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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1372123
審判番号 不服2020-10372  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-27 
確定日 2021-03-30 
事件の表示 特願2016- 557「トナー、トナー収容ユニット及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日出願公開、特開2017- 97315、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-557号(以下「本件出願」という。)は、平成28年(2016年)1月5日(優先権主張 平成27年(2015年)1月5日、平成27年(2015年)6月1日、平成27年(2015年)11月16日)を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年11月21日付け:拒絶理由通知書
令和2年 1月22日提出:意見書、手続補正書
令和2年 4月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 7月27日提出:審判請求書

2 原査定の概要
(1)理由1(新規性)
本件出願の請求項1?4、6?10に係る発明は、本件出願の優先権主張の基礎となる最先の出願(以下「最先出願」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)理由2(進歩性)
本件出願の請求項1?4、6?10に係る発明は、最先出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、最先出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2004-4691号公報

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項10に係る発明は、令和2年1月22日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項10に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナーであって、
前記トナーのTHF可溶成分のGPCにより測定される分子量分布において、分子量が300以上5000以下の範囲における任意の分子量Mを選んだとき、前記分子量Mの±300の範囲における以下に定義されるピーク強度の最大値と最小値の差が30以下であり、
前記トナーのTHFによるソックスレー抽出により得られた抽出液を乾燥させて得たトナー抽出物のGPCによる分子量分布において、重量平均分子量Mwが3000?11230であることを特徴とするトナー。
ただし、GPCにより測定される分子量分布は、カラムとしてTSK-GEL SUPER HZ2000、TSK-GEL SUPER HZ2500、及び、TSK-GEL SUPER HZ3000を用いて求められたものである。
ピーク強度:GPC測定により、縦軸が強度、横軸が分子量の分子量分布曲線でプロットし、分子量が20000以下の範囲において最大となる強度の値を100としたときの相対的な値
【請求項2】
前記トナーのTHFによるソックスレー抽出により得られた抽出液を乾燥させて得たトナー抽出物について、前記トナー抽出物のガラス転移温度Tgが40℃?60℃であり、
前記トナー抽出物のGPCによる分子量分布において、重量平均分子量Mwが3000?10000であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が6以下であることを特徴とする請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記トナーのTHFによるソックスレー抽出により得られた抽出液を乾燥させて得たトナー抽出物について、前記トナー抽出物のガラス転移温度Tgが42℃?50℃であり、
前記トナー抽出物のGPCによる分子量分布において、重量平均分子量Mwが3500?5000であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が2.5以下であることを特徴とする請求項2に記載のトナー。
【請求項4】
前記トナーの粘弾性測定による貯蔵弾性率G’(Pa)と損失粘性率G’’(Pa)との比率tanδ(G’’/G’)の値が、測定温度120℃以上160℃以下の温度領域において、0.40以上1.00以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のトナー。
【請求項5】
KBr法(全透過法)で前記トナーの赤外吸収スペクトルを測定し、得られた赤外吸収スペクトルにおいて、ウレタン結合に由来するC=O伸縮振動によるピーク高さ(Pウレタン)と、ウレア結合に由来するC=O伸縮振動によるピーク高さ(Pウレア)との比(Pウレタン/Pウレア)が、9.0以上23.0以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のトナー。
【請求項6】
前記トナーのTHFによるソックスレー抽出により得られた抽出液を乾燥させて得たトナー抽出物について、前記トナー抽出物の酸価AVが5?20KOHmg/gであり、水酸基価OHVが20KOHmg/g以下であることを特徴とする1?5のいずれかに記載のトナー。
【請求項7】
前記トナーの酢酸エチルによるソックスレー抽出により得られる不溶成分のゲル分量が、10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のトナー。
【請求項8】
前記トナーの高架式フローテスターを用いて測定したフローカーブにおける1/2法軟化点(T1/2)が105℃以上125℃以下であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のトナー。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載のトナーを収容したことを特徴とするトナー収容ユニット。
【請求項10】
静電潜像担持体と、
該静電潜像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
請求項1?8のいずれかに記載のトナーを用いて、該静電潜像を現像して可視像を形成する現像手段と、
該可視像を記録媒体上に転写する転写手段と、
該記録媒体上に転写された転写像を定着させる定着手段とを有することを特徴とする画像形成装置。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、最先出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2004-4691号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【請求項1】
結着樹脂としてポリエステル樹脂を使用する電子写真用トナーにおいて、
結着樹脂であるポリエステル樹脂のTHF(テトラヒドロフラン)可溶分のGPCにより測定される分子量分布における分子量が3200?5000にメインピークを有し、
結着樹脂であるポリエステル樹脂のTHF不溶分の含有率が5.4?16.0%であることを特徴とする電子写真用トナー。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電子写真用トナー(以下、単に「トナー」と記すことがある)に関し、より詳細には長期間の使用に対しても優れた性能維持性を示すトナーに関するものである。
・・・中略・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低い定着温度でもオフセットが発生せず、しかも、オフセットしない温度領域が広いトナーを提供することにある。
なお、特許文献1記載のトナーは結着樹脂の分子量分布のメインピ-クは同等の実施例があるもののTHF不溶分の含有量が多いためコ-ルドオフセットが発生する恐れがあり、コ-ルドオフセットの発生は考慮されていない。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、結着樹脂としてポリエステル樹脂を使用する電子写真用トナーにおいて、結着樹脂であるポリエステル樹脂のTHF(テトラヒドロフラン)可溶分のGPCにより測定される分子量分布における分子量が3200?5000にメインピークを有し、結着樹脂であるポリエステル樹脂のTHF不溶分の含有率が5.4?16.0%であることを特徴とする電子写真用トナーが提供される。
【0009】
本発明において、結着樹脂として使用されるポリエステル樹脂のTHF可溶分の分子量分布はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて以下のようにして測定される。
ポリエステル樹脂100mgとTHF(テトラヒドロフラン)5mlとを混合し、1時間溶解させた後、その溶液をポリテトラフルオロエチレンからなるフィルター(0.45μm以下の粒子が通過する)を用いて可溶分を抽出する。この溶液を測定する。フィルターを通過しなかった分をTHF不溶分とする。この不溶分の重量を測定し、ポリエステル樹脂総重量(この例では100mg)に対する割合をTHF不溶分の含有率としている。
これらは、例えばソックスレー抽出装置等を使用して抽出することもできる。
【0010】
測定においてはTHFを溶媒として、GPC装置のカラムを40℃で安定化させた後、この温度でカラムに毎分1000μlの流速で流し、THF試料溶液を約100μl注入して測定する。試料の有する分子量分布は、数種の単分散ポリスチレン標準試料を用いて作成された検量線の対数値とカウント数との関係から算出される。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、たとえば、分子量500?100万のポリスチレンなどを用い得る。
カラムとしては、スチレン-ジビニルベンゼン系のポリマー系カラムなどを挙げることができる。
なお、測定に用いたGPC装置は,東ソ-製のHLC-8220GPCであり,カラムは東ソ-製のTFKgel GMHxl(2連)を用いる。(合議体注:上記「TFKgel GMHxl」は、「TSKgel GMHxl」の誤記である。)
【0011】
なお、メインピークとは、最も大きなピークのことであり、本発明ではこのメインピークが分子量が3200?5000にあることが重要である。
具体的に図1を用いて説明する。
図1はGPCにより測定された分子量分布図の一例である。この分子量分布図における曲線の極小値から下へ直線を引く。そうした直線と直線の間の部分をピーク成分とする。図では1?5の数字の部分がそれぞれのピーク成分である。例えば、ピーク成分3の面積比率とは、ピーク成分3の面積をピーク成分1?5の面積の総和で割ったものである。この面積比率が最も大きいピーク、すなわち図1の例では、ピーク成分3がメインということになる。従って、メインピークはピーク成分3のピーク分子量であり、図中のXの分子量である。また、ピークが実質的に一つしかない場合には、そのピークがメインピークということになる。」
(当合議体注:【0011】の下から4行目及び3行目の「ピーク成分3」は、「ピーク成分4」の誤記である。)

イ 「【0017】
本発明のトナーの結着樹脂として使用されるポリエステル樹脂は、主として多価カルボン酸類と多価アルコール類との縮重合により得られるものであって、多価カルボン酸類としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸;マレイン酸、フマール酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、マロン酸、アゼライン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、メチルメジック酸等の脂環式ジカルボン酸;これらカルボン酸の無水物や低級アルキルエステルが挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用される。
【0018】
ここで3価以上の成分の含有量は架橋度に依存し、所望の架橋度とするためにはその添加量を調整すればよい。一般的には、3価以上の成分の含有量は15mol%以下が好ましい。
【0019】
一方、ポリエステル樹脂に用いられる多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタングリコール、1,6-ヘキサングリコール等のアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のアルキレンエーテルグリコール類;1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環族多価アルコール類;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類及びビスフェノール類のアルキレンオキサイドを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。」

ウ 「【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
結着樹脂の製造例A
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下PO-BPAと略す)40mol%、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下EO-BPAと略す)10mol%、テレフタル酸45mol%と無水トリメリット酸5mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Aを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
【0034】
結着樹脂の製造例B
PO-BPA41mol%、テレフタル酸59mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Bを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
【0035】
結着樹脂の製造例C
PO-BPA39mol%、EO-BPA10mol%、テレフタル酸44mol%と無水トリメリット酸7mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Cを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
【0036】
結着樹脂の製造例D
PO-BPA42mol%、テレフタル酸58mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Dを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
【0037】
結着樹脂の製造例E
PO-BPA43mol%、EO-BPA8mol%、テレフタル酸47mol%と無水トリメリット酸2mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Eを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
【0038】
結着樹脂の製造例F
PO-BPA39mol%、テレフタル酸61mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Fを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
【0039】
結着樹脂の製造例G
PO-BPA43mol%、テレフタル酸57mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Gを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
結着樹脂の製造例H
PO-BPA50mol%、テレフタル酸50mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを上記原料を5リットル4口フラスコに仕込み、還流冷却器、水分離装置、N2ガス導入管、温度計及び撹拌装置を付し、フラスコ内にN2ガスを導入230℃で8時間縮重合反応を行いポレステル樹脂Hを得た。(合議体注:上記「ポレステル樹脂」は、「ポリエステル樹脂」の誤記である。)
【0040】
トナー用樹脂の製造
得られたポリエステル樹脂A?Hを、適宜選択してヘンシェルミキサーにて混合し、トナー用樹脂1?8を得た。その混合した樹脂と混合比率及び物性を表1に示す。
【0041】
実験例1?3、比較例1?5
結着樹脂として上述のようにして製造したポリエステル樹脂(各実施例と比較例との対応は表1参照)を100重量部、帯電制御剤としてニグロシン染料(N-01:オリエント化学製)を5重量部、着色剤としてカ-ボンブラック(330R:Cabot社製)を10重量部、離型剤として低分子量ポリプロピレン(ユ-メックス100TS:三洋化成製)を5重量部それぞれをヘンシェルミキサーにて前混合した後、120℃に設定した二軸混練押し出し機(PCM-30:池貝鉄工所社製)によって溶融混練した。その後にドラムフレーカーで冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した。次に機械式ミルで微粉砕し、風力分級機を用いて分級して、体積平均粒径8.0μmのトナー粒子を作製した。そして、このトナー粒子100重量部に対して、シリカ(HVK-2150:クラリアント社製)0.4重量部を投入し、ヘンシェルミキサーで高撹拌混合してトナーを作製した。そして、このトナー5重量部と、フェライトキャリヤ(品番:F95-1530A:パウダーテック社製)95重量部を摩擦混合して二成分系現像剤とした。
【0042】
前記作製した現像剤を、複写機(Creage 7350 京セラミタ社製)の改造機の現像器に投入し、画像を形成して以下の評価を行った。
【0043】
耐オフセット性
定着温度を130℃と210℃として画像形成を行い、それぞれについて定着ローラにトナーが付着していたかどうかを確認し、オフセットが発生しなかった場合を○、発生した場合を×とした。130℃でのオフセットをコールドオフセットとし、210℃でのオフセットをホットオフセットとした。オフセットの測定にはA4サイズの用紙(富士ゼロックス社製、C2紙、70g紙)を用い短辺を搬送方向とした。測定に用いた画像は用紙の長辺の中点を結ぶ線上に3×3cmのベタ画像を3個、その中心が線上となるように配置し、また、中央のベタ画像はその中心を用紙の中心と合わせ、画像の中心間の間隔は7cmとした。ベタ画像のトナー量は0.7mg/cm^(2)であった。
評価結果を表1に合わせ記す。
【表1】

【0044】
実施例1?3では、定着温度が130℃、210℃でのオフセットが発生せず、低温での定着が可能であり、かつオフセットが発生しない広い温度領域を確保することができた。比較例1,3ではホットオフセットが発生し、比較例2ではコールドオフセットとホットオフセットの両方が発生し、比較例4、5ではコ-ルドオフセットが発生した。
【0045】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明のトナーを用いることによって、低い定着温度でもオフセットが発生せず、しかも、オフセットしない温度領域を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るメインピークを説明するための一例であるGPCにより測定された分子量分布図。

【図1】



(2)引用文献1に記載された発明
上記ウによれば、引用文献1の【0041】には、実施例1として、「トナー粒子100重量部に対して」、「シリカ」「0.4重量部を投入し」、「高攪拌混合して」作製した「トナー」が記載されている。そして、引用文献1の【0041】の記載から、「トナー粒子」は、「製造したポリエステル樹脂」、「帯電制御剤としてニグロシン染料」、「着色剤としてカーボンブラック」及び「離型剤として低分子量ポリプロピレン」から得られるものと理解され、「製造したポリエステル樹脂」は、引用文献1の【0033】?【0034】に記載された工程にて調整されたものである。
くわえて、引用文献1の【0044】には、上記「トナー」の耐オフセット性の評価結果が記載されている。
以上勘案すると、引用文献1には、実施例1として、次の「トナー」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
なお、以下では、引用文献1における「ポレステル樹脂」(誤記)は、「ポリエステル樹脂」に改めた。

「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下PO-BPAと略す)40mol%、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下EO-BPAと略す)10mol%、テレフタル酸45mol%と無水トリメリット酸5mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポリエステル樹脂Aを得、
PO-BPA41mol%、テレフタル酸59mol%と触媒としての酸化ジブチル錫4gを5リットル4口フラスコに仕込み、フラスコ内にN2ガスを導入しながら230℃で8時間縮重合反応を行いポリエステル樹脂Bを得、
得られたポリエステル樹脂A?Bを、A:B=6:4の混合重量比でヘンシェルミキサーにて混合し、トナー用樹脂1を得、
結着樹脂として上述のようにして製造したポリエステル樹脂(トナー用樹脂1)を100重量部、帯電制御剤としてニグロシン染料を5重量部、着色剤としてカ-ボンブラックを10重量部、離型剤として低分子量ポリプロピレンを5重量部それぞれをヘンシェルミキサーにて前混合した後、120℃に設定した二軸混練押し出し機によって溶融混練し、その後にドラムフレーカーで冷却し、ハンマーミルで粗粉砕し、次に機械式ミルで微粉砕し、風力分級機を用いて分級して、体積平均粒径8.0μmのトナー粒子を作製し、このトナー粒子100重量部に対して、シリカ0.4重量部を投入し、ヘンシェルミキサーで高撹拌混合して作製したトナーであって、
定着温度が130℃、210℃でのオフセットが発生せず、低温での定着が可能であり、かつオフセットが発生しない広い温度領域を確保することができるトナー。」

2 対比及び判断
(1)対比
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

結着樹脂及び離型剤を含有するトナー
引用発明の「トナー用樹脂1」は、技術的にみて、本願発明の「結着樹脂」に相当する。また、引用発明の「離型剤」及び「トナー」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「離型剤」及び「トナー」にそれぞれ相当する。
そうしてみると、引用発明の「トナー」は、本願発明の「トナー」における、「少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有する」という点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「少なくとも結着樹脂及び離型剤を含有するトナー。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明の「トナー」が、「 前記トナーのTHF可溶成分のGPCにより測定される分子量分布において、分子量が300以上5000以下の範囲における任意の分子量Mを選んだとき、前記分子量Mの±300の範囲における以下に定義されるピーク強度の最大値と最小値の差が30以下であり、
前記トナーのTHFによるソックスレー抽出により得られた抽出液を乾燥させて得たトナー抽出物のGPCによる分子量分布において、重量平均分子量Mwが3000?11230であることを特徴とするトナー。
ただし、GPCにより測定される分子量分布は、カラムとしてTSK-GEL SUPER HZ2000、TSK-GEL SUPER HZ2500、及び、TSK-GEL SUPER HZ3000(以下「特定のカラム」という。)を用いて求められたものである。
ピーク強度:GPC測定により、縦軸が強度、横軸が分子量の分子量分布曲線でプロットし、分子量が20000以下の範囲において最大となる強度の値を100としたときの相対的な値」とされるのに対し、引用発明の「トナー」は、特定のカラムを用いて求められた、GPCにより測定される分子量分布が上記下線の条件(以下「特定条件」という。)を満たすか明らかでない点。

(3)判断
相違点について検討する。
ア 引用文献1には、引用発明の「トナー」の分子量分布について、メインピークが4,260であること以外に具体的な記載はない。
また、引用文献1の【0011】には、トナーの分子量分布に関して、「メインピークとは、最も大きなピークのことであり、本発明ではこのメインピークが分子量が3200?5000であることが重要である。具体的に図1を用いて説明する。図1はGPCにより測定された分子量分布図の一例である。この分子量分布図における曲線の極小値から下へ直線を引く。そうした直線と直線の間の部分をピーク成分とする。図では1?5の数字の部分がそれぞれのピーク成分である。例えば、ピーク成分3の面積比率とは、ピーク成分3の面積をピーク成分1?5の面積の総和で割ったものである。この面積比率が最も大きいピーク、すなわち図1の例では、ピーク成分3がメインということになる。従って、メインピークはピーク成分3のピーク分子量であり、図中のXの分子量である。」と記載されている。くわえて、同文献の【図面の簡単な説明】には、「本発明に係るメインピークを説明するための一例であるGPCにより測定された分子量分布図」と記載されている。以上によれば、図1が引用発明の「トナー」の分子量分布を示すものであるかは不明というほかない。
(当合議体注:図1の分子量分布における、メインピーク以外の複数のピークは、ピークが複数ある場合のメインピークの定め方を説明するための一例として記載されたものにすぎないとみることもできる。)

イ 仮に、図1の分子量分布が、引用発明の「トナー」の分子量分布を示すものであると解されたとしても、当該分子量分布から特定の分子量範囲(300以上5000以下)におけるピーク強度の最大値と最小値の差についての定量的な判断は困難であり、前記分子量分布が相違点に係る特定条件を満たすとまではいえない。また、さらに当該分子量分布が特定条件を仮に満たしていたとしても、GPCにより得られる分子量分布は、使用するカラムによって異なることは技術常識である。
(当合議体注:本件出願の明細書の記載(段落【0029】?【0030】、図8?11)からも、用いるカラムが相違すると分子量分布におけるピークの存否に差が生じることが裏付けられている。また、このことは、引用文献1に記載されたGPC装置のカラム(東ソー製:TSKgel GMHxl)と、本願発明のカラム(TSK-GEL SUPER HZ2000等)とは、カラム充てん剤の粒子径等も異なり、特に、後者はオリゴマー等の低分子分離用カラムとして分離性能面から推奨されていることからも推認できることである。)
そうしてみると、仮に図1の分子量分布図が特定条件を満たしていたとしても、引用発明の「トナー」が、本願発明の特定のカラムを用いた場合においても、なお特定条件が満たされるかは明らかでない。

ウ さらに、引用文献1には、引用発明の「トナー」の分子量分布について、特定の分子量範囲(300以上5000以下の範囲)に着目して、その範囲におけるピーク強度の最大値と最小値に着目するという技術思想は記載されていない。
また、特定のカラムにより測定される分子量分布において、分子量が300以上5000以下の範囲における任意の分子量Mを選んだとき、前記分子量Mの±300の範囲におけるピーク強度の最大値と最小値の差が30以下とすることが何らかの意味において有益であることが、最先出願前における技術常識であったことを示す他の証拠もない。

エ さらにすすんで検討する。
製造方法の観点から、引用発明の「トナー」が、相違点に係る特定条件を満たす余地があるかについても念のために検討する。

本件出願の明細書の記載を参照(段落【0023】)すると、「ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下」と制御する方法として、本願発明は結着樹脂の末端親水基を親油基に置換する方法(末端のヒドロキシル基をフェノキシ酢酸や安息香酸で置換する等)や樹脂合成の反応条件を加速する方法(高温で長時間反応させ、減圧度を上げてモノマーを除去する等)などを行うことが記載されている。一方、引用発明の「トナー」は、PO-BPA40mol%、EO-BPA10mol%、テレフタル酸45mol%及び無水トリメリット酸からなるポリエステル樹脂A、PO-BPA41mol%及びテレフタル酸59mol%からなるポリエステル樹脂Bを含有し、引用文献1の段落【0044】には、定着温度が130℃、210℃でのオフセットが発生せず、低温での定着が可能であり、かつオフセットが発生しない広い温度領域を確保することができることは記載されているものの、その製造において、結着樹脂の末端親水基を親油基に置換する方法(末端のヒドロキシル基をフェノキシ酢酸や安息香酸で置換する等)や樹脂合成の反応条件を加速する方法(高温で長時間反応させ、減圧度を上げてモノマーを除去する等)などの「ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下」とする調整を行っていない。

オ したがって、本願発明は、引用発明と同一の発明であるということはできず、また、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものということもできない。
また、引用文献1の他の記載(例えば、他の実施例、特許請求の範囲及び図1等)から、主たる引用発明を認定したとしても判断は同様である。

(4)請求項2?10に係る発明について
本件出願の請求項2?10に係る発明は、いずれも、本願発明に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(3)で述べたのと同じ理由により、これらの発明も、引用文献1に記載された発明と同一の発明ということはできず、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第3 原査定についての判断
理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
本件出願の請求項1?10に係る発明が、引用発明と同一ではなく、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができないことは、上記「第2」「2」「(3)」及び「(4)」で述べたとおりである。
よって、原査定は、維持できない。

第4 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?10に係る発明は、引用文献1に記載された発明ということはできないから、特許法29条1項3号に該当しない。また、本件出願の請求項1?10に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないということもできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-03-11 
出願番号 特願2016-557(P2016-557)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
神尾 寧
発明の名称 トナー、トナー収容ユニット及び画像形成装置  
代理人 舘野 千惠子  

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