリコン層表面に形成された酸化膜(自然酸化膜)の中や,酸化膜・シリコン層界面にUV光の照射によって固定電荷や界面準位が生成されたとしても,層領域(4)111中のキャリアないし不純物イオンによって,固定電荷との電気力線を結合することができるために実質的に内部電界に変化を生じさせることがなく、また界面準位が再結合中心とならないように不活性にすることが出来る。極大値(C_(D)Max)が式(1)の範囲を外れると、上記の効果が効果的に得られ難くなるので好ましくない。」

「【0025】
図1Gには、更にもう一つ別な好適な例が示される。
図1Gに示される太陽電池100Gの実効半導体不純物分布濃度(C_(D))の曲線は、図1Fの場合の実効半導体不純物分布濃度(C_(D))の曲線とは、以下の点で異なっている。
即ち、図1Gに示す太陽電池の実効半導体不純物分布濃度(C_(D))の曲線は、図1Fの場合と異なり、変曲点一つしか有さないか若しくは実質的に1つしか有さない。
層領域(2)104とUV劣化防止層109との境界では、実効半導体不純物分布濃度(C_(D))の曲線は、連続的に変化している。そして層領域(2)104とUV劣化防止層109との半導体極性は同極性である。即ち、図1Gに示す太陽電池は、太陽光の入射側と反対側からn/p/pかp/n/nの半導体極性の層構造を有している。
【0026】
図1Hには、更にもう一つ別な好適な例が示される。
図1Hに示される太陽電池100Hの実効半導体不純物分布濃度(C_(D))の曲線のUV劣化防止層109の部分において、図1Eの場合の様に、極大ピークPmax(3)と極小ピークPmin(3)を有している以外は、図1Gの場合と実質的に同じである。
【0027】
図1Iには、更にもう一つ別な好適な例が示される。
図1Iに示される太陽電池100Iの実効半導体不純物分布濃度(CD)の曲線のUV劣化防止層109の部分において、図1Dの場合の様に、極大ピークPmax(3)と極小ピークPmin(3)を有している以外は、図1Gの場合と実質的に同じである。」

図1A、図1G、図1H、図1Iは以下のとおりである。



(2)判断
ア 請求項1及び2の「UV劣化防止層」と(その直下にある)「光起電力発生層」の境界(以下「本件境界」という。)について
(ア)本件境界について、本願明細書等の記載によれば、次のことがいえる。
a 【0008】の【図1G】の項には「図1Gは、図1Aに示す太陽電池の光起電力発生部中に含有される実効半導体不純物分布濃度(CD)の好適な例の一つを示すグラフである。」と記載され、【0025】には「図1Gには、更にもう一つ別な好適な例が示される。」と記載されていることから、図1Gに係る例(以下「図1G形態」という。)は、請求項1及び2に含まれるものといえる。しかしながら、図1G形態の本件境界が明確でない。
すなわち、【0009】の「光起電力発生部100aは、光起電力発生層102、UV(紫外線)劣化防止層109を備えている。光起電力発生層102は、半導体で構成される層領域(1)103、層領域(2)104で構成されている。」及び【0025】の記載によれば、図1G形態においては、「UV劣化防止層109」が当該各請求項の「UV劣化防止層」に相当し、同じく「層領域(1)103」及び「層領域(2)104」が当該各請求項の「光起電力発生層」(これらのうち、「層領域(2)104」が上記でいう「(その直下にある)『光起電力層』」に相当する。)に相当するといえるとともに、図1G形態の本件境界が「UV劣化防止層109」と「層領域(2)104」との境界とされていることが理解できる。
しかるところ、図1G及び【0025】の「層領域(2)104とUV劣化防止層109との半導体極性は同極性である。」との記載からみて、「UV劣化防止層109」及び「層領域(2)104」がいずれもP型であって極性が等しいことが理解できるから、これらの層の間にある本件境界がどこになるのかは、極性の観点からは定めることができない。
さらに、【0025】には、図1G形態に関して、「層領域(2)104とUV劣化防止層109との境界では、実効半導体不純物分布濃度(C_(D))の曲線は、連続的に変化している。」と記載されているところ、図1Gからみて、実効半導体不純物分布濃度の曲線は、本件境界近傍において、変曲点や極大ないし極小になることもなく、滑らかに単調減少しているのみであるから、本件境界がどこになるかは、当該不純物分布濃度の観点からも定めることができない。
さらに、「UV劣化防止層109」及び「層領域(2)104」を形成する材料は、いずれも、シリコン(Si)であると解される(【0028】参照)から、本件境界がどこになるかは、材料の観点からも定めることができない。
加えて、本件境界は、「UV劣化防止層」と「光起電力発生層」との境界であることから、「UV劣化防止」という機能と「光起電力発生」という機能とが異なるとはいえるが、上記のとおり、これらの層は、極性、実効半導体不純物分布濃度及び材料のいずれの観点からも区別できないし、本願明細書等の記載をみても、それを定量的に定める手掛かりを見いだすことができない。
そして、本願明細書等の他の記載をみても、図1G形態において、本件境界をどのように定めるのかは不明である。
よって、図1G形態の本件境界が明確ではない。

b 【0009】、【0026】の記載によれば、図1Hに係る例(以下「図1H形態」という。)においては、「UV劣化防止層109」が当該各請求項の「UV劣化防止層」に相当し、同じく「層領域(1)103」及び「層領域(2)104」が当該各請求項の「光起電力発生層」(これらのうち、「層領域(2)104」が上記でいう「(その直下にある)『光起電力層』」に相当する。)に相当するといえるとともに、図1H形態の本件境界が「UV劣化防止層109」と「層領域(2)104」との境界とされていることが理解できる。
また、【0009】、【0027】の記載によれば、図1Iに係る例(以下「図1I形態」という。)においては、「UV劣化防止層109」が当該各請求項の「UV劣化防止層」に相当し、同じく「光起電力発生層102」が当該各請求項の「光起電力発生層」に相当するといえるとともに、図1I形態の本件境界が「UV劣化防止層109」と「光起電力発生層102」との境界とされていることが理解できる。
そうすると、図1H形態及び図1I形態についても図1G形態と同様の理由で本件境界が明確ではない。

c このように、当該各請求項に含まれることが明らかな図1G形態、図1H形態及び図1I形態では、本件境界が明確でない。

(イ)上記(ア)のとおり、当該各請求項に含まれることが明らかな図1G形態、図1H形態及び図1I形態では、本件境界が明確でないところ、当該各請求項の「UV劣化防止層」及び「光起電力発生層」という用語からは、ただちに、本件境界が明らかになるとはいえないし、当該各請求項の他の特定事項をみても、この理解を左右しない。
そうすると、当該各請求項における本件境界も明確でないというべきである。

イ 請求項1及び2の「UV劣化防止層の層厚(d1+d2)が2?60 nmの範囲」について
上記アで検討したように、「UV劣化防止層」と(その直下にある)「光起電力発生層」の境界がどのように定まるのかが不明確である。
そして、「UV劣化防止層」と(その直下にある)「光起電力発生層」の境界が定まらないと、UV劣化防止層の層厚が不明確になる。
そうすると、UV劣化防止層の層厚が不明確であるので、請求項1及び2は、UV劣化防止層の層厚(d1+d2)が2?60 nmの範囲にあるのか不明確となっている。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年11月11日提出の意見書において、「同じ極性であったとしても不純物濃度分布の変曲点を以って境界を定義しています。」旨主張している。

しかしながら、上記(2)で検討したとおり、光起電力発生層の層領域とUV劣化防止層との境界に変曲点がないもの(上記図1G、図1H及び図1I参照。)も、本願請求項1、2に記載された発明は包含している。
したがって、審判請求人の主張は、本願の明細書及び図面の記載に基づかないものである。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。

(4)小括
したがって、本願請求項1、2に係る発明は明確でない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
(1)本願請求項1、2に記載された発明の解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、UV光の照射履歴とともに太陽電池の発電効率の低下が進むというUV光による劣化を抑制するための従来技術は、製造工程数及びコストを増加させるということであると認められる(【0004】)。
そして、請求項1、2に記載された発明は、本件課題を解決するために、請求項1、2に記載されたような「UV劣化防止層」を設けることをもってその課題解決手段としていると認められる。
そこで、以下、本願明細書等の記載及び技術常識に照らして、請求項1、2で特定された「UV劣化防止層」によって、当業者が本件課題を解決できると認識できるか否かについて検討する。

(2)本願明細書の【0011】の記載によれば、本件課題を解決する原理(以下「本件課題解決原理」という。)は、太陽電池内部のシリコン層表面に形成された酸化膜(自然酸化膜)の中や酸化膜・シリコン層界面(以下、当該酸化膜の中と当該界面を総称して「本件場所」という。)に存在する固定電荷等により発生する電気力線をUV劣化防止層の内のキャリアないし不純物イオンにより結合させることにより、実質的に内部電界に変化を生じさせることがなく、また、界面準位が再結合中心とならないように不活性にすることが出来ることにあると認められる。
このような本件課題解決原理からすると、本件課題を解決するためには、本件場所に存在する固定電荷の極性が重要であると考えられるが、請求項1、2には、当該固定電荷が正電荷なのか、負電荷なのか、それとも、正電荷及び負電荷の双方であるかが特定されていない。そこで、請求項1、2に記載された発明が、当該固定電荷の極性がいかなるものであっても、本件課題を解決できると認識されるといえるかについて検討する。
まず、本件場所中に固定電荷として正電荷と負電荷が同時に(分布して)存在する態様についてみると、内部電界や電気力線は、本件場所内にとどまることから、「UV劣化防止層」はそもそも不要であると考えられる。そのため、かかる態様は、本件課題を解決することとは無関係なものであり、よって、当該各発明により本件課題を解決できるとは認識されないといえる。
次に、本件場所中に固定電荷として正電荷と負電荷のいずれか一方のみが存在する態様についてみると、電気力線を結合させるとの観点からは、「UV劣化防止層」には、当該固定電荷の極性とは反対の極性をもつ少数キャリアを生じるような極性をもつ半導体が必要であると考えられる。しかしながら、請求項1、2には、「UV劣化防止層」に用いられる半導体の極性が特定されていない。そのため、請求項1、2に記載された発明は、本件課題を解決できないと認識される態様を含んでいることになるから、当該各発明により本件課題を解決できるとは認識されないといえる。
このように、本願明細書の記載から理解される本件課題解決原理によっては、本件場所に存在する固定電荷の極性がいかなるものであっても、請求項1、2に記載された発明により本件課題を解決できると認識されるとはいえない。すなわち、本件場所中の固定電荷の極性が特定されていない請求項1、2に記載された発明は、本件課題解決原理に照らせば、本件課題を解決できると認識されるとはいえない。

(3)そこで、本願明細書等に記載された実施例をみると、【0031】-【0034】には、p+pn型素子構造が記載されており、「p+」層が「UV劣化防止層」に、「p」層及び「n」層が「光起電力発生層」に対応すると解される。
このような「UV劣化防止層」が「p+」層といったp型である場合は、当該層に発生する少数キャリアは電子となるため、本件課題解決原理によれば、本件課題を解決するためには、本件場所に発生する固定電荷の極性が正である必要があると解される。そのため、当該各請求項の記載がサポート要件を満たすためには、p+pn型素子構造の実施例でいえば、固定電荷の極性が、正の例のみならず、負の例をも提示する必要があるというべきところ、本願明細書等に記載された実施例には、固定電荷の極性が一切記載されていない。そして、本願明細書等には、その他に実施例の記載は存在しない。
したがって、本願明細書等に記載された実施例を踏まえても、本件場所中の固定電荷の極性が特定されていない請求項1、2に記載された発明が、本件課題を解決できると認識されるとはいえない。

(4)以上によれば、本件場所中の固定電荷の極性が特定されていない請求項1、2に記載された発明が、本件課題を解決できると認識されるとはいえないから、請求項1、2に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年11月11日提出の意見書において、「UV光によって帯電が生じると、半導体基体の入射表面でポテンシャルの変調が生じる場合があります。例えば、P+NP型の太陽電池であって、UV光によって正の帯電が生じると、太陽光によって発生した光電荷がN型層に移動せずに半導体基体の入射表面側に移動しやすくなります。入射表面では、半導体と絶縁体の界面があり、そこでは界面準位が存在します。界面準位によって、光電荷の再結合割合が高くなり、発生した光電荷が検出されなくなり、感度が低下します。本来、P+NP型であれば、正電荷の帯電のみが感度劣化を及ぼす原因になり、N+PN型であれば、負電荷の帯電のみが感度劣化を及ぼす原因となりますが、実験結果から、UV光によって生じる固定電荷の極性は正にも負にもなりえる場合があり、またUV光照射時間によってもトータルの帯電が、正電荷が多い場合と負電荷が多い場合とがあります。ついては、どちらの極性の帯電が起こったとしても劣化が生じないようにする必要があります。これを解決するのが、補正後の請求項1および2において規定された関係です。」旨主張している。

審判請求人の主張は、判然としないところもあるが、本件場所に発生する固定電荷の極性が正にも負にもなり、また、本件場所における固定電荷に起因する帯電が正にも負にもなるとした上で、当該各請求項において特定された条件を満たせば、本件場所における帯電の極性がいずれになったとしても、本件課題を解決できる旨主張しているものと解される。
しかしながら、本願明細書等にはそのようなことは一切記載されておらず、むしろ、【0011】の記載によれば、本件場所における固定電荷の極性が、本件課題の解決に重要であることが明らかである。よって、審判請求人の主張は、本願明細書等の記載に基づいたものではないから、採用できない。

(6)小括
したがって、本願請求項1、2に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

3 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)本願発明の認定
本願の請求項2には、上記1のとおり、「UV劣化防止層」と(その直下にある)「光起電力発生層」の境界がどのように定まるのかが不明確であることに由来する記載不備があるが、本願明細書等の【0021】には、「図1Bの例においては、例えば、層領域103がn型であれば、層領域104はp型であり、層領域109はn型である。本発明の場合、各層領域のこのn型、p型を入れ替えた極性にしても差し支えないことは容易に想到でき、本発明の範疇である。」と記載されており、同【0009】には、「光起電力発生層102は、半導体で構成される層領域(1)103、層領域(2)104で構成されている」こと、及び、「UV劣化防止層109は、層領域(3)110及び層領域(4)111で構成され、且つ、半導体不純物が含有されて所定の半導体極性が付与されている」ことが記載されていることからすれば、当該請求項2には、「UV劣化防止層」と(その直下にある)「光起電力発生層」との境界が、両層の極性が相違しているがゆえに定まる態様が、少なくとも含まれると解される。
そこで、以下、本願の請求項2がそのような態様を少なくとも含むものと解して、本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)を、請求項2の記載のとおりに認定する。
これを再掲すると、次のとおりである。
「【請求項2】
半導体接合を備えている光電荷発生層、
該光電荷発生層上に直接設けてあるUV劣化防止層、
とを、備えており、
前記UV劣化防止層は、当該UV劣化防止層の層内に不純物を含有し、該不純物のうち、
該UV劣化防止層の半導体極性に寄与する不純物が当該UV劣化防止層の層厚方向に濃度分布し且つ当該UV劣化防止層の内部に濃度分布の極大値(C_(D)Max)を有するように含有されており、当該UV劣化防止層の層厚(d1+d2)が2?60nm の範囲にあり、前記極大値(C_(D)Max)は以下の範囲にあり、
1x10^(19)個/cm^(3) ≦ 極大値(C_(D)Max)≦ 4x10^(20)個/cm^(3) ・・・式(1)
前記極大値(C_(D)Max)の位置(A0)(=「深さ(Dmax)」)は以下の範囲にあり、
0 < 深さ(Dmax)≦ 4nm ・・・・式(2)
前記極大値(C_(D)Max)の半減値(b1)の位置が前記UV劣化防止層の光入射側の表面からの深さ位置(A1)にあり、その深さ位置(A1)が、
前記極大値(C_(D)Max)の深さ位置(A0)<(「深さ位置(A1)」)≦ 20nm・・・式(3)
の範囲にあることを特徴とする光電変換装置。」

(2)引用文献について
当審における拒絶の理由に引用された国際公開第2015/170698号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
ア 「[0012] 本発明は、斯かる点に鑑み鋭意検討・研究してなされたものであり、簡単な構造で、10?400nmの広範な紫外領域の紫外線に長時間連続して照射され続けても感度劣化・暗電流特性の低下を少なくとも実質的に招かない紫外光用固体受光デバイスを提供することを主な目的とする。
本発明の別な目的は、簡単な構造で人体に有害な紫外光の照射量を精度よく適正に測定でき、周辺回路のセンサとの一体作り込みも容易にできる、広範な紫外波長領域の紫外線の長時間照射に対しても初期特性が安定している紫外光用固体受光デバイスを提供することである。」

「[0023] 図1は、本発明に係る紫外光用固体受光デバイスの構成の好適例の一つを説明するための模式的説明図の一例である。
図1に示される紫外光用固体受光デバイスの主要部100は、シリコン(Si)を主成分とする半導体基体101内に、フォトダイオード(PD)100aを有している。
フォトダイオード(PD)100aは、層領域102a、110a、111aで構成されている。
層領域102aは、第一の導電型の半導体層領域103a、該半導体層領域103aの上部に埋設されている、半導体層領域104aとで構成されている。
半導体層領域103aと半導体層領域104aは、図示してある様にその上部表面が揃えられている。
半導体層領域104aは、前記第一の導電型とは極性の異なる第二の導電型とされている。即ち、例えば、前記第一の導電型がP型であれば、前記第二の導電型はN型である。
半導体層領域103aと半導体層領域104aとで半導体接合105a(1)を形成している。
半導体層領域104aの上には、半導体層領域103aと極性が同じである半導体層領域109aが設けてある。
半導体層領域103aと半導体層領域109aとで半導体接合105a(2)を形成している。
半導体層領域103aと半導体層領域109aは、第一の半導体不純物(1)が含有されることで第一の導電型とされる。尚、「半導体不純物」を、以後、「不純物原子」と記すこともある。
[0024] 次に、図1Aに加え図1Bも参照しながら説明する。
半導体層領域103a中の半導体不純物(1)は、半導体層領域103aの層厚方向に分布した状態で半導体層領域103a中に含有されている。
半導体不純物(1)の半導体層領域103aの層厚方向の分布には、半導体接合105a(1)の下方位置に、半導体不純物(1)の最大含有濃度位置(D1)106aが設けてある。尚、「最大含有濃度位置」を以後、「最大濃度位置」と記すこともある。
半導体層領域109aも半導体層領域103aと同様に、半導体不純物(1)が層厚方向に分布した状態で半導体層領域109a中に含有されており、半導体不純物(1)の最大含有濃度位置108aが設けられている。
[0025] 半導体層領域109aは、その上方部に、最大濃度位置108aを含み、UV-A,UV-Bの光の吸収がないかまたは実効的にないと見做される厚みd1(半導体基体の表面107の位置から深さ方向で位置A1までの厚み)の層領域111aを有する。
[0026] 本発明においては、位置A1は、最大濃度位置108aと同じ位置であっても設計上支障はない。しかしながら、位置A1は、UV-A,UV-Bの光の吸収がないかまたは実効的にないと見做し得る厚みd1が確保されるのであれば、製造許容として最大濃度位置108aの下方に位置することが好ましい。
[0027] 位置A1と位置B1の間の層領域110aについては、最大濃度位置108aを適正な位置に設けることが出来ることを条件に、その層厚は適宜所望の設計に従って決めることが出来る。
本願の発明者達は、その主要部100を上述した構成の紫外光用固体受光デバイスを作成し、半導体層領域103a、104a,109aに含有する半導体不純物の含有量、含有分布を多種多様に変化させながら鋭意研究・検討を重ねることで遠紫外光や真空紫外光の長時間連続照射によっても感度、暗電流の劣化が生じない或いは実質的には生じない紫外光用固体受光デバイスを見出すことが出来た。
本願の発明者達の研究・検討の結果によれば、最大濃度位置108aにおける不純物原子の濃度は、1×10^(19)cm^(-3)以上であれば、感度劣化、暗電流増加が起こらない或いは実質的に起こらないことが確かめられている。
この濃度であれば、遠紫外光や真空紫外光の照射によって発生する固定電荷によって生じる電気力線の全て若しくは実質的に全てを終端させることができ、その結果、遠紫外光や真空紫外光の長時間連続照射によっても感度、暗電流の劣化が生じない或いは実質的には生じない紫外光用固体受光デバイスが得られることが判明した。
本願の発明者達の研究・検討の結果によれば、上記の最大濃度位置108を、半導体基体101の表面107から深さ数nm以内の範囲に設けることで、上記の特性をより強固にすることが出来ることも判明している。
本発明は、これらの点に基づくものである。
半導体接合108aの位置は、紫外光の感度を高くするために、例えば50nm?80nm程度の位置に形成することが望ましい。
しかし、半導体接合108aの電界強度を出来るだけ小さくして半導体接合で発生する暗電流を小さくするためには、半導体接合105a(2)付近の半導体層領域109aの半導体不純物の濃度を低くすることが望ましい。製造の困難さを避けるためには、半導体接合105a(2)付近の半導体層領域109aの半導体不純物の濃度は、1x10^(17)cm^(-3)以下、1x10^(15)cm^(-3)以上、とすることが好ましい。好ましくは、1x10^(16)cm^(-3)程度にするのが望ましい。
上記の様に構成した本発明の受光デバイスと従来の受光デバイスについて、
光波長204nmにおける光強度が120μW/cm^(2)である重水素ランプを光源として、1500分連続照射した場合、以下のことが確認されている。
即ち、本発明の受光デバイスでは、光感度低下も暗電流特性の低下も生じない。これに対して、特許文献1に記載の受光デバイスでは、紫外光帯域(波長:200?380nm)の光感度が50%以上劣化し、暗電流は初期値に対して10倍以上増加する。
本発明の場合は、照射時間を12000分に延ばしても、光感度の劣化も暗電流の増加も数%以内であり、実用的に問題ないことが確認されている。
本発明の紫外光用固体受光デバイスは、遠紫外光や真空紫外光の照射を受けない製品として製造されたものであっても、不可抗力で遠紫外光や真空紫外光の照射を受けても感度や暗電流の特性劣化を起こさないので、用途的には、遠紫外光や真空紫外光の照射光量を計測する製品に限定されるものではない。」

「[0055] 位置A1と位置B1の間の層領域110bについては、最大濃度位置(2?2)108bを適正な位置に設けることが出来ることを条件に、その層厚は適宜所望の設計に従って決めることが出来る。本発明の好適な実施態様においては、位置A1と位置A2が、位置B1と位置B2が、それぞれ同じ位置か若しくは実質的に同じ位置であることが望ましい。
[0056] 層領域110aの層厚と層領域110bの層厚は、上記した条件を満たすように設計上の所望に従って適宜決めることが望ましい。具体的には、層領域110aの層厚と層領域110bの層厚は、6nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。」

図1A、図1Bは、以下のとおりである。
また、図1Aの記載から、層領域110aは、位置A1と位置B1の間の半導体層領域109aで構成されていることが、見て取れる。


イ 引用発明
したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「シリコン(Si)を主成分とする半導体基体101内に、層領域102a、110a、111aで構成されているフォトダイオード(PD)100aを有し、([0023])
層領域102aは、第一の導電型の半導体層領域103a、該半導体層領域103aの上部に埋設されている、第二の導電型の半導体層領域104aとで構成され、([0023])
半導体層領域103aと半導体層領域104aとで半導体接合105a(1)を形成し、([0023])
半導体層領域104aの上には、半導体層領域103aと極性が同じである第一の導電型の半導体層領域109aが設けられ、([0023])
層領域110aは、位置A1と位置B1の間の半導体層領域109aで構成され、(図1A)
半導体層領域103aと半導体層領域109aとで半導体接合105a(2)を形成し、([0023])
半導体層領域109aは、その上方部に、最大濃度位置108aを含み、UV-A,UV-Bの光の吸収がないかまたは実効的にないと見做される厚みd1(半導体基体の表面107の位置から深さ方向で位置A1までの厚み)の層領域111aを有し、([0025])
最大濃度位置108aにおける不純物原子の濃度は、1×10^(19)cm^(-3)以上であり、この濃度であれば、遠紫外光や真空紫外光の長時間連続照射によっても感度、暗電流の劣化が生じない或いは実質的には生じない紫外光用固体受光デバイスが得られ、([0027])
最大濃度位置108を、半導体基体101の表面107から深さ数nm以内の範囲に設け、([0027])
半導体接合108aの電界強度を出来るだけ小さくして半導体接合で発生する暗電流を小さくするためには、半導体接合105a(2)付近の半導体層領域109aの半導体不純物の濃度を低くする([0027])
紫外光用固体受光デバイス。([0023])」

(3)対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明は「紫外光用固体受光デバイス」であり、「『半導体層領域103aと半導体層領域104aとで半導体接合105a(1)を形成し』ている『層領域102a』」であることから、紫外線が照射されると層領域102aで電荷が発生すると考えるのが自然である。
そうすると、引用発明の「『第一の導電型の半導体層領域103a、該半導体層領域103aの上部に埋設されている、第二の導電型の半導体層領域104aとで構成され、半導体層領域103aと半導体層領域104aとで半導体接合105a(1)を形成し』ている『層領域102a』」は、本願発明の「半導体接合を備えている光電荷発生層」に、
引用発明の「紫外光用固体受光デバイス」は、本願発明の「光電変換装置」に、
それぞれ相当する。

イ 引用発明は「層領域110aは、位置A1と位置B1の間の半導体層領域109aで構成され、」「半導体層領域109aは、その上方部に、最大濃度位置108aを含み、UV-A,UV-Bの光の吸収がないかまたは実効的にないと見做される厚みd1(半導体基体の表面107の位置から深さ方向で位置A1までの厚み)の層領域111aを有し、最大濃度位置108aにおける不純物原子の濃度は、1×10^(19)cm^(-3)以上であり、この濃度であれば、遠紫外光や真空紫外光の長時間連続照射によっても感度、暗電流の劣化が生じない或いは実質的には生じない紫外光用固体受光デバイスが得られ」と特定されており、さらに、半導体層領域109aが第一の導電型であって半導体層領域104aが第二の導電型であり、両層の極性が相違していることから、半導体層領域109aで構成されている層領域110a及び層領域111aは、紫外光用固体受光デバイスのUV劣化を防止する層といえる。
また、引用発明の「不純物原子」は、本願発明の「半導体極性に寄与する不純物」に、相当する。
そうすると、引用発明の「『層領域110aは、位置A1と位置B1の間の半導体層領域109aで構成され、』『層領域102a』の『半導体層領域104aの上には、半導体層領域103aと極性が同じである第一の導電型の半導体層領域109aが設けられ、』『半導体層領域109aは、その上方部に、最大濃度位置108aを含み、UV-A,UV-Bの光の吸収がないかまたは実効的にないと見做される厚みd1(半導体基体の表面107の位置から深さ方向で位置A1までの厚み)の層領域111aを有し、最大濃度位置108aにおける不純物原子の濃度は、1×10^(19)cm^(-3)以上であり、この濃度であれば、遠紫外光や真空紫外光の長時間連続照射によっても感度、暗電流の劣化が生じない或いは実質的には生じない紫外光用固体受光デバイスが得られ』」は、本願発明の「該光電荷発生層上に直接設けてあるUV劣化防止層、とを、備えており、前記UV劣化防止層は、当該UV劣化防止層の層内に不純物を含有し、該不純物のうち、該UV劣化防止層の半導体極性に寄与する不純物が当該UV劣化防止層の層厚方向に濃度分布し且つ当該UV劣化防止層の内部に濃度分布の極大値(C_(D)Max)を有するように含有されており、前記極大値(C_(D)Max)は以下の範囲にあり、1x10^(19)個/cm^(3) ≦ 極大値(C_(D)Max)≦ 4x10^(20)個/cm^(3) ・・・式(1) 」に相当する。

ウ そうすると、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致し、相違する。
(一致点)
「半導体接合を備えている光電荷発生層、
該光電荷発生層上に直接設けてあるUV劣化防止層、
とを、備えており、
前記UV劣化防止層は、当該UV劣化防止層の層内に不純物を含有し、該不純物のうち、
該UV劣化防止層の半導体極性に寄与する不純物が当該UV劣化防止層の層厚方向に濃度分布し且つ当該UV劣化防止層の内部に濃度分布の極大値(C_(D)Max)を有するように含有されており、前記極大値(C_(D)Max)は以下の範囲にあり、
1x10^(19)個/cm^(3) ≦ 極大値(C_(D)Max)≦ 4x10^(20)個/cm^(3) ・・・式(1)
光電変換装置。」

(相違点)
UV劣化防止層について、本願発明は、
(i)「層厚(d1+d2)が2?60 nmの範囲にあり」、
(ii)「前記極大値(C_(D)Max)の位置(A0)(=「深さ(Dmax)」)は以下の範囲にあり、
0 < 深さ(Dmax)≦ 4nm ・・・・式(2)」、
(iii)「前記極大値(C_(D)Max)の半減値(b1)の位置が前記UV劣化防止層の光入射側の表面からの深さ位置(A1)にあり、その深さ位置(A1)が、前記極大値(C_(D)Max)の深さ位置(A0)<(「深さ位置(A1)」)≦ 20nm・・・式 (3)の範囲にある」のに対し、
引用発明はそのようなものか明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点について
(ア)(ii)について、引用発明は「最大濃度位置108を、半導体基体101の表面107から深さ数nm以内の範囲に設け」と認定されていることから、最大濃度位置108aを、深さ4nm以下の範囲にすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

(イ)(i)について、本願発明の(UV劣化防止層の)「層厚(d1+d2)」に相当する引用発明の構成は、上記(2)イのとおり、引用発明の「層領域110a」及び「層領域111a」が本願発明の「UV劣化防止層」に相当することから、「層領域110a」の層厚と「層領域111a」の層厚を併せたものといえる。そして、「層領域110a」の層厚につき、引用文献1の[0056]には「層領域110aの層厚と層領域110bの層厚は、6nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。」と記載されていることから、「6nm以下」であることが理解できる。
次に、「層領域111a」の膜厚につき、引用文献1の[0025]には「厚みd1(半導体基体の表面107の位置から深さ方向で位置A1までの厚み)の層領域111aを有する。」、引用文献1の[0027]には「最大濃度位置108を、半導体基体101の表面107から深さ数nm以内の範囲に設ける」、引用文献1の[0026]には「位置A1は、最大濃度位置108aと同じ位置であっても設計上支障はない。」と記載されていることから、数nm以内であってもよいことが理解できる。
したがって、引用発明において、層領域110aと層領域111aとを合わせた層厚は、半導体基体の表面107から深さ数nm以内に6nm以内を加えた値程度になることも想定されているといえる。
よって、上記(i)の点は、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

(ウ)(iii)について、引用発明は、「半導体層領域109aは、その上方部に、最大濃度位置108aを含み、」「最大濃度位置108aにおける不純物原子の濃度は、1×10^(19)cm^(-3)以上であり、」「最大濃度位置108を、半導体基体101の表面107から深さ数nm以内の範囲に設け」るとともに、「半導体接合108aの電界強度を出来るだけ小さくして半導体接合で発生する暗電流を小さくするためには、半導体接合105a(2)付近の半導体層領域109aの半導体不純物の濃度を低くする」と認定されている。
このように、引用発明は、不純物原子の濃度につき、最大濃度位置108aが存在するとともに、半導体接合105a(2)付近の半導体層領域109aの半導体不純物の濃度を低くするものであるから、不純物原子の最大濃度の半減値の位置は、最大濃度位置108aから、さほど離れた位置とはならないものと解される(なお、引用文献1の[0023]には「「半導体不純物」を、以後、「不純物原子」と記すこともある。」と記載されていることから、引用文献1において「半導体不純物」と「不純物原子」は同じ意味で用いられている。)。
そして、例えば、引用文献1の図1A及び図1Bの記載からみて、引用発明における不純物原子の最大濃度の半減値の位置は、半導体基体の表面107から数nm以内に6nm以内を加えた値程度の位置になることも想定されているといえる。すなわち、当該図1A及び図1Bからすると、層領域111aと層領域102aとの間の半導体接合105a(2)における不純物原子の濃度は、1×10^(16)cm^(-3)であることが見て取れるとともに、最大濃度位置108aにおける不純物原子の濃度は、1×10^(19)cm^(-3)以上であることが見て取れるから、不純物原子の最大濃度の半減値の位置は、層領域110aと層領域111aを合わせた領域のいずれかに存在する。そして、上記(イ)で検討したように、層領域110aと層領域111aとを合わせた層厚は、半導体基体の表面107から深さ数nm以内に6nm以内を加えた値程度の位置になることも想定されていることから、その場合には、不純物原子の最大濃度の半減値の位置は、最大濃度位置108a≦最大濃度の半減値の位置≦数nm以内に6nm以内を加えた値程度となるといえる。
したがって、引用発明において、不純物原子の最大濃度の半減値の位置を、最大濃度位置108a≦最大濃度の半減値の位置≦20nmとすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

イ そうすると、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

ウ そして、相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、令和2年11月11日提出の意見書において、
「引用文献1(国際公開第2015/17069号)は、補正後の請求項1および2において規定された関係を開示していません。引用文献1に接した当業者がといえども、『半減値の層内位置と、他のパラメーターとの関係には、有機的関連性があり且つその最適関係があること』を予測することは困難と考えます。」
旨主張している。

(イ)しかしながら、不純物原子の最大濃度の半減値の位置は、上記アないしウで検討したとおりである。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。

オ まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-12-25 
結審通知日 2020-12-28 
審決日 2021-01-22 
出願番号 特願2018-561112(P2018-561112)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 幹  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 吉野 三寛
野村 伸雄
発明の名称 太陽電池  
代理人 藤本 健司  

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