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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01D
管理番号 1372277
審判番号 不服2020-11282  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-13 
確定日 2021-03-18 
事件の表示 特願2018-90826「炉頂圧回収タービンの製造方法及び炉頂圧発電設備の建設方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月6日出願公開、特開2018-193998〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年5月9日(優先権主張 平成29年5月16日)の出願であって、令和元年11月22日付け(発送日:令和元年12月3日)で拒絶理由通知がされ、令和2年1月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年5月28日付け(発送日:令和2年6月2日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して令和2年8月13日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和2年1月17日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】
ローターと、
前記ローターの外周面に設けられ、かつ前記ローターの周方向に複数配置された第1段動翼と、
前記ローターの外周面の前記第1段動翼の後段側に設けられ、かつ前記ローターの周方向に複数配置された第2段動翼と、
前記ローター、前記第1段動翼、及び前記第2段動翼を収容するケーシングと、
前記ケーシングの内周面の前記第1段動翼の前段側に設けられ、かつ前記ケーシングの周方向に複数配置された第1段静翼と、
前記ケーシングの内周面の前記第1段動翼の後段側かつ前記第2段動翼の前段側に設けられ、かつ前記ケーシングの周方向に複数配置された第2段静翼と、
を備える炉頂圧回収タービンの製造方法において、
全ての前記第1段静翼の表面および全ての前記第2段静翼の表面に対して平滑化処理を施す工程を有することを特徴とする炉頂圧回収タービンの製造方法。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の下記の請求項に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

・請求項 1ないし4
・引用文献等 1ないし2

<引用文献等一覧>
1.実願昭51-33665号(実開昭52-124304号)のマイクロフィルム
2.特開昭61-204376号公報

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭51-33665号(実開昭52-124304号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、「炉頂圧回収タービンの製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下、同様。)。

(1)「高炉の排出ガスからエネルギーを回収する炉頂圧タービンの系統では排出ガス中の粉塵が管路や管路装置,タービン内部等に付着してその系の機能を害することが多い。粉塵の付着し易い処は管路の曲り,弁,絞り,タービンではケーシング入口,静翼等である。」(第1頁第12行ないし第17行)

(2)「本考案では上記のような粉塵の付着し易い個所の面を以下述べるような手段により非粘着性とし,あるいは面に潤滑性を与え,乃至その摩擦係数を低くすることにより効果的な粉塵付着防止構造とするものである。」(第2頁第3行ないし第7行)

(3)「第2の手段は粉塵の付着し易い面に結晶性金属酸化物によるセラミツクコーテングを施し,その面を研磨,ラツピング等により粗度1μ程度迄の鏡面に仕上げることである。これによりこの面は摩擦係数が小になり粉塵が付着し難くなる。」(第3頁第7行ないし第11行)

(4)「このような構成の粉塵付着防止の効果は第1図に示すタービンの静翼2でつぎのような結果になる。翼はコード長35mm,高さ40mm,ピツチ30mm の従来通りの金属製でこれをそのままの面で使用すれば150時間で翼間が粉塵の堆積で塞がつてしまう処を,これに0.2mm厚さの4弗化エチレンでライニングした場合は同時間の使用で0.1mm厚程の付着にすぎない。」(第3頁第14行ないし第4頁第1行)

(5)「第1図はタービンの軸を含む断面で,1はケーシング,2は静翼,3は動翼,4はローターボス。」(第4頁第4行ないし第6行)

(6)(5)の記載事項及びタービンの技術分野における技術常識と併せて第1図を参酌すると、ケーシング1の内周面に設けられた静翼2の下流側(第1図の左右方向で右方向)であって、ケーシング1の内周面に設けられた(符号が付与されていない)静翼が設けられているといえる。同様に、ローターボス4の周方向に設けられた動翼3の下流側(第1図の左右方向で右方向)であって、ローターボス4の周方向に設けられた(符号が付与されていない)動翼が設けられているといえる。
そして、タービンの技術分野における技術常識を考慮すれば、各静翼及び各動翼がローターボス4の周方向に複数配置されていることは明らかである。

(7)(5)及び(6)の記載事項と併せて第1図を参酌すると、ローターボス4、動翼2、動翼2の下流側に設けられた動翼はケーシング1に収容され、また、静翼2は動翼3の上流側に設けられ、さらに、動翼3の下流側、かつ、動翼2の下流側に設けられた動翼よりも上流側に、静翼2よりも下流側に設けられた静翼が設けられているといえる。

(8)(1)ないし(3)の記載事項から、粉塵の付着し易い個所であるタービンの静翼2の面に、セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げることで、この面の摩擦係数を小として粉塵が付着し難くしていると把握できる。

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「ローターボス4と、
ローターボス4の外周面に設けられ、かつローターボス4の周方向に複数配置された動翼3と、
ローターボス4の外周面に設けられ、かつローターボス4の周方向に複数配置された、動翼3の下流側の動翼と、
ローターボス4、動翼3、及び動翼3の下流側の動翼を収容するケーシング1と、
ケーシング1の内周面の動翼3の上流側に設けられ、かつケーシング1の周方向に複数配置された静翼2と、
ケーシング1の内周面の動翼3の下流側かつ動翼3の下流側の動翼の上流側に設けられ、かつケーシング1の周方向に複数配置された、静翼2の下流側の静翼と、
を備え、
静翼2の面に、セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げることで、この面の摩擦係数を小として粉塵が付着し難くした、
高炉の排出ガスからエネルギーを回収する炉頂圧タービン。」

2 引用文献2について
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-204376号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「炉頂圧回収タービンの製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「本発明は、軸流圧縮機、蒸気タービン等の翼表面を平滑化し、ばいじん等異物の付着を防止する動・静翼表面の平滑化処理方法に関するものである。」(第1頁左欄第11行ないし第14行)

(2)「コンプレッサー等に代表される軸流圧縮機は多くの機器やプラントに用いられているが、その効率は翼表面粗度と関係が深く、表面が平滑なものほど好ましいことが知られている。」(第1頁左欄第16行ないし第19行)

(3)「また軸流送風機が浮遊粉塵等不純物を多量に含む環境下で用いられた場合、翼表面にこれら物質が付着し、タービン効率を低下させるばかりか、極端な場合は運転不能となるので、できるだけ異物の付着・堆積し難いものが望まれているが、付着機構そのものが複雑なこともあり十分対策されていないのが現状である。」(第1頁右欄第4行ないし第10行)

(4)「洗浄後、動・静翼をMT-TiCNコーテイング〔日之出金属社開発のコーテイング法で、比較的低温の650?750℃に加熱された容器(炉)中へ、反応ガス(TiCl_(4),R-CN,H_(2)等)を導入し、容器中に設置された被処理物にコーテイングするCVDコーテイング法〕用の容器内に挿入し、膜厚10μmを目標にTiCNコーテイングを3?6時間実施した。」(第2頁右上欄第14行ないし左下欄第1行)

(5)「上記のTiCNコーテイング後、コーテイング容器中に加圧(1?5kg/cm^(2) )N_(2)ガスを導入し、各翼を100℃付近まで冷却し、コーテイング容器より取出した。しかる後、各翼の表面を軽くバフ研磨(1?2分間)し、表面付着物を除去することにより仕上げた。」(第2頁左下欄第16行ないし右下欄第1行)

したがって、引用文献2には次の技術的事項(以下、「引用文献2技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献2技術的事項>
「ばいじん等異物が付着してタービン効率を低下させないように、静翼にTiCNコーテイングを実施し、しかる後、表面をバフ研磨することで、蒸気タービンの翼表面を平滑化する動・静翼表面の平滑化処理方法」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
第1に、引用発明における「ローターボス4」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「ローター」に相当し、以下同様に、「動翼3」は「第1段動翼」に、「動翼3の下流側の動翼」は「第2段動翼」に、「ケーシング1」は「ケーシング」に、「静翼2」は「第1段静翼」に、「静翼2の下流側の静翼」は「第2段静翼」に、「高炉の排出ガスからエネルギーを回収する炉頂圧タービン」は「炉頂圧回収タービン」にそれぞれ相当する。
第2に、引用発明における「静翼2の面に、セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げること」という事項から、少なくとも「高炉の排出ガスからエネルギーを回収する炉頂圧タービン」の製造方法における一工程が記載されていると認められる。
第3に、引用発明における「静翼2の面に、セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げることで、この面の摩擦係数を小として粉塵が付着し難くした」という事項と、本願発明における「全ての前記第1段静翼の表面および全ての前記第2段静翼の表面に対して平滑化処理を施す工程を有する」という事項とは、「静翼の表面に対して摩擦係数を小とする処理を施す工程を有する」という限りにおいて一致している。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「ローターと、
前記ローターの外周面に設けられ、かつ前記ローターの周方向に複数配置された第1段動翼と、
前記ローターの外周面の前記第1段動翼の後段側に設けられ、かつ前記ローターの周方向に複数配置された第2段動翼と、
前記ローター、前記第1段動翼、及び前記第2段動翼を収容するケーシングと、
前記ケーシングの内周面の前記第1段動翼の前段側に設けられ、かつ前記ケーシングの周方向に複数配置された第1段静翼と、
前記ケーシングの内周面の前記第1段動翼の後段側かつ前記第2段動翼の前段側に設けられ、かつ前記ケーシングの周方向に複数配置された第2段静翼と、
を備え、
静翼の表面に対して摩擦係数を小とする処理を施す工程を有する炉頂圧回収タービンの製造方法。」

<相違点>
「静翼の表面に対して摩擦係数を小とする処理を施す工程」に関して、本願発明の処理は「平滑化処理」であり、「全ての前記第1段静翼の表面および全ての前記第2段静翼の表面に対して」当該処理を施すのに対して、引用発明における「セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げる」処理が平滑化処理なのか不明であり、また、全ての静翼2の面と、静翼2の下流側の全ての静翼の面とに当該処理を施すのか不明である点。

第6 判断
1 相違点について
本願の発明の詳細な説明における段落【0023】を参酌すると、本願発明における「平滑化処理」とは、「平滑化処理後の被処理材の表面の摩擦係数を、平滑化処理前の被処理材の表面の摩擦係数よりも低減させることができる処理」であることが定義されている。
その定義に照らし合わせれば、引用発明における「セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げる」処理は、静翼2の面の摩擦係数を小としているから、本願発明における「平滑化処理」に相当し、また、引用発明における「静翼2の面に、セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げることで、この面の摩擦係数を小として粉塵が付着し難くした」という事項は、第1段静翼の表面に対して平滑化処理を施すものであるから、本願発明における平滑化処理を施す工程を有することに相当する。
また、仮に、引用発明における「セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げる」処理が本願発明における「平滑化処理」に相当しないとしても、引用文献2技術的事項から把握できるように、引用文献2には、蒸気タービン等の動・静翼表面の平滑化処理方法が記載されている。
そして、引用発明と引用文献2技術的事項とはタービンに用いられる静翼の表面粗度を小さくする点で共通している。
したがって、引用発明に引用文献2技術的事項を適用して、本願発明における「平滑化処理」を施すことは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、前記第4の「1 引用文献1について」(4)の記載事項を考慮すれば、引用発明において、タービンの静翼2の翼間が粉塵の堆積で塞がらないように、ローターボス4の周方向に隣り合う静翼2の各面に「セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げる」処理、又は、引用文献2技術的事項における平滑化処理をすること、すなわち、全ての静翼2(本願発明における「第1段静翼」に相当。)の面に「セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げる」処理、又は、引用文献2技術的事項における平滑化処理をすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、前記第4の「2 引用文献2について」(2)の記載事項は、文脈からみて、翼表面への粉塵等の付着によらないものと解されるから、下流段の翼についても、表面が平滑であることが好ましいことを示唆するものである。
したがって、引用発明における静翼2の下流側の静翼の全ての面に対して、「セラミツクコーテングを施し、その面を鏡面に仕上げる」処理、又は、引用文献2技術的事項における平滑化処理をすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 発明の効果について
本願発明の効果に関して、本願の発明の詳細な説明における段落【0029】及び【0030】を参酌すると、第1段静翼の表面に施した平滑化処理によりその表面が平滑化されると、ダストが第1段静翼の表面に付着しにくくなる結果、経時的な発電効率の低下を抑制できる一方、第2段静翼の表面に施した平滑化処理によりその表面が平滑化されると、高炉ガスと静翼の表面との摩擦によって生じるエネルギー損を低減させることにより、初期発電効率を向上できる旨が把握できる。
しかしながら、ダストが第1段静翼の表面に付着しにくくなることについては、引用文献1又は引用文献2の記載事項から明らかである。
また、高炉ガスと静翼の表面との摩擦によって生じるエネルギー損を低減させることについては、前記第6の「1 相違点について」で示したとおり、前記第4の「2 引用文献2について」(2)の記載事項から予測し得ることである。
そうすると、本願発明の奏する作用効果は、当業者であれば引用発明及び引用文献2技術的事項から予測し得たものである。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「(4)本願発明の進歩性について」において、引用文献1及び引用文献2の記載事項に基いて、本願発明における「第2段静翼」に「平滑化処理」を施すことは、当業者にとって容易でない旨を主張すると共に、「このように、引用文献1,2ともに、粉塵の付着とは異なり、「高炉ガスとの摩擦によって生じるエネルギー損失を減らし、初期発電効率を向上させること」について、何ら着目していない。」として、本願発明の効果の予測が困難である旨も主張する。
しかしながら、前記第6の「1 相違点について」で示したとおり、引用発明に引用文献2技術的事項を適用して、本願発明における「全ての前記第1段静翼の表面および全ての前記第2段静翼の表面に対して平滑化処理を施す工程を有すること」という事項にすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、前記第6の「2 発明の効果について」で示したとおり、上記主張による本願発明の効果は、当業者であれば引用発明及び引用文献2技術的事項から予測し得たものである。
さらに、引用文献1及び引用文献2に、本願発明の効果における、高炉ガスとの摩擦によって生じるエネルギー損失を減らすという点について直接的な記載がないことを考慮したとしても、タービンの技術分野において、翼面の粗さを細かくし、滑らかにすることで、翼面の摩擦損失を抑制することが周知技術である(例えば、特開2007-297939号公報の段落【0006】を参照。)ことから、やはり、本願発明の効果は当業者が予測し得たものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2021-01-05 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-01-26 
出願番号 特願2018-90826(P2018-90826)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 所村 陽一金田 直之  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
高島 壮基
発明の名称 炉頂圧回収タービンの製造方法及び炉頂圧発電設備の建設方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 川原 敬祐  

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