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審決分類 |
審判 査定不服 特39条先願 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1372324 |
審判番号 | 不服2020-8207 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-12 |
確定日 | 2021-04-13 |
事件の表示 | 特願2015-193960「偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 68062、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2015-193960号(以下「本件出願」という。)は、平成27年9月30日に出願したものであって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和元年 6月 7日付け:拒絶理由通知書 令和元年10月15日提出:手続補正書 令和元年10月15日提出:意見書 令和2年 3月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年 6月12日提出:手続補正書 令和2年 6月12日提出:審判請求書 令和2年12月10日付け:拒絶理由通知書 令和3年 1月22日提出:手続補正書 令和3年 1月22日提出:意見書 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 1 本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願日前の出願である特願2014-243855号(特許第6146921号公報)(以下「先願1」という。)に係る発明と同一であるから、特許法39条1項の規定により特許を受けることができない。 2 本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた外国語特許出願である、特願2016-534722号(国際出願番号:PCT/KR2015/002936、国際公開番号:第2015/147552号)(以下「先願2」という。)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法184条の13参照。)。 第3 本願発明 本件出願の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和3年1月22日でされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項によって特定される、以下のものである。 「 【請求項1】 長尺方向および幅方向に所定の間隔で配置された非偏光部を有する長尺状偏光板を、所定の長尺方向送りピッチごとに、該長尺状偏光板の幅方向の一方から他方に向けて、切り抜き刃により順次裁断することを含み、 該長尺状偏光板を裁断する際、該長尺状偏光板に設定された基準線を検知し、得られた検知情報に基づいて、該切り抜き刃を回転させて裁断の向きを決定し、その後、該非偏光部の位置を検知し、検知された該非偏光部の位置を基準として前記切り抜き刃の位置決めを行った後に長尺状偏光板を裁断し、ひとつの非偏光部を有する枚葉偏光板を1枚ずつ得る、 偏光板の製造方法。 【請求項2】 前記切り抜き刃に2つの基準線検知手段が設けられており、 該2つの基準線検知手段を用いて、前記基準線を検知し、 該2つの基準線検知手段を結ぶ線と、該基準線とがなす角度を調整して、裁断の向きが決定される、 請求項1に記載の偏光板の製造方法。 【請求項3】 前記基準線が、前記長尺状偏光板の幅方向端辺である、請求項1または2に記載の偏光板の製造方法。 【請求項4】 2つの基準線検知手段を結ぶ線と、長尺状偏光板の長尺方向とが、平行である、請求項2に記載の偏光板の製造方法。 【請求項5】 請求項1から4のいずれかに記載の製造方法に用いられ、前記長尺状偏光板からひとつの前記非偏光部を有する前記枚葉偏光板を1枚ずつ裁断する、偏光板の製造装置であって、 該長尺状偏光板を所定の長尺方向送りピッチで搬送する搬送手段と、 該長尺状偏光板が有する前記非偏光部を検知する非偏光部検知手段と 該非偏光部検知手段からの検知情報を基準にして裁断位置を決め、該長尺状偏光板を裁断する切り抜き刃とを含み、 該切り抜き刃が、回転可能に構成されている、 偏光板の製造装置。」 第4 理由1(特許法39条1項:先願)について 1 先願発明 (1) 先願1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された先願1の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア「【請求項1】 幅方向に2個以上および長さ方向に2個以上の被検出部を有する帯状フィルムを、所定の長さ方向送りピッチごとに、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて、順次切り抜くことを含み、 該帯状フィルムを切り抜く際、該被検出部の位置を検出し、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行い、検出された該被検出部を有するフィルム片を1枚ずつ得ることを含み、 該帯状フィルムが、長尺状偏光子であり、 該被検出部が、非偏光部である、 光学フィルムの製造方法。 【請求項2】 カメラを用いて、前記被検出部の位置を検出する、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。 【請求項3】 幅方向において前記帯状フィルムを切り抜く前に、該帯状フィルムの幅方向の片側端辺を検出することと、 該帯状フィルムを切り抜く際、切り抜き手段を、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて、移動させることとを含み、 検出された該片側端辺を基準に、該切り抜き手段の移動方向を決定する、 請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。 【請求項4】 帯状フィルムを所定の長さ方向送りピッチで搬送する搬送手段と、 該帯状フィルムが有する被検出部を検出する検出手段と、 該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて移動し、かつ、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行う切り抜き手段とを含み、 該帯状フィルムが、長尺状偏光子であり、 該被検出部が、非偏光部である、 光学フィルムの製造装置。 【請求項5】 前記検出手段が、前記帯状フィルムの幅方向の片側端辺をさらに検出し、 検出された該片側端辺を基準に、前記切り抜き手段の移動方向が決定される、 請求項4に記載の製造装置。」 イ「【技術分野】 【0001】 本発明は、光学フィルムの製造方法および製造装置に関する。 【背景技術】 【0002】 従来より、液晶表示装置等の画像表示装置には、偏光フィルムや位相差フィルムといった種々の光学フィルムが使用されており、これらの光学フィルムを備えることによって該画像表示装置は所望の画像表示特性を発揮している。光学フィルムは、一般に、所定の樹脂材料からなる長尺フィルムを作製した後、打ち抜き装置を用いて所定の製品形状を有するフィルム片として打ち抜かれることにより製造される(例えば、特許文献1)。 【0003】 上記光学フィルムの使用方法等に応じて、光学フィルム表面の特定位置にアライメントマーク等の機能部が設けられることがある。近年の画像表示装置の高機能化に伴い、光学フィルムにおける機能部を、バラツキがないように精度よく配置することが求められている。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、長尺の帯状フィルムから、機能部が精度よく配置されたフィルム片(光学フィルム)を製造し得る製造方法および製造装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の光学フィルムの製造方法は、幅方向に2個以上および長さ方向に2個以上の被検出部を有する帯状フィルムを、所定の長さ方向送りピッチごとに、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて、順次切り抜くことを含み、該帯状フィルムを切り抜く際、該被検出部の位置を検出し、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行い、検出された該被検出部を有するフィルム片を1枚ずつ得ることを含む。 1つの実施形態においては、カメラを用いて、上記被検出部の位置を検出する。 1つの実施形態においては、幅方向において上記帯状フィルムを切り抜く前に、該帯状フィルムの幅方向の片側端辺を検出することと、該帯状フィルムを切り抜く際、切り抜き手段を、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて、移動させることとを含み、検出された該片側端辺を基準に、該切り抜き手段の移動方向を決定する。 本発明の別の局面によれば、光学フィルムの製造装置が提供される。この光学フィルムの製造装置は、帯状フィルムを所定の長さ方向送りピッチで搬送する搬送手段と、該帯状フィルムが有する被検出部を検出する検出手段と、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて移動し、かつ、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行う切り抜き手段とを含む。 1つの実施形態においては、上記検出手段が、上記帯状フィルムの幅方向の片側端辺をさらに検出し、検出された該片側端辺を基準に、上記切り抜き手段の移動方向が決定される。 【発明の効果】 【0007】 本発明によれば、機能部を被検出部として、その位置を検出し、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行うことにより、被検出部(機能部)が精度よく位置する光学フィルムを得ることができる。」 エ「【発明を実施するための形態】 【0009】 図1(a)、(a’)および(b)?(d)は、本発明の1つの実施形態による光学フィルムの製造方法を示す概略図である。本発明の製造方法においては、幅方向に2個以上および長さ方向に2個以上の被検出部11を有する帯状フィルム100を、所定の長さ方向送りピッチごとに、帯状フィルム100の幅方向の一方から他方へ向けて、順次切り抜くことを含み、帯状フィルム100を切り抜く際には、被検出部11の位置を検出し(図1(a))、検出された被検出部11の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行い(図1(b))、検出された被検出部11を有するフィルム片10を1枚ずつ得ることを含む。 【0010】 したがって、本発明の光学フィルムの製造法に用いられる光学フィルムの製造装置は、帯状フィルムを所定の長さ方向送りピッチ(以下、単に送りピッチともいう)で搬送する搬送手段と、該帯状フィルムが有する被検出部を検出する検出手段と、切り抜き手段とを含む。好ましくは、上記切り抜き手段は、帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて移動し、かつ、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行う。図1(a’)は、検出手段および切り抜き手段の一例を示す概略断面図である。この例においては、切り抜き手段20として矩形状の切り抜き刃(例えば、トムソン刃)が用いられている。また、検出手段30として、カメラが用いられている。1つの実施形態においては、図示例のように、検出手段30と切り抜き手段20とは、一体に構成され、かつ、レール40に沿って移動可能なように設置される。別の実施例においては、検出手段と切り抜き手段とは別々に設置され、検出手段は帯状フィルムの所定領域を撮像して被検出部を検出し得るように固定され、切り抜き手段は移動可能なように設置される。 【0011】 本発明の製造方法においては、上記のとおり、幅方向に2個以上および長さ方向に2個以上の被検出部11を有する帯状フィルム100を、送りピッチごとに、該帯状フィルム100の幅方向の一方から他方へ向けて(図1に示す例においては、紙面左側から右側に向けて)、順次切り抜き、被検出部11を有するフィルム片10を1枚ずつ得る。なお、本明細書において、長さ方向とは、帯状フィルムの搬送方向Y に相当し得る方向であるが、搬送方向Yに平行である場合のみでなく、搬送方向Yを基準に-45°を超えて45°未満の方向を意味する。また、幅方向とは、搬送方向Yに直交する方向Xを基準に-45°?45°の方向を意味する。 【0012】 上記帯状フィルムとしては、例えば、光軸を有する長尺光学フィルムが挙げられる。本発明により得られたフィルム片は、例えば、画像表示装置に使用される光学フィルム製品として好適に使用され得る。光軸を有する光学フィルムとしては、具体的には、位相差フィルム、偏光フィルム等が挙げられる。 【0013】 フィルム片10において、被検出部11は、所定の機能を発現する部分(機能部)である。言い換えれば、本発明においては、機能部を被検出部として、該機能部を基準に切り抜き線を決める。本発明によれば、被検出部の位置を検出した上で切り抜く位置を決めるので、被検出部(機能部)が精度よく位置するフィルム片を得ることができる。また、帯状フィルム上の被検出部の間隔にばらつきがある場合、あるいは、帯状フィルムが蛇行している場合においても、被検出部が精度よく位置するフィルム片を得ることができる。一方、複数枚のフィルム片を同時に切り抜くという従来の方法では、機能部の間隔のバラツキ、帯状フィルムの蛇行等の帯状フィルム側の状態に応じて、切り抜き位置を調整できないため、被検出部が精度よく位置するフィルム片を得ることができない。被検出部(機能部)としては、例えば、非偏光部を有する偏光子における、非偏光部(すなわち、すべての偏光成分を透過し得る機能を発現する部分)が挙げられる。被検出部(機能部)の別の例としては、アライメントマーク等が挙げられる。 【0014】 被検出部11は、帯状フィルム100の被検出部11以外の部分とは、区別し得る部分である。被検出部11は、被検出部11以外の部分と、外観上、区別できることが好ましい。1つの実施形態においては、被検出部11は、被検出部以外の部分と光透過性が異なる。また、別の実施形態においては、被検出部11は、被検出部以外の部分とは色調および/または濃淡が異なる。なお、図1においては、見やすくするために、上記外観上の区別を示さず、その代わりに、被検出部11の外郭を実線で示している。 【0015】 図2(a)は、帯状フィルム100における被検出部11の配置パターンの一例を説明する概略平面図であり、図2(b)は、被検出部11の配置パターンの別の例を説明する概略平面図であり、図2(c)は、被検出部11の配置パターンのさらに別の例を説明する概略平面図である。上記被検出部11は、フィルム片の用途等に応じて、任意の適切な配置とされ得る。被検出部11は、幅方向において、略一直線上に配置されていることが好ましい(図2(a))。また、帯状フィルム100の幅方向端辺に対する被検出部11の配列方向は、任意の適切な角度であり得る。すなわち、被検出部の配列方向は、帯状フィルム100の幅方向端辺の方向に直交していてもよく(図2(a))、直交していなくてもよい(図2(b))。また、幅方向および長さ方向それぞれにおいて、被検出部11同士の間隔は、同じであってもよく(図2(a))、異なっていてもよい(図2(c))。本発明によれば、様々な被検出部の配置パターンに対応して、被検出部が精度よく位置するフィルム片を得ることができる。また、例えば図2(c)に示すように規則性のない配列パターンであっても、被検出部が精度よく位置するフィルム片を得ることができる。 【0016】 帯状フィルム100を切り抜く際には、図1(a)に示すように被検出部11の位置を検出し、その後、図1(b)に示すように、検出された被検出部11の位置を基準として切り抜き線12 の位置決めが行われる。より具体的には、切り抜き線12の位置決めは、検出された被検出部11の位置を基準として、切り抜き線12が規定する形状における特定箇所の位置、ならびに、切り抜き線12が規定する平面形状の向きを制御するようにして行われ得る。切り抜き線12が規定する形状における特定箇所は、該形状のどの箇所であってもよく、例えば、該形状の重心、頂点、辺上の一点等が挙げられる。切り抜き線12の位置決めを行った後、帯状フィルム100を切り抜き、検出された被検出部11を有するフィルム片10を1枚ずつ得る。フィルム片10の形状は、切り抜き線12により規定される。フィルム片10の形状は、任意の適切な形状であり得る。例えば、矩形、正方形、多角形、円形、楕円形等が挙げられる。 【0017】 1つの実施形態においては、カメラを用いて、被検出部11の位置を検出する。 【0018】 帯状フィルム100を切り抜く際の切り抜き手段としては、任意の適切な手段が採用され得る。1つの実施形態においては、図1に示すように、フィルム片10の形状に応じた打ち抜き刃20を用いて、帯状フィルム100を切り抜く。例えば、切り抜き手段としてトムソン刃のような打ち抜き刃20を用いる場合、切り抜き線12の位置決めは、被検出部11の位置を検出し、検出された被検出部11の位置を基準として、打ち抜き刃20が規定する平面形状における特定箇所の位置(例えば、該形状の重心、頂点、辺上の一点等)、ならびに、打ち抜き刃20が規定する平面形状の向き(すなわち、搬送方向Yおよび搬送方向と直交する方向Xに対する角度)を制御して、行われる。切り抜き線12の位置決めを行った後、打ち抜き刃20を帯状フィルム100に向けて、上方向または下方向に移動させて、帯状フィルム100を打抜くようにして、フィルム片10を得る。 【0019】 上記切り抜き手段の別の例としては、レーザー光照射による切り抜き、ドリルによる切削加工、ルータ加工、ウォータージェット加工等が挙げられる。 【0020】 1つの実施形態においては、幅方向において帯状フィルム100を切り抜く際、切り抜き手段20を、帯状フィルム100の幅方向の一方から他方へ向けて、移動させる。上記操作により、1枚のフィルム片を切り抜いた後、切り抜き手段を幅方向に移動させ、上記操作と同様の操作により、次のフィルム片を切り抜く(図1(b)?(d))。好ましくは、切り抜き手段20の移動は、直線移動である。切り抜き手段20の移動方向は、被検出部11の配置に応じて、任意の適切な方向に設定され得る。切り抜き手段20の移動方向は、帯状フィルム100の幅方向の片側端辺の方向に対して、好ましくは90°±45°であり、より好ましくは90°±30°であり、さらに好ましくは90°±15°である。 【0021】 1つの実施形態においては、幅方向において帯状フィルム100を切り抜く前に、帯状フィルム100の幅方向の片側端辺を検出し、検出された該片側端辺(より具体的には該片側端辺の方向)を基準に上記切り抜き手段20の移動方向を決定する。帯状フィルムの幅方向端辺を基準に切り抜き手段の移動方向を決めることにより、帯状フィルムが蛇行している場合においても、被検出部(すなわち、機能部)が精度よく位置するフィルム片を得ることができる。 【0022】 帯状フィルム100の幅方向の片側端辺の検出には、被検出部11を検出する検出手段を用いてもよく、被検出部11を検出する検出手段とは別の検出手段を用いてもよい。すなわち、本発明の製造装置は、1以上の検出手段を備え得る。 【0023】 幅方向の一列において、帯状フィルム100の切り抜きが完了した後は、帯状フィルム100を所定の送りピッチ分、搬送し、次の一列について、幅方向の一列における切り抜き操作を行う。幅方向の一列における切り抜き操作、および該操作後の帯状フィルム100の1ピッチ分の搬送を1サイクルとして、所定回数これを繰り返すことにより、長尺状の帯状フィルム100から複数枚のフィルム片10を得ることができる。送りピッチは、被検出部11の長さ方向間隔に応じて設定され得る。例えば、長さ方向における被検出部の配列が、搬送方向Yと平行である場合、送りピッチは、被検出部11の長さ方向間隔と同じ長さであることが好ましい。 【0024】 1つの実施形態においては、上記帯状フィルムとして、長尺状であり、かつ、長さ方向および幅方向に所定の間隔で配置された非偏光部を有する長尺状偏光子が用いられる。上記長尺状偏光子において、非偏光部以外の部分(以下、偏光部ともいう)は特定の偏光を透過させるのに対し、上記非偏光部は、すべての偏光成分を透過する。このような長尺状偏光子は、カメラ部を有する画像表示装置の材料として好適に用いられる。より具体的には、上記非偏光部を有する長尺状偏光子から切り抜かれた偏光子を用いて、該非偏光部の位置と上記カメラ部の位置とを合わせて画像表示装置を構成することにより、カメラ性能に優れ、かつ、多機能化および高機能化を実現することが可能な画像表示装置を得ることができる。本発明の製造方法により、非偏光部を有する長尺状偏光子を切り抜けば、画像表示装置のカメラ部の位置に合わせて非偏光部の位置を精度よく設定できる。また、通常、長尺状偏光子の偏光部の吸収軸は、幅方向端辺に平行な方向または幅方向端辺と直交する方向に発現するため、非偏光部を適切に配置して(例えば、図2(b)のように配置して)、長尺偏光子の搬送方向に対する切り抜き手段の移動方向を調整することにより、切り抜かれた偏光子の吸収軸の方向を精密に制御することができる。また、偏光子ごとの吸収軸の方向のばらつきを顕著に抑制することができる。 【0025】 1つの実施形態においては、非偏光部は、偏光子中間体の所定の部分を脱色することにより形成された脱色部である。脱色部は、例えば、レーザー照射または化学処理(例えば、酸処理、アルカリ処理またはその組み合わせ)により形成され得る。別の実施形態においては、非偏光部は貫通孔(代表的には、偏光子を厚み方向に貫通する貫通孔)である。貫通孔は、例えば、機械的打ち抜き(例えば、パンチング、彫刻刃打抜き、プロッター、ウォータージェット)または偏光子中間体の所定部分の除去(例えば、レーザーアブレーションまたは化学的溶解)により形成され得る。 【0026】 上記非偏光部は、色調および/または光透過率に基づいて、非偏光部以外の部分と外観上の区別ができ、上記検出手段により検出され得る。したがって、本発明の製造方法において、非偏光部は、上記の被検出部11としての機能を奏する。 【産業上の利用可能性】 【0027】 本発明の製造方法は、位相差フィルム、偏光子フィルム等の光学フィルムを製造する際に好適に用いられる。特に、スマートフォン等の携帯電話、ノート型PC、タブレットPC等のカメラ付き画像表示装置(液晶表示装置、有機ELデバイス)に備えられる偏光子を製造する際に好適に用いられる。」 オ 図1 「 」 (2)先願発明 先願1には、請求項1を引用する請求項3に係る発明として、次の「光学フィルムの製造方法」の発明(以下「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。 「幅方向に2個以上および長さ方向に2個以上の被検出部を有する帯状フィルムを、所定の長さ方向送りピッチごとに、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて、順次切り抜くことを含み、 該帯状フィルムを切り抜く際、該被検出部の位置を検出し、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行い、検出された該被検出部を有するフィルム片を1枚ずつ得ることを含み、 該帯状フィルムが、長尺状偏光子であり、 該被検出部が、非偏光部であり、 幅方向において前記帯状フィルムを切り抜く前に、該帯状フィルムの幅方向の片側端辺を検出することと、 該帯状フィルムを切り抜く際、切り抜き手段を、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて、移動させることとを含み、 検出された該片側端辺を基準に、該切り抜き手段の移動方向を決定する、 光学フィルムの製造方法。」 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と先願発明1とを対比すると、次のとおりとなる。 (ア) 非偏光部、長尺状偏光板 先願発明1は、「帯状フィルムが、長尺状偏光子であり、該被検出部が、非偏光部であ」るところ、その文言が意味するとおり、先願発明1の「帯状フィルム」及び「被検出部」は、それぞれ本願発明1の「長尺状偏光板」及び「非偏光部」に相当する。 さらに、先願発明1の「被検出部」は、「長尺状偏光子」である「長尺状偏光板」において、「幅方向に2個以上および長さ方向に2個以上」「有する」ものであり、それぞれ「長さ方向」及び「幅方向」は、本願発明1の「長尺方向」及び「幅方向」に相当する。 また、通常、部位を所定の方向に2個以上有するとされる場合、それらの部位は所定の間隔で配置されることになるから、先願発明1の「被検出部」は、本願発明1の「非偏光部」における、「長尺方向および幅方向に所定の間隔で配置された」という要件を満たす。 以上によれば、先願発明1の「帯状フィルム」は、本願発明1の「長尺状偏光板」における、「長尺方向および幅方向に所定の間隔で配置された非偏光部を有する」という要件を満たす。 (イ)順次裁断すること 先願発明1は、「帯状フィルムを所定の長さ方向送りピッチごとに、該帯状フィルムの幅方向の一方から他方へ向けて、順次切り抜く」ものであり、通常、フィルムを「切り抜」くことにより、フィルムは断ち切られることになる。 そうしてみると、先願発明1の「切り抜く」は、本願発明1の「裁断する」に相当し、先願発明1と本願発明1とは、「切り抜き手段」を有する点で共通する。 したがって、先願発明1の方法と、本願発明1の方法とは、「所定の長尺方向送りピッチごとに、長尺状偏光板の幅方向の一方から他方に向けて」「順次裁断する」点において共通する。 (ウ) 基準線を検知 先願発明1の「片側端辺」は、「幅方向において前記帯状フィルムを切り抜く前に、該帯状フィルムの幅方向の片側端辺を検出」するものであるから、帯状フィルムに設定されているものといえ、さらに、「検出された該片側端辺を基準に、該切り抜き手段の移動方向を決定する」ものであるから、先願発明1の「片側端辺」は「切り抜き手段の移動方向を決定する」「基準」となっており、通常、端辺は線状であることは自明であるから、本願発明1の「基準線」に相当する。 また、先願発明1における、「片側端辺」を「検出」するのは、「幅方向において前記帯状フィルムを切り抜く前」であり、広い意味で、本願発明1の「長尺状偏光板を裁断する際」といえる。 そうしてみると、先願発明1の方法と、本願発明1の方法とは、「長尺状偏光板を裁断する際、長尺状偏光板に設定された基準線を検知」するという点で共通する。 (エ) 枚葉偏光板を1枚ずつ得る 先願発明1は、「帯状フィルムを切り抜く際、該被検出部の位置を検出し、検出された該被検出部の位置を基準として切り抜き線の位置決めを行い、検出された該被検出部を有するフィルム片を1枚ずつ得る」ものであり、フィルムは、上記(ア)で述べたとおり偏光板であるから、先願発明1の「フィルム片」は、本願発明1の「枚葉偏光板」に相当する。 また、先願発明1の「フィルム片」は、先願明細書の【0027】や図1等を参照すると、ひとつの被検出部を有するものが想定されることは自明である。 そうしてみると、先願発明1は、本願発明1の「該非偏光部の位置を検知し、検知された該非偏光部の位置を基準として前記切り抜き刃の位置決めを行った後に長尺状偏光板を裁断し、ひとつの非偏光部を有する枚葉偏光板を1枚ずつ得る」という要件を満たす。 (オ) 偏光板の製造方法 先願発明1の「光学フィルム」は「帯状フィルムを切り抜く」ことで得られるものである。ここで、上記(ア)によれば、先願発明1の「帯状フィルム」は、本願発明1の「長尺状偏光板」に相当するから、先願発明1の「光学フィルム」は、本願発明1の「偏光板」に相当する。 そうしてみると、先願発明1の「光学フィルムの製造方法」は、本願発明1の「偏光板の製造方法」に相当する。 以上(ア)?(オ)によれば、本願発明1と先願発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「長尺方向および幅方向に所定の間隔で配置された非偏光部を有する長尺状偏光板を、所定の長尺方向送りピッチごとに、該長尺状偏光板の幅方向の一方から他方に向けて、順次裁断することを含み、 該長尺状偏光板を裁断する際、該長尺状偏光板に設定された基準線を検知し、該非偏光部の位置を検知し、検知された該非偏光部の位置を基準として前記切り抜き手段の位置決めを行った後に長尺状偏光板を裁断し、ひとつの非偏光部を有する枚葉偏光板を1枚ずつ得る、 偏光板の製造方法。」 (相違点1) 切り抜き手段が、本願発明1では、「切り抜き刃」であるのに対して、先願発明1では、このように特定されていない点。 (相違点2) 本願発明1では、長尺状偏光板に設定された基準線の検知から得られた検知情報に基づいて、切り抜き刃を回転させて裁断の向きを決定し、その後、非偏光部の位置を検知しているのに対して、先願発明1では、このように特定されていない点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 先願発明1は、「検出された該片側端辺を基準に、該切り抜き手段の移動方向を決定する」ものであり、本願発明1のように「切り抜き刃を回転させて裁断の向きを決定」するものではない。そして、先願発明1における「切り抜き手段」の回転(制御)に関連して、先願1の明細書には、「切り抜き線12の位置決めは、被検出部11の位置を検出し、検出された被検出部11の位置を基準として、打ち抜き刃20が規定する平面形状における特定箇所の位置・・・中略・・・ならびに、打ち抜き刃20が規定する平面形状の向き(すなわち、搬送方向Yおよび搬送方向と直交する方向Xに対する角度)を制御して、行われる。」(【0018】)と記載されている。当該記載によれば、先願発明1において、「切り抜き手段」(打ち抜き刃20)の向きの制御(回転制御)は、「帯状フィルム」の「片側端辺」でなはく、被検出部11(本願発明1の「非偏光部」に相当。)を基準として行われていると理解される。 ここで、切り抜き手段の制御内容(向きか移動方向か)や何を基準にして制御するかによって制御の精度が異なることは明らかである。(当合議体注:例えば、基準とする検知部位が異なれば、制御精度は、検知と裁断のタイミングや検知部位の形状等に依存すると考えられる。) そうしてみると、「偏光板の製造方法」において、相違点2は、もはや課題解決のための具体化手段における微差(実質同一)と評価することは相当ではない。 さらに、原査定の拒絶理由に技術常識を示す文献として引用された、国際公開第2013/151097号の[0040]-[0062]、図3には、偏光フィルムの切断において、切断装置の角度をフィルムの端を基準として検知し、切断装置を回転させる事項が記載されているが、先願発明1のように、切り抜き手段の移動方向を決めるために、切り抜き手段を回転させているわけではなく、回転させることの技術的意味が異なる。 くわえて、先願発明1において、切り抜き手段を回転させて切り抜きの向きを決定した後に、被検出部の位置を検知するという順序についても先願1の明細書には記載も示唆もない。そして、このような制御手順の相違は、製造方法の発明における微差とはいえない。 したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、先願発明1と同一であるとはいえない。 (2)本願発明2?5について、 本願発明2?5は、いずれも、本願発明1の「該長尺状偏光板を裁断する際、該長尺状偏光板に設定された基準線を検知し、得られた検知情報に基づいて、該切り抜き刃を回転させて裁断の向きを決定し」という相違点2に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、先願1に係る発明と同一であるとはいえない。 第5 理由2(特許法29条の2:拡大先願)について 事案に鑑み、簡潔に理由を示す。 1 引用文献、引用発明等 先願2の[0212]?[0252]等に記載された「枚葉型偏光部材を製造する方法」の発明を、以下「先願発明2」とする。 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と先願発明2との間には、次の相違点があるといえる。 (相違点1) 非偏光部が、本願発明1では、長尺方向および幅方向に所定の間隔で配置されているのに対して、先願発明2では、長尺方向および幅方向に所定の間隔で配置されているのか不明である点。 (相違点2) 「裁断」が、本願発明1では、「切り抜き刃により」行われるものであるのに対して、先願発明2では、このように特定されていない点。 (相違点3) 裁断が、本願発明1では、所定の長尺方向送りピッチごとに、長尺状偏光板の幅方向の一方から他方に向けて、順次行われているのに対して、先願発明2では、そのように特定されていない点。 (相違点4) 本願発明1では、長尺状偏光板に設定された基準線の検知から得られた検知情報に基づいて、切り抜き刃を回転させて裁断の向きを決定し、その後、非偏光部の位置を検知しているのに対して、先願発明2では、このように特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点4について検討する。 先願2には、「前記切断ステップは、これに限定されるものではないが、レーザを用いて行われることが好ましい。金型やナイフを用いて偏光部材を切断する場合、切断された偏光部材において脱色領域が同一の位置を有するように調整することが容易でなく、不良発生率が高くなるからである。」([0246])ことが記載されており、切り抜き刃を用いることに積極的な動機はなく、さらに、通常レーザを用いる場合は回転させて向きを決定する必要がないものと認められる。 また、原査定の拒絶理由に技術常識として示された、国際公開第2013/151097号の[0040]-[0062]、図3には、偏光フィルムの切断において、切断装置の角度をフィルムの端を基準とするように切断装置を回転させる事項が記載されているが、上記事項は偏光フィルムの技術分野において、周知・慣用技術とまでいえず、相違点4が課題解決のための具体化手段における微差とまでいえない。 くわえて、先願発明2において、切断手段を回転させて切断の向きを決定した後に、局所的脱色領域の位置を検知するという順序についても、先願2の明細書には記載も示唆もない。そして、このような制御手順の相違は、製造方法の発明における微差とはいえない。 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、先願2に記載された発明とは同一であるとはいえない。 (2)本願発明2?5について、 本願発明2?5は、いずれも、本願発明1の「該長尺状偏光板を裁断する際、該長尺状偏光板に設定された基準線を検知し、得られた検知情報に基づいて、該切り抜き刃を回転させて裁断の向きを決定し」という相違点4に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、先願2に記載された発明と同一であるとはいえない。 第6 原査定について 1 理由1(特許法39条1項:先願)について 上記「第4 理由1(特許法39条第1項:先願)について」の「2 対比・判断」で述べたとおり、本願発明1?5は、先願1に係る発明と同一であるとはいえず、特許法39条1項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。 2 理由2(特許法29の2:拡大先願)について 上記「第5 理由2(特許法29条の2:拡大先願)について」の「2 対比・判断」で述べたとおり、本願発明1?5は、先願2に係る発明と同一であるとはいえず、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第7 当審拒絶理由について 特許法第36条第6項第2号について 1 当審では、請求項1の「位置決め」の客体が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年1月22日付けの補正において、「前記切り抜き刃の位置決め」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 2 当審では、請求項2の「前記打ち抜き刃」の前に「打ち抜き刃」という用語はなく、発明が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年1月22日付けの補正において、「前記切り抜き刃」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第8 むずび 以上のとおり、本件出願の請求項1?5に係る発明は、先願1の請求項3に係る発明及び先願2の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明のいずれとも同一でない。 したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-03-25 |
出願番号 | 特願2015-193960(P2015-193960) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
WY
(G02B)
P 1 8・ 4- WY (G02B) P 1 8・ 537- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 清水 督史、菅原 奈津子、後藤 慎平 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
井亀 諭 井口 猶二 |
発明の名称 | 偏光板の製造方法 |
代理人 | 籾井 孝文 |