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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01N |
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管理番号 | 1372495 |
審判番号 | 不服2020-11459 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-08-18 |
確定日 | 2021-04-20 |
事件の表示 | 特願2016-219975「内燃機関の排気浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年5月17日出願公開、特開2018-76839、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、平成28年11月10日に出願され、平成31年3月25日付け(発送日:同年4月2日)で拒絶理由が通知され、令和元年5月9日に意見書の提出及び手続補正がされ、令和元年10月29日付け(発送日:同年11月5日)で拒絶理由が通知され、令和元年12月20日に意見書の提出がされたが、令和2年5月14日付け(発送日:同年5月19日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年8月18日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和2年8月18日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1ないし6に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、次のとおりである。 「 【請求項1】 内燃機関の排気通路に配置されたNOx浄化触媒と、 還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、 前記NOx浄化触媒よりも排気流れ方向上流側の前記排気通路に還元剤を供給する還元剤供給装置と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を前記排気通路内の圧力よりも高い圧力に昇圧する昇圧器と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を加熱する加熱器と、 前記加熱器によって還元剤の温度を制御する温度制御部と、 前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部とを備え、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが前記第1閾値以上第2閾値未満のとき、還元剤の温度を前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで上昇させる、内燃機関の排気浄化装置。 【請求項2】 内燃機関の排気通路に配置されたNOx浄化触媒と、 還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、 前記NOx浄化触媒よりも排気流れ方向上流側の前記排気通路に還元剤を供給する還元剤供給装置と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を前記排気通路内の圧力よりも高い圧力に昇圧する昇圧器と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を加熱する加熱器と、 前記加熱器によって還元剤の温度を制御する温度制御部と、 前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部とを備え、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、還元剤の温度を前記第1目標温度まで上昇させるとき、還元剤の供給が予告されたときに還元剤の温度を所定温度まで上昇させ、還元剤の供給が要求されたときに還元剤の温度を前記所定温度から前記第1目標温度まで上昇させる、内燃機関の排気浄化装置。 【請求項3】 内燃機関の排気通路に配置されたNOx浄化触媒と、 還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、 前記NOx浄化触媒よりも排気流れ方向上流側の前記排気通路に還元剤を供給する還元剤供給装置と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を前記排気通路内の圧力よりも高い圧力に昇圧する昇圧器と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を加熱する加熱器と、 前記加熱器によって還元剤の温度を制御する温度制御部と、 前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部とを備え、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、大気圧を検出又は推定し、検出又は推定した大気圧が相対的に低い場合には、該大気圧が相対的に高い場合に比べて、前記第1目標温度及び前記第1閾値の少なくとも一方を低く設定する、内燃機関の排気浄化装置。 【請求項4】 前記エネルギ推定部は、前記排気通路内の排気温度を検出又は推定し、検出又は推定した排気温度に基づいて前記排気通路内の排気エネルギを推定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。 【請求項5】 前記エネルギ推定部は、前記排気通路内の排気流量を推定し、検出又は推定した排気温度及び推定した排気流量に基づいて前記排気通路内の排気エネルギを推定する、請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。 【請求項6】 前記還元剤供給装置による還元剤の供給を制御する還元剤供給部を更に備え、該還元剤供給部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが、還元剤の温度が前記第1目標温度まで上昇した後に前記第1閾値以上になった場合には、前記第1目標温度の還元剤を前記排気通路に供給し、さらに、前記第1目標温度未満の還元剤を前記排気通路に供給する、請求項1から5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。」 第3 原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。 本願の下記の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1 ・引用文献等 1及び2 ・請求項 2 ・引用文献等 1及び2 ・請求項 3ないし6 ・引用文献等 1ないし3 <引用文献等一覧> 1.特開平8-246850号公報 2.特開2006-194183号公報 3.特開2010-65581号公報 第4 引用文献、引用発明 1 原査定の拒絶の理由に引用した特開平8-246850号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「エンジンの排ガス中のNOx低減装置」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 (1)「【0009】 【実施例】次に本発明の第1実施例を図面に基づいて詳しく説明する。図1に示すように、ディーゼルエンジン11には排気マニホルド12を介して排気管13が接続される。この排気管13の途中にはNOx触媒14が収容された触媒コンバータ16が設けられる。この例ではNOx触媒14はモノリス触媒であって、コージェライト性のハニカム単体に銅イオン交換ゼオライト(Cu-ZSM-5)触媒又は銅を担持したメタロシリケート触媒がコーティングされたものである。NOx触媒14より排ガス上流側の上流側排気管13aには炭化水素系還元剤18を噴射可能な噴射ノズル17が触媒コンバータ16近傍にNOx触媒14に向けて設けられる。上記還元剤18はタンク19に貯えられ、供給管21を介してポンプ22によりノズル17に圧送される。還元剤18はこの例では軽油である。 【0010】供給管21は基端がポンプ22の吐出口に接続された主管路23と、上流側排気管13aの外周面に巻かれ下流端にノズル17が接続された加熱管路24と、基端が主管路23の先端に接続され先端が還元剤18の加熱管路24を通過する長さを変えて加熱管路24にそれぞれ接続された複数の分岐管路31?33とを備える。この例では、加熱管路24は上流側排気管13aのうちノズル17より所定の距離だけ上流側に螺旋状に巻付けられ、分岐管路31?33は第1?第3分岐管路31?33の3本設けられる。第1分岐管路31の先端は加熱管路24の上流端に接続され、第2分岐管路32の先端は加熱管路24の略中央に接続され、第3分岐管路33の先端は加熱管路24の下流端近傍に接続される。第1?第3分岐管路31?33にはこれらの分岐管路31?33をそれぞれ開閉する第1?第3開閉弁41?43が設けられ、上流側排気管13aの外周面には排気マニホルド12と加熱管路24との間に位置するように電気ヒータ26が巻付けられる。開閉弁41?43はこの例では分岐管路31?33をそれぞれ開閉する電磁弁であり、オンすると分岐管路31?33をそれぞれ開き、オフすると分岐管路31?33をそれぞれ閉じるようになっている。 【0011】また上流側排気管13aにはこの排気管13a内を流れる排ガスの温度を検出する温度センサ51,52が挿入される。温度センサ51,52はこの例では第1及び第2温度センサ51,52の2本である。第1温度センサ51は加熱管路24より上流側に、第2温度センサ52はノズル17とNOx触媒14との間にそれぞれ挿入される。27は加熱管路24の下流端に挿入された還元剤温度センサであり、このセンサ27によりノズル17から噴射される直前の気化もしくは気化に近い状態になった還元剤18の温度が検出される。またエンジン11のクランク軸11aにはこのクランク軸11aの回転速度を検出する回転センサ28が設けられ、燃料噴射ポンプ29にはコントロールラック(図示せず)の位置を検出する負荷センサ34が設けられる。第1温度センサ51、第2温度センサ52、還元剤温度センサ27、回転センサ28及び負荷センサ34の検出出力はコントローラ36の制御入力に接続され、コントローラ36の制御出力には駆動回路37を介してポンプ22、第1?第3開閉弁41?43及び電気ヒータ26に接続される。またポンプ22の吐出口とタンク19とは図示しないが逆止弁を有する戻り管により接続され、第1?第3開閉弁41?43の全てが閉じたときにポンプ22により吐出された還元剤18をタンク19に戻すようになっている。 【0012】このように構成されたエンジン排ガス中のNOx低減装置の動作を説明する。先ずエンジン11が軽負荷で、かつ低速域の運転状態のときには、エンジン11から排出されて第1温度センサ51により検出される排ガス温度は300℃未満であるため、コントローラ36は第1開閉弁41をオンして第1分岐管路31を開く。ポンプ22により圧送された還元剤18は第1分岐管路31を介して加熱管路24にその上流端から流入し、加熱管路24の下流端に向って流れる。このとき上流側排気管13aの外周面温度が比較的低くても還元剤18が加熱管路24を通過する距離が長く、その加熱時間が長いため、還元剤18は十分に加熱されて気化し易くなる。上流側排気管13aにより加熱されて気化もしくは気化に近い状態になった還元剤18は上記気化に伴う圧力増加により噴射ノズル17からNOx触媒14に向って噴射される。またこのとき還元剤18が加熱管路24内で無酸素状態で強熱されるので、還元剤18が適当に分解し、より高活性になる。この結果、還元剤18によりNOx触媒14表面温度を低下させることがなく、還元剤18がNOx触媒14に均一に供給されるので、NOx触媒14の性能を十分に引出すことができ、NOxを確実に低減できる。 【0013】第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上になり、還元剤温度センサ27が300℃以上の還元剤18温度を検出すると、コントローラ36は第1開閉弁41をオフして第2開閉弁42をオンする。還元剤18が加熱管路24を通過する距離が上記の約半分となり、その加熱時間が短くなるため、還元剤18の温度は300℃未満となり、還元剤18が燃焼したり或いは酸化したりすることはない。第1温度センサ51の検出する排ガス温度が更に高くなって400℃以上になると、コントローラ36は第2開閉弁42をオフして第3開閉弁43をオンする。還元剤18が加熱管路24を通過する距離は極めて短いが、上流側排気管13aの温度が高いので、還元剤18は即座に気化する。また寒冷期の始動時のように排ガス温度が極めて低いときには、コントローラ36は電気ヒータ26を作動させ、加熱管路24の下流端での還元剤18の温度が300℃に達したことを還元剤温度センサ27が検出したときに、電気ヒータ26を停止させる。」 上記(1)に摘記した事項及び図1ないし図5の図示内容から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 《引用発明》 ディーゼルエンジン11の排気管13に配置されたNOx触媒14と、 還元剤18を貯えるタンク19と、 前記触媒14よりも排気流れ方向上流側の前記排気管13に還元剤18を供給する噴射ノズル17と、 前記タンク19から前記噴射ノズル17に供給される還元剤18を前記排気管13内の圧力よりも高い圧力に昇圧するポンプ22と、 前記タンク19から前記噴射ノズル17に供給される還元剤18を加熱する加熱管路24と、 前記加熱管路24によって還元剤18の温度を制御するコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43と、 を備え、 第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃未満のとき、コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、還元剤は十分に加熱されて気化もしくは気化に近い状態となり、 第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上400℃未満のときはコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、加熱時間が短くなるため還元剤18の温度は300℃未満となる、ディーゼルエンジン11のNOx低減装置。 2 原査定の拒絶の理由に引用した特開2006-194183号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「内燃機関の排気浄化装置」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 (1)「【0023】 図5の制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11で排気温度がしきい値温度aよりも高いか否か判断する。しきい値温度aは、後述するしきい値温度設定ルーチンにより燃料タンク18に貯留されている燃料の蒸留特性に応じて設定される。排気温度がしきい値温度a以下であると判断した場合はステップS12に進み、ECU30は加熱ヒータ11を動作させる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。一方、排気温度がしきい値温度aよりも高いと判断した場合はステップS13に進み、ECU30は加熱ヒータ11を停止させる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。 【0024】 しきい値温度aは、燃料の蒸留特性に基づいて設定され、例えば後述するように燃料の70%が蒸発するような温度が設定される。排気温度がこのようなしきい値温度aよりも高い場合は、排気通路4に添加した燃料を速やかに排気熱によって蒸発させることができるので、加熱ヒータ11を停止させる。一方、排気温度がしきい値温度aよりも低い場合は排気熱で蒸発しなかった燃料が加熱ヒータ11に付着するため、加熱ヒータ11を動作させて排気熱で蒸発しなかった燃料を加熱ヒータ11で速やかに蒸発させる。このように加熱ヒータ11を動作させることで、加熱ヒータ11の無駄な動作を抑制することができる。そのため、加熱ヒータ11において消費されるエネルギを抑制しつつ燃料の蒸発を促進させることができる。」 (2)「【0028】 次のステップS23でECU30は、取得した蒸留特性に基づいてしきい値温度aを設定する。その後、今回のルーチンを終了する。排気通路4に添加された燃料はまず排気によって加熱され、この排気で蒸発しなかった燃料が加熱ヒータ11によって加熱される。そのため、排気による加熱によってNOx触媒9の機能再生処理に必要な量の量を蒸発させることが可能な場合は加熱ヒータ11を停止させていてもよい。そこで、しきい値温度aとしては、例えば燃料の70%が蒸発するような温度、いわゆる70%蒸留点が設定される。なお、排気が有する熱量は排気流量によって変化し、また機能再生処理時に必要な燃料量はNOx触媒9の性能や大きさによって変化する。そのため、しきい値温度aは、NOx触媒9の性能や大きさ、燃料の種類、及びエンジン1の性能などを考慮して適宜に設定してもよい。」 上記(1)及び(2)に摘記した事項及び図面(特に図5及び6)の図示内容から、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。 「排気温度が燃料の70%が蒸発するような温度であるしきい値温度a以下であると判断した場合は、ECU30は加熱ヒータ11を動作させ、排気温度がしきい値温度aよりも高いと判断した場合は、ECU30は加熱ヒータ11を停止させること。」 3 原査定の拒絶の理由に引用した特開2010-65581号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「内燃機関の排気浄化システム」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 (1)「【0042】 (他の実施形態) 本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。 【0043】 ・排気通路内における排気流量を算出し、該算出した排気流量が少ないほど、ヒータ31による尿素水の加熱度合いを大きくする構成を採用してもよい。なお、エアフロメータ等の吸入空気量検出手段の検出値に基づいて排気流量が算出されるとよい。又は、都度のエンジン運転状態(エンジン回転速度や運転負荷等)に基づいて排気流量が算出されるとよい。つまり、排気通路において排気流量と尿素水の気化状況とには関連があり、排気通路内の排気流量が少ないほど、排気通路内において尿素水が気化しにくいと考えられる。この点を考慮して、尿素水の加熱制御において排気流量に基づいて目標加熱温度を可変設定する。より具体的には、図4に示す関係を用いて目標加熱温度を設定する。図4によれば、上述したとおり都度の排気温度が低いほど目標加熱温度が高い温度に設定されるのに加え、排気流量が少ないほど目標加熱温度が高い温度(ただし、上限温度=80℃)に設定されるようになっている。上記構成によれば、排気流量が少なくても、尿素水を十分に気化させることができる。」 上記(1)に摘記した事項及び図面(特に図4)の図示内容から、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されているといえる。 「排気温度が低いほど目標加熱温度が高い温度に設定されるのに加え、排気流量が少ないほど目標加熱温度が高い温度に設定されること。」 第5.対比、判断 1.本願発明1について (1)対比 引用発明の「ディーゼルエンジン11」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明1の「内燃機関」に相当し、同様に、「排気管13」は「排気通路」に、「NOx触媒14」及び「触媒14」は「NOx浄化触媒」に、「還元剤18」は「還元剤」に、「貯える」は「貯蔵する」に、「タンク19」は「還元剤タンク」に、「噴射ノズル17」は「還元剤供給装置」に、「ポンプ22」は「昇圧器」に、「加熱管路24」は「加熱器」に、「コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43」は「温度制御部」に、「NOx低減装置」は「排気浄化装置」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃未満のとき、コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、還元剤は十分に加熱されて気化もしくは気化に近い状態となり、 第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上400℃未満のときはコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、加熱時間が短くなるため還元剤18の温度は300℃未満となる」と、 本願発明1の「前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが前記第1閾値以上第2閾値未満のとき、還元剤の温度を前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで上昇させる」とは、 「前記温度制御部は、所定の状態のときに還元剤の温度を第1の温度まで上昇させ、前記温度制御部は、別の所定の状態のときに還元剤の温度を第2の温度まで上昇させる」という限りにおいて一致する。 以上を踏まえると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。 《一致点》 内燃機関の排気通路に配置されたNOx浄化触媒と、 還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、 前記NOx浄化触媒よりも排気流れ方向上流側の前記排気通路に還元剤を供給する還元剤供給装置と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を前記排気通路内の圧力よりも高い圧力に昇圧する昇圧器と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を加熱する加熱器と、 前記加熱器によって還元剤の温度を制御する温度制御部と、を備え、 前記温度制御部は、所定の状態のときに還元剤の温度を第1の温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、別の所定の状態のときに還元剤の温度を第2の温度まで上昇させる、内燃機関の排気浄化装置。 《相違点》 本願発明1は、「前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部とを備え、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが前記第1閾値以上第2閾値未満のとき、還元剤の温度を前記第1目標温度よりも低い第2目標温度まで上昇させる」ものであるのに対し、 引用発明は、「前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部」を備えておらず、第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃未満のとき、コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、還元剤は十分に加熱されて気化もしくは気化に近い状態となり、第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上400℃未満のときはコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、加熱時間が短くなるため還元剤18の温度は300℃未満となるものである点。 (2)判断 上記相違点について検討する。 まず、本願発明1の「排気エネルギ」という用語の意味を確認するために、本願の明細書及び図面を参照する。本願明細書の段落【0061】には「マップでは、図8に示したように、排気通路内の排気エネルギEEが排気通路内の排気温度TE及び排気通路内の排気流量EFの関数として示される。」と記載され、図8には、排気エネルギEEが排気温度TE及び排気流量EFの関数として示されている。このように、本願発明における「排気エネルギ」とは、排気通路内の排気温度TE及び排気通路内の排気流量EFの関数として得られる量である。 したがって、本願発明1における「前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部」は、排気通路内の排気温度TE及び排気通路内の排気流量EFの関数として得られる排気エネルギを推定するエネルギ推定部である。 それに対し、引用文献3記載事項は「排気温度が低いほど目標加熱温度が高い温度に設定されるのに加え、排気流量が少ないほど目標加熱温度が高い温度に設定されること。」であるが、排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部を備えているとはいえない。また、引用発明において引用文献3記載事項を適用する動機付けはない。 また、本願発明1は「還元剤がNOx浄化触媒上で気液混合状態になるように」還元剤を供給するものであり、本願発明1における第1目標温度及び第2目標温度はそのために設定された目標温度であるのに対し、引用発明における300℃という目標温度は、還元剤18が十分に加熱されて気化しやすくなり、還元剤18が適当に分解し、より高活性になり、還元剤18によりNOx触媒14表面温度を低下させることがなく、還元剤18がNOx触媒14に均一に供給されるための温度である(引用文献1の段落【0012】を参照。)。すなわち、引用発明における目標温度は、還元剤がNOx触媒表面に達するときに完全に気化し、さらに一部が分解するという状態にするための温度であるから、本願発明における第1目標温度及び第2目標温度とはその技術的意義が異なる。 このことに関連して、引用文献2記載事項は「排気温度が燃料の70%が蒸発するような温度であるしきい値温度a以下であると判断した場合は、ECU30は加熱ヒータ11を動作させ、排気温度がしきい値温度aよりも高いと判断した場合は、ECU30は加熱ヒータ11を停止させること。」というものである。しかし、このしきい値温度aも「排気温度がこのようなしきい値温度aよりも高い場合は、排気通路4に添加した燃料を速やかに排気熱によって蒸発させることができる」(引用文献2の段落【0024】を参照。)温度であるから、本願発明における第1目標温度とはその技術的意義が異なる。また、引用発明において引用文献2記載事項を適用する動機付けはない。 これらのことから、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用する動機付けはないから、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用することは当業者といえども容易ではなく、仮に、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用したとしても、相違点に係る本願発明1の発明特定事項に想到することはできない。 してみれば、本願発明1は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。 (3)小括 したがって、本願発明1は、引用発明、引用文献2事項及び引用文献3記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本願発明2について (1)対比 引用発明の「ディーゼルエンジン11」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明2の「内燃機関」に相当し、同様に、「排気管13」は「排気通路」に、「NOx触媒14」及び「触媒14」は「NOx浄化触媒」に、「還元剤18」は「還元剤」に、「貯える」は「貯蔵する」に、「タンク19」は「還元剤タンク」に、「噴射ノズル17」は「還元剤供給装置」に、「ポンプ22」は「昇圧器」に、「加熱管路24」は「加熱器」に、「コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43」は「温度制御部」に、「NOx低減装置」は「排気浄化装置」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃未満のとき、コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、還元剤は十分に加熱されて気化もしくは気化に近い状態となり、 第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上400℃未満のときはコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、加熱時間が短くなるため還元剤18の温度は300℃未満となる」と、 本願発明2の「前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、還元剤の温度を前記第1目標温度まで上昇させるとき、還元剤の供給が予告されたときに還元剤の温度を所定温度まで上昇させ、還元剤の供給が要求されたときに還元剤の温度を前記所定温度から前記第1目標温度まで上昇させ」とは、 「前記温度制御部は、所定の状態のときに還元剤の温度を第1の温度まで上昇させる」という限りにおいて一致する。 以上を踏まえると、本願発明2と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。 《一致点2》 内燃機関の排気通路に配置されたNOx浄化触媒と、 還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、 前記NOx浄化触媒よりも排気流れ方向上流側の前記排気通路に還元剤を供給する還元剤供給装置と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を前記排気通路内の圧力よりも高い圧力に昇圧する昇圧器と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を加熱する加熱器と、 前記加熱器によって還元剤の温度を制御する温度制御部と、を備え、 前記温度制御部は、所定の状態のときに還元剤の温度を第1の温度まで上昇させる、 内燃機関の排気浄化装置。 《相違点2》 本願発明2は、「前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部とを備え、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、還元剤の温度を前記第1目標温度まで上昇させるとき、還元剤の供給が予告されたときに還元剤の温度を所定温度まで上昇させ、還元剤の供給が要求されたときに還元剤の温度を前記所定温度から前記第1目標温度まで上昇させる」ものであるのに対し、 引用発明は、「前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部」を備えておらず、第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃未満のとき、コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、還元剤は十分に加熱されて気化もしくは気化に近い状態となり、第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上400℃未満のときはコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、加熱時間が短くなるため還元剤18の温度は300℃未満となるものである点。 (2)判断 本願発明1において検討したのと同様に、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用する動機付けはないから、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用することは当業者といえども容易ではなく、仮に、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用したとしても、相違点2に係る本願発明2の発明特定事項に想到することはできない。 したがって、本願発明2は、引用発明、引用文献2事項及び引用文献3記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 本願発明3について (1)対比 引用発明の「ディーゼルエンジン11」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明3の「内燃機関」に相当し、同様に、「排気管13」は「排気通路」に、「NOx触媒14」及び「触媒14」は「NOx浄化触媒」に、「還元剤18」は「還元剤」に、「貯える」は「貯蔵する」に、「タンク19」は「還元剤タンク」に、「噴射ノズル17」は「還元剤供給装置」に、「ポンプ22」は「昇圧器」に、「加熱管路24」は「加熱器」に、「コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43」は「温度制御部」に、「NOx低減装置」は「排気浄化装置」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃未満のとき、コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、還元剤は十分に加熱されて気化もしくは気化に近い状態となり、 第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上400℃未満のときはコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、加熱時間が短くなるため還元剤18の温度は300℃未満となる」と、 本願発明3の「前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、大気圧を検出又は推定し、検出又は推定した大気圧が相対的に低い場合には、該大気圧が相対的に高い場合に比べて、前記第1目標温度及び前記第1閾値の少なくとも一方を低く設定する」とは、 「前記温度制御部は、所定の状態のときに還元剤の温度を第1の温度まで上昇させる」という限りにおいて一致する。 以上を踏まえると、本願発明3と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。 《一致点3》 内燃機関の排気通路に配置されたNOx浄化触媒と、 還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、 前記NOx浄化触媒よりも排気流れ方向上流側の前記排気通路に還元剤を供給する還元剤供給装置と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を前記排気通路内の圧力よりも高い圧力に昇圧する昇圧器と、 前記還元剤タンクから前記還元剤供給装置に供給される還元剤を加熱する加熱器と、 前記加熱器によって還元剤の温度を制御する温度制御部と、を備え、 前記温度制御部は、所定の状態のときに還元剤の温度を第1の温度まで上昇させる、 内燃機関の排気浄化装置。 《相違点3》 本願発明3は、「前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部とを備え、 前記温度制御部は、前記エネルギ推定部によって推定された排気エネルギが第1閾値未満のとき、前記還元剤供給装置によって供給される還元剤が前記NOx浄化触媒上で気液混合状態となるように還元剤の温度を第1目標温度まで上昇させ、 前記温度制御部は、大気圧を検出又は推定し、検出又は推定した大気圧が相対的に低い場合には、該大気圧が相対的に高い場合に比べて、前記第1目標温度及び前記第1閾値の少なくとも一方を低く設定する」ものであるのに対し、 引用発明は、「前記排気通路内の排気エネルギを推定するエネルギ推定部」を備えておらず、第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃未満のとき、コントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、還元剤は十分に加熱されて気化もしくは気化に近い状態となり、第1温度センサ51の検出する排ガス温度が300℃以上400℃未満のときはコントローラ36、第1開閉弁41、第2開閉弁42及び第3開閉弁43により、加熱時間が短くなるため還元剤18の温度は300℃未満となるものである点。 (2)判断 本願発明1において検討したのと同様に、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用する動機付けはないから、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用することは当業者といえども容易ではなく、仮に、引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用したとしても、相違点3に係る本願発明3の発明特定事項に想到することはできない。 したがって、本願発明3は、引用発明、引用文献2事項及び引用文献3記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 本願発明4ないし6について 本願発明4ないし6は、本願発明1ないし3の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本願発明1ないし3についての判断と同様の理由により、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし6は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-03-30 |
出願番号 | 特願2016-219975(P2016-219975) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F01N)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 楠永 吉孝 |
特許庁審判長 |
北村 英隆 |
特許庁審判官 |
高島 壮基 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 内燃機関の排気浄化装置 |
代理人 | 利根 勇基 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 関根 宣夫 |
代理人 | 関根 宣夫 |
代理人 | 河野 努 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 伊藤 公一 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 伊藤 公一 |
代理人 | 利根 勇基 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 河野 努 |