• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1372275
審判番号 不服2020-10311  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-22 
確定日 2021-03-18 
事件の表示 特願2018-523703号「車両用回路体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月28日国際公開、WO2017/222067号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)6月23日(優先権主張 平成28年6月24日(2件)、平成28年6月30日、平成28年9月26日)を国際出願日とする出願であって、令和1年12月23日付けで拒絶理由が通知され、令和2年3月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年7月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年7月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年7月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
車両に設置される車両用回路体であって、
少なくとも車両の前後方向に延伸する幹線と、
前記幹線に設置される複数の制御ボックスと、
を備え、
前記幹線は、それぞれが前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な電流容量を有する2系統の電源ラインと、前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な通信容量を有する通信ラインとを有し、
前記複数の制御ボックスとして、前記幹線の上流端に配置される供給側制御ボックスと、前記幹線を分岐する分岐制御ボックスと、前記幹線を分岐することなく中継する中間制御ボックスと、前記幹線を分岐及び中継することなく前記幹線の下流端に配置される制御ボックスと、を個別に有する、
車両用回路体。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和2年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
車両に設置される車両用回路体であって、
少なくとも車両の前後方向に延伸する幹線と、
前記幹線に設置される複数の制御ボックスと、
を備え、
前記幹線は、それぞれが前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な電流容量を有する2系統の電源ラインと、前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載され て使用される際に必要十分な通信容量を有する通信ラインを有する、
車両用回路体。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「複数の制御ボックス」について、上記1のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
(2-1)引用文献1について
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の優先日前に頒布された特開2016-43882号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様である。)。
(1a)「【0024】
本発明の実施形態の車両用電力分配システムに関する具体的な実施の形態について、各図を参照しながら以下に説明する。」
(1b)「【0027】
図4に示した例では、車両上に負荷モジュールMD1?MD9が搭載されている。
負荷モジュールMD1は、車体のフロント領域の近傍に配置された多数の負荷の集合体であり、各種ランプ、ソリッドステートリレー、電気モータ等を備えている。各ソリッドステートリレーの配下には、様々な負荷を接続することが可能である。
【0028】
負荷モジュールMD2は、車体のリア領域の近傍に配置された多数の負荷の集合体であり、各種ランプ、ソリッドステートリレー、電気モータ等を備えている。負荷モジュールMD3は、車体のダッシュボードの近傍に配置された多数の負荷の集合体であり、各種ランプ、ソリッドステートリレー、電気モータ等を備えている。」
(1c)「【0032】
図4に示した車両の構成においては、主電源からの電源電力を分配して配下の各電装品に供給するために、メイン電源制御ボックス10A、サブ電源制御ボックス10B及び10Cを備えている。すなわち、主電源21が供給する電源電力は、メイン電源制御ボックス10A、サブ電源制御ボックス10B及び10Cの少なくとも1つを経由して分配され、各々の負荷又は電子制御装置に供給される。また、メイン電源制御ボックス10A、サブ電源制御ボックス10B及び10Cのそれぞれは様々な制御機能を内蔵している。
【0033】
主電源21は、車載バッテリー(BATT)や車載発電機(オルタネータ)により構成される。また、図4に示した車両においては、予備の主電源21Bとしてセカンドバッテリー(2ndBATT)を搭載している。メイン電源制御ボックス10A、サブ電源制御ボックス10B及び10Cのそれぞれは、主電源21及び21Bから供給される電源電力を分配して、各負荷及び各ECUに供給する。
【0034】
図4に示した車両の構成においては、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Bとの間が幹線ケーブル22Aを介して電気的に接続されている。また、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Cとの間が幹線ケーブル22Bを介して電気的に接続されている。なお、幹線ケーブル22A及び22Bについては、ワイヤハーネスの一部分として構成することもできるし、ワイヤハーネスから分離した特別な幹線として車両上に装備することもできる。」
(1d)「【0040】
また、主電源がメイン電源制御ボックス10Aに近い位置にある場合は、主電源の出力をメイン電源制御ボックス10Aと接続し、主電源からメイン電源制御ボックス10Aに対して電源電力を供給する。そして、サブ電源制御ボックス10Bに対してはメイン電源制御ボックス10A及び幹線ケーブル22Aを経由して電源電力を供給する。なお、主電源がサブ電源制御ボックス10Bに近い位置にある場合は、主電源の出力をサブ電源制御ボックス10Bと接続することもできる。
【0041】
<幹線ケーブル22Aの構成例>
幹線ケーブル22Aの断面構造の具体例を図3に示す。図3に示した構成例においては、幹線ケーブル22Aは+B1電源ライン22a、+B2電源ライン22b、グランド(GND)ライン22c、及び配索間通信ライン22dにより構成されている。
【0042】
+B1電源ライン22aは、例えば+12[V]、或いは+48[V]の電圧の電源電力を送るための1本の電線(例えば撚り線)であり、大きな電流の通過を許容できるように十分な太さを有している。また、+B1電源ライン22aの外周は絶縁被覆で覆われている。
【0043】
+B2電源ライン22bは、予備系統の主電源21Bから供給される電源電力を送るための1本の電線であり、+B1電源ライン22aと同様に十分な太さを有している。+B2電源ライン22bも、例えば+12[V]、或いは+48[V]の電圧の電源電力を送るために利用される。
【0044】
グランドライン22cは、電源のグランド電位の電極と接続される1本の電線である。配索間通信ライン22dは、2本の電線により構成されており、所定の通信規格(例えばCAN)に従って、メイン電源制御ボックス10Aとサブ電源制御ボックス10Bとの間でデータ通信する際に利用される。」
(1e)「【0071】
なお、図1に示した車両用電力分配システムは、メイン電源制御ボックス10A、サブ電源制御ボックス10B、及び幹線ケーブル22Aで構成してあるが、サブ電源制御ボックスの数を増やしたり構成を変更することもできる。例えば、図4に示した車両のように、サブ電源制御ボックス10Cを搭載している場合には、幹線ケーブル22Bを介してメイン電源制御ボックス10Aとサブ電源制御ボックス10Cとを接続し、車両用電力分配システムを構成することができる。」
(1f)引用文献1には、以下の図が示されている。
【図1】

【図3】

【図4】

イ 認定事項
上記アより、以下の事項が認定できる。
(ア)摘示(1a)段落【0024】の「車両用電力分配システム」が、適示(1f)図4から、車両に設置される車両用電力分配システムであることは明らかである。
(イ)適示(1c)段落【0034】の「メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Cとの間が幹線ケーブル22Bを介して電気的に接続されている。」なる記載及び適示(1f)図4から、車両用電力分配システムが、車両の前後方向に延伸する幹線ケーブル22Bを備えることが理解できる。

ウ 引用発明
上記ア、イによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両に設置される車両用電力分配システムであって、
車両の前後方向に延伸する幹線ケーブル22Bを備え、
メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Bとの間が幹線ケーブル22Aを介して電気的に接続され、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Cとの間が幹線ケーブル22Bを介して電気的に接続されており、
幹線ケーブル22Aは+B1電源ライン22a、+B2電源ライン22b、グランド(GND)ライン22c、及び配索間通信ライン22dにより構成されており、
+B1電源ライン22aは、大きな電流の通過を許容できるように十分な太さを有しており、+B2電源ライン22bは、+B1電源ライン22aと同様に十分な太さを有しており、
配索間通信ライン22dは、所定の通信規格(例えばCAN)に従うものであり、
主電源がサブ電源制御ボックス10Bに近い位置にある場合は、主電源の出力をサブ電源制御ボックス10Bと接続することもできる、
車両用電力分配システム。」

(2-2)引用文献2について
ア 引用文献2の記載事項
当審で新たに引用する、本願の優先日前に頒布された実願平4-19252号(実開平5-71058号)のCD-ROM(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(2a)「【0006】
【作用】
ボディーの所定位置に設けられた電気接続箱間に、電源線、アース線、多重信号線を一体化したケーブルを貼着等の方法により直接ボディーに取り付けて配索しメーン回路を構成しておき、仕様に応じて電源線、アース線、多重信号線の構成を異ならせた分岐用のケーブルを近傍の電気接続箱内で分岐することにより、内部配線作業が一連の流れ作業で行え作業性は著しく向上し、しかも、保守点検作業が極めて容易となる。さらに、内部配線が簡素化されることから回路設計が容易となる。
【0007】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面により説明する。図1は本考案の一実施例を示す説明図で、図において1はボディー、2はバッテリー、3a・・・3nはボディー1の所定位置に設けられた電気接続箱、4は電源線、アース線、多重信号線を一体化したメーン回路用のケーブルで、該ケーブル4は上記電気接続箱3a・・3n間に配索され、図2に示すように貼着等の方法により直接ボディー1に取り付けられている。5は仕様により電源線、アース線、多重信号線の構成を異ならせた分岐用のケーブルである。6はインストルメントパネル等に設けられた電気接続箱、7は各ドアに設けられたスイッチボックスで、上記分岐用のケーブル5はそれぞれ近傍の電気接続箱3a・・・3n内でメーン回路用のケーブル4と分岐され、インストルメントパネル等に設けられた電気接続箱6、各ドアに設けられたスイッチボックス7に配索され、また、スイッチ等の電気機器に直接接続されている。
【0008】
上述のように、メーン回路用のケーブル4をボディー1の所定位置に設けられた電気接続箱3a・・・3n間に配索し、貼着等の方法によりボディー1に取り付けてメーン回路を構成しておき、インストルメントパネル等に配索する分岐用のケーブル5をそれぞれ近傍の電気接続箱3a・・・3n内で分岐することで、内部配線作業が一連の流れ作業で行えるので作業性は著しく向上し、しかも、保守点検作業が極めて容易に行え、さらに、内部配線が簡素化されることから回路設計が容易となる。」
(2b)引用文献2には、以下の図が示されている。
【図1】

(2-3)引用文献3について
ア 引用文献3の記載事項
当審で新たに引用する、本願の優先日前に頒布された特開2008-49982号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(3a)「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明の車載システムの構成例を示すブロック図である。図1中1は、車両であり、車両1は、直流電力及び通信用の信号を中継分配するジャンクションボックス、リレーボックス、ヒューズボックス等の複数の接続装置2,2,…を搭載している。各接続装置2,2,…は、電力を供給する給電線及び信号を伝送する信号線にて接続されている。図1では、車両1内の前部のエンジンルーム、運転席近傍、助手席近傍、及び後部のトランクルームに夫々接続装置2,2,…が配設された構成例を示している。また各接続装置2,2,…には、給電線及び信号線にて電子制御ユニット(ECU: Electric Control Unit)等の電装品にて構成される一又は複数の電力負荷3,3,…が接続されている。なおここでいう一の電力負荷3とは、必ずしも一台の電装品に相当する訳ではなく、連動する複数の電装品により一の電力負荷3を構成するようにしても良い。即ち一の電力負荷3とは、一又は連動する一連の電装品を示している。
【0020】
エンジンルームに配設された接続装置2には、直流電力を供給する鉛蓄電池を用いた電源4が給電線にて接続されており、更に電源4の電力の残量を検出する電圧計、電流計、比重計等の電力センサ4aが付属しており、電力センサ4aは、接続装置2に信号線にて接続されている。その他にもエンジンルームに配設された接続装置2には、前部右側ヘッドライト等の様々な電力負荷3,3,…が接続されている。」
(3b)「【0024】
次に各接続装置2,2,…の構成について説明する。図2は、本発明の車載システムにて用いられる接続装置2の構成例を示すブロック図である。接続装置2は、信号の送受信回路及び給電回路を収容する第1接続機構21、常時給電用の給電線及び該給電線に組み込まれるヒューズを収容する第2接続機構22、並びに給電制御を行う給電制御機構23を備えている。
【0025】
第1接続機構21は、送受信回路及び給電回路を含む接離手段210を備え、接離手段210は、送受信回路を用いた信号の送受信及び給電回路による接離を制御するマイコン等の制御手段211と、制御手段211の制御に用いる各種データを記録するEEPROM等の記録手段212とを備えている。
【0026】
接続装置2は、電源4から直接又は他の接続装置2,2,…を介して間接的に給電を受け付ける給電線L1、受け付けた電力を他の接続装置2,2,…へ送電する給電線L2、他の接続装置2,2,…と信号を送受信する信号線L3、電力負荷3,3,…へ給電する給電線L4,L4,…、個別給電スイッチ5,5,…から信号を受信する信号線L5,L5,…、イグニッションスイッチの位置を示す位置信号を検出機構6から受信する信号線L6等の各種給電線及び信号線が接続されており、各給電線は、接離手段210により接離される。なお接続装置2及び電力負荷3を給電線及び信号線にて接続し、当該信号線を介して個別給電スイッチ5からの信号を受け付ける様にしても良い。」
(3c)引用文献3には、以下の図が示されている。
【図1】

【図2】

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「車両用電力分配システム」は、本件補正発明の「車両用回路体」に相当し、以下同様に、「幹線ケーブル22A」及び「幹線ケーブル22B」は、「幹線」に、「メイン電源制御ボックス10A」、「サブ電源制御ボックス10B」及び「サブ電源制御ボックス10C」は、「制御ボックス」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明の「メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Bとの間が幹線ケーブル22Aを介して電気的に接続され、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Cとの間が幹線ケーブル22Bを介して電気的に接続されており、」は、上記アの相当関係を踏まえると、本件補正発明の「前記幹線に設置される複数の制御ボックス」「を備え」ることに相当する。

ウ 上記ア及びイを総合すると、引用発明の「車両に設置される車両用電力分配システムであって、車両の前後方向に延伸する幹線ケーブル22Bを備え、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Bとの間が幹線ケーブル22Aを介して電気的に接続され、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Cとの間が幹線ケーブル22Bを介して電気的に接続されており、」は、本件補正発明の「車両に設置される車両用回路体であって、少なくとも車両の前後方向に延伸する幹線と、前記幹線に設置される複数の制御ボックスと、を備え、」に相当する。

エ 引用発明の「+B1電源ライン22a」及び「+B2電源ライン22b」と、本件補正発明の「それぞれが前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な電流容量を有する2系統の電源ライン」とは、「2系統の電源ライン」という点で共通する。

オ 引用発明の「配索間通信ライン22d」と、本件補正発明の「前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な通信容量を有する通信ライン」とは、「通信ライン」という点で共通する。

カ エ及びオを総合すると、引用発明の「幹線ケーブル22Aは+B1電源ライン22a、+B2電源ライン22b、グランド(GND)ライン22c、及び配索間通信ライン22dにより構成されており、+B1電源ライン22aは、大きな電流の通過を許容できるように十分な太さを有しており、+B2電源ライン22bは、+B1電源ライン22aと同様に十分な太さを有しており、配索間通信ライン22dは、所定の通信規格(例えばCAN)に従うものであり、」と、本件補正発明の「前記幹線は、それぞれが前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な電流容量を有する2系統の電源ラインと、前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な通信容量を有する通信ラインとを有し、」とは、上記アの相当関係も踏まえると、「前記幹線は、2系統の電源ラインと、通信ラインとを有し、」という点で共通する。

キ 引用発明の「メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Bとの間が幹線ケーブル22Aを介して電気的に接続され、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Cとの間が幹線ケーブル22Bを介して電気的に接続されており、」かつ「主電源がサブ電源制御ボックス10Bに近い位置にある場合は、主電源の出力をサブ電源制御ボックス10Bと接続することもできる、」ことに関し、上記アの相当関係及び適示(1f)図4も踏まえると、上記「主電源の出力をサブ電源制御ボックス10Bに接続」した場合は、引用発明の「サブ電源制御ボックス10B」は、本件補正発明の「幹線の上流端に配置される供給側制御ボックス」に相当するということができ、以下同様に、「メイン電源制御ボックス10A」は、「前記幹線を分岐することなく中継する中間制御ボックス」に、「サブ電源制御ボックス10C」は、「前記幹線を分岐及び中継することなく前記幹線の下流端に配置される制御ボックス」に相当するといえる。

ク 上記ア及びキの相当関係を踏まえると、引用発明の「メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Bとの間が幹線ケーブル22Aを介して電気的に接続され、メイン電源制御ボックス10Aと、サブ電源制御ボックス10Cとの間が幹線ケーブル22Bを介して電気的に接続されており、」かつ「主電源がサブ電源制御ボックス10Bに近い位置にある場合は、主電源の出力をサブ電源制御ボックス10Bと接続することもできる、」ことと、本件補正発明の「前記複数の制御ボックスとして、前記幹線の上流端に配置される供給側制御ボックスと、前記幹線を分岐する分岐制御ボックスと、前記幹線を分岐することなく中継する中間制御ボックスと、前記幹線を分岐及び中継することなく前記幹線の下流端に配置される制御ボックスと、を個別に有する、」こととは、「前記複数の制御ボックスとして、前記幹線の上流端に配置される供給側制御ボックスと、前記幹線を分岐することなく中継する中間制御ボックスと、前記幹線を分岐及び中継することなく前記幹線の下流端に配置される制御ボックスと、を個別に有する、」という点で共通する。

以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、
<一致点>
「車両に設置される車両用回路体であって、
少なくとも車両の前後方向に延伸する幹線と、
前記幹線に設置される複数の制御ボックスと、
を備え、
前記幹線は、2系統の電源ラインと、通信ラインとを有し、
前記複数の制御ボックスとして、前記幹線の上流端に配置される供給側制御ボックスと、前記幹線を分岐することなく中継する中間制御ボックスと、前記幹線を分岐及び中継することなく前記幹線の下流端に配置される制御ボックスと、を個別に有する、
車両用回路体。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
「2系統の電源ライン」及び「通信ライン」に関し、本件補正発明は、「2系統の電源ライン」が「それぞれが前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な電流容量を有」し、かつ、「通信ライン」が、「前記車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な通信容量を有する」のに対し、引用発明は、「+B1電源ライン22aは、大きな電流の通過を許容できるように十分な太さを有しており、+B2電源ライン22bは、+B1電源ライン22aと同様に十分な太さを有しており、配索間通信ライン22dは、所定の通信規格(例えばCAN)に従うものであ」る点。
<相違点2>
「複数の制御ボックス」に関し、本件補正発明は、「前記幹線を分岐する分岐制御ボックス」を有するのに対し、引用発明は、そのような特定事項を有していない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
(4-1)上記相違点1について
引用発明の「+B1電源ライン22aは、大きな電流の通過を許容できるように十分な太さを有しており、+B2電源ライン22bは、+B1電源ライン22aと同様に十分な太さを有」するものであるから、「+B1電源ライン22a」及び「+B2電源ライン22b」(2系統の電源ライン)は、十分な電流容量を有するものといえる。
そして、車両の電源ラインにおいて、車両に搭載された全ての電装品が使用された場合であっても、電力を適切に供給すべきことは自明な課題といえるから、引用発明の「+B1電源ライン22a」及び「+B2電源ライン22b」(2系統の電源ライン)の電流容量として、車両に搭載される可能性がある(車両に搭載可能な)全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な電流容量とする程度のことは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。
同様に、引用発明の「配索間通信ライン22dは、所定の通信規格(例えばCAN)に従うものであ」るところ、車両の通信ラインにおいても、車両に搭載された全ての電装品が使用された場合であっても、通信が適切に行われるべきことは自明な課題といえるから、引用発明の「配索間通信ライン22d」(通信ライン)の通信容量として、車両に搭載される可能性がある(車両に搭載可能な)全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な通信容量とする程度のことは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。

(4-2)上記相違点2について
ア 引用文献1には、上記適示(1e)に、「サブ電源制御ボックスの数を増やしたり構成を変更することもできる。」と記載されており、サブ電源制御ボックスの数や、数を増やした場合の配置は、適宜変更可能であることが示唆されているといえる。

イ そして、引用文献2の上記適示(2a)段落【0007】には、「4は電源線、アース線、多重信号線を一体化したメーン回路用のケーブル」と記載され、段落【0008】には、メーン回路用のケーブル4を、電気接続箱3a・・・3n間に配策して、メーン回路を構成することが記載されており、当該記載を踏まえて適示(2b)図1をみると、ケーブル4を分岐する電気接続箱3bを設けることが看取できる。ここで、引用文献2の「ケーブル4」は、本件補正発明の「幹線」に相当し、同様に、「電気接続箱3b」は、「分岐制御ボックス」に相当するといえるから、引用文献2には、「幹線を分岐する分岐制御ボックスを設けること」が記載されているといえる。

ウ また、引用文献3においても、上記適示(3a)段落【0019】には、各接続装置2、2、・・・が、電力を供給する給電線及び信号を伝送する信号線にて接続されることが記載されており、当該記載を踏まえて適示(3c)図1をみると、給電線及び信号線を分岐する接続ボックス2を設けることが看取できる(図1左側中央の接続ボックス2)。ここで、引用文献3記載の「給電線及び信号線」は、本件補正発明の「幹線」に相当し、同様に、給電線及び信号線を分岐する「接続装置2」は、「分岐制御ボックス」に相当するといえるから、引用文献3にも、「幹線を分岐する分岐制御ボックスを設けること」が記載されているといえる。

エ イ及びウのとおり、「幹線を分岐する分岐制御ボックスを設けること」は、本願優先日前の周知技術であったといえる。

オ 引用発明において、上記アのとおり、サブ電源制御ボックス(制御ボックス)の数や、数を増やした場合の配置を変更することは、想定されているというべきものであり、適示(1b)段落【0028】に、車体のリア領域の近傍に、各種ランプ、ソリッドステートリレー、電気モータ等の多数の負荷の集合体である負荷モジュールMD2を配置することが記載されていることも踏まえると、引用発明において、車両後方に電力供給を行うために、上記周知技術である「幹線を分岐する分岐制御ボックスを設けること」を採用する動機付けは存在するといえる。

カ よって、引用発明において、車両後方への電力供給を行うべく、サブ制御ボックス10Bと、メイン制御ボックス10Aの間に、上記周知技術である分岐制御ボックスを設ける点を採用し、相違点2に係る本件補正発明のごとく構成することは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。

(4-3)効果について
本願明細書の段落【0026】記載の「幹線部分の構成を簡素化し、新たな電線の追加も容易にできる車両用回路体を提供することができる。」という効果は、上記(4-1)、(4-2)で検討したとおり、引用発明及び周知技術から、当業者が予測し得た程度のものである。
また、本願明細書の段落【0013】記載の「この制御ボックス間に2系統の電源ラインが形成されるので、一方の電源ラインをバックアップ用として使用することにより電力供給が途絶える可能性を低減したり、必要に応じて一方の系統の電圧を高めることにより安定した電力を供給することができる。」という効果も、引用文献1の適示(1d)段落【0043】に「+B2電源ライン22bは、予備系統の主電源21Bから供給される電源電力を送るための1本の電線であり、」と記載され、一方の電源ラインをバックアップ用として使用することが記載されており、適示(1d)段落【0041】及び【0043】に、「+B1電源ライン22aは、例えば+12[V]、或いは+48[V]の電圧」とし、「+B2電源ライン22bは、・・・例えば+12[V]、或いは+48[V]の電圧」とすることが記載され、一方の系統の電圧を高めることも示唆されているといえるから、格別な効果とはいえない。

(4-4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の(3-3)において、引用文献1について、「一方、この態様は、本願発明の『分岐制御ボックス』を有しておりません。」と主張している。
しかしながら、上記「(4-2)上記相違点2について」のイ?エで述べたとおり、「幹線を分岐する分岐制御ボックスを設けること」は、例えば、引用文献2及び3記載のごとく本願優先日前の周知技術である。
そして、上記(4-2)オで述べたとおり、引用発明において、サブ電源制御ボックス(制御ボックス)の数や、数を増やした場合の配置を変更することは、想定されているというべきものであり(適示(1e))、また、引用文献1には、車体のリア領域の近傍に負荷モジュールMD2を配置することが記載されているから(適示(1b))、引用発明において、車両後方に電力供給を行うために、上記周知技術を採用する動機付けは存在するといえる。
したがって、上記請求人の主張は理由がない。

3 本件補正発明についてのむすび
よって、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年7月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?3、5?7に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、請求項4に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2016-043882号公報
引用文献2:特開平09-275632号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項、認定事項及び引用発明は、上記第2の[理由]2(2)(2-1)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「複数の制御ボックス」に係る「前記幹線の上流端に配置される供給側制御ボックスと、前記幹線を分岐する分岐制御ボックスと、前記幹線を分岐することなく中継する中間制御ボックスと、前記幹線を分岐及び中継することなく前記幹線の下流端に配置される制御ボックスと、を個別に有する、」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明との相違点は、上記第2の[理由]2(3)における相違点1のみである。そして、上記相違点1についての判断は、上記第2の[理由]2(4)(4-1)に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-12-24 
結審通知日 2021-01-05 
審決日 2021-01-28 
出願番号 特願2018-523703(P2018-523703)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 575- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 康正  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 須賀 仁美
佐々木 一浩
発明の名称 車両用回路体  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ