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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1372332
審判番号 不服2020-3418  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-12 
確定日 2021-03-22 
事件の表示 特願2017-556426「シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月22日国際公開、WO2017/104327〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年11月14日(優先権主張2015年12月16日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和1年5月20日付けで拒絶理由が通知され、同年7月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、令和2年3月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 令和2年3月12日付けで提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年3月12日付けで提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和1年7月18日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
円筒状版母材を準備する工程と、
前記円筒状版母材の表面に親水性の梨地状粗面を形成する工程と、
前記梨地状粗面にレジストを塗布し、レーザ露光し、現像し、疎水性のレジストパターン部を形成する工程と、
を含み、
前記梨地状粗面が露出している部分が非画線部とされ、前記レジストパターン部が画線部とされてなる、シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
中空の円筒状版母材を準備する工程と、
前記中空の円筒状版母材の表面に親水性の梨地状粗面をサンドブラスト処理により形成する工程と、
前記梨地状粗面にレジストを0.1μm?10μm塗布し、レーザ露光し、現像し、疎水性のレジストパターン部を形成する工程と、
を含み、
前記梨地状粗面が露出している部分が非画線部とされ、前記レジストパターン部が画線部とされてなる、シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法。」


2 補正の適否について
本件補正により、本件補正前の発明特定事項である「円筒状版母材」について、「中空の」との限定を付加し、「梨地状粗面を形成する」について、「梨地状粗面をサンドブラスト処理により形成する」と限定を付加し、「梨地状粗面にレジストを塗布し」について、「梨地状粗面にレジストを0.1μm?10μm塗布し」と限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書の最初に添付した明細書の段落【0013】の「中空の円筒状版母材」、【0016】の「サンドブラストなどの処理によって梨地状の細かい凹凸を作り」及び【0017】の「感光材13の塗布厚としては、0.1μm?10μm程度が好ましい」の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明1は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由において引用された特開2005-47246号公報(原査定の「引用文献2」。以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項3】 アルミパイプを素材とするベースシリンダーに平版用感光液を用いて製版した継ぎ目のない平版印刷用版ロール。」
(イ)「【0012】 本課題を解決するもう一つの重要な点は、請求項2及び3に記した図2の版ロール2である。この版ロール2は版式としては平版であって、包装印刷に要求される連続巻取り印刷が可能で、様々な包装袋のリピート長に対応でき、且つシームレスに絵柄を製版できるよう、形状としてはグラビア版ロールと同じく、円周選択の自由な円柱型ロールである。」
(ウ)「【0017】請求項2の平版印刷用版ロールは、通常のグラビア版用の母材ロールに銅メッキを行った後、薄いクロムメッキを施し3層構造に仕上げたロールを版材とする。製版時の感光液の密着性と印刷時の保水性を考慮し、銅メッキ後にサンドブラスト法等で砂目を形成させるか、クロム表面が梨地になるようにメッキ条件を設定する。」
(エ)「【0019】 請求項3の平版印刷用版ロールは、アルミ製の母材ロールにサンドブラスト法等により砂目を付け、ネガタイプ又はポジタイプの平版用感光液を用いてコーティング、焼付け、現像等製版処理をする事によって完成させる事ができる。」
(オ)「【0023】

27・・・・・・アルミニウム製母材ロール
28・・・・・・硬化感光膜の画線部」
(カ)「【図4】


(キ)上記(ア)より、平版印刷用版ロールがパイプであること、及び上記(オ)及び図4より、アルミニウム製母材ロール27が所謂軸心部分を含むものでないことから、アルミ製の母材ロールは中空であると認める。
(ク)上記(ア)及び(エ)の記載より、継ぎ目のない平版印刷用版ロールの製造方法が実質的に記載されているものと認める。

そうすると、上記(ア)乃至(ク)から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「中空のアルミ製の母材ロールにサンドブラスト法等により砂目を付け、ネガタイプの平版用感光液を用いてコーティング、焼付け、現像等製版処理をする事によって完成させる、継ぎ目のない平版印刷用版ロールの製造方法。」

イ 引用例2
原査定の拒絶の理由において引用された特開2002-240232号公報(原査定の「引用文献1」。以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0029】本発明で用いられる基質はプラスチック支持体又はセラミックであることができるが、好ましくはアルミニウムのような金属である。基質は親水性表面を有し、好ましくは少なくとも0.2μm、より好ましくは少なくとも0.3μmの粗さ値により特徴付けられ、例えば電気化学的及び/又は機械的に研磨され且つ陽極酸化されたアルミニウムである。基質は版のようなシート-様材料であることができ、あるいはまた、コーティング溶液を回転印刷機の版胴に直接適用し、それにより該胴が基質として働くことができる。平版基質は、例えば、レーザーにより版を円筒状の形態にはんだ付けすることにより得られるシームレススリーブ印刷版であることもできる。次いで、通常の印刷版を搭載する代わりにスリーブを版胴の回りで滑らせることができる。スリーブに関するさらなる詳細は、“GrafischNieuws”,15,1995,page4to6に示されている。【0030】上記のコーティング溶液を平版基質上にコーティングすることにより得られる画像形成材料の露出は、例えばサーマルヘッドを用いる直接熱記録により、あるいは強力光を用いる照射により行うことができる。後者の態様の場合、感熱性材料は好ましくは光を熱に変換できる化合物、好ましくは画像通りの露出のために用いられる光源の波長領域内に十分な吸収を有する化合物を含む。特に有用な化合物は、例えば、染料、そして特にEP-A908307に開示されているような赤外染料ならびに顔料、そして特にカーボンブラック、金属炭化物、ホウ化物、窒化物、炭化窒化物、ブロンズ-構造酸化物及び構造的にブロンズ群に関連しているがA成分のない酸化物、例えばWO2.9のような赤外顔料である。導電性ポリマー分散液、例えばポリピロール、ポリアニリン又はポリチオフェンに基づく導電性ポリマー分散液を用いることもできる。得られる平版印刷性能、そして特に印刷耐久性は中でも画像形成材料の感熱性に依存する。これに関し、カーボンブラックが非常に優れ且つ好ましい結果を与えることが見いだされた。【0031】本発明の方法における画像通りの露出は、好ましくはレーザー又はL.E.Dの使用を含む画像通りの走査露出である。好適に用いられるのは赤外又は近赤外、すなわち700?1500nmの波長領域内で働くレーザーである。最も好ましいのは近赤外で発光するレーザーダイオードである。【0032】本発明の印刷法を以下好ましい態様に従ってさらに記載する。第1に、研磨され且つ陽極酸化されたアルミニウム版を回転印刷機の版胴上に搭載する。次いで上記のコーティング溶液を版の親水性平版表面上に噴霧し、連続画像形成層を形成する。噴霧パラメーターの好ましい値は、両方とも1999年9月15日に出願されたEP-Ano.99203064及びEP-Ano.99203065に明示されている。次いで画像形成層を、例えばUS-P-5163368及びUS-P-5174205に記載されている通りに、印刷機内に組み込まれたレーザー装置により画像通りに露出し、それにより露出領域を疎水性インキ-受容性領域に転換し、非露出領域を親水性のままとする。疎水性領域はマスターの印刷領域を区画する。続いて印刷マスターにインキ及び湿し液を適用することにより印刷を開始する。コーティングされた層の非露出領域を有効に溶解し、除去するために、印刷機の数回転(約10)の間、好ましくは湿し液のみを供給し、次いでインキも版に供給する。印刷機運転の後、上記のクリーニング液を画像形成層に供給することによりインキ-受容性領域を除去し、それによりリサイクルされる基質を得る。最後に、リサイクルされる基質を上記のリフレッシング液で処理し、次いでリサイクルされる基質にコーティング溶液を噴霧することにより新しい印刷サイクルを開始することができる。」
(イ)上記(ア)の記載より、シームレススリーブ平版印刷版の製造方法が記載されているものと認める。
そうすると、上記(ア)及び(イ)から、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「親水性表面を有するアルミニウムの平版基質を、レーザーにより円筒状の形態にはんだ付けし、、
電気化学的及び/又は機械的に研磨され且つ陽極酸化し、好ましくは少なくとも0.2μm、より好ましくは少なくとも0.3μmの粗さ値にし、
回転印刷機の版胴上に搭載し、
コーティング溶液を版の親水性平版表面上に噴霧し、
印刷機内に組み込まれたレーザー装置により画像通りに露出することによる、シームレススリーブ平版印刷版の製造方法。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、
ア 後者の「中空のアルミ製の母材ロール」、「サンドブラスト法」、「平版用感光液」、「現像」及び「継ぎ目のない平版印刷用版ロールの製造方法」は、それぞれ、前者の「中空の円筒状母材」、「サンドブラスト処理」、「レジスト」、「現像」及び「シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法」に相当する。
イ 後者の「製造方法」は、「アルミ製の母材ロール」に対して処理を行うものであるところ、最初に、「アルミ製の母材ロール」を準備することは明らかであるから、後者の「製造方法」には、実質的に「中空の円筒状版母材を準備する工程」を有するものといえる。
ウ 後者の「アルミ製の母材」の「アルミ」は、一般に、親水性の性質を有することが知られている。また、前者の「梨地状粗面」と後者の「砂目」とは、「粗面」との概念で共通する。してみると、後者の「アルミ製の母材ロールにサンドブラスト法等により砂目を付け」るとは、前者の「中空の円筒状版母材の表面に親水性の粗面をサンドブラスト処理により形成する工程」に相当する。
エ 後者の「ネガタイプ又はポジタイプの平版用感光液を用いてコーティング、焼付け、現像等製版処理」は、砂目を付けたアルミ製の母材ロールに対して平版用感光液を塗布していることは明らかである。また、平版用感光液を用いた製版処理であることから、露光・現像処理を経て、レジストパターンを形成している明らかである。さらに、一般に、感光液が疎水性であることは、技術常識といえる事項である。
オ してみると、後者の「平版用感光液」は「ネガタイプ」であるから、「焼付け、現像等製版処理をする事によって」、印刷パターン部となることは明らかであるから、後者の「ネガタイプの平版用感光液を用いてコーティング、現像等製版処理」は、前者の「粗面にレジストを、現像し、レジストパターン部を形成する工程」に相当する。
カ 後者の「製造方法」においては、平版用感光液を、焼付け、現像等の処理後に、ロール上に残った感光液が、画線部となり、感光液が除去された砂目部分は、母材のアルミが親水性を示すことから、非画線部となることは技術常識から明らかといえる。

したがって、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
[一致点]
中空の円筒状版母材を準備する工程と、
前記中空の円筒状版母材の表面に親水性の粗面をサンドブラスト処理により形成する工程と、
前記粗面にレジストを塗布し、現像し、疎水性のレジストパターン部を形成する工程と、
を含み、
前記粗面が露出している部分が非画線部とされ、前記レジストパターン部が画線部とされてなる、シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法。

[相違点1]
本願補正発明は、母材表面を「梨地状」粗面とするものであるのに対し、引用発明1は、砂目を付けたものである点。

[相違点2]
本願補正発明は、レジストを「0.1μm?10μm」塗布するものであるのに対し、引用発明1は、感光液の塗布厚が定かでない点。

[相違点3]
本願補正発明は、「レーザ」露光するものであるのに対し、引用発明1は、焼付けるものである点。

(4)判断
上記各相違点について、以下、検討する。
ア [相違点1]について
一般に、粗面の具体的な態様として、「砂目」も「梨地」もよく知られた態様であるところ、上記(2)ア(ウ)の通り、引用文献1には、粗面の態様として、砂目及び梨地が示されているところからすれば、引用発明1の「砂目」を「梨地状」とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

イ [相違点2]について
一般に、レジスト液の塗布厚として、10μmとすることは、通常使用されている塗布厚の数値である。(例えば、特開2007-2030号公報(【0301】参照。)及び特開2006-18308号公報(【0068】参照。)参照。)
してみると、引用発明1において、塗布液の厚さを10μmとして、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が適宜採用しうる設計的事項である。

ウ [相違点3]について
引用発明2の「製造方法」は、レーザー装置により、親水性平版表面上に噴霧したコーティング溶液を画像通りに露出するものであることから、該「レーザー装置」は、本願補正発明の「レーザ露光」する機能を有した手段であると認める。
また、引用発明2の「製造方法」は、「コーティング溶液」をレーザ装置により、画像通りに露出するものであることから、引用発明2の「コーティング溶液」は、本願補正発明の「レジスト」に相当する。
そして、引用発明1も引用発明2も、平版印刷版の製造方法において、アルミ製の母材(基質)上のレジスト(平版用感光液、コーティング溶液)を現像するものである点で共通するから、現像に至る具体的手段として、引用発明1の焼付に、引用発明2のレーザー装置を適用し、上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

そして、本願補正発明の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測し得る範囲内のものである。

請求人は、「引用文献2(当審決の「引用例1」)は、いわゆるオフセット印刷に係る技術を開示しておりません。引用文献2は、段落0011に「図1に示す従来のグラビア印刷ユニットからドクター装置3、インキパン4を取り除き、図2に示すように着肉装置9、湿し水装置8を付加した構造を持つことを特徴とする平版印刷ユニットを使用する。」と記載されているように、そもそもオフセット印刷のように「版胴からブランケットに転写して印刷する」という技術を開示しておりません。引用文献2が開示しているのは、グラビア印刷とも違うし、オフセット印刷とも違う、独自の印刷技術です。なお、ダイレクトグラビアでもありませんし、オフセットグラビアとも異なるものです。従って、引用文献2に「シームレスな平版印刷用版ロール」(段落0013)という記載があるからといって、引用文献2に記載の平版印刷用版ロールは、オフセット印刷装置に適用されるオフセット印刷版ではありません。引用文献2に記載の平版印刷用版ロールは、あくまでも引用文献2に記載された独自の印刷機に適用されるものです。従って、引用文献2には、本願の上記工程(A)?(F)が記載されているとは言えません。」と主張する。
しかし、引用発明1は、平版印刷用版ロールであって、平版印刷用の版が、平版印刷方式の主流の印刷方式であるオフセット印刷に用い得ることは技術常識といえる事項であるのだから、引用発明1の「平版印刷用版ロール」が「オフセット用印刷版」に用い得ることは明らかである。
また、上記(2)アから明らかなとおり、引用発明1は、引用例1の【請求項3】及び【0019】より認定したのであって、請求人の主張の根拠とする【0011】は、採用していない。
また、請求人は、「引用文献1(当審決の「引用例2」)には、本願請求項1記載の(A)中空の円筒状版母材を準備する工程も、(B)前記中空の円筒状版母材の表面に親水性の梨地状粗面をサンドブラスト処理により形成する工程も、(C)前記梨地状粗面にレジストを0.1μm?10μm塗布する工程も、記載されておりません。引用文献1には、段落0029に「コーティング溶液を回転印刷機の版胴に直接適用し、それにより該胴が基質として働くことができる。」とありますが、この記載からは少なくとも本願の上記工程(A)?(C)を読み取ることはできません。また、引用文献1には、段落0029には上記に続いて「平版基質は、例えば、レーザーにより版を円筒状の形態にはんだ付けすることにより得られるシームレススリーブ印刷版であることもできる。」とあります。平版を円筒状に丸めてスリーブにすることはオフセット印刷機では従来から行われていることです。そして、レーザーにより版を円筒状の形態にはんだ付けすると、はんだ付けの継ぎ目がどうしてもできてしまいます(本願明細書段落0003)。引用文献1では、このような、はんだ付けの継ぎ目があるものも「シームレス」と呼んでいるのです。本願は、そのようなはんだ付けの継ぎ目のない「シームレス」なオフセット印刷版の製造方法です。この点、引用文献1にはそのような技術的思想は記載も示唆もされておりません。故に、はんだ付けの継ぎ目があるものも「シームレス」と呼んでいる引用文献1の技術を本願発明に適用することには明らかな阻害要因があります。」と主張する。
しかし、引用発明1が「中空の円筒状版母材を準備する工程」を含む「継ぎ目のない平版印刷用版ロールの製造方法」であるのだから、本願補正発明の上記(A)工程は、引用発明1に示されている。
なお、引用発明2は、上記(2)イの通りのものであって、平版基質を、レーザーにより円筒状の形態にはんだ付けすることによりシームレススリーブ平版印刷版を得ているところ、「スリーブ」とは、中空の円筒状を意味することは一般常識といえることであるから、引用発明2にも、上記(A)工程が示されているといえる。
また、本願補正発明は、「シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法」であるところ、継ぎ目の有無までは特定されていないのであるから、引用発明2の「シームレススリーブ平版印刷版の製造方法」は、本願補正発明の「シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法」に相当する。
以上のことから、上記請求人の主張は採用できない。

よって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和1年7月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
円筒状版母材を準備する工程と、
前記円筒状版母材の表面に親水性の梨地状粗面を形成する工程と、
前記梨地状粗面にレジストを塗布し、レーザ露光し、現像し、疎水性のレジストパターン部を形成する工程と、
を含み、
前記梨地状粗面が露出している部分が非画線部とされ、前記レジストパターン部が画線部とされてなる、シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法。」(以下「本願発明」という。)

2 引用例
令和1年5月20日付けの拒絶理由通知に引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明の「中空の」、「サンドブラスト処理により」及び「0.1μm?10μm」との限定を省くものである。

そうすると、本願発明と引用発明1とを対比すると、上記「第2 3 (3)対比」での検討を勘案すると、両者は、
「中空の円筒状版母材を準備する工程と、
前記中空の円筒状版母材の表面に親水性の粗面をサンドブラスト処理により形成する工程と、
前記粗面にレジストを塗布し、露光し、現像し、疎水性のレジストパターン部を形成する工程と、
を含み、
前記粗面が露出している部分が非画線部とされ、前記レジストパターン部が画線部とされてなる、シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で、相違する。

[相違点1]
本願発明は、母材表面を「梨地状」粗面とするものであるのに対し、引用発明1は、砂目を付けたものである点。

[相違点3]
本願発明は、「レーザ」露光するものであるにに対し、引用発明1は、焼付けるものである点。

してみると、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、上記と同様の理由により、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-01-19 
結審通知日 2021-01-21 
審決日 2021-02-02 
出願番号 特願2017-556426(P2017-556426)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41N)
P 1 8・ 575- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
吉村 尚
発明の名称 シームレスオフセット円筒状印刷版の製造方法  
代理人 石原 進介  

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