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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1372487
審判番号 不服2020-2571  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-26 
確定日 2021-03-26 
事件の表示 特願2018-67941「包装体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年6月28日出願公開、特開2018-100132〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成27年10月27日を出願日とする特願2015-210967号の一部を平成29年3月15日に新たな特許出願とした特願2017-49936号の一部を平成30年3月30日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続は以下のとおりである。

令和元年6月13日付け
拒絶理由通知
同年8月9日
意見書及び手続補正書の提出
同年11月20日付け
拒絶査定
令和2年2月26日
本件拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出
同年8月28日付け
拒絶理由通知
同年10月29日
意見書の提出


第2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」等という。)は、令和2年2月26日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートが有する印刷層に設けられる複数の光沢層とを含み、
前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、
前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、
前記複数の光沢層は前記シートに不連続に設けられ、
前記シートは前記複数の光沢層の外側に設けられ、前記複数の光沢層を視認できるように構成される最外層を備える
包装体。
【請求項2】
前記シートにより構成される袋と、
前記袋の内部に収容される前記被加熱物とを備える
請求項1に記載の包装体。」


第3.当審で通知した拒絶理由の概要
当審において令和2年8月28日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

1)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
4)本願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
5)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

1.分割要件(特許法第44条第1項)について
本願は、適法に分割されたものではないから、本願について特許法第44条第2項本文の規定は適用されない。
よって、本願の出願日は、現実の出願日である平成30年3月30日である。

2.理由1(特許法第29条第1項第3号)、及び理由2(特許法第29条第2項)について
本願発明1及び2は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
本願発明1及び2は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.理由3(特許法第36条第6項第2号)について
請求項1の「アルミペースト」は、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率、他の含有成分や、それらの成分比率が不明である。

4.理由4(特許法第36条第4項第1号)について
上記3.に示したように、「アルミペースト」は、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率、他の含有成分や、それらの成分比率が不明であるから、光沢層に「アルミペースト」をどの程度含有させればよいのか、明らかではない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1及び2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

5.理由5(特許法第36条第6項第1号)について
発明の詳細な説明の記載は、請求項1で
「前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、
前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、」
とすることにより、発明の課題が解決できるといえるものではない。
よって、特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2017-105544号公報
参考文献1:日本規格協会、「JIS工業用語大辞典 第5版」、97頁の「アルミニウムペースト」の項、2001年3月30日
参考文献2:特開2006-137474号公報
参考文献3:特開平8-276917号公報


第4.当審の判断
1.分割要件(特許法第44条第1項)について
本願の願書の記載によれば、本願は、特許法第44条第1項の規定による特許出願(いわゆる分割出願。)として出願をしようとするものであるから、まず、本願が適法に分割されたものであるか否かを検討する。

(1)特許法第44条第1項は、「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」、同条第2項本文は、「前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」と規定している。
分割出願が、同条第2項本文の適用を受けるためには、分割出願に係る発明が、もとの特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願の当初明細書等」という。)に記載されていること、又はこれらの記載から自明であることが必要である。

(2)本願のもとの特許出願である特願2017-49936号(以下「本件原出願」という。)の出願当初の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる光沢層とを含み、
前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、
前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲(ただし4.7%?10%の範囲を除く)に含まれる
包装体。
【請求項2】
前記シートにより構成される袋と、
前記袋の内部に収容される前記被加熱物とを備える
請求項1に記載の包装体。」

本件原出願の請求項1には、
「前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲(ただし4.7%?10%の範囲を除く)に含まれる」
との発明特定事項が記載されていたが、本願発明1、2には上記発明特定事項の記載はないから、本願発明1、2は、光沢層におけるアルミペーストの重量比を特定の範囲とする上記発明特定事項を必須としないものである。

(3)本件原出願の当初明細書等によれば、
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
包装体の美観は高いことが好ましい。美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設けることが考えられる。光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される。しかし、その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供することである。」
と記載されているから、「高い輝度を有する光沢層により美観を高めること」、及び「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」を解決すべき課題としていることが理解できる。
そして、その課題解決手段について、本件原出願の当初明細書等には、
「【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、シートと、前記シートに設けられる光沢層とを含み、前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲(ただし4.7%?10%の範囲を除く)に含まれる、包装体。」
と記載され、さらに、
「【0026】
第1の評価試験の結果について説明する。
光沢層50におけるアルミペーストの重量比が高い試料番号1?4のサンプルシートが加熱された場合、光沢層50にスパークが発生した。このため、品質評価において「B」に該当すると評価されたと考えられる。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が試料番号1?4のサンプルシートよりも低い試料番号5?20のサンプルシートが加熱された場合、光沢層50にスパークが発生していない。このため、品質評価において「A」に該当すると評価されたと考えられる。このように、第1の評価試験の結果によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が電子レンジにより加熱された後の包装体1の品質と高い相関を有することが確認できる。
・・・
【0029】
試料番号5および14の結果に示されるとおり、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が相対的に低い試料番号5の輝度評価の結果は光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が相対的に高い試料番号14と同じ結果である。これにより、光沢層50におけるアルミペーストの重量比と光沢層50により得られる輝度とが高い相関を有することが確認できる。」
と記載されていることから、光沢層が、高い輝度を有しつつ、アルミペーストがマイクロ波に反応してスパークしないようにするためには、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることが不可欠であることが理解できる。
すなわち、本件原出願の当初明細書等は、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とはしない場合には課題が残されていることを明確に示して、特定の範囲とはしないことを除外していると解される。

(4)したがって、本件原出願の当初明細書等のいかなる部分を参酌しても、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることを必須の構成要件とはしない技術思想(上位概念たる技術思想)は、一切開示されていないと解するのが相当である。

(5)よって、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることを必須の構成要件としない発明は、本件原出願の当初明細書等に記載されたものでない。
また、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることを必須の構成要件としないことが、本件原出願の当初明細書等の記載から自明であるともいえない。

(6)以上のとおり、本願は、適法に分割されたものではないから、本願について特許法第44条第2項本文の規定は適用されない。
よって、本願の出願日は、現実の出願日である平成30年3月30日である。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年10月29日付けの意見書(以下「意見書」という。)において、以下のように主張している。
「(2)要件A、要件Cおよび要件Dは、・・・
以上のように、本願発明1の各要件は、本件原出願の当初明細書等に開示された事項であり、本願発明1が本件原出願の当初明細書等に記載されたものであることは明らかです。」(意見書 2.1(2))

「(4)本件原出願の請求項1では・・・
これは、本件原出願は、アルミペースの重量比に着目した発明に係る出願であることに対して、本願は、上記のように本件原出願の当初明細書等に含まれている発明であって、光沢層を複数有し、それらが不連続に配置されているという構造に着目した発明に関する出願としているからです。・・・
そして、複数の光沢層を不連続に配置することによって、たとえば、複数の光沢層の合計の同じ面積の一枚の光沢層を備える場合より、スパークを低減できることは、本件原出願の当初明細書等に接した当業者であれば理解できます。
したがって、本願発明1および本願発明1と同じ特徴を有する本願発明2では、美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供できることも当業者には理解できます。」(意見書 2.1(4))

しかしながら、上記(2)?(7)で述べたとおり、本件原出願の当初明細書等は、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とはしない場合には課題が残されていることを明確に示して、上記特定の範囲とはしないことを除外しているものであって、光沢層におけるアルミペーストの重量比を、上記特定の範囲とすることを必須の構成要件とはしない技術思想(上位概念たる技術思想)は、一切開示されていないと解するのが相当である。
また、請求人の主張する「複数の光沢層を不連続に配置すること」について、本件原出願の当初明細書等には、
「【0040】
・シート11における光沢層50の形成範囲は任意に変更可能である。第1の例では、光沢層50は第1の袋シート11Aに代えてまたは加えて、第2の袋シート11Bおよびガゼットシート11Cの少なくとも一方に設けられる。第2の例では、光沢層50は複数の光沢層を含む。複数の光沢層は各シート11A?11Cのうちの少なくとも1つのシートに設けられ、不連続である。第1の袋シート11Aに光沢層50が設けられる場合、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上であることが好ましい。第1の袋シート11Aに設けられる光沢層50が複数の光沢層を含む場合、光沢層50の面積は複数の光沢層の面積の合計である。なお、第2の例における光沢層50の面積に関する事項は、第2の袋シート11Bまたはガゼットシート11Cに光沢層50が設けられる場合にも共通する。」
との記載があるのみである。
上記段落【0040】の記載は、光沢層におけるアルミペーストの重量比を上記特定の範囲とすることを前提として、シートにおける光沢層の形成範囲が任意に変更可能であることを示すに留まるものであって、光沢層におけるアルミペーストの重量比と無関係に複数の光沢層を不連続に配置することによって課題を解決する別の発明を示すものでないことは明らかである。
そして、本件原出願の当初明細書等には、光沢層におけるアルミペーストの重量比と無関係に「複数の光沢層を不連続に配置すること」によって上記課題を解決できるとする記載も示唆もない。
よって、審判請求人の主張は、採用することができない。


2.理由1(特許法第29条第1項第3号)、及び理由2(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献の記載
ア.上記1.で述べたとおり、本願の出願日は、現実の出願日である平成30年3月30日である。
そして、引用文献1(本件原出願の公開公報である特開2017-105544号公報)の公開日は、平成29年6月15日であるから、本願出願前に出願公開されたものである。

イ.引用文献1には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる光沢層とを含み、
前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、
前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲(ただし4.7%?10%の範囲を除く)に含まれる
包装体。
【請求項2】
前記シートにより構成される袋と、
前記袋の内部に収容される前記被加熱物とを備える
請求項1に記載の包装体。」

(イ)「【0016】
図3は第1の袋シート11Aの層構造の一例を示す。なお、図3は第1の袋シート11Aのうちの光沢層50が設けられた部分の断面である。
第1の袋シート11Aは積層シートであり、例えば最外層41、中間層42、および、最内層43を含む。最外層41を構成する材料の一例は透明な材料である。透明な材料の一例はポリエチレンテレフタレートである。中間層42は例えば印刷層42A、第1接着層42B、延伸ナイロン層42C、および、第2接着層42Dを含む。印刷層42Aは最外層41の内側に設けられる。一例では、印刷層42Aの外面に絵柄および商品説明のテキスト等が印刷される。第1接着層42Bは印刷層42Aの内側に設けられる。延伸ナイロン層42Cは第1接着層42Bの内側に設けられる。第2接着層42Dは延伸ナイロン層42Cの内側に設けられる。各接着層42B、42Dを構成する材料の一例はドライラミネート接着剤である。最内層43は第2接着層42Dの内側に設けられる。最内層43を構成する材料の一例は無延伸ポリプロピレンである。なお、各シート11A?11Cは実質的に同一の層構造を有する。
【0017】
光沢層50は第1の袋シート11Aに設けられる。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに含まれ、最外層41により覆われる。すなわち、光沢層50は第1の袋シート11A内に設けられる。図1に示されるとおり、光沢層50の面積は光沢層50が設けられる第1の袋シート11Aの面積よりも狭い。一例では、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上である。
【0018】
光沢層50はインキ剤51により構成される。インキ剤51の色は金である。インキ剤51は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含む。一例では、インキ剤51は着色剤および溶剤をさらに含む。希釈剤の一例は樹脂である。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに塗布されたインキ剤51により構成される塗膜である。
【0019】
光沢層50におけるアルミペーストの重量比は4.7?37.2%の範囲に含まれる。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量は例えば1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれることが好ましい。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が14.0%以上かつ18.6%未満の範囲に含まれる場合、光沢層50におけるインキ剤の塗布量は例えば3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれることが好ましい。一例では、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であり、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が5.2g/m^(2)である。なお、光沢層50におけるアルミペーストの重量比は、塗布されたインキ剤51が塗膜を構成した状態におけるインキ剤51に含まれるアルミペーストの重量比である。インキ剤51が塗膜を構成した状態ではインキ剤51に含まれる溶剤は概ね揮発している。」

(ウ)「【0040】
・シート11における光沢層50の形成範囲は任意に変更可能である。第1の例では、光沢層50は第1の袋シート11Aに代えてまたは加えて、第2の袋シート11Bおよびガゼットシート11Cの少なくとも一方に設けられる。第2の例では、光沢層50は複数の光沢層を含む。複数の光沢層は各シート11A?11Cのうちの少なくとも1つのシートに設けられ、不連続である。第1の袋シート11Aに光沢層50が設けられる場合、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上であることが好ましい。第1の袋シート11Aに設けられる光沢層50が複数の光沢層を含む場合、光沢層50の面積は複数の光沢層の面積の合計である。なお、第2の例における光沢層50の面積に関する事項は、第2の袋シート11Bまたはガゼットシート11Cに光沢層50が設けられる場合にも共通する。」

(エ)「【図3】




ウ.上記イ.(ア)?(エ)を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートが有する印刷層に設けられる複数の光沢層とを含み、
前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、
前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は4.7%?37.2%の範囲(ただし4.7%?10%の範囲を除く)に含まれ、
前記複数の光沢層は前記シートに不連続に設けられ、
前記シートは前記複数の光沢層の外側に設けられ、前記複数の光沢層を視認できるように構成される最外層を備える
包装体。」

(2)本願発明1について
本願発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体」は本願発明1の「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体」に相当し、以下同様に、「シート」は「シート」に、「前記シートが有する印刷層に設けられる複数の光沢層」は「前記シートが有する印刷層に設けられる複数の光沢層」に、「前記光沢層は少なくともインキ剤を含」む態様は「前記光沢層は少なくともインキ剤を含」む態様に、「前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含」む態様は「前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含」む態様に、「前記複数の光沢層は前記シートに不連続に設けられ」ることは「前記複数の光沢層は前記シートに不連続に設けられ」ることに、「前記シートは前記複数の光沢層の外側に設けられ、前記複数の光沢層を視認できるように構成される最外層を備える」ことは「前記シートは前記複数の光沢層の外側に設けられ、前記複数の光沢層を視認できるように構成される最外層を備える」ことに、「包装体」は「包装体」に、それぞれ相当する。

以上のとおり、本願発明1と引用発明1は、全ての点で一致し、相違点はない。
よって、本願発明1は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

また、本願発明1と引用発明1の間に相違点があるとしても、それは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
よって、本願発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない


3.理由3(特許法第36条第6項第2号)について
(1)本願明細書の段落【0004】には、本願発明が解決しようとする課題について、「包装体の美観は高いことが好まし」く、「美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設ける」ことが行われ、「光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される」が、「その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある。」と記載され、この課題の解決について、「美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。」(段落【0008】)、「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しないことが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。」(段落【0032】)及び「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、より高い美観を有する。」(段落【0033】)と記載されている。

(2)一般に、電子レンジで照射されるマイクロ波に反応してスパークするものが金属であることは技術常識であり、請求項1に記載された「光沢層」についてみれば、アルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分がスパークを引き起こす要因であることが明らかである。
すなわち、光沢層におけるアルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分の量が明らかでなければスパークの発生を防止できないことは、当業者であれば理解できる。
一方、アルミペーストについて、本願明細書においては、アルミニウム粉等の金属成分の量のみならず、アルミニウム粉以外の含有する成分や、それらの成分の比率について記載がない。
また、一般に「アルミペースト(アルミニウムペースト)」とは、「アルミニウム粉をミネラルスピリットなどに分散してペースト状にしたもの」(上記参考文献1)であり、「アルミニウム粉」のみを含有するものではなく、「アルミニウム粉」のほかに、アクリル樹脂や溶剤成分を含有するもの(例えば、上記参考文献2の段落【0035】「アルミニウムペースト中のアルミニウム微粉末の大きさは1μm?3μm、アルミニウム含有量としては60%にして、20%をアクリル樹脂、残り20%を溶剤成分としたものを用いた。」)も知られている。
さらに、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比率についても、上記参考文献2においては「60%」であるが、上記参考文献3の段落【0052】の記載によれば、「東洋アルミニウム(株)製アルミニウムペースト(アルミニウム粉末を75重量%含有)」とあり、アルミペースト中の成分比率が「75重量%」のものも存在する。
そうすると、本願明細書の単なる「アルミペースト」との記載のみでは、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率はもちろん、他の含有成分や、それらの成分比率について把握できるものではない。

また、「アルミペースト」が技術用語として一般的な用語であるとしても、「アルミペースト」という技術用語により、アルミペーストが含有する成分や、それらの成分比率が定まることまでは、一般的に知られているとはいえない。

(3)したがって、請求項1に記載された「アルミペースト」は、本願明細書の記載を参酌しても、アルミペースト中のアルミニウム粉等の金属成分の量・含有比率や、他の含有成分・それらの成分比率が不明確であるから、請求項1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


4.理由5(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本願明細書の段落【0004】には、本願発明が解決しようとする課題について、「包装体の美観は高いことが好まし」く、「美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設ける」ことが行われ、「光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される」が、「その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある。」と記載されている。
そうすると、本願発明1は、「高い輝度を有する光沢層により美観を高めること」、及び「光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークせず包装体が劣化しにくいこと」を解決すべき課題としていることが理解できる。

(2)上記課題を解決する手段について、本願明細書には、「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しないことが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。」(段落【0032】)、及び「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、より高い美観を有する。」(段落【0033】)と記載されている。
すなわち、上記課題を解決するためには、「光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」(段落【0032】)や「光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲」(段落【0033】)というアルミペーストの重量比を特定の範囲とすることが不可欠であることが理解できる。

(3)しかしながら、請求項1には、上記重量比は特定されていないから、課題解決手段が反映されていない。

(4)さらに、上記3.で述べたように、本願明細書において「アルミペースト」が、アルミニウム粉をどの程度含有するのか記載されておらず、また、「アルミペースト」との記載のみで、アルミペースト中のアルミニウム粉等の金属成分の含有比率について把握できるものではない。
そして、マイクロ波に反応してスパークする原因は、アルミニウム粉等の金属成分であることは明らかであるから、本願明細書の発明の詳細な説明で、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により、アルミペーストを、資料番号1?20について評価を行っているといっても、資料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか把握することができず、結局、マイクロ波に反応してスパークする原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、どの程度含有されるようにすると、スパークせず、包装体が劣化しないのか確認されていない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載からは、本願発明1で
「前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、
前記インキ剤は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含み、」
とすることにより、発明の課題が解決できるとは認識できない。

(5)よって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
また、本願発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
さらに、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の請求項、及びその余の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-01-12 
結審通知日 2021-01-19 
審決日 2021-02-02 
出願番号 特願2018-67941(P2018-67941)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B65D)
P 1 8・ 537- WZ (B65D)
P 1 8・ 121- WZ (B65D)
P 1 8・ 113- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢澤 周一郎  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 森藤 淳志
横溝 顕範
発明の名称 包装体  
代理人 黒木 義樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 和田 謙一郎  
代理人 鈴木 洋平  

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