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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06T
管理番号 1372183
審判番号 不服2020-291  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-09 
確定日 2021-04-06 
事件の表示 特願2016- 70811「位置合わせ装置、位置合わせ方法及び位置合わせ用コンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開、特開2017-182564、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月31日の出願であって、令和1年7月18日付け拒絶理由通知に対して同年9月10日に意見書が提出され、同年10月10日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、令和2年1月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1、2、4ないし6、8ないし10に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
請求項3、7に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。

引用文献等一覧
1.特開2014-089078号公報
2.特開2010-128744号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2010-224918号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、本願発明1の各構成の符号(A)ないし(D)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成Aないし構成Dと称する。

「【請求項1】
(A)車両(10)に対して第1の方向を向くように取り付けられた第1の撮像部(2-2)により第1の時刻において生成された第1の画像から、少なくとも一つの第1の線分を抽出する線分抽出部(21)と、
(B)前記第1の画像上の前記第1の線分を含むマッチング範囲に対応する、実空間上の第1の領域を、前記車両(10)と前記車両(10)の周囲の構造物の位置関係を規定する所定の条件に従って特定し、前記第1の領域を、前記車両(10)に対して前記第1の方向と異なる第2の方向を向くように取り付けられた第2の撮像部(2-1)により、前記第1の時刻と異なる第2の時刻において生成された第2の画像上に投影することで、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲を特定する投影部(22)と、
(C)前記第2の画像上の所定の探索範囲内で、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲の相対的な位置を変えながら前記マッチング範囲と前記第2の画像間でブロックマッチングを行うことで、前記マッチング範囲と最も類似する領域を特定し、該最も類似する領域内の線分を前記第1の線分に対応する第2の線分とする対応付け部(23)と、
(D)を有する位置合わせ装置。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記マッチング範囲に対応する前記第1の領域が前記車両(10)の直進方向と平行でかつ路面に垂直な面上、または路面上に有るとする条件である、請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記マッチング範囲に対応する前記第1の領域が、前記第1の時刻における前記車両(10)の位置と前記第2の時刻における前記車両(10)の位置間にける、前記車両(10)が走行する道路の何れかの位置での前記道路と平行でかつ路面に垂直な面上にあるとする条件である、請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項4】
前記投影部(22)は、前記車両(10)に搭載された前記車両(10)の移動量または速度を検知するセンサから取得したセンサ情報に基づいて求められた、前記第1の時刻と前記第2の時刻間の前記車両(10)の移動量に基づいて、前記第1の撮像部を基準とする座標系における前記第1の領域の座標を前記第2の撮像部を基準とする前記第1の領域の座標に変換し、当該変換された前記第1の領域の座標を前記第2の画像上へ投影することで、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲を特定する、請求項1?3の何れか一項に記載の位置合わせ装置。
【請求項5】
前記投影部(22)は、前記第2の撮像部(2-1)により互いに異なる時刻で生成された複数の画像のうち、当該画像について求められた前記マッチング範囲に対応する範囲が当該画像内に含まれる場合、当該画像を前記第2の画像とする、請求項1?4の何れか一項に記載の位置合わせ装置。
【請求項6】
前記投影部(22)は、前記第2の撮像部(2-1)により互いに異なる時刻で生成された複数の画像のうち、当該画像が生成された時刻と前記第1の時刻間の前記車両(10)の移動量が所定範囲となる画像を前記第2の画像とする、請求項1?4の何れか一項に記載の位置合わせ装置。
【請求項7】
前記第1の画像上で路面が写っている領域を検出する路面検出部をさらに有し、
前記投影部(22)は、前記第1の線分が前記路面が写っている領域に含まれる場合、前記マッチング範囲に対応する前記第1の領域が路面上に有るとして特定する、請求項1?6の何れか一項に記載の位置合わせ装置。
【請求項8】
前記第1の線分と前記第2の線分に対応する線分を地図上に書き込むことで地図を作成する地図作成部(24)をさらに有する、請求項1?7の何れか一項に記載の位置合わせ装置。
【請求項9】
車両(10)に対して第1の方向を向くように取り付けられた第1の撮像部(2-2)により第1の時刻において生成された第1の画像から、少なくとも一つの第1の線分を抽出するステップと、
前記第1の画像上の前記第1の線分を含むマッチング範囲に対応する、実空間上の第1の領域を、前記車両(10)と前記車両(10)の周囲の構造物の位置関係を規定する所定の条件に従って特定し、前記第1の領域を、前記車両(10)に対して前記第1の方向と異なる第2の方向を向くように取り付けられた第2の撮像部(2-1)により、前記第1の時刻と異なる第2の時刻において生成された第2の画像上に投影することで、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲を特定するステップと、
前記第2の画像上の所定の探索範囲内で、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲の相対的な位置を変えながら前記マッチング範囲と前記第2の画像間でブロックマッチングを行うことで、前記マッチング範囲と最も類似する領域を特定し、該最も類似する領域内の線分を前記第1の線分に対応する第2の線分とするステップと、
を含む位置合わせ方法。
【請求項10】
車両(10)に対して第1の方向を向くように取り付けられた第1の撮像部(2-2)により第1の時刻において生成された第1の画像から、少なくとも一つの第1の線分を抽出するステップと、
前記第1の画像上の前記第1の線分を含むマッチング範囲に対応する、実空間上の第1の領域を、前記車両(10)と前記車両(10)の周囲の構造物の位置関係を規定する所定の条件に従って特定し、前記第1の領域を、前記車両(10)に対して前記第1の方向と異なる第2の方向を向くように取り付けられた第2の撮像部(2-1)により、前記第1の時刻と異なる第2の時刻において生成された第2の画像上に投影することで、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲を特定するステップと、
前記第2の画像上の所定の探索範囲内で、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲の相対的な位置を変えながら前記マッチング範囲と前記第2の画像間でブロックマッチングを行うことで、前記マッチング範囲と最も類似する領域を特定し、該最も類似する領域内の線分を前記第1の線分に対応する第2の線分とするステップと、
をコンピュータに実行させるための位置合わせ用コンピュータプログラム。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、下線は当審により付与したものである。以下同様。)。

「【0001】
本願発明は、移動体で移動しながら撮像した沿道状況の画像に基づいて、沿道対象物を計測する技術に関するものであり、より具体的には、概略の標定要素に基づいて取得画像の偏位修正を行い、この偏位修正画像を用いてペア画像の照合(マッチング)を行うとともに、その照合結果から正確な標定要素を求める技術に関する。」

「【0022】
本願発明の標定装置は、移動中に撮像した画像に基づいて標定要素を求める標定装置であり、移動体と、撮像手段、位置計測手段、画像変換手段、ペア画像抽出手段、画像照合手段、標定手段を備えた装置である。このうち撮像手段は、移動体に搭載され、移動体の前方を撮像して撮像画像を取得するとともに、移動体の後方を撮像して後方撮像画像を取得するものである。位置計測手段は、移動体に搭載され、撮像時における撮像手段の位置を取得するものである。画像変換手段は、撮像時における撮像位置及び撮像方向に基づいて、それぞれ前方撮像画像及び後方撮像画を、所定の基準面の画像となるよう変換して、基準面画像を得るものである。ペア画像抽出手段は、同一箇所を含む前方撮像画像と後方撮像画像を1つずつ抽出し、これらを1組のペア画像とするものである。画像照合手段は、ペア画像を用いて部分画像の照合を行うものである。標定手段は、画像照合手段による照合結果に基づいて、それぞれ撮像時における標定要素を求めるものである。」

「【0025】
本願発明の標定方法、標定プログラム、及び標定装置の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
-(中略)-
【0035】
2.撮像
本願発明の標定方法を構成する撮像工程について説明する。図2は撮像工程を示す説明図である。この図に示すように、車や列車、自転車、航空機といった移動体10で移動しながら、移動体10に搭載した撮像手段20で、複数の画像を撮像していく。撮像画像は、移動体10が所定距離だけ、もしくは所定時間だけ進むたびに取得され、撮像間隔としては、移動体が10cm進行するたびに撮像したり、移動体が3m進行するたびに撮像したり、1秒経過するたびに撮像したり、状況に応じて適宜設計することができる。ただし、少なくとも進行方向に隣接する撮像画像どうしは、その一部が重なり合うような撮像間隔にする必要がある。なお既述のとおり、撮像間隔が小さすぎると誤差の累積が大きくなるため、2?5mを撮像間隔とすることが望ましい。
【0036】
図3は、前後2方向の撮像画像を取得する場合の撮像工程を示す説明図である。この図に示すように、移動体10に搭載した2台の撮像手段20で、移動方向における前方の撮像画像(以下、「前方撮像画像」)と、移動方向における後方の撮像画像(以下、「後方撮像画像」)の2枚の撮像画像を取得することもできる。この場合、前方撮像画像と後方撮像画像が一部重なるような撮像間隔とすれば、必ずしも隣接する前方撮像画像どうしが重なり合うような間隔とする必要がない。なお図2では、前方撮像画像と後方撮像画像を取得するため2台の撮像手段20(つまり、前方撮像手段21と後方撮像手段22)を設置しているが、前方も後方も撮像し得る全方位カメラなどを利用すれば、1台の撮像手段20の設置とすることもできる。
-(中略)-
【0040】
図4は、撮像画像を基準面画像に変換するしくみを説明するモデル図である。この図に示すように、撮像手段20で撮像して得られる撮像画像は、実際には撮像面Pに投影されている。このときの撮像画像は、図に示す「撮像範囲」を現実空間として撮像している。この現実の撮像範囲を推定し、その範囲を鉛直上方から仮想の撮像手段20vで撮像したと仮定した結果、得られる画像が基準面画像である。換言すれば基準面画像は、撮像面Pに投影された撮像画像を、基準面S(この場合は水平面)に投影した画像に変換したものである。なお、ここでは仮想の撮像手段20vを鉛直上方から撮像すると仮定して、基準面Sを水平面としたが、これに限らず任意の傾きを持った平面を基準面Sとして選定することができる。
-(中略)-
【0043】
図5は、白線を含む道路面を撮像した際の、撮像画像のイメージと基準面画像のイメージを示す説明図である。この図に示すように、撮像画像では白線の形状が変形しており、撮像手段20の主点から遠い位置にあるほど大きな歪が生じている。一方、基準面画像は真上から撮像されたようにほとんど変形することなく白線が表示されている。この図からも、撮像画像のままでは他の画像と画像照合しにくいが、基準面画像にすれば画像照合しやすくなることが分かる。
-(中略)-
【0047】
ペア画像は、既述した前方撮像画像に基づく基準面画像(以下、「前方基準面画像」という。)から2枚を抽出することもできるが、後方撮像画像に基づく基準面画像(以下、「後方基準面画像」という。)を含めるとより好適となる。すなわち、前方基準面画像から1枚を抽出し、後方基準面画像から1枚を抽出してこれら2枚の基準面画像をペア画像とするわけである。
-(中略)-
【0050】
5.画像照合
本願発明の標定方法を構成する画像照合工程、本願発明の標定プログラムを構成する画像照合処理、本願発明の標定方法を構成する画像照合手段、について説明する。抽出されたペア画像(ステレオペア)を構成する2枚の基準面画像は、互いに、重なり合う部分があり、その中には同一の対象物が撮像されている。その対象物を手掛かりとして、部分的な画像の照合を行う。一つのペア画像に対して、照合する部分は複数個所検出する。既述のとおり、他と識別しやすい特徴物を多数抽出し、これら特徴物を頼りに照合するとよい。なお、ここで行う画像照合は、従来から行われている技術を利用することができ、コンピュータを用いた画像認識技術を応用して特徴物を自動検出し、これによって画像照合を行うこともできる。
-(中略)-
【0054】
本願発明の標定方法、標定プログラム、及び標定装置は、沿道の空間情報を安価でしかも精度よく取得することができるので、地図の作成や更新を行う際に有効な発明である。また、沿道に設置される屋外広告や道路占用物を容易かつ正確に把握できるので、沿道施設の管理者にとっても極めて有用な発明である。さらに、道路に限らず、線路(軌道)沿いの状況にも容易に応用できるなど、各種の移動体で活用可能な発明である。」

上記記載から、引用文献1には次の事項が記載されている。
・上記【0022】、【0035】及び【0036】によれば、標定装置は、車に搭載した2台の撮像手段で、移動方向における前方の撮像画像(以下、「前方撮像画像」)と、移動方向における後方の撮像画像(以下、「後方撮像画像」)を取得している。
・上記【0040】及び【0043】によれば、前方撮像画像及び後方撮像画像は、「撮像範囲」を現実空間として撮像しており、白線を含む道路面を撮像したものである。
・上記【0022】、【0040】及び【0047】によれば、画像変換手段により前方撮影画像を基準面Sに投影した画像に変換した前方基準面画像と、後方撮影画像を基準面Sに投影した画像に変換した後方基準面画像を得て、前方基準画像から1枚を抽出し、後方基準画面像から1枚を抽出してこれら2枚の基準面画像からペア画像を抽出している。
・上記【0040】によれば、基準面Sは水平面に限らず任意の傾きを持った平面を基準面Sとして選定することができる。
・上記【0022】、【0050】によれば、標定装置は、抽出されたペア画像(ステレオペア)を構成する2枚の基準面画像は、互いに、重なり合う部分があり、その中には同一の対象物が撮像されており、その対象物を手掛かりとして、部分的な画像の照合を行い、一つのペア画像に対して、照合する部分は複数個所検出し、他と識別しやすい特徴物を多数抽出し、これら特徴物を頼りに照合している。

以上によれば、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」)が記載されていると認められる。

「車に搭載した2台の撮像手段で、移動方向における前方撮像画像と後方撮像画像を取得し、
前方撮像画像及び後方撮像画像は、「撮像範囲」を現実空間として撮像しており、白線を含む道路面を撮像したものであり、
画像変換手段により前方撮影画像を基準面Sに投影した画像に変換した前方基準面画像と、後方撮影画像を基準面Sに投影した画像に変換した後方基準面画像を得て、前方基準画像から1枚を抽出し、後方基準画面像から1枚を抽出してこれら2枚の基準面画像からペア画像を抽出し、
基準面Sは水平面に限らず任意の傾きを持った平面を基準面Sとして選定することができ、
抽出されたペア画像(ステレオペア)を構成する2枚の基準面画像は、互いに、重なり合う部分があり、その中には同一の対象物が撮像されており、その対象物を手掛かりとして、部分的な画像の照合を行い、一つのペア画像に対して、照合する部分は複数個所検出し、他と識別しやすい特徴物を多数抽出し、これら特徴物を頼りに照合する、標定装置。」

2 引用文献2及び3
(1)引用文献2
原査定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。

ア「【0001】
本発明は、対応ブロック探索装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの画像を比較する手法の1つとして、ブロックマッチング法がある。ブロックマッチング法では、例えば、撮像装置で撮影された動画像中のフレームの1つである基準フレームとは異なる探索フレームから、基準フレーム内の一部の領域である基準ブロックに対応する対応ブロックを探索する。対応ブロックは、探索フレームの全領域、または、探索フレーム内に定められた探索領域の中から探索される。このような探索により、ある時刻のフレーム内に映っていた物体や風景が、他の時刻のフレームでは何処に位置するのかなどを把握することができる。それにより、撮像装置と被写体の相対的な移動(移動ベクトル;基準ブロックの位置と対応ブロックの位置との差分)を把握することができる。」

イ「【0022】
対応ブロック探索部102は、撮像装置101で撮影された動画像中のフレームの1つである基準フレームとは異なる探索フレームから、基準フレーム内の一部の領域である基準ブロックに対応する対応ブロックを探索する。なお、探索フレームは基準フレームより前のフレームであっても、後ろのフレームであってもよい。本実施形態では、撮影中の最も新しいフレームを基準フレームとし、その直前のフレームを探索フレームとする。」

(2)引用文献3
原査定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。

ウ「【0001】
本発明は、環境認識装置に係り、特に、撮像した画像に対してテンプレートマッチングを行って有意情報を認識する環境認識装置に関する。」

エ「【0072】
イメージプロセッサ7におけるステレオマッチング処理では、基準画像Tと比較画像Tcの各画像データDが送信されてくると、図3に示すように、基準画像T上に例えば3×3画素や4×4画素等の所定の画素数の基準画素ブロックPBを設定し、基準画素ブロックPBに対応する比較画像Tc中のエピポーララインEPL上の基準画素ブロックPBと同形の各比較画素ブロックPBcについて、下記(1)式に従って当該基準画素ブロックPBとの輝度パターンの差異であるSAD値を算出し、SAD値が最小の比較画素ブロックPBcを特定するようになっている。
SAD=Σ|D1s,t-D2s,t| …(1)」

オ「【0081】
なお、本実施形態では、上記のように、撮像手段2としてメインカメラ2aとサブカメラ2bとを備え、距離検出手段6は、それらで撮像された基準画像Tおよび比較画像Tcに対するステレオマッチング処理により基準画像Tの各画素について実空間上の距離Z(すなわち視差dp)を算出するように構成されているが、これに限定されず、撮像手段2は例えば単眼のカメラのように1枚の画像Tのみを出力するものであってもよい。」

カ「【図3】





キ 上記「エ」及び「カ」の記載によれば、ステレオマッチング処理は、エピポーララインEPL上の各比較画素ブロックPBcからSAD値が最小の比較画素ブロックPBcを特定しており、基準画素ブロックPBに対応する比較画素ブロックPBcを探索しているといえる。

(3)上記の引用文献2及び3の記載によれば、画像マッチングに関して、以下の技術事項は周知技術であると認める。

「基準画像と比較画像をマッチングする際に、基準画像の基準ブロックに対応する比較画像のブロックを探索すること」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1の構成Aについて
・引用発明の車に搭載した2台の「撮像手段」のうち、後方の撮像画像を取得する「撮像手段」は、本願発明1の「車両(10)に対して第1の方向を向くように取り付けられた第1の撮像部(2-2)」に相当する。
・引用発明の「後方撮像画像」は、ある時刻に撮像されたものであるから、本願発明1の「第1の撮像部(2-2)により第1の時刻において生成された第1の画像」に相当する。
・引用発明の「後方撮像画像」は、白線を含む道路面を撮像しており、線分を含む範囲を有しているといえ、「後方撮像画像」と本願発明1の「少なくとも一つの第1の線分」が抽出される「第1の画像」とは、「第1の線分を含む範囲」を有している点で共通するといえる。
・そうすると、引用発明と本願発明1とは「車両(10)に対して第1の方向を向くように取り付けられた第1の撮像部(2-2)により第1の時刻において生成された第1の画像は、第1の線分を含む範囲」を有している点で共通する。
ただし、本願発明1は「第1の画像から、少なくとも一つの第1の線分を抽出する線分抽出部(21)」を有するのに対し、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

イ 本願発明1の構成Bについて
・上記「ア」で述べたとおり、引用発明の「後方撮像画像」は「第1の線分を含む範囲」を有しているといえ、当該「範囲」は「現実空間」を撮像した実空間上の領域といえるから、本願発明1の「前記第1の画像上の前記第1の線分を含む」「範囲に対応する、実空間上の第1の領域」に相当する。
ただし、本願発明1は、第1の線分を含む範囲が「第1の線分を含むマッチング範囲」であり、実空間上の第1の領域を「前記車両(10)と前記車両(10)の周囲の構造物の位置関係を規定する所定の条件に従って」特定するのに対し、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。

・引用発明の車に搭載した2台の「撮像手段」のうち、前方の撮像画像を取得する「撮像手段」は、本願発明1の「前記車両(10)に対して前記第1の方向と異なる第2の方向を向くように取り付けられた第2の撮像部(2-1)」に相当する。
・引用発明の「前方撮像画像」と「後方撮像画像」は、道路面の同じ位置にある白線を異なる時刻に撮像したものであることが明白であり、「前方撮像画像」は、本願発明1の「第2の撮像部(2-1)により、前記第1の時刻と異なる第2の時刻において生成された第2の画像」に相当する。
・引用発明の前方撮像画像及び後方撮影画像を基準面Sに変換することは、基準面Sに任意の傾きを持った平面を選定できるから、基準面Sを前方撮影画像と同じ平面とし、後方撮像画像を基準面S、すなわち前方撮像画像と同じ平面上に投影した画像に変換することを含み、本願発明1の「第1の領域を、第2の画像上に投影する」ことに相当する。
ただし、本願発明1は「第1の領域を、第2の画像上に投影することで、マッチング範囲に対応する第2の画像上の範囲を特定する」のに対し、引用発明は前方撮影画像を基準面Sに変換した前方基準面画像と、後方撮影画像を基準面Sに変換した後方基準面画像からペア画像を抽出する点で相違する。

ウ 本願発明1の構成Cについて
・引用発明は、2枚の基準面画像の部分的な画像の照合を行うことで、前方撮像画像及び後方撮像画像に含まれる道路面の白線を対応付けられることが明白であり、引用発明と本願発明1は「所定の領域のマッチングを行うことで、領域内の線分を前記第1の線分に対応する第2の線分とする対応付け部(23)」を有することで共通する。
ただし、本願発明1は「前記第2の画像上の所定の探索範囲内で、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲の相対的な位置を変えながら前記マッチング範囲と前記第2の画像間でブロックマッチングを行うことで、前記マッチング範囲と最も類似する領域を特定し、該最も類似する領域内の線分を前記第1の線分に対応する第2の線分とする」のに対して、引用発明はペア画像に対して、他と識別しやすい特徴物を多数抽出し、これら特徴物を頼りに画像照合を行う点で相違する。

エ 本願発明1の構成Dについて
・引用発明の「標定装置」がペア画像の特徴物を頼りに画像照合を行うことは、位置合わせを行っているといえ、「標定装置」は本願発明1の「位置合わせ装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
車両(10)に対して第1の方向を向くように取り付けられた第1の撮像部(2-2)により第1の時刻において生成された第1の画像は、第1の線分を含む領域を有し、
前記第1の画像上の第1の線分を含む範囲に対応する、実空間上の第1の領域を、前記車両(10)に対して前記第1の方向と異なる第2の方向を向くように取り付けられた第2の撮像部(2-1)により、前記第1の時刻と異なる第2の時刻において生成された第2の画像上に投影する投影部(22)と、
所定の領域のマッチングを行うことで、領域内の線分を前記第1の線分に対応する第2の線分とする対応付け部(23)と、
を有する位置合わせ装置。

<相違点1>
本願発明1は「第1の画像から、少なくとも一つの第1の線分を抽出する線分抽出部(21)」を有するのに対し、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点2>
本願発明1は、第1の線分を含む範囲が「第1の線分を含むマッチング範囲」であり、実空間上の第1の領域を「前記車両(10)と前記車両(10)の周囲の構造物の位置関係を規定する所定の条件に従って」特定するのに対し、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点3>
本願発明1は「第1の領域を、第2の画像上に投影することで、マッチング範囲に対応する第2の画像上の範囲を特定する」のに対し、引用発明は前方撮影画像を基準面Sに変換した前方基準面画像と、後方撮影画像を基準面Sに変換した後方基準面画像からペア画像を抽出する点。

<相違点4>
本願発明1は「前記第2の画像上の所定の探索範囲内で、前記マッチング範囲に対応する前記第2の画像上の範囲の相対的な位置を変えながら前記マッチング範囲と前記第2の画像間でブロックマッチングを行うことで、前記マッチング範囲と最も類似する領域を特定し、該最も類似する領域内の線分を前記第1の線分に対応する第2の線分とする」のに対して、引用発明はペア画像に対して、他と識別しやすい特徴物を多数抽出し、これら特徴物を頼りに部分的な画像照合を行う点。

(2)判断
事案に鑑みて、上記相違点2及び3について先に検討する。
引用発明は、部分的な画像照合に用いる「特徴物」を、基準面Sへ投影後のペア画像から抽出している。
一方、本願発明1は、第1の画像上で第1の線分を含むマッチング範囲に対応する、第1の領域を所定の条件に従って特定し、その後、第1の領域を第2の画像上に投影するという2段階の処理を行っているが、引用発明の処理を本願発明1のようにして、先に後方撮像画像上で「特徴物」を含む領域を特定し、その後、特定した領域を基準面Sに投影するような2段階の処理にする理由はなく、上記周知技術にもそのような処理は示されていない。
してみると、他の相違点である相違点1及び4を検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された事項に基づいて、さらには、周知の技術事項(上記「第4 2(3)」参照)を参酌したとしても、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし10について
本願発明1を引用する本願発明2ないし8、及び独立請求項の本願発明9及び10は、上記相違点1ないし4で特定される事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
上記「第5」で述べたように、本願発明1ないし10は、当業者であっても、拒絶査定で引用された引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-03-19 
出願番号 特願2016-70811(P2016-70811)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐田 宏史  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 渡辺 努
五十嵐 努
発明の名称 位置合わせ装置、位置合わせ方法及び位置合わせ用コンピュータプログラム  
代理人 河野 努  
代理人 三橋 真二  
代理人 南山 知広  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 南山 知広  
代理人 河野 努  

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